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悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)〔malignant soft tissue tumor / soft tissue sarcoma〕

1 疾患概要■ 定義全身の軟部組織(リンパ・造血組織、グリア、実質臓器の支持組織を除く)より発生し、骨・軟骨を除く非上皮性間葉系組織(中胚葉由来の脂肪組織、線維組織、血管・リンパ管、筋肉、腱・滑膜組織および外胚葉由来の末梢神経組織などを含む)から由来する腫瘍の総称で、良性から低悪性~高悪性まで100種類以上の多彩な組織型からなる軟部腫瘍のうち、生物学的に悪性(局所再発や遠隔転移しうる)のものを悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)と呼ぶ。■ 疫学人口10万人あたり約3人の発生率で、全悪性腫瘍の0.7~1.0%程度とまれな悪性腫瘍である(わが国では胃がんや肺がんの1/20程度)が、経年的には増加傾向にある。また、骨・軟部肉腫が通常のがん腫に比し、若年者に多い傾向があることから、20歳未満の小児悪性腫瘍の中では約7.4%を占める。発生部位は軟部肉腫全体の約60%が四肢に発生し、そのうち約2/3が下肢(とくに大腿部に最も好発)に発生するが、その他の部位(臀部や肩甲帯、胸・腹壁などの表在性体幹部、後腹膜や縦隔などの深部体幹)にも広く発生するのが、軟部肉腫の特徴である。■ 病因近年の分子遺伝学的解析の進歩により、軟部肉腫においても種々の遺伝子異常が発見されるようになった。なかでも、特定の染色体転座によって生じる融合遺伝子異常が種々の組織型の軟部肉腫で検出され(表1)、その病因としての役割が明らかになってきた。こうした融合遺伝子異常は、すべての軟部肉腫のうち約1/4で認められる。一方、融合遺伝子異常を示さない残り3/4の軟部肉腫においても、いわゆるがん抑制遺伝子として働くP53、RB1、PTEN、APC、NF1、CDKN2などの点突然変異や部分欠失による機能低下、細胞周期・細胞増殖・転写活性・細胞内シグナル伝達などを制御する種々の遺伝子(CDK4、MDM2、KIT、WT1、PDGF/PDGFR、VEGFR、IGF1R、AKT、ALKなど)異常が認められ、その発症要因として関与していると考えられる。また、NF1遺伝子の先天異常を有する常染色体優性遺伝疾患である多発性神経線維腫症(von Recklinghausen病)では神経原肉腫(悪性末梢神経鞘腫)やその他の悪性腫瘍が発生しやすく、乳がんなどの治療後の上肢リンパ浮腫を基盤に生じるリンパ管肉腫(Stewart-Treves症候群)、放射線照射後に発生するpostradiation sarcomaなども知られている。画像を拡大する■ 症状無痛性のしこり(軟部腫瘤)として発見されることが最も多い。疼痛(自発痛や圧痛)や局所熱感、患肢のしびれなどは時にみられるが必発ではなく、良悪性の鑑別にはあまり役立たない。腫瘤の大きさは米粒大~20cmを超えるような大きなものまでさまざまであるが、明らかに増大傾向を示すような腫瘤の場合、悪性の可能性が疑われる。ただし、一部の腫瘍(とくに滑膜肉腫)ではほとんど増大せずに10年以上を経過し、ある時点から増大し始めるような腫瘍もあるので注意が必要である。縦隔や後腹膜・腹腔内の軟部肉腫では、相当な大きさになり腫瘤による圧迫症状が出現するまで発見されずに経過する進行例が多いが、時に他の疾患でCTやMRI検査が行われ、偶然に発見されるようなケースも見受けられる。■ 分類正常組織との類似性(分化度: differentiation)の程度により病理組織学的に分類される。脂肪肉腫、平滑筋肉腫、未分化多形肉腫(かつての悪性線維性組織球腫)、線維肉腫、横紋筋肉腫、神経原肉腫(悪性末梢神経鞘腫)、滑膜肉腫などが比較的多いが、そのほかにもまれな種々の組織型の腫瘍が軟部肉腫には含まれ、組織亜型も含めると50種類以上にも及ぶ。■ 予後軟部肉腫には低悪性のものから高悪性のものまで多彩な生物学的悪性度の腫瘍が含まれるが、その組織学的悪性度(分化度、細胞密度、細胞増殖能、腫瘍壊死の程度などにより規定される)により、生命予後が異なる。また、組織学的悪性度(G)、腫瘍の大きさ・深さ(T)、所属リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)により病期分類が行われ、予後とよく相関する(表2)。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)軟部腫瘤の局在・局所進展度とともに、質的診断をするための画像診断としてはMRIが最も有用であり、必須といってもよい。腫瘍内の石灰化の有無、隣接骨への局所浸潤の有無、隣接主要血管・神経との位置関係をみるにはCTのほうが有用であるが、腫瘍自体の質的診断という点ではMRIよりも劣る。したがって、まずはMRIを施行し、画像診断できるもの(皮下に局在する良性の脂肪腫、典型的な神経鞘腫や筋肉内血管腫など)の場合には、外科的腫瘍切除を含め治療方針を生検なしに決定できる。しかし、軟部腫瘍の場合には画像診断のみでは診断確定できないものも少なくなく、良悪性の鑑別を含む最終診断確定のためには、通常生検が必要となる。生検はある程度の大きさの腫瘤(最大径がおおむね3cm以上)では、局麻下での針生検(ベッドサイドで、または部位によってはCTガイド下で)を行うが、針生検のみでは診断がつかない場合には、あらためて全麻・腰麻下での切開生検術が必要となることもある。また、径3cm未満の小さな表在性の腫瘍の場合、生検を兼ねて一期的に腫瘍を切除する(切除生検)こともあるが、この場合、悪性腫瘍である可能性も考慮し、腫瘍の周辺組織を腫瘍で汚染しないよう注意する(剥離の際に腫瘍内切除とならないよう気を付ける、切除後の創内洗浄は行わない、など)とともに、後の追加広範切除を考慮し、横皮切(とくに四肢原発例)は絶対に避けるなどの配慮も必要となる。皮下に局在する小さな腫瘍の場合、良悪性の区別も考慮されることなく一般診療所や病院で安易に局麻下切除した結果、悪性であったと専門施設に紹介されることがしばしばある。しかし、その後の追加治療の煩雑さや機能予後などを考えると、診断(良悪性の鑑別も含む)に迷った場合には、安易に切除することなく、骨・軟部腫瘍専門施設にコンサルトまたは紹介したほうがよい。生検により悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の確定診断がついたら、組織型・悪性度や必要に応じて肺CT、局所CT、骨シンチグラム、FDG-PET/CTなどを行い、腫瘍の局所進展度・遠隔転移(とくに肺転移)などを検索したうえで、治療方針を決定する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の原則は、外科的腫瘍広範切除(腫瘍を周囲の正常組織を含め一塊に切除する術式)であるが、必要に応じて術前あるいは術後に放射線治療を併用し、術後局所再発の防止を図る。組織型(とくに滑膜肉腫、横紋筋肉腫、未分化神経外胚葉腫瘍、粘液型脂肪肉腫など)や悪性度によっては、また、遠隔転移を有する腫瘍の場合には、抗悪性腫瘍薬による全身化学療法を併用する。4 今後の展望これまで長い間、軟部肉腫に対する有効な抗悪性腫瘍薬としてはドキソルビシン(商品名:アドリアシンなど)とイホスファミド(同:イホマイド)の2剤しかなかったが、近年ようやくわが国でも軟部肉腫に対する新規薬剤の国際共同臨床試験への参加や治験開発が進むようになってきた。2012年9月には、軟部肉腫に対する新規分子標的治療薬であるパゾパニブ(同:ヴォトリエント)が、わが国でもオーファンドラッグとして製造・販売承認され、保険適応となった。また、トラベクテジン〔ET-743〕(同:ヨンデリス/2015年9月に承認)やエリブリン(同:ハラヴェン/わが国では軟部肉腫に対しては保険適応外)など複数の軟部肉腫に対する新規抗腫瘍薬の開発も行われている。5 主たる診療科整形外科、骨軟部腫瘍科 など軟部肉腫は希少がんであるにもかかわらず、組織型や悪性度も多彩で診断の難しい腫瘍である。前述のMRIでの画像診断のみで明らかに診断がつく腫瘍以外で良悪性不明の場合、小さな腫瘍であっても安易に一般診療所や病院で生検・切除することなく、骨・軟部腫瘍を専門とする医師のいる地域基幹病院の整形外科やがんセンター骨軟部腫瘍科にコンサルト・紹介するよう心掛けてほしい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス(各種がんのエビデンスデータベース「軟部肉腫」の情報)日本整形外科学会(骨・軟部腫瘍相談コーナーの情報)日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)(骨軟部腫瘍グループの研究に関する情報)NPO骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)(医療従事者向けの診療・研究情報)患者会情報日本に「サルコーマセンターを設立する会」(肉腫患者および家族の会)1)上田孝文. 癌と化学療法. 2013; 40: 318-321.公開履歴初回2013年06月06日更新2016年01月26日

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抗ヒトTリンパ球免疫グロブリン追加でGVHDが半減/NEJM

