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第314回 全国の在宅専門診療所の再編・統合の兆しか?在宅医療の医療法人ゆうの森が桜十字グループ入り

在宅医療の世界では名の知れた医療法人ゆうの森が新興の医療介護チェーンにこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ゴールデンウィークの前半は、愛知県で一人暮らしをしている94歳の父親の様子を見に帰省しました。本連載でも書いたことのある父親の運転免許の返上問題ですが、昨年12月の誕生日を機にようやく「返上」を決断、20年近く乗ってきた日産マーチも今年に入って処分していてホッとしました。が、「クルマがないと不便だ」ということで、電動自転車を新車で購入していたのには驚きました。電動の三輪車ではなく二輪車です。今度は転倒の心配をしなければならないのかと、半ば呆れて実家を後にした次第です。さて、今回は昨年末に医療界の一部で大きな話題となった事業統合について書いてみたいと思います。それは、在宅医療の世界では名の知れた、医療法人ゆうの森(愛媛県松山市、永井 康徳理事長)と、熊本県から全国区に躍り出た新興の医療介護チェーン、桜十字グループ(東京都港区、西川 朋希代表)の統合です。「“在宅医療の理想形” を、日本全国へ『希望の綿毛』として届けるため」と桜十字この事業統合が発表されたのは昨年末、2025年12月16日のことでした。桜十字グループのプレスリリースには、「医療・介護・予防医療・生活支援を包括的にデザインし、ウェルビーイング・フロンティアを目指す桜十字グループ(以下、桜十字)は、在宅医療の黎明期より業界を牽引してきた医療法人ゆうの森をグループに迎え入れましたことを発表いたします。本統合は、永井医師をはじめとしたゆうの森が確立した“在宅医療の理想形” を、桜十字のネットワークを通じて、日本全国へ『希望の綿毛』として届けるための新たな挑戦です」とありました。「グループに迎え入れた」とあるように、いわゆるM&A(合併・買収)ということになります。プレスリリースにはゆうの森理事長の永井氏の、「桜十字グループとの統合は、ゆうの森が積み重ねてきた質の高い在宅医療を、全国へ広く届けるための新たな挑戦です。患者さんとご家族の満足を最優先にする文化や、多職種が支え合うチーム医療の精神を守りながら、桜十字の持つ力と共に、誰もが安心して選べる在宅医療を社会に普及させていきたい。そして次世代へ繋ぐ、新しい在宅医療の未来を共に創っていきたいと考えています」とのコメントもありました。在宅医療の世界では「たんぽぽ先生」として知られる“スター”の一人このM&Aが医療界で話題となったのには大きくは2つの理由があります。1つは永井氏が在宅医療の世界では「たんぽぽ先生」として知られる“スター”の一人だからです。永井氏は1966年生まれ、愛媛大学医学部を卒業後、同大医学部附属病院、自治医大地域医療学教室を経て、愛媛県の明浜町国保俵津診療所所長に就任、その後2000年に愛媛県松山市に在宅医療専門の「たんぽぽクリニック」を開業、多職種協働などを早くから実践し、日本の在宅医療の普及・定着を牽引してきました。在宅医療の診療報酬算定のノウハウを解説する『たんぽぽ先生の在宅報酬算定マニュアル』(日経BP社)の著者としても有名で、2012年度診療報酬改定以降、2024年までに第8版を発行するに至っています。在宅医療に取り組む医療機関では、このマニュアルのお世話になった方は少なくないでしょう。再春館製薬所と兄弟企業の桜十字グループもう1つは、統合相手が熊本を発祥の地とする桜十字グループだった点です。桜十字グループは2002年に熊本市に開業した桜十字病院を母体とする医療・介護・予防医療などを展開する一大チェーンです。現在は東京に本社(いわゆる総本部)を置くほか、熊本県、福岡県、大阪市にそれぞれ本部を構え、全国5病院の病院事業、各地の桜十字クリニックによる健診事業、高齢者住宅事業などを幅広く手掛けています。在宅介護支援事業は2006年に開始、医療法人ゆうの森の事業所以外にも、独自で居宅介護支援事業所、訪問看護事業所、訪問介護事業所などを多数運営しています。桜十字グループは医療界ではほかの病院チェーンとは“出自”が異なる“異端”と捉えられています。その理由は基礎化粧品や医薬品の製造販売で有名な株式会社再春館製薬所(熊本市、西川 正明代表取締役CEO)と兄弟企業の関係にあるからです。再春館製薬所の創業家が熊本市に桜十字病院を立ち上げ、そこを母体として急速に巨大化したのが桜十字グループなのです。ちなみに、再春館製薬所の西川 通子会長の長男が再春館の西川 正明代表取締役CEO、次男が桜十字グループの西川 朋希代表です。2人とも医師ではありません。「経営基盤を強化しながら理念を継承できる形」として桜十字グループ入りを決断というわけで、在宅医療のパイオニアの永井氏が、なぜ新興医療チェーンの傘下になることを決断したのか謎だったのですが、「日経ヘルスケア」の2026年4月号の記事「FOCUS経営戦略」に永井氏のインタビューが掲載されており、その謎が少しだけ解けました。インタビューの内容を一部紹介したいと思います。同記事で永井氏は、「40歳代で病気をしたことをきっかけに、自分の命には限りがあると実感しました。その時から『この組織をどう次の世代につなぐか』を考えるようになりました。(中略)もし私が突然いなくなってしまったら、組織が回らなくなる可能性もあります。(中略)だからこそ、元気なうちに次の体制を作る必要があると考えました。(中略)開業当初の職員数は数人でしたが、現在は100人以上です。組織を継続させる選択を第一に考えました」とその動機を語っています。そして、「理念や診療の質には自信がありますが、現実には経営の持続性、人材確保、後継者問題など課題もありました。経営基盤を強化しながら理念を継承できる形を探しました。その結果、病院グループへの統合という形が最も現実的だったのです」と桜十字グループ入りの理由を話しています。桜十字グループを選んだ理由について、「最も重視したのは『価値観の一致』」と話し、「(ゆうの森は)経営基盤や人材確保の仕組み、ITやDXの活用といった部分には弱さがあったと思います。グループに入ることでそうした部分は強化できると考えています」と話しています。なお、M&Aにより永井氏自身は理事長として残ったものの、ほかの理事は退任、桜十字から理事を迎え入れたとのことです。「在宅クリニックと病院グループの連携は今後、自然に増えていくと予想」と永井氏在宅専門診療所とは言え、100人以上となった組織の永続性と、ITやDXなどを導入した経営基盤の強化がその大きな理由と言えそうですが、「なぜ桜十字だったのか」という真の理由まではインタビューから知ることはできませんでした。とは言え、「これから在宅医療はグループ化が進むのでしょうか?」という記者の問いに対し、永井氏が「間違いなくその傾向になると思います。2000年代に在宅療養支援診療所が増えましたが、当時開業した医師の多くが60〜70歳代になっています。さらに、後継者がいないケースも多いでしょう。そのとき、『グループに入る』『若い医師に任せる』『承継する』などの選択肢が出てくると思います。(中略)在宅クリニックと病院グループの連携は今後、自然に増えていくと予想できます」と答えていたのは多分に予見的でした。ひょっとしたら今回のM&Aは、各地の在宅専門診療所の再編・統合のきっかけになるかもしれません。実は、私自身も何度か永井氏に取材したことがあります。本拠地である松山でお会いしたこともありますが、印象的だったのは東日本大震災の被災地である宮城県気仙沼市で偶然お会いしたことです。2011年4月、震災から約1ヵ月後に震災医療の現地を取材しようと気仙沼に入ったところ、医療支援で入っていた永井氏が気仙沼の医師や医療スタッフらとともに、被災地の在宅チームの編成や運営を行っている現場に出くわしたのです。松山の診療所は地元のスタッフらに任せきりで、何ヵ月も気仙沼に滞在して気仙沼の在宅医療の体制構築に尽力されていた姿は忘れられません。あのバイタリティと機動力があるならば何も桜十字入りしなくても、と考えてしまいますが、そうもいかない何らかの事情があったのかもしれません。そのあたりの本音は、今度お会いした時にでも聞いてみたいと思います。

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第293回 医師にとっての2040年-地域医療構想の転換で働き方はどう変わるか-

