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マクロ地中海食、乳がんの再発予防効果なし?

 いくつかの前向き研究で、食事の質の向上が乳がん患者の生存率改善と関連することが示唆されているが、乳がん特異的死亡率への影響については定まっていない。今回、イタリア・Fondazione Istituto Nazionale TumoriのFranco Berrino氏らがマクロ地中海食(地中海食に味噌や豆腐などの日本由来のマクロビオティックを取り入れた食事)による乳がん再発抑制効果を無作為化比較試験(DIANA-5試験)で検討したところ、再発抑制効果は示されなかった。しかしながら、推奨される食事の順守度による解析では、推奨された食事への変化率が上位3分位の女性では有意に予後が良好だったという。Clinical Cancer Research誌オンライン版2023年10月17日号に掲載。 本試験の対象は、再発リスクの高い(エストロゲン受容体陰性もしくはメタボリックシンドロームもしくは血中インスリン/テストステロン高値)乳がん患者1,542例で、食事介入群と対照群に無作為に割り付けた。食事介入群には、料理教室、コミュニティでの食事、食事推奨などで積極的に介入した。推奨される食品は全粒穀物、豆類、大豆製品、野菜、果物、ナッツ類、オリーブ油、魚などで、回避すべき食品は精製品、ジャガイモ、砂糖、デザート、赤肉、加工肉、乳製品、アルコール飲料である。食事順守の指標として、推奨される食品と回避すべき食品の差をDietary Indexとした。 主な結果は以下のとおり。・5年の追跡期間中に、食事介入群95例、対照群98例で乳がんが再発し(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.69~1.40)、差はみられなかった。・両群を合わせてDietary Indexの変化率が上位3分位の女性は、下位3分位の女性に対して、再発のHRが0.59(95%CI:0.36~0.92)であった。 著者らは「本結果は、今後の食事療法の研究において、推奨される食事をより順守し、無作為化した群間に十分な差別化を図ることの重要性を指摘している」としている。

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妊娠糖尿病に対する早期のメトホルミン投与の効果(解説:小川大輔氏)

 日本においてメトホルミンは「妊婦または妊娠している可能性のある女性」への投与は禁忌となっている。一方、海外ではメトホルミンは妊娠糖尿病に使用可能である。今回、妊娠糖尿病患者を対象に、妊娠早期からメトホルミン治療を開始する試験の結果がJAMA誌に発表された1)。 この試験はアイルランドの2ヵ所の医療機関で、妊娠28週以前に妊娠糖尿病と診断された被験者を登録して実施された二重盲検無作為化試験である。被験者510人(妊娠535件)を対象として、メトホルミンを投与する群(メトホルミン群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。主要アウトカムは妊娠32週または38週時点での空腹時血糖高値(5.1mmol/L以上)、またはインスリン療法の開始であった。 主要複合アウトカムはメトホルミン群で56.8%、プラセボ群で63.7%と有意差を認めなかった(相対リスク:0.89、95%信頼区間[CI]:0.78~1.02、p=0.13)。母体に関する副次アウトカムのうち、インスリン開始までの時間、自己報告の毛細血管血糖コントロール、妊娠中の体重増加はメトホルミン群で有意に良好であった。新生児に関する副次アウトカムでは、出生時体重がメトホルミン群で有意に低値であった。 妊娠早期からのメトホルミン投与により、主要複合アウトカムは有意差がなかったが、インスリン療法の開始についてはメトホルミン群で38.4%、プラセボ群で51.1%と有意差を認めた(相対リスク:0.75、95%CI:0.62~0.91、p=0.004)。また、副次アウトカムでも妊娠中の血糖コントロールや母体の体重管理は、メトホルミン早期導入により改善することが示された。そのため今回の試験結果だけで、妊娠糖尿病に早期からメトホルミンを導入するべきではないと結論付けることは難しい。著者らが考察しているように、より規模の大きな臨床試験を行う必要があるだろう。 また、すべての妊娠糖尿病患者に早期からメトホルミンを投与する必要はないのかもしれない。インスリン分泌が低下しているのであれば早期からインスリン導入を検討するべきであるし、肥満を伴っていれば早期からメトホルミン投与を考慮してもよいだろう。今後試験デザインを再考し、対象となる症例を増やして妊娠糖尿病に対するメトホルミン早期導入の意義を検討する臨床試験が行われることを期待したい。 メトホルミンは妊娠中の血糖管理だけでなく、妊婦の体重増加や妊娠高血圧腎症などに有効かつ安全であることが報告されている2)。実臨床で血糖コントロールのために大量のインスリンを必要とし、体重管理に苦慮する妊娠糖尿病の症例をしばしば経験するので、日本でも妊娠糖尿病でメトホルミンが投与できるようになることを願う。

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11月14日 世界糖尿病デー【今日は何の日?】

【11月14日 世界糖尿病デー】〔由来〕糖尿病の治療に欠かせない「インスリン」を発見したカナダの医師フレデリック・バンティングの誕生日にちなみ、2006年に国際連合は11月14日を「世界糖尿病デー」に認定。世界各地で糖尿病の予防、治療、療養について啓発活動を行っている。わが国でも全国で糖尿病啓発などに関するイベントが開催されるほか、東京タワーや大阪城などの有名建築物が糖尿病のシンボルカラーのブルーでライトアップされている。関連コンテンツ高齢者糖尿病診療のコツDr.坂根の糖尿病外来NGワードDr.坂根のすぐ使える患者指導画集 Part2日本人2型糖尿病でのチルゼパチドの効果、GLP-1RAと比較/横浜市立大チルゼパチド追加の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」改訂版/日本糖尿病学会

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成人1型糖尿病患者の3分の1以上が30歳過ぎまで病型を診断されていない

 米国では、成人の1型糖尿病患者の10人中4人近くが、30歳を過ぎるまで、糖尿病の病型が1型であると診断されていないという実態が報告された。ただし研究者らは、「明らかになったこの結果は、1型糖尿病の発症パターンが多様であることを意味するものであって、いつまでも診断されずにいる1型患者が多数存在するというわけではない」とも述べている。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学大学院のMichael Fang氏らによるこの研究の結果は、「Annals of Internal Medicine」に9月26日、レターとして報告された。同氏は、「この結果は多くの臨床医にとって驚嘆に値するだろう」と述べている。 1型糖尿病は、免疫システムの暴走によって自分自身の体に対して攻撃が生じた結果、発症すると考えられており、このような発症原因は、より一般的な病型である2型糖尿病と大きく異なる。2型糖尿病の原因には生活習慣関連因子の占める割合が大きく、より具体的には、過体重や肥満によって生じるインスリン抵抗性のために高血糖を呈することが多い。米疾病対策センター(CDC)は、米国での全糖尿病患者のうち1型糖尿病はわずか約5~10%程度であるとし、また1型糖尿病の明確なリスク因子は特定できていないものの、家族歴の存在は一定のリスクを示していると解説している。 1型糖尿病はどの年齢でも発症する可能性があるが、一般的には小児期や思春期、若年成人期での発症が多いというコンセンサスがある。しかしFang氏らの今回の研究報告は、そのような理解が誤りである可能性を示している。1型糖尿病患者の半数以上が、20歳以降に発症していると考えられるという。 Fang氏らは、2016~2022年(2018年は除く)の米国国民健康面接調査(NHIS)のデータを用いて、950人近くの成人(18歳以上)1型糖尿病患者の診断時年齢を調べた。NHIS調査時の平均年齢は49歳で、約4分の3を白人が占めていた。診断時の年齢の中央値は24歳であり、これは全体の半数は24歳以上になってから診断されていたことを意味する。また、全体の57%は20歳以降に1型糖尿病と診断され、37%は30歳以降、22%は40歳以降に診断されていた。 性別で比較した場合、男性は女性よりも遅く診断されていることが多かった(診断時年齢の中央値が女性は22歳で男性は27歳)。人種/民族で比較した場合は、非ヒスパニック系白人は診断時年齢の中央値が21歳であるのに対して、マイノリティーでは26~30歳と、やや高齢の範囲に分布していた。これらの結果からFang氏は、「1型糖尿病は一般的に小児期に発症すると考えられているが、それほど単純なものではなく、発症の時期は幅広い年齢層に分布している可能性がある」と述べている。 1型糖尿病の場合、基本的には生存のためにインスリン療法が必須とされる。ただしCDCによると、そのような1型糖尿病であっても、発症後の初期には症状が軽度なこともあり、数カ月、場合によっては数年間も1型だと気付かれないこともあるとしている。また現時点では、糖尿病を新規発症した患者全員に対して、糖尿病の病型を診断するための検査を行うような推奨はされていない。 本研究には関与していない、米デューク大学マーゴリス医療政策センターのCaroline Sloan氏は、「多くの臨床医は、成人発症の糖尿病であれば1型糖尿病の可能性は低いと考える。しかし実際はそうとは言えないことが本研究から明確になった」と述べている。また同氏は、「これは大きな問題である」とし、その理由を「1型糖尿病と2型糖尿病では、治療内容や患者への指導・情報提供内容が異なり、さらに、治療に当たる医師の変更を要することもあるからだ。発症後に行われる治療次第で、患者のその後の血糖コントロールに差が生じてしまうこともあり得る」と解説。その上で、「成人発症の糖尿病であっても、診断時に糖尿病の病型まで把握可能な検査を行うことが重要ではないか」と提言している。