 急性白血病患者に対する同種末梢血幹細胞移植において、従来の骨髄破壊的前処置レジメンに抗ヒトTリンパ球免疫グロブリン(ATG)を加えると、2年時の慢性移植片対宿主病(GVHD)の発症率が半減することが、ドイツのハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのNicolaus Kroger氏らの検討で示された。慢性GVHDは、同種造血幹細胞移植後の晩期合併症や死亡の主な原因で、QOLを損なう。この20年間で、急性GVHDの予防には改善がみられるが、慢性GVHDの予防は改善されていない。ATGは唯一、非血縁ドナー由来の幹細胞移植時に使用すると慢性GVHDの発症率を低下させるとの報告があり、HLA一致ドナーからの移植に関する小規模の後ろ向き試験で抑制効果が確認されている。NEJM誌2016年1月7日号掲載の報告。AML、ALL患者でのATG追加の有用性を無作為化試験で評価 研究グループは、急性白血病患者に対する骨髄破壊的前処置レジメンにATGを併用すると、HLA一致同胞からの同種末梢血幹細胞移植後2年時の慢性GVHDが大幅に減少するとの仮説を立て、これを検証するための多施設共同非盲検無作為化第III相試験を行った(Neovii Biotech社および欧州血液骨髄移植学会の助成による)。 対象は、年齢18~65歳、初回または2回目の完全寛解が得られた急性骨髄性白血病(AML)または急性リンパ性白血病(ALL)で、同種造血幹細胞移植の適応と判定された患者であった。同胞ドナーは、血清学的にHLA-AとHLA-Bが適合し、高解像度DNAマッチング法でHLA-DRB1とHLA-DQB1のアレルが適合するものとした。 被験者は、HLA一致同胞ドナーからの同種末梢血幹細胞移植前の3日間、骨髄破壊的レジメン(シクロホスファミド+全身照射またはブスルファン±エトポシド)にATGを併用する群または併用しない群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、移植後2年時の慢性GVHDの累積発症率とした(改訂シアトル基準およびNIH基準で判定)。副次評価項目は、2年時の生着、急性GVHD、非再発死亡、無再発生存、全生存であった。 2006年12月~12年2月に、27施設に155例が登録され、ATG群に83例、非ATG群には72例が割り付けられた。ベースラインの両群の背景因子は全般にバランスが取れていたが、年齢中央値がATG群39.0歳、非ATG群43.5歳(p=0.04)と有意な差が認められた。2年時慢性GVHD:32.2 vs.68.7%、無再発生存、全生存は同等 フォローアップ期間中央値24ヵ月の時点で、慢性GVHDの累積発生率はATG投与群が32.2%(95%信頼区間[CI]:22.1~46.7)と、非投与群の68.7%(58.4~80.7)に比べ有意に低かった(p<0.001)。 2年無再発生存率は両群でほぼ同程度であり(ATG投与群:59.4%[95%CI:47.8~69.2] vs.非投与群:64.6%[50.9~75.3]、p=0.21)、全生存率にも大きな差はなかった(74.1%[62.7~82.5] vs.77.9%[66.1~86.1]、p=0.46)。 生着不全は非投与群の1例(1.4%)に認められた。移植後100日以内の急性GVHDの発症率はATG投与群が25.3%、非投与群は34.7%(p=0.20)で、そのうちGrade2~4はそれぞれ10.8%、18.1%(p=0.13)、Grade3/4は2.4%、8.3%(p=0.10)であり、いずれも有意な差はみられなかった。 感染性合併症は、ATG投与群が57.8%、非投与群は54.2%にみられ、有意な差はなかった(p=0.65)。サイトメガロウイルスの再活性化(21.7 vs.25.0%、p=0.63)、エプスタイン・バール・ウイルスの再活性化(3.6 vs.1.4%、p=0.38)、真菌感染(3.6 vs.4.2%、p=0.86)にも有意差はみられなかった。移植後リンパ増殖性疾患は両群とも認めなかった。 2年時の非再発死亡率は、ATG投与群が14.0%、非投与群は12.0%であった(p=0.60)。有害事象(Bearmanスコア)の発生率は、消化管毒性(28.9 vs.52.8%、p=0.03)を除き両群間に有意な差はみられず、重症度にも差はなかった。 2年時の慢性GVHDの発現のない生存および無再発生存の複合エンドポイントの発生率は、ATG投与群が非投与群よりも有意に良好だった(36.6 vs.16.8%、p=0.005)。 著者は、「骨髄破壊的前処置レジメンへのATGの追加により、慢性GVHDの発生率が有意に抑制された。無再発生存率と全生存率はほぼ同じであったが、慢性GVHDのない生存および無再発生存の複合エンドポイントはATGを追加した患者が優れた」とまとめている。

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多発性骨髄腫に対するVTD療法 vs. VTDC療法、長期アウトカム比較

 多発性骨髄腫の導入療法として、VTD療法(ボルテゾミブ+サリドマイド+デキサメタゾン)とVTDC療法(VTD+シクロホスファミド)の長期アウトカムの違いを評価するため、オーストリア・Wilhelminenがん研究所のHeinz Ludwig氏らは、無作為化第II相試験のフォローアップ結果を報告した。British journal of haematology誌2015年11月号の報告。 多発性骨髄腫の新規診断患者98例をVTD(ボルテゾミブ静注[1.3mg/m2、第1、4、8、11日目]+サリドマイド[100mg、第1~21日目]+デキサメタゾン[40mg、第1~4日目および9~12日目])群とVTDC(VTD+シクロホスファミド[400mg/m2、第1、8日目])群に1:1で割り付け、幹細胞動員・移植前に4サイクル(21日/サイクル)実施した。 主な結果は以下のとおり。・中央値64.8ヵ月のフォローアップ後、次の治療までの期間(中央値)は、VTD群で51.8ヵ月、VTDC群で47.9ヵ月であった。・その後の治療内容は、両群とも類似していた。・中途打ち切りを調整後、進行までの期間(中央値)は、VTD群(35.7ヵ月)とVTDC群(34.5ヵ月)との間で有意な差は認められなかった(HR 1.26、95%CI:0.76~2.09、p=0.370)。・5年生存率は、VTD群で69.1%、VTDC群で65.3%であった。・微小残存病変(minimal residual disease:MRD)の有無により分析すると、骨髄で完全奏効(CR)が確認された患者の全生存期間は、MRD陽性と比較しMRD陰性で長かった(HR 3.66、p=0.0318)。・VTD療法に続く移植は、多発性骨髄腫の長期コントロールを可能とする。1次解析の結果と一致し、VTD療法にシクロホスファミドを追加することによるメリットは示されなかった。(ケアネット 鷹野 敦夫)血液内科関連Newsはこちらhttp://www.carenet.com/hemato/archive/news原著論文はこちらLudwig H, et al. Br J Haematol. 2015;171:344-354.

