サイト内検索|page:2

検索結果 合計:885件 表示位置:21 - 40

21.

膀胱でアルコールを醸造していた男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第300回

膀胱でアルコールを醸造していた男性飲酒していないにもかかわらず、体内でエタノールが産生され酩酊状態に陥る「自家醸造症候群(Auto-brewery syndrome)」をご存じでしょうか。一般的には、本連載でも取り上げた腸内細菌叢の異常による消化管内発酵が知られていますが、実は尿路においても同様の現象が起こり得ます。A Alduraywish A. Case Report: Diabetic urinary auto-brewery and review of literature. F1000Res. 2021 May 20;10:407.今回紹介する症例は、85歳の男性で、20年来の2型糖尿病があり、過去5年間はインスリン療法を受けていました。重要な点として、この患者は生涯にわたり飲酒歴がありませんでした。てんかんの既往があり、抗てんかん薬(ガバペンチン)を服用中で、慢性便秘も認めていました。発症の契機は、介護者である妻の体調不良により、約1週間にわたって食事管理と服薬が乱れたことでした。患者はめまいと意識変容から始まり、次第に尿便失禁、興奮、暴言、介助拒否といった症状が出現しました。血液検査では、HbA1cが7.25%と中等度のコントロール不良を示していましたが、肝機能・腎機能は正常範囲内でした。衝撃的だったのは、禁酒者であるにもかかわらず、血中エタノール濃度が110mg/dL、尿中エタノール濃度が580mg/dLという高値を記録したことでした。これらの数値は、多くの国で飲酒運転の基準値を大きく上回るレベルでした。アムホテリシンBの静注を5日間行い、治療開始5日後には血中・尿中エタノールは検出されなくなり、尿からカンジダも消失しました。患者の意識状態は改善し、見当識も回復して、日常生活に復帰することができました。これまでの研究の多くは腸管発酵に焦点を当てており、尿路における発酵という視点が見過ごされてきました。糖尿病患者では高血糖に伴う尿糖排泄が増加し、カンジダ属の増殖に有利な環境が形成されます。実際、2型糖尿病患者におけるカンジダ尿症の有病率は2.7〜30%と報告されており、HbA1cが7%を超える患者、尿pHが酸性(5〜6)の患者、尿糖が強陽性の患者でその頻度が高くなります。膀胱でアルコールが醸造されるという病態があること、知っておくと何かの役に立つかもしれません。

22.

コーヒーから見つかった新たな成分が2型糖尿病のコントロールに有望

 コーヒーの中から、2型糖尿病の血糖コントロールに役立つ新たな成分が見つかった。糖の吸収を遅くする作用があり、糖尿病の治療に用いられている薬剤よりも効果が優れている可能性もあるという。中国科学院昆明植物研究所のMinghua Qiu氏らの研究の結果であり、詳細は「Beverage Plant Research」2025年発行号に掲載された。 コーヒーについてはこれまでにも、エネルギー消費を増やしたりインスリンの感受性を高めたりする作用のあることが報告されてきている。今回の研究では新たに、焙煎したコーヒー豆に含まれている特定の成分が、食品中の糖が吸収されて血糖になるまでの速度を抑制することを示唆するデータが得られた。 血糖値は食後に高くなる。これは摂取した炭水化物食品が消化されてブドウ糖となり、それが吸収されて血液中に流れ込むためだ。炭水化物食品が消化される過程では、α-グルコシダーゼという酵素が必要とされ、これが炭水化物の分解を促進する。この作用に着目して開発された、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)という薬があり、糖尿病の治療薬として長く使われてきている。α-GIはα-グルコシダーゼの作用を阻害する(妨げる)ことで、食後の血糖上昇を抑制する。 Qiu氏らの行った今回の研究では、焙煎コーヒーの中にα-グルコシダーゼを強力に阻害する、これまで知られていなかった3種類の成分が含まれていることが明らかになった。この研究結果は、コーヒーが単に嗜好を満たすことにとどまらず、人々に健康効果をもたらす可能性があるというエビデンスを、さらに裏付けるものと言える。 食品には極めて多くの成分が含まれていて、それらが互いに関連して作用することがあるために、食品の中から人々の健康に有益な成分を見つけ出す作業は一筋縄ではいかない。Qiu氏らの研究チームはこの課題に取り組むため、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)や核磁気共鳴分析(NMR)などの高度な分析ツールを用いて、焙煎したアラビカコーヒー豆を分析した。なお、アラビカコーヒーは味や香りが良く、世界で最も親しまれている品種。 研究では3段階のスクリーニングプロセスを経て、コーヒー抽出物の中で最も化学的な活性の高い部分を絞り込み、さらに精製を重ねた結果、これまで見つかっていなかった3種類の新たな成分の単離に成功した。カファルデヒド(caffaldehyde)と名付けられた新規成分は、A、B、Cと3種類あり、いずれもα-グルコシダーゼを強力に阻害した。 阻害作用の強さを表すIC50という値(作用が強いほど値が小さい)は、カファルデヒドA、B、Cの順に、45.07±3.16μM、24.40±0.33μM、17.50±2.86μMだった。これらの値はいずれも、α-GIの一種であるアカルボースという薬剤(60.71±16.45μM)よりも低値(作用が強力)だった。 この結果は、コーヒー由来成分が将来的には、血糖コントロールをサポートするために利用される可能性を示唆している。研究者らは今後、これらの成分の生体での安全性と有効性を検証することを計画している。

23.

タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

24.

ブータンでの経験【非専門医のための緩和ケアTips】第117回

ブータンでの経験緩和ケアは、さまざまな環境で取り組むことが求められます。今回は医療資源の限られた環境での緩和ケアについてのご質問です。緩和ケアに限らず、「資源の限られた中での医療」という話題について、私の経験と学びをお話しします。今日の質問離島で診療をしているのですが、島の限られた医療体制の中で緩和ケアを実践する大変さを感じます。私よりもさらに少ない医療資源の中で取り組まれている方もいることでしょう。先生はこのような環境で診療経験はありますか。あればぜひ教えてほしいです。私は普段、急性期病院に勤務しており、比較的医療資源の潤沢な環境にいます。ただ、年に数回、離島での緩和ケアアウトリーチ(医療者が地域に出向く支援)の手伝いに参加しています。また、2024年からは年に1度、ブータンでの医療支援活動に参加しています。2025年は私にとって2回目のブータン訪問でした。アジア各国から指導医チームが結成され、ブータンの現地で1週間のレクチャーやベッドサイドティーチングを行います。今回は、ブータンの在宅緩和ケアを通じて貴重な経験をしました。ブータンは国土の大半が山岳地帯です。今回、私が往診に同行したお宅は、病院から車で1時間以上かかる場所にありました。市街地を出発し、その後ずっと山道を走り、さらに未舗装路に入っていきます。途中に牛を何頭も見かけ、標高はどんどん高くなっていきます。「どこまで行くのだろう」「夜間や天気が悪いときに往診が必要になっても、この立地では行けないな…」などと考えていると、やっと到着しました。訪問先のお宅が、山の頂上のようなところに、ポツンと立っていました。患者さんは末期の大腸がん、すでに会話が難しい状況で発語がやっとの状態でした。現地の訪問看護師から、「嘔気があるが、もともと内服していたモルヒネをどのように調整すべきか?」と質問されました。皆さんだったらどう答えるでしょうか? もちろん、PCA(自己調節鎮痛)ポンプなんてありません。このような環境で診療をした経験はありませんでしたが、この環境でのベストを考える必要があります。数日内に内服が難しくなりそうだったので、モルヒネの投与経路を皮下注射に切り替えるように提案しました。内服が困難になり、症状が強くなっても、医療者がすぐに駆けつけることができないことが理由です。その後も、日本の診療環境と大きく異なる光景を目の当たりにしました。モルヒネの投与量を計算して訪問看護師に伝えると、持参したモルヒネ注射薬をシリンジに引き、家族に皮下注射の指導を始めたのです。日本で医療用麻薬を家族が注射することはまずありません。再度現地の訪問看護師から、「こうした場合、日本ではどのように対応するのか?」と質問がありました。私は「日本では、在宅用の持続投与が可能なデバイスがあり、それを使っているケースが多い。家族が注射をすることはほぼなく、本人や家族が自分たちで注射するのは、在宅医療ではインスリンの自己注射製剤くらいです。でも、ブータンの環境を考えると、今皆さんがやっていることがベストプラクティスだと思いますし、緩和ケアを届けていることを尊敬しています」と英語でお伝えしました。ブータンでの国際支援活動を通じて、世界中で緩和ケアを必要としている患者さんがいること、そして緩和ケアを届けようと頑張っているスタッフがいることを実感しました。日本でもさまざまな地域で、それぞれの地域にあった形で緩和ケアを実践している仲間がいます。世界中で同じ思いの仲間が頑張っていることを忘れず、われわれもできることを少しずつ頑張っていきたいですね。今日のTips今日のTips今、この瞬間も世界のどこかで緩和ケアを届けている仲間がいることを忘れないようにしよう。