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チルゼパチド追加の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」改訂版/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏)は、11月2日に同学会のホームページで「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム 改訂版」を公開した。このアルゴリズムは、2022年9月に2型糖尿病治療の適正化を目的に初版が公開された。今回の改訂版では、チルゼパチドが追加された。主な改訂点は次のとおり。・Fig.2のStep1:病態に応じた薬剤選択における肥満[インスリン抵抗性を想定]の最後にチルゼパチドを追記。・「インスリン分泌不全、抵抗性は、糖尿病治療ガイドにある各指標を参考に評価し得る」の文言は改訂前より記載していたが、より病態を正確にとらえるための情報として「インスリン抵抗性はBMI、腹囲での肥満・内臓脂肪蓄積から類推するが、HOMA-IRなどの指標の評価が望ましい」を追記。・Step2:安全性への配慮、における「例2)腎機能障害合併者には、グリニド薬を避ける」と記載されていた箇所に「腎排泄型の」と追記。・Step2:安全性への配慮、における「例3)心不全合併者にはビグアナイド薬、チアゾリジン薬を避ける(禁忌)」と記載されていた順番を、「チアゾリジン薬、ビグアナイド薬」に入れ替え。・Fig.2の最下段に「目標HbA1cを達成できなかった場合は、Step1に立ち返り」と記載されていたのを「冒頭に立ち返り、インスリン適応の再評価も含めて」に改訂。・別表においては、チルゼパチドを追記したのに加え、考慮すべき項目に「特徴的な副作用」と「効果の持続性」の2つを追記。・本文でもチルゼパチドや特徴的な副作用など、図、別表の改訂に関する追記に加えて、アルゴリズムの図には記載されていないが、考慮すべき併存疾患として本改訂から非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を取り上げた。・インスリンの絶対的適応と相対的適応、血糖コントロール目標における熊本宣言2013や高齢者糖尿病の血糖コントロール目標などについても詳細を追記。

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幹細胞治療で1型糖尿病が寛解する可能性

 1型糖尿病患者に対して、幹細胞由来のインスリン産生細胞を移植するという新たな治療法の可能性を示した、トロント大学アジメラ移植センター(カナダ)のTrevor Reichman氏らの研究結果が、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表された。 1型糖尿病は、膵臓内のランゲルハンス島にあるインスリン産生細胞(膵島細胞)の機能が失われることで発症し、発症後には1日数回のインスリン注射、またはインスリンポンプによる治療が必須とされる。しかし、今回報告された新たな研究が実を結べば、1型糖尿病患者の一部はそのようなインスリン療法が不要になるかもしれない。 この研究は、同種幹細胞由来の細胞療法として開発中の「VX-880」を用いて行われた。幹細胞とは、さまざまな種類の細胞に変化して、指数関数的に増殖する能力を備えた細胞のこと。VX-880の場合、幹細胞由来の膵島細胞を研究室内で数週間かけて増殖させた後、点滴によって患者へ移植する。投与後には完全に分化した機能的膵島細胞として、インスリンの分泌を開始する。「この手法は1型糖尿病の完治につながる可能性があり、今回の研究成果はその目標への大きな前進だと信じている」とReichman氏は語っている。 発表によると、この研究は1型糖尿病患者6人に対して行われ、全員がインスリンの必要量が減り、かつ重度の低血糖を起こさなくなる一方、HbA1cは低下して推奨される範囲内のコントロールが達成された。さらに、一部の患者はインスリン注射が不要になった。Reichman氏は、「研究に参加した患者は全員、血糖コントロールの困難な状態が長年続いており、重度の低血糖を来すリスクや生命にかかわる合併症を抱えていた。示された結果は、患者の人生を変える衝撃的なものと言える」と強調している。 これらの有効性が、投与後どれくらいの期間続くのかはまだ不明だ。ただし、Reichman氏によると、「追跡期間が最も長い患者は現在約2年経過したが、いまだインスリン非依存状態(生存のためのインスリン療法は不要な状態)を維持している」という。研究は現在も引き続き進行中だ。 VX-880の安全性に関しては、これまでのところ重篤な副作用は報告されていない。しかし拒絶反応を防ぐために、免疫抑制薬の服用が必要とされる。Reichman氏はその点について「潜在的なリスクが存在する」とし、「免疫抑制薬を必要としない治療法を開発することも、今後の目標だ」と述べている。なお、これまでにこの研究の対象とされたのは18~65歳の成人だが、将来的には子どもを対象とする研究も行う可能性があるという。 米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の糖尿病ケアセンター長であるJohn Buse氏は、報告されたこの治療法について「かなりうまくいくようだ」と論評。また、「この治療法の重要なポイントは、移植に用いるインスリン産生細胞の供給源を得るための臓器提供者を必要としないという点にある」と解説する。そして、「治療後の患者は免疫抑制療法を継続しなければならないが、重度の低血糖のリスクを抱えながらインスリン療法を続けなければならない状態の患者にとって、それは合理的なトレードオフと言えよう」と付け加えている。 なお、本研究は、VX-880の開発企業であるVertex Pharmaceuticals社の援助を受けて行われた。また、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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1型DM、週1回insulin icodec vs.1日1回インスリン デグルデク/Lancet

 1型糖尿病の成人患者において、週1回投与のinsulin icodec(icodec)は26週時の糖化ヘモグロビン値(HbA1c)低下に関して、1日1回投与のインスリン デグルデクに対し非劣性であることが認められたが、臨床的に重大な低血糖または重症低血糖の合併が有意に高率であった。英国・Royal Surrey Foundation TrustのDavid Russell-Jones氏らが、12ヵ国の99施設で実施された52週間の無作為化非盲検第IIIa相試験「ONWARDS 6試験」の結果を報告した。著者は、「1型糖尿病の特性を考慮すると、基礎インスリン注射を毎日から週1回に変更することは困難な可能性があるが、持続血糖モニタリングのデータとリアルワールド研究のさらなる解析により、icodec週1回投与の低血糖リスク軽減のための投与量調節に関する洞察が得られる可能性はある」とまとめている。Lancet誌2023年10月17日号掲載の報告。1型糖尿病患者約600例を無作為化 研究グループは、インスリン治療歴が1年以上でHbA1c値が10.0%未満の1型糖尿病成人患者を、icodec週1回皮下投与群(icodec群)またはインスリン デグルデク1日1回皮下投与群(デグルデク群)に、1対1の割合に無作為に割り付けた。両群とも、インスリン アスパルト(1日2回以上、食直前皮下投与)との併用下で、52週間(icodecの最終投与は51週目)投与した。なお、本試験は、スクリーニング期間2週間、治療期間52週間(主要評価期間26週間、安全性延長期間26週間)、追跡期間5週間で構成された。 主要エンドポイントは、26週時におけるベースラインからのHbA1cの変化量で、無作為化されたすべての患者を解析対象とし、非劣性マージンを両群の差の95%信頼区間(CI)の上限が0.3%未満とした。 2021年4月30日~10月15日に655例がスクリーニングされ、このうち582例がicodec群(290例)またはデグルデク群(292例)に割り付けられた。全例が1回以上試験薬の投与を受け、有効性および安全性の解析対象集団となった。26週時点で血糖コントロール改善は同等だが、臨床的に重大な低血糖はicodecで多い icodec群およびデグルデク群のHbA1c値は、ベースラインでそれぞれ7.59%、7.63%から、26週時には推定平均変化量として0.47%、0.51%低下した。推定平均変化量の群間差は0.05%(95%CI:-0.13~0.23)であり、icodec群のデグルデク群に対する非劣性が確認された(p=0.0065)。 ベースラインから26週時までの臨床的に重大な低血糖(54mg/dL未満)または重症低血糖の発生頻度は、icodec群19.9件/人年、デグルデク群10.4件/人年で、icodec群が統計学的に有意に高かった(推定率比:1.9、95%CI:1.5~2.3、p<0.0001)。57週時の評価においても、icodec群ではデグルデク群と比較し臨床的に重大な低血糖または重症低血糖の発生頻度が統計学的に有意に高かった(17.0件/人年vs. 9.2件/人年、推定率比:1.8、95%CI:1.5~2.2、p<0.0001)。 重篤な有害事象は、icodec群で24例(8%)に39件、デグルデク群で20例(7%)に25件報告された。icodec群で頭蓋内出血による死亡が1例認められたが、icodecとの関連性は低いと判断された。

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1型DMへのteplizumab、β細胞機能を有意に維持/NEJM

 新規診断の1型糖尿病の小児・青少年患者において、抗CD3モノクローナル抗体のteplizumab(12日間投与の2コース)は、β細胞機能の維持(主要エンドポイント)に関してベネフィットがあることが示された。ただし、インスリン用量、糖化ヘモグロビン値などの副次エンドポイントに関しては、ベネフィットが観察されなかった。英国・カーディフ大学のEleanor L. Ramos氏らが、第III相の無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。teplizumabは、8歳以上のステージ2の1型糖尿病患者に対し、ステージ3への進行を遅らせるための投与が米国FDAに承認されている。新規診断の1型糖尿病患者におけるteplizumabの静脈内投与が疾患進行を抑制するかについては不明であった。NEJM誌オンライン版2023年10月18日号掲載の報告。78週後の負荷C-ペプチド値でβ細胞機能を評価 研究グループは、2019年3月~2023年5月にかけて、米国、カナダ、欧州の医療機関61ヵ所で、6週間以内に診断を受けた8~17歳のステージ3の1型糖尿病患者を対象に試験を行い、teplizumabまたはプラセボの12日間投与・2コースを比較した。 主要エンドポイントは、78週時点の負荷C-ペプチドの測定値でみたβ細胞機能のベースラインからの変化だった。重要な副次エンドポイントは、血糖値目標達成に要したインスリン用量、糖化ヘモグロビン値、血糖値目標範囲内の時間、臨床的に重要な低血糖イベントだった。C-ペプチドのピーク値維持はteplizumab群95%、プラセボ群80% 78週時点で、teplizumab群(217例)は、プラセボ群(111例)に比べ、負荷C-ペプチド値が有意に高かった(最小二乗平均群間差:0.13pmol/mL、95%信頼区間[CI]:0.09~0.17、p<0.001)。0.2pmol/mL以上の臨床的に有意なC-ペプチドのピーク値を維持した患者の割合は、teplizumab群が94.9%(95%CI:89.5~97.6)であったのに対し、プラセボ群では79.2%(67.7~87.4)だった。 重要な副次エンドポイントについて、両群で有意差はなかった。 有害事象は、主にteplizumabまたはプラセボの投与に関するもので、頭痛、消化器症状、発疹、リンパ球減少、軽度のサイトカイン放出症候群などだった。