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膵神経内分泌腫瘍〔P-NET : pancreatic neuroendocrine tumor〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor: NET)は、神経内分泌細胞に由来する腫瘍の総称で、膵臓、下垂体、消化管、肺、子宮頸部など全身のさまざまな臓器に発生する。NETは比較的まれで進行も緩徐と考えられているが、基本的に悪性のポテンシャルを有する腫瘍である。ホルモンやアミンの過剰分泌を伴う機能性と非機能性に大別される。■ 疫学1)pNETの発症数欧米では膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor: pNET)は膵腫瘍全体の1~2%、年間有病数は人口10万人あたり1人以下と報告されている。日本における2005年の1年間のpNETの受療者数は約2,845人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.23人、新規発症率は人口10万人あたり約1.01人と推定された。発症平均年齢は57.6歳で、60代にピークがあり、全体の15.8%を占めている。一方、2010年1年間のpNETの受療者数は約3,379人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.69人、新規発症率は人口10万人あたり約1.27人と推定され、増加傾向がみられた。2)疾患別頻度2005年のわが国の疫学調査では、非機能性pNETが全体の47.4%を占め、機能性は49.4%を占めていた。2010年では、非機能性・機能性pNETの割合はそれぞれ34.5%と65.5%であり、非機能性腫瘍の割合が増えた。インスリノーマ20.9%、ガストリノーマ8.2%、グルカゴノーマ3.2%、ソマトスタチノーマ0.3%であった。機能性・非機能性腫瘍の割合は、欧米の報告に近づいたが、わが国では機能性腫瘍においてインスリノーマが多い傾向にある。■ 病因NETの発生にPI3K (phosphoinositide 3-kinase)-Akt経路が関わっていると考えられている。NETでは家族性発症するものが知られており、多発性内分泌腫瘍症I型(MEN-1)では原因遺伝子が同定され、下垂体腫瘍、副甲状腺腫瘍やpNETを来す。また、結節性硬化症、神経線維症、Von Hippel-Lindau(VHL)病を含む遺伝性腫瘍性疾患ではpNETの発生にmTOR経路が関連していると考えられているが、病因の詳細はいまだ不明である。■ 症状2005年のわが国における全国疫学調査によると、「症状あり」で来院した症例が全体の60%で、最も頻度が高いのは低血糖由来の症状であった。一方、無症状で検診にて偶然発見された症例は全体の24%であった。また、有症状例において何らかの症状が出現してからpNETと診断されるまで、平均約22ヵ月を要している。1)機能性腫瘍の症状機能性pNETは腫瘍が放出するホルモンによる内分泌症状をもたらすが、転移性のものは悪性腫瘍として生命予後に関わるという別の側面も持つ。また、ホルモン分泌も単一ではなく、複数のホルモンを分泌する腫瘍も認められる。主な内分泌症状を表1に示した。画像を拡大する2)非機能性腫瘍の症状非機能性腫瘍では特異的症状を呈さず、腫瘍増大による症状(周囲への圧迫・浸潤)や遠隔転移によって発見されることが多い。初発症状は腹痛、体重減少、食欲低下、嘔気などであるが、いずれも非特異的である。有肝転移例の進行例では、肝機能障害・黄疸が認められる。■ 分類上述したとおり、機能性腫瘍と非機能性腫瘍に大別される。遺伝性疾患(MEN-1、VHL)を合併するものもある。わが国においてはMEN-1合併の頻度は、2010年の調査ではpNET全体で4.3%であった。その中で、ガストリノーマは16.3%と最も高率にMEN-1を合併しており、非機能性pNETでは 4.0%であった。欧米の報告では非機能性pNETのMEN-1合併頻度は約30%であり、日本と大きな差を認めた。pNETの病理組織学的診断は、とくに切除不能腫瘍の治療方針決定に重要な情報となる。WHO 2010年分類を表2に示す。画像を拡大する■ 予後予後に与える因子は複数認められ、遠隔転移(肝転移)の有無、遺伝性疾患の有無、組織学的分類が影響を与える。欧米の報告によると5年生存率は、腫瘍が局所に留まっている症例で71%、局所浸潤が認められる症例で55%、遠隔転移を有する症例で23%とされる。インスリノーマ以外は遠隔転移を有する率が高く、予後不良である。単発例で転移がなく、治癒切除が施行できた症例の予後は良好である。WHO 2010分類でNECと診断された症例は、進行が早く、予後はさらに不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 存在診断症状や画像所見よりpNETが疑われた場合、各種膵ホルモンの基礎値を測定する。MEN-1を合併する頻度が高いことから、初診時に副甲状腺機能亢進症のスクリーニングで血清Ca、P値、intact-PTHを測定する。腫瘍マーカーとして神経内分泌細胞から合成・分泌されるクロモグラニンA(CgA)の有用性が知られているが、わが国ではいまだに保険適用がない。ほかに腫瘍マーカーとしてはNSEも用いられるが感度は低い。症状、検査などからインスリノーマやガストリノーマが疑われた場合、負荷試験(絶食試験、カルチコール負荷試験)を加えることで存在診断を進める。■ 局在診断pNETの多くは、多血性で内部均一な腫瘍であり、典型例では診断は容易であるが、乏血性を示すものや嚢胞変性を伴うような非典型例では、膵がんや嚢胞性膵腫瘍など他の膵腫瘍との鑑別が問題となる。インスリノーマやガストリノーマでは腫瘍径が小さいものも多く、正確な局在診断が重要である。症例に応じて各種modalityを組み合わせて診断する。1)腹部超音波検査内部均一な低エコー腫瘤として描出される。最も低侵襲であり、スクリーニングとして重要である。2)腹部CTダイナミックCTにて動脈相で非常に強く造影される。肝転移やリンパ節転移の検出にも優れており、ステージングの診断の際に必須である。3)腹部MRIT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号を呈する。CT同様、造影MRIでは腫瘍濃染を呈する。4)超音波内視鏡(EUS)辺縁整、内部均一な低エコー腫瘤として描出される。膵全体を観察でき、1cm以下の小病変も同定できる。診断率は80~95%程度とCTやMRIより優れており、原発巣の局在診断において非常に有用である。さらにEUS-FNAを併用することで組織診断が可能である。 5)選択的動脈内刺激薬注入法(SASI TEST)〔図1〕機能性腫瘍の局在診断に有用なmodalityである。腹部動脈造影の際に肝静脈内にカテーテルを留置し、膵の各領域を支配する動脈から刺激薬(カルシウム)を注入後、肝静脈血中のインスリン(ガストリン)値を測定し、その上昇から腫瘍の局在を判定する方法である。腫瘍の栄養動脈を同定することで他のmodalityでは描出困難な腫瘍の存在領域診断が可能であり、インスリノーマやガストリノーマの術前検査としてとくに有用である。画像を拡大する6)ソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)pNETではソマトスタチンレセプター(SSTR)、とくにSSTR2が高率に発現している。SSTR2に強い結合能を持つオクトレオチドを用いたソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)が、海外では広く行われており、転移巣を含めた全身検索に有用である。わが国では保険適用がないため、臨床試験として限られた施設でしか施行されていない。早期の国内承認が期待される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的治療pNETの治療法の第1選択は外科治療であり、小さな単発の腫瘍に対しては、腫瘍核出術が標準術式である。多発性腫瘍、膵実質内の腫瘍など核出困難例は膵頭十二指腸切除術、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術、または膵体尾部切除術、膵分節切除術が行われる。肝転移を有する症例でも切除可能なものは積極的に切除する。1)分子標的薬近年、pNETに対するさまざまな分子標的薬を用いた臨床試験が行われてきた。その結果、mTOR阻害薬であるエベロリムス(商品名:アフィニトール)とマルチキナーゼ阻害薬であるスニチニブ(同:スーテント)が進行性pNET (NET G1/G2)に有効であることが示された。米国NCCNガイドラインでも推奨され(図2)、最近わが国でもpNETに対して保険適用が追加承認された(表3)。2015年の膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNETに対するエベロリムスやスニチニブ療法はグレードBで推奨されているが、さまざまな有害事象に対する注意や対策が必要である(表3)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する2)全身化学療法(殺細胞性抗腫瘍療法)進行性pNETに対する全身化学療法は、わが国においてはいまだコンセンサスがなく、保険適用外のレジメンが多い。(1)NET G1/G2に対する全身化学療法進行性の高分化型pNET(NET G1/G2相当)に対し、欧米で使用されてきた化学療法剤の中ではストレプトゾシン(STZ[同: ザノサー点滴静注])が代表的であるが、わが国ではこれまで製造販売されていなかった。国内でpNETおよび消化管NETに対するSTZの第I/II相試験が多施設共同で行われ、2014年にわが国でも保険適用され、2015年2月より国内販売された。膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNET に対するSTZ療法はグレードC1と位置づけられている。他ではアルキル化剤であるダカルバジン(同: ダカルバジン)の報告もあるが保険承認されていない。(2)NECに対する全身化学療法pNETのうち低分化型腫瘍(WHO分類2010でNEC)は病理学的に小細胞肺がんに類似しており、進行も非常に速いことから、小細胞肺がんに準じた治療が行われている。肝胆道・膵由来のNECに対するエトポシド/CDDP併用療法の結果をretrospectiveに解析した報告では、奏効率14%、PFS中央値 1.8ヵ月、OS中央値が5.8ヵ月であった。わが国で実施された小細胞肺がんに対する第III相試験においてイリノテカン/CDDP併用療法がエトポシド/CDDP併用療法より効果を示したことを受けて、肺外のNECに対しても期待されている。現在、膵・消化管NECに対し、エトポシド/CDDP併用療法 vs. イリノテカン/CDDP併用療法の国内比較第III相試験が行われている。3)ソマトスタチンアナログ(SA)SAは広範な神経内分泌細胞でのペプチドホルモンの合成・分泌を阻害する作用を有している。オクトレオチド(同:サンドスタチン)を含むSAが持つ機能性NETに対する効果について、症候に対するresponseが平均73%(50~100%)といわれている。2009年に中腸由来の転移性高分化型NET(NET G1/G2相当)に対するオクトレオチドLARの抗腫瘍効果が示された(PROMID study)。pNETに対するSAの抗腫瘍効果に関しては、これまで十分なエビデンスは得られてこなかったが、2014年にランレオチド・オートゲル(同:ソマチュリン)のpNET・消化管NETに対する無増悪生存期間延長効果が報告された(CLARINET study)。それを受けてNCCNガイドラインでは、pNETに対するSAの位置づけが変わったが(図2)、わが国のガイドラインでは抗腫瘍効果を目的とした、NETに対するSAの明確な推奨はない。現在、わが国での承認を目的に、ランレオチド・オートゲルの国内第II相試験が進行中である。■ 肝転移に対する治療pNETの肝転移は疼痛や腫瘍浸潤による症状、もしくは内分泌症状が認められるまで気が付かれないことも多く、肝転移を伴った症例の80~90%は診断時すでに治癒切除が困難である。pNETの肝転移は血流が豊富であり、腫瘍への血流は90%以上肝動脈から供給されていることから、肝細胞がんと同様に動脈塞栓療法(transarterial embolization: TAE)や動脈塞栓化学療法(transarterial chemoembolization: TACE)がpNETの肝転移(とくに高腫瘍量)の局所治療として有用である。TAE後の生存率に関する報告はさまざまで5年生存率が0~71%(中央値50%)、生存期間中央値も20~80ヵ月と幅がある。腫瘍数が限られている症例では、ラジオ波焼灼術(RFA)が有用とする報告もある。わが国の診療ガイドラインでは、肝転移巣に対する局所療法はグレードC1と位置付けされている。4 今後の展望今までpNETに関しての診断・治療に関する明確な指針が、わが国にはなかったが、2013年にweb上でガイドラインが公開され、2015年には「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」として発刊された。今後、わが国におけるpNET診療の向上が期待される。pNETに対する薬物療法の臨床試験としては、進行性のG1/G2 pNETを対象に新規SAであるSOM230(パシレオチド)/RAD001(エベロリムス)併用療法とRAD001単独療法を比較したランダム化第II相試験がGlobal治験として行われ、現在解析中である。テモゾロミド(同: テモダール)は、副作用が軽減されたダカルバジンの経口抗がん剤であり、国内では悪性神経膠腫に保険適用を得ている薬剤であるが、進行性NET患者に対する他薬剤との併用療法の臨床試験が行われており、サリドマイド(同: サレド)やカペシタビン(同: ゼローダ)やベバシズマブ(同: アバスチン)などの薬剤との併用療法が期待されている。最近の話題の1つとして、WHO分類でNECに分類される腫瘍の中に、高分化なものと低分化なものが含まれている可能性が指摘されている。高分化NECに対する分子標的薬治療の可能性も提案されているが、今後の検討が待たれる。診断ツールとして有用な、血中クロモグラニンAの測定や、SRSが1日も早くわが国でも保険承認されることを希望するとともに、海外で臨床試験として施行されているPRRT(peptide receptor radionuclide therapy)の国内導入も今後の希望である。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、内分泌内科、内分泌外科、腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報日本神経内分泌腫瘍研究会(Japan NeuroEndocrine Tumor Society: JNETS)(医療従事者(専門医)向けのまとまった情報)独立行政法人 国立がん研究センター「がん情報サービス」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NET Links(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト(Cancer Information Japan)(患者向けの情報)がんを学ぶ(患者向け情報)(患者向けの情報)患者会情報NPOパンキャンジャパン(pNET患者と家族の会)1)日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS) 膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン作成委員会編.膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン; 2015.2)Ito T, et al. J Gastroenterol. 2010; 45:234-243.3)Yao JC, et al. N Eng J Med. 2012; 364:514-523.4)Raymond E, et al. N Eng J Med. 2011; 364:501-513.公開履歴初回2013年02月28日更新2015年09月18日

