サイト内検索|page:3

検索結果 合計:846件 表示位置:41 - 60

41.

自覚症状に乏しい糖尿病性腎症に早く気付いて/バイエル

 バイエルは、11月14日の「糖尿病の日」に合わせ、糖尿病と合併症に関する啓発イベントを開催した。イベントでは、糖尿病専門医による糖尿病に関するプレスセミナーとお笑いコンビ「ガンバレルーヤ」をゲストに迎えての市民向けの疾患啓発が行われた。糖尿病の合併症の腎臓病では透析導入になりやすい 「糖尿病と合併症ってどんな病気? 患者さん中心の医療について考える」をテーマに坊内 良太郎氏(国立国際医療研究センター 糖尿病研究センター/糖尿病内分泌代謝科)が、糖尿病の病態、診療、合併症を抑えるポイントを解説した。 わが国の糖尿病と疑われる人の数は約2,000万人にのぼり、国民の5~6人に1人は糖尿病の危険があるとされる国民病となっている。 糖尿病は「インスリンの作用不足により起こる血糖値が高い状態が続く疾患」であり、診断では空腹時血糖値が126mg/dL以上、食後血糖値、ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dL以上あれば糖尿病が強く疑われ、再度の検査で確定診断となる。また、健康診断などでよく話題になるHbA1cも6.5%以上は糖尿病が強く疑われる指標となる。 糖尿病にはI型、II型、妊娠、そのほか(薬剤性、肝臓疾患など)の4種類があり、その症状として「のどの渇き、水分の多飲」「日中・夜間の頻尿」「疲れやすい」「体重減少」などがある。そして、これらの症状は自覚症状に乏しく放置しがちであり、医療機関を受診しないことで合併症のリスクが高まる。 糖尿病合併症では、脳卒中、心筋梗塞、壊疽(神経障害)などの大血管障害と網膜症、腎症、神経障害などの細小血管障害がある。また、併存症として肺炎などの感染症、肝臓・膵臓などの悪性腫瘍、歯周病なども糖尿病患者では起こりやすく、重症化しやすい。 とくに糖尿病性腎症は、慢性腎臓病(CKD)の代表的な疾患であり、病期がかなり進行するまで自覚症状に乏しいために、診断がされたときには腎不全で透析導入になるケースが多い。実際、日本透析医学会の調査では、糖尿病性腎症は透析導入の約4割を占めていると報告されている。糖尿病合併症の抑制には血糖、血圧、脂質の厳格な管理が求められる 現在、日本糖尿病学会では、診療ガイドラインなどで糖尿病治療の目標として、「健康な人と変わらない寿命と生活の質(QOL)の達成」を示している。糖尿病の根治が難しい以上、合併症を抑えることが重要となる。 糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法だが、これでも効果が不十分な場合に薬物療法が追加される。いずれも患者の自主的な取り組みなしには成功しない治療である。また、HbA1cを7%未満に抑えれば網膜症や腎症の悪化リスクを抑えことができるという研究報告1)のほか、血圧を130/80mmHg未満に抑えたり、LDLコレステロールを適切に管理したりすれば合併症のリスク低減が期待できるため、ガイドラインなどで推奨されている。そのほか、わが国のJ-DOIT3の研究結果から血糖、血圧、脂質の厳格な管理が糖尿病の合併症予防につながり、とくに脳血管合併症や腎症に効果があるとされている2)。 最後に坊内氏は、糖尿病やCKDの治療において大切なこととして、「医師やメディカルスタッフとのコミュニケーションが重要である。共同意思決定(SDM)として治療のゴールを決めるために、患者さんが価値観や好みをきちんと医師などに伝えることで、患者さん個々に合った治療法の提案をすることができる」と語り、講演を終えた。 この後開催された疾患啓発イベント「体験型ボードゲームで学ぶ糖尿病と合併症 ~腎臓の声に耳を傾けよう~ in 丸の内」のオープニングイベントでは、先の講演者の坊内氏が糖尿病の3大合併症として、網膜症、腎症、神経障害を挙げたうえで、糖尿病性腎症はかなり進行するまで自覚症状に乏しいことに言及。「定期的な検査、とくに尿検査を行い、このイベントのタイトルにもなっている『腎臓の声』にしっかり耳を傾けよう」と呼びかけ、ゲストのガンバレルーヤの2人は「自覚症状が出にくいからときちんと病院に行って定期的に検査を受けることが大事なんですね」と早期発見の大切さに納得していた。また、会場では、特大サイズのボードゲームが人気で、多くの参加者が糖尿病とその合併症について学んでいた。

42.

低温持続灌流はドナー心臓の虚血時間を安全に延長できる(解説:小野稔氏)

 低温浸漬保存(SCS)は脳死ドナーから提供された心臓を保存するゴールドスタンダードであるが、保存時間が4時間を超えると虚血、嫌気性代謝に続く臓器障害を来たし、移植後の合併症や死亡に至る場合がある。肝臓移植においてはXVIVO(XVIVO AB, Sweden)による低温灌流保存(HOPE: hypothermic oxygenated machine perfusion)についての12のメタアナリシスやシステマティックレビューがあり、その安全性と有効性が証明されている。 心臓移植におけるXVIVO装置を用いたHOPEの安全性と有効性を証明するために、欧州8ヵ国の15の心臓移植センターにおいて、多国多施設無作為化オープンラベル試験が実施された。対象は18歳以上の成人心臓移植患者で、いずれかの臓器移植の既往、先天性心疾患、腎不全、脱感作中、LVAD以外の循環補助中の場合には除外された。ドナーについては18~70歳が対象で、心停止後ドナーや再開胸が必要な場合には除外とした。心保存について従来のSCSとHOPEに1:1で割り付けられた。SCS群では各施設のプロトコルで心停止を誘導してアイススラッシュ保存を行った。HOPE群では、300~500mLの血液、抗生剤とインスリンが添加されたXVIVO Heart Solutionで満たされたXVIVO灌流装置を使用した。心臓摘出後に上行大動脈にカニューレを挿入して装置に接続し、大動脈圧20mmHgで8度を維持して灌流(毎分100~200mLに相当)した。 2020年11月から2023年5月までに1,050例がスクリーニングされ、HOPE群には101例、SCS群には103例が割り付けられた。レシピエント(56歳vs.58歳)、ドナー(48歳vs.50歳)共に両群間で背景因子、原疾患、循環補助の状態に差はなかった。ドナー心保存時間はHOPE群のほうが長かった(240分vs.215分)。主要評価項目(心臓関連死、中~高度の左室のグラフト不全、右室のグラフト不全、Grade 2R以上の細胞性拒絶反応を含む複合エンドポイント)はHOPE群19例(19%)、SCS群31例(30%)に見られ、HOPE群のリスク軽減率は44%となったがp値は0.059であった。副次評価項目である移植後グラフト不全単独では、SCS群28%に対してHOPE群11%と有意に少なかった。心臓関連主要有害事象についてはHOPE群18%で、SCS群32%に対して有意に少なかった。心臓関連死については両群間で差は見られなかった。 主要評価項目では有意差はなかったが、HOPE群に見られた44%のリスク軽減は臨床的には意義がある。とくに移植後グラフト不全がHOPE群に有意に少ないことは、遠方からのドナー心の搬送や複雑な手技が必要な心臓移植において、虚血時間等の問題解決につながる可能性がある。

43.

