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GLP-1受容体作動薬はパーキンソン病全般にも有効か?(解説:内山真一郎氏)

 パーキンソン病患者に対するGLP-1受容体作動薬の効果を検討する第III相無作為化比較試験が英国で行われた。25~80歳でドーパミン治療を行っているHoehn & Yahrステージが2.5以下のパーキンソン病患者に、徐放型エキセナチド2mgかプラセボを96週間にわたって週1回皮下注射し、1次評価項目としてパーキンソン病の運動障害スケールであるUPDRS Part IIIを評価したところ、エキセナチド群とプラセボ群の悪化度には有意差がなく、疾患修飾薬としてのエキセナチドの有効性は証明されなかった。このエキセナチドの臨床効果の欠如は、DATスキャンの画像所見上の効果の欠如とも一致していた。 この試験結果が否定的だったのは、中枢神経へのエキセナチドの移行が不十分であったことが原因である可能性も否定できないが、2型糖尿病患者ではパーキンソン病の進行がGLP-1受容体作動薬により抑制されたという強力なエビデンスがあることを考えると、GLP-1受容体作動薬はインスリン抵抗性による神経炎症反応を抑制して効果を発揮している可能性があり、HbA1cが比較的高いサブグループのパーキンソン病患者に標的を絞った臨床試験を行う価値があるように思われる。

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脂肪の多い筋肉は心疾患リスクを高める

 霜降り肉のステーキはグリル料理で高く評価されるが、人間の筋肉に霜降り肉のように脂肪が蓄積していると命取りになるかもしれない。新たな研究で、筋肉中に脂肪が多い人は、心臓に関連した健康問題で死亡するリスクが高いことが明らかになった。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院心臓ストレス研究室のViviany Taqueti氏らによる研究で、詳細は「European Heart Journal」に1月20日掲載された。 この研究は、冠動脈疾患(CAD)の評価のために、2007年から2014年の間に同病院で全身PET/CT検査を用いた心臓ストレステストを受けた669人の患者(平均年齢63歳、女性70%)を対象にしたもの。PET/CT検査で左室駆出率(LVEF)、心筋血流量(MBF)、冠血流予備能(CFR)などを評価するとともに、CTで胸部の体組成として、皮下脂肪、骨格筋、筋肉間脂肪組織(IMAT)などを調べ、骨格筋内の脂肪の比率(fatty muscle fraction;FMF)を算出した。対象患者を中央値で5.8年にわたって追跡し、追跡期間中の主要心血管イベント(MACE、死亡または心筋梗塞か心不全による入院と定義)発生の有無を調べた。 その結果、筋肉中の脂肪が多い人は、心臓に血液を供給している微小血管に障害が生じる冠微小循環障害(coronary microvascular dysfunction;CMD)のリスクが有意に上昇することが明らかになった。具体的には、FMFが1%増加するごとに、CMD発症の指標であるCFRが2未満となるオッズが上昇していた(オッズ比1.02、95%信頼区間〔CI〕1.01〜1.04、P=0.04)。また、MACEリスクについても7%増加していた(ハザード比1.07、95%CI 1.04〜1.09、P<0.001)。さらに、CFRとIMATとの間には有意な交互作用が認められ、筋肉中の脂肪レベルが高くCMDを有する人は、特にMACEリスクが高いことも示された。一方、骨格筋量や皮下脂肪の多さは、MACEリスクの低下と関連することも明らかになった。 Taqueti氏は、「皮下脂肪と比べると、筋肉に蓄積した脂肪は炎症や糖代謝の変化を促し、それがインスリン抵抗性やメタボリックシンドロームを引き起こす可能性がある」と説明。「その結果として、こうした慢性的な障害は、心臓に血液を供給するものを含めた血管や心筋そのものに損傷を引き起こす可能性がある」と付け加えた。 またTaqueti氏らは、「BMIが適正範囲の人でも、筋肉中に脂肪が蓄積している可能性はある」と指摘する。実際、IMATがMACEリスクを高めることは、BMIや他の既知の心臓リスク因子とは独立して認められたという。Taqueti氏は、「筋肉中の脂肪が心疾患のリスクを高めることが分かったことで、BMIに関係なくリスクが高い人を特定する新たな方法が得られる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 今回の研究の結果についてTaqueti氏らは、「BMIやウエスト周囲径のような指標は、あらゆる人の心臓病リスクを正確に評価するには適切ではないとする主張の高まりを支持する、さらなるエビデンスとなるものだ」と述べている。ただ、残念ながら、筋肉中の脂肪が多い人の心臓リスクを低下させる方法については、現時点では不明であるとTaqueti氏は言う。同氏は、「例えば、減量療法などの治療法が、体内の筋肉以外の部分の脂肪や除脂肪組織、最終的には心臓に与える影響と比較して、筋肉中の脂肪にどのような影響を与えるのかは分かっていない」と述べている。

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2型糖尿病に対する新たな週1回インスリン製剤(解説:安孫子亜津子氏)

 本論文では、新たな週1回注射の基礎インスリンであるefsitoraの2型糖尿病に対する第III相試験(QWINT-2)の結果が報告された。 2型糖尿病に対する治療としては、インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬の登場後、インスリン導入が遅くなったり、インスリン使用量が減量できる症例も増えてきている。ただし、わが国ではインスリン分泌能の低下した痩せ型の2型糖尿病で、インスリンを確実に補充することが必要な患者も多く認められる。とくに長期間SU薬を使用してきたような高齢者2型糖尿病に対するインスリン治療では、頻回注射や毎日の注射ができなくなる症例もあり、注射回数の減少は、わが国の糖尿病治療において必須の課題である。 今回の第III相試験においては、新たな週1回efsitoraが、基礎インスリンとしては効果持続時間の長いタイプであるデグルデクに比較して、52週までのHbA1cの変化量が非劣性であり、既存の基礎インスリンと同等の効果が証明された。また低血糖の頻度も多くはなってはおらず、むしろefsitora群で重症低血糖が認められなかった。さらに本試験ではCGMによる評価も行われており、興味深いことにefsitora群では70~180mg/dLのTime in Target Rangeが68.9%であり、非常に理想的な血糖変動にも近づけていることが認められている。 週1回と注射回数が少ないことは、インスリン治療のハードルを下げ、インスリンユーザーやその周囲の人たちの負担を軽くすることが期待できる。なおかつ、低血糖を増やさずに安全に目標血糖値を目指すことができる新たなインスリン製剤の使用が待ち遠しい限りである。

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患者さんの血糖管理を楽にする週1回注射のインスリン イコデク/ノボ