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巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)〔GCA : giant cell arteritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis:GCA)は、大動脈とその分枝の中~大型動脈に起こる肉芽腫性血管炎である。頸動脈の頭蓋外の動脈(とくに側頭動脈)が好発部位のため、以前は、側頭動脈炎(temporal arteritis:TA)といわれた。発症年齢の多くは50歳より高齢であり、しばしばリウマチ性多発筋痛症(PMR)を合併する。1890年HunchingtonらがTAの症例を報告し、1931年にHortonらがTAの臨床像や病理学的特徴を発表したことからTAとしての古い臨床概念が確立し、また、TAは“Horton’s disease”とも呼ばれてきた。その後1941年Gilmoreが病理学上、巨細胞を認めることから“giant cell chronic arteritis”の名称が提唱された。この報告により「巨細胞性動脈炎(GCA)」の概念が確立された。GCAは側頭動脈にも病変を認めるが、GCAのすべての症例が側頭動脈を傷害するものではない。また、他の血管炎であっても側頭動脈を障害することがある。このためTAよりもGCAの名称を使用することが推奨されている。■ 疫学 1997年の厚生省研究班の疫学調査の報告は、TA(GCA)の患者は人口10万人当たり、690人(95%CI:400~980)しか存在せず、50歳以上では1.48人(95%CI: 0.86~2.10)である。人口10万人当たりの50歳以上の住民のGCA発症率は、米国で200人、スペインで60人であり、わが国ではTA(GCA)は少ない。このときの本邦のTA(GCA)の臨床症状は欧米の症例と比べ、PMRは28.2%(欧米40~80%)、顎跛行は14.8%(8~50%)、失明は6.5%(15~27%)、脳梗塞は12.1%(27.4%)と重篤な症状はやや少ない傾向であった。米国カリフォルニア州での報告では、コーカシアンは31症例に対して、アジア人は1例しか検出されなかった。中国やアラブ民族でもGCAはまれである。スカンジナビアや北欧出身の家系に多いことが知られている。■ 病因病因は不明であるが、環境因子よりも遺伝因子が強く関与するものと考えられる。GCAと関連が深い遺伝子は、HLA-DRB1*0401、HLA-DRB1*0404が報告され、約60%のGCA症例においてどちらかの遺伝子を有する。わが国の一般人口にはこの2つの遺伝子保持者は少ないため、GCAが少ないことが推定される。■ 症状全身の炎症によって起こる症状と、個別の血管が詰まって起こる症状の2つに分けられる。 1)全身炎症症状発熱、倦怠感、易疲労感、体重減少、筋肉痛、関節痛などの非特異的な全身症状を伴うので、高齢者の鑑別診断には注意を要する。2)血管症状(1)頸部動脈:片側の頭痛、これまでに経験したことがないタイプの頭痛、食べ物を噛んでいるうちに、顎が痛くなって噛み続けられなくなる(間歇性下顎痛:jaw claudication)、側頭動脈の圧痛や拍動頸部痛、下顎痛、舌潰瘍など。(2)眼動脈:複視、片側(両側)の視力低下・失明など。(3)脳動脈:めまい、半身の麻痺、脳梗塞など。(4)大動脈:背部痛、解離性大動脈瘤など。(5)鎖骨下動脈:脈が触れにくい、血圧に左右差、腕の痛みなど。(6)冠動脈:狭心症、胸部痛、心筋梗塞など。(7)大腿・下腿動脈:間歇性跛行、下腿潰瘍など。3)合併症約30%にPMRを合併する。高齢者に起こる急性発症型の両側性の頸・肩、腰の硬直感、疼痛を示す。■ 分類側頭動脈や頭蓋内動脈の血管炎を呈する従来の側頭動脈炎を“Cranial GCA”、大型動脈に病変が認められるGCAを“Large-vessel GCA”とする分類法が提唱されている。大動脈を侵襲するGCAは、以前、高安動脈炎の高齢化発症として報告されていた経緯がある。GCA全体では“Cranial GCA”が75%である。“Large-vessel GCA”の中では、大動脈を罹患する型が57%、大腿動脈を罹患する型が43%と報告されている(図)。画像を拡大する■ 予後1998年の厚生省全国疫学調査では、治癒・軽快例は87.9%であり、生命予後は不良ではない。しかし、下記のように患者のQOLを著しく阻害する合併症がある。1)各血管の虚血による後遺症:失明(約10%)、脳梗塞、心筋梗塞など。2)大動脈瘤、その他の動脈瘤:解離・破裂の危険性に注意を要する。3)治療関連合併症:活動性制御に難渋する例では、ステロイドなどの免疫抑制療法を反復せねばならず、治療関連合併症(感染症、病的骨折、骨壊死など)で臓器や関連の合併症にてQOLが不良になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1990年米国リウマチ学会分類基準に準じる。5項目のうち3項目を満足する場合、GCAと分類する(感度93.5、特異度91.2%)。厚生労働省の特定疾患個人調査票(2015年1月)は、この基準にほぼ準拠している。5項目のうち3項目を満足する場合に、GCAと診断される(表1)。画像を拡大する■ 検査1)血液検査炎症データ:白血球増加、赤沈亢進、CRP上昇、症候性貧血など。CRP赤沈は疾患活動性を反映する。2)眼底検査必須である。虚血性視神経症では、視神経乳頭の虚血性混濁浮腫と、網膜の綿花様白斑(軟性白斑)を認める。3)動脈生検適応:大量ステロイドなどのリスクの高い免疫抑制治療の適応を決めるために、病理学的検討を行うべきである。ただし、進行性の視力障害など、臨床経過から治療を急ぐべきと判断される場合は、ステロイド治療開始を優先し、側頭動脈生検が治療開始の後でもかまわない。側頭動脈生検の実際:症状が強いほうの側頭動脈を局所麻酔下で2cm以上切除する。0.5mmの連続切片を観察する。病理組織像:中型・大型動脈における(1)肉芽腫性動脈炎(炎症細胞浸潤+多核巨細胞+壊死像)、(2)中膜と内膜を画する内弾性板の破壊、(3)著明な内膜肥厚、(4)進行期には内腔の血栓性閉塞を認める。病変は分節状に分布する(skip lesion)。動脈生検で巨細胞を認めないこともある。4)画像検査(1)血管エコー:側頭動脈周囲の“dark halo”(浮腫性変化)はGCAに特異的である。(2)MRアンギオグラフィー(MRA):非侵襲的である。頭蓋領域および頭蓋領域外の中型・大型動脈の評価が可能である。(3)造影CT/3D-CT:解像度でMRAに優る。全身の血管の評価が可能である。3次元構築により病変の把握が容易である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(4)血管造影:最も解像度が高いが、侵襲的である。高齢者・腎機能低下者には注意すること。(5)PET-CT(2015年1月現在、保険適用なし):質的検査である。血管壁への18FDGの取り込みは、血管の炎症を反映する。ただし動脈硬化性病変でもhotになることがある。5)心エコー・心電図など:心合併症のスクリーニングを要する。■ 鑑別診断1)高安動脈炎(Takayasu arteritis:TAK)欧米では高安動脈炎とGCAを1つのスペクトラムの中にある疾患で、発症年齢の約50歳という違いだけで分類するという考えが提案されている。しかし、両疾患の臨床的特徴は、高安動脈炎がより若年発症で、女性の比率が高く(約1:9)、肺動脈病変・腎動脈病変・大動脈の狭窄病変が高頻度にみられ、PMRの合併はみられず、潰瘍性大腸炎の合併が多く、HLA-B*52と関連する。また、受診時年齢と真の発症年齢に開きがある症例もあるので注意を要する。現時点では発症年齢のみで分けるのではなく、それぞれGCAとTAKは1990年米国リウマチ学会分類基準を参考にすることになる。2)動脈硬化症動脈硬化症は、各動脈の閉塞・虚血を来しうる。しかし、新規頭痛、顎跛行、血液炎症データなどの臨床的特徴が異なる。GCAと動脈硬化症は共存しうる。3)感染性大動脈瘤(サルモネラ、ブドウ球菌、結核など)、心血管梅毒細菌学的検査などの感染症の検索を十分に行う。4)膠原病に合併する大動脈炎など(表2)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の目標は、(1)全身炎症症状の改善、(2)臓器不全の抑制、(3)血管病変の進展抑制である。ステロイド(PSL)は強い抗炎症作用を有し、GCAにおいて最も確実な治療効果を示す標準治療薬である。■ 急性期ステロイド初期量:PSL 1mg/kg/日が標準とされるが、症状・合併症に応じて適切な投与量を選択すること。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、下記のように推奨されている。とくに、高齢者には圧迫骨折合併に注意する必要がある。1)眼症状・中枢神経症状・脳神経症状がない場合:PSL 30~40 mg/日。2)上記のいずれかがある場合:PSL 1mg/kg/日。■ 慢性期ステロイド漸減:初期量のステロイドにより症状・所見の改善を認めたら、初期量をトータルで2~4週間継続したのちに、症状・赤沈・CRPなどを指標として、ステロイドを漸減する。2006~2007年度の診療ガイドラインにおける漸減速度を示す。1)PSL換算20mg/日以上のとき:2週ごとに10mgずつ漸減する。2)PSL換算10~20mg/日のとき:2週ごとに2.5mgずつ漸減する。3)PSL換算10mg/日以下のとき:4週ごとに1mgずつ、維持量まで漸減する。重症例や活動性マーカーが遷延する例では、もう少しゆっくり漸減する。■ 寛解期ステロイド維持量:維持量とは、疾患の再燃を抑制する必要最小限の用量である。2006~2007年度の診療ガイドラインでは、GCAへのステロイド維持量はPSL換算10mg/日以下とし、通常、ステロイドは中止できるとされている。しかし、GCAの再燃例がみられる場合もあり、GCAに合併するPMRはステロイド減量により再燃しやすい。■ 増悪期ステロイドの再増量:再燃を認めたら、通常、ステロイドを再増量する。標的となる臓器病変、血管病変の進展度、炎症所見の強度を検討し、(1)初期量でやり直す、(2)50%増量、(3)わずかな増量から選択する。免疫抑制薬併用の適応:免疫抑制薬はステロイドとの併用によって相乗効果を発揮するため、下記の場合に免疫抑制薬をステロイドと併用する。1)ステロイド効果が不十分な場合2)易再燃性によりステロイド減量が困難な場合免疫抑制薬の種類:メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミドなど。■ 経過中に注意すべき合併症予後に関わる虚血性視神経症、脳動脈病変、冠動脈病変、大動脈瘤などに注意する。1)抗血小板薬脳心血管病変を伴うGCA患者の病変進展の予防目的で抗血小板薬が用いられる。少量アスピリンがGCA患者の脳血管イベントおよび失明のリスクを低下させたという報告がある。禁忌事項がない限り併用する。2)血管内治療/血管外科手術(1)各動脈の高度狭窄ないし閉塞により、重度の虚血症状を来す場合、血管内治療によるステント術か、バイパスグラフトなどによる血管外科手術が適応となる。(2)大動脈瘤やその他の動脈瘤に破裂・解離の危険がある場合も、血管外科手術の適応となる。4 今後の展望関節リウマチに保険適用がある生物学的製剤を、GCAに応用する試みがなされている(2015年1月現在、保険適用なし)。米国GiACTA試験(トシリズマブ)、米国AGATA試験(アバタセプト)などの治験が行われている。わが国では、トシリズマブの大型血管炎に対する治験が進行している。5 主たる診療科リウマチ科・膠原病内科、循環器内科、眼科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)今日の臨床サポート 巨細胞性動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)J-STAGE(日本臨床免疫学会会誌) 巨細胞性動脈炎(医療従事者向けのまとまった情報)2006-2007年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン(GCAについては1285~1288参照)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Grayson PC, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1329-1334.3)Maksimowicz-Mckinnon k,et al. Medicine. 2009;88:221-226.4)Luqmani R. Curr Opin Cardiol. 2012;27:578-584.5)Kermani TA, et al. Curr Opin Rheumatol. 2011;23:38-42.

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リンパ節転移陽性早期乳がん、dose-dense FEC-Pは有益か/Lancet

 リンパ節陽性早期乳がん患者に対し、エピルビシン、シクロホスファミド、パクリタキセル(EC-P)にフルオロウラシル(F)を追加し投与間隔を短縮して行うdose-dense化学療法としてのFEC-Pは、無病生存率を有意に改善することが示された。一方で、投与間隔を短縮しない場合は、フルオロウラシルを追加しても無病生存アウトカムは改善しなかった。イタリア・IRCCS AOU San Martino-ISTのLucia Del Mastro氏らが、第III相の非盲検2×2因子無作為化試験の結果、報告した。これまで、同患者へのdose-dense化学療法としてのFEC-P療法が有益性を増大するかどうかについては、議論の的となっていた。Lancet誌オンライン版2015年2月27日号掲載の報告より。FEC-P vs. EC-P、2週間隔vs. 3週間隔について無病生存率を評価 試験は、イタリア81施設から18~70歳の手術可能なリンパ節陽性早期乳がん患者を登録して行われた。被験者は、2週間隔で静注投与を行うFEC-P群(q2FEC-P)またはEC-P群(q2EC-P)、3週間隔(標準投与間隔)で行うFEC-P群(q3FEC-P)またはEC-P群(q3EC-P)の計4群に無作為に割り付けられた。 試験の主要エンドポイントは、無病生存率で、Kaplan-Meier法を用いてintention-to-treat集団で評価した。主要な比較は、投与スケジュール(2週間隔vs. 3週間隔)とレジメンタイプ(FEC-P vs. EC-P)についてであった。投与間隔を短縮することで無病生存率は改善することが示唆された 2003年4月24日~2006年7月3日に2,091例の患者を集めた。そのうち2,003例は4群に無作為に割り付けられた被験者であったが、88例はq3FEC-Pまたはq3EC-Pの2群への無作為化のみを受けた被験者であった。 追跡期間中央値7.0年(四分位範囲[IQR]:4.5~6.3年)後の無病生存率は、q3EC-P群26%(140/545例)、q3FEC-P群29%(157/544例)、q2EC-P群22%(111/502例)、q2FEC-P群23%(113/500例)であった。 投与スケジュールの比較分析において、5年時点の無病生存率は、2週間隔群81%(95%信頼区間[CI]:79~84%)、3週間隔群76%(同:74~79%)で有意な差が認められた(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.65~0.92、p=0.004)。全生存率についても同様に有意差が認められた(94%[93~96%] vs. 89%[87~91%]、HR:0.65[0.51~0.84]、p=0.001)。 レジメンタイプの比較分析では、5年時点の無病生存率は、FEC-P群78%(95%CI:75~81%)、EC-P群79%(同:76~82%)であり(HR:1.06、95%CI:0.89~1.25、p=0.561)、全生存率はそれぞれ91%(95%CI:89~93%)、92%(同:90~94%)であった(HR:1.16、95%CI:0.91~1.46、p=0.234)。 有害事象は、2週間隔群が3週間隔群と比較して、グレード3~4の貧血(1.4%[14/988例] vs. 0.2%[2/984例]、p=0.002)、高トランスアミナーゼ血症(1.9% vs. 0.4%、p=0.001)、筋肉痛(3.1% vs. 1.6%、p=0.019)について有意な増大がみられた。一方、グレード3~4の好中球減少症の発生は有意な減少がみられた(14.9% vs. 44.0%、p<0.0001)。 有害事象について投与タイプで比較した結果、フルオロウラシルの追加はグレード3~4の好中球減少症発生の有意な増大(FEC-P群34.5% vs. EC-P群24.2%、p<0.0001)に結び付くことが示された。発熱(0.9% vs. 0.2%)、悪心(4.6% vs. 2.7%)、嘔吐(3.1% vs. 1.4%)の増大もみられた。

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P3-09-01 A multicenter randomized study comparing the dose dense G-CSF-supported sequential administration of FEC→Docetaxel versus Docetaxel+Cyclophosphamide as adjuvant chemotherapy in women with HER2(-), axillary lymph node(+) breast cancer.