減量薬のアクセス拡大が年4万人以上の米国人の命を救う可能性

 インクレチン製剤であるGLP-1受容体作動薬などの減量薬を、より広い対象に適用して多くの人がアクセスできるようにすることで、米国では年間4万人以上の命が救われる可能性があるとする論文が発表された。米イェール大学公衆衛生大学院のAlison Galvani氏らの研究によるもので、詳細は「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に10月15日掲載された。 肥満が死因として記録されることはめったにない。しかし、肥満は心血管代謝疾患をはじめとする多くの疾患のリスクを押し上げ、結果としてそれらの疾患による死亡リスクを高めている。米国では人口の74%が過体重や肥満(うち43%が肥満)に該当し、公衆衛生上の極めて大きな問題となっている。 消化管ホルモンであるインクレチンの作用を模倣した血糖降下薬であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬(GLP-1RA)や、GLP-1とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)の両受容体作動薬(GIP/GLP-1RA)が近年、減量目的で使用されるようになり、顕著な効果が報告されている。しかし、これらの薬剤は高額で、かつ肥満治療における保険の適用範囲も限られている。具体的には、肥満に伴う何らかの疾患を抱えている場合にのみ保険が適用され、単に減量目的で処方を受けるには月額1,000ドル以上の負担が発生する。そのため現状では、多くの肥満者がこれらの薬剤にアクセスできていない。Galvani氏らは、仮に減量目的でのGLP-1RAやGIP/GLP-1RAが、必要な全ての人にいきわたったとした場合のインパクトを推計した。 この研究では、まず、現時点での減量薬(GLP-1RA、GIP/GLP-1RA)の米国人の死亡抑制効果を推計したところ、1年間で8,592人(95%不確定区間8,580~8,604)の命が救われていると計算された。そのうち、糖尿病患者が2,670人(同2,657~2,684)を占めていた。 次に、BMIが30以上の人の全て、およびBMI25以上の糖尿病患者の全てがアクセス可能な状況を仮定した推計を行った。この場合、米国成人の45%以上が減量薬を使用することになる。解析の結果、1年間でさらに4万2,027人(4万1,990~4万2,064)の命が救われると計算された。そのうち、糖尿病患者は1万1,769人(1万1,707~1万1,832)だった。 この研究に関連してGalvani氏は、「医薬品へのアクセス拡大には、疾患罹患者の治療選択肢を増やすということだけでなく、重要な公衆衛生対策という側面もある」と解説。ただし同氏らは、GLP-1RAやGIP/GLP-1RAが高価であるため、全てを保険適用とするのは困難であり、かつ、現在でも既に需要の高まりによって慢性的な供給不足になっているという課題を指摘している。 論文共著者の1人である米フロリダ大学のBurton Singer氏は、「これらの課題に対しては多面的なアプローチが必要だ。医薬品の価格を製造コストに見合ったものとし、需要を満たし得る生産能力を確保しなければならない。それと同時に、多くの人々が必要な治療を受けられていないという、アクセスの問題にも取り組まなければならない」と述べている。

44.

新型コロナ感染中の運転は交通事故のリスク【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第269回

新型コロナ感染中の運転は交通事故のリスク疾患によっては、罹病中に運転することが交通事故のリスクとされるものがあります。たとえば、糖尿病でインスリン治療を受けている人は、無自覚低血糖によって運転の支障を来すことがあります。そのため、運転免許証の取得や更新時に虚偽申告をした場合の罰則規定が設けられています。運転前に血糖測定を行うように指導することが重要です。発熱していて、医療機関を受診する場合、公共交通機関を使うと他人に感染を広げてしまうので、自家用車を自分で運転して受診する人が多いでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、どうも交通事故のリスクが高くなるようで…。Erdik B, et al. Driving Under the Cognitive Influence of COVID-19: Exploring the Impact of Acute SARS-CoV-2 Infection on Road Safety. Neurology, 2024;103 (7_Supplement_1):S46-S47.この論文は、COVID-19の急性発症と交通事故数の関連性を調査したものです。2020~22年のデータを用いて、米国7州での交通事故記録とCOVID-19の統計を比較分析しました。結果、急性のCOVID-19と交通事故増加の関連性が観察されました(オッズ比:1.5)。つまり、急性期のCOVID-19で運転すると、交通事故のリスクが高くなるということです。ちなみに、この交通事故リスクは、飲酒運転やてんかんを持っている場合のリスクと同程度であったと考察されています。これを受けて筆者らは、COVID-19は、その後の後遺症(Long COVID)だけでなく、急性期の交通事故リスクを高める可能性があると指摘しています。熱があればそりゃしんどいだろうと思いますが、機序としてはウイルスの神経系への影響とも述べられています。医療従事者は、COVID-19の患者を診療する際、認知・運転の低下の可能性を考慮する必要があります。できるなら、家族が運転する車で来院いただきたいところですね。

46.

飛行機内でインスリンポンプに軽微な影響が生じる可能性

 インスリンポンプを装着して飛行機に乗ると、上昇中と降下中に、血糖値にわずかな変化が生じる可能性のあることが報告された。ただし、その影響は医学的な問題を引き起こすほどのものとは考えにくいという。英サリー大学のKa Siu Fan氏らによる研究の結果であり、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表された。 インスリンポンプは、インスリンを連続的に自動投与する機器で、主に1型糖尿病の治療に用いられている。急激な気圧の変動が生じた場合、機器の内部に気泡が発生し、インスリン注入速度に微妙な影響を及ぼす可能性がある。Fan氏らはその影響を、飛行中の機内の気圧変化を模したチャンバー(密閉された部屋)を用いて検討した。 3種類、計26台のインスリンポンプをチャンバー内に入れ、まず20分かけて高度8,000フィート(約2,440m)に相当する550mmHgまで減圧。その後、30分間は巡航状態としてそのまま維持し、続いて20分かけて海面高度の気圧に近い750mmHgまで加圧した。この間、インスリン注入速度は1時間当たり0.6単位に設定した。データを解析した結果、20分間の減圧(飛行機では上昇に相当)中に、インスリンは設定した用量より平均0.60単位過剰に注入されていた。一方、加圧(降下)中には、設定した用量より平均0.51単位不足していた。 Fan氏は、「飛行機が上昇中は気圧の低下により、ポンプ内部に気泡が発生してカートリッジから設定よりも多いインスリンが注入されるため、インスリン注入量がわずかに増加することがあり得る。反対に飛行機が降下中は気圧の上昇により気泡が消失して、インスリンがポンプ内部に吸い戻されるため、インスリン注入量がわずかではあるが減少することがあり得る。インスリンポンプを使用している人は、飛行機内の気圧の変化がインスリン注入量に影響を及ぼす潜在的な可能性のあることを知っておいた方が良いだろう」と述べている。 同氏らは、今回の研究で示された影響の程度は、健康上の問題を引き起こすほどではなかったとしている。しかし、より高い高度へ短時間で上昇するようなことが起きた場合、機内の急激な減圧によって深刻な問題が発生する可能性はゼロではないという。具体的には、インスリンが過剰に注入されて血糖値が大きく低下し、低血糖が生じるリスクが想定されるとしている。ただしそのような事態に対しては、消化吸収の速い糖質を摂取するという一般的な方法で対処可能だ。 Fan氏によると、「飛行中の気圧変化によるインスリン注入量の変化が血糖値に及ぼす影響は、個々の患者のインスリン感受性、血糖管理状態、搭乗前に食べた食事によってそれぞれ異なる」とのことだ。また、「血糖値への意図しない影響を防ぐために、インスリンポンプを使用している患者は、離陸前にポンプを一時的に外しておき、巡航高度に達したら、気泡の有無の確認および除去をした上で再装着すると良い」としている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

47.