 ノボノルディスクファーマは、世界初の週1回投与のインスリンアナログ製剤インスリン イコデク(商品名:アウィクリ)の1月30日の発売に合わせ、「これからの2型糖尿病におけるインスリン治療」をテーマに都内でプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、イコデクの製品説明のほか、専門医によるインスリン治療のアンメットニーズ、イコデクの第III相臨床試験である「ONWARDS試験」の詳しい内容、使用に適する患者像などが説明された。インスリン導入の障壁を超すことに期待 「企業紹介と製品説明」をテーマに杉井 寛氏(同社取締役副社長経営企画本部 本部長)が、企業概要とイコデクの製品概要を説明した。デンマークに本社を置く同社の社会的意義は「糖尿病で培った知識や経験を基に、変革を推進し深刻な慢性疾患を克服する」ことであり、現在、糖尿病、肥満症、希少疾患、心血管および新疾患領域で活躍をしている。 そして、主要製品を上梓している糖尿病について、「2型糖尿病におけるインスリン導入の遅延」について触れ、医師に聴取したアンケートを示し、概要を説明した。 アンケートで「医師自身が2型糖尿病だとしたらインスリン治療を開始するHbA1c値」についての回答は8.2%、「患者さんのインスリン治療を開始するべきと考えるHbA1c値」についての回答は8.7%、「インスリン治療を実際に患者さんに勧めたHbA1c値」についての回答は9.6%と医師の理想と実際の導入時期には大きな隔てがあることを示した1)。そして、注射回数の多さが導入遅延の原因の1つであり、こうした障壁の解決が模索されていた。 今回登場したイコデクは週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液であり、糖尿病患者の負担を軽減すると期待されている。イコデクは、ヒトインスリン分子を修飾して半減期が延長されるように設計されている。注射をすると1週間分のイコデクが1度に投与されることになるが、そのほとんどがアルブミンと結合し、時間と共に蓄積し、循環血液中の不活性な貯蔵体(デポー)が形成される。そして、イコデクは標的組織にゆっくりと、少量ずつ移行し、血糖降下を促す機序となっているという。臨床試験では第III相試験としてONWARDS試験が行われ、いずれもほかのインスリンと比較しても非劣性であり、低血糖の発現など安全性の面でも良好な結果だった。杉井氏は、これらの結果を踏まえ、インスリン導入が今後進展することに期待を寄せた。医師と患者さんの望みに合うインスリン製剤 「これからの2型糖尿病におけるインスリン治療」をテーマに綿田 裕孝氏(順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学 教授)が、インスリン治療の概要やONWARDS試験について説明を行った。 インスリンは血糖を下げる唯一のホルモンであり、2型糖尿病ではインスリン分泌能が低下するか、インスリン抵抗性が増大することで、体内のインスリン作用が不足し、食後や空腹時高血糖となる。こうした糖尿病で懸念されるのが神経障害や腎障害、眼障害の合併症であり、最近では、心疾患や肝臓障害、認知症も併存しやすい疾患として知られている。 糖尿病の治療では、近年、多くの血糖降下薬などが使用できるようになり、血管合併症予防のための血糖管理を容易にする薬剤が登場している。そのためわが国の糖尿病治療の目標も「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」を掲げ、糖尿病合併症の発症、進展の阻止を目指して診療が行われている。 非インスリン依存状態の治療では、生活習慣改善のために食事療法と運動療法がまず第1選択として行われ、さらに効果不良の場合に血糖降下薬などが追加される。 インスリン依存状態の治療では、インスリン分泌が著しく低下している患者さんには、基礎インスリンと追加インスリンの治療が、インスリン分泌が比較的保たれている患者さんには、基礎インスリンと血糖降下薬での治療が通常行われている。 ただ、インスリン治療の障壁として、低血糖の発生、治療の複雑化、患者さんの注射の実施率などの課題が指摘されている。実際、医師への「インスリン治療に対する認識」のアンケートでは、「毎日注射しなくても良好にコントロールできるインスリンが欲しい」と91.2%の医師が回答し、「毎日の注射の回数が患者さんの障害になっている」と58.5%の医師が問題性を指摘している2)。また、患者さん側の週1回インスリン製剤の認識として「利便性が高い」「アドヒアランスの向上」「治療への抵抗感の改善」などの声もあり、医師と患者双方の側で週1回のインスリン製剤が望まれていることが報告された。他のインスリンと比較し効果は非劣性かつ安全 今回発売されたイコデクは、第III相臨床試験で“ONWARDS試験”が行われ、6つの試験が実施された。 ONWARDS1はインスリン治療歴のない2型糖尿病患者を対象とした試験で、イコデク群492例(週1回投与)とグラルギンU100群492例(1日1回投与)を78週にわたり有効性と安全性を比較したもの(日本人164例を含む国際共同治験)。52週までのHbA1c変化量と推移では、ベースラインからイコデク群が-1.6%だったのに対し、グラルギンU100群は-1.4%で非劣性が検証され、統計的な有意差が認められた。また、78週経過後も同様の変化量で推移していた。HbA1c7.0未満の達成率は、78週でイコデク群が54.5%だったのに対し、グラルギンU100群は46.4%だった。CGMパラメータについて、投与後48~52週のTIR(time in range:血糖値が70~180mg/dLの範囲にある時間の割合)について、イコデク群が71.9%だったのに対し、グラルギンU100群は66.9%と統計的に有意に高い値だった。安全性につき重大または臨床的に問題となる低血糖の発生は、83週でみた場合、イコデク群が61件(12.4%)だったのに対し、グラルギンU100群は70件(14.2%)だった3)。 ONWARDS2は、Basalインスリンで治療中の2型糖尿病患者を対象としたインスリン以外の糖尿病治療薬の併用/非併用下でのイコデク群263例(週1回投与)とグラルギンU100群263例(1日1回投与)を26週にわたり有効性と安全性を比較したもの(日本人100例を含む国際共同治験)。26週までのHbA1c変化量と推移では、ベースラインからイコデク群が-0.9%だったのに対し、グラルギンU100群は-0.7%で非劣性が検証され、統計的な有意差が認められた。HbA1c7.0未満の達成率は、26週でイコデク群が40.3%だったのに対し、グラルギンU100群は26.5%だった。安全性につき重大または臨床的に問題となる低血糖の発生は、26週でみた場合、イコデク群が37件(14.1%)だったのに対し、グラルギンU100群は19件(7.2%)だった。 また、副次的評価項目として糖尿病治療満足質問票(DTSQ)の総スコアでは、26週でイコデク群が4.2だったのに対し、グラルギンU100群は3.0で、イコデク群の方が高いスコアで、有意に改善していた。「満足度」、「利便性」、「融通性」などの各スコアでいずれもイコデク群の方が高かった4)。 最後に綿田氏は、イコデクの使用に適切な患者像として具体的に次の7つを示した。(1)2型糖尿病で基礎インスリンによる治療を開始する患者さん(2)これまでにインスリン導入がなかなかできなかった患者さん(3)若い方~壮年の患者さん(4)毎日のインスリン注射、もしくはそのサポートが負担になっている患者さん(5)高齢でインスリン分泌が少なくなっている患者さん(家族による投与も含む)(6)訪問診療/訪問看護、来院での週1回投与が可能な患者さん(医療従事者が投与)(7)1型糖尿病で毎日のインスリン注射ができない患者さん(高血糖や糖尿病性ケトアシドーシス回避のために) 綿田氏は、「今後、こうした患者さんを対象に使用されると考えられるが、実臨床での効果を検討しつつ、学会などで知見を集積していきたい」と展望を語り、講演を終えた。

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加糖飲料により毎年世界で数百万人が糖尿病や心血管疾患を発症

 加糖飲料の影響で、世界中で毎年200万人以上の人が2型糖尿病(T2DM)を発症し、120万人以上の人が心血管疾患(CVD)を発症しているとする論文が、「Nature Medicine」に1月6日掲載された。米ワシントン大学のLaura Lara-Castor氏らの研究によるもので、論文の筆頭著者である同氏は、「T2DMやCVDによる早期死亡を減らすためにも、加糖飲料消費量削減を目指したエビデンスに基づく対策を、世界規模で直ちに推し進めなければならない」と話している。 この研究では、184カ国から報告されたデータを用いた統計学的な解析により、加糖飲料摂取に関連して発症した可能性のあるT2DMとCVDの新規患者数を推定した。その結果、2020年において、約220万人(95%不確定区間200~230万)の新規T2DM患者、および、約120万人(同110~130万)の新規CVD患者が、加糖飲料摂取に関連するものと推定された。この数はそれぞれ、2020年の新規T2DM患者全体の9.8%、新規CVD患者の3.1%を占めていた。また、加糖飲料摂取に起因するT2DM患者の死亡が8万人、CVD患者の死亡が約26万人と推定された。 人口規模が上位30カ国の中で、加糖飲料摂取に関連する新規T2DM患者が多い国は、メキシコ(成人100万人当たり2,007人、新規T2DM患者全体に対して30%)、コロンビア(同1,971人、48.1%)、南アフリカ(1,258人、27.6%)などであり、新規CVD患者については、コロンビア(1,084人、23.0%)、南アフリカ(828人、14.6%)、メキシコ(721人、13.5%)などだった。なお、日本の加糖飲料摂取に関連する新規T2DM患者数は2万8,981人、新規CVD患者数は8,396人、死亡はそれぞれ158人、1,947人と推定されている。 加糖飲料がこれほどの害をもたらす理由の一つとして、栄養価が低いにもかかわらずカロリーは高く、また吸収が早いために満腹感を感じる前に飲み過ぎてしまいやすいことなどの影響が考えられている。長期にわたる加糖飲料の習慣的な摂取は、体重増加、インスリン抵抗性、そして、世界の死亡原因の上位を占めるT2DMやCVDの発症につながる。さらに加糖飲料は安価で、広く入手可能だ。論文の共著者である米タフツ大学のDariush Mozaffarian氏は、「低所得国や中所得国では加糖飲料が盛んに宣伝・販売されている。それらの国々では、長期的な健康への影響という視点での対策が十分講じられておらず、人々は健康に有害な食品を摂取してしまいやすい」と解説。また、著者らによると、国が発展し国民の所得が伸びるにつれて、加糖飲料がより入手しやすい飲み物になり、好まれるように変化していくという。 ソーダ税などの政策が、この問題の拡大を遅らせるかもしれない。米国の一部の地域で行われた研究は、そのような取り組みが効果的であることを示している。米ボストン大学公衆衛生大学院のデータによると、シアトルやフィラデルフィアといった米国内5都市で、課税に伴う加糖飲料の価格上昇による消費量減少が観察されたという。さらに最近の調査からは、カリフォルニア州の複数の都市で課税が導入された後、加糖飲料の売上減少とともに、若者のBMIの平均値が低下したことが明らかにされた。 課税を含む公衆衛生アプローチは、米国以外の国でも有効な可能性がある。また著者らは、課税などの戦略に加えて、人々の意識を高めるための公衆衛生キャンペーンや、広告の規制を求めている。現在すでに80カ国以上が、加糖飲料の消費削減を目的とした対策を実施しており、著者らによると「一部の国では介入効果が現れ始めている」という。