診療報酬改定、医療機関の経営悪化、医師需給の議論――個別に語られてきたこれらの変化は、いま1つの方向へ収斂しつつある。2026年に示された新たな地域医療構想は、「病床」から「機能」への転換を明確に打ち出した。本稿では、特別編としてこの構造変化が医師の働き方やキャリアにどのような影響を及ぼすのかを考える。はじめに大型連休に入り、今年の初めからの医療関連ニュースや厚生労働省の資料を改めて見直してみた。診療報酬改定、医療機関の経営悪化、医師需給の議論、そして地域医療構想の見直し――個別に見ればそれぞれ独立した話題に思えるが、俯瞰すると1つの方向性が浮かび上がる。それは、「医療提供体制そのものが転換期にある」という点に尽きる。地域医療構想の変化:病床から機能へ厚労省は2026年3月に「2040年に向けた地域医療構想の取りまとめ」を公表した。従来の地域医療構想は、2025年に向けて各2次医療圏に必要病床数を医療機能ごとに整理する、いわば「病床配分」の枠組みであった。その一方で、今回の見直しは単なる病床再編にとどまらず、「どの医療をどこで担うか」という機能そのものの再設計を志向するものと考えられる。画像を拡大する画像を拡大する稼働率引き上げが意味するもの:静かなハードル設定今回の見直しで見過ごされがちだが重要なことは、各医療機能における病床稼働率の前提が引き上げられている点である。従来は高度急性期75%、急性期78%、回復期90%、慢性期92%とされていたが、新たな構想では高度急性期78%、急性期83%、回復期(包括期)87%、慢性期92%と見直されている。一見すると数%の変化にすぎないが、稼働率は単なる運営指標ではなく、「その機能を担うに足る患者数を安定的に確保できるか」を示す指標と解釈することもできる。すなわち、この引き上げは各機能を維持するための実質的な参入基準の引き上げとみることができる側面がある。とくに急性期においては、稼働率83%を安定的に維持するためには一定規模以上の患者集約が不可欠となる。これは結果として、「患者が集まらない急性期は成立しにくい」という政策的メッセージを内包している。従来であれば一定程度の稼働で維持できていた機能も、今後は重症度や医療・看護必要度といった要件とあわせて基準を満たせなければ、機能転換を余儀なくされる可能性がある。この意味で、稼働率の引き上げは単なる数値の修正ではなく、「機能を満たす医療機関のみが残る」というハードルが設けられたとみることもできる。急性期集約と高齢者救急の拡大新たな地域医療構想では、「急性期医療の集約化」と「高齢者救急・在宅医療への対応強化」が明確に示されている。背景には、85歳以上人口の増加と生産年齢人口の減少がある。若年人口の減少により手術を中心とする急性期医療のニーズは減少する一方で、誤嚥性肺炎や心不全といった内科系救急患者は増加すると考えられる。すなわち、医療需要は単純な量的減少ではなく、質的転換の局面に入っているといえる。医療機関経営に現れた構造変化コロナ禍後も病床稼働率や外来患者数の回復は限定的であり、2025年度の医療機関倒産は過去最多となった。民間病院でも赤字法人の増加が報道されている(病院経営の法人、採算悪化で赤字法人が5割に迫る 収入は微増、利益はコロナ禍から1兆円以上の大幅減)。これは一時的な現象というより、医療需要や環境の変化に対して適応できない医療機関が市場から退出しつつある状況を示している。厚労省の政策の中核として、「急性期拠点機能の集約」が挙げられる。急性期拠点病院を人口20〜30万人当たり1施設とする考え方は、従来の地域分散型モデルの見直しを意味する。その結果、中小規模の急性期病院は、(1)統合、(2)機能転換(包括期・慢性期+在宅支援)、(3)病床縮小といった選択が迫られる構図となる。この再編は、勤務医と開業医の双方に影響を及ぼすと考えられる。勤務医への影響:専門医と総合医の分化この変化は勤務医のキャリアにも影響を及ぼすとみられる。急性期拠点病院では、高度医療・手術・重症救急を担う専門医の集約が進む。その一方で、そのポジションは限られるため、選抜性が高まる可能性がある(今後の医療需要の変化を見据えた専門医の養成について)。今後は医療と介護の複合ニーズが一層高まるため、勤務医の多くは高齢者救急や地域急性期、包括期を担うことが求められると考えられる。この領域では、多疾患併存患者への対応や在宅復帰支援など、総合的な診療能力がより重要となる。また、文部科学省による地域実習プログラムや、日本病院協会と日本プライマリ・ケア連合学会が運営する総合医育成事業「総合医リカレント実践事業 ReGeneral」は、こうした変化を背景とした人材政策と位置付けることができる。結果として、医師の役割は「高度専門医」と「総合診療型医師」に分化していく可能性がある。開業医への影響:外来モデルの転換開業医にとっても影響は小さくない。人口減少の進行により外来患者数は長期的に減少する可能性があり、診療所数の増加(診療所数は1980年代前半約8万施設のところ2020年約10万施設と約1.25倍)とあわせて競争環境は厳しさを増すと考えられる。従来の外来中心モデルは、持続性の観点から再検討が必要となる可能性がある。その一方で、在宅医療の需要は今後も間違いなく増加していく。高齢者医療では早期退院と在宅復帰が前提となるため、開業医には退院後の受け皿としての役割が求められる場面が増えていくとみられる。医師需給と報酬構造の変化医師数は増加しているものの、地域偏在や診療科偏在は依然として残る。その結果、急性期拠点では医師不足が続く一方で、都市部では供給過剰が生じる可能性がある。これに伴い、医師の報酬構造も均一ではなくなり、主治医として担う機能や地域によって格差が広がる可能性がある。医学部定員削減のリスク医学部定員削減について医道審議会医師分科会医師専門研修部会や経済財政諮問会議で話し合われているが、地方医療提供体制への影響には慎重な検討が必要となる。全国的に医師数が増加しても、地方における医師不足が解消されるとは限らない。とくに地方の救急医療体制では、若手医師の確保が困難となれば、診療体制の維持そのものが難しくなる可能性がある。今後は医師数の総量よりも、機能に応じた配置がより重要な論点となる。医療再編の本質:機能を満たすかの選択2040年に向けた医療再編は、医療機関に対して「どの機能を担うか」を問うものである。急性期に特化するのか、地域急性期や包括期(従来の回復期リハビリテーション病棟・地域包括ケア病棟)を担うのか、あるいは在宅医療や介護との連携を強化するのか--それぞれの選択は、医師の働き方やキャリアにも直結する。おわりに:変化の中での医師の選択以上のように、新たな地域医療構想は医療提供体制の構造変化を伴うものであり、医師の役割にも影響を及ぼす可能性がある。重要なのは、今年の診療報酬改定を2年に1度の恒例行事として受け取らず、改定の全体像を通して政府が医療提供体制の変化への第1歩として捉え、自らの専門性や立ち位置を見直す契機とすることであろう。今後の医療提供体制が変化する中、読者の先生方は、どのような役割を選択されるだろうか。 参考 1) 新たな地域医療構想に関する取りまとめ(厚労省) 2) 人口減少社会の中での総合的な国力の強化(経済財政諮問会議) 3) 25年度の医療機関倒産、過去20年で最多の71件 商工リサーチ調べ(日経新聞) 4) 病院経営の法人、採算悪化で赤字法人が5割に迫る 収入は微増、利益はコロナ禍から1兆円以上の大幅減(同) 5) 医療提供体制の現状~病院数の推移~(厚労省) 6) 地域の医師、文科省が育成支援へ…中小病院で長期間学ぶ「地域実習プログラム」開発支援(読売新聞) 7) 総合医育成プログラム 「総合医リカレント実践事業 ReGeneral」(日本プライマリ・ケア連合学会) 8) 今後の医療需要の変化を見据えた専門医の養成について(厚労省)

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第292回 麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省