新規2型DM、短期強化インスリン後リナグリプチン+メトホルミンが有用/BMJ

 新たに2型糖尿病と診断されたHbA1c値8.5%以上の患者において、短期強化インスリン療法(SIIT)後に経口療法(とくにリナグリプチンとメトホルミンの併用)を用いるという強力かつ簡便な戦略は、持続的な血糖コントロールをもたらし、β細胞機能を改善することが示された。中国・中山大学第一付属病院のLiehua Liu氏らが、中国の15施設で実施した無作為化非盲検比較試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「この治療戦略は、2型糖尿病の臨床管理における意思決定に有望な方向性を示すものである」とまとめている。BMJ誌2024年10月15日号掲載の報告。SIIT後、リナグリプチン、メトホルミン、両者併用を生活習慣改善指導のみと比較 研究グループは、新たに2型糖尿病と診断され、年齢20~70歳、血糖降下薬の投与歴なし、糖尿病に関する医師の助言や介入を受けたことがない、BMI値22.0~35.0、空腹時血糖値7.0~16.7mmol/L、スクリーニング時のHbA1c値8.5%以上の患者を、リナグリプチン(5mg/日)+メトホルミン(1,000mg/日)併用群、リナグリプチン(5mg/日)群、メトホルミン(1,000mg/日)群、対照群(生活習慣の改善指導のみ)に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 無作為化された全例が、2~3週間の持続皮下インスリン注入法によるSIITの後、割り付けに従って48週間の治療を受けた。 主要アウトカムは、SIIT後48週時のHbA1c値<7.0%を達成した患者の割合。副次アウトカムは、HbA1c値<6.5%を達成した患者の割合、ベースラインからのHbA1c値、空腹時および食後2時間血糖値、β細胞機能指数、インスリン感受性指数の変化などであった。48週時のHbA1c値<7.0%達成、SIIT+リナグリプチン+メトホルミン併用群80% 2017年12月~2020年12月に464例がスクリーニングを受け、412例が無作為化された。患者背景(平均値±SD)は、年齢46.8±11.2歳、BMI値25.8±2.9、HbA1c値11.0±1.9%であった。SIIT後に来院しなかった39例を除く373例が有効性解析対象集団に組み入れられた。 48週時にHbA1c値<7.0%を達成した患者の割合は、対照群60%(56/93)に対し、リナグリプチン+メトホルミン併用群80%(78/97例)(p=0.003)、リナグリプチン群72%(63/88例)(p=0.12)、メトホルミン群73%(69/95例)(p=0.09)であった(実薬3群全体のp=0.02、いずれもχ2検定による)。 また、48週時にHbA1c値<6.5%を達成した患者の割合は、対照群48%(45/93例)に対して、リナグリプチン+メトホルミン併用群70%(68/97)(p=0.005)、リナグリプチン群68%(60/88)(p=0.01)、メトホルミン群68%(65/95)(p=0.008)であった(実薬3群全体のp=0.005、いずれもχ2検定による)。 ロジスティック解析の結果、対照群との比較において、リナグリプチン+メトホルミン併用群が48週時にHbA1c値<7.0%を達成する可能性が高いことが示された(オッズ比:2.78、95%信頼区間:1.37~5.65、p=0.005)。また、リナグリプチン+メトホルミン併用群では、空腹時血糖値およびβ細胞機能指数が最も顕著に改善した。 忍容性はすべての治療群で良好であった。

48.

週1回注射のインスリンは低血糖の出現に注意を (解説:小川大輔氏)

 1型糖尿病患者を対象とした週1回の基礎インスリン(insulin efsitora alfa)の第III相試験の結果が発表された1)。1日1回の基礎インスリンインスリン デグルデク)と比較し、有効性と安全性を比較した結果、有効性については非劣性が確認されたが、安全性については重篤な低血糖が多いと報告された。 成人1型糖尿病患者692例を、基礎インスリンとしてinsulin efsitora alfaを投与する群(efsitora群)とインスリン デグルデクを投与する群(デグルデク群)に無作為に割り付け、追加インスリンとしてインスリン リスプロを両群とも併用投与した。その結果、ベースラインから26週目までのHbA1cの変化量は両群に差がなく非劣性が確認された。別の言い方をすればefsitora群に優越性は認められなかったということになる。 一方、有害事象である低血糖のエピソードについてはefsitora群がデグルデク群に比べて有意に多いという結果であった。とくにレベル2(血糖値<54mg/dL)の低血糖と、レベル3(他者の支援を必要とする状態)の重症低血糖を合わせた発生頻度は、efsitora群のほうが有意に高かった。また夜間の低血糖には差がなく、非夜間の低血糖がefsitora群でとくに多く認められた。 別の週1回投与の基礎インスリンであるインスリン イコデクの試験でも、インスリン デグルデクと比較し非劣性が示され、重症低血糖の発生頻度はイコデクのほうが有意に多く認められた2)。試験の対象やプロトコールは異なるが、週1回投与のイコデク、efsitoraの両者とも1日1回投与の基礎インスリンより重症低血糖が多く認められたという事実は重く受け止めなければならない。 週1回注射のインスリンは、インスリン治療を行っている糖尿病患者の注射回数を減らすことができ、さらに負担を軽減することができると期待されている。今回の試験で、efsitoraはデグルデクと比較し有効性については劣らないことが示された。その一方で低血糖、とくに重症低血糖が多く認められた点については留意する必要があるだろう。6ヵ国82の専門施設で行われているので、インスリンの調節が不適切であったとは考えにくい。今後efsitoraの投与方法や用量調節についてはさらに検討する必要がある。また低血糖は主に昼間に多く出現しており、持続血糖モニターをより活用する必要があるだろう。 1日1回から週1回投与のインスリンに切り替えることで、1型糖尿病の血糖コントロールが改善するわけではなく、重症低血糖の頻度はむしろ増えることが示された。私自身は週1回の基礎インスリンが登場することを楽しみにしているが、「注射回数が減り楽になる、便利になる」というだけで、安易に週1回投与のインスリンに切り替えることは慎みたいと考えている。

49.

座位時間を毎日1時間減らすと腰痛の悪化は防げるか

 ソファや椅子に座って過ごす時間を短くすることは、腰痛の悪化を防ぐ効果的な方法であるかもしれない。腰痛リスクのある人が6カ月間、毎日わずかでも座位時間を減らすことで、腰痛の悪化を抑えられる可能性を示唆した研究結果が報告された。論文の筆頭著者であるトゥルク大学(フィンランド)のJooa Norha氏は、「腰痛や座位時間が長過ぎる傾向があり、腰の健康が心配な人は、仕事中や余暇中の座位時間を減らす方法を考えてみるとよいだろう」と助言している。研究結果の詳細は、「BMJ Open」に9月28日掲載された。 Norha氏らによると、座位時間の長さが背中の健康と腰痛に与える影響については、あまり研究されていないという。この点を明らかにするために、今回の研究で同氏らは、過体重または肥満でメタボリックシンドロームを有する40〜65歳の成人64人を対象に、6カ月にわたる座位時間を減少させる介入が腰痛と腰痛関連の障害、傍脊柱筋(脊柱起立筋と横突棘筋)のインスリン感受性(グルコース取り込み)および脂肪含有率に及ぼす影響を調べた。対象者のうち、33人は座位時間を毎日1時間減らすことを目指す群(介入群)、残る31人は通常通りに過ごす群(対照群)にランダムに割り付けられた。 その結果、対照群では介入群に比べて腰痛の強度は有意に増加していたが、介入群では変化が認められなかった。また、試験期間中に、痛みに関連する障害は両群で増加していた。しかし、痛みに関連する障害、オスヴェストリー能力指数(Oswestry Disability Index;ODI、腰痛・下肢痛による日常生活動作への影響を測定する尺度)、脊柱起立筋のグルコース取り込みおよび脂肪含有率の変化に関しては、有意な群間差は認められなかった。 Norha氏はこれらの結果について、「驚きはなかった」と話す。同氏は、「本研究の対象者は、座位時間が長く、運動をほとんど行わない、やや体重の増えたごく普通の中年成人だった。これらの要因は、心血管疾患のリスクだけでなく腰痛リスクも高める」と話す。 ただし、活動量を増やすことで腰痛が抑制されるメカニズムは明らかにされていない。本研究では、対象者の背筋のMRI検査が実施されたが、「腰痛の変化と、背筋の脂肪量や糖代謝の変化との間に関連は認められなかった」とNorha氏は説明している。 Norha氏は、腰痛持ちの人に対して運動を行うことを勧めている。同氏は、「ただ立っているだけよりも、歩行やより活発な運動などの身体活動の方が効果的であることに留意することが重要だ」とトゥルク大学のニュースリリースで述べている。

50.

