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第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?Q1 肥満症を合併した高齢者糖尿病ではどのような食事・運動療法を行うべきですか?食事・運動療法を行うにはまず、膝関節疾患や心血管疾患の有無をチェックし、認知機能、身体機能(ADL、サルコペニア、フレイル・転倒)、心理状態、栄養、薬剤、社会・経済状況、骨密度などを総合的に評価します。80歳以上の肥満症では治療によって血管障害や死亡のリスクを減らせるというエビデンスに乏しくなります。しかしながら、減量によって疼痛が軽減され、QOLが改善されるということも報告されていますので、膝関節痛などがある場合は減量を勧めてもいいと思います。肥満症を合併した糖尿病患者ではレジスタンス運動を含めた運動療法と食事療法を併用することが大切です。肥満症の高齢者に食事療法と運動療法の両者を併用し、減量を行うと、食事療法単独または運動療法単独と比べて、身体機能とQOLが改善します。有酸素運動とレジスタンス運動の両者を併用した方がそれぞれ単独の運動よりも歩行速度などの身体能力の改善効果が認められます。レジスタンス運動は肥満症の人は一人で行うことが困難な場合が多いので、介護保険のデイケア、市町村の運動教室などを利用し、監視下で運動することがいいと思います。また、体重による負荷を軽減する運動としてはプール歩行やエアロバイクなどを勧める場合もあります。また、高齢者の肥満では運動療法を行わず、食事療法のみで減量すると骨格筋量や骨密度が減少するリスクがあります。一方、適切なエネルギー量を設定し、運動療法を併用することにより筋肉量、身体機能、および骨密度を低下させることなく減量が可能であるとされています。Look AHEAD研究では高齢糖尿病患者を対象に運動を中心とした生活習慣改善と体重減少を行った介入群では、対照群と比べて、歩行速度が速く、SPPBスコアで評価した身体能力が有意に高いという結果が得られています。介入群は歩行速度低下のリスクが16%減少しました1)。とくに、65歳以上の高齢糖尿病患者でSPPBスコアの改善効果がみられました。食事のエネルギー摂取量に関しては、肥満があるとエネルギー制限を行うことになりますが、過度の制限によるサルコペニア・フレイル・低栄養の悪化に注意する必要があります。肥満高齢者にレジスタンス運動にエネルギー制限を併用した群では運動のみの群に比し体重減少とともに除脂肪量の減少がみられたが、歩行能力や要介護状態は改善し、筋肉内脂肪の減少を認めたという報告があります2)。この結果は減量によって筋肉内の脂肪をとることが筋肉の質を改善することにつながることを示唆しています。「糖尿病診療ガイドライン2019」においては、高齢者では[身長(m)]2×22~25で得られた目標体重に身体活動の係数をかけて総エネルギー量を計算します。J-EDIT研究では目標体重当りのエネルギー量が約25kcal/kg体重以下と35kcal/kg体重以上の群で死亡リスクの上昇がみられ、過度のエネルギー摂取もよくないことが示唆されています3)。高齢者でも肥満があり、減量が必要な場合には目標体重は[身長(m)]2に低めの係数(22~23)をかけて目標体重を求め、目標体重当たり25~30 kcalの範囲でエネルギー量を設定することが望ましいと考えています。一般のサルコペニア・フレイルに対してはタンパク質の十分な摂取(1.0~1.5㎏/㎏体重)が推奨されています。肥満やサルコペニア肥満がある場合のタンパク質摂取に関しては、まだ十分なエビデンスがありませんが、タンパク質は十分に摂取した方がいいという報告があります。膝OAがある高齢糖尿病女性の縦断研究でも、タンパク質の摂取が1.0g/㎏体重以上を摂取した群の方が膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られました(図1)4)。サルコペニア肥満がある高齢女性を低カロリーかつ正常タンパク質(0.8g/㎏体重)摂取群と低カロリーかつ高タンパク質(1.2g/㎏体重)摂取群に割り付けて3ヵ月間治療した結果、骨格筋量の指標は正常タンパク質群では減少したのに対し、高タンパク質摂取群では有意に増加していました5)。したがって、肥満症のある高齢糖尿病患者では、少なくとも1.0g/㎏のタンパク質をとることが望ましいと思われます。画像を拡大するQ2 肥満症を合併した高齢糖尿病、薬物療法は何に注意が必要ですか?個々の病態に合わせて薬物選択を行いますが、肥満があるので、インスリン抵抗性を改善する薬剤を主体に治療します。体重減少を目的にする場合にはメトホルミン(高用量)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用されます。メトホルミンはeGFR 30ml/min/1.73m2以上を確認して使用し、eGFR 60ml/min/1.73m2以上を確認できれば少なくとも1,500㎎/日以上の高用量で使用します。SGLT2阻害薬は、心血管疾患合併例で、血糖コントロール目標設定のためのカテゴリーI(認知機能正常でADL自立)で積極的に使用し、カテゴリーIIでは運動や飲水ができる場合に使用するのがいいと考えています。GLP-1受容体作動薬は消化器症状に注意して使用します。いずれの薬剤を使用する場合もレジスタンス運動を含む運動を併用し、サルコペニア肥満やフレイルを予防することが大切です。1)Houston DK, et al . J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73:1552-1559.2)Nicklas BJ, et al. Am J Clin Nutr. 2015;101:991-999.3)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20:59-65.4)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739. 5)Muscariello E, et al. Clin Interv Aging. 2016;11:133-140.

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第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響はQ1 高齢者の肥満、若年者とはちがう特徴とは?最近、高齢糖尿病患者でも肥満症が増えています。我が国の65歳以上の高齢糖尿病患者でBMI 25㎏/m2以上の頻度は2000年から2012年で28.4%から33.0%に増加したという報告もあります1)。こうした高齢者の肥満症の増加は1)加齢に伴う身体活動量の低下2)基礎代謝量の低下3)高齢者の食習慣の欧米化などが関係しているのでないかと思われます。高齢者の肥満症にはいくつかの特徴があります。加齢とともに内臓脂肪は増加し、除脂肪量(骨格筋量)が低下するという体組成の変化が起こり、BMI高値を伴わない腹部肥満、いわゆる隠れ肥満やメタボリックシンドロームが増加します。また、高齢者のBMIは体脂肪量を正確に反映しないことがあります。身長が低下することで、BMIは見かけ上増加することもあります。したがって、高齢者の肥満症の評価にはBMIだけでなく、ウエスト周囲長も測ることが大切です。ウエスト周囲長やウエスト・ヒップ比の高値の方がBMIよりも死亡のリスクの指標となることも知られています。また、高齢期の肥満症では死亡や心血管疾患のリスクが逆に減少するというobesity paradoxがみられる場合があります。これは、BMI低値の方が悪性疾患、サルコペニア、慢性感染症などの併存疾患によるリスクが増加することで、BMI高値におけるリスクが相対的に小さくなることが原因として考えられます。加齢とともに、肥満とサルコペニアが合併したサルコペニア肥満が増えます2)。サルコペニア肥満は糖尿病やメタボリックシンドロームの発症リスクも高いので、高齢者糖尿病でも注意すべきです。サルコペニア肥満では筋肉内の脂肪蓄積によるインスリン抵抗性、炎症、ビタミンD低下などが骨格筋量や筋力の減少をもたらし、身体機能低下をきたすと考えられ考えられています。サルコペニア肥満は、単なる肥満症と比べ、フレイル、ADL低下、転倒、骨粗鬆症、認知機能低下、および死亡をきたしやすいことが特徴です3)。サルコペニア肥満の定義は定まっていませんが、肥満の方は体脂肪%、ウエスト周囲長などで定義しています。われわれの調査では高齢糖尿病患者におけるDXA法による四肢骨格筋量と体脂肪量で定義したサルコペニア肥満の頻度は16.7%という結果でした2)。Q2 高齢者の肥満は身体機能や認知機能、死亡にどのような影響を及ぼしますか?高齢者のBMI 30kg/m2以上の肥満や腹部肥満は、ADL低下、歩行困難、フレイル、易転倒性などの身体機能低下と関連しています。Study of Osteoporosis Fracturesにおける高齢糖尿病患者でも家事や2~3ブロックの歩行が約2~2.5倍障害されると報告されています4)。また、高齢糖尿病患者がフレイルをきたしやすいことも腹部肥満によって一部説明できると報告されています5)。BMI 25kg/m2以上の肥満がある糖尿病患者では複数回の転倒を約3.5倍起こしやすくなります6)。とくにインスリン治療と過体重が重なると、何度も転倒しやすいとされています。中年期の肥満は認知症発症リスクになりますが、高齢期の肥満は認知症発症リスクに抑制的に働くことが知られています。しかしながら、高齢者の肥満患者の体重変化と認知症発症とはJカーブの関連が見られ、体重減少と体重増加の両者がリスクとなっています(図1)。画像を拡大する高齢糖尿病患者でも、BMI低値、体重減少(10%以上)と体重増加(10%以上)が認知症発症の危険因子であると報告されています7)。高齢糖尿病患者ではそれ自体が認知症発症のリスクですが、認知症発症のリスクとなる4つの肥満の中で、体重減少を伴った高齢者の肥満、メタボリックシンドローム(腹部肥満)、サルコペニア肥満に注意する必要があります(図2)。画像を拡大する一方、12の論文のメタ解析により、生活習慣の改善による意図的な体重減少は記憶力と注意力・遂行機能を改善することが明らかになっています8)。 Look Ahead研究では高齢者を含む2型糖尿病患者でもエネルギー制限と運動療法による介入によって、過体重の患者で認知機能の改善が見られています9)。糖尿病初期の肥満症患者を対象にリラグルチド1.8㎎/日を4ヵ月間投与した介入群と対照群で認知機能の変化を検討したRCTでは、両群とも7%の体重減少が得られたが、リラグルチド投与群では短期記憶と記憶複合スコアの有意な増加を認めたと報告されています10)。減量自体の効果よりも、GLP-1の脳のブドウ糖代謝の改善、可溶性AβによるIRS-1のセリンのリン酸化阻害によるインスリン情報伝達障害の改善などによる認知機能の改善効果の可能性もあります。いずれにせよ、高齢者の肥満症の患者では体重減少が意図的か否かに注意する必要があります。高齢糖尿病患者における肥満症と心血管疾患の発症や死亡に関しては、一致した結果が得られていません。肥満症合併の高齢糖尿病患者を対象に生活習慣改善と体重減少の介入を行ったLook AHAED研究では心血管疾患発症の減少は見られなかったと報告されています11)。我が国のJDCS研究とJ-EDIT研究の糖尿病患者のプール解析では、BMI 18.5未満の群で死亡リスクが上昇し、BMI 25㎏/m2以上の群では死亡リスクは増加していませんでした12)。とくに75歳以上ではBMI18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べてさらに高くなり、最も死亡リスクが低いBMIは25前後となりました。すなわち、低栄養による死亡リスクの方が増加し、肥満による死亡リスクが相対的に低下したと考えられます。1)Miyazawa I, et al. Endocr J. 2018;65:527-536.2)荒木 厚、周赫英、森聖二郎:日本老年医学会雑誌.2012;49:210-213.3)Batsis JA, et al. J Am Geriatr Soc. 2013;61:974-980.4)Gregg EW, et al. Diabetes Care. 2002; 25: 61-67.5)Volpato S, et al. J Gerontol A BiolSci Med Sci.2005; 60: 1539-1545.6)García-Esquinas E, et al. J Am Med Dir Assoc. 2015;16:748-754.7)Nam GE, et al. Diabetes Care. 2019;42:1217-1224.8)Siervo M, et al. Obes Rev. 2011;12:968-983.9)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014;69:1101-1108.10)Vadini F, et al. Int J Obes (Lond). 2020 Jun;44:1254-1263.11)Wing RR, et al. N Engl J Med. 2013;369:145-154.12)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 99: E2692-2696, 2014.