腋窩リンパ節転移陽性乳がんにおける補助療法としてのFEC→ドセタキセル逐次レジメンとTCレジメンの比較ギリシャの Hellenic Oncology Research Group(HORG)からの報告である。アントラサイクリンとタキサンの逐次投与は、腋窩リンパ節転移陽性乳がんの補助療法として非常に有効である。一方、非アントラサイクリンレジメンであるドセタキセル+シクロホスファミド(TCレジメン)は、4サイクルのドキソルビシン+シクロホスファミドより有効であることが示されている。この多施設ランダム化比較試験は、腋窩リンパ節転移陽性、HER2陰性の早期乳がんにおける補助療法において、FEC→ ドセタキセルとTCを比較することを目的として計画された。主要評価項目は3年のDFSであり、副次評価項目はOS、毒性および安全性である。3年のDFSが85%であると仮定し、7%の差を80%のパワー(αエラー=0.05)で検出するために、1群322例が必要であると判断された。組み入れ基準は、HER2陰性の浸潤性乳がん、外科的断端陰性、リンパ節転移1個以上、遠隔転移の所見なし、PS 0~2、重篤な心疾患がなくLVEF>50%、がんの既往や重大な薬剤の使用がなく、インフォームド・コンセントが得られていること、である。A群はFEC (500/75/500) x4→ドセタキセル (75) x4+ G-CSFサポート、B群はTC (75/600) x6である(図1)。【図1】図1を拡大するA群は326例、B群は324例で、年齢はA群のほうが若い傾向にあった(54歳:59歳、p=0.0001)が、閉経状態、リンパ節転移の程度(N1-3が各群60%と67%)、ホルモン受容体、組織型ともに差はなかった。生存率はDFS、OSともにまったく差はなかった(図2a、b)。DFSのサブグループ解析でも年齢、閉経状態、リンパ節転移の程度、組織型、ホルモン受容体で大きな違いはなかった。化学療法の完遂率はそれぞれ97%、93%でありA群で有意に良好であった(p=0.03)。減量率は1.4%と1%で差がなく、遅延率は6.4%と3.8%でありB群で有意に良好であった(p=0.0001)。グレード2~4の毒性として好中球減少性発熱はいずれも1%、貧血、粘膜炎、無力症はA群で高く、貧血、アレルギーはB群で有意に高かった。【図2a】図2aを拡大する【図2b】図2bを拡大するこの結果はUSON9735(J Clin Oncol. 2006; 24: 5381~5387.)で示されたTC4サイクルのAC4サイクルに対する優越性をより担保するものである。本臨床試験ではTCを6サイクル行っているが、過去において同一抗がん薬剤での4サイクル以上の有効性は示されておらず、かつ4サイクルで十分ACを上回っていること、6サイクルではさらに毒性が強くなることから、個人的にはTCは4サイクルで十分ではないかと考えている。

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P3-12-01.Impact of treatment on quality of life (QOL) and menstrual history (MH) in the NSABP B-36

NSABP B-36におけるQOLと月経歴への治療の影響: リンパ節転移陰性乳がんにおけるFECとACを比較する第III相試験からNSABP B-36でFEC-100とACに生存率の差がないことが口演で示されたが、ポスターセッションにて毒性や無月経、QOLの違いについての評価が掲示されていた。QOL評価は、FACT-B、治療に特徴的な症状のチェックリスト、SF-36の中のvitality scaleによって行った。評価時期はベースライン、4サイクル目、6、12、18、24、30、36ヵ月目の来院時である。サンプルサイズは、QOLについては1332例、生理周期については916例であった。FACT-B Trial Outcome Index(TOI)、Symptom severity checklist summary score(SCLSUM)、vitality score(VIT)について、ベースラインのスコア、術式、ホルモン受容体で調整し、2群の比較を行った。化学療法後の無月経の定義は18ヵ月の評価のうち12ヵ月以内に出血がないことであり、手術とホルモン受容体の有無で調整した。結論として、18ヵ月後の無月経の頻度はFEC-100で高く(67.0%>58.8%)、ホルモン受容体陽性(内分泌療法の使用)と関連し、NSABP B-30の結果を担保するものであった。FEC-100は6ヵ月の時点でACよりもQOLが不良だったが、その後12ヵ月以降は差がなかった。症状はいずれも化学療法によって増加し、36ヵ月の時点でもベースラインまでの回復はみられなかった。QOL、vitality、症状は12ヵ月の時点で2群間に差はなかったが、化学療法後に子供を希望する若年者にはACのほうが好ましい、と結んでいる。QOL評価をみるときに注意する問題はSOFT試験のQOL評価(S3-09)でも述べたが、レスポンスシフト、最小重要差、評価項目と評価法の適切さについて常に意識しながらデータを解釈する必要がある、ということを付け加えておきたい。【注】AC:ドキソルビシン+シクロホスファミドFEC:フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミド

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S3-02. NSABP B-36 A randomized phase III trial comparing six cycles of 5-fluorouracil (5-FU), epirubicin, and cyclophosphamide (FEC) to four cycles of adriamycin and cyclophosphamide (AC) in patients with node-negative breast cancer(Geyer Jr CE, USA)

NSABP B-36:リンパ節転移陰性乳がんにおいて6サイクルのFECと4サイクルのACを比較する無作為化第III相試験投与量はAC(60/600)x4、FEC(500/100/500) x6である(図1)。もともとはCOX2阻害剤であるセレコキシブの効果もみるための2x2要因試験であった。しかし、心毒性の問題からセレコキシブの投与は中止となり、2群として試験は継続された。主要評価項目はリンパ節転移陰性乳がんにおいてFEC-100がACよりDFSの延長において優れているかを評価するものである。副次的評価項目はOSの延長、毒性の比較、QOLの違いをみることである。統計学的仮説は、5年のDFSがACとFEC-100とで84.7%から89.2%に改善することをみるのに0.75のハザード比を検出することである。そのために80%の検出力で385のイベントが必要とされた。DFSの違いはタイプ1エラーレベル両側α=0.05で検定する層別化log rankテストで、ハザード比と信頼区間はCoxハザードモデルで評価した。【図1】図1を拡大する2014年1月31日の時点で、400のDFSイベントが報告されため、試験を終了し、予定された分析を行った。中央観察期間は82.8ヵ月(7年)であった。年齢は50歳未満が約40%、ホルモン受容体陰性が約35%、腫瘍径2cm未満が50.0%、グレード3が43~44%であった。人種は白人が約85%であった。乳房部分切除術は68%で施行され、トラスツズマブは10~11%で投与された。グレード3~4の毒性発現率は倦怠感、好中球減少性発熱、感染、口腔粘膜炎、血小板減少、血栓塞栓のイベントはいずれもFEC-100で高かった。化学療法中の死亡はACで2例(腸炎、その他の死)、FEC-100で5例(好中球減少性発熱、血栓塞栓症、心内膜炎、その他の突然死、その他の死)に認められた。DFS、OSともにまったく差を認めなかった(図2a,b)。本試験でのACのDFSは82.3%と仮説通りであり、FEC-100でも82.1%と数値上もまったく変化をもたらさなかったことから、リンパ節転移陰性陽性にかかわらず、この結果は十分われわれに意義をもたらすものである。遠隔再発もACで66例(4.8%)、FEC-100で63例(4.7%)と同等であった。サブセット解析ではERの状況で傾向に差があるが、薬剤の性質が類似していることから、この違いを意味のあるものと捉えることはできない(図3)。【図2a】図2aを拡大する【図2b】図2bを拡大する【図3】図3を拡大するつまりA(ドキソルビシン)をE(エピルビシン)にしても、投与量を増やしても、サイクル数を増やしても治療効果は上がらないということである。さて、ここで過去の報告を簡単に整理してみよう。多くのデータからAと同等の効果を及ぼすにはEは1.2から1.5程度(おそらく1.5)の増量が必要である。すなわちA60とE90がほぼ同等と推測される。一方、うっ血性心不全5%の発生頻度は、Aでは累積投与量400(Cancer. 2003; 97: 2869-2879.)、Eでは920(J Clin Oncol. 1998; 16:3502-3508.)となっているが、評価基準も対象も異なっており、安全性に関してもEがAより優っているとは安易に判断しないほうがよい。ドキソルビシンの投与量による効果の違いCALGB8541: N+において、CAFの投与量は300/30/300、400/40/400よりも600/60/600が治療効果が高い(J Natl Cancer Inst. 1998; 90: 1205-1211.)。CALGB9344: N+において、ACの投与量を60/600、75/600、90/600と上げても治療効果は変わらない(J Clin Oncol. 2003; 21: 976-983.)。Eも同様に限界を超えるとは通常考えにくいことから、E90程度が至適投与量と考えたほうがよいだろう。過去には主にCMFとの比較において、アントラサイクリンの投与量による効果が検証されているが、注意しなければならないのは、治療効果はconventional CMF>iv CMFなので、あくまでconventional CMFと比較したデータをみなければならない(conventional CMFは、classical CMF、oral CMFとも呼ばれている)。ドキソルビシンのサイクル数による効果の違いCALGB40101:N0から3ケ(N0が94%を占める)において、AC4サイクルと6サイクルで4年のRFSは変わらない(J Clin Oncol. 2012; 30: 4071-34076.)。本試験では単独のパクリタキセル(80mg/m2 毎週投与または175mg/m2 2週毎投与)でも4サイクルと6サイクルで比較しており、やはり全く差はなかった。ドキソルビシンとCMFの比較NSABP B-15: N+において、3年でAC (60/600) x4 =conventional CMF(J Clin Oncol. 1990; 8: 1483-1496.)。SWOG 8897: ハイリスクのN0において、CAF(60) x6 = conventional CMF.(J Clin Oncol. 2005; 23: 8313-8321.)。エピルビシンとCMFの比較(エピルビシンの投与量比較を含む)FASG05: N+において、10年で FEC (500/50/500) x6 < FEC (500/100/500) x6 (J Clin Oncol. 2005; 23: 2686-2693.)。N+において、4年でEC (60/500) x8 < EC (100/830) x8 = conventional CMF (J Clin Oncol. 2001; 19: 3103-3110.)。ICCG: N+ において、4.5年で FEC (600/50/600) x6 = conventional CMF (J Clin Oncol. 1996; 14: 35-45.)。NCIC.CTG MA.5: N+において、10年でCE(60x2)F = conventional CMF(J Clin Oncol. 2005; 23: 5166-5170.)。※ HER2過剰発現別にみると、HER2陰性では差がないが、陽性では有意差あり(OSにおける多変量解析)(Clin Cancer Res. 2012; 18: 2402-2412.)。Dose denseItaly: N0〜N+において、FEC(600/60/600) x6 2 weeks = 3 weeks(J Natl Cancer Inst. 2005; 97: 1724-1733.)。※ HER2過剰発現別にみると、HER2陰性で差ないが、陽性では有意差あり(OSにおける多変量解析)(Br J Cancer. 2005; 93: 7-14.)。またコントロール群がそもそも標準ではなく、何ら参考にならない試験もある。例…GEICAM: N0〜N+において、3-week FAC(500/50/500)x6 > 3-week CMF(600/60/600) x6 (Ann Oncol. 2003; 14: 833-842.)。このようにみてくると、乳がん術後補助療法においてエピルビシンがドキソルビシンに優っているとする根拠はそもそも乏しかったことがわかる。エピルビシンのコストはドキソルビシンよりも高いため、私たちはこのことを十分踏まえながら薬剤選択を行う必要があるだろう。【注】AC:ドキソルビシン+シクロホスファミドFEC:フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミドCMF:シクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル

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エンテカビル、R-CHOP後のHBV関連肝炎を0%に/JAMA

 びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)で、R-CHOP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン)療法を受ける患者に対し、エンテカビル(商品名:バラクルード)の投与は同療法後のB型肝炎ウイルス(HBV)関連肝炎の予防効果が高いことが判明した。発生率は0%に抑制できたという。中国・中山大学がんセンターのHe Huang氏らが、第III相無作為化非盲検試験の結果、報告した。JAMA誌2014年12月17日号掲載の報告より。エンテカビルvs. ラミブジンをR-CHOP療法終了後6ヵ月後まで投与 試験は2008年2月~2012年12月にかけて、中国10ヵ所の医療機関を通じて、R-CHOP療法が予定されている未治療のDLBCL患者121例について行われた。 研究グループ被験者を無作為に2群に分け、エンテカビル(0.5mg)またはラミブジン(商品名:ゼフィックス、100mg)を、1日1回、R-CHOP療法1週間前から同療法終了後6ヵ月後まで投与し、HBV再活性の予防効果を比較した。 主要有効性エンドポイントは、HBV関連肝炎の罹患率だった。副次エンドポイントは、HBV再活性化率、肝炎発生によるR-CHOP療法の中断、治療関連の有害事象発生などだった。HBV再活性化率もラミブジン群30%に対しエンテカビル群6.6% 追跡期間最終日は2013年5月25日、同中央値は40.7ヵ月だった。 結果、HBV関連肝炎の発生率は、ラミブジン群で60例中8例(13.3%)だったのに対し、エンテカビル群では61例中0例(0%)と有意に低率だった(群間差:13.3%、95%信頼区間:4.7~21.9%、p=0.003)。 また、HBV再活性もラミブジン群が30.0%だったのに対し、エンテカビル群は6.6%と大幅に低率だった(p=0.001)。化学療法中断となった割合もそれぞれ18.3%、1.6%とエンテカビル群で有意に低率だった(p=0.002)。 一方、治療関連有害事象の発生率はラミブジン群30.0%、エンテカビル群24.6%で、両群差は有意ではなかった(p=0.50)。エンテカビル群の主な同事象の報告は、悪心9.8%、めまい6.6%、頭痛4.9%、疲労感3.3%だった。

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リツキシマブ維持療法、ANCA関連血管炎に有効/NEJM

 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の治療において、リツキシマブ(商品名:リツキサン)はアザチオプリン(同:アザニン、イムラン)に比べ良好な寛解維持をもたらすことが、フランス・コシャン病院のL. Guillevin氏らが行ったMAINRITSAN試験で示された。主なANCA関連血管炎として、多発血管炎性肉芽腫症(以前はウェゲナー肉芽腫症と呼ばれた)、顕微鏡的多発血管炎、腎限局型ANCA関連血管炎があり、患者の多くはシクロホスファミドとグルココルチコイドの併用療法により寛解に至るが、アザチオプリンやメトトレキサートによる維持療法を行った場合でも、依然として再燃率が高い。リツキシマブ維持療法の有効性は示唆されているが、いまだ十分な検討は行われていない。NEJM誌2014年11月6日号掲載の報告。リツキシマブとアザチオプリンの2つの、維持療法レジメンを無作為化試験で評価比較 MAINRITSAN試験は、ANCA関連血管炎患者に対するリツキシマブによる維持療法の有用性を評価する非盲検無作為化試験。対象は、年齢18~75歳の多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎、腎限局型ANCA関連血管炎の新規診断または再燃例で、シクロホスファミドのパルス療法とグルココルチコイドの併用により完全寛解が得られた患者であった。 被験者は、リツキシマブ500mgを0、14日、6、12、18ヵ月に投与する群またはアザチオプリンの連日投与を22ヵ月(1~12ヵ月:2mg/kg/日、13~18ヵ月:1.5mg/kg/日、19~22ヵ月:1mg/kg/日)行う群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、28ヵ月時の重症再燃率とした。重症再燃は、疾患活動性の再発または増悪[バーミンガム血管炎活動性スコア(BVAS、0~63点、点数が高いほど疾患活動性が高い)0超]、および1つ以上の主要臓器への転移、疾患関連の致死的イベントあるいはその両方と定義された。リツキシマブによる維持療法に明確な臨床ベネフィット重症再燃率:29 vs. 5%、軽症再燃率:16 vs. 11% 2008年10月~2010年6月までに、115例(多発血管炎性肉芽腫症:87例、顕微鏡的多発血管炎:23例、腎限局型ANCA関連血管炎:5例)が登録され、アザチオプリン群に58例、リツキシマブ群には57例が割り付けられた。全体の平均年齢は55歳、女性が43%で、新規診断後の寛解例が80%、再燃後の寛解例が20%であった。 28ヵ月時の重症再燃率は、アザチオプリン群が29%(17例)、リツキシマブ群は5%(3例)であり、有意な差が認められた(再燃のハザード比[HR]:6.61、95%信頼区間[CI]:1.56~27.96、p=0.002)。 軽症再燃(BVASスコア0超;重症ではないが軽度の治療強化を要する再燃)率は、アザチオプリン群が16%(9例)、リツキシマブ群は11%(6例)であり、両群間に差はみられなかった(p=0.43)。一方、軽症/重症再燃のHRは3.53(95%CI:1.49~8.40、p=0.01)であり、リツキシマブ群が有意に良好であった。 重篤な有害事象が両群とも25例に発現し、アザチオプリン群が44件、リツキシマブ群は45件であった(p=0.92)。重症感染症が、それぞれ8例、11例に認められ、がんが2例(膵、基底細胞)、1例(前立腺)に発生した。また、重篤な血液学的イベントがそれぞれ9例、1例にみられた。アザチオプリン群の2例が死亡した(敗血症1例、膵がん1例)。 著者は、「リツキシマブによる維持療法の明確な臨床ベネフィットが確認された」と結論し、「この知見は、抗ミエロペルオキシダーゼANCA陽性血管炎患者においてリツキシマブの有用性を評価する試験を行う論拠となる」と指摘している。

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白血病等へのCD19-CAR改変T細胞療法、有望/Lancet

 再発性・難治性の急性リンパ性白血病、または非ホジキンリンパ腫の患者に対する、CD19をターゲットとするキメラ抗原受容体(CD19-CAR)改変T細胞を投与する治療法について、その実行可能性は90%、最大耐量は1×106個/kgであり、有害事象はすべて可逆的であることが明らかにされた。米国立がん研究所(NCI)のDaniel W Lee氏らが、21例の患者について行った第I相臨床試験の結果で、Lancet誌オンライン版2014年10月13日号で発表した。1~30歳の患者21例について試験 研究グループは、2012年7月2日~2014年6月20日にかけて、1~30歳の、再発性または難治性の急性リンパ性白血病、または非ホジキンリンパ腫の患者21例について試験を行った。全被験者に対し、フルダラビン(商品名:フルダラ)とシクロホスファミド(同:エンドキサン)の投与後、CD19-CAR改変T細胞を投与した。 CD19-CAR改変T細胞は、自己由来T細胞を用いて11日間の工程で作成。1×106個/kg、3×106個/kg、またはそれらでは十分な細胞発現が認められない場合は、すべてのCD19-CAR改良T細胞を投与し、最大耐量を見極めた。 用量増加フェイズの後、最大耐量を投与し追跡を続けた。最大耐量は、1×106個/kg 被験者21例のうち、2例は当初予定した用量のCD19-CAR改変T細胞が得られなかったが、19例が予定用量のCD19-CAR改変T細胞を投与でき、実行可能性は90%であった。 全被験者について、その治療反応性を評価した。最大耐量は、1×106個/kgだった。 最も重篤な有害事象は、グレード4のサイトカイン放出症候群で、3例(14%、95%信頼区間:3.0~36.3%)で発症した。毒性事象についてはすべてが完全に可逆的だった。 最も多くみられたグレード3の非血液学的毒性は、発熱(43%、21例中9例)、低カリウム血症(43%、同9例)、発熱と好中球減少症(38%、同8例)、サイトカイン放出症候群(14%、同3例)だった。

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ASCOの妊孕性温存ガイドライン改訂

 妊孕性温存は、がんサバイバーのQOLにとって重要であり、がん治療に影響を及ぼす。この重要性を鑑み、2006年にASCOは委員会を招集しガイドラインを発行。その後の妊孕性温存の進歩に伴い、2013年に改訂が加えられた。2014年8月、横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会にて、米国・ニューヨーク医科大学のKutluk H Oktay氏は「ASCO Guidelines for Fertility Preservation:2013 Updates」と題し、ASCOガイドラインの概要を紹介した。 妊孕性保護については、ほとんどの患者は紹介すらされておらず、実際に妊孕性保護の対策を受けている患者はほんの一握りしかいないという。この問題の原因の主たるものは、患者と臨床医のコミュニケーション不足にある。ASCO妊孕性保護委員会は、がん専門医が関与して、治療が不妊や早期閉経の問題を起こすことを早期に患者に知らせ、がんのタイプや年齢、治療法による個々人のリスクを議論しなければならないと強調している。 Oktay氏は例として、抗がん剤の卵胞毒性について触れた。卵胞は原始卵胞期から胞状卵胞期へと成長し排卵されるが、抗がん剤がどの段階に障害を与えるかは、その種類によって異なる。代謝拮抗剤は胞状卵胞期にのみ影響を与える。このグループの薬剤ではダメージで月経が停止しても、卵巣内で次の卵胞は成長しているため、新しい排卵が起こり月経も再開する。一方、アルキル化剤やトポイソメラーゼ阻害薬などは、原始卵胞期にも障害を与える。つまり、予備の卵にまでダメージを与えてしまい、卵胞形成に対する障害は非常に大きい。どちらのグループも無月経をもたらすが、ダメージは異なるのである。そのため、抗がん剤は卵巣毒性の程度で4段階に分類されている。 また、化学療法施行患者の卵巣における卵の予備量を非施行者と比較した試験では、化学療法施行により卵の予備数が約10歳分減少することが明らかになっている。乳がん患者で出産を望む場合などでは、たとえ治療開始時には若年でも妊孕性保護を考慮しなければならないこともある。 ASCO妊孕性保護委員会は、不妊の危険性がある場合、生殖年齢のすべての患者には妊孕性保護の紹介をすべきであり、たとえ明確な意見を持っていなくても、できるだけ早期に触れるべきである、としている。 成人男性に対する精子凍結保存、成人女性に対する胚凍結保存および卵母細胞凍結保存や保存的婦人科手術、小児に対する精液、卵母細胞低温保存などを確立された妊孕性保存方法として推奨している。さらに、BRCA変異陽性がん患者についても触れている。BRCA変異陽性患者は原始卵胞が少なく、卵胞刺激による採取卵も少ないこと、また閉経が早く40歳未満の早期閉経が数倍みられることが明らかとなっている。そのため、変異陰性者以上に化学療法後の妊孕性低下が大きいと考えられる。