25.

腎不全リスク別にみたSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の有効性

 2型糖尿病患者において、腎不全リスクの高低によるSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の腎不全や心血管アウトカムを調査した結果、GLP-1受容体作動薬は腎不全の中等度リスクの患者に、SGLT2阻害薬は高度リスクの患者にそれぞれより有益である可能性が、米国・ユタ大学のSydney E. Hartsell氏らによって報告された。Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2026年1月13日号掲載の報告。 研究グループは、2018年1月1日~2021年12月31日にSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬(非エキセンジン系)またはインスリン グラルギンのいずれかを新たに開始した2型糖尿病を有する米国退役軍人コホートを用いて観察研究を行った。対象は16万428例で、治療確率逆重み付けを用いてベースライン特性のバランスを調整し、2023年3月31日までの追跡データを用いて各薬剤の新規使用者間でアウトカムを比較した。評価項目には、腎不全(慢性腎臓病のステージ5または腎代替療法)、主要心血管イベント(MACE[心不全、心筋梗塞、脳卒中])、心血管・腎・代謝(CKM)複合エンドポイント(腎不全またはMACE)、全死因死亡、死亡を含む複合アウトカムが含まれた。また、将来の腎不全発症リスクを推定する腎不全リスク方程式(Kidney Failure Risk Equation:KFRE)スコアを用いて、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の有効性の差が腎不全リスクの高低によって異なるかを検証した。 主な結果は以下のとおり。・新規に使用開始した薬剤は、SGLT2阻害薬が53%、GLP-1受容体作動薬が14%、インスリン グラルギンが34%であった。・SGLT2阻害薬群とGLP-1受容体作動薬群の死亡リスクは同程度であったが、SGLT2阻害薬群で腎不全リスクが低下する傾向にあった(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.74~1.06)。・SGLT2阻害薬群では、GLP-1受容体作動薬群と比較してMACE(HR:1.14、95%CI:1.09~1.20)およびCKM複合エンドポイント(HR:1.13、95%CI:1.08~1.19)の発生リスクが有意に高かった。・中等度の腎不全リスク(KFRE 2~6%未満)の患者ではGLP-1受容体作動薬が腎不全、MACEおよびCKM複合エンドポイントに対してより保護的であることが示唆された一方で、高度の腎不全リスク(KFRE 6%以上)の患者ではSGLT2阻害薬がより保護的であることが示唆された。

26.

妊娠前・妊娠初期におけるGLP-1受容体作動薬の中止による影響(解説:小川大輔氏)

 妊娠中に初めて発見または発症した糖代謝異常である「妊娠糖尿病」と、妊娠前から糖尿病を患っている「糖尿病合併妊娠」は、どちらも高血糖が胎児の発育に影響を与えるため妊娠中の血糖管理が非常に重要になる。そして妊娠中の糖尿病の薬物療法はインスリン療法が原則となる。妊娠前から経口血糖降下薬などで治療していた場合でも、妊娠する前、あるいは妊娠が判明した時点でインスリンへの変更が必要となる1)。これは、経口血糖降下薬が胎盤を通して胎児に運ばれ、低血糖を引き起こす可能性があるためである。 GLP-1受容体作動薬に関しては、ラットやラビットを用いた動物実験でGLP-1受容体作動薬の投与により胎児の構造異常、子宮内での発育制限、胎児の死亡などが報告されており、妊娠中はGLP-1受容体作動薬の使用を避けるべきとされている1)。ただ、GLP-1受容体作動薬の中止により、妊娠中の体重の過剰増加や血糖コントロールの悪化も懸念されている。これまでに妊娠前あるいは妊娠初期にGLP-1受容体作動薬を中止することで、母体や胎児にどのような影響が出るかを検討した報告はなかったが、今回妊娠14万9,790例を対象とした後ろ向きコホート研究の結果が報告された2)。 妊娠前3年間および妊娠後90日間に、GLP-1受容体作動薬の処方が確認された妊婦を曝露群、確認されなかった妊婦を非曝露群として、曝露群1例につき非曝露群3例を傾向スコアでマッチングした。その結果、妊娠中の体重増加量は曝露群で有意に多く、過剰体重増加のリスクも高かった。また、曝露群で早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群のリスクが高かったが、巨大児および低出生体重児のリスク、帝王切開のリスクには差がなかった。 妊娠を契機にGLP-1受容体作動薬をインスリンに変更し、妊娠中に過剰な体重増加や血糖コントロールの悪化を経験することがしばしばある。妊娠出産を考えている女性に対するGLP-1受容体作動薬の使用は、開始前によく検討する必要があるだろう。妊娠前あるいは妊娠初期でのGLP-1受容体作動薬の中止は、母体の体重増加のほか、早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群のリスク上昇と関連する可能性が示唆され、今後さらなる検討が必要と思われる。

27.

GLP-1受容体作動薬は大腸がんリスクを低下させる?

 オゼンピックやウゴービなどのGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、減量や糖尿病の管理だけでなく、大腸がんの予防にも役立つ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。GLP-1受容体作動薬の使用者では、アスピリン使用者と比べて大腸がんを発症するリスクが26%低かったという。米テキサス大学サンアントニオ校血液腫瘍内科のColton Jones氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO GI 2026、1月8〜10日、米サンフランシスコ)で発表された。 Jones氏は、「これまでアスピリンの大腸がん予防効果について研究されてきたが、効果は限定的であり、また、出血リスクが使用の妨げになる。糖尿病や肥満の治療で広く使われているGLP-1受容体作動薬は、代謝管理とがん予防の両面で、より安全な選択肢になる可能性がある」と述べている。 米国では、2025年には約15万人が大腸がんと診断され、5万人以上が死亡したと推定されている。GLP-1受容体作動薬は、インスリンや血糖値の調節を助け、食欲を抑え、消化を遅らせるホルモンであるGLP-1の作用を模倣する薬剤である。代表的な薬剤には、オゼンピックやウゴービなどのセマグルチド、マンジャロやゼップバウンドなどのチルゼパチドがある。 今回の研究では、商業医療データベースTriNetXから、GLP-1受容体作動薬の使用者と、アスピリン使用者を傾向スコアマッチング後に14万828人ずつ(計28万1,656人、平均年齢58歳、女性69%)抽出し、大腸がんの発症を比較した。各薬剤の初回処方日を起点に、その6カ月後から追跡を開始した。追跡期間中央値は、GLP-1受容体作動薬群で2,153日、アスピリン群で1,743日であった。 その結果、GLP-1受容体作動薬群ではアスピリン群と比較して、大腸がんリスクが26%低いことが明らかになった(リスク比0.741、95%信頼区間0.612〜0.896)。絶対リスク差から算出した治療必要数(NNT)は2,198であった。この結果は、追跡開始後12カ月および36カ月を対象とした感度解析においても、また、年齢層、BMI、糖代謝などで層別化したサブグループ解析においても、概ね一貫していた。GLP-1受容体作動薬を個別に解析すると、セマグルチドのみが有意な効果を示した。副作用については、GLP-1受容体作動薬使用者の方が、腎障害、胃潰瘍、消化管出血といった重篤な副作用は少なかった一方で、下痢や腹痛はより多く発生していた。 この研究をレビューした米クリーブランド・クリニックTaussig Cancer CenterのJoel Saltzman氏は、「GLP-1受容体作動薬は、体重減少以上の恩恵をもたらす可能性がある。これらの結果は、がん予防戦略においても重要な役割を果たす可能性を示している。アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチンの大腸がん予防効果は長年研究されてきたが、今回のリアルワールドデータは、GLP-1受容体作動薬がこの分野で有望な役割を担う可能性を示唆している」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

28.

肥満症の治療にアミリン受容体作動薬は登場するか?(解説:小川大輔氏)

 肥満症の治療において最も基本となるものが食事療法と運動療法であるが、これらに取り組んでも効果が不十分な場合は薬物療法が検討される。GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬は糖尿病治療薬として開発されたが、体重減少効果もあるため近年は肥満症治療薬としても承認されている。GIPやGLP-1以外にも肥満症の新しい治療標的が探索されているが、その1つがアミリン(amylin、別名:IAPP)と呼ばれるホルモンである。 アミリンは、インスリンと共に膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、胃の動きを遅らせて糖の吸収を穏やかにする、あるいはグルカゴン分泌を抑制するなど、血糖値の調節に関わることが知られている。また脳に作用して満腹感を高める作用もあり、食欲抑制に重要な役割を果たしていると考えられている。アミリンの働きを模倣するアミリンアナログが糖尿病や肥満症の治療薬として開発され、米国ではすでにpramlintideが糖尿病の治療薬として承認されているが、作用時間が短く1日3回の注射製剤のため使用は限定的である。 eloralintideは長時間作用の選択的アミリン受容体作動薬で、今回肥満患者を対象とした第II相試験の結果が発表された1)。プラセボ群と比較しeloralintide投与群では48週後の体重の平均変化率が9~20%減少と、有意な体重減少効果を認めた。主な有害事象としては悪心、便秘、下痢などの消化器症状と疲労であった。 肥満症の治療薬としてGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬がすでに使用されており、今後「トリプルアゴニスト」と呼ばれるGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬や、新規の経口GLP-1受容体作動薬が登場する予定である。アミリン受容体作動薬としては2021年にcagrilintideが第II相試験で肥満症に対して有効性が確認され2)、さらに2025年にcagrilintideとGLP-1受容体作動薬セマグルチドの配合薬が肥満・過体重の減量に効果があることが報告された3)。今後eloralintideを含め、アミリン受容体作動薬が肥満症の治療薬として日本で使用できるようになるか、引き続き注目したい。

29.

PCOS妊婦へのミオイノシトールの投与は妊娠合併症率を改善せず(解説:前田裕斗氏)

 本研究は、オランダの13施設で464例の多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)妊婦を対象とし、ミオイノシトールの妊娠糖尿病・早産・妊娠高血圧腎症の予防効果を確かめた二重盲検プラセボ対照RCTである。ミオイノシトールにはインスリン抵抗性改善を通した血管内皮機能不全や炎症の予防効果があることから、PCOS妊婦においてリスクが上昇する3つの妊娠合併症をアウトカムとしている。先行するRCTでは妊娠糖尿病の予防効果が示されていたが、サンプルサイズが200例程度と小さく、また妊娠糖尿病の有病率が約50%と高いこと、患者への薬の盲検化がされていなかったことなどを背景として、この試験が行われた。 結果の詳細は別記事に譲るが、3つの合併症の合計発生率はミオイノシトール群で25.0%、プラセボ群で26.8%と有意な低下を認めなかった。本研究にも薬剤内服の遵守率が80%以上の割合がミオイノシトール群で38.9%、プラセボ群で30.7%と低いなどの限界はあるが、先行研究と比較し、サンプルサイズや二重盲検であることなど信頼性の高い研究であるといえるだろう。 本研究結果からは、全PCOS妊婦を対象としたミオイノシトールの内服は勧められないといえる。一方、この研究では妊娠8~16週から内服を開始しており、妊娠前からの内服効果は検証されていない。日本の臨床現場では不妊治療の場でサプリメントとしてよく勧められており、妊娠前からの内服効果を確かめる研究は行いやすいだろう。ぜひ本邦発のエビデンスを出したい領域であるといえる。

30.

第298回 日中の自然光で2型糖尿病患者の血糖値が改善

糖尿病患者の糖濃度をより落ち着かせる自然光の効果が、少人数の無作為化試験で示されました1)。24時間を一区切りとする周期(概日周期)に合わせた活動のおかげで、われわれ人間を含む光感受性生物は環境の変化に備えることができます。ヒトに生まれつき備わる周期性と代謝や病気の関連がこれまでの研究で明らかになっています。たとえば周期性を担う時計遺伝子の筋肉での発現の乱れやミトコンドリア代謝の周期性の欠如が、インスリン抵抗性の高齢男性や2型糖尿病(T2D)の培養筋肉組織に認められます。また、夜間交代勤務をする人、あるいは交代勤務を模した環境での試験の結果によると、明るい昼間と暗い夜間が交互に訪れる明暗周期にそぐわない振る舞いは代謝の不調と強く関連します。生物の概日周期は明暗周期ともっぱら同調します。とはいえ、近代的な生活習慣は一定の人工照明の下で8~9割の時間を室内で過ごすことを特徴としており、昼間に浴びる光量は不足気味な一方で日没後の夜間の光量は過剰です。昼間と夜間に浴びる光の量を変えることが代謝に影響します。一例として、T2D患者が朝に明るい人工の光を浴びると、仄かな光に比べて食後血糖やトリグリセライド値がより上昇しました。それに、昼間の室内での仕事時間に明るい人工照明を浴びることは、仄かな光を浴びることに比べて糖代謝や体温調節におおむね好ましい効果をもたらすことがインスリン抵抗性の高齢者が参加した試験で示されています。しかし、オランダのマーストリヒト大学の研究者らの調べによると、T2D患者が自然光を日中に室内で浴びることがもたらす糖の変動や24時間の代謝への効果を、設定環境の下で典型的な人工照明と比較した試験はこれまでありませんでした。そこで同大学のJan-Frieder Harmsen氏らはT2D患者13例を募ってクロスオーバー無作為化試験を実施し、昼間の室内の明かりが自然光の場合と人工照明の場合の代謝、概日周期の生理指標、糖濃度の違いを調べてみました。試験では大窓から自然光が入る部屋と窓のない人工照明のみの部屋を用意し、被験者にそのどちらでも4.5日間の日中(朝8時から夕方5時まで)を1ヵ月の間をおいて過ごしてもらいました。それらの間に被験者には糖濃度を絶えず常時測定する装置を身に着けてもらいました。ただし、3例の常時糖濃度(CGM)情報は技術的な問題により残念ながら不完全でした。それら3例を差し引いた残りの10例のCGMの記録を調べたところ、昼間に自然光を浴びていた4.5日間のCGMはおよそ半分(51%)のあいだ正常範囲(4.4~7.2mmol/L)にありました。一方、人工照明のときには半分に満たない43%のあいだCGMが正常範囲でした。また、自然光の期間は脂肪酸化(燃焼)が亢進していました1,2)。T2D患者が自然光をより長く浴びるとどうやら糖制御が改善するようです1)。自然光の取り柄の確立にはさらなる試験が必要ですが、自然光はT2D患者の代謝を上向かせるようであり、代謝疾患の治療を担いうると著者は言っています1)。自然光をより浴びることは、なんなら窓辺に座るだけで実現するわけで、誰でもタダで実行できるそんな手軽な方法で多くのT2D患者が助かるかもしれません3)。 参考 1) Harmsen JF, et al. Cell Metab. 2025 Dec 18. [Epub ahead of print] 2) An office with natural light could help keep blood sugar under control / Australian Science Media 3) Centre Sitting by a window may improve blood sugar levels for type 2 diabetes / NewScientist