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GIP/GLP-1受容体に作用する週1回の肥満症治療薬「ゼップバウンド皮下注」【最新!DI情報】第32回

GIP/GLP-1受容体に作用する週1回の肥満症治療薬「ゼップバウンド皮下注」今回は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、週1回投与の肥満症治療薬であり、食欲を調節すると同時に、脂質などの代謝を亢進させることによって体重を減少させることが期待されています。<効能・効果>肥満症を適応として、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。本剤は高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に使用されます。BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有するBMIが35kg/m2以上<用法・用量>通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgから開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射します。患者の状態に応じて適宜増減し、週1回5mgまで減量、または4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mgまで増量することができます。なお、本剤は週1回投与する薬剤であり、同一曜日に投与します。<安全性>重大な副作用として、低血糖、胆嚢炎、胆汁うっ滞性黄疸、アナフィラキシー、血管性浮腫(いずれも頻度不明)、急性膵炎、胆管炎(いずれも0.1%未満)が報告されています。胃腸障害が現れた場合は急性膵炎の可能性を考慮し、必要に応じて画像検査などによる原因の精査が行われることがあります。また、下痢や嘔吐が続くことで脱水となり、急性腎障害を起こす恐れがあるため、適度な水分補給が必要です。その他の副作用は、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退、注射部位反応(紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹など)(いずれも5%以上)、腹部膨満、胃食道逆流性疾患、おくび、鼓腸、疲労、浮動性めまい、脱毛症(いずれも1~5%未満)、心拍数増加、低血圧、血圧低下、胆石症、糖尿病網膜症、過敏症(湿疹、発疹、そう痒性皮疹など)、味覚不全、異常感覚、膵アミラーゼ増加、リパーゼ増加、体重減少(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は肥満症の患者さんのうち、高血圧や脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない人に用いられます。2.この薬は食欲を調節すると同時に、脂質などの代謝を亢進させることによって体重を減少させる作用があります。3.美容やダイエットの目的で使用しないでください。4.この薬の使用中も食事療法・運動療法を継続してください。5.週1回の投与で効果が持続するように製剤的な工夫をした注射薬です。毎週、同じ曜日に注射してください。6.のどの渇きや立ちくらみなどの脱水症状が現れた場合は、十分な水分摂取を行い、速やかに主治医に相談してください。<ここがポイント!>ゼップバウンドは、持続性のグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つの受容体に作用する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。本剤の成分であるチルゼパチドは、2023年4月より2型糖尿病の治療薬としてマンジャロの商品名で販売されていますが、今回新たに肥満症の治療薬として承認を取得しました。肥満症は個人の生活習慣のみによって引き起こされるという誤解がありますが、遺伝的、心理的、社会的なさまざまな要因が複合的に影響し発症する慢性疾患です。チルゼパチドは中枢神経系においてGIP/GLP-1受容体に作用して食欲を調節すると同時に、脂肪細胞のGIP受容体に作用して脂質などの代謝を亢進し、体重を減少させる効果があります。本剤は、食事療法や運動療法を行っても十分に効果が得られない高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有する患者を対象にしています。美容や痩身、ダイエットなど肥満症治療以外の目的で使用することはできません。投与には1回使い切りのオートインジェクター型注入器(商品名:アテオス)を使用し、週1回皮下注射します。適切な在宅自己注射教育を受けた患者または家族は自宅で自己注射が可能です。日本人肥満症患者を対象とした国内第III相試験(GPHZ試験:SURMOUNT-J)において、投与72週時の体重のベースラインからの平均変化率は、プラセボ群が-1.8%であったのに対し、チルゼパチド10mg群では-18.4%、チルゼパチド15mg群では-22.6%であり、チルゼパチド両群でプラセボ群に対する優越性が示されました。また、5%以上の体重減少を達成した試験参加者の割合は、プラセボ群が21.2%であったのに対し、チルゼパチド10mg群では94.9%、チルゼパチド15mg群では96.9%であり、チルゼパチド両群でプラセボ群に対する優越性を示しました。

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過体重/肥満の2型糖尿病、ダパグリフロジン併用で寛解率が大きく改善/BMJ

 過体重または肥満を伴う2型糖尿病患者において、カロリー制限療法単独と比較してSGLT2阻害薬ダパグリフロジンと定期的なカロリー制限の併用は、大幅に高い糖尿病寛解率を達成し、体重減少やさまざまな代謝性リスク因子(体脂肪率、インスリン抵抗性指数[HOMA-IR]、収縮期血圧、空腹時血糖値、HbA1c値など)も有意に改善することが、中国・復旦大学のYuejun Liu氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年1月22日号に掲載された。中国の無作為化プラセボ対照比較試験 研究グループは、2型糖尿病の寛解に及ぼすダパグリフロジン+カロリー制限療法の有効性の評価を目的に多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行い、2020年6月~2023年1月に中国の16の施設で患者を登録した(中国国家自然科学基金などの助成を受けた)。 年齢20~70歳の2型糖尿病(罹患期間6年未満)で、BMI値25以上、HbA1c値6.5~10%の患者328例を対象とした。これらの患者を、カロリー制限療法に加え、ダパグリフロジン(10mg/日)を投与する群(165例)、またはプラセボを投与する群(163例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、糖尿病の寛解(抗糖尿病薬の投与を2ヵ月以上受けておらず、HbA1c値<6.5%かつ空腹時血糖値<126mg/dL)とした。 全体の平均年齢は46.7歳、男性が218例(66%)で、平均BMI値は28.2、平均HbA1c値は7.3%であり、148例(45%)がベースラインでメトホルミンの投与を受けていた。介入期間中央値は、ダパグリフロジン群が9ヵ月(四分位範囲:4~12)、プラセボ群は12ヵ月(4~12)だった。HDLコレステロール、トリグリセライドも改善 12ヵ月の時点での糖尿病寛解率は、プラセボ群が28%(46例)であったのに対し、ダパグリフロジン群は44%(73例)と有意に良好であった(リスク比:1.56[95%信頼区間[CI]:1.17~2.09]、p=0.002)。 また、副次アウトカムであるベースラインから最終受診時までの体重の変化量(ダパグリフロジン群-5.0[SD 4.5]kg vs.プラセボ群-3.2[3.8]kg、推定群間差:-1.3kg[95%CI:-1.9~-0.7]、p<0.001)およびHOMA-IRの変化量(-1.8 vs.-0.6、-0.8[-1.1~-0.4]、p<0.001)も、プラセボ群に比べ、ダパグリフロジン群で優れた。 同様に、体脂肪率の変化量(-2.1[SD 2.8]% vs.-1.4[3.4]%、-0.5%[95%CI:-0.9~0]、p=0.05)、収縮期血圧の変化量(-4.0[12.3]mmHg vs.-3.6[13.1]mmHg、-1.9mmHg[-3.0~-0.7]、p=0.002)、空腹時血糖値の変化量(-23.4[25.0]mg/dL vs.-13.8[29.1]mg/dL、-9.2mg/dL[-11.8~-6.7]、p<0.001)、HbA1c値の変化量(-1.0[1.0]% vs.-0.8[0.9]%、-0.2%[-0.3~-0.1]、p=0.003)のほか、HDLコレステロール値の変化量(4.8[6.9]mg/dL vs.2.3[6.2]mg/dL、1.3mg/dL[0.4~2.2]、p=0.003)、トリグリセライド値の変化量(-17.3[-62.0~7.1]mg/dL vs.-4.4[-35.4~20.4]mg/dL、-16.4mg/dL[-31.3~-1.6]、p=0.03)もダパグリフロジン群で良好だった。軽度~中等度の有害事象の発現率は同程度 ダパグリフロジン群で重篤な有害事象が2例(1.2%、いずれも尿路感染症による入院)に発現した。試験期間中の死亡例はなく、軽度~中等度の有害事象の発現率は両群で同程度だった。 著者は、「これらの知見は、初期の2型糖尿病患者の寛解の達成において、強力な体重管理以外の新たな選択肢として、より実践的な戦略を提供するものである」としている。