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初回エピソード統合失調症の初期段階における抗精神病薬の代謝への影響

 初回エピソード統合失調症の初期段階における抗精神病薬の代謝への影響を明らかにするため、中国・四川大学華西病院のHailing Cao氏らが検討を行った。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2020年8月10日号の報告。 薬物治療未実施の初回エピソード統合失調症入院患者を含む自然主義的な環境で、レトロスペクティブなリアルワールド研究を実施した。代謝プロファイルは、ベースライン時および抗精神病薬治療の2週間後と4週間後に測定した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬治療2週間後、トリグリセライド(TG)とHDLコレステロール(HDL-C)の比に基づくインスリン治療抵抗性は有意な増加が認められたが、空腹時血糖(FD)は有意な減少が認められた。・脂質代謝に関して、TG、コレステロール、LDLコレステロールは、抗精神病薬治療2週間後に有意な増加が認められたが、HDL-Cは、抗精神病薬治療4週間後に有意な減少が認められた。・いずれの代謝パラメータにおいても、抗精神病薬間の有意な差は認められなかった。 著者らは「抗精神病薬治療2週間後に、インスリン抵抗性および脂質代謝異常が発生することが明らかとなった。抗精神病薬治療の初期段階では、代謝プロファイルをモニタリングする必要性が示唆された。代謝パラメータに対する抗精神病薬の短期的な影響を明らかにするためには、さらなる研究が求められる」としている。

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~プライマリ・ケアの疑問~ Dr.前野のスペシャリストにQ!【糖尿病・内分泌疾患編】

第1回 【糖尿病】初療時のコツ第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患 糖尿病、内分泌疾患に関する内科臨床医の疑問をスペシャリストとの対話で解決します!糖尿病については、心血管リスクを考慮した薬剤選択、非専門医が使うべきファーストチョイスなど10テーマをピックアップ。内分泌疾患については、甲状腺機能の異常などの頻繁に見る疾患だけでなく、コモンな症状に隠れている内分泌疾患をジェネラリストが見つけ治療するためのTIPSを解説します。ここでしか聞けない簡潔明解な対談で、スペシャリストの思考回路とテクニックを盗んでください!第1回 【糖尿病】初療時のコツ初回のテーマは、糖尿病の初療時に必ず確認すべき項目。初療のキモは2型糖尿病以外の疾患の除外、そして治療方針を決定するためのアセスメントです。HbA1cだけでなく、いくつかの項目を確認することでその後の治療がグッと効果的なものになります。ポイントを短時間で押さえていきましょう。第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?食事や運動の指導では血糖コントロールがつかず、薬物療法に移行するのは医者の敗北というのは過去の話。薬剤が進歩した現在は、早めに薬物療法を開始するほうがよいケースも多いのです。HbA1cと治療期間の目安を提示し、薬物療法に切り替えるタイミングを言い切ります。第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール今回は、血圧と脂質の目標値をズバリ言い切ります。血圧、脂質をはじめとした5項目をしっかりとコントロールすれば、糖尿病であっても健常人とさほど変わらない生命予後が期待できることがわかっています。2つの目標値を確実に押えて、診療をブラッシュアップしてください。第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス糖尿病治療薬は数多く、ガイドラインには”患者背景に合わせて選択する”と記述されていますが、実際に何を選べばいいか困惑しませんか? 今回は、プライマリケアで必要十分なファーストチョイスの1剤、セカンドチョイスの2剤をスペシャリストが伝授します。第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、心血管疾患等の合併がある糖尿病患者において、重要な位置付けの薬剤になっています。それぞれの薬剤の使用が推奨される患者像や、使用に際する注意点をコンパクトに解説。この2つの薬剤を押さえて糖尿病治療の常識をアップデートしてください。第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標高齢者の治療では、低血糖を防ぐことが何より重要。患者の予後とQOLを考慮した目標値を、ガイドラインから、そしてスペシャリストが使う超シンプルな方法の2点から伝授します。SU薬などの低血糖を生じやすい薬剤を使わざるを得ない場合の注意点や、認知症がある場合の治療のポイント、在宅で有用な薬剤など、高齢者の糖尿病治療の悩みを一気に解決します。第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理糖尿病の慢性合併症は、細小血管障害と、大血管障害に分けると、進展予防のためにコントロールすべき項目がわかりやすくなります。必要な検査の間隔と測定項目をパパっと解説します。とくに糖尿病性腎症の病期ごとの検査間隔は必ず押さえたいポイント。プライマリケアでできるタンパク制限やサルコペニア傾向の高齢者に対する指導も必見です。第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入いま、インスリンは早期に開始し、やめることもできる治療選択肢の1つです。ですが、これまでのイメージから、医師も患者も抵抗を感じることがあるかもしれません。今回は、外来で最も使いやすいBOTの取り入れ方、インスリン適応の判断と投与量、そして患者がインスリン治療に抵抗を示す場合の説明、専門医に紹介すべきタイミングといった、プライマリケアで導入する際に必要な知識をコンパクトに解説します。第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導外来での食事指導では、食品交換表を使った難しい指導が上手くいかないことは先生方も実感するところではないでしょうか。今回は短い時間でできる、一歩踏み込んだ食事指導のトピックを紹介します。「3つの”あ”に注意」、「20ダイエットの勧め」、「会席料理に倣った食べる順番」など、簡単で続けられる見込みのある指導方法を身に付けましょう。第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ40歳以上の約20%には甲状腺疾患があると知っていますか?内分泌疾患は実はコモンディジーズ。とはいえ、すべての患者で内分泌疾患を疑うのは効率的ではありません。今回は発熱や倦怠感といったありふれた症候から内分泌疾患を鑑別に挙げるためのポイントと、必要な検査項目を解説します。費用の観点からスクリーニング・精査と段階を分けて優先すべき検査項目を整理した情報は必見です。第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症甲状腺機能亢進症といえばまずバセドウ病が想起されますが、診断には亜急性や無痛性の甲状腺炎との鑑別が必要。内科でパッと実施できる信頼性の高い検査をズバリ伝授します。専門医も行っている方法かつプライマリケアでできる、無顆粒球症のフォローアップは必見です。第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧初診で高血圧患者を診るときは全例でPAC/PRAを測定してください!これは高血圧患者の5~10%といわれる原発性アルドステロン症を発見するための鍵になる検査。診断の目安となる値、そして外来で測定する際に頭を悩ませる体位についても専門医がクリアカットに解答します。そのほかに知っておくべきクッシング症候群と褐色細胞腫についてもコンパクトに解説します。第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症今回は生命に関わる内分泌緊急症4つ-甲状腺クリーゼ、副腎不全、高カルシウム血症クリーゼ、粘液水腫性昏睡を取り上げます。それぞれの疾患を疑うべき患者の特徴・対応・フォローをコンパクトに10分で解説。中でも、臨床的に副腎不全を疑うポイントは該当する患者も多いので必ず押さえたいところ。甲状腺クリーゼの初期対応も必ずチェックしてください!第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患繰り返す尿管結石やピロリ菌陰性の潰瘍は、内分泌疾患を疑う所見だと知っていましたか? 見落としやすい内分泌疾患TOP5、高カルシウム血症・低カルシウム血症・中枢性尿崩症・SIADH・先端巨大症を確実に発見するために、それぞれを疑うサインと検査項目を解説します。