<先週の動き> 1.麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省 2.2040年見据え、急性期集約と高齢者救急対応へ 地域医療構想を転換/厚労省 3.医学部定員削減へ、医師過剰時代に向け政策転換を/財務省 4.献血者数は横ばいも若年層が4割減、血液製剤の供給に懸念/厚労省 5.人材紹介料が医療経営を圧迫、10年で2.4倍に 早期離職トラブルも/日医 6.看護師不足が地域医療を直撃、養成校の募集停止相次ぐ/日看協 1.麻しん299人に急増、大型連休前に「症状ある場合は外出控えて」/厚労省麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。国立健康危機管理研究機構によると、2026年の累計患者数は4月12日までに299人となり、2025年1年間の265人をすでに上回った。過去10年では2019年の744人に次ぐペースで、1週間の報告数も今年初めて50人を超えた。前回報じた236人からさらに増加しており、厚生労働省は警戒を強めている。上野 賢一郎厚労相は24日の記者会見で、「新型コロナウイルス感染症の流行以降、最多のペースで感染が拡大している」と述べ、ワクチン接種歴の確認と定期接種の徹底を呼びかけた。発熱、せき、鼻水、発疹など麻しんを疑う症状がある場合は外出を控え、医療機関を受診する際も公共交通機関の利用を可能な限り避けるよう求めた。感染拡大の背景には、海外からのウイルス流入と国内の免疫低下がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から、国内に土着する麻しんウイルスが確認されない「排除状態」と認定されたが、海外からの帰国者や訪日客を起点に感染が広がっている。患者は東京都が100人超と最も多く、神奈川県、千葉県、埼玉県を含む首都圏で過半数を占める。また、愛知県や鹿児島県では、高校などで集団感染も確認されている。麻しんは空気感染し、同じ部屋にいるだけで感染することがある。感染力はインフルエンザの約10倍とされ、発症すると発熱や上気道症状に続き、発疹が出る。脳炎などで重症化し、死亡することもある。対策の柱はMRワクチンの2回接種である。1回接種で93~95%、2回接種で97~99%の予防効果があるとされるが、国内の2回接種率はコロナ禍後に低下し、2024年度は91%まで下がった。流行抑制には95%以上の接種率が必要とされ、専門家は集団免疫の低下に警鐘を鳴らす。とくに20代後半から50代では、未罹患や1回接種のみで免疫が不十分な人も多い。大型連休で海外渡航や人流が増える時期を迎え、国は自治体向け緊急説明会を開き、接種歴確認と早期相談を呼びかけている。 参考 1)麻しん(はしか)の発生状況について(国立健康危機管理研究機構) 2)麻しん累積報告数の推移 2019~2026年(第1~15週)(同) 3)上野厚労相、はしか増に警戒「症状ある場合は外出控えて」 累計で昨年1年間を上回る(産経新聞) 4)はしか感染拡大 厚労相「ワクチン接種を」呼びかけ(日経新聞) 5)ウイルス定着していないはずなのに はしか患者が増えているのは(毎日新聞) 6)はしか患者が増加 ~何が真の脅威なのか~(時事通信) 2.2040年見据え、急性期集約と高齢者救急対応へ 地域医療構想を転換/厚労省厚生労働省は、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」の具体化を進めている。従来の地域医療構想は、2025年の医療需要を前提に病床機能の分化・連携を促す枠組みだったが、今後は人口減少、85歳以上の高齢者の増加、医療・介護の複合ニーズ、医療従事者不足を踏まえ、入院だけでなく外来、在宅、介護連携を含む医療提供体制全体の再編へと対象を広げる。国の方針では、医療機関の連携・再編・集約化を進め、急性期医療を担う「急性期拠点機能」、高齢者救急や2次救急を受ける「高齢者救急・地域急性期機能」、在宅医療を支える「在宅医療等連携機能」、リハビリや慢性期などを担う「専門等機能」など、地域ごとに医療機関の役割を明確化する。急性期拠点は、人口20~30万人に1ヵ所を基本に確保する考え方が示されており、手術や重症救急は集約し、それ以外の高齢者救急は地域急性期病院が担う方向となる。その一方で、政府内では病床削減も重要な論点となっている。一般病床・療養病床で約5.6万床、精神病床で約5.3万床の削減を想定し、厚労省は病床削減を反映したKPIを検討する。年末に改訂される経済・財政新生計画の「改革実行プログラム」やEBPMアクションプランに盛り込む方針。勤務医にとって重要なことは、地域医療構想が単なる病床数調整ではなく、病院の機能や専門性、救急対応のほか、紹介・逆紹介、介護施設との連携を変える政策である点である。 今後は各医療機関が、2028年度までに2040年に向けて担う機能を決定し、2035年度をめどに一定の成果を出すことが求められる。地域の中小病院は、高齢者救急や在宅後方支援へ、大規模急性期病院は高度急性期・専門医療に特化と役割分担が進む可能性が高い。 参考 1)病床削減踏まえ地域医療構想のKPI設定へ、厚労省 年末改訂の「改革実行プログラム」に(CB news) 2)勤務医にとっての「新たな地域医療構想」~病床数等の議論から地域の医療提供体制全体の課題解決の議論へ~(日医) 3)新たな地域医療構想に関するとりまとめ(厚労省) 3.医学部定員削減へ、医師過剰時代に向け政策転換を/財務省財務省は、4月23日の財政制度等審議会で人口減少を踏まえた大学・医師養成の見直しを提起した。18歳人口が減少する一方で大学数は増え続け、半数超の私立大学が定員割れとなっているとして、2024年に624校ある私立大学を2040年までに217~372校へ縮減する目標を示した(少なくとも約4割の削減に当たる)。あわせて、医学部定員についても将来的な医師過剰を理由に「大胆な削減に踏み切るべきだ」と求めた。財務省は、医師需給は2029~32年ごろに均衡し、その後は過剰になることが「確定的」と分析している。医学部定員が現在の9,000人台で推移すれば、人口10万人当たり医師数は2022年の274人から2040年には340人まで増える見通しで、「医療費適正化や人材の最適配分の観点からも定員削減が必要だ」としている。その一方で、医療現場では医師不足の実感が根強い。日本経済新聞の調査では、地域で不足を感じる診療科として産婦人科と小児科が最多で、外科、総合診療科、救急科も多かった。とくに外科は若手医師の敬遠が目立ち、消化器外科医は今後20年で半減するとの推計もある。また、医師の「病院離れ」も進む。2024年末の病院勤務医は約21万9,000人で、2年前より約700人減少した。病院勤務医の減少は1979年以降で初めて。その一方で、診療所医師は約11万1,000人と約4,300人増加した。自由開業制のもと、都市部や負担の少ない外来中心の診療所に医師が流れ、地域・診療科・勤務形態の偏在が強まっている。厚生労働省は、これらの偏在対策として医学部臨時定員の削減を段階的に進める方針。2027年度は医師多数県で原則2割削減を継続し、2028年度からは医師多数県以外にも削減対象を広げる方向で検討する。その一方で、地域枠医師については、県内9年以上勤務などの義務を柔軟化し、離脱を防ぎながら地域定着を促す考えだ。今後の政策は、医師総数を抑えつつ、地域枠、専門研修、勤務環境改善、病院集約化を組み合わせ、限られた医師を効率的に配置する方向へ進む。医師が「余る」とされる一方で、地方病院、外科、救急、産婦人科、小児科などでは不足が続く可能性が高く、単なる定員削減ではなく、偏在是正とキャリア支援を一体で進められるかが焦点となる。 