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トラスツズマブ・アントラサイクリン併用は乳がん患者の心機能に影響を及ぼすか 

 HER2陽性乳がんにおけるトラスツズマブとアントラサイクリンレジメン併用の有効性は明らかになっている。一方、トラスツズマブ、アントラサイクリンは双方とも心毒性を有するが、その併用による心毒性を抑える方法については依然明らかになっていない。姫路赤十字病院乳腺外科の渡辺 直樹氏は、トラスツズマブとアントラサイクリン併用による心臓への忍容性について検討した。Breast Care (Basel)誌 2014年2月9日号の掲載報告。 2010年から2013年までの期間に、weeklyパクリタキセル→3週毎FEC(エピルビシン75mg/m2、フルオロウラシル、シクロホスファミド)+weeklyトラスツズマブを投与したHER2陽性乳がん(H+群)41例と、weeklyパクリタキセル→FEC100(トラスツズマブなし)を投与したHER2陰性(H-群)57例の2群で左室駆出率(LVEF)を比較した。LVEFは心エコー検査を用い、治療開始時、weeklyパクリタキセル施行後、FEC施行後に評価した。 主な結果は以下のとおり。・LVEFはH+群で、63.2%から60.9%へ減少(p=0.030)、H-群では63.9%から61.9%へ(p=0.009)減少した。・2群間のLVEF減少率は有意差を示さなかった(0.968 vs 0.978:NS, p=0.6457)。・重篤な心毒性またはうっ血心不全はどちらの群の中にもみられなかった。 3週毎エピルビシン75mg/m2とトラスツズマブの併用は、術後補助療法において心臓の忍容性低下を示さなかった。

135.

乳がん術後リンパ節転移への放射線療法、効果が明確に/Lancet

 乳房切除術および腋窩郭清後の放射線療法の効果について、1~3個のリンパ節転移があり全身治療が行われた場合でも、再発率、乳がん死亡率を低下することが明らかにされた。英国・オックスフォード大学のEarly Breast Cancer Trialists 共同研究グループ(EBCTCG)が22試験、8,135例の患者データをメタ解析し報告した。先行研究のメタ解析で、乳がん切除後の放射線療法は、リンパ節転移が認められる全女性について、再発および乳がん死亡の両リスクを低下することが示されていた。しかし、転移が1~3個と少ない患者におけるベネフィットは不明であり、本検討は、それらの患者の放射線治療の効果について評価することが目的であった。Lancet誌オンライン版2014年3月19日号掲載の報告より。22試験8,135例のデータをメタ解析 メタ解析には、1964~1986年に行われた無作為化試験22試験に参加した8,135例の患者個人データが含まれた。乳房切除術および腋窩郭清後に胸壁と局所リンパ節に放射線療法を受けたか、もしくは同術後に放射線療法を受けていなかった者が対象である。 再発は10年間死亡は20年間または2009年1月1日時点まで追跡し、参加試験、個々の追跡年、試験開始時年齢、リンパ節の病理所見で層別解析した。 対象患者のうち3,786例がレベルII以上の腋窩郭清を行い、リンパ節転移がゼロ、1~3個または4個以上を有する集団に分けて分析した。1~3個の転移でも局所再発、全再発、乳がん死亡を有意に抑制 結果、腋窩郭清を受けリンパ節転移がなかった700例については、放射線療法は局所再発(両者の有意水準[2p]>0.1)、全再発(放射線療法群vs. 非療法群のリスク比[RR]:1.06、95%信頼区間[CI]:0.76~1.48、2p>0.1)、乳がん死亡(同:1.18、0.89~1.55、2p>0.1)に統計学的に有意な影響を及ぼさなかった。 腋窩解剖郭清を受けリンパ節転移が1~3個であった1,314例では、放射線療法は局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.68、95%CI:0.57~0.82、2p=0.00006)、乳がん死亡(同:0.80、0.67~0.95、2p=0.01)を抑制した。これら1,314例のうち1,133例が全身治療(シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシルまたはタモキシフェン)を試験中に受けており、これらの症例でも局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.67、95%CI:0.55~0.82、2p=0.00009)、乳がん死亡(同:0.78、0.64~0.94、2p=0.01)を抑制した。 腋窩郭清を受けリンパ節転移が4個以上だった1,772例でも、放射線療法は局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.79、95%CI:0.69~0.90、2p=0.0003)、乳がん死亡(同:0.87、0.77~0.99、2p=0.04)の抑制がみられた。

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第55回米国血液学会(ASH 2013)トレンドビュー 血液腫瘍治療の最新知見

第55回米国血液学会(American Society of Hematology 2013)が2013年12月7~10日、米国ルイジアナ州ニューオリンズにて開催された。同学会の内容から血液腫瘍治療の最新のトレンドを、がん研究会有明病院 血液腫瘍科部長/がん化学療法センター臨床部部長の畠 清彦氏に聞いた。iPS細胞研究と次世代シーケンス導入今回のASHでは、まずiPS細胞の基礎研究の広がりが印象的であった。iPS細胞の臨床応用にはまだ時間を要するが、血液系の分化・増殖という方向への展開が明確にみられた。また、次世代シーケンスの導入の活発化も最近の特徴であろう。治療の前後や治療抵抗性時における遺伝子の発現状況の比較や、急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)などにおける遺伝子異常の解析が盛んに進められている。この流れはしばらく続くと予測される。急性骨髄性白血病(AML)AMLについては、有望な新規薬剤のエビデンスの報告はほとんどなかった。印象的だったのは、米国で2010年に販売中止となったゲムツズマブオゾガマイシンの自主研究が着実に進められており、投与スケジュールの変更や減量、他剤との併用により、予想以上に良好な成績が得られていることであった。販売が継続している日本でも、使用機会は減少しているが、工夫の余地は残されていると考えられる。急性リンパ性白血病(ALL)ALLに関しては、フィラデルフィア染色体(Ph)陽性例(ABL-positive)に対するニロチニブと多剤併用化学療法(hyper-CVAD:シクロホスファミド+ビンクリスチン+ドキソルビシン+デキサメタゾン)の第II相試験で良好な成績が報告された。一方、Ph陰性例では有望な新薬は見当たらないが、B細胞性ALLに対するCD19抗体などの検討が進められている。慢性骨髄性白血病(CML)BCR-ABL遺伝子T315I変異陽性CMLの治療において、第3世代ABLキナーゼ阻害薬であるポナチニブの有効性が確認されている。米国では2012年に承認され、日本では現在申請中であるが、2次または3次治療薬として承認される見通しである。ただし、現在、T315I変異の検査が可能な施設は限られており、全国的な検査体制の構築が課題となる。慢性リンパ球性白血病(CLL)CLL領域では、プレナリー・セッションでオビヌツズマブ(GA101)+クロラムブシル(GClb)とリツキシマブ+クロラムブシル(RCbl)のhead-to-headの第III相試験(CLL11試験)の結果が報告された。GA101は糖鎖改変型タイプⅡ抗CD20モノクローナル抗体であり、B細胞上のCD20に選択的に結合し、リツキシマブに比べ抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性が強く、直接的な細胞死の誘導能も高いとされる。結果は、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値が、GClb群で26.7ヵ月と、RCbl群の15.2ヵ月よりも1年近く延長し(p<0.0001)、全生存期間(OS)中央値も良好な傾向がみられた(p=0.0849)。また、経口投与が可能なBurtonチロシンキナーゼ(BTK)阻害薬であるイブルチニブとリツキシマブ+ベンダムスチン(RB)との併用に関する第Ib相試験では、良好な安全性プロフィールが確認されるとともに、奏効率が90%を超え、推定1年PFSも90%に達しており、注目を集めた。現在、イブルチニブ+RBとプラセボ+RBを比較する無作為化第III相試験が進行中である。ONO-4059は、CLLの第I相試験で有望な結果が示されており、これから第II相試験が開始される。そのほか、イデラリシブ、BAY806946、IPI-145などのPI3キナーゼ阻害薬の開発が、今後、どのように展開するかに関心が集まっている。リンパ腫前述のCLLへの有効性が確認された薬剤の多くがリンパ腫にも効果がある可能性が示唆されている。活性化B細胞(ABC)型のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)に対するR-CHOPへのイブルチニブの上乗せ効果を評価する第III相試験が開始されている。また、イブルチニブは単剤で再発マントル細胞リンパ腫にも有効なことが示されている。前述の経口BTK阻害薬であるONO-4059は、CLLだけでなく、リンパ腫に対する有用性も示唆されている。また、リンパ腫に対するGA101の検討も進められている。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬では、RAD001やパノビノスタットの検討が進められている。DLBCLについては、胚細胞B細胞(GCB)型に有効な薬剤の開発が課題である。T細胞性リンパ腫では、CD30抗体薬であるブレンツキシマブベドチンの有効性が第II相試験で示され、日本でもまもなく承認が得られる予定である。また、ブレンツキシマブベドチンは未分化大細胞型リンパ腫やホジキンリンパ腫の治療として、多剤併用化学療法への上乗せ効果の検討が進められている。一方、BCL-2拮抗薬であるABT-199(GDC-0199)は、CLLのほか小リンパ球性リンパ腫(SLL)に有効な可能性が第I相試験で示された。骨髄異形成症候群(MDS)MDSの治療では、オーロラキナーゼ阻害薬の進歩がみられたが、その有用性を見極めるにはもう少し時間を要する状況である。多発性骨髄腫多発性骨髄腫の領域では、第2世代プロテアソーム阻害薬であるカーフィルゾミブを中心とする臨床試験が数多く行われている。カーフィルゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(CRd)療法や、カーフィルゾミブ+ポマリドマイド+デキサメサゾン(CPd)療法の第II相試験で良好な成績が報告されていた。また、ダラツムマブなどいくつかの抗CD38抗体薬の開発が進められており、第I相試験で有望な成績が報告されている。さらに、経口プロテアソーム阻害薬であるMLN9708(クエン酸イクサゾミブ)とレナリドミド+デキサメタゾン(Rd)の併用療法は第I/II相試験で良好な成績が示され、現在、MLN9708+RdとRdを比較する第III相試験が進行中である。本試験は開始されたばかりであり、結果を得るには時間を要するが、有望視されている試験の1つである。最後に全体としては、BTK阻害薬のように、対象患者は限られるが有害事象が少ない薬剤を長期的に投与すると、QOLを良好に維持しつつ、徐々にCR例が増加するという状況がみられる。CML治療におけるイマチニブやダサチニブ、ニロチニブに相当する薬剤が、CLLやリンパ腫、マントル細胞リンパ腫の治療においても確立されつつあるという印象である。ただし、単剤で十分か、他剤との併用が必要となるかは、今後の検討課題である。