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第24回 COVID-19下水検査の本領発揮?/紫色光の制限で代謝活性が上がる可能性

COVID-19下水検査の本領発揮?糞便と共に排出された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRNAを下水から検出することを米国・アリゾナ大学は感染の早期発見の取り組みの一つとしており、先月8月末の同大学の発表によるとその試みは確かに有効なようです1,2)。先月、学生が入居してから数日後の同大学の寮の下水にSARS-CoV-2ウイルスRNAが含まれており、その寮の世話人と入居学生311人がすぐに検査されました。入居学生は入居前の検査で全員が感染していないことを確認済みでしたが、再検査の結果2人がウイルスを有しており、すぐに隔離されました。下水検査がなければ感染が検出される前にだいぶ広まっていたに違いなく、「もしその2人が発症するまで寮で過ごしていたらどれほどの人に感染が広まっていたか」と同大学再開の取り組みを指揮しているRichard Carmona医師は言っています。脳も光を感じる?~紫色光の制限で代謝活性が上がる可能性私達がものを見ることができるのは光を検出する網膜タンパク質・オプシンのおかげです。光を浴びてオプシンは神経細胞膜のイオンの往来を変え、最終的に視神経を活性化します3)。光を受け止めるのは網膜だけではありません。光が生み出す明暗周期は人の行動や生理を決定付けており、睡眠-覚醒周期を形作り、体温やエネルギー代謝の24時間変動を生み出します。去年10月に米国・オハイオ州シンシナティ小児病院(Cincinnati Children's Hospital)の研究者Richard Lang氏等が率いるチームはいくつかあるオプシンタンパク質の1つ・オプシン5(OPN5)が見ることとは程遠い組織・皮膚に存在し、マウス皮膚の周期的活動を明暗周期に同調させる働きを担うことを明らかにしました4,5)。眼以外のオプシンタンパク質が哺乳類の24時間周期を直接制御していることを示したのはその研究が初めてです。Lang氏等のチームによるOPN5の研究はさらに進展し、先週水曜日9月2日にNature誌に掲載された新たな研究の結果、マウス脳の視床下部視索前野(POA)という領域で発現するOPN5が紫色の光に応じて活性化して褐色脂肪組織(BAT)による発熱を減らす働きがあると判明しました6,7)。OPN5発現細胞があるPOAは脳の奥深くに存在しますが、紫色光は頭蓋を貫通してPOAまで到達することができます。脳からBATへと通じる交感神経系が分泌した神経伝達物質・ノルアドレナリンを受容してBATは熱を生み出し、紫色光でOPN5が活性化した神経はそのBAT活性化神経路を阻害するように働いて熱生成を減らします。ゆえにOPN5の遺伝子を欠くマウスはBATが活発で体温が高く、エネルギーをより消費し、体脂肪やコレステロールが少なく、寒さに強いという特徴を示しました。紫色光は頭蓋を貫通してOPN5発現POA神経まで届く事が確認されていますが、OPN5発現神経を直接活性化するかどうかはまだ分かっていません。また、マウスと同様にサルの視床下部にOPN5が存在することは分かっていますが、自然光がその領域まで達するのかどうかは分かっていません。今後の研究でそれが判明すれば人に役立つ応用技術の開発が大きく前進しそうです。これまでの研究によると、食べるのを明るい時間帯(日中)に限る日中限定食で糖尿病前駆患者のインスリンの効き具合い(感受性)が改善することが明らかになっています3)。インスリン感受性が改善すれば完全な糖尿病に至り難くなります。今回マウスで見つかった仕組みが人にも備わるなら、紫色光を制限してBATを活性化することで日中限定食の代謝改善を増強できるかもしれません。日中限定食と同様に、BATを活性化するβアゴニストは人のインスリン感受性を高め、血糖値を下げ、代謝を底上げします。βアゴニストの効果が紫色光を排除すると向上することが今回の研究で確認されており、紫色光の制限でβアゴニストの代謝改善効果の向上も期待できそうです。生き物は紫色光以外の光も代謝調節に利用しています。Lang氏等のチームが今年1月に発表したマウス研究によると糖や脂肪酸を燃やすBATとは対照的にエネルギーを貯蔵する白色脂肪細胞ではオプシン3(OPN3)が発現しており、OPN3は紫色光ではなく青色光に反応して脂肪分解を促し、白色脂肪細胞から血中へ脂肪酸を放出させます8,9)。そしてOPN3はなんとBATでも発現しており、BATのOPN3は青色光ではなく赤色光に反応して糖の取り込みを増やし、POAのOPN5とは逆にBATでの熱生成を促します10)。普段の生活で何気なく浴びている色とりどりの光は脳や脂肪組織などに作用し、糖などのエネルギーの蓄えを調節する熱生成を加減する働きを担うようです。参考1)The University of Arizona says it caught a dorm’s covid-19 outbreak before it started. Its secret weapon: Poop / The Washington Post2)Poop tests stop COVID-19 outbreak at University of Arizona / Science3)Light-activated neurons deep in the brain control body heat / Nature4)Skin Keeps Time Independent of the Brain5)Buhr ED,et al. Curr Biol. 2019 Oct 21;29:3478-3487.6)Cincinnati Children's: This is Your Brain…on Sunlight / PRNewswire7)Zhang KX, et al. Nature. 2020 Sep 2. [Epub ahead of print]8)Nayak G,et al. Cell Rep. 2020 Jan 21;30:672-686.9)Fat Cells Can Sense Sunlight. Not Getting Enough Can Disrupt Metabolism10)Sato M, et al. PLoS Biol. 2020 Feb 10;18:e3000630.

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小児1型DM、クローズドループシステムvs.SAP療法/NEJM

 小児1型糖尿病において、クローズドループ型インスリン注入システム(人工膵島)はセンサー付きインスリンポンプ療法(SAP)と比較して、血糖値が目標値に達していた時間の割合が高かった。米国・バージニア大学糖尿病技術センターのMarc D. Breton氏らが、16週間の多施設共同無作為化非盲検比較試験の結果を報告した。クローズドループ型インスリン注入システムは、小児1型糖尿病患者の血糖コントロールを改善する可能性が示唆されていた。NEJM誌2020年8月27日号掲載の報告。小児1型糖尿病患者101例をクローズドループ群とSAP(対照)群に無作為化 研究グループは2019年6月21日~8月30日に、6~13歳の1型糖尿病患者を、クローズドループ型インスリン注入システム群(クローズドループ群)またはSAP群(対照群)に、3対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、持続血糖モニタリングで測定した血糖値が、目標値70~180mg/dLの範囲にあった時間の割合であった。目標血糖値の時間の割合はクローズドループ群で有意に増加 計101例が無作為化を受けた(クローズドループ群78例、対照群23例)。ベースラインのHbA1c値は5.7~10.1%であった。 血糖値が70~180mg/dLの範囲にあった時間の割合(平均±SD)は、クローズドループ群ではベースラインの53±17%から67±10%(治療を行った16週間の平均)に、対照群では51±16%から55±13%に増加した(平均補正後群間差:11ポイント[1日当たり2.6時間に相当]、95%信頼区間[CI]:7~14、p<0.001)。 血糖値が70mg/dL未満であった時間の割合は、両群とも低値であった(中央値:クローズドループ群1.6%、対照群1.8%)。 クローズドループ群において、システムがクローズドループモードであった時間の割合は中央値93%(四分位範囲:91~95)であった。糖尿病性ケトアシドーシスまたは重篤な低血糖症のエピソードは、いずれの群でも確認されなかった。 なお、著者は、社会経済的状況・HbA1c値・血糖コントロール機器の使用について、今回の試験対象集団が必ずしも一般集団を代表する集団ではなく、また、試験期間が4ヵ月間であり、治療効果が長期にわたり持続するかについては不明であると述べている。