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2型DM基礎インスリンへの追加、チルゼパチドvs.インスリン リスプロ/JAMA

 基礎インスリン療法で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者において、インスリン グラルギンへの追加治療として週1回のチルゼパチドは、食前追加インスリンと比べてHbA1c値の低下および体重減をもたらし、低血糖症の発現もより少なかったことが、米国・Velocity Clinical ResearchのJulio Rosenstock氏らによる第IIIb相国際多施設共同非盲検無作為化試験「SURPASS-6試験」で示された。チルゼパチドは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチドおよびグルカゴン様ペプチド-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬であり、2型糖尿病の治療に用いられているが、これまで上記患者の追加インスリン療法として食前追加のインスリンと比較した有効性と安全性については明らかにされていなかった。JAMA誌オンライン版2023年10月3日号掲載の報告。52週時のHbA1c値のベースラインからの変化量を評価 SURPASS-6試験では、インスリン グラルギンへの追加インスリン療法として、チルゼパチドvs.インスリン リスプロの有効性と安全性を評価した。15ヵ国(アルゼンチン、ベルギー、ブラジル、チェコ共和国、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、メキシコ、ルーマニア、ロシア、スロバキア、スペイン、トルコ、米国)の135施設で、2020年10月19日~2022年11月1日に基礎インスリン治療を受ける2型糖尿病患者1,428例を登録して行われた。 研究グループは被験者を、1対1対1対3の割合で次の4群に無作為化した。(1)週1回チルゼパチド5mgを皮下注射(243例)、(2)同10mgを皮下注射(238例)、(3)同15mgを皮下注射(236例)、(4)1日3回食前にインスリン リスプロを皮下注射(708例)。 主要アウトカムは、52週時点のHbA1c値のベースラインからの変化量でみた、インスリン グラルギンに加えたチルゼパチド(統合コホート)の同インスリン リスプロに対する非劣性(非劣性マージン0.3%)であった。重要な副次エンドポイントとして、体重の変化量、HbA1c値7.0%未満達成患者の割合を評価した。HbA1c値の変化量、チルゼパチド-2.1%、インスリン リスプロ群-1.1% 無作為化された1,428例(女性824例[57.7%]、平均年齢58.8歳[SD 9.7]、平均HbA1c値8.8%[SD 1.0%])のうち、1,304例(91.3%)が試験を完了した。 52週時点で、チルゼパチド(統合コホート)群vs.インスリン リスプロ群のHbA1c値のベースラインからの推定平均変化量は、-2.1% vs.-1.1%であり、HbA1c値は6.7% vs.7.7%となった(推定治療差:-0.98%[95%信頼区間[CI]:-1.17~-0.79]、p<0.001)。結果は非劣性基準を満たすもので、統計学的優越性も示された。 体重のベースラインからの推定平均変化量は、チルゼパチド群-9.0kg、インスリン リスプロ群3.2kgであった(推定治療差:-12.2kg[95%CI:-13.4~-10.9])。 HbA1c値7.0%未満達成患者の割合は、チルゼパチド群68%(483/716例)、インスリン リスプロ群36%(256/708例)であった(オッズ比[OR]:4.2[95%CI:3.2~5.5])。 チルゼパチド群で最もよくみられた有害事象は、軽症~中等症の消化器症状(悪心:14~26%、下痢:11~15%、嘔吐:5~13%)であり、低血糖症(血糖値<54mg/dLまたは重症低血糖症)の発現頻度は、チルゼパチド群0.4件/患者年、インスリン リスプロ群4.4件/患者年であった。

50.

1型DM妊婦の血糖コントロール、クローズドループ療法vs.標準療法/NEJM

 1型糖尿病の妊婦において、ハイブリッドクローズドループ(HCL)療法は標準インスリン療法と比較し妊娠中の血糖コントロールを有意に改善することが示された。英国・Norfolk and Norwich University Hospitals NHS Foundation TrustのTara T. M. Lee氏らが、同国9施設で実施した無作為化非盲検比較試験「Automated insulin Delivery Amongst Pregnant women with Type 1 diabetes trial:AiDAPT試験」の結果を報告した。HCL療法は、非妊娠成人および小児において血糖コントロールを改善することが報告されているが、妊娠中の1型糖尿病の管理における有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2023年10月5日号掲載の報告。1型糖尿病妊婦124例を、妊娠16週までに無作為化 研究グループは、1型糖尿病の罹病期間が12ヵ月以上の18~45歳の妊婦で、妊娠初期の糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が6.5%以上の妊婦を、妊娠16週までにHCL群または標準インスリン療法(1日複数回の注射またはインスリンポンプによる強化インスリン療法)群に無作為に割り付け、両群とも持続血糖モニタリング(CGM)を行い追跡評価した。 主要アウトカムは、妊娠16週から出産までのCGMによる妊娠期特有目標血糖値範囲(63~140mg/dL)内の時間の割合とし、ITTの原則に従って解析した。 重要な副次アウトカムは、高血糖状態(血糖値>140mg/dL)の時間の割合、夜間における目標血糖値範囲内の時間、HbA1c値および安全性であった。 2019年9月~2022年5月の期間に、334例がスクリーニングされ、このうち124例が無作為化された(HCL群61例、標準療法群63例)。平均(±SD)年齢は31.1±5.3歳で、ベースライン時の平均HbA1c値は7.7±1.2%であった。目標血糖値範囲内の時間の割合は68% vs.56%で、HCL療法群が有意に高率 主要アウトカムである目標血糖値範囲内の時間の平均割合は、HCL群68.2±10.5%、標準インスリン療法55.6±12.5%、平均補正後群間差は10.5%(95%信頼区間[CI]:7.0~14.0、p<0.001)であった。 副次アウトカムの結果は主要アウトカムの結果と一致しており、HCL群が標準療法群より高血糖状態の時間の割合が少なく(群間差:-10.2%、95%CI:-13.8~-6.6)、夜間における目標範囲内の時間の割合が多く(12.3%、8.3~16.2)、HbA1c値が低かった(-0.31%、-0.50~-0.12)。 重度低血糖症イベントはHCL群で6件(被験者4例)、標準療法群で5件(5例)に、糖尿病性ケトアシドーシスは各群1例に認められた。HCL群におけるデバイス関連有害事象の発現頻度は24.3件/100人年で、HCLの使用に関連した事象が7件、CGMに関連した事象が7件であった。

51.

妊娠糖尿病への早期メトホルミンvs.プラセボ/JAMA

 妊娠糖尿病に対する早期のメトホルミン投与は、プラセボ投与との比較において、インスリン投与開始または32/38週時空腹時血糖値5.1mmol/L以上の複合アウトカム発生について、優位性を示さなかった。アイルランド・ゴールウェイ大学のFidelma Dunne氏らが、プラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果を報告した。ただし、副次アウトカムのデータ(母親のインスリン開始までの時間、自己報告の毛細血管血糖コントロール、妊娠中の体重増加の3点)は、大規模試験でさらなるメトホルミンの研究を支持するものであったという。妊娠糖尿病は、妊娠期に多い合併症の1つだが、至適な治療は明らかになっていない。JAMA誌オンライン版2023年10月3日号掲載の報告。妊娠28週までの妊娠糖尿病の妊婦を対象に試験 研究グループは、アイルランドの2ヵ所の医療機関で試験を行った。2017年6月~2022年9月に、世界保健機関(WHO)基準2013で妊娠糖尿病の診断を受けた妊娠28週以前の被験者510人(妊娠535件)を登録し、産後12週間まで追跡した。 被験者は2群に割り付けられ、通常ケアに加え、一方にはメトホルミン(最大用量2,500mg)を、もう一方にはプラセボを投与した。 主要アウトカムは、出産前のインスリン投与開始もしくは妊娠32週または38週時の空腹時血糖値が5.1mmol/L以上だった。メトホルミン群の新生児は小さい傾向 被験者510人(平均年齢34.3歳)における妊娠535件を無作為化した。 主要複合アウトカムの発生率は、メトホルミン群が56.8%(妊娠150件)、プラセボ群が63.7%(妊娠167件)だった(群間差:-6.9%、95%信頼区間[CI]:-15.1~1.4、相対リスク:0.89、95%CI:0.78~1.02、p=0.13)。 事前に規定した母親に関する6つの副次アウトカムのうち、メトホルミン群で優位だったのは、インスリン開始までの時間、自己報告の毛細血管血糖コントロール、妊娠中の体重増加の3つだった。 新生児に関する副次アウトカムは、メトホルミン群で新生児が小さい傾向(平均出生体重が低い、出生体重4kg以上の割合が低い、在胎週数による大きさ分布で90パーセンタイル超の割合が低い、頂踵長が小さい)がみられた。一方で、新生児集中治療を要する割合、呼吸補助を要する呼吸困難、光線療法を要する黄疸、重大な先天奇形、新生児低血糖、5分間Apgarスコア7未満の割合については、両群で有意差はなかった。