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世界初の週1回皮下投与のインスリン イコデクが発売/ノボ

 ノボ ノルディスク ファーマは、週1回投与のインスリンアナログ製剤インスリン イコデク(商品名:アウィクリ、以下、イコデク)を1月30日に発売した。イコデクは、「インスリン療法が適応となる糖尿病」を適応症として世界で初めてとなる週1回投与の新しいBasalインスリン製剤。半減期は約1週間で、長時間作用が持続する。皮下投与後、イコデクは可逆的にアルブミンと結合するが、緩徐にアルブミンから解離し、インスリン受容体と結合して作用することで、血糖降下作用が1週間にわたり持続する。 Basalインスリン製剤は、生理的なインスリンの基礎分泌を補充する目的で糖尿病を有する患者の血糖管理に用いられ、通常1日1回もしくは2回の皮下注射が必要となる。イコデクは週1回皮下注射製剤のため、従来のインスリン製剤よりも投与回数を大幅に減らすことができ、利便性が高いだけでなく、患者の心理的な治療負担の軽減により生活の質や治療実施率の向上が期待される。 本剤の承認は、イコデクの第III相試験プログラムである「ONWARDS試験」の結果に基づいている。ONWARDS試験は、成人の1型または2型糖尿病の患者4,000例以上を対象とした6つのグローバル第III相臨床試験で構成され、そのうち4つの試験(ONWARDS1、2、4および6)に日本人400例以上が参加している。ONWARDS試験はいずれも、イコデクの有効性および安全性を実薬対照と比較する無作為割り付け、並行群間、多施設共同、国際共同試験。これらの試験を通じて、週1回投与のイコデクでは、1日1回投与の持効型溶解インスリンと比較し非劣性が検証され、良好な有効性が認められた。また、すべての試験において、イコデクの投与は安全かつ忍容性は良好であり、予期されない安全性の問題は認められなかった。 同社では「週1回の投与であれば、Basalインスリン製剤の注射回数は少なくとも1年間に365回から約52回に減り、心理的な治療の負担軽減や注射実施率の向上が期待できる。イコデクは、糖尿病治療における有用な新しいオプションになると考えている」と期待を寄せている。【製品概要】一般名:インスリン イコデク(遺伝子組換え)販売名:アウィクリ注フレックスタッチ 総量300単位効能または効果:インスリン療法が適応となる糖尿病用法および用量:通常、成人では1週間に1回皮下注射する。初期は通常1回30~140単位とし、患者の状態に応じて適宜増減する。薬価:アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位:2081円/キット製造販売承認:2024年6月24日薬価収載日:2024年11月13日発売日:2025年1月30日製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ

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肥満症治療薬、減量効果が特に高いのはどれ?

 GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬などの肥満症治療薬のうち、肥満や過体重の人の減量に最も効果的なのはどれなのだろうか? マギル大学(カナダ)医学部教授のMark Eisenberg氏らにより「Annals of Internal Medicine」に1月7日掲載された新たな研究によると、その答えは、デュアルG(GIP〔グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド〕/GLP-1)受容体作動薬のチルゼパチド(商品名ゼップバウンド)、GLP-1受容体作動薬のセマグルチド(商品名ウゴービ)、および開発中のトリプルG(GLP1/GIP/グルカゴン)受容体作動薬のretatrutide(レタトルチド)であるようだ。これに対し、GLP-1受容体作動薬のリラグルチド(商品名サクセンダ)の減量効果は、これら3種類ほど高くないことも示された。 GLP-1受容体作動薬は、食物を摂取したときに小腸から分泌されるホルモンのGLP-1の作用を模倣した薬剤で、もともと糖尿病の治療薬として開発された。GLP-1は、胃の内容物の排出を遅らせることで食後の血糖値の急上昇を抑えるとともに、中枢神経に作用して満腹感を高める効果を持つ。これにより、食物の摂取量が減り、それが体重減少につながる。デュアルGやトリプルG受容体作動薬は、GLP-1受容体に加え、GIP受容体やグルカゴン受容体などをターゲットにすることで、血糖値上昇を抑制したり満腹感を促進したりする効果を高めようとするもの。 今回Eisenberg氏らは、総計1万5,491人(女性72%、平均BMI 30〜41、平均年齢34〜57歳)を対象にした26件のランダム化比較試験(RCT)のデータを用いて、糖尿病のない肥満者に対する肥満症治療薬の有効性と安全性を検討した。これらのRCTでは、3種類の市販薬(リラグルチド、セマグルチド、チルゼパチド)およびretatrutideなど9種類の承認前薬剤の計12種類の効果が検討されており、治療期間は16週間から104週間(中央値43週間)に及んだ。 その結果、プラセボ投与と比較して、72週間のチルゼパチド(週1回15mg)投与により最大17.8%、68週間のセマグルチド(週1回2.4mg)投与により最大13.9%、48週間のretatrutide(週1回12mg)投与により最大22.1%の体重減少が確認された。また、これらの効果に比べると控え目ではあるものの、26週間のリラグルチド(1日1回3.0mg)投与によっても最大5.8%の体重減少が認められた。安全性の点では、吐き気、嘔吐、下痢、便秘などが一般的な副作用として報告されていたが、薬の服用を中止しなければならないほどひどい副作用はまれだった。 論文の上席著者であるEisenberg氏は、「われわれの調査で対象とした12種類の肥満症治療薬のうち、RCTにおいて最も大きな減量効果が報告されていたのは、retatrutide、チルゼパチド、セマグルチドであることが判明した」と結論付けている。 研究グループは、これらの肥満症治療薬の欠点の一つは、治療効果を維持するために継続的な服用が必要な点であると指摘し、「われわれが実施したシステマティックレビューでは、治療期間が長いRCTでは、追跡期間の短いRCTと同様の減量結果が示されている。この結果は、継続的な治療の必要性を裏付けている」と述べている。なお、retatrutideは、イーライリリー社により開発が進められている薬剤で、現在、臨床試験が進行中である。

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妊娠糖尿病、メトホルミン±SU薬vs.インスリン/JAMA