第237回 血糖値に応じて働くか休む“スマート”インスリンを開発

血糖値に応じて働くか休む“スマート”インスリンを開発血中のブドウ糖濃度(血糖値)に応じて自ずと働くか休む賢いインスリンをNovo Nordiskの研究チームが開発し、低血糖を引き起こすことなく血糖値をほどよく下げうることがブタへの投与実験で確認されました1)。低血糖は糖尿病のイスリン治療の難題の1つです。ひとたび投与したインスリンはたとえ血糖値が正常化しても働き続け、血糖値を危険水準まで下げてしまう恐れがあります。それゆえインスリン投与量は血糖値を正常域にする範囲を超えないように調節する必要があります。しかし絶えず変化する血糖値にインスリン用量を合わせるのは難儀で、必要量よりちょっとばかり多めに投与しただけで低血糖が生じる恐れがあります。低血糖は軽~中等度でも不安、脱力、混乱などを招き、ひどければ意識消失や発作などの重症症状を引き起こし、最悪の場合死に至りさえします。低血糖を避けるために多くの糖尿病患者はインスリン用量を控えめにします。そうすると今度は血糖値が十分に下がらず、高血糖が続くことに起因する合併症が生じ易くなります。“素”のインスリンを使うのではなく、血糖値の変化に応じる仕組みを備えたインスリン治療なら低血糖の心配なく血糖値をよい頃合いに保てそうです。そのような付加価値付きのインスリンを作る試みは結構長い歴史があり、1970年代から続いています1)。血糖値上昇に応じてインスリンを放出する皮下投与ポリマーの開発がそういう取り組みのこれまでの主流でした。しかし糖が皮下に行き着くまでや皮下から血中へのインスリンの到達はより時間を要し、時宜にかなわないという欠点があります。それに、インスリンは皮下から一方的に放出されるのみで、ひとたび放出されたインスリンはもはや糖に応じることはなく働き続けるのみです。そこでNovo Nordiskはインスリンの放出をどうにかするのではなく、ブドウ糖に反応する仕組みを備えた賢いインスリンの開発に取り組み、その有望な成果を先週16日のNature誌の報告で披露しました。Novo Nordiskが開発した賢いインスリンはNNC2215と呼ばれ、血糖値に応じて働くか休むかが切り替わります。その切り替え機能はインスリン本体の両端についた2つの分子が担います。その1つはブドウ糖から生じる分子・グルコシドです。もう1つは大環状分子(macrocycle)で、その名のとおりいわばドーナツに似た環状構造をしています。血糖値が低いとグルコシドが大環状分子に収まってインスリンを不活性な状態に保ちます。一方、血糖値が高いとグルコシドではなくブドウ糖が大環状分子に収まり、インスリンは開放状態となって働けるようになります。ブタやラットで調べたところNNC2215の血糖値を下げる効果が認められました。特筆すべきことにブタへの投与実験では目下のインスリン治療で生じるような低血糖をどうやら生じずに済むらしいことが示されました。ただし、検討されたのは糖尿病患者の典型的な血糖値より広いブドウ糖濃度範囲でのNNC2215の活性です2)。今後の課題としてより狭い濃度範囲でのNNC2215の働きを調べる必要があります。また、安全性の検討も必要ですし、実用化されたとしてどれくらいの値段になるかも気になるところです。NNC2215の想定どおりの働きが示されて一安心とはいえまだ先は長く、Novo NordiskはNNC2215の最適化に取り組んでいます2)。参考1)Hoeg-Jensen T, et al. Nature. 2024 October 16. [Epub ahead of print]2)Smart insulin switches itself off in response to low blood sugar / Nature

51.

ヘム鉄摂取が2型糖尿病のリスクを高める

 ヘム鉄の摂取が2型糖尿病のリスク増大と関連しているとする研究結果が、「Nature Metabolism」に8月13日掲載された。米ハーバード大学T. H.チャン公衆衛生大学院のFenglei Wang氏らの研究によるもの。未加工の赤肉を好む食事パターンが2型糖尿病のリスクを高めるとされているが、その関連性の多くは、ヘム鉄の過剰摂取で説明可能と考えられるという。 これまでにも、食事からのヘム鉄の摂取が2型糖尿病のリスク増大と関連していることが示唆されてきているが、血液バイオマーカーなどを絡めた検討は十分に行われていない。Wang氏らはこの点について、米国内で実施されている観察期間が最長36年間におよぶ3件の大規模コホート研究のデータを用いた検討を行った。 解析対象者数は計20万4,615人で女性が79%であり、この対象全員のデータから、鉄(ヘム鉄と非ヘム鉄)の摂取量と2型糖尿病リスクとの関連が調査された。また、この対象のうち3万7,544人(女性82%)のサブセットでは血漿代謝バイオマーカー、9,024人(同84%)のサブセットではメタボロームプロファイルの評価も施行した。 解析の結果、ヘム鉄の摂取量が多いことと2型糖尿病リスクとの間に有意な正の関連が認められた(摂取量の最高五分位群と最低五分位群を比較した多変量調整ハザード比が1.26〔95%信頼区間1.20~1.33〕、傾向性P<0.001)。その一方、非ヘム鉄の摂取量については、2型糖尿病リスクとの有意な関連が見られなかった。 この研究では、未加工の赤肉を多く摂取するといった特定の食事パターンに関連する2型糖尿病リスク増大のかなりの部分を、ヘム鉄の摂取量の多さで説明できる可能性も示された。また血漿代謝バイオマーカーなどとの関連の解析から、ヘム鉄摂取量が多いことと、高インスリン血症や炎症、脂質代謝異常などの2型糖尿病リスクに関連する好ましくない血漿プロファイルとの相関が認められた。ヘム鉄と2型糖尿病との関連を媒介する可能性がある代謝物としては、L-バリンや尿酸などが特定され、これらが2型糖尿病の病因に大きな影響を及ぼしている可能性が考えられた。 著者らは、「われわれの研究結果は、2型糖尿病予防のためのガイドライン策定に際して、ヘム鉄を多く含む食品、特に赤肉を毎日摂取するような食事パターンの制限を推奨すべきであることを意味しており、公衆衛生上の重要な意味を持っている」と述べている。また、「植物性食品由来の代替肉に、風味の調整などのためにヘム鉄を添加することに関しても懸念がある」と付け加えている。 なお、1人の著者が、Vinasoy社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

52.