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1日1回で空腹時血糖と食後血糖の両方を改善する「ソリクア配合注ソロスター」【下平博士のDIノート】第57回

1日1回で空腹時血糖と食後血糖の両方を改善する「ソリクア配合注ソロスター」今回は、持効型溶解インスリンアナログ製剤/GLP-1受容体作動薬「インスリン グラルギン/リキシセナチド配合製剤(商品名:ソリクア配合注ソロスター、製造販売元:サノフィ)」を紹介します。本剤は、1日1回の投与で空腹時血糖と食後血糖を同時に改善することで、より良い血糖コントロールを得ることが期待されています。<効能・効果>本剤は、インスリン療法が適応となる2型糖尿病の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月8日より発売されています。<用法・用量>通常、成人には、5~20ドーズ(インスリン グラルギン/リキシセナチドとして5~20単位/5~20μg)を1日1回朝食前に皮下注射します。1日1回5~10ドーズから開始し、患者の状態に応じて増減できますが、1日20ドーズを超えることはできません。<安全性>日本人2型糖尿病患者を対象に実施された国内第III相試験では、主な副作用として、悪心(5%以上)、腹部不快感、下痢、嘔吐、消化不良、便秘、胃腸炎、食欲不振、めまい、振戦、注射部位反応(内出血、紅斑、浮腫、そう痒など)、疲労(いずれも1~5%未満)、腹部膨満、腹痛、多汗症、傾眠、倦怠感、空腹感(いずれも1%未満)が認められています(承認時)。なお、重大な副作用として、低血糖、急性膵炎、ショック、アナフィラキシーが発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬には、空腹時血糖を調節する成分と、食後血糖を調節する成分の2種類が配合されていて、1日1回の注射で血糖コントロールを改善します。2.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う作業を行う際は注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。3.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛が現れた場合は、使用を中止し、速やかに医師の診断を受けてください。4.未使用の薬剤は冷蔵庫内に保管してください。凍結すると使用できなくなるので、直接冷気に触れないように注意してください。なお、旅行などに出掛ける場合、短期間であれば室温に置いても差し支えありません。5.使用開始後は冷蔵庫に入れず、キャップをしっかり閉めて涼しいところに保管してください。直射日光の当たるところや自動車内などの高温になる恐れのあるところには置かないでください。6.使用開始後31日を超えたものは使用しないでください。<Shimo's eyes>本剤は、持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合皮下注射製剤で、インスリン デグルデク/リラグルチド(商品名:ゾルトファイ配合注フレックスタッチ)に次ぐ国内2剤目の薬剤です。インスリン グラルギン(同:ランタス)とリキシセナチド(同:リキスミア)が日本独自の配合比である1単位:1μgで配合されていて、デバイスにはプレフィルドペン型注入器「ソロスター」が採用されています。主に空腹時の血糖コントロールを改善する持効型インスリン製剤も、主に食後の血糖コントロールを改善するGLP-1受容体作動薬も国内外で広く使われていますが、持効型インスリン製剤は低血糖および体重増加に注意が必要で、GLP-1受容体作動薬は胃腸障害に注意が必要です。本剤は、国内第III相試験で、空腹時血糖と食後血糖のいずれも改善し、インスリン グラルギン単剤と比較して、低血糖と体重増加のリスクを増やさずに統計学的に有意なHbA1cの低下を示しました。また、安全性に関しても、各配合成分の既知の安全性プロファイルと同等であることが確認され、リキシセナチドと比較して、胃腸障害の副作用リスクを低減しました。持効型インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬を組み合わせた治療法は「BPT(Basal supported post Prandial GLP-1 Therapy)」と呼ばれています。本剤を用いることで、経口糖尿病薬が効果不十分で新しく注射薬を導入する場合や、ほかの注射薬から切り替える場合などに、1日1回の投与でBPTが可能となります。なお、DPP-4阻害薬はGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有するため、本剤と併用する場合は疑義照会が必要です。参考1)PMDA 添付文書 ソリクア配合注ソロスター

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2型糖尿病肥満患者、胃バイパス術で代謝機能は改善するか/NEJM

 2型糖尿病を有する肥満患者において、胃バイパス術と食事療法の代謝に及ぼす有益性はほぼ同じで、この有益性は体重減少それ自体に関連している可能性があり、胃バイパス術には体重減少と独立した臨床的に重要で明確な効果はないことが、米国・セントルイス・ワシントン大学医科大学院のMihoko Yoshino氏らの検討で示された。2型糖尿病の治療では、薬物療法よりも肥満手術のほうが有効であると無作為化臨床試験で示されている。また、Roux-en-Y法による胃バイパス術は、2型糖尿病患者の代謝機能に対し体重減少とは独立の治療効果をもたらすと示唆されている。一方、これらの研究の結果には、手術を受ける患者間の体重減少の差による交絡の影響が認められるという。NEJM誌2020年8月20日号掲載の報告。胃バイパス術の代謝機能の改善効果を評価するコホート研究 研究グループは、糖尿病を有する肥満患者において、胃バイパス術は体重減少とは独立に、代謝機能の改善効果をもたらすかを検証する前向きコホート研究を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 Roux-en-Y法による胃バイパス術(手術群)または食事療法のみ(食事療法群)に分け、両群間でマッチさせた体重減少(約18%)の前後で、グルコース恒常性の代謝調節因子の評価を行った。 主要評価項目は、肝臓インスリン感受性の変化とし、低用量インスリン持続静注(3段階の高インスリン正常血糖クランプ法の1、2段階)で評価した。副次評価項目は、骨格筋インスリン感受性、β細胞機能、24時間血糖、インスリンプロファイルの変化であった。体重減少による代謝機能への強力な治療効果が明らかに 本試験は、2014年11月~2018年10月の期間に実施された。食事療法群は11例(平均年齢54±9歳、女性7例、糖尿病診断からの平均期間9.1±5.6年)、手術群も11例(49±12歳、8例、9.6±9.6年)が解析に含まれた。 平均体重減少率は、食事療法群が17.8±1.2%(範囲16.1~20.4%)、手術群は18.7±2.5%(16.0~24.4%)だった。BMIは、食事療法群が42.9±6.9から35.2±5.6へ、手術群は43.2±3.8から35.1±2.9へ減少した。 体重減少により、糖産生のベースラインからの抑制率が増加した。クランプ法の第1段階で、食事療法群では平均7.04μmol/kg除脂肪量[FFM]/分(95%信頼区間[CI]:4.74~9.33)増加し、手術群では平均7.02μmol/kg FFM/分(95%CI:3.21~10.84)増加した(群間差:0.25μmol/kg FFM/分、95%CI:-3.08~3.59)。また、第2段階では、それぞれ5.39μmol/kg FFM/分(95%CI:2.44~8.34)および5.37μmol/kg FFM/分(95%CI:2.41~8.33)増加した(群間差:0.02μmol/kg FFM/分、95%CI:-2.00~2.04)。両群間に有意な差は認められなかった。 また、体重減少によって、インスリン刺激による平均糖取り込み率が増加した。食事療法群では、糖取り込み率が30.5±15.9μmol/kg FFM/分から61.6±13.0μmol/kg FFM/分へ増加し、手術群では29.4±12.6μmol/kg FFM/分から54.5±10.4μmol/kg FFM/分へ増加した(増分の群間差:-6.5μmol/kg FFM/分、95%CI:-15.7~2.7)。両群間に有意な差はみられなかった。 さらに、体重減少により、β細胞機能(インスリン感受性と比較したインスリン分泌)が、食事療法群では1.83単位(95%CI:1.22~2.44)、手術群では1.11単位(95%CI:0.08~2.15)、それぞれ上昇した(群間差:-0.71、95%CI:-1.75~0.34)。両群間に有意差はなかった。また、体重減少により、両群で24時間血糖値およびインスリン値の曲線下面積が減少した。これらについても、両群間に有意な差はなかった。 両群とも、重大な合併症は発生しなかった。 著者は、「これらの結果は、代謝機能に及ぼす体重減少の強力な治療効果を強調するものであり、胃バイパス術による代謝への有益な効果は、体重減少のみの帰結である可能性が高い」としている。