31.

超加工食品は若年成人の糖尿病リスクを押し上げる

 工業的に作られ添加物が多用されている「超加工食品」が、若年成人の糖尿病リスクを高める可能性を示唆するデータが報告された。米南カリフォルニア大学ケック医科大学のVaia Lida Chatzi氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrition & Metabolism」に11月10日掲載された。 この研究から、超加工食品の摂取量が多いことが、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが悪くなること(インスリン抵抗性)や、2型糖尿病または前糖尿病(初期の高血糖状態であり2型糖尿病のリスクが高い状態)と関連のあることが示された。論文の上席著者であるChatzi氏は、「超加工食品の摂取量が少しでも増えると、肥満リスクのある若年成人の血糖調節が乱れる可能性がある。食生活は修正可能であり、若年者に生じる早期の代謝性疾患を予防する上で速やかに対処すべきターゲットであることを、われわれの研究結果は示している」と話している。 超加工食品は主に、飽和脂肪酸、でんぷん、添加糖など、自然食品から工業的に抽出された物質で作られ、風味や見た目を整え保存性を高めるために、着色料、乳化剤、香料、安定剤などのさまざまな添加物が含まれている。例えば、個別包装の焼き菓子、砂糖入りのシリアル、ほとんど手をかけずに食べられる加工食品、ハムやサラミなどの加工肉が該当する。 Chatzi氏らの研究では、過体重または肥満に該当する17~22歳の若年者85人を4年間追跡調査した。研究参加者は、食事に関するアンケートに回答したほか、インスリンに対する体の反応や血糖値を調べるための血液検査を受けた。研究参加時点での超加工食品の摂取量(重量)が食事に占める割合は、平均20.40±12.68%だった。 結果に影響を及ぼすことのある因子(年齢、性別、摂取エネルギー量、運動習慣など)を統計学的に調整した解析により、食事に占める超加工食品の摂取割合が10パーセントポイント高いごとに、インスリン抵抗性が生じていることを示唆する状態(耐糖能異常)の該当者が158%多く、2型糖尿病や前糖尿病の該当者は51%多いという関連性が明らかになった。また、研究参加時点での超加工食品の摂取量が多い人ほど、追跡期間中にインスリンの分泌量がより増大するという関連も見つかった。インスリンの分泌量が増えることは、インスリン抵抗性が生じ始めていることを意味する。 論文の筆頭著者である米ダートマス大学のYiping Li氏は、「これらの研究結果は超加工食品の摂取が若年成人の2型糖尿病や前糖尿病のリスクを高めることを意味し、かつ、それらの食品の摂取を減らすことが糖尿病の予防に役立つ可能性を示している」と語っている。研究者らは今後、どのような超加工食品が最も大きなリスクをもたらすのかを明らかにするために、より大規模な集団を対象により詳細な食事調査を行った上で、リスクを追跡する必要があるとしている。

32.