参考 1)医学部の大胆な定員削減を 人口減で医師余り「確定的」に 財政審(時事通信) 2)財政審「私大は40年までに4割減を」 医学部定員も削減要求(毎日新聞) 3)2028年度から医師多数県「以外」でも医学部入学定員を減員へ、地域枠医師の義務履行の柔軟化を検討-医師偏在対策検討会(Gem Med) 4)人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財務省) 5)全国の診療科偏在、日経調査 小児・産婦人科が「不足」最多(日経新聞) 6)医師の病院離れ深刻に 診療所に転出、地域に偏り(同) 4.献血者数は横ばいも若年層が4割減、血液製剤の供給に懸念/厚労省若年層の献血離れが進み、輸血用血液だけでなく、血液由来医薬品の安定供給にも懸念が広がっている。厚生労働省によると、2024年度の献血者数はのべ約499万人で、全体では近年500万人前後を維持している。しかし、30代以下の献血者は2009年度の283万人から158万人へと15年間で4割以上減少した。その一方で、50・60代の献血者は2倍近くに増え、現在の血液供給は中高年のリピーターに支えられている。背景には、少子化に加え、コロナ禍で学校や企業での集団献血が減り、若者が献血に触れる機会が少なくなったことがある。献血可能年齢である16~69歳の人口は、今後20年間で約1,500万人減少すると推計されており、若年層の協力拡大は急務となっている。とくに深刻なのが、献血血液から作られる血漿分画製剤の供給問題である。献血血液のうち約4割は輸血用血液製剤に、6割弱は血漿分画製剤に使われる。このうち免疫グロブリン製剤は、川崎病、神経疾患、がん治療後の免疫低下、重症肺炎や敗血症など幅広い疾患に用いられ、需要は15年前の約2倍に増加した。川崎病では冠動脈後遺症を防ぐため早期投与が重要で、代替困難な薬剤でもある。その一方で、国内製造は限界に近付いている。血漿分画製剤を製造する国内メーカーは3社に限られ、設備の老朽化や厳しい品質管理、長い製造期間、薬価引き下げによる採算性低下が増産の壁となっている。免疫グロブリン製剤の国内自給率は、15年前の95%から2026年度には54%程度まで低下する見込みで、輸入依存度が高まっている。厚労省は、メーカーの設備投資補助や薬価面での支援を進めるとともに、小中学生への啓発パンフレット配布、学校献血、学生ボランティアによる呼びかけなど、若い世代への働きかけを強める。血液は人工的に作れず、保存期間も限られるために、若者の献血参加は、将来の輸血医療と血液由来医薬品の国内安定供給を支える重要な課題となっている。 参考 1)日本の未来を変える、若者の献血:今、若者の献血が必要な理由(厚労省) 2)若者の献血が変える日本のミライ:高校生が広げる献血の輪(同) 3)若者の献血離れで医薬品安定供給に懸念も 国も対策(NHK) 4)「このままでは輸血できなくなる未来に」献血離れが深刻 学校に献血バスの取り組みも(TBS) 5.人材紹介料が医療経営を圧迫、10年で2.4倍に 早期離職トラブルも/日医医療機関や介護施設が民間の有料職業紹介事業者に支払う紹介手数料が急増している。厚生労働省の2024年度職業紹介事業報告書によると、医師の紹介手数料は約283億円、看護師・准看護師は約598億円、施設・訪問介護職は約257億円で、3職種合計は約1,139億円に上った。10年前の2.4倍で、2年連続で1,000億円を超えた。背景には、医療・介護分野の慢性的な人手不足がある。2026年2月の有効求人倍率は、医師・薬剤師などが2.04倍、看護師などが2.21倍、介護職が3.78倍と、全職種平均を大きく上回る。医療機関や介護施設は人員配置基準を満たさなければ診療報酬・介護報酬を得られないため、退職者が出ると迅速な補充が迫られる。民間紹介サービスは、短期間で採用につながりやすく、求職者側もスマートフォンで条件検索しやすいため利用が広がっている。しかし、紹介手数料の原資は保険料や税金を含む公的財源であり、経営が厳しい医療機関にとっては負担が重い。さらに、採用後の早期離職や、紹介内容と実際の能力との不一致などのトラブルも多い。調査では、医療・介護・保育分野で有料紹介を使った事業者の56.8%が「紹介人材がすぐに辞めた」と回答している。日本医師会と四病院団体協議会は、紹介手数料の上限制、返戻金制度の義務化、定着期間に応じた手数料体系などを厚労省に要望した。日医は、高額な紹介料が中小病院の人材確保を一層困難にし、地域医療提供体制を揺るがす恐れがあると訴えている。その一方で、厚労省は市場への過度な介入には慎重姿勢を示している。公的なマッチング機能の強化も進む。日本医師会はドクターサポートセンターとドクターバンクをリニューアルし、都道府県医師会や行政のドクターバンク、ハローワークとの連携を拡大している。今後は、民間紹介に過度に依存しない採用ルートの整備と、求職者・医療機関双方の意識改革が課題となる。 参考 1)人材紹介料に消える医療費 10年で2.4倍1,000億円超、上限制要望の声(日経新聞) 2)日本医師会ドクターサポートセンターのリニューアル内容を説明(日医) 3)人材紹介料に苦しむ医療機関 経験した医師「ドクターバンクの充実を」(日経メディカル) 4)有料職業紹介事業の適正化とハローワークの機能強化に関する要望書(日本医師会・四病院団体協議会) 6.看護師不足が地域医療を直撃、養成校の募集停止相次ぐ/日看協看護師不足が地域医療の維持を揺るがしている。背景には、看護師を目指す若者の減少と、現場で働き続けることの難しさがある。全国の看護学校では定員割れや募集停止が相次ぎ、埼玉県秩父市の秩父看護専門学校も定員40人に対し、今年度の新入生は9人にとどまり、3年後に閉校する予定となった。関東甲信越では21校・22課程が今後の募集停止を決めている。養成校の縮小は地域医療に直結する。秩父市の中核病院では、この15年間に採用できた新卒看護師は地元看護学校の卒業生に限られ、今年度の新卒採用は1人。その一方で、昨年度は5人が退職した。千葉県銚子市の総合病院では、看護師不足により120床のうち24床を休止。千葉県内では少なくとも7病院で計424床が稼働できなくなっている。現場では、看護師1人が受け持つ患者数が増え、患者と向き合う時間も削られている。検温や血圧測定、清拭などのケアが十分に行えず、カルテ入力や薬剤確認などの業務負担も重い。日本看護協会の調査では、看護職として働き続けたいと答えた人は62.9%にとどまり、前回調査から低下した。新卒看護職員の離職率も8.2%で、休みの取りにくさや夜勤・残業の負担が離職要因となっている。その一方で、看護師確保に向けた取り組みも始まっている。ペットと暮らせる寮や休暇制度を整備して離職防止を図る病院、社会人学生を積極的に受け入れる看護専門学校もある。 准看護師制度については、地域医療を支える役割がある一方で、学生数の減少や看護教育の大学化を背景に、制度のあり方や看護師への一本化を巡る議論も続いている。看護師の就業者数は増えているが、高齢化による需要増には追い付いていない。有効求人倍率は高く、医療機関同士が人材を奪い合う状況にある一方で、賃金は公定価格である診療報酬・介護報酬に左右され、物価高や他産業の賃上げを反映しにくい。看護師不足は単なる人手不足ではなく、病床休止、患者ケアの質低下、地域医療の縮小につながる問題であり、養成制度、処遇改善、勤務環境改革を一体で進める必要がある。 参考 1)“憧れの職業”に何が起きたか 「看護学校」定員割れの衝撃 「不要論」と「新たなニーズ」の間で揺れる准看護師という存在(東洋経済オンライン) 2)相次ぐ募集停止 看護師不足の行く末は…(NHK) 3)看護師になっても...「働き続けたい」は6割、新卒で1割が離職 背景に過酷な労働実態(産経新聞)