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第39回 「服薬期間中のフォロー」で実際に糖尿病患者のHbA1cは改善するのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 9月1日より施行される改正薬機法で義務化される「服薬期間中のフォロー」は多くの薬剤師が意識しているようで、電話やメッセージアプリなどによる支援を実施していたり、いろいろと検討していたりするという話を聞きます。海外においては、すでにテキストメッセージや電話によるフォローを行い、それらのアウトカムを検討した論文が少なからず存在します。今回はその中から、2018年5月にBMJ誌に掲載された、ショートメッセージサービス(SMS)をベースにした糖尿病自己管理サポートの論文を紹介します1)。対象患者は16歳以上のコントロール不良(HbA1cが65mmol/molまたは8%以上)の1型または2型糖尿病患者366例で、通常のケアに加えて個別化されたテキストメッセージによるフォローを最大9ヵ月間受ける介入群183例と、通常ケアのみを受ける対照群183例にランダムに割り付けて比較しています。途中脱落や連絡が取れなくなったなどの被験者を除き、各群177例が解析に含まれました。テキストメッセージで提供された情報は、糖尿病自己管理や生活スタイルに関わるサポート、動機付けおよびリマインドで、メッセージは自動コンテンツ管理システムにより送信されています。主要評価項目はHbA1cのベースラインから9ヵ月時点における変化、セカンダリアウトカムは3ヵ月と6ヵ月時点におけるHbA1cの変化、効果の自覚、セルフケアの行動、健康関連のQOLなど21項目をみています。9ヵ月時点の平均HbA1bは、対照群の-3.96mmol/mol(標準偏差[SD]:17.02)と比べて介入群では-8.85mmol/mol(SD:14.84)で、補正後平均差-4.23(95%信頼区間[CI]:-7.30~-1.15)と有意に低下しました。セカンダリアウトカムについては、21項目中、フットケア(補正後平均差:0.85[95%CI:0.40~1.29]、p<0.001)、全体的な糖尿病サポート(補正後平均差:0.26、95%CI:0.03~0.50、p=0.03)、EQ-5D評価による視覚アナログスケール(補正後平均差:4.38、95%CI:0.44~8.33、p=0.03)、糖尿病の症状の自覚(補正後平均差:-0.54、95%CI:-1.04~-0.03、p=0.04)の4項目で有意な差が出ています。患者の介入への満足度は高く、169例中161例(95%)が役に立ったと報告しており、164例(97%)がほかの糖尿病患者にも勧めたいと思うと報告していました。また、85例(50%)がほかの人とメッセージを共有しており、120例(71%)が糖尿病について学ぶ助けになったとしています。シンプル、簡易なメッセージでも血糖コントロールに効果あり実際どのようなメッセージがどのくらいの期間送られていたかについては、研究のプロトコル論文2)の表1にモジュールごとに詳しく書かれています。たとえば、インスリンモジュールであれば、「未開封のインスリンは冷所保管してください。変色したもの、塊が析出しているもの、期限切れのもの、ひび割れや漏れのあるもの、冷凍や過熱されたものは使用しないでください」などで、禁煙モジュールであれば「(こんにちは)(名前)さん。糖尿病の良好な管理と将来の健康のために禁煙をしましょう。禁煙サポート窓口へお電話ください(番号)」、血糖モニタリングモジュールであれば「(こんにちは)(名前)さん。血糖値をチェックする時間です。測定結果を返信してください」などです。そのほかにも運動の工夫、低血糖対策、親近者のフォローなどモジュールごとに決まったメッセージがあります。今後、臨床的なアウトカムとしての検討がさらに進んでいくと思いますが、薬剤師視点ではごく当たり前のシンプルなメッセージを送ることが、定期フォローの中で血糖コントロールに寄与するというのは現場としても勇気づけられる結果だと思います。実業務でも工夫して、服薬期間中のフォロー体制を構築する参考になるのではないでしょうか。1)Dobson R , et al. BMJ. 2018;361:k1959. 2)Dobson R, et al. Trials. 2016;17:179.

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成人アトピーは糖尿病を引き起こす?

 アトピー性皮膚炎(AD)は糖代謝に影響を及ぼすのか。デンマーク・コペンハーゲン大学のLise Gether氏らは、ADの成人において、インスリン感受性の低下やその他の糖代謝異常が認められるかを調べるため、経口糖負荷検査(OGTT)と高インスリン正常血糖クランプ法を用いて検討した。結果として、健康成人との間に違いはなかったことが報告され、著者は、「炎症性皮膚疾患であるADは、糖代謝にほとんどあるいはまったく影響しないことが示唆される」と述べている。疫学研究では、一般集団と比較して、ADの成人における2型糖尿病の発生の増加が示されている。Diabetes Obesity and Metabolism誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。 検討では、非肥満、非糖尿病でADが軽症~中等症の成人16例(AD群)と、性別・年齢・BMI適合の健康成人16例(対照群)を対象とし、消化管・膵ホルモンについて頻回な採血による高インスリン正常血糖クランプ法(インスリン注入速度40mU/m2/分)とOGTTを行った。 主な結果は以下のとおり。・両群は、年齢(平均±平均の標準誤差:33±3 vs.33±3歳)、性別(女性:56%)、BMI(24.5±0.7 vs.24.4±0.7)、身体活動度、空腹時血糖値およびHbA1cが類似していた。・AD群は、EASI(Eczema Area and Severity Index)の平均スコア8.5±1.0(中等度)、ADの平均罹患期間28±3年であった。・OGTT中のcirculatingグルコース、インスリン、C-ペプチド、グルカゴン、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチドはそれぞれ両群間で同等であり、グルカゴン様ペプチド-1はAD群で上昇した。・クランプ法の結果は、インスリン感受性(M値:9.2±0.6 vs.9.8±0.8、p=0.541、95%信頼区間:-1.51~2.60)、circulatingインスリン、C-ペプチド、グルカゴンについて、両群間で差がないことを示した。

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2型糖尿病適応のimeglimin、国内製造販売承認を申請/大日本住友製薬

 2020年7月30日、大日本住友製薬は2型糖尿病治療薬として開発中のimegliminの国内製造販売承認の申請を行ったと発表した。本剤は2021年度に国内で世界初となる上市を予定している。 imegliminは、ミトコンドリアの機能を改善するという独自の作用機序を有し、膵臓・筋肉・肝臓において、グルコース濃度依存的なインスリン分泌の促進と、イ ンスリン抵抗性の改善および糖新生の抑制という作用を示すことで血糖降下作用が期待されている。さらに、本剤の作用機序は、糖尿病によって引き起こされる細小血管・大血管障害の予防につながる血管内皮機能および拡張機能の改善作用や、膵臓β細胞の保護作用を有する可能性も示唆されている。これより、経口薬である本剤は、単剤および併用による2型糖尿病の血糖コントロールにおいて幅広く使用される可能性がある。 これまで大日本住友製薬およびPoxel社(フランス)は、第III相試験のTIMES試験をはじめ、日本国内で共同開発プログラムを進めており、両社は2017年10月に、日本、中国、韓国、台湾、その他東南アジア9ヵ国を対象に、imegliminの開発および製品化に関する提携契約を締結していた。

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「スーグラ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第10回

第10回 「スーグラ」の名称の由来は?販売名スーグラ®錠25mg/50mg一般名(和名[命名法])イプラグリフロジン L-プロリン(JAN)効能又は効果2型糖尿病1型糖尿病用法及び用量<2型糖尿病>通常、成人にはイプラグリフロジンとして50mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら100mg 1日1回まで増量することができる。<1型糖尿病>インスリン製剤との併用において、通常、成人にはイプラグリフロジンとして50mgを1日1回朝食前又は朝食後に経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら 100mg1日1回まで増量することができる。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡[輸液、インスリン製剤による速やかな高血糖の是正が必須となるので本剤の投与は適さない。]3.重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者[インスリン製剤による血糖管理が望まれるので本剤の投与は適さない。]※本内容は2020年7月29日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年1月改訂(第11版)医薬品インタビューフォーム「スーグラ®錠25mg/50mg」2)アステラス製薬:製品情報

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高齢1型糖尿病患者における低血糖の抑止とCGM(持続血糖モニター)(解説:吉岡成人氏)-1253