インクレチン製剤がもたらす 肥満合併HFpEFの新たなパラダイム【心不全診療Up to Date 2】第5回

インクレチン製剤がもたらす肥満合併HFpEFの新たなパラダイムKey Points肥満の評価は、BMIでいいのか?HFpEF患者の多くに中心性肥満を認め、これがHFpEF発症の重要な病態因子と考えられるセマグルチドは肥満合併HFpEF患者の症状と運動耐容能を有意に改善し、チルゼパチドは心不全イベントを38%減少させたBMI 25~30程度の軽度肥満患者における有効性の検証が今後の課題であるはじめに左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)は、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。本稿では、肥満合併HFpEFに対するインクレチン製剤の臨床エビデンス、作用機序、進行中の臨床試験、そして今後の展望について解説する。HFpEFにおける肥満の重要性HFpEF患者において肥満は極めて高頻度に認められる。従来、BMI≧30kg/m2で定義される肥満はHFpEF患者の60~70%に存在するとされてきた2)。しかし、BMIは骨格筋量や骨量の影響を受けるため、とくに民族差のある集団では脂肪量の正確な評価指標とはならない。より重要なのは内臓脂肪の蓄積である。ウエスト・身長比(≧0.5)で評価した中心性肥満は、HFpEF患者の95%以上に認められることが報告されており、画像診断による脂肪量の定量化でもこの高い有病率が確認されている3)。さらに、複数の前向きコホート研究において、内臓脂肪の蓄積がHFpEF(HFrEFではない)の発症を特異的に予測することが一貫して示されている4,5)。なお、アジア人集団では、欧米に比べてBMIは低いものの内臓脂肪が蓄積しやすい「内臓脂肪型肥満」の表現型が知られている6)。肥満合併HFpEFの病態生理肥満合併HFpEFの病態は多因子的であり、複数の機序が複雑に絡み合っている。内臓脂肪の蓄積が、炎症、循環血漿量の増加、心外膜および胸壁脂肪の増加を促進し、心室の相互依存性を増幅させることで、最終的にHFpEFの発症と進行を促進することを示すエビデンスが蓄積している7)。そのなかでも、最近Packer博士らにより提唱された「アディポカイン仮説」は、肥満合併HFpEFの病態を統一的に説明しようとする試みである(図1)8)。(図1)画像を拡大するこの仮説では、内臓脂肪組織の拡大と機能不全により、脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポカイン)のバランスが崩れることが、HFpEF発症の中心的機序であるとされる。このアディポカイン不均衡が、神経体液性因子の活性化、全身性炎症、心筋肥大・線維化、血漿量増加を引き起こし、HFpEFを発症させるという概念である。アディポカイン仮説は現時点ではあくまで仮説の段階であり、今後のさらなる検証が必要であるが、後述するインクレチン製剤の作用機序を理解する上で、有用な枠組みの一つを提供している。インクレチン製剤の作用機序と期待される効果GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬(GLP-1RAs)は、膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモン(インクレチン)の一つであるglucagon-like peptide-1(GLP-1)の作用に基づく2型糖尿病治療薬である。体重減少効果もあることから、2023年に肥満症治療薬としても承認されている。GLP-1RAsは、心血管代謝リスク因子に良好な影響を及ぼすとされ9)、肥満症患者と糖尿病患者のいずれにおいても動脈硬化性疾患や心不全新規発症イベントのリスクを減少させるという報告があり、肥満合併心不全患者への効果も期待されてきた10)。心血管系への作用機序として、次の3つのことが考えられている。第1に、体重減少を介した効果として、循環血漿量の減少、左室充満圧の低下、心臓への機械的負荷軽減が挙げられる。第2に、直接的な心血管保護作用として、心筋細胞のアポトーシス抑制、抗炎症作用、酸化ストレスの軽減、内皮機能改善が報告されている。第3に、代謝改善として、インスリン抵抗性の改善、脂質代謝改善、血糖コントロール改善(糖尿病合併例)がある。さらに、脂肪組織への直接作用として、内臓脂肪の選択的減少(体重減少を上回る)、心外膜脂肪組織の縮小、脂肪組織の炎症抑制、アディポカインプロファイルの改善(抗炎症性アディポカインの増加、炎症性アディポカインの減少)が示されている11)。GIP/GLP-1受容体作動薬もう一つの主要なインクレチンであるglucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)の受容体にも作用するGIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)は、単独のGLP-1作動薬を上回る体重減少効果を示す。GIP受容体を介した追加作用として、脂肪細胞での脂肪分解促進、白色脂肪組織での無駄なカルシウムサイクリング誘導(エネルギー消費増加)、インスリン感受性改善が報告されている11)。持続的なGIP受容体刺激が、大幅な体重減少に大きく寄与すると考えられている。インクレチン製剤の臨床エビデンス肥満合併HFpEF患者に対するGLP-1RA(セマグルチド)の有効性を検証したSTEP-HFpEF試験では、2.4mgのセマグルチド週1回皮下投与が、肥満合併HFpEF(LVEF≧45%かつBMI≧30kg/m2)患者のKCCQ-CSS(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire clinical summary score)により評価される健康関連QOLをプラセボと比較して有意に改善させ、体重も有意に減少させた(図2)12)。(図2)STEP-HFpEF試験:主要エンドポイント画像を拡大するさらに、2型糖尿病を有する肥満合併HFpEFを対象としたSTEP-HFpEF DM試験でも同様の結果が得られている13)。なお、STEP-HFpEF DM試験ではSGLT2阻害薬を併用した症例が33%含まれていたが、SGLT2阻害薬併用の有無にかかわらず、セマグルチドの心不全関連転帰に対する効果は一貫していた。GIP/GLP-1受容体作動薬も、肥満合併HFpEF(LVEF≧50%かつBMI≧30kg/m2)患者を対象にその有効性を検証したSUMMIT試験において、複合心不全イベント(心血管死または心不全増悪イベント)リスクを38%低下させ、KCCQ-CSSで評価された健康関連QOLを有意に改善させたと報告されている(図3)14)。(図3)SUMMIT試験:主要エンドポイント画像を拡大するただし、悪心・嘔吐などの消化器症状や食欲減退といった副作用には注意が必要であり15)、患者ごとの病態や既存の治療との併用状況を考慮した上で投与方針を検討することが求められる。このように、肥満合併HFpEF患者に対するインクレチン製剤の有効性は確立しつつある一方、わが国に多いBMI 25~30程度の内臓脂肪型肥満を呈する症例において、同薬が有効かどうかは不明であり、今後の試験が期待される16)。次世代インクレチン製剤の開発現在、複数の次世代インクレチン関連薬が開発されている(図4)17)。(図4)現在臨床試験が進行しているインクレチン関連薬画像を拡大するGLP-1/グルカゴン(GCG)受容体二重作動薬(cotadutide、survodutideなど)は、グルカゴン受容体刺激により、肝臓での細胞外分泌因子FGF21産生が増加する。FGF21は脂肪組織の炎症抑制、褐色脂肪活性化、内臓脂肪減少をもたらすため、さらなる代謝改善と体重減少が期待される。代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)を対象とした第II相試験ではMASH組織改善効果を認め18)、肥満患者を対象とした第III相試験は現在進行中であり19)、HFpEFへの応用が期待される。GLP-1/GIP/GCG受容体三重作動薬(retatrutideなど)は、3つの受容体を同時に刺激し、最大限の代謝改善を目指す薬剤である。肥満患者での第II相試験で顕著な体重減少を示しており20)、HFpEFへの応用が期待される。おわりに肥満合併HFpEF患者に対するインクレチン製剤は、STEP-HFpEF試験とSUMMIT試験により、症状改善、運動耐容能向上、そして心不全イベント減少という明確なエビデンスが示された。今後、次世代インクレチン製剤(GLP-1/GCG受容体二重作動薬、GLP-1/GIP/GCG受容体三重作動薬)の臨床開発や、治療反応性を予測するバイオマーカーの確立により、より個別化された効果的な治療が可能になることが期待される。肥満合併HFpEFの病態理解は急速に進展しており、これらの知見を臨床に活かし、エビデンスに基づいた最適な治療を提供することが、今後の日本のHFpEF診療における重要な課題である。 1) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55. 2) Obokata M, et al. Circulation. 2017;136:6-19. 3) Peikert A, et al. Eur Heart J. 2025;46:2372-2390. 4) Oguntade AS, et al. Open Heart. 2024;11:e002711. 5) Sorimachi H, et al. Eur Heart J. 2021;42:1595-1605. 6) WHO Expert Consultation. Lancet. 2004;363:157-163. 7) Borlaug BA, et al. Cardiovasc Res. 2023;118:3434-3450. 8) Packer M. J Am Coll Cardiol. 2025;86:1269-1373. 9) Kosiborod MN, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:468-478. 10) Ferreira JP, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:1495-1502. 11) Nogueriras R, et al. Nat Metab. 2023;5:933-944. 12) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 13) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2024;390:1394-1407. 14) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 15) Kushner R, et al. JAMA. 2025;334:822-823. 16) 吉池信男ほか. 肥満研究. 2000;6:4-17. 17) Melson E, et al. Int J Obes(Lond). 2025;49:433-451. 18) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2024;391:311-319. 19) Kosiborod MN, et al. JACC Heart Fail. 2024;12:2101-2109. 20) Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2023;389:514-526.

33.