第236回 GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしい

GLP-1薬セマグルチドは運動意欲を減らすらしいマウスはよく走ります。回転車を与えると活動期である夜に10~12kmも毎日走ります1)。しかし糖尿病や肥満症の治療薬・オゼンピックやウゴービの成分であるセマグルチドをマウスに与えるとどうやら走る意欲が減るようで、プラセボ群の半分ほどしか走らなくなりました2)。セマグルチドのようなGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は今や信仰にも似たよすがとなっており、医療情報を提供するKFFが今年5月に結果を発表した調査では、米国の成人の実におよそ8人に1人(12%)がGLP-1薬を使ったことがあると回答しました3)。また、およそ17人に1人(6%)は使用中でした。セマグルチドはインスリン生成を促し、胃が空になるのを遅らせ、満腹感がより長続きするようにするGLP-1に似た働きを担います。過去20年ものあいだ調べられてきたGLP-1の代謝調節の仕組みはかなり詳しく判明しています。一方、最近になってGLP-1の代謝調節領域を超えたより広範な働きや脳への作用が明らかになりつつあります。そのような秘めたGLP-1の働きのいくつかが今月初めの米国・シカゴでの神経科学会(Society for Neuroscience)年次総会(Neuroscience 2024)で発表されました。セマグルチドがマウスの走る意欲をどうやら減退させることを示したイエール大学の上述の研究成果はその1つです。GLP-1の作用は食べ物、アルコール、コカイン、ニコチンと関連する快楽のほどを変えます。ネズミにGLP-1やその模倣薬を与えるとそれらの摂取意欲が下がることが示されています。セマグルチドを使う人の食べる楽しみが使い始める前ほどではなくなるのは、同剤が快楽や渇望に携わる脳領域の活性を抑えることに起因するようです。また、その働きのおかげでセマグルチドが薬物依存の治療の助けになりうることも示唆されています。イエール大学のRalph DiLeone氏らは運動などの気持ちよくなる行動にもセマグルチドの影響が及ぶかもしれないと考えました4)。そこで、根っからの運動好きで、それがどうやら楽しいらしいマウスを使ってセマグルチドの運動意欲への影響が調べられました。DiLeone氏らは14匹のマウスの半数7匹にセマグルチド、もう半数の7匹にはプラセボを1週間投与しました。それらマウスが回転車で毎日どれだけ走るかを調べたところ、セマグルチド投与群の走る距離は同剤投与前に比べて4割ほど(37.9%)減っていました2)。一方、プラセボ投与群ではそのようなことはなく、どうやらセマグルチドはマウスの走る意欲を減衰させたようです。続いて実際に走る意欲が低下しているのかが別のマウスを使って調べられました。その検討ではマウスが走っている最中に回転車がときどき強制停止(ロック)されます。マウスは鼻でレバーを押すこと(押下)でそのロックを解除することができます。ロックはその回数が多くなるほどレバーをより多く押下しないと解除できないようになっており、最終的にマウスはロックの解除を諦めます。諦めた時点でのレバー押下回数は回転車を走る意欲がどれだけ高いかを反映する指標となります。5日間のセマグルチド投与期間中のマウスのレバー最大押下回数はプラセボ投与群に比べて平均25%少なく、肥満マウスを使った検討でも同様の結果となりました4)。すなわちセマグルチドは食べ物や薬物への渇望を減らすのと同様に運動意欲も減らすようです。ヒトでの同様の作用は示されていません。オゼンピックやウゴービのヒトのデータのほとんどが運動を含む他の手当てを伴ったものであることがその理由かもしれません。とはいえ、セマグルチドのようなGLP-1薬が負の行動のみならず有益な振る舞いも妨げてしまう恐れがあることを今回の結果は示唆しています。Neuroscience 2024では他にもセマグルチドやGLP-1の類いの興味深い中枢神経系(CNS)作用の報告がありました。韓国のGachon Universityの研究者らはGLP-1受容体に結合するアンタゴニストexendin 9-39の断片の1つexendin 20-29の痛み緩和作用を示したマウス実験結果を報告しています5)。その研究ではexendin 20-29が痛み信号の伝達に携わる受容体TRPV1に結合し、GLP-1受容体機能には手出しすることなく痛みを緩和することが示されました。また、フランスの研究受託会社Neurofitのチームはセマグルチドのアルツハイマー病治療効果を示すマウスやラットの実験結果を報告しています6)。その効果の検討は臨床試験でも大詰め段階に入っており、Novo Nordisk社は初期アルツハイマー病患者へのセマグルチドの第III相試験2つ・EVOKE7)とEVOKE Plus8)を2021年に開始しています。結果は来年判明する見込みです9)。参考1)The Unexplored Effects of Weight-Loss Drugs on the Brain / TheScientist2)Semaglutide administration reduces free running as well as motivation for wheel access as measured by progressive ratio in mice / Neuroscience 20243)KFF Health Tracking Poll May 2024: The Public’s Use and Views of GLP-1 Drugs / KFF4)Weight-loss drugs lower impulse to eat - and perhaps to exercise too / NewScientist5)Glp-1 and its derived peptides mediate pain relief through direct trpv1 inhibition without affecting thermoregulation / Neuroscience 2024 6)Semaglutide's cognitive rescue: insights from rat and mouse models of alzheimer's disease / Neuroscience 20247)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE)8)A Research Study Investigating Semaglutide in People With Early Alzheimer's Disease (EVOKE Plus) 9)Atri A, et al. Alzheimers Dement. 2022;18:e06415.

53.

DPP-4iとBG薬で糖尿病性合併症発生率に差はない――4年間の後方視的解析

 血糖管理のための第一選択薬としてDPP-4阻害薬(DPP-4i)を処方した場合とビグアナイド(BG)薬を処方した場合とで、合併症発生率に差はないとする研究結果が報告された。静岡社会健康医学大学院大学(現在の所属は名古屋市立大学大学院医学研究科)の中谷英仁氏、アライドメディカル株式会社の大野浩充氏らが行った研究の結果であり、詳細は「PLOS ONE」に8月9日掲載された。 欧米では糖尿病の第一選択薬としてBG薬(メトホルミン)が広く使われているのに対して、国内ではまずDPP-4iが処方されることが多い。しかし、その両者で合併症の発生率に差があるかは明らかでなく、費用対効果の比較もほとんど行われていない。これを背景として中谷氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的解析を行った。 2012年4月~2021年9月に2型糖尿病と診断され、BG薬またはDPP-4iによる治療が開始された患者を抽出した上で、心血管イベント・がん・透析の既往、糖尿病関連の入院歴、インスリン治療歴、遺伝性疾患などに該当する患者を除外。性別、年齢、BMI、HbA1c、併存疾患、腎機能、肝機能、降圧薬・脂質低下薬の処方、喫煙・飲酒・運動習慣など、多くの背景因子をマッチさせた1対5のデータセットを作成した。 主要評価項目は脳・心血管イベントと死亡で構成される複合エンドポイントとして、イベント発生まで追跡した。副次的に、糖尿病に特異的な合併症の発症、および1日当たりの糖尿病治療薬剤コストを比較した。追跡開始半年以内に評価対象イベントが発生した場合はイベントとして取り扱わなかった。 マッチング後のBG薬群(514人)とDPP-4i群(2,570人)の特徴を比較すると、平均年齢(68.39対68.67歳)、男性の割合(46.5対46.9%)、BMI(24.72対24.67)、HbA1c(7.24対7.22%)、収縮期血圧(133.01対133.68mmHg)、LDL-C(127.08対128.26mg/dL)、eGFR(72.40対72.32mL/分/1.73m2)などはよく一致しており、その他の臨床検査値や併存疾患有病率も有意差がなかった。また、BG薬、DPP-4i以外に追加された血糖降下薬の処方率、通院頻度も同等だった。 中央値4.0年、最大8.5年の追跡で、主要複合エンドポイントはBG薬群の9.5%、DPP-4i群の10.4%に発生し、発生率に有意差はなかった(ハザード比1.06〔95%信頼区間0.79~1.44〕、P=0.544)。また、心血管イベント、脳血管イベント、死亡の発生率を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。副次評価項目である糖尿病に特異的な合併症の発生率も有意差はなく(P=0.290)、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。さらに、年齢、性別、BMI、HbA1c、高血圧・脂質異常症・肝疾患の有無で層別化した解析でも、イベント発生率が有意に異なるサブグループは特定されなかった。 1日当たり糖尿病治療薬剤コストに関しては、BG薬は60.5±70.9円、DPP-4iは123.6±64.3円であり、平均差63.1円(95%信頼区間56.9~69.3)で前者の方が安価だった(P<0.001)。 著者らは、本研究が静岡県内のデータを用いているために、地域特性の異なる他県に外挿できない可能性があることなどを限界点として挙げた上で、「2型糖尿病患者に対して新たに薬物療法を開始する場合、BG薬による脳・心血管イベントや死亡および糖尿病に特異的な合併症の長期的な抑制効果はDPP-4iと同程度であり、糖尿病治療薬剤コストは有意に低いと考えられる」と総括している。

54.