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糖尿病患者の下肢切断に関連する因子を特定

 糖尿病と新規診断された患者では、喫煙や身体活動量の少なさに加えて、高齢、男性、離婚などが下肢切断(lower-limb amputation;LLA)の潜在的リスク因子である可能性が明らかになった。オレブロ大学(スウェーデン)のStefan Jansson氏らが行った研究の結果であり、詳細は欧州糖尿病学会年次総会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表される予定。 糖尿病患者はLLAリスクが高いことが知られているが、そのリスク因子は十分に明らかになっているとは言えない。これには、LLAが糖尿病の主徴である高血糖だけでなく、合併症である血管障害、神経障害、易感染や、年齢、罹病期間、喫煙習慣、居住環境(同居者の有無)、医療環境など、さまざまな因子が関与して発症・進行することが一因として挙げられる。これを背景としてJansson氏らは、検討対象を糖尿病と新たに診断された集団に絞り込み、人口統計学的因子、社会経済的因子、生活習慣関連因子、および医療介入時の臨床評価指標を考慮して、LLAリスクを検討した。 研究には、スウェーデン全体の医療情報が登録されている国家レジストリが利用された。2007~2016年に同国内で新たに糖尿病と診断され、LLA既往のない18歳以上の患者を、LLA施行、移住、死亡、または2017年の最終追跡日のいずれかの最も早い日まで観察を継続。欠損データが40%を超える症例を除外し、6万6,569人を解析対象とした。 中央値4年の追跡で133人にLLAが施行されていた。全ての交絡因子を調整後、高齢〔ハザード比(HR)1.08(95%信頼区間1.05~1.10)〕、男性〔HR1.57(同1.06~2.34)〕、離婚〔HR1.67(1.07~2.60)〕は、LLA施行と有意な正の関連が認められた。ベースライン時のLLAリスクに関与する病態の存在も、有意な正の関連が確認された。例えば、神経障害または血管障害がある場合はHR4.12(2.84~5.98)、創傷の既往はHR8.26(3.29~20.74)、進行性の重篤な下肢疾患はHR11.24(4.82~26.23)だった。また、食事療法のみで血糖管理されている群を基準として、インスリン治療が行われていた群はHR2.03(1.10~3.74)だった。 生活習慣関連因子の中では、喫煙〔HR1.99(1.28~3.09)〕や身体活動の頻度が週1回未満〔毎日の群を基準としてHR2.05(1.30~3.23)〕が、LLA施行と有意な正の関連のある因子だった。その一方で、肥満は負の関連因子だった〔普通体重を基準としてHR0.46(0.29~0.75)〕。HbA1cや高血圧は、LLA施行と有意な関連がなかった。 以上を基に著者らは、「生活習慣関連因子はLLA施行と強い関連があり、身体活動量の増加や低体重を回避すること、および禁煙などが、LLAリスク軽減のための効果的な介入となる可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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早期静脈栄養なしのICU患者、厳格な血糖コントロールは有用か?/NEJM

 集中治療室(ICU)に入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、非制限的で寛容な血糖コントロールと比較して厳格な血糖コントロールは、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさないことが、ベルギー・ルーベン・カトリック大学病院のJan Gunst氏らが実施した「TGC-Fast試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年9月28日号に掲載された。ベルギーの医師主導型の無作為化対照比較試験 TGC-Fast試験は、ベルギーの2つの大学病院と1つの地区病院の11のICUで実施された医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2018年9月~2022年8月に参加者のスクリーニングを行った(Research Foundation-Flandersなどの助成を受けた)。 早期静脈栄養を受けていないICU入室患者を、非制限的血糖コントロール群または厳格血糖コントロール群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。非制限的血糖コントロール群では、血糖値が215mg/dL(11.9mmol/L)を超えた場合にのみインスリンの投与を行い、厳格血糖コントロール群では、LOGICインスリンアルゴリズムを用い、目標血糖値を80~110mg/dL(4.4~6.1 mmol/L)に設定した。静脈栄養は両群とも、1週間実施しなかった。 主要アウトカムは、ICUでの治療を要した期間とし、ICUから生存退室するまでの期間に基づいて算出した。安全性アウトカムは90日死亡率であった。 9,230例を登録し、4,622例を非制限的血糖コントロール群(年齢中央値67歳[四分位範囲[IQR]:56~75]、男性62.8%)、4,608例を厳格血糖コントロール群(67歳[57~75]、63.6%)に割り付けた。ベースラインの血糖値中央値は、非制限的血糖コントロール群が143 mg/dL(IQR:120~170)、厳格血糖コントロール群は142mg/dL(121~168)であった。朝の血糖値が低く、1日インスリン用量が多い 非制限的血糖コントロール群に比べ厳格血糖コントロール群は、ICU入室中の朝の血糖値中央値が低く(140mg/dL[IQR:122~161]vs.107mg/dL[98~117]、群間差:-32mg/dL[95%信頼区間[CI]:-33~-32])、インスリンの用量中央値が高かった(0.0単位/日[IQR:0.0~5.6]vs.24.8単位/日[14.8~39.9]、群間差:21.0単位/日[95%CI:20.5~21.5])。 重症低血糖(<40mg/dL[<2.2mmol/L])の発生は、非制限的コントロール群のほうが少なかった(31例[0.7%]vs.47例[1.0%]、相対リスク:1.52[95%CI:0.97~2.39])。 ICUでの治療を要した期間(主要アウトカム)は、両群間に差を認めなかった(厳格血糖コントロールで生存退室が早くなるハザード比[HR]:1.00、95%CI:0.96~1.04、p=0.94)。また、90日死亡率にも差はなかった(非制限的血糖コントロール群468例[10.1%]vs.厳格血糖コントロール群486例[10.5%]、HR:1.04、95%CI:0.92~1.17、p=0.51)。 事前に規定された8項目の副次アウトカムの解析では、新規感染症の発生率、呼吸補助の時間、血行動態補助の時間、生存退院までの期間、ICU内死亡、院内死亡は、いずれも両群間に差はなかったのに対し、重症急性腎障害および胆汁うっ滞性肝機能障害は、厳格血糖コントロール群で少ないことが示唆された。 著者は、「本研究でICUに入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、先行研究で静脈栄養を受けた重症患者に比べ、低血糖の重症度が軽度であった。また、コンピュータアルゴリズムによって空腹時血糖値を正常範囲に低下させることで、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさずに、医原性低血糖を回避できた」としている。

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第31回 施設入所中の高齢者の失神、原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)失神では食事との関連を意識しよう!2)高齢者の失神では食後低血圧も疑い、再発を防止しよう!【症例】82歳男性。施設入所中。午前9時半頃に椅子に座った状態で反応が乏しく救急要請。救急隊到着時にはほぼ普段通りの状態へと改善していた。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧118/68mmHg脈拍72回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温36.3℃瞳孔3/3 +/+失神の原因失神の原因は大きく心血管性失神(心原性失神)、起立性低血圧、反射性失神の3つに大別されます。そのうち、心血管性失神、出血に伴う起立性低血圧は常に意識し、対応する必要があります。心血管性失神の代表的なものは“HEARTS”と覚えるのでしたね。この辺りは「第13回 頭部外傷 その原因は?」で取り上げているのでそちらを参考にしてください。今回は頻度の高い反射性失神を取り上げます。緊急度、重症度の高い心血管性失神を常に意識して失神患者を対応することは大切ですが、やはり頻度が高い原因をきちんと意識して、対応することも合わせて行わなければ的確な診療はできません。意外に多い食後低血圧反射性失神のうち最も頻度が高いのは排尿失神ですが、食事関連の失神をご存じでしょうか?正確な機序は明らかでない部分もありますが、食事を摂取することによって内臓血流の増加、インスリンや胃腸管ペプチドによる血管拡張に加え、交感神経の適切な代償が行われないことなどが影響していると考えられています1)。食後2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下するか、普段から100mmHg以上ある血圧が90mmHg未満となる場合に食後低血圧と定義されます。高齢者における食後低血圧の頻度は高く、たとえば、施設入所者の高齢者の3~4人に1人は食後低血圧を認めることが報告されています2,3)。しかし、食後低血圧は軽視されていることが多く、失神の原因として意識するようにしましょう4)。食後低血圧の診断食後低血圧は前述の通り食後の血圧の程度を診て判断するわけですが、実際にはどのように評価するのでしょうか?食前に1回、食後2時間内は15分毎に1回の計9回の測定をして評価することとなっていますが、これは大変ですよね5)。そのため、食前に1回、食後75分後に測定を行い、収縮期血圧が10mmHg以上低下するかをまずは確認するのがオススメです(感度82%、特異度91%)6)。まずは疑い、そして簡便な方法でチェックし、疑わしければ詳細な評価を行うとよいでしょう。高齢者、とくに糖尿病、パーキンソン病などの基礎疾患のある方、利尿薬など多数の薬剤を内服している方では頻度が高いため、そのような患者さんでは積極的に疑い評価しましょう。食後低血圧と外傷60歳以上(平均80歳)の高齢者において、食後の収縮期血圧が20mmHg以上低下する方では失神や転倒の頻度が有意に高くなります7)。食後にフッと気を失うだけであればよいですが、それによって外傷を伴い、大腿骨近位部骨折や頭部や頸部の外傷を伴ってしまっては大変です。そのようなことが起こらないために、食後の意識消失を軽視しないようにしましょう。さいごに失神の鑑別として食後低血圧も意識しておきましょう。起立性低血圧との合併も珍しくなく、原因を1つみつけて安心してはいけません。高齢者では常に食事との関連も気にかけてくださいね。1)Son JT, et al. J Clin Nurs. 2015;24:2277-2285.2)Aronow WS, et al. J Am Geriatr Soc. 1994;42:930-932.3)Vaitkevicius PV, et al. Ann Intern Med. 1991;115:865-870.4)Luciano GL, et al. Am J Med. 2010;123:281.5)Jansen RW, et al. Ann Intern Med. 1995;122:286-295.6)Abbas R, et al. J Frailty Aging. 2018;7:28-33.7)Puisieux F, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000;55:M535-540.