 35年前の本邦における疫学調査では、1型糖尿病の患者は進展した網膜症や末期腎症などの合併症の頻度が高く死亡リスクが高いと報告されている(糖尿病. 1985;28:833-839.)。しかし、近年、インスリン製剤や注入器の進化、さらにはCGMなどの導入により血糖コントロールが改善し、合併症や併発症の早期発見、早期治療が可能となったことも相まって、1型糖尿病のQOLや生命予後が良好なものとなっている。その一方で、罹病期間が長く、高齢となった1型の糖尿病の患者が徐々に増加しており、加齢に伴って引き起こされる無自覚低血糖、認知機能の低下、転倒骨折、不整脈による突然死などが臨床の現場で大きな問題となっている。CGMによって高齢1型糖尿病の低血糖の頻度は減少するか 皮下組織のグルコース濃度を持続的に測定し、リアルタイムでその結果を確認できる機器(isCGM:intermittently scanned continuous glucose monitoring)を用いた場合と、従来の、血糖測定器を用いて1日4回の血糖測定(SMBG)を行う場合で、低血糖の頻度に差があるのか否かを検討した成績が、JAMA誌2020年6月16日号に掲載された。 60歳以上の1型糖尿病203例を対象に、CGM群(103例)とSMBG群(100例)に無作為に1対1の割合で割り付け、無作為化後7週、15週、25週後に来院し、患者自身が測定値を確認できないCGMを1週間装着し、その際のグルコース濃度が70mg/dL未満を示した時間の割合を主要評価項目として、54mg/dL未満、60mg/dL未満の低血糖、高血糖、HbA1c、認知機能などを副次評価項目として検討している。 対象となった患者は、中央値で年齢68歳、罹病期間36年、白人が93%、インスリンポンプを使用している患者が53%、HbA1cは7.5%であった。 グルコース濃度70mg/dL未満の時間(中央値)は、CGM群でベースラインが5.1%(73分/日)、追跡期間では2.7%(39分/日)、SMBG群でベースラインが4.7%(68分/日)、追跡期間では4.9%(70分/日)であり、統計学的に有意な差を認めた(補正後の時間差:-1.9%[-27分/日])。副次評価項目でもCGM群では、54mg/dL未満、60mg/dL未満の低血糖の頻度も減少し、250mg/dLを超えるグルコース濃度の頻度も減少し、HbA1cもCGM群では7.6%から7.2%へと有意な改善を示した。重症低血糖はCGM群1例、SMBG群10例であった。日本における診療の現場で、この研究をどのように捉えるか 今回報告された研究では、罹病期間36年、平均年齢68歳の1型糖尿病が研究の対象となっている。罹病期間が長く、高齢の1型糖尿病ではあるが、約半数はすでにインスリンポンプを使用し、大学院修了者が約30%と高学歴で、年収10万ドルを超える患者も20%以上含まれている。専門的な治療を受けており、社会経済状況が安定した状態にあり、観察前のHbA1cも7.5%ときわめて良好な血糖コントロール状態を維持している。 日本でも、確かに、このような範疇に入る1型糖尿病の患者は一定の割合で存在する。しかし、臨床の現場では、独居や老々介護の中で認知機能が徐々に低下し、低血糖を頻発し、たびたび救急搬送をされることも少なからず経験される。訪問看護師が、週に2~3回患者のもとを訪れ、インスリンの注射手技を確認することしかできない、高齢者施設に入居することを提案しても、そこでは1日2回以下でなければインスリン注射に対応できないといわれ、医療従事者が頭を抱えて憂鬱な思いに駆られることもある。 CGMを利用して低血糖の時間が少なくなることは臨床的に有用なことではあるが、日本において高齢の1型糖尿病が今後ますます増加していくことを考えると、医療のシステム、社会全体のケアのシステムが少しでも改善することこそが、CGMやSMBGよりも大切なのではなかろうかと思われる。

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週1回のインスリンの有効性・安全性/ノボ ノルディスク ファーマ

 ノボ ノルディスク ファーマは、週1回投与のinsulin icodec*の第II相試験で1日1回投与のインスリン グラルギンU100と同程度の有効性および安全性を示したことを6月19日にリリースするとともに、第80回米国糖尿病学会で発表した。 本試験は、DPP-4阻害薬の併用または非併用下でメトホルミンによって十分にコントロールされていないインスリン治療歴のない成人2型糖尿病患者247名を対象とした、26週間、無作為割り付け、二重盲検、ダブルダミー、treat-to-target、第II相臨床試験。*本製剤および効能・効果は日本を含めて現在開発中であり未承認の製剤basalインスリンの注射回数が週1回になる 主要評価項目である血糖コントロール(HbA1c)のベースラインから投与後26週までの変化量は、insulin icodec週1回投与群とインスリン グラルギンU100の1日1回投与群で同程度(それぞれ-1.33%および-1.15%、p=0.08)だった。また、副次評価項目であるベースラインから投与後26週までの空腹時血糖値(FPG)の変化量は、insulin icodecおよびインスリン グラルギンU100で同程度(それぞれ-58mg/dLおよび-54mg/dL)、ベースラインから投与後26週までの9点測定血糖値プロファイル(血糖自己測定による)の平均値の変化量は、insulin icodecでより大きかった(-7.9mg/dL、p=0.01)ことが示された。 安全性に関し低血糖は、両投与群で同程度だった(レベル2の低血糖[血糖値

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超速効型インスリン ルムジェブを発売/日本イーライリリー

 6月17日、日本イーライリリーは、超速効型インスリンアナログ製剤(遺伝子組換え)インスリンリスプロ(商品名:ルムジェブ注)の「同ミリオペン」、「同ミリオペンHD」、「同カート」「同100単位/mL」を「インスリン療法が適応となる糖尿病」を効能・効果として新発売した。 本剤は、より良い血糖コントロールの実現のために、健康な人のインスリン分泌により近いインスリン動態の再現を目指し開発された薬剤。 既存の超速効型インスリンアナログ製剤の有効成分に添加剤を加えることで、皮下からの吸収を速め、日本人1型糖尿病患者において従来の製剤と比べて最高濃度の50%に達する時間を13分、曝露持続時間を88分短縮し、速やかなインスリン作用発現および消失を実現した。 本剤は通常、食事開始時(食事前2分以内)に1回2~20単位を皮下注射する。そのため、患者が食事内容を確認した上で、「いただきます」のタイミングで投与することが容易となり、処方薬剤の変更によって患者の現在の生活リズムを大きく変える必要がない。また、必要な場合は食事開始後20分以内に投与することも可能。 同社では、「本剤は、健康な方のインスリン分泌により近いインスリン動態を持つ有望な新薬。食後の血糖値を目標範囲内に収めるための新たな選択肢」と期待を寄せている。ルムジェブ注の概要一般名:インスリンリスプロ(遺伝子組換え)商品名: ルムジェブ注ミリオペン ルムジェブ注ミリオペンHD ルムジェブ注カート ルムジェブ注100単位/mL効能・効果:インスリン療法が適応となる糖尿病用法・用量: 通常、成人では1回2~20単位を毎食事開始時に皮下注射するが、必要な場合は食事開始後の投与も可能。時に投与回数を増やしたり、持続型インスリン製剤と併用したりすることがある。投与量は、患者の症状および検査所見に応じ適宜増減するが、持続型インスリン製剤の投与量を含めた維持量としては通常1日4~100単位。(ルムジェブ注100単位/mLのみ)必要に応じ持続皮下注入ポンプを用いて投与する。薬価: ルムジェブ注ミリオペン(300単位1キット)1,400円 ルムジェブ注ミリオペンHD(300単位1キット)1,400円 ルムジェブ注カート(300単位1筒)1,175円 ルムジェブ注100単位/mL(100単位1mLバイアル)277円製造販売承認日:2020年3月25日薬価基準収載日:2020年5月20日発売日:2020年6月17日