長期間のSU薬使用が低血糖の認識力の低下と関連

 SU薬が長期間処方されている2型糖尿病患者は、低血糖の認識力が低下した状態(impaired awareness of hypoglycemia;IAH)の頻度が高いとする研究結果が報告された。国立成功大学(台湾)のHsiang-Ju Cheng氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Family Medicine」の7・8月号に掲載された。 IAHに関する研究は一般的にインスリン使用者、特に1型糖尿病患者を対象に行われることが多いため、インスリン分泌促進薬(主としてSU薬)を使用中の2型糖尿病患者におけるIAHの実態は不明点が少なくない。これを背景としてCheng氏らは、台湾でインスリンまたはSU薬による治療を受けている2型糖尿病患者を対象として、薬剤の使用期間とIAHの有病率との関係を調査した。 薬局や診療所などを利用している2型糖尿病患者898人が研究登録された。このうちインスリン使用者が41.0%、SU薬使用者が65.1%であり、平均年齢は59.9±12.3歳、女性が50.7%、罹病期間14.0±9.8年だった。IAHの有無は、Goldらにより開発された質問票(Gold-TW基準)、およびClarkeらにより開発された質問票(Clarke-TW基準)の中国語版を用いて判定。そのほかに、社会人口統計学因子、治療歴、健康状態などの情報を収集し、多重ロジスティック回帰モデルにて、薬剤使用期間とIAHとの関係を検討した。 インスリン使用者におけるIAHの有病率は、Gold-TW基準では41.0%(95%信頼区間37.0~45.0)、Clarke-TW基準では28.2%(同24.6~31.8)であった。一方、SU薬使用者では同順に65.3%(60.4~70.2)、51.3%(46.2~56.4)であった。SU薬使用者では、使用期間が長いほど有病率が上昇していたが、インスリン使用者では反対に、使用期間が長いほど有病率が低下していた。 潜在的な交絡因子を調整後、5年以上のSU薬の使用は、IAHのオッズ比(OR)の有意な上昇と関連していた(Gold-TW基準でOR3.50〔2.39~5.13〕、Clarke-TW基準でOR3.06〔同2.11~4.44〕)。なお、定期的な血糖検査や眼底検査の施行は、インスリン使用者およびSU薬使用者の双方において、オッズ比の低下と関連していた。 著者らは、「2型糖尿病患者においてSU薬の使用期間の長さはIAHのリスク上昇と関連していた。一方で定期的な検査を受けている患者ではIAHのリスクが低いことが示され、医療モニタリングの遵守が有益な影響を及ぼす可能性のあることが示唆された」と総括。また、「インスリンとSU薬とでなぜIAHリスクが異なるのかという点を明らかにするとともに、2型糖尿病患者の低血糖認識力を改善するための介入法を確立するため、医師の治療方針とIAHリスクとの間にある因果関係を証明し得るデザインでの研究が必要とされる」と述べている。

55.

1型糖尿病への週1回efsitora、HbA1cの改善でデグルデクに非劣性/Lancet

 成人1型糖尿病患者における糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の改善に関して、insulin efsitora alfa(efsitora)の週1回投与はインスリン デグルデク(デグルデク)の1日1回投与に対し非劣性を示すものの、レベル2と3を合わせた低血糖とレベル3の重症低血糖の発生率が高いことが、米国・HealthPartners InstituteのRichard M. Bergenstal氏らが実施した「QWINT-5試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年9月21日号に掲載された。国際的な第III相無作為化非劣性試験 QWINT-5試験は、6ヵ国(アルゼンチン、日本、ポーランド、スロバキア、台湾、米国)の82施設で実施した52週間の第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2022年8月~2024年5月に参加者を登録した(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 HbA1c値が7.0~10.0%(53.0~85.8mmol/mol)の成人(年齢18歳以上)1型糖尿病で、スクリーニング前の少なくとも90日間、基礎および追加インスリンの1日複数回注射療法による治療歴を有する患者を対象とした。被験者を、基礎インスリンとしてefsitora(500単位/mL)またはデグルデク(100単位/mL)を皮下投与する群に無作為に割り付けた。両群とも追加インスリンとしてインスリン リスプロを併用投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週目までのHbA1c値の変化量とし、非劣性マージンは0.4%に設定した。重症低血糖の64%は最初の12週間に発生 692例を無作為化し、efsitora群に343例(平均年齢44.4歳、女性44%)、デグルデク群に349例(43.6歳、45%)を割り付けた。全例が少なくとも1回の試験薬の投与を受け、efsitora群の314例(92%)とデグルデク群の314例(90%)が予定の試験薬投与を完遂した。 平均HbA1c値は、efsitora群ではベースラインの7.88%から26週目には7.41%へ、デグルデク群では7.94%から7.36%へとそれぞれ低下した。この間の平均変化量は、efsitora群が-0.51%、デグルデク群は-0.56%(推定群間差:0.052%、95%信頼区間[CI]:-0.077~0.181、優越性のp=0.43)であり、非劣性マージン(0.4%)を満たしたことからデグルデク群に対するefsitora群の非劣性を確認した(非劣性のp<0.0001)。 0~52週目におけるレベル2(患者報告による自己測定の血糖値<54mg/dL)の低血糖と、レベル3(低血糖の治療のために他者の支援を必要とする精神的または身体的状態)の重症低血糖を合わせた曝露人年当たりの発生頻度は、デグルデク群が11.59件であったのに対し、efsitora群は14.03件と有意に高かった(推定率比:1.21、95%CI:1.04~1.41、p=0.016)。 また、0~52週目におけるレベル3の重症低血糖の発生率は、デグルデク群に比べefsitora群で高かった(10%[343例中35例で44件のイベント]vs.3%[349例中11例で13件のイベント])。efsitora群では、44件の重症低血糖のうち28件(64%)は試験期間の最初の12週間に発生した。重篤な有害事象が多い、注射部位反応はほとんどが軽度 試験治療下での有害事象は、efsitora群で247例(72%)、デグルデク群で234例(67%)に発生した。重篤な有害事象は、デグルデク群の24例(7%)に比べefsitora群は45例(13%)と発現頻度が高く、これはレベル3の重症低血糖が多かったためと考えられた。デグルデク群で1例が死亡したが、試験治療との関連はなかった。 糖尿病性ケトアシドーシスはデグルデク群で2例(1%)に発現した。注射部位反応は、efsitora群で9例(3%)に12件、デグルデク群で1例(<1%)に1件認め、efsitora群の11件は軽度、1件は中等度だった。注射部位反応による試験治療の中止はなかった。 著者は、「1型糖尿病患者において、efsitoraの週1回投与により低血糖のリスクを軽減しつつ有効性を維持するには、efsitoraの投与開始の評価と、基礎・追加インスリンの投与量の最適化についてさらに検討を進める必要がある」としている。

56.