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成人バーキットリンパ腫、低強度EPOCH-Rベース療法が非常に有効/NEJM

 成人のバーキットリンパ腫の未治療患者に対して、低強度のEPOCH-Rベース治療が非常に有効であることが報告された。米国国立がん研究所(NCI)のKieron Dunleavy氏らが行った非対照前向き試験の結果、明らかになった。バーキットリンパ腫は、小児および成人にみられるアグレッシブなB細胞リンパ腫で、大部分は集中的な抗がん剤療法で治療が可能となっている。ただし現在の治療法は、成人および免疫不全を有する患者では、小児に対するよりも有効性が低い一方、重篤な副作用があった。NEJM誌2013年11月14日号掲載の報告より。連続患者30例を対象に標準レジメンと低強度レジメンについて検討 研究グループは、未治療のバーキットリンパ腫患者について、エトポシド/ドキソルビシン/シクロホスファミド/ビンクリスチン/プレドニゾン+リツキシマブ(EPOCH-R)の低強度療法について、2つのレジメンについて検討した。 1つは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)陰性患者を対象に標準的な用量調整併用レジメン(DA-EPOCH-R群)で、もう1つは、HIV陽性患者を対象に低用量で短期間、リツキシマブを2倍量とした併用レジメン(SC-EPOCH-RR群)だった。 連続患者30例(DA-EPOCH-R群19例、SC-EPOCH-RR群11例)が治療を受けた。患者は年齢中央値33歳(範囲:15~88歳)、40歳以上は40%だった。また、疾患リスクは73%が中等度、10%が高度だった。主要中毒事象発生は標準レジメン群22%、低強度レジメン群10% フォローアップ中央値は、DA-EPOCH-R群が86ヵ月、SC-EPOCH-RR群が73ヵ月だった。同時点での無増悪率は、DA-EPOCH-R群95%、SC-EPOCH-RR群100%で、全生存率はそれぞれ100%、90%だった。バーキットリンパ腫での死亡例はなかった。 主要中毒事象は、発熱と好中球減少症で、発生はDA-EPOCH-R群22%、SC-EPOCH-RR群10%でみられた。SC-EPOCH-RR群で腫瘍崩壊症候群が1例の患者でみられたが、治療関連死はみられなかった。 ドキソルビシン/エトポシド、またシクロホスファミドの累積投与量中央値は、標準レジメンのDA-EPOCH-R群よりも低強度強化レジメンのSC-EPOCH-RR群のほうが、それぞれ47%、57%低かった。 著者は、「今回の非対照前向き試験において、散発性あるいは免疫不全関連バーキットリンパ腫では、低強度のEPOCH-Rベース療法が非常に効果的であった」と結論している。

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自家幹細胞移植、中悪性度非ホジキンリンパ腫の地固め療法として有効/NEJM

 自家幹細胞移植は、高中リスクおよび高リスクのびまん性中悪性度(aggressive)非ホジキンリンパ腫(NHL)の地固め療法として有効であることが、米国・ロヨラ大学医療センターのPatrick J Stiff氏らが行ったSWOG9704試験で示された。NHL治療は、「リツキシマブ時代」と呼ばれる状況下で、さらなる予後改善に向けさまざまな治療アプローチの探索が進められている。国際予後指標(IPI)により、診断時に持続的寛解の可能性が50%未満の患者の同定が可能となり、自家幹細胞移植の早期治療への導入が図られているが、高リスク例に対する地固め療法としての有効性は、その可能性が指摘されながらも長期にわたり確立されていなかった。NEJM誌2013年10月31日号掲載の報告。導入療法奏効例での有用性を無作為化試験で評価 SWOG9704試験は、米国のSWOG、ECOG、CALGBおよびカナダNCIC-CTGに所属する40施設が参加した無作為化試験。対象は、年齢15~65歳、生検でNHLが確認され、IPIで年齢調整リスクが高中または高と判定されたびまん性aggressive NHL患者であった。 1999年8月15日~2007年12月15日までに397例が登録され、導入療法としてシクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾン(prednisone)(CHOP)療法またはリツキシマブ+CHOP(R-CHOP)療法が5コース施行された。このうち奏効が得られた患者が、地固め療法としてさらに3コースの導入療法レジメンを施行する群(対照群)または1コースの導入療法レジメン施行後に自家幹細胞移植を行う群(移植群)に無作為に割り付けられた。 有効性に関する主要エンドポイントは、2年無増悪生存率(PFS)および全生存率(OS)であった。高リスク群では、OSも有意に改善 適格基準を満たした370例のうち、導入療法が奏効した253例が無作為割り付けの対象となった(移植群125例、対照群128例)。370例の患者背景は、年齢中央値51(18.3~65.9)歳、男性59%で、B細胞リンパ腫が89%、T細胞リンパ腫は11%であった。 追跡期間中に病態が進行または死亡した患者は、移植群が46/125例、対照群は68/128例で、推定2年PFSはそれぞれ69%、55%であった。リスクスコアで調整したCox回帰モデルによる多変量解析では、ハザード比(HR)は1.72(95%信頼区間[CI]:1.18~2.51、p=0.005)であり、移植群が有意に良好だった。 死亡例数は移植群が37例、対照群は47例で、2年OSはそれぞれ74%、71%であり、両群に差は認めなかった(HR:1.26、95%CI:0.82~1.94、p=0.30)。 探索的解析では、高中リスク例と高リスク例で治療効果が異なることが示された。すなわち、高中リスク群の2年PFSは、移植群が66%、対照群は63%と同等であった(p=0.32)が、高リスク群ではそれぞれ75%、41%であり、有意差が認められた(p=0.001)。2年OSも、高中リスク群では移植群が70%、対照群は75%と差は認めなかった(p=0.48)のに対し、高リスク群では移植群が82%と、対照群の64%に比べ有意に良好だった(p=0.01)。 予測されたように、移植群では対照群に比べGrade 3/4の有害事象が多くみられた。治療関連死は移植群が6例(5%)(肺障害3例、出血と腎不全1例、感染症1例、多臓器不全1例)、対照群は3例(2%)(心血管障害1例、感染症1例、原因不明1例)に認められた。 著者は、「自家幹細胞移植の早期導入により、導入療法で奏効が得られた高中および高リスク患者のPFSが改善された」とまとめ、「対照群の再発例62例(48%)のうち29例(47%)にサルベージ療法として化学療法や移植が行われており、これがOSに有意差がなかった理由と考えられる」と指摘している。

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B細胞除去療法はANCA関連血管炎のスタンダードな治療となるか?(コメンテーター:杉原 毅彦 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(140)より-

主要臓器障害を伴うAntineutrophil cytoplasmic antibody(ANCA)関連血管炎の治療はステロイド療法とシクロホスファミド(CY)により寛解導入を行い、再発率を減らすためにアザチオプリン(AZA)やメトトレキサートなどの免疫抑制剤で維持療法することが主流であるが、B細胞を標的とする生物学的製剤のリツキシマブとステロイドによる6ヵ月後の寛解導入率はステロイド+CYと同等であること、再発例ではリツキシマブのほうが有効であることが、2010年にランダム化比較試験(RCT)により検討された。本邦でも公知申請が認められ、CY無効例や再発例に対して実臨床で使用することが可能となっている。 今回は2010年に報告されたRCTの、18ヵ月の長期成績と再発に関連する因子が報告された。両群とも寛解を達成するとステロイドは6ヵ月後までに中止され、CY群はAZAで維持療法が継続され、リツキシマブ群はステロイド中止後も追加の免疫抑制療法を施行されず、18ヵ月後の寛解維持率がリツキシマブ 39%, CY-AZA 33%と両群に差を認めなかった。 再発に関連する因子を統計学的に解析すると、MPO-ANCAよりPR-3 ANCA陽性例、顕微鏡的多発血管炎より多発血管炎性肉芽腫症(旧名ウェゲナー肉芽種症)、初発例より再発例で再発しやすい。リツキシマブ投与群の再発例の88%は末梢血B細胞の再増加が認められ、再増加から再発までの期間は平均80日(1~286日)、ANCAの抗体価の増加は再発を予測しないが、ANCAの抗体価陰性かつ末梢血でB細胞が同定できない患者では再発がまれであることが示された。 今後、リツキシマブによる寛解導入後の再発を減らすための維持療法について検討が必要である。

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重症ANCA関連血管炎、リツキシマブは長期に有効/NEJM

 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の重症(臓器障害)例の寛解導入と維持の長期(18ヵ月間)有効性について、リツキシマブ(商品名:リツキサン)の1コース(週に1回を4週間)単独投与の治療が、継続的に免疫抑制薬を投与する従来の免疫療法と、同程度の効果があることが明らかにされた。米国・メイヨークリニック財団のUlrich Specks氏らが、多施設共同無作為化二重盲検ダブルダミー非劣性試験「RAVE」を行い報告した。ANCA患者は大部分が最終的に再発するため、導入療法の選択においては、寛解までの期間、再発の重症度、治療の累積による毒性が重要な因子となる。RAVE試験では、6ヵ月時点の寛解達成がリツキシマブ治療群において優れていたことが報告されていた。NEJM誌2013年8月1日号掲載の報告より。6ヵ月までに完全寛解し18ヵ月時点でも寛解維持がされているかを比較検討 重症ANCA患者に対する治療として比較検討されたのは、リツキシマブ(375mg/m2体表面積を週1回)を4週間投与しその後はプラセボを投与する治療(リツキシマブ1コース治療)と、シクロホスファミド(商品名:エンドキサン)3~6ヵ月間投与+アザチオプリン12~15ヵ月間投与する治療(従来の免疫療法)であった。 主要評価指標は、6ヵ月までに完全寛解し、18ヵ月時点でも寛解が維持されていることとした。 被験者は、2004年12月~2008年6月の間に登録された197例の重症ANCA患者で、リツキシマブ治療群に99例、従来免疫療法群に98例が無作為に割り付けられた。リツキシマブ治療群は非劣性基準をクリア 6ヵ月までの完全寛解達成は、以前に報告したように、従来免疫療法群53%に対し、リツキシマブ治療群は64%だった。 12ヵ月、18ヵ月時点で完全寛解を維持していたのは、それぞれリツキシマブ治療群では48%、39%であったのに対し、従来免疫療法群は39%、33%で、リツキシマブ治療群は事前規定の非劣性基準を満たした(非劣性マージン20%でp<0.001)。 完全寛解の持続期間または再発の頻度および重症度を含むいかなる有効性基準にも、有意な群間差はみられなかった。 ベースラインで再燃例だった101例の患者においては、6ヵ月時点(p=0.01)、12ヵ月時点(p=0.009)ではリツキシマブ治療群が従来免疫療法群より優れていた。しかし、18ヵ月時点(p=0.06)では優越性が認められず、同時点においてリツキシマブ治療群のほとんどの患者においてB細胞の再構築が認められた。 有害事象については、全患者について登録から試験終了時まで収集されたが、有意な群間差は認められなかった。

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