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Do not harm. 誰に処方すべきかよく考えてから。血友病におけるリバランス薬として初のローンチを控えるconcizumab(解説:長尾梓氏)

 血友病の治療の基本は長らく「不足した凝固因子を補充する」という原則にのっとって行われてきた。補充する薬剤は献血から遺伝子組み換え製剤に、半減期延長型から長半減期延長型へ都度進化はしてきたが、補充療法という原則は変わらなかった。5年前に初めて原則から外れる薬剤であるエミシズマブが発売されたが、それでもエミシズマブは第VIII因子を代替する薬剤であり、コンセプトは斬新なものの、専門医としては簡単に受け入れることができた。 今回データが発表されたconcizumabは、その原則とはまったく異なるコンセプトの薬剤である。俗に「リバランス薬」といわれるこの薬は、TFPIという体内で凝固を抑制する因子を抑制する抗体製剤である。凝固抑制因子を抑制することで、体内で出血傾向に傾いていたバランスを「リバランス」するというのが基本的な考え方である。リバランス薬は他にもantithrombinやProtein Cなどの凝固抑制因子を対象としてさまざまな製薬会社が開発に取り組んでいる。その中でもconcizumabは最も早期に発売が予定されている薬剤である。ちなみに、カナダではすでに発売されているが、血友病Bインヒビターのみが適応である。なぜ、血友病Bインヒビターだけが適応なのか?(日本とは承認条件が異なる可能性があるため、注意が必要です) 前述したエミシズマブはこれまで唯一の皮下注射剤であり、これまで頻回の静脈注射による治療で多くの苦労してきた血友病患者にとっては、ほぼ悲願であった。しかし、エミシズマブは血友病Aにしか使えない。血友病Bに使える皮下注射剤はこれまでなかった。加えて、エミシズマブはインヒビターの有無に関わらず使用できた。このため、これまで出血で非常に苦労してきた血友病Aインヒビター患者は完全に救われた。しかし、血友病Bインヒビター患者にはそのような夢の薬はなかった。 しかし、血友病Bでインヒビターのない患者には、超半減期延長型製剤といってもいい薬剤がすでに存在していた。最長3週間に1回の定期補充療法で出血抑制を抑制することが可能な状況で、出血回数も非常に良好にコントロールされることが臨床試験からも臨床上の経験からもわかっていた。つまり、血友病Bインヒビターの患者が取り残されていたのだ。 concizumabは血友病A/B、インヒビターの有無を問わず使用できる薬剤である。皮下注射薬であり、毎日の注射が必要なものの、発売元のNovo Nordiskは糖尿病のインスリン製剤での実績があり、非常に簡便なインジェクターを保有している。concizumabにもそれが使えるというわけである。 ただし、本論文に記載のあるとおりで、「進行中の臨床試験でconcizumabの投与を受けていた3例(本試験の1例を含む)に非致死的血栓塞栓イベントが発生したため、投与を中断し、用法を変更して再開した」経緯を持つ薬剤である。用法を変更して再開してからの事故は報告されていないものの、本来血栓を起こすリスクの低い血友病患者に、血栓を起こすことのないように。Do not harm.の原則を忘れずに、本当に必要な患者が誰なのか正確に特定し、適切に処方することが必要である。この記事がその検討に一助となれば幸いである。 血友病の治療はこれまで多くの進化を遂げてきたが、新たな薬剤が登場するたびに、治療法の選択やその使用方法についての認識を更新する必要がある。concizumabは、その新たな選択肢の1つとして、今後の治療の現場で大きな期待を持たれている。しかしながら、あらゆる治療には利点とリスクが存在する。患者の安全を最優先に、十分な情報と知識を持ったうえでの適切な判断が求められる。 医療従事者や関係者は、新たな治療法の導入や適用に関して、患者のニーズやリスクを総合的に評価し、最良の治療を提供するための研修や教育を受けることが重要である。また、患者自身やその家族にも、新しい治療法の利点やリスク、治療の手順や注意点などを十分に理解してもらうための教育や情報提供が必要である。

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乾癬の治療法を徹底解説!:日野皮フ科医院 院長 日野 亮介氏