メトホルミンが運動療法の効果を阻害してしまう可能性

 古くからある経口血糖降下薬で、米国では現在も2型糖尿病の第一選択薬として位置付けられているメトホルミンが、運動療法の効果を阻害してしまう可能性を示唆するデータが報告された。米ラトガーズ大学ニューブランズウィック校のSteven Malin氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月7日掲載された。 この研究の背景について、論文の筆頭著者であるMalin氏は、「多くの医療従事者は、1+1=2だと考えている。しかし、メトホルミンがわずかながら運動の効果を弱めることを示唆するエビデンスも存在する」と話している。この問題の本質を探るため同氏らは、メタボリックシンドロームのリスクのある成人において、同薬が血管インスリン感受性(インスリンによる血管拡張や血流促進作用)を低下させる可能性の有無を、二重盲検プラセボ対照試験で検討した。 研究参加者を、低強度運動(最大酸素摂取量〔VO2max〕の55%の運動)を週5回行うプラセボ服用群(22人)、低強度運動を行うメトホルミン(1日2,000mg)服用群(21人)、高強度運動(VO2maxの85%の運動)を週5回行うプラセボ服用群(24人)、高強度運動を行うメトホルミン服用群(24人)という4群にランダムに割り付け、16週間介入した。 その結果、プラセボを服用した2群ではともにVO2maxが有意に上昇したが、メトホルミンを服用した2群はともに有意な変化が見られなかった。体脂肪は高強度運動を行った2群でのみ有意に減少した。また、メトホルミンを服用した群では、インスリンによる血管拡張反応や血流促進作用が小さくなり、さらに、運動による空腹時血糖値の低下幅が少なくなっていた。 この結果についてMalin氏は、「強度にかかわらず運動によって血管の機能が改善した。ところがメトホルミンはこの効果を弱めてしまった。メトホルミンを服用して運動をしたからといって、血糖値がより大きく下がるわけではないことも見過ごせない。加えて、メトホルミンを服用した人は体力(VO2max)も向上しなかった。つまりこれは、身体機能が改善されていないことを意味し、長期的な健康リスクにつながる可能性がある」と総括している。 本研究で観察されたメトホルミンの負の影響のメカニズムとして研究者らは、メトホルミンが人間の細胞の原動力とも言えるミトコンドリアの働きに影響を及ぼすため、運動の効果を鈍らせるのではないかと推測している。同薬が血糖コントロールを改善する作用機序の一部に、ミトコンドリアの働きを部分的に阻害する作用が含まれており、その作用が運動によって得られる効果を妨げてしまう可能性があるとのことだ。 Malin氏は、「メトホルミンと運動の最適な併用方法を探し出さなければならない。また、メトホルミン以外の薬剤と運動の相互作用についても検討が必要だろう」と述べている。

34.

認知症リスク低減効果が高い糖尿病治療薬は?~メタ解析

 糖尿病治療薬の中には、血糖値を下げるだけでなく認知機能の低下を抑える可能性が示唆されている薬剤がある一方、認知症の発症・進展は抑制しないという報告もある。今回、国立病院機構京都医療センターの加藤 さやか氏らは、システマティックレビュー・ネットワークメタアナリシスにより、9種類の糖尿病治療薬について2型糖尿病患者の認知症リスクの低減効果があるのかどうか、あるのであればどの薬剤がより効果が高いのかを解析した。その結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が認知症リスクの低減効果を示し、その効果はこの順に高い可能性が示唆された。Diabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2025年10月22日号に掲載(2026年1月号に掲載予定)。 本研究では、PubMed、Cochrane Library、医中誌Webを開始時から2023年12月31日まで検索し、糖尿病治療薬の認知症への効果を評価した英語または日本語で報告された試験を選定した。 主な結果は以下のとおり。・67試験(408万8,683例)が対象となり、単剤療法と対照群(糖尿病治療薬の使用なし、プラセボ)の比較が3試験、単剤療法と追加療法の比較が1試験、リアルワールドデータベース研究が63試験であった。・解析の結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が、対照群(プラセボ、糖尿病治療薬の使用なし、他の糖尿病治療薬)と比較して認知症リスクが低減し、その効果はこの順で高い可能性が示唆された。・インスリンは認知症リスクの上昇と関連していた。・メトホルミン、SU薬、グリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬は、認知症リスクとの有意な関連は認められなかった。

35.

膵管拡張は膵臓がんの警告サイン

 膵臓がんは、進行して致命的となるまで症状が現れにくいことから「サイレントキラー」とも呼ばれる。こうした中、新たな研究で、膵臓がんリスクの高い無症状患者では、膵臓と胆管をつなぐ膵管の拡張が、がんの進行リスクを高める独立したリスク因子であることが示された。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部医学・腫瘍学教授のMarcia Irene Canto氏らによるこの研究結果は、「Gastro Hep Advances」に9月12日掲載された。Canto氏は、「この知見によりがんが早期発見されれば、生存率の向上につながる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 膵臓は消化酵素やインスリンなどを産生することで、消化と血糖値の調節に重要な役割を果たしている。膵臓は体の奥深くに位置するため、定期的な健康診断で腫瘍を早期発見することは難しく、診断時にはすでに進行しているケースが多い。膵臓がんの5年生存率は3〜16%とされている。米国がん協会(ACS)によると、膵臓がんは米国のがん全体の約3%、がんによる死亡全体の8%を占めているという。 この研究では、症状はないが、膵臓がんの家族歴を有するか遺伝的に膵臓がんリスクが高い641人を対象に、膵管拡張が膵管内の高度異形成や膵臓がんへの進行リスクと関連するのかが評価された。膵臓がんの家族歴とは、膵臓がんに罹患した第一度近親者(親、兄弟姉妹、子どもなど遺伝子を50%共有している人)が1人以上存在し、膵臓がんを発症した第一度近親者のペアが1組以上存在する家系に属する人の場合を指す。一方、遺伝的リスクとは、遺伝性膵臓がんに関わるATM(ataxia telangiectasia mutated)、やBRCA1、BRCA2などの遺伝子に変異を持っていることと定義された。膵管は、直径が頭部で4mm以上、体部で3mm以上、尾部で2mm以上の場合を膵管拡張と見なし、軽度(頭部4〜5mm、体部3〜4mm、尾部2〜3mm)、中等度〜重度(頭部6mm以上、体部5mm以上、尾部4mm以上)に分類した。 追跡期間中(中央値3.6年)、97人(15%)に腫瘍を伴わない膵管拡張が認められた。このうちの10人(10.3%)では、膵管拡張が確認されてから中央値で2年以内に高度異形成または膵臓がんへの進行が確認された。解析からは、試験開始時に膵管拡張が認められた対象者が高度異形成または膵臓がんに進行する累積リスクは5年後で16%、10年後で26%と推定された。膵管拡張がある高リスク患者では進行リスクが約2.6倍高く、さらに膵嚢胞が3個以上ある場合にはリスクが約9倍に増加することも示された。 Canto氏は、「われわれは、膵管拡張という警告サインを早期に特定することで、より迅速に介入することができた。介入方法は、手術か、より頻繁な画像検査を行うかのいずれかになる」と話す。同氏はまた、膵管拡張は、腎結石や腹痛など他の健康問題を調べるための画像検査時に発見される可能性があると指摘し、「医療提供者は、膵管拡張が早急に対処すべき問題であることを認識する必要がある」と述べている。 またCanto氏は、本研究の次の段階は、膵臓スキャン画像を分析して、がんリスクをより具体的かつ正確に予測できるようAIを訓練することだと語っている。

36.