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在宅医療・介護の場で見逃してはいけない骨粗鬆症/日本シグマックス

 整形外科領域などで衛生材料や診療機器、サポーターなどの開発・販売を行う日本シグマックスは、2026年3月24日に都内で「在宅医療・介護で見過ごされがちな『骨粗鬆症』リスクと転倒・骨折予防の重要性」をテーマにメディアセミナーを開催した。 骨粗鬆症は自覚症状に乏しく、発見が遅れがちな疾患であり、転倒・骨折をきっかけに要介護へ移行するケースも多く、医療・介護双方で課題となっている。同社の代表取締役社長の鈴木 洋輔氏は、これらの課題の解決に「超音波医療機器の開発や機械の小型化といった知識の導入により、治療に貢献する製品を研究開発していく」と展望を述べている。 セミナーでは、骨粗鬆症の病態と予防の解説のほか、在宅医療の視点から骨折リスクとしての骨粗鬆症と在宅でできる予防法などが講演された。骨粗鬆症検診率は全国平均でまだ5% 「骨粗鬆症と骨折予防の意義」をテーマに山本 智章氏(新潟リハビリテーション病院 院長)が、骨粗鬆症の病態、高齢者と骨折、骨折予防などについて講演した。 ヒトの最大骨量は20~40代であり、男性は女性に比べてやや多い骨量となっている。とくに女性では閉経後に急激な骨量の減少がみられ、骨粗鬆症の1番の原因は閉経と老化とされる。若いときに最大骨量をいかに高められるかが、将来の骨粗鬆症の予防につながると近年の研究から判明し、生涯にわたり骨の健康を考えることが重要な時代となっている。 わが国は超高齢社会となり、2000年以降、骨折の概念は外傷性ではなく、脆弱性骨折へと変化している。実際、病院で受診する骨折患者のほとんどが脆弱性骨折であり、骨折はけがではなく、慢性疾患の中で起きる1つのイベントという認識が必要となる。 脆弱性骨折は、椎体や上腕骨、大腿骨近位部などさまざまな部位で発生する。とくに高齢者では、脊椎椎体と大腿骨頸部の骨折が多く、大腿骨近位部骨折の患者数は年々増加し、1980年代と比較すると5~6倍となり、2017年には約19万3,000例となっている1)。 大腿骨近位部骨折は、フレイル、骨粗鬆症、低栄養などさまざまな症状が併存した結果起こり、治療では手術が第1選択となる。また、骨折を起こすと医療費の増加、介護の発生、再発のリスクがあるほか、受傷1年後の患者の日常生活動作(ADL)を調査した研究によると1年以内の死亡が20%、永続的な能力障害が30%、歩行不能が40%、限定的な生活動作が80%と大きな生活上のリスクとなることが報告されている2)。そのため海外では、早期治療が有効であり、徹底して予防し、優先的に治療すべきとされている。 最近、社会的認知が広がっている「いつの間にか骨折」の椎体骨折の発生数について、ROAD研究から形態椎体骨折は420万件、臨床的椎体骨折は118万件と報告されている。多発脊椎圧迫骨折が進行すると脊柱後弯症となり、ADLの障害、慢性背部痛、呼吸換気不全などのQOLの低下を来す。また、体型バランスが変わることで転倒リスクが高くなり、さらなる転倒・骨折などを来す原因となる。 骨折について医療経済や介護環境についてみると、医療費の面で2018年の新潟県の後期高齢者入院の医療費では、「脆弱性骨折」が9.25%と1番高く、脳卒中が7.50%、そのほかの心疾患が7.40%の順で高かった。また、介護の主要因について厚生労働省の調査では、認知症が23.6%で1番高く、脳血管疾患が19.0%、骨折・転倒が13.0%と上位の3要因に入っている。骨折で介護が必要となった場合の5年間の自己負担額の試算では1,540万円と試算するデータもあり、これら介護の負担は、患者本人だけでなく、家族を巻き込み、社会的にも医療的にも問題となる。 骨折の原因となる骨粗鬆症治療を受けるべきターゲットは、「(1)(50歳以降に)骨折を起こした人、(2)骨密度の低下した人(若いときの70%以下の骨密度)のどちらかに該当する人は骨粗鬆症の治療を始めたほうがよい」と山本氏は提言する。 その一方で骨粗鬆症検診の現状は、全国平均で約5%と低く、地域によってはゼロというところもある。「健康日本21」では、「骨粗鬆症の検診率を15%まで引き上げる」という目標が設定され、今後積極的な取り組みがなされる。 わが国の高齢者の転倒発生率は80歳以上で11.1%、85歳以上で13.6%であり、その20%が治療適用となり、5~10%が骨折となる。転倒では、筋力の低下、バランス障害、歩行障害などが大きく寄与しており、正常なバランスの指標として「片足立ちができるかどうか」がある。片足でしっかり立てるということは、歩行も安定し、さまざまな場面でバランスも取れるということが転倒予防に重要となる。また、もう1つ重要なことが「環境」である。屋外はもちろん、屋内でも浴室や居間、階段などさまざまな場での転倒リスクをいかに低下させるかということを高齢者に指導していくことが重要となる。 最後に山本氏は「第28回 日本骨粗鬆症学会が新潟で開催される。『女性医学と整形老年病学』という若いときから女性がいかに元気でいられるかというテーマで開催されるので、多くの医療者に参加してもらいたい」と述べ、講演を終えた。病診連携では「再骨折予防手帳」を活用 「在宅だからこそ見逃される骨折リスクと地域連携の重要性」をテーマに山口 正康氏(医療法人社団 山口クリニック 院長)が、オンラインで在宅患者の骨粗鬆症リスクをいかに見つけ、どのように予防し、地域で支えていくかを講演した。 山口氏は、新潟市内で消化器内科を専門に、地域の在宅医療も行っている。往診先には寝たきりの患者、独居の認知症患者など、さまざまな患者が自宅で自分らしい生活を続けている中で、通院できない患者について骨折予防のため定期的に骨粗鬆症の治療も行っているという。 在宅医療患者の特性と骨折リスクとしては、身体的要因として転倒リスクが高い疾患が多いこと、服用薬の影響、加齢による骨・筋肉の脆弱化、通院できないことによる治療の放置がある。また、社会的要因として見守りの目が届きにくい住環境などに転倒誘因が多いほか、身体機能に合わない杖などの補助具の使用、閉じこもりによる身体の廃用性萎縮などがある。さらに在宅特有の診断困難性として、「DXA検査へのアクセス制限」「無症候骨折の看過」「既存骨折の未評価」「検査の遅れ」などもあり、骨折の診断・評価の機会損失が潜在化すると山口氏は警鐘を鳴らす。 骨粗鬆症財団の行った「診療所に通院する骨粗鬆症患者の合併症」の調査では、高血圧(55%)、脂質異常症(27%)、眼病(19%)、糖尿病と循環器疾患(13%)の順で多く、生活習慣病と骨粗鬆症は悪循環を形成し、心血管イベントのリスク因子となることも知られている3)。そのため在宅診療時には動脈硬化の進行度や心肺機能の検査も必要となる。 山口氏のクリニックでは、患者向けの骨粗鬆症の啓発に、疾患の説明や検査の内容を提示するとともに、待ち時間などの間に超音波測定法を用いた骨量測定器で測定なども行っている。そのほか骨粗鬆症の予防について万歩計を活用した1日8,000歩以上の励行や日常動作でのちょっとした運動の勧め、骨に関連するカルシウム、ビタミンD・Kなどの摂取について栄養士による指導も行っている。 高齢者が骨折や寝たきりの状態にならないためには、病診連携、多職種間、医療と介護、市町村と行政、患者(家族)と地域など幅広い連携が必要になる。とくに再骨折の予防のためには病診連携が重要であり、「正確な骨密度検査の結果と治療方針を病院、クリニック、患者と共有することが治療継続のための出発点となる」と山口氏は語る。 病診連携のメリットは専門医の診断により、治療方針が明確になることであり、病院の専門医と地域のかかりつけ医がそれぞれの役割を果たすことで地域全体による骨粗鬆症治療が活発化する。また、山口氏の地域では患者が病院からの紹介で受診される際、必ず「再骨折予防手帳」を持参するという。この手帳により患者の退院後の状態が容易に把握でき、病院の医師とかかりつけ医の情報共有ができ、患者の安心感につながっていく。 最後に山口氏は、「在宅医療における骨粗鬆症対策は、骨折する前に見つけることが最も重要な役割だと考えている。在宅特有の見逃されるリスクに目を向け、地域全体で骨折予防を支える体制作りを目指したい」と思いを述べ、講演を終えた。

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第312回 救急患者争奪戦が激化の予感(前編) 新設の「急性期病院一般入院基本料」が“なんちゃって急性期病院”に迫る「急性期現場からの退場」