このコンテンツでは、乾癬の治療法について解説していきます。日常診療のアップデートに、ぜひご活用ください。講師紹介多くの乾癬患者さんたちからは、「ずっと同じ薬ばっかりで良くならない」というお声を多く頂きます。乾癬の治療は塗り薬しかない、と思っておられる方も多いかもしれません。しかし、そうではありません。乾癬は治療に苦労する皮膚疾患でありますが、ここ10年ほどで大変多くの治療薬が出てきました。皮膚の症状は大半の方でコントロール可能になりました。今、患者さんの乾癬はどんな状態でしょうか?患者さんのライフスタイルに応じて、適切な治療方針を選ぶための参考にしていただけると幸いです。治療がうまくいかないとき、マンネリ化したときに、次の一手を考えるヒントになってくれると思っております。このページでは、乾癬について保険適用のある治療について解説しています。乾癬には尋常性乾癬、乾癬性関節炎(関節症性乾癬)、乾癬性紅皮症、汎発性膿疱性乾癬、滴状乾癬の5種類があります。薬によって適用が異なりますので、ご注意ください。1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬1-1.ステロイド外用薬ステロイド外用薬は皮膚疾患に幅広く使われていますが、もちろん乾癬にも有効です。今のところ、乾癬に一番多く使われているお薬です。多くの乾癬患者さんは、一度は塗ったことがあると思います。ステロイドは昔からある薬ですが、ここにも進歩があります。ステロイド外用薬の弱点は長期に使うと副作用が出てくる点なのですが、それを和らげるための手だてとしてシャンプーになっている薬が出ました。コムクロシャンプー(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)というもので、15分だけつける、という方法を用いて副作用を減らす工夫がなされています。また、シャンプーは薬を塗りにくい頭という場所の特性を生かした大変興味深い方法です。なお、ステロイドの飲み薬は乾癬には通常使用しません。長期的なステロイド外用薬の副作用を避けるためにも、ステロイド外用薬単体での長期的な治療は避ける必要があります。治療が長引いてきた場合は方法を見直しましょう。1-2.ビタミンD3外用薬乾癬患者さんの塗り薬で、一番大切なのはビタミンD3です。効果が出てくるまで時間がかかりますが、一度改善すると再発しにくいこと、長期間塗っても副作用が出にくいことが大切なポイントです。ただし、大量に塗ると血液中のカルシウムが増え過ぎて二日酔いのような症状(高カルシウム血症)が出る可能性がありますので、注意が必要です。皮膚の増殖を抑えるのが主な効き目ですが、IL-17という乾癬の皮膚症状に重要な役割を果たすタンパクを作りにくくすることにも役立ちます。1日2回塗ることが推奨されています。カルシポトリオール(商品名:ドボネックス):軟膏マキサカルシトール(商品名:オキサロール):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファハイ):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファ):軟膏、ローション、クリーム1-3.配合外用薬配合外用薬も、ここ10年の進歩の1つです。ステロイドとビタミンD3の2つを配合させた薬がデビューし、乾癬の治療に幅広く使われるようになりました。昔は、ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬を薬局で混ぜてもらって処方されることが多かったと思います。お薬の性質上、単純に混ぜるだけでは効果が落ちてしまいます。そのため、ステロイドとビタミンD3の両方を使いたい場合は、重ねて塗るか、両方とも特殊な製法で配合した塗り薬を使う必要があります。乾癬の塗り薬が効かない人は、まず混ぜた薬を使っていないか確認する必要があります。国内では、現在2種類の配合外用薬が使用可能です。カルシポトリオール水和物/ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(商品名:ドボベット):軟膏、ゲル、フォームゲル剤があるので頭皮の中に塗るのにも向いています。頭皮の中に塗る際は、意外にベタつくことに注意が必要です。また、フォーム剤もデビューしました。フォーム剤は塗りやすさから海外で多く使われているようです。上手に使わないと飛び散るので注意が必要です。マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(商品名:マーデュオックス):軟膏ページTOPへ2.経口薬2-1.アプレミラスト(商品名:オテズラ)PDE4(ホスホジエステラーゼ4)という酵素をブロックする薬です。頭痛、吐き気、下痢などの副作用が最初に出ることが多いので、お薬に体を慣らしていくためのスターターパックがあります。副作用は使っていくうちに慣れてくることが多いです。長期的に内服すると体重減少の副作用もあります。効果はゆっくり出てくるので、焦らず使用することが大切です。痒みや関節の痛みにも効果があります。注射薬のような劇的な効果ではないですが、症状が軽くなるので塗り薬を塗るのが面倒な方や小さなぶつぶつがたくさん出ている方には向いています。当院では小さなぶつぶつがたくさん出て塗りにくい方、頭のぶつぶつやかさぶたが治りにくい方、少し関節が痛い方、手足に分厚いかさぶたができて治りにくい方などに使っています。また、生物学的製剤の治療が終了した、もしくは何らかの理由で中断せざるを得なかった方にも使用できます。腎機能が低下している方は、半分の量で内服する必要があります。2-2.シクロスポリン(商品名:ネオーラル)乾癬が出てくるのに重要な働きをするT細胞の働きを抑える薬です。効果は比較的速やかで、量を多くすると生物学的製剤に近いくらいの効果を得ることもできます。ただし、血圧上昇などの副作用があることは注意が必要です。長期間内服すると、腎臓にダメージが起こります。海外のガイドラインでは1年程度の服用にとどめるように勧められています。これらの理由もあり、定期的な血液検査を必要としています。2-3.メトトレキサート(商品名:リウマトレックス)リウマチではよく使われている薬ではありますが、乾癬でも最近保険適用になりました。リウマトレックスだけがジェネリックも含め乾癬に保険適用となっています。日本皮膚科学会の生物学的製剤使用承認施設でのみ乾癬に使用できます。妊娠計画の少なくとも3ヵ月前から男性、女性とも内服を中断しなければなりません。腎機能障害のある方には使用できません。副作用対策として葉酸製剤を内服することがあります。2-4.エトレチナート(商品名:チガソン)エトレチナートはビタミンA誘導体であり、免疫を落とさないことにより光線療法との併用が可能です。表皮細胞の異常増殖を抑えてくれることで効果を発揮します。唇が荒れる、手足の皮がむける、皮膚が薄くなるなどの副作用があります。催奇形性といって、お腹の赤ちゃんに奇形を起こす副作用が報告されています。そのため女性は服用中止後2年間、男性は半年間避妊することが必要になります。2-5.ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)乾癬性関節炎(関節症性乾癬)に適応があります。JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬という新しいメカニズムの治療薬です。もともと関節リウマチの治療薬として使用されていました。皮膚にも効果があります。15mg錠を1日1回内服します。帯状疱疹のリスクが高まることが知られていますので、この治療薬を検討されている方には事前に帯状疱疹ワクチンの接種を強くお勧めしています。深部静脈血栓症、肺塞栓症といった血栓のリスクが高まります。そのための注意が必要になります。また、生物学的製剤と同様に事前に結核の検査をする必要があります。2-6.デュークラバシチニブ(商品名:ソーティクツ)2022年11月デビューの内服薬です。既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。比較的副作用の少ない薬ですが、TYK2という分子をブロックするJAK阻害薬というジャンルに入っているため、日本皮膚科学会の分子標的薬使用承認施設のみで投与可能となっています。成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。ページTOPへ3.光線療法治療の位置付けとしては、寛解導入、すなわち週2~3回程度の細かい間隔で照射し、ぶつぶつをできるだけ消失させるのを最初の目的としています。効果が出て皮膚症状が寛解したら間隔をのばしていく、ないしは中止します。ナローバンドUVBは発がん性が上昇するリスクは今のところ報告されていません。しかし、紫外線であるため、ダラダラと継続して無駄な照射をしないように気を付けることも大切です。ページTOPへ4.顆粒球吸着除去療法アダカラムという特殊な体外循環装置を使い、白血球の一部である、活性化した顆粒球を取り除く方法です。膿疱性乾癬に保険適用があります。薬剤の投与をしないため、妊娠中でも実施できます。ページTOPへ5.生物学的製剤乾癬の治療は、2010年に生物学的製剤が使えるようになってから劇的に変化しました。今までの治療で効果がなかった患者さんも、この薬の投与を開始してから皮膚や関節の症状と無縁の生活を送れるようになってきました。このように非常によく効く薬なのですが、大変高額です。そのため、高額療養費制度の理解や活用も大切になってきます。どんどん薬剤の開発が進み、10年で10種類以上のお薬が乾癬に対して使えるようになってきました。生物学的製剤が使えない方、注意が必要な方活動性の結核を含む重い感染症がある方は使用できませんので、事前にしっかりと検査を行い、必要な対処を行ってから投与する必要があります。また、悪性腫瘍のある方は投与禁忌ではありませんが、投与に当たっては(がん治療の)主治医としっかり相談・確認して慎重に進めなければなりません。現在、乾癬に使える生物学的製剤だけで、こんなにたくさんの種類があります(2023年9月現在)。画像を拡大する(各薬剤の電子添付文書を基にケアネット作成)5-1.TNF-α阻害薬TNF-αというタンパクをブロックする薬です。TNF-αは体のあちこちで作られ、乾癬を悪化させていきます。内臓脂肪からも作られます。メタボ気味の人は内臓脂肪からのTNF-αが増えてきます。すると、インスリン抵抗性といって血糖が上がりやすい状態になってしまうこともあります。これをブロックすることで、全身のさまざまな炎症を抑えてくれることも期待されています。また、関節炎にも効果が高いです。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)の症状が進行すると骨びらんという骨へのダメージが来るのですが、TNF-α阻害薬は骨破壊を抑え、回復させてくれる効果が期待できます。インフリキシマブ(商品名:レミケード)唯一、これだけが点滴で投与する薬です。効果不十分時に増量ないし投与期間を短縮することが可能です。アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)2週間に1回皮下注射する薬です。効果不十分時に増量することが可能です。シリンジだけでなく、ペン型の注射器具があるため自己注射が簡単に行えます。セルトリズマブ ペゴル(商品名:シムジア)この薬剤は製法が特殊であり、胎盤をお薬が通過しにくいことがわかっています。そのため唯一、妊娠中でも使える生物学的製剤です。TNF-α阻害薬が使えない人うっ血性心不全のある方多発性硬化症などの脱髄性疾患をお持ちの方TNF-α阻害薬はどんな人に向いている?乾癬性関節炎(関節症性乾癬)で、とくに関節の症状が強い人メタボ気味の人炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の既往がある人体重が重い人インフリキシマブは体重1kg当たり5mgの量を投与します。体重がかなり重い方は十分な薬剤量を行きわたらせるためにインフリキシマブを選択することがあります。5-2.IL-23阻害薬IL-12/23 p40阻害薬のウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)が最初に出ました。IL-23はp40とp19というタンパクが合体しているものです。p40はIL-12という別のタンパクにも含まれている構造のため、IL-12/23 p40阻害薬は乾癬に関係のない細胞の働きも弱めてしまいます。そこで、ウステキヌマブ以降に出た次世代型のIL-23阻害薬は、p19をブロックすることでよりピンポイントな効き目を実現させています。すべての薬剤にある特長は、効果が持続しやすい、投与間隔が長いという点、副作用が少ないことです。ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)2011年から使用されている薬剤です。効果不十分な場合に増量できるのが特徴です。グセルクマブ(商品名:トレムフィア)掌蹠膿疱症にも適応があります。維持投与期は8週間に1回の投与を行います。リサンキズマブ(商品名:スキリージ)維持投与期は12週間に1回という長さが魅力です。チルドラキズマブ(商品名:イルミア)尋常性乾癬のみに適応があります。この薬剤も維持投与期は12週間に1回です。IL-23阻害薬はどんな人に向いている?治りにくい尋常性乾癬の方仕事が忙しくて通院が大変な方自分で注射を打つのが怖い方5-3.IL-17阻害薬IL-17とは乾癬を発症させるのに大変重要な役割を果たすタンパクです。IL-17にはIL-17AからFまでの6つのサブファミリーがあります。とくにIL-17ファミリーの中で乾癬の成り立ちに重要な役割を果たすタンパクが、IL-17AとIL-17Fです。治療効果が早く出ること、そして4種類の薬剤それぞれ非常に高い効果が得られることが特長です。セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブは維持投与期に自己注射をすることが可能です。セクキヌマブ(商品名:コセンティクス)最初の1ヵ月に毎週注射をすることで効果を早く出せることが特長です。完全ヒト型抗体であり、中和抗体が出にくいのが特徴です。成人には300mgを投与しますが、状況により減量が可能です。生物学的製剤の中で唯一小児にも適応があります。通常、6歳以上の小児にはセクキヌマブ(遺伝子組換え)として、体重50kg未満の患者には1回75mgを、体重50kg以上の患者には1回150mgを皮下投与します。なお、体重50kg以上の患者では、状態に応じて1回300mgを投与することができます。イキセキズマブ(商品名:トルツ)IL-17Aを阻害します。薬剤の特長として高い治療効果が早期から出てくることが多いです。効果がいまひとつだったり、安定しなかったりするとき、つまり使用開始後12週時点で効果不十分な場合には、投与期間を短縮することが可能です。乾癬の皮膚や関節症状が強い方、安定しない方に向いています。ブロダルマブ(商品名:ルミセフ)この薬剤は、乾癬の治療薬ではIL-17の受容体であるIL-17RAをブロックする薬です。そのため、IL-17A、IL-17A/F、IL-17C、IL-17E、IL-17Fが受容体に結合するのをブロックすることができます。皮膚症状に対しては、かなり有効性が期待できる薬剤です。ビメキズマブ(商品名:ビンゼレックス)IL-17A、IL-17Fをブロックできる薬剤です。尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)には適応がありません。今までの治療でうまくいかなかった人でも鋭い効果を出すことが期待されています。IL-17阻害薬が使えない方炎症性腸疾患のある方IL-17は腸管のバリア機能を保つために重要な役割を果たします。炎症性腸疾患のある方は、IL-17をブロックすることで悪化する可能性があります。真菌感染症のある方IL-17は真菌(カビ)の防御に大切な働きをします。そのため、これらの感染症がある方は、IL-17をブロックすることで悪化させてしまう可能性があります。IL-17阻害薬はどんな人に向いている?皮膚の症状がかなり重度な方自分で注射を打てる方素早い効果を期待している方5-4.IL-36受容体阻害薬スペソリマブ(商品名:スペビゴ)抗IL-36受容体抗体であるスペソリマブが主成分です。膿疱性乾癬における急性症状の改善、という適応で保険収載されました。投与開始1週後に有意な膿疱の減少、12週後には84.4%の患者で膿疱が消失という劇的な効果を呈することが知られています。ページTOPへまとめ乾癬の治療薬、治療法はたくさんあることがおわかりいただけたと思います。乾癬の治療に絶対の正解はありませんが、いろいろな治し方を知り、治療方針を決めていく参考になればと思っております。乾癬の治療薬は、まだたくさん開発されています。内服薬(RORγtインバースアゴニスト)、外用薬(アリル炭化水素受容体モジュレーター)などが治験中です。今後も多くの治療選択肢ができることで、乾癬患者さんたちの未来は明るくなっていくのではと期待しています。1)森田明理ほか. 乾癬の光線療法ガイドライン. 日皮会誌. 2016;126:1239-1262.2)佐伯秀久ほか. 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版). 日皮会誌. 2022;132:2271-2296.3)各薬剤の電子添付文書