セマグルチドがタバコ使用障害リスクを下げる可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドが処方されている患者は、タバコ使用障害(tobacco use disorder;TUD)関連の受療行動が、他の糖尿病用薬が処方されている患者よりも少ないという研究結果が、「Annals of Internal Medicine」に7月30日掲載された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部のWilliam Wang氏らが報告した。 2型糖尿病または肥満の治療のためにセマグルチドが処方されている患者で喫煙欲求が低下したとの報告があり、同薬のTUDに対する潜在的なメリットへの関心が高まっている。これを背景としてWang氏らは、米国における2017年12月~2023年3月の医療データベースを用いたエミュレーションターゲット研究を実施した。エミュレーションターゲット研究は、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)する研究手法で、観察研究でありながら介入効果を予測し得る。 本研究では、血糖管理目的でセマグルチドと他の7種類の血糖降下薬(インスリン、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、およびセマグルチド以外のGLP-1RA)が新規に処方された患者群での7件の比較対象試験を模倣した。12カ月間の追跡中にTUD関連の受療行動(TUD診断のための受診、禁煙補助薬の処方、禁煙カウンセリングの実施)を、Cox比例ハザードモデルとカプランマイヤー法により解析した。データセットに含まれる患者数は22万2,942人で、このうちセマグルチドが新規処方されていたのは5,967人だった。 解析の結果、セマグルチドは他の糖尿病用薬と比較してTUD診断のための受診が有意に少なく、特にインスリンとの比較において最も差が大きかった(ハザード比〔HR〕0.68〔95%信頼区間0.63~0.74〕)。一方、セマグルチド以外のGLP-1RAとの比較では最も差が小さかったが、統計学的に有意だった(HR0.88〔同0.81~0.96〕)。また、セマグルチドは禁煙補助薬の処方および禁煙カウンセリングの実施件数の低下とも関連していた。肥満の診断の有無で層別化した場合、いずれにおいても同様の関連が示された。なお、7件の比較対象試験の多くで、処方開始から30日以内にこれらの発生率の乖離が認められた。 著者らは本研究の限界点として、出版バイアスや残余交絡の存在、およびBMIや喫煙行動、薬剤使用コンプライアンスに関する情報が欠如していることを挙げている。その上で、「新たにセマグルチドが処方された患者は、セマグルチド以外のGLP-1RAを含む他の糖尿病用薬が新規処方された患者と比較して、TUD関連の受療行動が少ないことが示された。 これは、セマグルチドが禁煙に有益であるとする仮説と一致した結果と言えるかもしれないが、研究手法の限界により確固たる結論には至らず、臨床医が禁煙を目的としてセマグルチドを適応外使用することを正当化するものではない」と総括。また同薬によるTUD治療の可能性を評価するための臨床試験の必要性を指摘している。

57.

インスリン未治療の2型糖尿病、efsitora vs.デグルデク/NEJM

 インスリン治療歴のない2型糖尿病成人患者において、週1回投与のinsulin efsitoraα(efsitora)による治療は1日1回投与のインスリン デグルデク(デグルデク)治療に対して、糖化ヘモグロビン値(HbA1c)の低下に関して非劣性であることが示された。米国・the MultiCare Rockwood Center for Diabetes and EndocrinologyのCarol Wysham氏らQWINT-2 Investigatorsが、10ヵ国121施設で実施した52週間の無作為化非盲検実薬対照並行群間treat-to-target第III相試験「once-weekly [QW] insulin therapy:QWINT-2試験」の結果を報告した。efsitoraは、週1回投与を目的として設計された新しい基礎インスリンで、小規模な第I相ならびに第II相試験において、安全性および有効性はデグルデクと同等であることが示されていた。NEJM誌オンライン版2024年9月10日号掲載の報告。efsitoraの有効性についてデグルデクに対する非劣性を評価 研究グループは、18歳以上で、インスリン投与歴がなく、スクリーニングの3ヵ月以上前から1~3種類の非インスリン血糖降下薬による治療を受けるもHbA1cが7.0~10.5%で、BMIが45.0以下の2型糖尿病患者を、efsitora群またはデグルデク群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 efsitora群では週1回100単位(初回のみ300単位)を、デグルデク群では1日1回10単位から投与を開始し、空腹時血糖値80~120mg/dLを目標値として用量調整を行った。 主要エンドポイントは、ベースラインから52週までのHbA1cの変化量の非劣性で、efsitoraのデグルデクに対する非劣性マージンは0.4%ポイントとした。 副次エンドポイントは、GLP-1受容体作動薬使用の有無別のサブグループにおけるHbA1cの変化量の非劣性、ベースラインから52週までのHbA1cの変化量の優越性、48~52週の期間における持続血糖モニタリングによる血糖値が目標値70~180mg/dLの範囲内であった時間の割合などであった。 安全性の評価項目には低血糖エピソードなどが含まれた。52週のHbA1c変化量に関してefsitoraはデグルデクに対して非劣性 2022年6月3日~2024年4月10日の間に1,267例がスクリーニングを受け、合計928例(efsitora群466例、デグルデク群462例)が無作為化され、割付治療薬を少なくとも1回投与された。有効性解析集団には、efsitora群463例、デグルデク群458例が含まれた。 平均HbA1cは、efsitora群ではベースライン時8.21%から52週時には6.97%に低下した(最小二乗平均変化量:-1.26%ポイント)。一方、デグルデク群では8.24%から7.05%に低下した(同:-1.17%ポイント)。推定投与群間差は-0.09%ポイント(95%信頼区間[CI]:-0.22~0.04)であり、efsitoraのデグルデクに対する非劣性は確認されたが、優越性は示されなかった(p=0.19)。 GLP-1受容体作動薬の使用の有無別では、ベースラインから52週までのHbA1cの変化量(最小二乗平均変化量)は、使用患者集団ではefsitora群-1.26%ポイント、デグルデク群-1.19%ポイント、非使用患者集団ではそれぞれ-1.26%ポイント、-1.15%ポイントであり、群間差は-0.06%ポイントと-0.11%ポイントで、非劣性が示された。 血糖値が目標範囲内であった時間の割合は、efsitora群で64.3%、デグルデクで61.2%であった(推定群間差:3.1%ポイント、95%CI:0.1~6.1)。 臨床的に有意または重度の低血糖(レベル2または3)の発現頻度は、efsitora群では0.58件/曝露患者年(participant-year of exposure:PYE)、デグルデク群では0.45件/PYEであった(推定率比:1.30、95%CI:0.94~1.78)。efsitora群では重度の低血糖は報告されなかったが、デグルデク群では6件報告された。有害事象の発現率は、両群間で類似していた。 なお、中国で使用された持続血糖測定器は他国と異なるため、本報告には中国におけるデータは含まれていない。

58.

人間なら死んでしまうほどの高血糖にコウモリはどう対応している?