 妊娠糖尿病治療において、経口血糖降下薬(メトホルミンおよび必要に応じてグリベンクラミドを追加)は、インスリンと比較して、在胎不当過大児の出生割合に関する非劣性基準を満たさなかった。オランダ・アムステルダム大学医療センターのDoortje Rademaker氏らが、無作為化非盲検非劣性試験の結果を報告した。妊娠糖尿病のコントロールにおいて、メトホルミンおよびグリベンクラミドの単剤投与はインスリンの代替として使用されているが、これらの経口血糖降下薬による治療がインスリン単独の治療と比較して、周産期アウトカムに関して非劣性であるかどうかは明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2025年1月6日号掲載の報告。在胎不当過大児の増加予防に関して非劣性であるかを検証 研究グループは、2016年6月~2022年11月にオランダの25医療センターで、経口血糖降下薬による治療戦略がインスリン療法に対して、在胎不当過大児の増加予防に関して非劣性であるかを検証した。最終フォローアップは2023年5月。 試験には、2週間の食事療法後に血糖コントロールが不十分(空腹時血糖値95mg/dL超[5.3mmol/L超]、食後1時間血糖値140mg/dL超[7.8mmol/L超]、食後2時間血糖値120mg/dL超[6.7mmol/L超]のいずれかとして定義)であった単胎妊娠16~34週の妊娠糖尿病患者820例が登録された。 被験者は、メトホルミン(1日1回500mgで開始し、3日ごとに1日2回1,000mgまたは最大許容量まで増量、409例)またはインスリン(試験施設の処方による、411例)による治療を受ける群に無作為に割り付けられた。メトホルミン群では必要に応じてグリベンクラミドを追加投与した。その後、必要に応じてグリベンクラミドに代えてインスリンを用いた。 主要アウトカムは、在胎不当過大児(在胎期間と性別に基づく出生体重が90パーセンタイル超)の割合の群間差であった。副次アウトカムは、母体の低血糖、帝王切開、妊娠高血圧症候群、妊娠高血圧腎症、母体の体重増加、早産、分娩損傷、新生児の低血糖、新生児の高ビリルビン血症、新生児集中治療室(NICU)入室などであった。在胎不当過大児は経口血糖降下薬群23.9%、インスリン療法群19.9% 被験者820例のベースライン(試験登録時)の平均年齢は33.2(SD 4.7)歳、妊娠時BMI値30.4(6.2)、35%が初産であった。アウトカムの解析(per protocol解析)には、同意を得られなかった被験者、追跡データを得られなかった被験者を除外した、経口血糖降下薬群406例、インスリン療法群398例が対象に含まれた。 試験期間中、インスリンを使用せずに経口血糖降下薬のみ(メトホルミン単剤および必要に応じてグリベンクラミド追加)で血糖コントロールを維持したのは320例(79%)であった。 新生児における在胎不当過大児の割合は、経口血糖降下薬群23.9%(97例)、インスリン療法群19.9%(79例)であり(絶対リスク差:4.0%、95%信頼区間[CI]:-1.7~9.8、非劣性のp=0.09)、絶対リスク差の95%CI値は非劣性マージンの8%を超えていた。 母体の低血糖は、経口血糖降下薬群53例(20.9%)、インスリン療法群26例(10.9%)であった(絶対リスク差:10.0%、95%CI:3.7~21.2)。その他の副次アウトカムは、群間差は認められなかった。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Intensive Blood-Pressure Control in Patients with Type 2 DiabetesBi Y, et al. N Engl J Med. 2024 Nov 16. [Epub ahead of print]<BPROAD試験>:2型糖尿病において、目標収縮期血圧を120mmHg未満にすることで心血管イベントリスクが低減2型糖尿病における至適な血圧目標値は、一般に130/80mmHg未満とされています。心血管疾患高リスクの2型糖尿病を有する中国人を対象とした本研究(RCT)では、収縮期血圧120mmHg未満を目標にすることにより、心血管イベントが統計学的に有意に低下することが示されました。Randomized Trial for Evaluation in Secondary Prevention Efficacy of Combination Therapy-Statin and Eicosapentaenoic Acid (RESPECT-EPA)Miyauchi K, et al. Circulation. 2024;150:425-434.<RESPECT-EPA>:EPAをスタチンに上乗せ投与しても心血管イベントリスクは低減しないEPA(eicosapentaenoic acid)は動脈硬化を抑制することが想定されています。しかしながら、ハイリスクの日本人冠動脈疾患患者にEPAをスタチンに上乗せ投与しても心血管イベントリスクは有意には低減しませんでした。一方、心房細動リスクが有意に上昇しました。Insulin Efsitora versus Degludec in Type 2 Diabetes without Previous Insulin TreatmentWysham C, et al. N Engl J Med. 2024;391:2201-2211.<QWINT-2>:肥満2型糖尿病において、efsitoraの効果はデグルデクに非劣性大きな期待がかけられているweeklyタイプのインスリン・efsitora。肥満2型糖尿病患者において、efsitoraの効果と安全性はインスリン・デグルデクと比較し非劣性であることが示されました。低血糖や体重増加は両剤とも同等でした。Once-weekly insulin efsitora alfa versus once-daily insulin degludec in adults with type 1 diabetes (QWINT-5): a phase 3 randomised non-inferiority trialBergenstal RM, et al. Lancet. 2024;404:1132-1142.<QWINT-5>:1型糖尿病において、efsitoraの効果はデグルデクに非劣性1型糖尿病患者を対象としたRCTで、インスリン・デグルデクに対するインスリン・efsitoraによる血糖降下作用の非劣性が示されたものの、中等度~重度の低血糖リスクが有意に上昇しました。1型糖尿病におけるインスリン・イコデク(weekly製剤)投与に伴う低血糖リスクも同様であったことが報告されています(Russell-Jones D, et al. Lancet. 2023;402:1636-1647.)The Effect of Denosumab on Risk for Emergently Treated Hypocalcemia by Stage of Chronic Kidney Disease : A Target Trial EmulationBird ST, et al. Ann Intern Med. 2024 Nov 19. [Epub ahead of print]<デノスマブによる低カルシウム血症>:重症低カルシウム血症リスクはCKD病期と関連CKD進展に伴い、ビスフォスフォネートと比較しデノスマブで重症低カルシウム血症のリスクが高まることが示唆されました。デノスマブを投与する際には、デノタス®(カルシウム/天然型ビタミンD3/マグネシウム配合剤)の投与と血清カルシウム値のモニタリングが重要です。

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炭水化物制限で糖尿病患者のβ細胞機能が改善

 2型糖尿病患者を対象に、炭水化物制限食と高炭水化物食で介入した結果、前者において膵β細胞機能が改善したとする論文が、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月22日掲載された。米アラバマ大学バーミンガム校のBarbara A. Gower氏らが行った、12週間にわたるランダム化比較試験の結果として報告された。 この研究は、エネルギー量が等しい炭水化物制限(carbohydrate-restricted;CR〔炭水化物由来のエネルギーが約9%、脂質由来が約65%〕)食と、高炭水化物(higher carbohydrate;HC〔炭水化物由来が約55%、脂質由来が約20%〕)食が、2型糖尿病患者のβ細胞機能に与える影響を比較するために実施された。対象は、糖尿病診断からの経過が10年以内でHbA1cが8%以下のインスリン療法を行っていない、アフリカ系米国人(African American;AA)および欧州系米国人(European American;EA)の成人2型糖尿病患者57人。なお、AAは人種的にβ細胞の脆弱性がEAより高いと考えられている。 介入前後のデータが欠落しておらず解析対象とされたのは51人(CR群25人、HC群26人)だった。ベースライン時において、年齢、性別の分布、BMI、HbA1c、およびβ細胞機能(disposition index;DI)に有意差はなかった。HbA1cは、CR群が6.9±0.72%、HC群が6.7±0.47%であり、糖代謝異常の程度は比較的軽度の患者群だった。 血糖降下薬は介入前に中止され、介入中に3日連続で空腹時血糖が200mg/dLを超えた場合には投薬が再開された。食事は全てを支給し、宅配サービスによって参加者の自宅に届けられた。ベースライン時点と介入12週間後に、75g経口ブドウ糖負荷試験およびアルギニンを用いたグルコースクランプ法にて、糖代謝と膵β細胞機能を評価した。 12週後、急性C-ペプチド反応(アルギニン投与開始30分以内の上昇)は、CR群ではHC群に比べて約2倍に増加し有意な群間差が認められたが、人種別に見た場合、EAでは有意差がなかった。最大C-ペプチド反応はCR群では22%有意に増加し、HC群との間に有意差が認められたが、人種別に見た場合、AAでは有意差がなかった。DIはCR群では32%有意に上昇したが、これを人種別に見た場合、EAでは有意差がなかった。 著者らは、「われわれの研究は、エネルギー量が等しいCR食が、HC食に比べて急性および最大C-ペプチド反応の双方を含む、β細胞機能の指標に有益な影響をもたらすことを示唆しており、臨床的に重要な結果と言える。CRの継続が困難な患者が存在する可能性がある点は否めないが、CR食によって、軽度の2型糖尿病患者は投薬を中止し食事を楽しみながら、β細胞機能を改善できるのではないか」と総括している。なお、AAとEAで反応に差が見られた点について、「この反応の差の一部は人種固有のβ細胞機能の違いに起因するものと考えられる」と説明している。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(消化器内科編)