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第180回 エビやキノコなどの食物繊維キチンは肥満を生じ難くする/GLP-1薬セマグルチドが1型糖尿病にも有効らしい

エビやキノコなどの食物繊維キチンは肥満を生じ難くする食物繊維の摂取は代謝を好調にし、肥満などの代謝疾患が生じ難くなることと関連します。とはいうものの食物繊維の代謝への恩恵をわれわれの体が引き出す仕組みはあまりわかっていません。不溶性の多糖繊維のほとんどは哺乳類の酵素で消化されず、腸の微生物による分解もごく限られています。しかしエビやカニなどの甲殻類、昆虫、真菌(キノコ)などの外骨格や細胞壁の主成分であるキチンは例外的で、ほかの食物繊維と一線を画します。マウスやヒトはキチンを作れませんが、キトトリオシダーゼ(Chit1)と酸性哺乳類キチナーゼ(AMCase)と呼ばれるキチン分解酵素2つを作ることができます。摂取したキチンがその消化を促す胃でのAMCase発現亢進を導くまでの免疫反応絡みの回路が新たな研究で同定され、AMCase欠如マウスにキチンを与え続けると高脂肪食にもかかわらずあまり太らずに済むことが示されました1)。キチンとともに高脂肪食が与えられたAMCase欠如マウスは、キチンを与えなかったマウスやキチンを与えたけれどもそれを分解できるマウスに比べて体重増加や脂肪量が少なくて済み、肥満になりにくいという結果が得られています。今後の課題として研究チームはヒトではどうかを検討する予定です2)。食事にキチンを含めることで肥満を予防できるかどうかを調べることを目標としています。また、胃のキチン分解酵素の阻害とキチン補給を組み合わせることでAMCase欠如マウスのキチン摂取と同様の最大の効果を引き出せそうと研究チームは考えています。チームのリーダーSteven Van Dyken氏によると胃のキチン分解酵素を阻害する手段はいくつか存在するとのことです。GLP-1薬セマグルチドが1型糖尿病にも有効らしい肥満治療といえば2型糖尿病(T2D)治療薬として出発したノボ ノルディスク ファーマのGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)セマグルチドが大人気ですが、同剤がT2Dのみならず1型糖尿病(T1D)にも有効らしいことを示す米国・バッファロー大学のチームによる症例解析がNEJM誌に先週掲載されました3)。T1Dになったばかりの患者のほとんどはまっとうなβ細胞を有しています。そういう初期段階であればインスリン分泌を促すセマグルチドが効くかもしれず、バッファロー大学の研究者はT1D診断後3ヵ月後以内に同剤投与が始まった患者10例の1年間の経過を調べました。10例とも食事の際のインスリンと基礎インスリンを使っていましたが、セマグルチド開始から3ヵ月以内に全員が食事時のインスリンを使わずに済むようになりました。また、10例中7例は6ヵ月以内に基礎インスリンも不要となってその後もそうして過ごせました。血糖値も落ち着き、もとは12%ほどもあった糖化ヘモグロビン値はセマグルチド使用開始後半年時点では5.9%、1年時点では5.7%に落ち着きました。セマグルチドの用量を増やしている期間に軽い低血糖が生じましたが、投与量が一定になって以降の発生は認められませんでした。T1D診断後すぐからのセマグルチド投与をより大人数の無作為化試験で検討する価値があると著者は言っています。T1Dへの有効性が示唆されたことが示すようにセマグルチドなどのGLP-1薬は代謝疾患の領域で手広い用途がありそうです。もっと言うと、その域を超えて依存症分野でも活躍できる可能性を秘めています。そういう可能性の臨床検討はすでに始まっており、たとえばセマグルチドと飲酒や喫煙量の変化の関連がノースカロライナ大学主催の試験で調べられています4,5)。参考1)Kim DH, et al. Science. 2023;381:1092-1098.2)Fiber from crustaceans, insects, mushrooms promotes digestion / Eurekalert3)Dandona P, et al. N Engl J Med. 2023;389:958-959.4)ClinicalTrials.gov(NCT05520775)5)ClinicalTrials.gov(NCT05530577)

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アロマターゼ欠損症〔AD:Aromatase Deficiency〕

1 疾患概要■ 定義エストロゲン合成酵素(アロマターゼ)の活性欠損・低下により、エストロゲン欠乏とアンドロゲン過剰とによる症状を呈する遺伝性疾患である。染色体核型が女性型の場合は、性分化疾患(46,XX DSD)に分類される。生理的にエストロゲン合成が亢進する妊娠中と思春期~性成熟期に症状が顕性化する。女性患者と男性患者とで表現型が異なる。■ 疫学10万人に1人以下のまれな疾患である。これまでに30家系50人を超える患者が報告されている。当初はヨーロッパとヨーロッパからアメリカ大陸への移民者の報告が多かったが、最近ではアジア(中国やインド)からの報告も増えている。わが国からの報告はこれまでのところ1例のみである。■ 病因アロマターゼは、アンドロゲンを基質としてエストロゲンを産生する酵素である。アロマターゼ活性欠損により、エストロゲンが産生されずアンドロゲンが蓄積する。その結果、女性でエストロゲンの欠乏と男性ホルモンの過剰による症状が生じる。これに対し、男性ではエストロゲン欠乏による症状のみが生じる。■ 症状1)胎児ヒト胎児副腎は大量の副腎性アンドロゲン(dehydroepiandrosterone)を産生し、これが胎盤(胎児に由来する)のアロマターゼによりエストロゲンに転換される。胎児がアロマターゼ欠損症の場合には、アンドロゲンが蓄積して母体と胎児に男性化が生じる。胎児が女性の場合は、外性器が男性化する。母体では、妊娠中に男性化症状が増悪し、分娩後に軽快する。残存するアロマターゼ活性が1%を越えると、母体に男性化はみられないとされる。2)女性エストロゲンによって生じる二次性徴(初経や乳腺発育・女性型の皮下脂肪など)は欠如する。しかし、活性低下が軽い変異を有する症例では、初経発来や規則月経を呈することがある。エストロゲン補充が行われていない女性では、リモデリングの亢進を示す骨粗鬆症が認められる。女児では、外性器の男性化(Prader 分類II~IV/IV)が全例に認められる。ゴナドトロピンが上昇する前思春期頃から、卵巣に多房性嚢胞(一部は出血性)をみることがある。活性低下の強い症例(truncated type)では索状性腺をみることがある。3)男性男性患者では、出生時に症状はない。思春期に生理的な身長急伸を欠如するとともに、その後の伸長停止(骨端閉鎖)も欠如するのが特徴である。本来伸長が停止する16歳頃を過ぎても身長が伸び続け、高身長(時に2mを超える)・骨粗鬆症となって20歳台後半で診断される例が多い。しばしば、外反膝・類宦官症体型が認められる。肥満、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性、脂質異常症などの代謝異常を示すことも少なくない。また、巨精巣症・小精巣の報告もある。精子数減少を示唆する報告もあるが妊孕性の喪失はない。■ 分類初期の報告例は、アロマターゼ活性低下が高度でエストロゲンがほぼ欠損し、二次性徴を完全に欠如する症例(古典型)であった。その後、エストロゲン欠乏が軽度で、乳腺発育や月経発来といった二次性徴が部分的にみられる症例(非古典型)が報告された。遺伝子変異をtruncated variantsとnon-truncated variantとに分けて検討し、前者ではエストロゲン欠乏に関連する症状(原発性無月経や索状性腺)が強く、後者では症状が軽いとする報告もある。■ 予後本症の長期予後については不明であるが、これまでの情報を総合すると生命予後に直接影響を与えないと思われる。その一方で、エストロゲン低下に伴って生じる骨粗鬆症や脂質異常症などの代謝異常に対して、適切な管理を行い予防する必要がある。アロマターゼ活性低下の強い症例では、女性の妊孕能は低下する。活性低下の軽い症例の女性の妊孕性については不明である。男性患者では妊孕性の低下はみられない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床症状1)女性女性患者では、本症と診断されないまま無月経に対してエストロゲン投与が継続されていることがあり、その場合、臨床症状から本症を想定することは困難である。患児が本症に罹患している場合、妊娠中に母体の進行性男性化(活性低下の軽い例では欠如)と胎児外陰の男性化(全例にみられる)が診断の手掛かりになる。妊娠母体の男性化は、P450酸化還元酵素欠損症や妊娠黄体腫(母体卵巣)にもみられ鑑別が必要である。P450酸化還元酵素欠損症では、アロマターゼのほか複数のステロイド産生酵素の活性も低下し、性ステロイド以外のホルモンによる症状が出現する。2)男性妊娠母体の男性化症状とエストロゲン低値から胎児の罹患が疑われて、出生後早期に診断された男性患者も報告されているが、実際に出生時に診断される例は少ない。弟妹の女性発端者が手がかりとなって診断されることもある。思春期以降に身長の伸びが止まらず、高身長となって成人期に初めて診断されることが多い。思春期の身長急伸の欠如、成人期の骨端線閉鎖の欠如、高身長、骨粗鬆症が、本症を推定する手がかりとなる。肥満、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性、脂質異常症などの代謝異常の合併も診断の参考となる。■ ホルモン検査1)女性ゴナドトロピン値(FSH、LH)は成人に至るまで一貫して高値を示す。とくにFSH優位の高値を示すのが特徴である。一般に、出生後数週~6ヵ月頃にかけて、視床下部下垂体性腺系は生理的活性化(mini-puberty)を示し、ゴナドトロピンは一過性に上昇する。その後、視床下部下垂体性腺系は強く抑制される時期に入り、ゴナドトロピンは低値となる。前思春期に入ると抑制が徐々に解除され、ゴナドトロピンは上昇に転ずる。アロマターゼ欠損症のゴナドトロピンも同様の二相性変動を示すが、常に同年齢対照より高値を示す。アンドロゲン値も同年齢対照者より高く、同様の二相性の変動を示す。血中エストラジオールは一貫して同年齢対照より低値を示すが、基準域に近い値を示す症例もみられる。測定感度の問題もあり、エストラジオール単独での診断は難しい。FSH値の上昇は、エストロゲン欠乏や表現型の強さを反映し治療効果の指標になる可能性がある。2)男性FSHが高値を示す例は男性では60%で女性よりFSHの診断意義は低い。E2が測定感度以下となるのは男性患者の80%であり、除外診断には注意を要する。LHが高値を示す例は20%、Tが高値となるのは30%と少なく、除外診断には使いにくい。■ 遺伝子型本症の確定診断には、15q21.2にあるCYP19A1に活性喪失変異(loss-of-function mutation)を同定する。これまでに、1塩基置換によるミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライシング異常の他、1〜数塩基の欠失や挿入などさまざまな変異が報告されている。ヘテロは無症状で、ホモまたは複合ヘテロで症状が認められ、常染色体潜性(劣性)遺伝を示す。変異は酵素活性に関連するエクソン9に比較的多く認められるが、エクソン2を除きすべてのエクソンにほぼ均等に認められる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本的な治療法はない。欠乏するエストロゲンによる諸症状・疾病の発生を予防するために長期のエストロゲン補充が行われる。■ 46,XX DSDほとんどが女性として育てられている。性自認は女性である。外陰形成術が施行される。性腺摘除が併施されることもある。二次性徴や骨量の獲得と維持を目的にエストロゲン(子宮を有する性成熟期女性ではプロゲスチンを併用)投与を行う。エストロゲン投与により、血清ゴナドトロピン値が正常化し、卵巣嚢胞は消失する。骨量も増加する。■ 46,XY最終身長の適正化と骨量増加・骨粗鬆症の予防を目的にエストロゲン投与を行う。思春期前からの治療では、少量のエストロゲン投与から開始し、漸増させて生理的時期での骨端閉鎖を促す。骨端閉鎖後は、経皮的にエストラジオール25μg/日を生涯にわたって投与する。思春期症例にエストロゲンを投与すると、身長の急伸、骨端閉鎖、骨量の増加といった生理的骨成長と同様の変化が認められる。成人では維持量の投与により、ゴナドトロピン値の正常化、脂質異常の改善、インスリン抵抗性の改善なども期待できる。4 今後の展望本症の発見は、骨におけるエストロゲンの生理的役割などの解明に大きく貢献した。エストロゲン補充により、症状の多くは軽減されるが、女性患者の妊孕性については回復が認められていない。本症の患者数は少なく、系統的な研究が困難である。5 主たる診療科内科、小児科、婦人科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター アンドロゲン過剰症(ゴナドトロピン依存性思春期早発症及びゴナドトロピン非依存性思春期早発症を除く)アロマターゼ欠損症は、小児慢性特定疾病対策事業においてアンドロゲン過剰症(ゴナドトロピン依存性思春期早発症およびゴナドトロピン非依存性思春期早発症を除く)の原因疾患の1つに包含されている。(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Shozu M, et al. J Clin Endocrinol Metab. 1991;72:560-566.2)Singhania P, et al. Bone Reports. 2022;17:101642.3)Stumper NA, et al. Clin Exp Rheumatol. 2023;41:1434-1442.4)Rochira V,et al. Nature Reviews Endocrinology 2009;5:559-568.公開履歴初回2023年8月29日