代謝異常を伴う脂肪肝「MASLD」、慢性腎臓病の独立リスクに

 新しい脂肪肝の概念「MASLD;代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」が、慢性腎臓病(CKD)の独立したリスク因子であることが国内研究で示された。単一施設の約1.6万人の健康診断データを解析したもので、MASLDの早期発見や管理の重要性が改めて示された。研究は京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の大野友倫子氏、濱口真英氏、福井道明氏、朝日大学病院の大洞昭博氏、小島孝雄氏らによるもので、詳細は10月17日付で「PLOS One」に掲載された。 日本では食生活の欧米化に伴い肥満が増加し、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の有病率も上昇している。NAFLDは主に内臓脂肪やインスリン抵抗性と関連し、糖尿病や心血管疾患などの代謝異常を伴うことが多い。2020年には、こうした代謝背景を重視する形でNAFLDはMAFLDとして再定義され、日本の大規模コホート研究ではCKDの独立したリスク因子であることが報告された。さらに2023年、国際的専門家パネル(Delphiコンセンサス)により、より包括的でスティグマの少ない概念としてMASLDへと名称が変更され、少なくとも1つの心血管代謝リスク(BMI、血糖値、HDL-C値など)を伴う脂肪肝と定義された。本研究は、この新しい定義によるMASLDがCKD発症の独立したリスク因子となるかを明らかにすることを目的に、人間ドック受診者を対象とした縦断的コホート解析として実施された。 本研究では、岐阜県の朝日大学病院で実施されているNAFLDの縦断的解析(NAGALA Study)に基づき、1994~2023年の間に人間ドックを受けた1万5,873人を解析対象とした。ベースライン時点で肝疾患を有する者、またはCKD(推算糸球体濾過量〔eGFR〕<60mL/分/1.73m2、もしくはタンパク尿〔+1~+3〕が少なくとも3か月持続)と診断された者は除外した。参加者はアルコール摂取量、心血管代謝リスク、脂肪肝の有無によりグループ1~8までのカテゴリーに分類された。主要評価項目は、5年間の追跡期間中におけるCKDの新規発症率とし、ロジスティック回帰分析によりMASLDとCKD発症との関連を評価した。 解析対象の9,318人(58.7%)が男性で、平均年齢は43.7歳だった。追跡期間中のCKD新規発症率は、アルコール摂取が閾値以下で心血管代謝リスクおよび脂肪肝を認めないグループ1で最も低く(4.7%)、MASLDと診断されたグループ8で最も高かった(9.5%)。 次に、ベースライン時の年齢、性別、eGFR、喫煙習慣、運動習慣で調整した多変量解析を実施した。その結果、グループ1と比較して、MASLDと診断されたグループ8でのみCKD新規発症のオッズ比(OR)が有意に上昇した(OR 1.37、95%信頼区間〔CI〕1.12~1.67、P=0.002)。さらに、年齢(OR 1.04、95%CI 1.03~1.05、P<0.001)およびベースライン時のeGFR(OR 0.88、95%CI 0.87~0.89、P<0.001)も、CKDの有意な予測因子として同定された。 著者らは、「MASLDは、これまでのNAFLDを包含する新しい疾患概念として、CKD発症リスクを独立して高める可能性がある。特に日本に多い『非肥満型MASLD』では、腎機能低下リスクに注意が必要だ。今後は、筋肉量の影響を受けない腎機能指標を用いたリスク評価や、個別化された介入の検討が求められる」と述べている。 なお、本研究の限界点としては、参加者が岐阜県の人間ドック受診者に限られ、選択バイアスの可能性があること、食事内容や食後血糖などのデータが欠如している点などを挙げている。

37.

糖尿病を予防するにはランニングよりも筋トレの方が効果的?

 糖尿病の発症予防のために運動をするなら、ランニングよりもウエートリフティングの方が適しているのかもしれない。その可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Sport and Health Science」に10月30日掲載された。米バージニア工科大学運動医学研究センターのZhen Yan氏らが行った動物実験の結果であり、高脂肪食で飼育しながらランニングをさせたマウスよりもウエートリフティングをさせたマウスで、より好ましい影響が確認されたという。 論文の上席著者であるYan氏は、「私たちは誰でも長く健康な人生を送りたいと願っている。そして、運動を習慣的に続けることが、その願いの実現のためにメリットをもたらすことは誰もが知っている。ランニングなどの持久力をつける運動と、ウエートリフティングなどのレジスタンス運動(筋トレ)は、どちらもインスリン感受性を高めるというエビデンスが、ヒトを対象として行われた数多くの研究で示されてきている」と話す。 しかし、糖尿病の発症を防ぐという点で、それらの運動のどちらが優れているのかという疑問に対しては、まだ明確な答えが得られていない。そこでYan氏らは、これら二つのタイプの運動の効果を直接的に比較するため、マウスを用いた研究を行った。 ウエートリフティングをさせる1群は、餌の容器に蓋をして、その上に重りを載せたゲージ内で飼育した。この群のマウスが餌を食べるためには、肩の部分に取り付けられた小さな首輪を使って重りをどかす必要があり、その動作がヒトのウエートリフティングのトレーニングに相当するという仕組み。著者らによると、この方法はマウスにウエートリフティングをさせるために開発された初の手法だという。なお、研究期間中に蓋の重りを徐々に重くしていった。 別の1群は回転ホイールのあるゲージで飼育し、ランニングをさせる群とした。このほかに、特に運動をさせない1群も設けた。これら3群は、高脂肪食で飼育した。 8週間後、運動をさせた2群のマウスは、運動をさせなかった群に比較して、ともに脂肪量の増加が少なかった。ただし、ウエートリフティングをさせたマウスの方が、その抑制効果がより大きかった。また、ウエートリフティングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスよりも低く(インスリンの感受性が高く)、血糖値が高くなりにくい状態だった。これに対して、ランニングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスと同程度に高かった。 Yan氏は、「健康上のメリットを最大化するには、『できるだけ持久力を高める運動と筋トレの両方を行うべき』というのが、われわれの研究からの重要なメッセージだ」と述べている。また、「本研究の結果は、何らかの理由で持久力を高める運動ができない人にとって朗報と言える。筋トレは糖尿病予防という点で、持久力のための運動と同等、あるいはそれ以上の効果を期待できる」と付け加えている。

38.

認知症になりやすい遺伝的背景のある糖尿病患者も生活習慣次第でリスクが著明に低下

 2型糖尿病患者が心臓や血管に良い生活習慣を続けた場合、認知機能の低下を防ぐことができる可能性が報告された。特に、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、この効果がより大きいという。米テュレーン大学のYilin Yoshida氏らの研究によるもので、詳細は米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。 AHA発行のリリースの中でYoshida氏は、「2型糖尿病患者は認知機能低下のリスクが高く、これには複数の因子が関連している。例えば、肥満、高血圧、インスリン抵抗性などが認知機能低下に関連していると考えられる。そして、それらの因子をコントロールすることは、心臓や血管の健康状態を維持・改善することにもつながる」と述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者のうち、認知症でない4万人以上の成人2型糖尿病患者を対象に、認知症の遺伝的リスクと、心臓や血管の健康状態を調査した。後者の「心臓や血管の健康状態」の調査では、AHAが提唱している「Life’s Essential 8(健康に欠かせない8項目)」の遵守状況を調べた。具体的には、Life’s Essential 8に含まれている4項目の生活習慣と4項目の検査値をそれぞれスコア化した上で、不良、中程度、良好という3群に分類した。なお、Life’s Essential 8の8項目は以下のとおり。1. 健康に良い食習慣2. 積極的な身体活動3. タバコを吸わない4. 健康的な睡眠5. 適正体重の維持6. コレステロールのコントロール7. 血糖値のコントロール8. 血圧のコントロール この研究参加者の健康状態を13年間にわたって追跡したところ、840人が軽度認知障害となり、1,013人が認知症を発症していた。心臓や血管の健康状態が中程度または良好な人は不良の人に比べて、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが15%低かった。また、心臓や血管の健康状態は、認知機能にとって重要な脳の灰白質という部分の体積と強い関連があった。 これらの関連は、対象者の遺伝的な認知症リスクを考慮に入れた解析により、いっそう明確に示された。つまり、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、そのリスクが低い、または中程度の人に比べて、心臓や血管の健康状態が良好であることで、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが顕著に抑制されていた。より具体的には、心臓や血管の健康状態が不良の同世代の人に比べた場合に、軽度認知障害のリスクは27%低く、認知症のリスクは23%低かった。 研究グループの一員である同大学のXiu Wu氏は、「運命は遺伝子で規定されるものではない。心臓と血管の健康を最適な状態に維持することで、遺伝的に認知症リスクが高い2型糖尿病患者であっても、脳の健康を守ることができる」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

39.