Histological improvements following energy restriction and exercise: The role of insulin resistance in resolution of MASHMucinski JM, et al. J Hepatol. 2024;81:781-793.<MASHにおけるカロリー制限・運動療法の有用性>:肝臓、体組成、心肺フィットネスが大幅に改善代謝機能障害関連脂肪性肝炎(MASH)患者に対しカロリー制限、運動療法を同時に行うことにより肝臓、体組成、心肺フィットネスが大幅に改善することを証明しました。同治療によるMASH肝組織改善が、肝臓ではなく筋肉のインスリン感受性と関連していたことがとても興味深いです。Long-term liver-related outcomes and liver stiffness progression of statin usage in steatotic liver diseaseZhou XD, et al. Gut. 2024;73:1883-1892.<MASLDにおけるスタチンの有用性>:全死因死亡・肝関連有害事象発生を有意に低下国際共同研究で7,988例の代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)患者を平均4.6年観察。スタチンの使用は全死因死亡を76.7%、肝関連有害事象発生を62%低下させました。またスタチン使用は、フィブロスキャンで測定した肝硬度の進行も軽減させました。Alternating gemcitabine plus nab-paclitaxel and gemcitabine alone versus continuous gemcitabine plus nab-paclitaxel after induction treatment of metastatic pancreatic cancer (ALPACA): a multicentre, randomised, open-label, phase 2 trialDorman K, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9:935-943.<ALPACA試験>:転移膵がんにおけるGEM+NabPTX減量療法の有用性と忍容性進行膵がんにおいてGEM+NabPTX療法は有害事象のため忍容性が問題となっていました。今回、 GEM+NabPTX を3サイクル実施後、 GEM+NabPTXとGEM単独投与を交互に行う減量レジメンが、従来の治療と同等の全生存期間と、より良好な忍容性を示すことが報告されました。[177Lu]Lu-DOTA-TATE plus long-acting octreotide versus high-dose long-acting octreotide for the treatment of newly diagnosed, advanced grade 2-3, well-differentiated, gastroenteropancreatic neuroendocrine tumours (NETTER-2): an open-label, randomised, phase 3 studySingh S, et al. Lancet. 2024;403:2807-2817.<NETTER-2試験>:進行NENに対する1次治療としてPRRTが有用これまで神経内分泌腫瘍(NEN)に対するPRRTは2次治療以降のレイトラインでの導入が推奨されてきましたが、本研究によりGrade2、3の高分化型NENにおいて1次治療でのPRRT早期導入の有用性が報告されました。Risk of colorectal neoplasia after removal of conventional adenomas and serrated polyps: a comprehensive evaluation of risk factors and surveillance use Polychronidis G, et al. Gut. 2024;73:1675-1683.<大腸がん・ポリープの再発予防>:高リスクの大腸ポリープは3年以内のサーベイランス大腸内視鏡が有益advanced adenomaのサーベイランスの最適な間隔は明らかではありませんでしたが、今回の報告では高リスクポリープが見つかった患者は、その後の大腸がんおよび高リスクポリープのリスクが高いため、3年以内の早期監視が有用である可能性が示されました。

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健康な高齢者では高用量ビタミンDで糖尿病リスクは低下しない

 たとえ高用量のビタミンDサプリメントを摂取したとしても、糖代謝異常がない高齢者の場合、2型糖尿病の発症リスク低下にはつながらないとする研究結果が発表された。東フィンランド大学のJyrki K. Virtanen氏らが行ったプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験によるもので、詳細は「Diabetologia」に12月2日掲載された。 過去の観察研究からは、血中ビタミンD濃度が低い場合に2型糖尿病の発症リスクが高いという関連が示されている。しかし、観察研究の結果のみでは、ビタミンDサプリの摂取が糖尿病リスク抑制につながるかどうかは不明。他方、既に血糖値がやや高い前糖尿病の人を対象に行われた研究では、ビタミンDサプリ摂取が糖尿病への移行リスクをわずかに抑制する可能性も示唆されているが、健康な集団での有用性のエビデンスはない。これを背景としてVirtanen氏らは、フィンランドの一般住民を対象にビタミンDサプリ摂取の影響を検討した大規模研究(FIND)のデータを用いた解析を行った。 FINDの参加者は60歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患やがん、腎障害などの既往がなく、摂取している全てのサプリに含まれているビタミンDが合計20μg/日以下などの条件を満たす2,495人。一次評価項目として心血管疾患、二次評価項目としてがん、三次評価項目として2型糖尿病の発症が設定されていた。ビタミンDの中用量(40μg/日)群、高用量(80μg/日)群、およびプラセボ群の3群に、1対1対1でランダムに割り付け、平均4.2年間介入した。 全参加者のうちベースライン時点で血糖降下薬が処方されていた224人を除外した2,271人が、三次評価項目の解析対象とされた。この対象者の平均年齢は68.2±4.5歳、女性が43.9%、BMIは26.8±4.0であり、食事からのビタミンD摂取量は10.7±7.9μg/日で、66.0%はビタミンDサプリを摂取していなかった。解析対象者のうち504人は血中ビタミンD濃度(25〔OH〕D3)が測定されていて、その平均は29.8±7.2ng/mLだった。 追跡期間中に105人が2型糖尿病を発症。各群の発症者数は、ビタミンD中用量群が31人、高用量群36人、プラセボ群38人であり、100人年当たりの罹患率は同順に0.97、1.11、1.19だった。年齢と性別を調整後、プラセボ群を基準とする発症ハザード比は、中用量群が0.81(95%信頼区間0.50~1.30)、高用量群が0.92(同0.58~1.45)であり、ビタミンDの用量にかかわらず有意なリスク低下は観察されなかった。 追跡開始2年目までに2型糖尿病を発症した人を除外した解析や、性別、年齢層別、BMI別に層別化したサブグループ解析でも、ビタミンDサプリ摂取が2型糖尿病リスク低下につながる集団は特定されなかった。また、血糖値、血中インスリン値、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、BMI、ウエスト周囲長の変化も検討されたが、いずれもビタミンD摂取による有意な影響は観察されなかった。 これらの結果から著者らは、「健康な高齢者を対象としたわれわれの研究では、中用量または高用量のビタミンDサプリの長期摂取による2型糖尿病の発症抑止効果は示されなかった」と結論付けている。

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糖尿病性腎症、コーヒーによるリスク減は摂取時間が重要

 糖尿病患者の食事内容、摂取タイミングに関する研究は多数あるが、コーヒー摂取量と摂取タイミングが糖尿病患者の慢性腎疾患(CKD)リスクと関連するかを検討した研究結果が報告された。中国・ハルビン医科大学のYiwei Tang氏らによる本研究は、Food Functon誌オンライン版2024年10月14日号に掲載された。 研究者らは、2003~18年のNHANES(全米国民健康栄養調査)から糖尿病患者8,564例を解析対象とした。24時間の食事調査を用いてコーヒーの摂取状況を評価し、摂取時間、または摂取の多い時間を4つの時間帯(1. 早朝から午前中[5:00~8:00]、2. 午前中から正午[8:00~12:00]、3. 正午から夕方[12:00~18:00]、4. 夕方から早朝[18:00~5:00])の4群に分類した。さらにコーヒー摂取量の多寡で3つに層別化した。CKDの定義は、eGFRが60mL/min/1.73m2未満、または尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が30mg/g以上とした。年齢、性別、BMI、生活習慣などの交絡因子を調整したロジスティック回帰モデルを用いて、コーヒー摂取量、摂取時間とCKDリスクの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・8,564例の糖尿病患者の平均年齢は61.9歳、男性4,480例(52.9%)だった。1人当たりのコーヒー摂取量の平均は2.83g/kgであり、CKD有病率は41.6%であった。・参加者のうちコーヒーを摂取しない人が3,331例(38.9%)、摂取者のうち1. 早朝から午前中に摂取する人が17.6%、2. 午前中から正午が27.6%、3. 正午から夕方が8.3%、4. 夕方から早朝が7.5%だった。・コーヒー摂取群は、非摂取群と比較してCKDの有病率が11%低かった(オッズ比[OR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.80~0.99)。・摂取のタイミングについては、1. 早朝から午前中に摂取する群は摂取しない群と比較してCKDのリスクが有意に低下した(OR:0.87、95%CI:0.77~0.98)。また、その中でもコーヒー摂取量が最も多い層のリスク低下が最も大きかった(OR:0.83、95%CI:0.70~0.98)。・一方で、3. 正午から夕方の摂取群では、コーヒー摂取量が最も多い層は最も少ない層と比較してCKDのリスクが上昇した(OR:1.35、95%CI:1.07~1.71)。4. 夕方から早朝の摂取群でも同様だった(OR:1.28、95%CI:1.01~1.64)。この結果はさまざまなサブタイプにおいても共通していた。 著者らは「研究結果から、コーヒー摂取のタイミングがCKDの予防に重要な役割を果たす可能性が示唆された。とくに、早朝から午前中に摂取することでリスクが低下する一方で、午後以降の大量摂取はリスクを増加させるという結果が得られた。この時間依存性の効果は、コーヒーに含まれるカフェインやその他の生理活性物質が代謝リズムやインスリン感受性に与える影響に関連している可能性がある。糖尿病患者の栄養指導においてコーヒー摂取のタイミングに関する知見を組み込むことで、CKD発症リスクを軽減する新たなアプローチが提案できる可能性がある」とした。