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鼻腔内インスリン投与で認知機能改善?

 鼻腔内へのインスリン投与が、アルツハイマー病(AD)や軽度認知障害(MCI)患者の認知機能に対して保護的に働くことが、メタ解析の結果として示された。一方、認知機能低下の見られない対象では、有意な影響は認められないという。トロント大学(カナダ)のSally Wu氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に6月28日掲載された。 鼻腔内へのインスリン投与(intranasal Insulin;INI)は、末梢でのインスリン作用発現に伴う副作用リスクを抑制しつつ、脳内のインスリンシグナル伝達を改善し、認知機能に対して保護的に働くと考えられている。これまでに、INIによる認知機能への影響を調べた研究結果が複数報告されてきている。ただしそれらの結果に一貫性が見られない。Wu氏らは、このトピックに関するシステマティックレビューとメタ解析により、この点を検討した。 MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、およびCochrane CENTRALに2000年から2021年7月までに収載された論文を対象として、認知機能に対するINIの影響を研究した無作為化比較試験の報告を検索。2,654件の報告がヒットし、重複削除、タイトルと要約に基づくスクリーニングにより52件に絞り込み、これを全文精査の対象とした。最終的に32件が包括基準を満たした。 それら32件の研究は2004~2021年に発表されており、介入対象として研究ごとに、ADやMCIのほか、健康成人、大うつ病性障害、双極性障害、統合失調症、肥満、2型糖尿病などが設定されていた。INIの投与量は中央値40IU(範囲40~160)であり、研究参加者の平均年齢は53.4歳だった。10件の研究は単回投与による急性効果を検討し、他の研究は慢性効果を検討していた。慢性効果を検討していた研究の介入期間は中央値8週(範囲1~52)だった。 ADやMCIの患者を対象とした研究を統合した解析からは、INI介入による認知機能への有意な保護的作用が確認された〔標準化平均差(SMD)=0.22(95%信頼区間0.05~0.38)〕。一方、その他の集団を対象とした研究の解析からは、INI介入による認知機能への有意な影響は確認されなかった。例えば健康な集団ではSMD=0.02(同-0.05~0.09)、メンタルヘルス疾患患者ではSMD=0.07(-0.09~0.24)、代謝性疾患患者ではSMD=0.18(-0.11~0.48)であり、いずれも非有意だった。 著者らは、「このシステマティックレビューとメタ解析の結果は、認知機能が低下している対象ではINIによる介入が有効である可能性を示唆している。INIはまだ新しい研究分野であるため、対象者の生活全体の質を向上させるという最終的な目標に向けて、今後の研究ではさまざまな背景を持つ患者集団での有用性を探り、治療反応の不均一性を理解する必要がある」と述べている。 なお、数人の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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水断食、減量効果はあるが…

 一定期間、水のみを摂取するダイエット法である水断食は、減量という点では効果的なようだ。しかし、水断食により減った体重をどの程度維持できるかは不明である上に、血圧低下やコレステロール値の改善といった代謝に関わる効果は水断食を終えるとともに消失する可能性が、新たな研究で示唆された。米イリノイ大学シカゴ校のKrista Varady氏らによるこの研究結果は、「Nutrition Reviews」に6月27日掲載された。 水断食は、通常は5〜20日間、時にはそれ以上の期間、水だけを摂取するダイエット法だが、専門家の監督下で、朝食に少量のジュース、昼食にごく少量のスープなど、1日に250kcalまで摂取する水断食も行われている。Varady氏らは今回、8件の研究を対象にしたナラティブレビューを実施し、水断食が、体重、血圧、血中の脂質値、血糖コントロールなどに与える影響についての評価を行った。 その結果、水断食により短期間で体重が減る可能性のあることが明らかになった。具体的には、水断食を5日間行った人では体重が4〜6%、10日間行った人では2〜10%、15〜20日間行った人では7〜10%減っていた。ただし、減量した分のおよそ3分の2は除脂肪量であり、体脂肪量は3分の1程度を占めたに過ぎなかった。Varady氏らは、「除脂肪量の減少は、絶食後の安静時代謝率の低下につながり、それが将来の体重再増加のリスクとなり得るため、この結果は懸念すべきものだ」と述べている。 減量後にその体重が維持されているかどうかを追跡した研究は数件だけで、そのうちの1件の研究では、水断食終了から3カ月以内に参加者の体重が元に戻っていた。別の2件の研究では、体重の戻りはわずかであったが、参加者は水断食終了後も食事のカロリー制限をするよう促されていた。 一方、血圧は、水断食の期間の長さに応じて持続的に低下していた。血液中の脂質値に与える効果については明確ではなかったが、いくつかの研究では、悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロール値とトリグリセライド(中性脂肪)値の低下を報告していた。しかし、その他の研究では、水断食によるベネフィットは報告されていなかった。血糖コントロールについては、血糖値が正常な人では、空腹時血糖値、空腹時インスリン値、インスリン抵抗性、HbA1c値の低下が認められたが、1型および2型糖尿病患者ではこれらの値に変化が認められなかった。しかし、このような代謝上の利点は、水断食を終えるとともに消失した。この結果は、水断食終了後も体重を維持している人でも同様だった。 安全性に関しては、最もよく生じた副作用は、空腹感、頭痛、不眠、代謝性アシドーシスであり、水断食は比較的安全なものと判断された。 これらの結果を踏まえてVarady氏は、「私なら水断食を人に勧めたりはしない。水断食がこの1年ほどの間で突如として人気のダイエット法になったことは知っている。しかし、たとえ水断食で落とした体重を維持できたとしても、健康上のメリットは全て失われてしまう」と話す。 一方、米ボストン医療センターの肥満医学部門の長であるIvania Rizo氏は、水断食を長期にわたって行うと、ビタミンやミネラルが欠乏した状態になることが予想されるとして、懸念を示している。 Varady氏とRizo氏は、「水断食は、端的に言うと、持続可能なダイエット法ではない」と断言する。Rizo氏は、「水断食のような短期的で持続不可能な介入が、慢性疾患である肥満に特定の影響を与えるとは思えない」と述べる。そして、「水断食をするよりは、空腹感を減らし、食事以外のことを考えられるようにするオゼンピックのような新しい減量薬に目を向けた方が良い」と話している。

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