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若年1型DM、CGMが血糖コントロールを改善/JAMA

 1型糖尿病の青少年および若年成人患者において、持続血糖測定(CGM)は標準的血糖測定に比べ、血糖コントロールをわずかではあるが統計学的に有意に改善し、患者満足度も良好であることが、米国・ハーバード大学医学大学院のLori M. Laffel氏らが行った「T1D(CITY)研究」で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年6月16日号に掲載された。1型糖尿病患者では、青少年および若年成人期が生涯で最も血糖コントロールが不良とされる。CGMは、成人患者で血糖コントロールの改善が示されているが、青少年および若年成人の患者における有益性は明確ではないという。14~24歳の患者対象、米国の無作為化試験 本研究は、1型糖尿病の青少年および若年成人患者の血糖コントロールにおけるCGMの有効性を評価する無作為化臨床試験であり、米国の14施設の参加の下、2018年1月~2019年5月の期間に実施された(米国・Jaeb Center for Health Researchの助成による)。 対象は、年齢14~24歳、HbA1c 7.5~10.9%の1型糖尿病で、罹患期間が1年以上、インスリンポンプまたは頻回インスリン注射を使用し、1日の総インスリン量が0.4単位/kg/日以上で、試験登録前の3ヵ月間にCGMを使用していない患者であった。 被験者は、CGMを受ける群(CGM群)または通常の血糖モニタリングを受ける群(BGM群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。CGMは、トランスミッターとレシーバー、皮下に装着して7日ごとに交換するセンサーから成り、5分ごとに間質液のグルコース濃度を測定した。 主要アウトカムは、ベースラインから26週までのHbA1cの変化とした。副次アウトカムは20項目で、HbA1c関連アウトカムが7項目、CGM指標が9項目、患者報告アウトカムが4項目だった。平均HbA1c、CGM群0.4%低下、BGM群は不変 153例(平均年齢17[SD 3]歳、女性76例[50%]、平均糖尿病罹患期間9[SD 5]年)が登録され、142例(93%)が試験を完遂した。CGM群に74例、BGM群には79例が割り付けられた。CGM群の68%が、26週の時点で週に5日以上CGMを使用していた。26週までに、9つのCGMデバイスの不具合が起きたが、有害事象との関連はなかった。 平均HbA1cは、CGM群がベースラインの8.9%から26週には8.5%に低下したのに対し、BGM群はベースラインおよび26週とも8.9%であり、CGM群で良好な結果が得られた(補正後群間差:-0.37%、95%信頼区間[CI]:-0.66~-0.08、p=0.01)。 事前に規定された20項目の副次アウトカムについては、HbA1c関連の7つの二値変数のうち3つ(HbA1cが26週までに0.5%以上低下[CGM群44% vs.BGM群21%、補正後群間差:23%、95%CI:7~37、p=0.005]など)、9つのCGM指標のうち8つ(目標血糖値[70~180mg/dL]を達成した時間の平均割合[補正後群間差:6.9%、95%CI:3.1~10.7、p<0.001]など)、4つの患者報告アウトカムのうち1つ(Glucose Monitoring Satisfaction Survey scoreによる患者満足度[補正後群間差:0.27、95%CI:0.06~0.54、p=0.003])が、CGM群で有意に良好であった。 両群で最も頻度の高い有害事象は、重症低血糖(CGM群3例、BGM群2例)、高血糖/ケトーシス(1例、4例)、糖尿病性ケトアシドーシス(3例、1例)であった。 著者は、「これらの知見の臨床的重要性を理解するには、さらなる検討を要する」としている。

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高齢1型DM患者の低血糖発現、CGM vs.標準BGM/JAMA

 60歳以上の1型糖尿病高齢患者では、標準的な血糖測定(BGM)に比べ持続血糖測定(CGM)を行うことにより、低血糖がわずかではあるが統計学的に有意に減少することが認められた。米国・AdventHealth Translational Research InstituteのRichard E. Pratley氏らが、米国の内分泌科22施設で実施した無作為化臨床試験の結果を報告した。CGMはリアルタイムで血糖値を評価できることから、1型糖尿病高齢患者の低血糖を軽減することが期待されていた。JAMA誌2020年6月16日号掲載の報告。1型DM高齢患者203例を対象に、CGM vs.標準BGM下の低血糖発現を評価 研究グループは、60歳以上の1型糖尿病患者203例を、CGM群(103例)と標準BGM群(100例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。標準BGM群には、自宅で1日4回以上血糖測定を行ってもらうとともに、無作為化後7、15および25週後に来院してCGM(盲検下)を1週間装着してもらった。両群とも無作為化後4、8、16および26週後に評価した。 主要評価項目は、6ヵ月の追跡期間におけるCGM測定下で血糖値70mg/dL未満を示した時間の割合。副次評価項目は、血糖値54mg/dL未満または60mg/dL未満の低血糖、高血糖、血糖コントロール(血糖値、HbA1c)、認知機能および患者報告アウトカム(PRO)など31項目が事前に定義された。血糖値70mg/dL未満の時間の割合、CGM群で有意に低下 203例の患者背景は、年齢中央値68歳(四分位範囲[IQR]:65~71)、罹病期間中央値36年(IQR:25~48)、女性52%、インスリンポンプ使用者53%、平均HbA1c 7.5%(標準偏差0.9%)であった。203例中83%が6ヵ月間で6日/週以上CGMを使用した。 血糖値70mg/dL未満の時間中央値は、CGM群がベースラインでは5.1%(73分/日)、追跡期間時は2.7%(39分/日)であり、標準BGM群はそれぞれ4.7%(68分/日)、4.9%(70分/日)であった(補正後群間差:-1.9%[-27分/日]、95%信頼区間[CI]:-2.8~-1.1[-40~-16分/日]、p<0.001)。 副次評価項目31項目中、CGM評価による低血糖および高血糖に関する全9項目と、HbA1cに関する7項目中6項目で統計学的有意差が認められたが、認知機能およびPROに関する15項目については、有意差は認められなかった。CGM群では、標準BGM群と比較して平均HbA1cが低下した(補正後群間差:-0.3%、95%CI:-0.4~-0.1、p<0.001)。 主な有害事象(CGM群、標準BGM群)は、重症低血糖(1例、10例)、骨折(5例、1例)、転倒(4例、3例)、救急外来受診(6例、8例)であった。 著者は、社会経済状況が高く専門的な糖尿病治療を受けている患者を対象としていること、介入期間が6ヵ月間と短いこと、旧型のCGMセンサーを使用したことなどを研究の限界として挙げ、「長期的な臨床的有用性を理解するためには、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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事例004 ヘモグロビンA1C測定の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説本例では、HbA1c測定が過剰を理由に査定となりました。審査結果理由に「糖尿病(関連病名含む)の疑いでHbA1cが連月算定されています。HbA1cは過去数ヵ月間の総合的血糖値を反映した数値を基に測定されるため、疑い患者(インスリン治療などを開始していないなど)については連月の算定は過剰と判断しますのでご留意願います」と記載がありました。診療録を確認すると連月の測定ではなく、前々月に測定していました。コンピュータ審査による縦列点検では、2ヵ月前でも連月の範囲であるとして、施行回数を過剰と判断されたものです。調べてみると、コンピュータ審査では、原則3月毎に1回しか認めらないものとされているようです。手軽な指標として毎月測定をしたいところですが、連月の実施が医学的に必要な場合は、その理由と検査値をレセプトに記載して審査支払機関の判断を仰ぐこととなります。なお、2020年度の改定では、例外的に精神疾患用薬のクロザピン(商品名:クロザリル)投与中であることがレセプト上でわかる場合のみ、連月の実施ができることになりました。

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日本人の2型糖尿病に合わせた配合の治療薬/サノフィ

 サノフィ株式会社は、2020年6月8日に2型糖尿病治療薬「ソリクア配合注ソロスター」(以下「本剤」という)を発売し、同日にメディア向けWEBセミナーを開催した。セミナーでは、本剤の説明のほか、日本人の糖尿病患者の特徴と本剤の治療へのコミットなどが解説された。 「ソリクア配合注ソロスター」は、持効型溶解インスリン グラルギン(遺伝子組み換え)とGLP-1受容体作動薬リキシセナチドが配合された治療薬。インスリン グラルギンが主に空腹時血糖をコントロールし、リキシセナチドが主に食後血糖をコントロールする。注目すべきは、日本人の2型糖尿病患者の特性を考慮し、日本独自の配合比1単位:1μgとして開発された。なお、本剤は薬用量を「ドーズ」で示し、1ドーズには、インスリン グラルギン1単位:リキシセナチド1μgの配合比で含有されている(例:5ドーズはインスリン グラルギン5単位:リキシセナチド5μg)(販売承認は2020年3月25日)。難しい“かくれ高血糖”患者の血糖コントロール WEBセミナーでは、「2型糖尿病治療のNext Stage~日本人患者特有のアンメットニーズ“かくれ高血糖”の新たな選択肢~」をテーマに、寺内 康夫氏(横浜市立大学大学院医学研究科 分子内分泌・糖尿病内科学 教授)を講師に迎え、かくれ高血糖患者の治療にどのように介入するべきかが説明された。 日本人の糖尿病患者は欧米人に比較し、インスリン分泌能が低いのが特徴であり、HbA1cの上昇に伴い、空腹時血糖値と併せて食後血糖値も大きく上昇し、食後高血糖がHbA1c悪化に大きな影響を果たすことが示唆されている。 日本糖尿病学会では、合併症予防のためのHbA1c目標値を7.0%未満、それに対応する血糖値の目安を、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満と定めているが、実臨床では空腹時血糖値を目標値まで下げたとしても、食後の高血糖が存在し、HbA1c目標値を達成できない「かくれ高血糖」の患者も散見されるという。 かくれ高血糖患者の治療では、「低血糖と体重増加リスクを抑えながら、いかに空腹時血糖値だけでなく、食後高血糖も同時に改善するかが求められる」と寺内氏は臨床上の課題を提起する。かくれたメリットもあるソリクアの特徴 寺内氏は、国内で行われた第III相試験であるLixiLan試験(インスリン未治療のHbA1cコントロール不良の2型糖尿病患者)でJP-01試験(リキスミアと本剤を52週で評価)と同JP-02試験(ランタスと本剤を26週で評価)を示し、説明を行った。 ランタスと比較したJP-02試験では、本剤+経口血糖降下薬群(n=260)とランタス注+経口血糖降下薬群(n=261)を26週にわたり投与した。26週時のHbA1cの変化量でみるとベースラインからの変化量は本剤群で-1.40%(ベースライン時の平均HbA1c:8.18%)、ランタス群で-0.76%(同:8.12%)と有意に低下し、空腹時血糖の変化量では本剤群で-31.84mg/dL、ランタス群で-24.75mg/dLだった。また、食後2時間血糖の変化量では、本剤群で-109.60mg/dL、ランタス群で-23.53mg/dLだった。HbA1cが7.0%未満になった割合では、本剤群で71.5%、ランタス群で38.5%だった。体重の変化量ではベースラインから本剤群では0.26kg、ランタス群では1.33kgの増加だったほか、低血糖の出現は本剤群で低い結果だった。安全性では、本剤群で悪心、腹部不快感、食欲減退などが報告されたが、死亡にいたる副作用は報告されなかった。以上から、ランタスに対し、本剤の優越性が示されるとともに、新たな安全性シグナルも確認されず、本剤が新たな治療選択肢となる根拠が示された結果となった(同様に本剤とリキスミアを比較したJP-01試験でも効果、安全性ともに本剤の優越性が示された)。 寺内氏は、質疑応答の中で「ソリクアは、新医薬品に係る投薬期間制限の対象外のため、患者の通院回数を減らすことができるかくれたメリットもある」と述べレクチャーを終了した。ソリクアの概要一般名:インスリン グラルギン(遺伝子組換え)/リキシセナチド製品名:ソリクア配合注ソロスター効能・効果:インスリン療法が適応となる2型糖尿病用法・用量:通常、成人には、5~20ドーズ(インスリン グラルギン/リキシセナチドとして5~20単位/5~20μg)を1日1回朝食前に皮下注射。ただし、1日1回5~10ドーズから開始し、患者の状態に応じて増減するが、1日20ドーズを超えないこと。なお、本剤の用量単位である1ドーズには、インスリン グラルギン1単位およびリキシセナチド1μgが含まれる。製造販売承認取得日:2020年3月25日薬価収載日:2020年5月20日発売日:2020年6月8日薬価:6,497円投薬制限に関して:新医薬品に係る投薬期間制限(14日分を限度とする)の対象外