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糖尿病予備群が大動脈弁狭窄症を引き起こす

 糖尿病予備群の主要な原因であるインスリン抵抗性が、大動脈弁狭窄症のリスクを高めることを示唆するデータが発表された。クオピオ大学病院(フィンランド)のJohanna Kuusisto氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Medicine」に11月26日掲載された。 大動脈弁狭窄症(AS)は高齢者に多い心臓弁の病気の一つであり、心不全や死亡のリスクを高める。Kuusisto氏は、ジャーナル発のリリースの中で、「この新たな発見は、インスリン抵抗性がASの重大かつ修正可能なリスク因子である可能性を浮き彫りにしている。インスリンに対する感受性を高めることを意図した健康管理は、ASのリスクを減らし、高齢者の心血管アウトカムを改善するための新たなアプローチとなり得る」と語っている。 ASの発症後には、時間がたつにつれて大動脈弁が厚く硬くなっていき、心臓が血液を送り出す際の負担が大きくなる。しかし、胸痛や息切れ、動悸、疲労などが現れるまでに何年ものタイムラグがあり、それらの自覚症状が現れた時には既に重症化していることが少なくない。米国心臓協会(AHA)は、75歳以上の米国人の13%以上がASに罹患しているとしている。 一方、インスリン抵抗性は、血糖を細胞に取り込む時に必要なホルモンであるインスリンの作用が低下している状態のことで、2型糖尿病が発症する何年も前に起こり始めていることが多い。インスリン抵抗性がより進行すると、徐々に血糖値が高くなり、やがて糖尿病の診断基準を超える高血糖となる。 この研究では、ASのない45~73歳(平均年齢62歳)のフィンランド人男性1万144人を対象とする、メタボリックシンドロームの疫学調査のデータが解析に用いられた。平均10.8±1.4年の追跡期間中に、1.1%に当たる116人が新たにASと診断された。Cox回帰分析の結果、インスリン抵抗性を表す複数の指標が、ASの発症と関連していることが明らかになった。 例えば、血清Cペプチドが高い場合は、ASの発症ハザード比(HR)が1.47(95%信頼区間1.22~1.77)であった。血清Cペプチドが高いことはインスリン分泌が増加していることを示しており、インスリン抵抗性による血糖上昇の負荷が高まっていることを表している。また、Matsudaインデックスという指標が高い場合はHR0.68(0.56~0.82)だった。Matsudaインデックスは値が低いほどインスリン抵抗性がより強いことを意味する。これらの関連性は、ASの既知のリスク因子を調整した解析、および、糖尿病患者を除外した解析でも有意だった。 Kuusisto氏は、「体重管理や運動の励行などによってインスリン感受性を高めることが、ASの発症抑止につながるのかを確認するため、今後のさらなる研究が求められる」と述べている。

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食品中の果糖はがんの進行を促進する?

 糖の一種である果糖(フルクトース)は、がん細胞の増殖を促す燃料になる可能性があり、果糖の摂取を控えることが、がんと闘う手段の一つになり得ることが、新たな研究で示唆された。米セントルイス・ワシントン大学遺伝学・医学部教授のGary Patti氏らが、米国立衛生研究所(NIH)から一部助成を受けて実施したこの研究の詳細は、「Nature」に12月4日掲載された。 米国人が毎日口にしている食品には高果糖コーンシロップが多用されており、果糖はすでに米国人の食生活に広く浸透している。Patti氏は、「高果糖コーンシロップは、キャンディーやケーキから、パスタソースやサラダ用ドレッシング、ケチャップまで、極めて多くの食品に含まれている。意図的に摂取を回避しようとしない限り、高果糖コーンシロップを食事から除くことは困難である」と話す。 何世代か前までは、米国人の果糖の摂取量は比較的少なかった。しかし、数十年前から食品業界は多くの製品に高果糖コーンシロップを添加するようになった。そのタイミングと一致して、50歳以下の人の間で特定のがんが徐々に増加しているとPatti氏らは指摘している。 Patti氏らは今回の研究で、果糖が腫瘍の成長にどのような影響を与えるのかを調査した。まず、メラノーマ、乳がん、子宮頸がんの動物モデルに果糖を多く含む餌を与え、腫瘍の成長速度を測定した。その結果、果糖は、体重や空腹時血糖値、空腹時インスリン値に影響を与えることなく腫瘍の成長を促進することが確認された。Patti氏は、「果糖の影響の大きさには驚かされた。腫瘍の成長速度が2倍以上に加速したケースもあった。果糖の大量摂取が腫瘍の進行に極めて大きな悪影響を及ぼすことは明らかだ」と述べている。 しかし、次の実験室での分子レベルの分析から、がん細胞には、果糖を栄養源として直接利用するための生化学的機構が備わっていないことが判明した。Patti氏らが、高果糖食で飼育した動物の血液中の小分子について再調査したところ、リゾホスファチジルコリン(LPC)などのさまざまな脂質のレベルが上昇していることが確認された。また、肝細胞が果糖を代謝する過程でLPCを放出することも明らかになった。Patti氏は、「興味深いことに、がん細胞自体は適切な生化学的機構を発現していないため、果糖を栄養素として利用できなかった。しかし、肝細胞はそれが可能であり、果糖をLPCに変換して、それをがん細胞に栄養として供給することができる」と話している。 Patti氏は、「食事に含まれる果糖ががんの発症にどのような影響を及ぼすのかについて、今後、もっと多くのことが分かれば素晴らしいことだ」と言う。その一方で、「今回の研究で明らかになったメッセージの一つは、不幸にもがんに罹患した場合には、果糖の摂取を回避すべきだということだ。しかし、果糖はあまりにも多くの食品に含まれているため、残念ながら、『言うは易し行うは難し』というのが現実だ」と付け加えている。

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歯周病と糖尿病の強固な関連

 歯周病と糖尿病は、健康にダメージを与えるという点で恐ろしい関係性を持っていると、研究者らが警告している。その1人であるベルン大学(スイス)のAnton Sculean氏は、「最近の研究から、糖尿病は歯周病の主要なリスク因子であるだけでなく、この二つの病気の関係は双方向であって、互いに悪影響を強め合うことが分かっている」と解説する。なお、同氏は欧州歯周病連盟(EFP)の年次総会(EuroPerio11)の会長も務めている。 Sculean氏によると、この二つの病気の関係は、時間が経つにつれて致命的な結果を招く可能性さえあるという。中等度から重度の歯周病は、長期的には心臓病や全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスク上昇と関連してくるとのことだ。 糖尿病は現在、世界中で8億人以上が罹患していると推定されている。この病気は、体内で十分なインスリン(血糖値を調節するホルモン)が産生されないか、インスリンに対する細胞の反応が弱くなることで発症する。EFPは、11月14日の世界糖尿病デーに発行したニュースリリースで、糖尿病は重度の歯周病のリスクを3倍に高めると述べている。実際に、糖尿病患者の血糖コントロールが不十分になると、歯周病の重症度が上昇することも報告されている。それはなぜだろうか? Sculean氏らはその理由を、血糖値が適切にコントロールされていないと、免疫システムの働きが低下し、歯周病を引き起こす細菌感染と戦うことが困難になるからだと解説する。また糖尿病は、体の炎症反応を高め、歯周組織へのダメージをより悪化させる可能性もある。加えて、歯周病が悪化すると全身の炎症反応が引き起こされ、それによって細胞のインスリンに対する反応がさらに低下するというメカニズムも、EFPのリリースには解説されている。このように、歯周病と糖尿病は互いに作用して状態を深刻にするという「悪循環」を作り出す。 しかし、逆に言えば、歯周病を治療することで、糖尿病をコントロールしやすくなるということだ。EFPは、「歯周病と糖尿病が悪循環を起こすという事実は、歯科の専門家がほかの医療提供者と緊密に連携を取り、口腔の健康と糖尿病管理の双方に対応した包括的なケアを、患者が確実に受けられるようにする必要性のあることを再確認させるものだ」と表現している。 EFPの推計によると、現在、世界中で10億人以上が重度の歯周病を患っているとされる。マドリード大学(スペイン)のEduardo Montero氏は、「EFPは糖尿病と歯周病の関連という課題に取り組むことを大変重視している。なぜなら、糖尿病と歯周病は口腔の健康だけでなく、世界中の何百万人もの人々の全身の健康状態に影響を与えるからだ」と述べている。同氏はまた、「一般の人々、医療専門家、政策立案者の意識を高めることが不可欠である。糖尿病と歯周病の双方向の関係を認識し、口腔の健康を世界の保健戦略に組み込み、より総合的な医療システムへと移行していかなければならない」と強調している。