 コウモリの中には、人間なら死に至るほどの高血糖状態で生存している種がいる。これは、コウモリがどんな環境でも生き延びられるように適応してきた結果と考えられ、このような変化は糖尿病治療に役立つ可能性があるという。米ストワーズ医学研究所のJasmin Camacho氏らの研究の結果であり、詳細は「Nature Ecology & Evolution」に8月28日掲載された。同氏は、「ある種のコウモリの血糖値が、自然界でこれまで見られた中で最も高いことが分かった。その血糖値は哺乳類にとっては致命的で昏睡を引き起こすレベルだ。われわれは、これまであり得るとは思いもよらなかった事実を目にしている」と語っている。 Camacho氏らは29種のコウモリ、約200匹を捕獲し、昆虫や果物、花の蜜などの糖分を与え、血糖値を測定した。すると、ある種のコウモリは750mg/dL以上、あるいは測定可能範囲を超えて「high」とのみ表示されるほどの高値を示した。この研究の具体的な内容について、論文共著者の1人で同研究所のAndrea Bernal-Rivera氏は、「コウモリの体内で糖が吸収、貯蔵、利用されるプロセスが、摂取した糖の種類によってどのように異なるかを観察した」と説明している。 研究によりコウモリは、それぞれが置かれた環境の中で、得られる餌に適応して生き残るような戦略を進化させてきたことが示唆されたという。例えば3000万年前、新熱帯区(主に南米)に生息していたある種のコウモリは、昆虫だけを餌として生き延びていたが、その後、餌を変化させることで、多くの異なる種のコウモリへと進化した。その結果、餌は果物や花の蜜、肉、さらには他の動物の血液に至るまでに広がった。そして、それらを摂取した際に生じる血糖変動のコントロールに役立つ、さまざまな適応を遂げたと考えられるとのことだ。 Camacho氏によると、あるコウモリは血糖値を下げるためにインスリンシグナル伝達経路を発達させ、別のコウモリは高血糖状態に耐えられるように変化したという。そして「このような変化は、血糖値のコントロールが困難な糖尿病患者に見られる変化に似ている」としている。ほかにも、糖分を多く含む餌を摂取するコウモリは腸が長くなって、腸管の表面積も大きくなる傾向が見られた。また花の蜜を摂取するコウモリは血糖輸送を司る遺伝子が活性化していた。 この研究報告について、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のNadav Ahituv氏は、「餌の異なるさまざまなコウモリの代謝特性だけでなく、腸の形態、食性の適応に関わる可能性のあるタンパク質構造やゲノム領域の違いも明らかにした研究と言える」と論評。また、「これらのデータは、ヒトのさまざまな代謝性疾患に対する新たな治療法の開発につながる可能性がある」と付け加えている。

59.

イモガイの毒が糖尿病治療につながる可能性

 巻貝の一種で、地球上で最も有毒な生物の一つである「イモガイ」の毒素が、糖尿病や内分泌疾患の治療に役立つ可能性のあることが新たな研究で示された。イモガイの毒素である「コンソマチン」が、血糖値やホルモンの分泌を調節するヒトのホルモンである「ソマトスタチン」に似た働きをするのだという。米ユタ大学のHo Yan Yeung氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に8月20日掲載された。論文の筆頭著者であるYeung氏は、「イモガイはまるで優れた化学者のようだ」と、冗談交じりに語っている。 著者らの過去の研究によると、コンソマチンはイモガイの毒液に含まれる別のインスリン様の毒素と互いに作用し合い、血糖値を急速に低下させるという。それによって獲物は昏睡状態になり、イモガイに捕食される。論文の上席著者である同大学のHelena Safavi氏は、「毒を持つ生物は進化の過程で、標的とする獲物を仕留めるために毒の成分を微調整してきた」と説明する。そして、「毒液の成分を一つずつ取り出して、どのように正常な生理機能を破綻させるかを観察すると、明らかになったメカニズムがしばしば疾患の病態とよく似ていることがある」のだそうだ。同氏は、「医薬品の研究者にとって、このような研究手法はある種の抜け道のようなものだ」と話す。 ソマトスタチンは、人体内の多くの生理的プロセスにおいて、ブレーキのような働きをしている。例えば、血糖値が危険なほど高くなるのを防ぐように作用する。研究によると、イモガイのコンソマチンは、ソマトスタチンと同じような役割を演じて血糖値の上昇を防ぐという。また、ソマトスタチンはヒトのさまざまなホルモンに作用するが、コンソマチンを利用すれば標的を絞り込んで、ホルモン分泌をより精緻に調整できる可能性があるとのことだ。さらにコンソマチンは、分解されにくい希少なアミノ酸を含んでいるために、ソマトスタチンよりもヒトの体内で長時間作用する可能性も示されている。 とはいえコンソマチン自体は、単独で薬として使用するには危険すぎる。しかし研究者らは、コンソマチンの構造を詳しく調べることで、ヒトのホルモンレベルに影響を与え得る新薬の開発の手がかりとなる可能性があるとしている。またコンソマチン以外にも、糖尿病治療に有用な成分が、イモガイの毒液に含まれている可能性もあるという。Yeung氏も、「毒液にはインスリンやソマトスタチンに類似した毒素だけが含まれているのではなく、血糖値を調整する性質を持つほかの毒素も含まれているのではないか」と話している。

60.

日本の野菜中心の食習慣がMASLD患者の肝線維化リスクを低減

 日本の日常的な食習慣が代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)および肝線維症に及ぼす影響を調査した横断研究の結果、野菜中心の食習慣がMASLD患者の肝線維化リスクの低減と関連していたことが、弘前大学の笹田 貴史氏らによって明らかになった。Nutrients誌2024年8月28日号掲載の報告。 MASLDの発症・進行には、食習慣が大きく関与している。これまで、日本食、地中海食、西洋食などの国民的食習慣とMASLDの関連について多くの研究がなされているが、国内の同一地域における食習慣の違いがMASLDの発症・進行にどの程度影響するかを疫学的に検討した研究は乏しい。そこで研究グループは、日本の日常的な食習慣がMASLDと肝線維症の予防に有効であるという仮説を立て、日本の農村地域の一般住民におけるMASLDの発症と肝線維症への進行に対する食習慣の影響を調査した。 対象は、青森県弘前市岩木地区の「岩木健康増進プロジェクト」に参加した20歳以上の成人であった。データは2018年5月26日~6月4日に収集された。合計1,056人(20~88歳)が本研究に参加した。脂肪性肝疾患の診断に影響を与える因子を有する参加者は除外された結果、解析には727人が含まれた。参加者は、毎日の食物摂取量に基づいて、米の摂取量が多いグループ(米摂取群)、野菜やキノコ類の摂取量が多いグループ(野菜摂取群)、魚介類の摂取量が多いグループ(魚介類摂取群)、洋菓子やアイスクリームの摂取量が多いグループ(甘味摂取群)に分類された。 主な結果は以下のとおり。・220例がMASLDの診断基準を満たした。4つの食習慣群におけるMASLD患者の割合に有意差はなく、食習慣はMASLDの有意なリスク因子とは特定されなかった。・MASLDと診断された参加者の94例(42.7%)に肝線維化が認められた。・MASLD集団における単変量解析では、野菜摂取群は米摂取群よりも肝線維化が有意に少なかった(野菜摂取群vs.米摂取群のオッズ比[OR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.19~0.92、p=0.030)。米摂取群と魚介類摂取群および甘味摂取群の間に有意差は認められなかった。・多変量解析では、肝線維症のリスク因子として、BMI≧(OR:1.83、95%CI:1.01〜3.32、p=0.047)およびインスリン抵抗性(HOMA-IR)≧(OR:3.18、95%CI:1.74〜5.80、p<0.001)が特定された一方で、野菜摂取群であることは有意な低リスク因子であった(OR:0.38、95%CI:0.16〜0.88、p=0.023)。・肝線維化の抑制に関連する食品および栄養素を調査する多変量解析により、ニンジン、カボチャ、ダイコン、カブが重要な食品であることが判明した。これらの食品をさらに分析したところ、抗酸化作用を有するα-トコフェロールの高摂取が肝線維症の有意な低リスク因子であることが明らかになった(OR:0.74、95%CI:0.56〜0.99、p=0.039)。 研究グループは「これらの知見は、日本の野菜中心の食習慣がMASLD患者の肝線維化を抑制し、予後を改善する可能性を示唆するものである」とまとめた。

検索結果 合計:846件 表示位置:41 - 60