急性期病院の経営層が救急搬送受入件数や手術が必要な患者数を増やすことを今まで以上に重要視こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月の本連載で心配していたシカゴ・ホワイトソックスの村上 宗隆選手、トロント・ブルージェイズの岡本 和真選手ですが、絶不調から脱する兆しが見えてきました。とくに村上選手は4月19日(現地時間)、3試合連続となる8号本塁打を放ちました。同日に岡本選手は4打数2安打3打点(3号ソロ含む)と2試合連続でマルチ安打を記録しました。2人とも速球に加え、チェンジアップなどの変化球に苦労していましたが、対応できるようになってきたようです。考えるに、村上選手はアメリカン・リーグ最弱のホワイトソックスに入団してよかったのかもしれません。エリート揃いの有名球団ならすぐに控えに回されていたでしょう。「最初から背伸びをしすぎない」ことが異質の環境に適応するうえでの秘訣だということが、村上選手の例からもわかります。さて今回は、2026年度診療報酬改定を機に、各地で救急患者や急性期患者の獲得競争が今まで以上に激化しそうな気配ですので、それについて書いてみたいと思います。地域の急性期病院で働いている方は、経営層が救急搬送受入件数や手術が必要な患者数を増やすことを、今まで以上に重要視しはじめたことに気付いたのではないでしょうか。その大きな原因は、2026年度診療報酬改定で新設される「急性期病院一般入院基本料」です。医療メディアも各地の急性期病院の対応について詳細に報じるようになってきました。「新たな地域医療構想」での「急性期拠点機能」を想定した「急性期病院A一般入院料」「第303回 病院と診療所で『メリハリ』に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ」でも書きましたが、「急性期病院一般入院基本料」について、改めておさらいしておきましょう。2026年度改定の病院に関する項目の最大の注目点は、2027年度からの新たな地域医療構想を見据え、急性期を担う病院機能の明確化を推し進める内容となったことです。中でも、地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院A:看護配置7対1、1日1,930点、同B:看護配置10対1、1日1,643点)が新設されたことで、地域の病院機能の役割分担の動きが加速しています。2040年を見据えた「新たな地域医療構想」では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち、「急性期拠点機能」を有する病院は「人口20万~30万人ごとに1拠点」が目安とされています。新設される2区分の急性期病院一般入院基本料のうち、「急性期病院A一般入院料」はまさにそうした「急性期拠点機能」の病院を想定した点数と言えます。また、入院料の加算である「急性期総合体制加算」と「地域医療体制確保加算2」、手術料の加算である「外科医療確保特別加算」も同趣旨の点数と言えます。救急搬送件数と全身麻酔手術件数が要件に「急性期病院A一般入院料」の主な要件は、「救急搬送件数:年2,000件以上」「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」などで、入院患者数の10%以上の数の常勤医師の配置が求められます。病院全体として急性期医療への特化が必要で、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料とのケアミックスは認められません。一方、「急性期病院B一般入院料」の主な要件は、第二次救急医療機関または認定救急病院で、以下の4要件のうちいずれかを満たす必要があります。1.救急搬送件数:年間1,500件以上2.救急搬送500件以上かつ全身麻酔手術500件以上3.人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上4.離島医療圏で最大の救急搬送件数地域包括医療病棟とのケアミックスは認められません(地域包括ケア病棟入院料との併存は可能)。従来からある急性期一般入院基本料1〜6は今後整理が進むとの見方も最大のポイントは、これまでの入院料のように病棟単位ではなく、医療機関の機能に着目した病院単位での入院料となっていることです。さらに、病院内で多様な機能の病棟を併存させるケアミックスにも制限がかけられています。ちなみに、厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定の概要」資料の中の「急性期における評価の見直し」の項には、「地域で病院が果たしている救急搬送の受入や手術等の急性期機能に着目し、地域ごとの急性期の病院機能を確保する観点から、病院の機能に着目した急性期病院一般入院基本料を新設」と記されています。「新たな地域医療構想」の医療機関機能を想定した点数であることは、この文面からもわかります。新しい診療報酬が適用される6月から、急性期病院は実績などに応じて「急性期病院一般入院基本料」または従来の「急性期一般入院基本料」を選ぶことになります。ただ、新たな地域医療構想を推し進めていく上で、病院単位での入院料の普及・定着が必要なことから、次期改定以降に急性期一般入院基本料1〜6は整理が進む、という見方が専らです。つまり、今後、急性期病院として生き残っていくためには、「急性期病院A一般入院料」か「急性期病院B一般入院料」の選択は必須と言えるのです。「急性期病院B一般入院料」は「新たな地域医療構想」における「高齢者救急・地域急性期機能」に近いイメージ「急性期病院A一般入院料」は、高度な救急・手術実績を持つ病院向けで、主に都市部における急性期拠点機能を想定していると考えられます。一方、「急性期病院B一般入院料」は、主に人口減少地域などで急性期医療を担う病院を対象としていると考えられます。「新たな地域医療構想」における「高齢者救急・地域急性期機能」に近いイメージと言えるでしょう。なお、「急性期病院B一般入院料」の基本点数は1,643点(看護10対1)と低めですが、新設の看護・多職種協働加算(255点)を取ることで収益性が向上し、従来の「急性期一般入院料1」(1,874点、看護7対1)を上回って1,898点となる設計です。“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”は急性期医療の現場から退場へ「急性期病院一般入院基本料」の要件からも明らかなように、救急搬送件数が取得のカギとなります。A/Bいずれも多数の救急患者が必要となり、病床過剰地域では病院間で救急患者の争奪戦が繰り広げられることになります。とくに競争が厳しくなりそうなのが、人口20万人以下の医療圏です。「急性期病院B 一般入院料」の要件の中には「人口20万人未満地域で二次医療圏内の搬送件数最大かつ1,000件以上」があり、この場合、搬送件数最大の1病院のみが対象となるからです。圏域内に同等の病院が2病院以上あり、どこも救急搬送件数が1,000件に達していなければ、争奪戦は避けられません。なお、救急患者数は入院料の施設基準の肝でもある重症度、医療・看護必要度の指数算出のために新たに設けられた「救急患者応需係数」(1床当たり年間救急件数×0.005)にも影響します。そうしたことも競争に拍車をかけるでしょう。「急性期病院一般入院基本料」の新設と、従来からの「急性期一般入院料」の整理によって、これまで“背伸び”をしてきた“なんちゃって急性期病院”」はほどなく淘汰され、急性期医療の現場から退場を余儀なくされるでしょう。では実際に、今ある各地の急性期病院はどんな動きを見せ始めているのでしょうか。(この項続く)

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親ががんのとき、子供のケアはどうする?【非専門医のための緩和ケアTips】第122回

親ががんのとき、子供のケアはどうする?今回はがんになった親を持つお子さんのケアについてです。悩むことも多いこの話題について考えてみたいと思います。今日の質問大学病院から、若年のがん患者を紹介されました。お子さんがいて、まだ親の病状について、きちんと理解できていない様子です。患者の予後は3〜6ヵ月程度と予想され、治療効果は乏しくなっているものの、しばらくは大学病院に通院するようです。ただ、近い将来、私たちの訪問診療で看取る可能性が高いと予想しています。子供のケアはどのように取り組むとよいでしょうか?地域で緩和ケアに取り組んでいると、時々遭遇する難しい状況かと思います。幸い大学病院からの紹介が比較的早いタイミングだったため、これから関係構築に取り組みながら、お子さんのケアも考えることができそうです。まず、われわれが理解する必要があるのは、子供の発達段階を理解して適切な対応を考える必要があるという点です。ご質問の情報だけではお子さんの具体的な状況がわからないのですが、仮に10歳程度としましょう。10歳程度の子供の発達段階は、徐々に抽象的な概念の理解や先々の予測などについても考えが及ぶようになります。つまり、10歳児は多くの場合、死の概念や不可逆性を理解できるのです。また、事実を隠すような対応は、短期的には平穏でも長期的には家族に対する不信感や「知っていたら、こうしたかった」といった不全感につながるといわれています。一方、緩和ケアの実践では難しいときがあるのも事実です。患者である親やほかの親族が子供への説明を望まないというケースがしばしばあります。多くの場合、子供への影響を心配する気持ちや、どのように話せばよいかわからない、といった苦しさに基づいたものです。また、このような状況にある患者は、若い就労世代であることが多く、がん治療で収入が絶たれているにもかかわらず、介護保険の対象年齢(原則40歳以上)に該当しない場合があります。そういった意味からも、さまざまな支援が必要になる状況です。こうした状況での子供のケアは、一般知識を身に付けたうえで、社会福祉士や公認心理師・臨床心理士といった各職種にも力を借りることが必要です。私のように地域の基幹病院に勤務していれば院内で他職種と連携できますが、在宅医療や診療所の医師はどのように対応すればよいのでしょうか?おそらく地域ごとにできることは異なると思います。もし皆さんがこういった難しいケアを提供する必要性に直面した際は、地域の基幹病院の緩和ケア部門に相談してみてはいかがでしょう? さまざまな事情で入院が必要になる可能性の高い患者でもあり、情報共有の意味合いもあります。基幹病院の専門職に相談できるだけでも対応の幅が広がるでしょう。誰が対応しても難しい状況ですので、地域の緩和ケアリソースをフル活用して、ケアに取り組んでいただけたらと思います。今日のTips今日のTips子供の発達段階に合わせ、ほかの専門職も交え、地域のリソースを使って対応することが大切。

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第290回 はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省