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第246回 カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見

カロリー制限と抗老化作用の関連を担う胆汁酸を発見現代は定期的な食事に重きが置かれていますが、古く古代より断食(カロリー制限)の効用が説かれています1)。また、古代(紀元前16世紀)のエジプトのパピルス古文書には浣腸やその他の治療として胆汁(bile)が使用されたとの記載があり、胆汁の重要な役割は古代の医師にとって自明の理だったようです2)。中国からの最新の研究成果により、古代より知られていたその2つの効能を関連付ける仕組みが判明しました。先週水曜日にNatureに掲載されたその研究の結果、カロリー制限が抗老化作用をもたらすことに胆汁酸の一種であるリトコール酸(LCA)が寄与すると判明しました3)。餌を減らした研究用の動物の寿命が伸びることが知られています。ヒトも同様の絶食で健康が改善するようです。しかし、カロリーを抑えた食事を長く続けられる人はおよそ皆無でしょう4)。そこで、ほぼ継続不可能なカロリー制限をせずとも、その効果を引き出すカロリー制限模倣化合物(CRM)を探す取り組みが始まっています。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)はCRMの有望な標的の1つです。AMPKはヒトを含め真核生物ならおよそ持ち合わせており、カロリー制限で活性化し、カロリー制限の効能になくてはならない分子です。たとえばカロリー制限のマウスの筋肉はAMPKが活発で、萎縮し難くなることが知られています5)。糖尿病薬メトホルミンやワインに含まれる植物成分レスベラトロールはAMPKを活性化するCRMであり、種々の生物の寿命や健康生存を伸ばしうることがわかっています。そういうCRM探しが進展する一方で、カロリー制限への代謝順応がどのような仕組みでAMPKを活性化して健康を維持し、寿命を伸ばすのかは不明瞭であり、多くの疑問が残っています。そこで中国のチームはカロリー制限で変化する特定の代謝産物がAMPKの調節に携わるかもしれないと当たりをつけて研究を始めました。まず初めにカロリー制限したマウスの血清のAMPK活性化作用を調べ、加熱しても損なわれずにAMPKを活性化しうる低分子量の代謝産物が確かに存在することが示されました。続いて、カロリーを制限したマウスとそうでないマウスの血中の1,200を超える代謝分子が解析され、カロリー制限で増える212の代謝産物が見つかりました。それらを培養細胞に与えて調べた結果、LCAがAMPKを活性化することが突き止められました。LCAは肝臓で作られる胆汁酸の2次代謝産物です。その前駆体であるコール酸(CA)やケノデオキシコール酸(CDCA)が肝臓から腸に移行し、そこで乳酸菌、クロストリジウム、真正細菌などの腸内細菌の手によってLCAが作られます。特筆すべきことに、LCAは絶食で増える血清の代謝産物の1つであることが健康なヒトの試験で示されています6)。カロリー制限していないマウスにLCA入りの水を与えたところ、どうやら代謝がより健康的になり、インスリン感受性が向上してミトコンドリアの性能や数が上向きました。また、体力も向上するようで、いつもの水を飲んだマウスに比べてより長く速く走れ、より強く握れるようになりました。LCAが老化と関連する衰えを解消しうることをそれらの結果は示唆しています6)。研究はさらに進み、LCAがAMPKを活性化する仕組みも判明しました。LCAはTULP3というタンパク質を受容体とし、LCAと結合したTULP3で活性化したサーチュイン遺伝子がAMPK活性化を導くことが解明されました7)。LCAに延命作用があるかどうかは微妙です。ショウジョウバエや線虫の寿命を延ばしたものの、マウスの検討では有意な延命効果は認められませんでした3,6)。ヒトと同じ哺乳類のマウスがLCAで延命しなかったことは興ざめ4)ですが、その効果がないと結論付けるのはまだ早いようです。ヒトで言えば中年のマウスで試しただけであり、より若いうちからLCAを与えてみるなどの種々の切り口での研究が必要です。中国の研究チームは先を急いでおり、サルでのLCAの効果を調べる研究をすでに開始しています4)。参考1)A bile acid could explain how calorie restriction slows ageing / Nature2)Erlinger S. Clin Liver Dis (Hoboken). 2022;20:33-44.3)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]4)Restricting calories may extend life. Can this molecule do it without the hunger pangs? / Science 5)A bile acid may mimic caloric restriction / C&EN6)Fiamoncini F, et al. Front Nutr. 2022;9:932937.7)Qu Q, et al. Nature. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print]

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ダイナペニック肥満は心血管疾患のリスク因子―久山町24年間の縦断解析

 肥満でありながら筋力が低下した状態を指す「ダイナペニック肥満」が、心血管疾患(CVD)発症の独立したリスク因子であることが、久山町研究から明らかになった。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の瀬戸山優氏、本田貴紀氏、二宮利治氏らの研究によるもので、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に論文が10月8日掲載された。 筋肉量の多寡にかかわらず筋力が低下した状態を「ダイナペニア」といい、筋肉量と筋力がともに低下した状態である「サルコペニア」と並び、死亡リスク上昇を含む予後不良のハイリスク状態とされている。さらに、その状態に肥満が加わったサルコペニア肥満やダイナペニック肥満では、CVDのリスクも高まる可能性が示されている。しかしダイナペニック肥満に関してはCVDとの関連の知見がまだ少なく、海外からの報告がわずかにあるのみであり、かつ結果に一貫性がない。これを背景として本研究グループは、1961年に国内疫学研究の嚆矢として福岡県糟屋郡久山町でスタートし、現在も住民の約7割が参加している「久山町研究」のデータを用いた検討を行った。 解析対象は、1988~2012年に毎年健康診断を受けていて、ベースライン時にCVD既往のなかった40~79歳の日本人2,490人(平均年齢57.7±10.6歳、男性42.5%)。握力が年齢・性別の第1三分位群(握力が弱い方から3分の1)に該当し、かつ肥満(BMI25以上)に該当する場合を「ダイナペニック肥満」と定義すると、全体の5.4%がこれに該当した。 中央値24年(四分位範囲15~24)の追跡で482人にCVDイベント(脳卒中324件、冠動脈性心疾患〔CHD〕209件)が発生した。交絡因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心電図異常など)を調整後に、握力の最高三分位群かつ普通体重(BMI18.5~24.9)の群(全体の23.9%)を基準として、ほかの群のCVDリスクを比較した。 その結果、ダイナペニック肥満群でのみ、CVD(ハザード比〔HR〕1.49〔95%信頼区間1.03~2.17〕)および脳卒中(HR1.65〔同1.06~2.57〕)の有意なリスク上昇が認められた。肥満でも握力低下のない群(第2~3三分位群)のCVDリスクは基準群と有意差がなく、また、やせ(BMI18.5未満)や普通体重の場合は握力にかかわらずCVDリスクに有意差がなかった。なお、CHDについてはダイナペニック肥満群のリスクも、基準群と有意差がなかった(HR1.19〔0.65~2.20〕)。 65歳未満/以上で層別化した解析では、65歳未満でダイナペニック肥満によるCVDリスクがより高いことが示された(HR1.66〔1.04~2.65〕)。一方、65歳以上では有意な関連を認めなかった(HR1.18〔0.61~2.27〕)。 続いて行った媒介分析からは、ダイナペニック肥満とCVDリスク上昇との関連の14.6%を炎症(高感度C反応性蛋白〔hs-CRP〕)、9.7%をインスリン抵抗性(HOMA-IR)で説明可能であり、特に65歳未満ではhs-CRPが13.8%、HOMA-IRが12.2%を説明していて、インスリン抵抗性の関与が強いことが示唆された。 著者らは、「握力とBMIで定義したダイナペニック肥満は、日本の地域住民におけるCVD発症のリスク因子であることが明らかになった。この関連性は、65歳未満でより顕著であり、炎症とインスリン抵抗性の上昇がこの関連性を部分的に媒介している」と総括。また、「われわれの研究結果は、CVD予防における中年期の筋力の低下抑止と、適切な体重管理の重要性を示唆するものと言える」と付け加えている。

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