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ICI有害事象、正しく理解し・正しく恐れ・正しく対処しよう【そこからですか!?のがん免疫講座】第5回

はじめに今までは、主に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果に焦点を当てて解説してきましたが、今回は少し趣を変えて有害事象、とくにICI特有の免疫関連有害事象に焦点を当て、それがどのようなメカニズムで起きるのかを話題にしたいと思います。抗がん剤の有害事象のいろいろ抗がん剤の有害事象といえば、やはり悪心・嘔吐、脱毛、血球減少などをイメージするかと思います。これらはいずれも、細胞傷害性抗がん剤といって、シスプラチンなどの従来の抗がん剤でよく出現した有害事象です。がん細胞だけでなく、さまざまな正常細胞を傷害してしまい、傷害を受けやすい細胞がダメージを受けて有害事象につながります。とくに血球減少はそれに伴う感染症で命にも関わるので、皆さん非常に気を使っているかと思います。その後、ゲフィチニブなどの分子標的薬が登場して、標的に応じた特有の有害事象が出現するようになりました。たとえば、ゲフィチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)を阻害しますので、上皮が傷害される結果起きる有害事象の報告が多くなります。皮膚であれば皮疹、腸管上皮であれば下痢、といったような感じです。血管新生阻害薬であれば血管内皮細胞増殖因子(VEGF)という分子を阻害するため、特有の高血圧など血管に関わる有害事象が起きやすくなります。では、あらためてICIについて考えてみましょう。ICIは免疫、とくにT細胞を活性化させる薬剤ですので当然といえば当然ですが、免疫に関連した特有の有害事象を起こします。前回までに免疫が自己を攻撃すると「自己免疫性疾患」になる、という話をしましたが、まさに「自己免疫性疾患」のような有害事象が出現し、それらをまとめて免疫関連有害事象と呼んでいます。ICIにより活性化したT細胞はさまざまな臓器を攻撃し、臓器によって非常に多彩な有害事象が報告されています1)。たとえば、甲状腺を攻撃すれば甲状腺機能異常、肺を攻撃すれば肺臓炎、消化管を攻撃すれば腸炎、膵臓のインスリン産生細胞を攻撃すれば糖尿病、といった具合です1)。従来の抗がん剤治療ではあまり見ない有害事象が多く、まれながら命に関わるものも報告されています。適切に対処するためには、まれでも「起きうる」と認識することが重要です。有害事象が発生するメカニズム「ICIが免疫を活性化するから有害事象が発生する」だけでは、本稿は終了になってしまいますので、もう少し詳しく説明したいと思います。自己抗原に反応して攻撃するT細胞は発生の過程で選択を受けるので、われわれの身体の中にはあまり残っていないはずです。しかし、一部は除去されずに残っているものがあるとされ、そういったT細胞が自己を攻撃すると「自己免疫性疾患」になってしまいます。こうしたT細胞が自己を攻撃しないようにするシステムがわれわれの身体には元々備わっており、そのシステムが正常に働いていれば問題は起きません。そして、そのシステムの1つが、免疫チェックポイント分子なのです。PD-1やCTLA-4も決してがん細胞を攻撃するT細胞“だけ”を抑制している分子ではなく、むしろ、本来こうした「自己を攻撃しないために備わっている分子」なのです。したがって、ICIの使用によってがん細胞を攻撃するT細胞だけでなく、自己を攻撃するT細胞も活性化されることで、自己免疫性疾患のような有害事象が出てしまうのです(図1)。画像を拡大する免疫関連有害事象を「正しく」恐れる前回、「抗原には階層性がある」という話をしました。「強い免疫応答を起こせる抗原はがんのネオ抗原で、自己抗原は強い免疫応答を起こさない」はずでしたね(図2)。画像を拡大する実は、弱い抗原によって活性化されたT細胞であれば、ステロイドなどのT細胞を抑制する薬剤によって比較的抑えられやすく、逆に強い抗原によって活性化されたT細胞は、ステロイドでは抑えにくい、という実験結果があります(図3)2)。画像を拡大する実はこのことはICIにとって非常に都合がよいことです。「(強い免疫応答を起こさない抗原である)自己抗原を認識するT細胞の活性化はステロイドによって抑制されやすい」、すなわち、「(自己を攻撃するT細胞の活性化によって起きる)免疫関連有害事象はステロイドなどの適切な治療によって抑えることができる」からです(図3)。逆に、「(強い免疫応答を起こす)ネオ抗原を認識するT細胞の活性化にステロイドはあまり影響を与えない」、つまりは「ステロイドは効果にあまり影響しない」といえます(図3)。大規模な臨床で証明された確定的なものではなく、あくまで可能性での話になりますが、以上のことから、ステロイドはICIの効果にあまり影響を与えることなく、免疫関連有害事象を抑えられるかもしれません(図3)2)。実際、有害事象にはステロイド使用などの適切な対処で対応できる場合が多く、有害事象でステロイドを使用したうえでICI投与を中止しても、薬剤の効果が続いたケースも報告されています。効果と関係があるってホント?個々の患者でICIによる免疫の活性化度合いは異なります。ここでまた抗原の階層性の話になりますが、強い免疫応答を起こすネオ抗原を認識するT細胞だけを運よくICIが活性化できれば、効果だけが出て、免疫関連有害事象は起きません(図4:A)。一方、弱い免疫応答を起こす自己抗原を認識するT細胞まで活性化させる反応がICIで起きた場合を想定してください。もちろん、自己を攻撃する免疫関連有害事象は起きますが、それほど強い免疫の活性化であれば、強い反応を起こすネオ抗原を認識するT細胞も活性化しているはずなので、効果も出るはずです(図4:B)。こういった患者さんが一定割合で存在するため、効果と有害事象はある程度の相関性があるはずです3)。画像を拡大するもちろん、ICIで免疫応答がまったく起きない人には有害事象も効果も出ません(図4:C)。では、有害事象だけが出て効果がない人では何が起きているのか?と疑問も湧くかと思いますが、1つの理由を抗原の観点で論じるならば、どんなに免疫を活性化させても、元のがん細胞にネオ抗原のような標的になるがん抗原が少ない場合にはやはり無効なのだろう、と思われます(図4:D)。それだけがん抗原は重要な要素なのです。免疫関連有害事象を正しく理解し・正しく恐れ・正しく対処すれば、ICIは効果がある患者さんにとっては大きなメリットのある薬剤です。当初の連載予定回数をオーバーしてしまいましたが、次回は追加で細胞療法の話をしたいと思います。1)Michot JM, et al. Eur J Cancer. 2016;54:139-148.2)Tokunaga A, et al. J Exp Med. 2019;216:2701-2713.3)Haratani K, et al. JAMA Oncol. 2018;4:374-378.

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