<先週の動き> 1.はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省 2.中東情勢悪化で医療現場に不安 EMIS活用して在庫把握へ/厚労省 3.医師偏在に現場が危機感、4割が開業規制支持 地域格差是正へ/日経新聞 4.オンライン診療を医療法に明記 96項目の遵守事項で安全確保/厚労省 5.OTC類似薬に25%負担 医療保険改革が審議入り、応能負担強化へ/政府 6.看護専門学校の定員割れ深刻化 2040年見据えた人材確保策を議論/厚労省 1.はしか急増、3月末で全国に197人 接種歴確認と2回接種が急務/厚労省麻疹(はしか)の感染拡大が続いている。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2026年第13週までの全国累計患者数は197人に達し、前年同時期の3倍超と、2020年以降で最も速いペースで増加している。東京都48人、鹿児島県24人、愛知県23人が多く、海外流行地からの持ち込みを起点に国内感染が広がった可能性が高い。麻疹は空気感染し、免疫のない人は同じ空間にいるだけで感染し得るうえ、肺炎や脳炎など重い合併症を招くこともあるが、特効薬はない。唯一有効な予防策はワクチン接種で、MRワクチン2回接種が基本となる。日本感染症学会も、流行防止には2回接種率95%以上が必要だと注意喚起をしている。東京都では4月10日時点の患者数が速報値で97人に達し、昨年同時期の10倍超となった。10~30代が約9割を占め、接種歴が1回のみ、あるいは不明な若年成人の脆弱性が浮き彫りになっている。千葉県では今年22例目が確認され、昨年通年に並んだほか、川崎市でも4月だけで複数例が報告された。厚生労働省は、発熱や発疹がある場合は事前に医療機関へ連絡し、公共交通機関を避けて受診するよう求めている。接種歴の確認と未完了者への追加接種が急務となる。 参考 1) 感染症発生動向調査(IDWR)2026年第13週(国立健康危機管理機構) 2) 麻しん(はしか)が世界・国内で増加しています(日本感染症学会) 3) 空気感染するはしか、増加続く 厚労省が接種徹底と注意呼びかけ(Science Portal) 4) はしか患者3月までに197人、コロナ禍後最多だった前年同時期の3倍以上…子どものワクチン接種呼びかけ(読売新聞) 5) はしかの全国感染者数 1週間の新たな感染者30人 感染者数高止まり(日テレNEWS) 2.中東情勢悪化で医療現場に不安 EMIS活用して在庫把握へ/厚労省中東情勢の悪化を受け、石油由来原料を使う医薬品、医療機器、医療物資の供給不安が医療現場で強まっている。厚生労働省と経済産業省の対策本部によると、4月8日時点で医療機関やメーカー・卸業者からの相談は計543件に上り、このうち16件が安定供給に影響ありと判断された。透析回路や医療用手袋など10件はなお対応検討中であり、政府は流通段階の「目詰まり」解消を急ぐとしている。政府は現時点で「直ちに供給が滞る状況ではない」と説明する一方で、医療7団体は買い占めや過剰発注が連鎖すれば、供給不足や価格上昇を招きかねないと懸念を表明した。上野 賢一郎厚生労働大臣との意見交換では、需給見通しの正確な情報発信や、必要量に見合った発注の徹底、医療機関同士で物資を融通できる体制整備を求める声が相次いだ。とくに医療用手袋など日常的に消費する物資への警戒感が強い。厚労省は10日から、災害時に使う広域災害救急医療情報システム(EMIS)を活用し、全国約1万3,000の病院などから在庫や受け入れ状況をオンラインで把握する体制を開始した。今後は定点観測や相談窓口、EMISによる情報収集を通じて需給逼迫の兆候を早期に捉え、厚労・経産両省と医療団体が連携して、安定供給を維持する構え。焦点は、実際の不足が起きる前に冷静な発注行動と情報共有で市場不安を抑え込めるかにある。 参考 1) EMISポータルサイト(厚労省) 2) 医師会ら “医療用物資の需給情報発信し安定的な確保”要請(NHK) 3) 厚労省 医療用物資の調達 災害時にシステム活用で経産省と連携(同) 4) 医療機関1.3万ヵ所から物資の供給状況把握へ 厚労省 災害時システムで10日から情報収集(CB news) 5) 医療物資の供給把握 厚労省、システム運用 全国1.3万の病院(日経新聞) 3.医師偏在に現場が危機感、4割が開業規制支持 地域格差是正へ/日経新聞医師の地域偏在・診療科偏在が深刻化する中、医師自身の間でも自由開業の規制を求める声が強まっている。日本経済新聞と日経メディカルの共同調査では、「開業規制が必要」との回答は42%で、「必要ない」の21%を大きく上回った。地域偏在を深刻とみる回答は46%、診療科偏在も47%に達し、現場の危機感が明確となった。偏在の認識は地域で差が大きく、東京23区では29%にとどまる一方、町村では65%に達する。人口10万人当たり医師数などを基にした偏在指標でも、東京都と岩手県で約2倍の格差があり、西日本に多く東日本に少ない「西高東低」の傾向も続く。勤務医ほど規制支持が強く、病院勤務医では46%が必要と回答したのに対し、開業医では賛否が拮抗した。こうした背景には、現行の自由開業制の下で都市部・人気診療科への集中が進み、地域医療の持続性が揺らいでいる現状がある。厚生労働省の医師確保計画見直しでは、医師偏在は「地域」と「診療科」の二重構造で進行し、とくに外来中心の診療所医師が都市部に偏在している点が課題とされている。政府は改正医療法に基づき、2026年4月から「外来医師過多区域」を設定し、新規開業者に対し在宅医療や夜間対応、医師不足地域での診療などを要請できる制度を開始した。応じない場合には保険医療機関の指定期間短縮というディスインセンティブも設けたが、あくまで要請ベースにとどまる。その一方で、厚労省の資料では、医師確保は単なる配置の問題にとどまらず、勤務環境やキャリアパス、地域医療構想との整合的な政策が不可欠とされる。そのため、単純な規制だけではなく、地域勤務へのインセンティブやタスクシフト、医療提供体制の再編といった総合的な対策が求められている。先述のアンケートの自由回答でも「自由開業制を続ける限り偏在は解消しない」との声がある一方で、「過疎地への誘導策が重要」との指摘も多い。規制と誘導の最適な組み合わせが、今後の医師偏在対策の焦点となる。 参考 1) 野放図な開業を医師も危惧、4割「規制を」 大都市・診療科の偏り加速(日経新聞) 2) 医師の42%が「開業規制が必要」と回答、「不必要」にダブルスコア(日経メディカル) 3) 外来医師過多区域に係る候補区域の公表について(厚労省) 4) 医師確保計画の見直し等に向けたとりまとめ(同) 5) 医師偏在解消に向け、2026年4月から外来医師過多区域・重点医師偏在対策支援区域を設定し対応を強化-地域医療構想・医療計画検討会(Gem Med) 4.オンライン診療を医療法に明記 96項目の遵守事項で安全確保/厚労省2026年4月1日、改正医療法に基づくオンライン診療の関連規定が施行され、これまで通知や指針を中心に運用されてきたオンライン診療が、医療法上明確に位置付けられた。厚生労働省は施行に先立ち、医療機関向けチェックリストを通知し、計96項目の遵守事項と14項目の推奨事項を整理。オンライン診療の提供面では34項目、提供体制では62項目を求め、安全性と適正実施の徹底を図る。新ルールでは、オンライン診療は対面診療の代替ではなく補完とされ、医師は診療の都度、医学的観点から実施の可否を判断し、不適切な場合は速やかに対面診療へ切り替える必要がある。患者への事前説明と同意取得も必須で、触診ができず得られる情報が限られること、対面診療を組み合わせる必要があること、診療計画や急変時対応などを説明しなければならない。初診からのオンライン診療は原則として「かかりつけ医」が行うが、休日夜間やかかりつけ医不在時など例外的に他医師が行う場合は、診療前相談を経た上で、対面診療へ確実につなぐ体制整備が求められる。処方では初診時の麻薬・向精神薬投与や長期処方を制限し、メールやチャットのみで完結する診療も認めない。加えて、通信環境やセキュリティ対策も厳格化され、システムの安全性確認やアクセス管理、情報漏洩対策などが医療機関の責務として明確化された。今回の法改正では、患者がオンライン診療を受ける場所として「オンライン診療受診施設」も制度化された。公共施設などを活用した受診環境整備が可能となる一方で、広告規制も拡大され、受診施設に関する表示も新たな規制対象となる。こうした制度整備の背景には、医療アクセス改善への期待がある。日経新聞・日経メディカルの調査では、医師の51%が「オンライン診療は地域偏在の緩和に寄与する」と回答した。ただ、届け出医療機関はなお限定的で、導入コストや対面より低い診療報酬が普及の壁として残っている。今後は安全確保と普及促進をどう両立させるかが焦点となる。 参考 1) (医療機関向け)基準等遵守の確認をするためのチェックリスト(厚労省) 2) オンライン診療の実施に際し患者に対して説明すべき内容のチェックリスト(同) 3) オンライン診療の基準、厚労省がチェックリスト 順守事項に計96項目挙げる(CB news) 4) 医師の51%が遠隔診療に期待 地域偏在対策、普及へ報酬増求める声(日経新聞) 5) 改正医療法によるオンライン診療規制に伴う医療広告規制の変容~その1 医療広告規制と「オンライン診療受診施設に関する広告」規制~(のぞみ総合法律事務所) 5.OTC類似薬に25%負担 医療保険改革が審議入り、応能負担強化へ/政府4月9日、政府が国会に提出した健康保険法等改正案が衆議院本会議で審議入りした。今回の改革は、増大する社会保障費と現役世代の保険料負担の抑制を背景に、「給付と負担の見直し」と「制度の持続可能性確保」を柱とするものである。最大の焦点は、市販薬と同等の効能を持つ「OTC類似薬」に対する新たな患者負担の導入だ。対象は解熱鎮痛薬や抗アレルギー薬など約77成分・1,100品目に及び、薬剤費の4分の1を保険給付から外し、追加負担として患者に求める仕組みを創設する。これは「一部保険外療養」として制度化され、現役世代の保険料負担を年間2,600億円程度軽減する効果が見込まれている。その一方で、がんや難病患者、小児、長期使用が必要な患者などには負担を課さない方向で検討が進められている。また、後期高齢者医療制度では、株式配当などの金融所得を保険料や窓口負担に反映させる仕組みを強化する。現行制度では申告方法により負担に差が生じる問題があり、金融機関からのデータ提出を義務化することで「応能負担」の徹底を図る。さらに、出産費用については、全国一律の基本単価を設定し、保険で全額給付する仕組みへの転換を進める。従来の出産育児一時金では費用上昇に追いつかず自己負担が残る課題があり、現物給付化と情報の見える化により負担軽減と選択の透明性向上を目指す。このほか、高額療養費制度では長期療養者への影響配慮を明文化し、医療機関の業務効率化や勤務環境改善を支援する新たな基金事業も創設される。DXや生成AI活用などによる効率化も政策的に後押しされる点が特徴となっている。政府は「世代間・世代内の公平性確保」と「限られた財源の効率的活用」を強調する一方で、野党からは「患者負担増による受診控え」や「治療遅延のリスク」が指摘されており、制度設計の妥当性が今後の審議の焦点となる。 参考 1) 健康保険法等の一部を改正する法律案について(厚労省) 2) 健保法等改正案が衆院で審議入り 高市首相「不断の改革に取り組む」 上野厚労相「負担の公平性確保」(ミクスオンライン) 3) OTC類似薬の追加負担「がんや入院中の患者には求めず」 上野厚労相(日経新聞) 6.看護専門学校の定員割れ深刻化 2040年見据えた人材確保策を議論/厚労省厚生労働省は4月10日、「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」の初会合を開き、2040年ごろの看護職員の需給を都道府県別に推計する方針を示した。新たな地域医療構想の実現に向け、看護人材の確保と資質向上は不可欠であり、秋ごろまでに養成・確保策と推計方法を議論し、冬ごろに取りまとめる見通し。背景には、看護人材確保を巡る状況の悪化がある。厚労省の調査では、3年制看護専門学校の2025年度入学者は2万868人で、定員充足率は79.5%と初めて8割を下回った。2017年度をピークに減少傾向が続いており、大学入学者は増えているものの、専門学校と大学を合わせた入学者総数も5年連続で減少している。専門学校卒業生は地元就職率が高いとされ、地方の看護師確保への影響が懸念されている。実際、地域では養成基盤の縮小が進む。埼玉県では看護専門学校44校のうち少なくとも7校が募集停止を表明し、少子化や志願者減、4年制大学志向の強まりが経営難に拍車をかけている。人口10万人当たり看護師数が全国最下位の同県では、地域医療への影響に強い危機感が広がる。秩父地域では唯一の看護師養成校の存続も不透明となっている。厚労省の検討会では、若年人口減少に加え、現在の就業者の多くを占める45歳以上が2040年には高齢化することを踏まえ、退職増や高年齢者就業も見込んだ推計を行う。加えて、訪問看護の深刻な人手不足や領域偏在、ICT活用による業務効率化、育児・介護との両立支援、ハラスメント対策など勤務環境の改善も主要な論点となる。看護師不足は、単なる人数の問題ではなく、地域偏在、領域偏在、養成基盤の弱体化が重なった構造的な問題として対策が求められている。 参考 1) 第1回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会:資料(厚労省) 2) 看護専門学校の入学者、定員比で初めて8割下回る…学生離れ進み地方で不足との指摘も(読売新聞) 3) 看護職員の40年ごろの需給を地域別に推計へ 厚労省、養成・確保対策の検討会が初会合(CB news) 4) 埼玉県内の看護専門学校 本年度以降、7校が学生募集停止 志願者減少で経営難(東京新聞)