1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理にクローズドループ療法は有効である(解説:小川大輔氏)

 1型糖尿病の治療法として、インスリン頻回注射やインスリンポンプが使用されているが、近年は持続血糖モニタリングのデータを利用してインスリンの注入量を自動的に調節するクローズドループ型のインスリン注入システム(クローズドループ療法)が用いられるようになっている。クローズドループ療法は、成人や小児の1型糖尿病の血糖管理に有効であることが報告されているが、妊娠中の1型糖尿病に対しては報告が少なく一定の見解が得られていない。今回1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の効果を検討したCIRCUIT試験の結果が発表された1)。 妊娠中の血糖のコントロール目標は、空腹時血糖値95mg/dL未満、かつ食後2時間値120mg/dL未満と、通常より厳格な管理が求められている2)。そして妊娠中の糖尿病の治療は食事療法と運動療法が基本となり、それでも血糖コントロールが不十分な場合はインスリン療法を行う。妊娠糖尿病(妊娠中に初めて発見された糖代謝異常)は食事療法と運動療法のみで血糖値を管理できることが多いが、薬物療法が必要となった場合は通常の糖尿病治療と異なり、経口血糖降下薬を用いることはなく直ちにインスリン療法を行う。1型糖尿病合併妊娠の場合、ペンによるインスリン注射やインスリンポンプを継続し、妊娠週数と共にインスリン需要量が増加するため、血糖値をモニタリングしながらインスリン投与量の調節を行うことになる。 このCIRCUIT試験は、1型糖尿病で妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の有効性を検討した試験である。クローズドループ療法は標準治療と比較して、妊娠16週から34週までの妊娠中の目標血糖値(63~140mg/dL)達成時間の割合(TIR)を有意に改善させたことが報告された。通常のクローズドループ療法ではTIRが70~180mg/dLに設定されているが、この試験は対象が妊娠中ということで通常より厳格な目標が設定されている。それでもクローズドループ療法ではTIRが65.4%と良好な血糖コントロールが得られていたことは注目に値する。主な有害事象としては、重症低血糖がクローズドループ療法で1例、糖尿病性ケトアシドーシスがクローズドループ療法で2例、標準治療で1例報告されたが、対象の症例数が少なく(クローズドループ療法44例、標準治療44例)今後の検討が必要である。 今回の研究により、1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の有効性が示された。今後、1型糖尿病合併妊娠の血糖管理にクローズドループ療法を用いる頻度が増え、妊娠に伴う合併症の発生が低減することを期待したい。ただ本試験では、日本では未承認のタンデム社製Control-IQインスリンポンプが使用されている点には注意が必要である。

40.

1型糖尿病の高リスク乳児、経口インスリンの1次予防効果は?/Lancet

 膵島関連自己抗体発現リスクが高い乳児において、ヒト亜鉛インスリン結晶から製造された経口インスリンの高用量投与はプラセボと比較し、膵島関連自己抗体の発現を予防しなかった。ドイツ・Helmholtz MunichのAnette-Gabriele Ziegler氏らが、Global Platform for the Prevention of Autoimmune Diabetes(GPPAD)の7施設(ドイツ3施設、ポーランド・スウェーデン・ベルギー・英国各1施設)で実施した研究者主導の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Primary Oral Insulin Trial:POInT試験」の結果を報告した。1型糖尿病はインスリンを含む膵島抗原に対する自己免疫反応により発症するが、膵島関連自己抗体や疾患症状発現前の自己免疫反応予防を目的とした経口自己抗原免疫療法の有効性を評価する臨床試験は行われていなかった。Lancet誌オンライン版2025年11月11日号掲載の報告。主要アウトカムは、膵島関連自己抗体発現(2種類以上)または糖尿病発症 研究グループは、GPPAD遺伝子スクリーニングプログラムにより6歳までに2種類以上の膵島関連自己抗体発現リスクが10%超の、離乳食を開始している生後4~7ヵ月の乳児を特定し、経口インスリン群またはプラセボ群に、1対1の割合で、施設で層別化して無作為に割り付けた。すべての参加者とその家族、研究者、検査室スタッフは、研究期間中割り付けを盲検化された。 参加者には経口インスリンまたはプラセボが1日1回、7.5mgを2ヵ月間、その後22.5mgを2ヵ月間、その後67.5mgを3歳時まで投与し、ベースライン、投与開始後2ヵ月時、4ヵ月時、8ヵ月時、生後18ヵ月時、その後2024年6月28日の最終外来受診日まで6ヵ月ごとに検査を実施した。 主要アウトカムは、2種類以上の膵島関連自己抗体(IAA、GADA、IA-2A、ZnT8A)の発現(2つの中央検査施設において2回連続で陽性および少なくとも1検体で2種類目の自己抗体が確認された場合に陽性と定義)または糖尿病発症とした。副次アウトカムは、糖代謝異常または糖尿病発症であった。 適格基準を満たし割り付けられた全参加者のうち、ベースラインで主要アウトカムの要件を満たさなかった参加者を主要解析の対象とした。試験薬を少なくとも1回投与された参加者を安全性解析に含めた。経口インスリン群とプラセボ群で主要アウトカムの有意差なし 2017年7月24日~2021年2月2日に乳児24万1,977例がスクリーニング検査を受け、2,750例(1.14%)で膵島関連自己抗体発現リスクの上昇がみられ、このうち適格基準を満たした1,050例(38.2%)が2018年2月7日~2021年3月24日に無作為化された(経口インスリン群528例、プラセボ群522例)。年齢中央値6.0ヵ月(範囲:4.0~7.0)、男児531例(51%)、女児519例(49%)であった。 経口インスリン群で2例(1型糖尿病の家族歴に関する情報の誤り1例、ベースラインで2種類以上の膵島関連自己抗体を保有していた1例)が除外され、主要解析対象集団は経口インスリン群526例、プラセボ群522例であった。 主要アウトカムのイベントは経口インスリン群で52例(10%)、プラセボ群で46例(9%)に発現した。ハザード比(HR)は1.12(95%信頼区間[CI]:0.76~1.67)で両群間に有意差は認められなかった(p=0.57)。 事前に規定されたサブ解析の結果、主要アウトカムおよび副次アウトカムに関して治療とINS rs1004446遺伝子型の相互作用が認められた。非感受性INS遺伝子型を保有する経口インスリン群の参加者はプラセボ群と比較して、主要アウトカムのイベントが増加し(HR:2.10、95%CI:1.08~4.09)、感受性INS遺伝子型を保有する経口インスリン群の参加者はプラセボ群と比較して、糖尿病または糖代謝異常の発症が低下した(HR:0.38、95%CI:0.17~0.86)。 安全性については、血糖値50mg/dL未満は、インスリン群で7,210検体中2件(0.03%)、プラセボ群で7,070検体中6件(0.08%)に観察された。有害事象は、インスリン群で96.0%(507/528例)に5,076件、プラセボ群で95.8%(500/522例)に5,176件発現した。インスリン群で死亡が1例認められたが、独立評価により試験薬との関連はなしと判定された。

検索結果 合計:885件 表示位置:21 - 40