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第310回 診療所の開業規制いよいよスタート、厳密な意味での「規制」となっておらず実効性に疑問

私立医大の入試女子一律減点をモチーフにしたドラマこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年度変わりの日曜日(4月5日)からNHK BSで興味深い連続ドラマが始まりました。夜10時から放送の「対決」です。私立医大の入試女子一律減点疑惑を、検察担当の女性記者が追うというストーリー。2018年の東京医大一般入試で発覚した文科省の前局長の子息への不正な点数加点事件と、それをきっかけに次々と明らかになった複数大学での女子や複数年浪人生に対する不利な選抜がモチーフになっています。女子差別や医師偏在、パワハラ・セクハラなど、多くの要素を詰め込み過ぎた感はありますが、ヒーローばかりが登場する民放の医療ドラマとは一線を画する作品になりそうです。有名俳優演じる医大の理事たちのダメさぶりも見どころです。原作は月村 了衛、新聞記者を松本 若菜、事務方上がりの医大理事を鈴木 保奈美が演じています。第1回の再放送は4月11日(土)午後6時15分からあるようなので、興味のある方はぜひ。さて今回は、4月から外来診療を担う医師が多い東京都心や大阪市など、9つの二次医療圏を対象候補とする「開業規制」がスタートしたので、それについて書いてみたいと思います。先のNHK BSのドラマも、事件の根本的な背景に「医師偏在」があります。「開業規制」は都市部と地方の医師の偏在是正につなげるというのが制度の趣旨ですが、本当に偏在是正に効果があるのでしょうか?武見元厚労相の発言をきっかけにまとめられた「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」の中の一策2026年4月1日から、改正医療法と改正健康保険法を組み合わせた制度として、外来医師過多区域での診療所の開業規制がスタートしました。元々は、武見 敬三・元厚生労働大臣が2024年4月のNHKの番組で「医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことをわが国もやらなければならない段階に入ってきた」と突如発言したことをきっかけに検討が始まり、厚生労働省が突貫工事で改革案をまとめ上げ、2024年12月に公表した「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」の中の一策です。「パッケージ」には「外来医師過多区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等」と記されていました。公表当時、本連載「第245回 『医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ』まとまる、注目された『規制的手法』は大甘、『経済的インセンティブ』も実効性に疑問」ではこの制度について、「武見前厚労相が強調していたいわゆる『規制的手法』です。しかし、既存の医療機関はそのままに、新規だけを対象としている点に対策の限界を感じます。また、訪問診療など足りない医療機能の提供を求めると言っても、そうした機能を“外部委託”するなどして、いくらでも抜け道はできそうです」と書きました。武見元厚労相の発言からちょうど丸2年、実効性のある制度に仕上がったのでしょうか。都道府県知事の要請や勧告に従わない場合、施設名の公表や保険医療機関の指定期間短縮も「開業規制」の根拠条文は、医療法第30条の18の6で、都道府県知事が「外来医師過多区域」を指定し、その区域で無床診療所を開設する者に対して事前届出(6ヵ月前までに都道府県へ)や協議・要請を行えるとしています。届出時に、地域でとくに必要とされている外来医療を提供する意向や、提供しない場合はその理由などを示さなければなりません。提供しない意向の場合、都道府県知事は協議の場への参加や説明を求めることになります。さらに、都道府県知事の要請や勧告に従わない診療所は施設名を公表できるとしています。施設名の公表は、全国の医療機関等情報を掲載する「医療情報ネット(ナビイ)」でも行われる予定です。あわせて健康保険法第68条の2により、都道府県知事の要請や勧告に従わない診療所について、保険医療機関の指定期間を短縮できるとしています。指定期間は通常6年のところ、要請・勧告を受けた場合や保険医療機関の再指定時に勧告に従わない状態が続いた場合は3年、再々指定時以降も勧告に従わない状態が続いた場合は2年に短縮できるとしています。厚労省は9つの二次医療圏を候補として提示「外来医師過多区域」の基準は省令で、外来医師偏在指標が「全国平均値+標準偏差の1.5倍」以上、かつ可住地面積あたり診療所数が全国の上位10%以上に該当する場合とされており、厚労省からはすでに以下の9つの二次医療圏が候補として示されています。1)東京都の区中央部(該当区市町村:千代田区、中央区、港区、文京区、台東区)2)東京都の区西部(新宿区、中野区、杉並区)3)東京都の区西南部(目黒区、世田谷区、渋谷区)4)京都府の京都・乙訓(京都市、向日市、長岡京市、大山崎町)5)大阪府の大阪市(大阪市)6)福岡県の福岡・糸島(福岡市、糸島市)7)東京都の区南部(品川区、大田区)8)東京都の区西北部(豊島区、北区、板橋区、練馬区)9)兵庫県の神戸(神戸市)兵庫県は区域指定に向け神戸市や医師会と協議を始めるこれらはあくまで厚労省が示した「候補」です。都道府県が最終的に区域指定をするかどうか、対象区域を二次医療圏内でさらに狭めるかどうかは、各都道府県の判断となります。また、各都道府県はあらかじめ各地域において「とくに必要とされる外来医療(地域外来医療)」について、協議の場で定め公表しなければなりません。候補となった地区では、今後それらの検討が進められることになります。3月28日付の神戸新聞は、「厚生労働省は神戸市を医師が過剰に多い『外来医師過多区域(医師過多区域)』の候補に選んだ。兵庫県は区域指定に向け、神戸市や医師会と協議を始めた。指定区域で開業を希望する医師は、救急や在宅医療など不足している機能を提供することが要請される」と、兵庫県がすでに協議に入ったことを報じています。各地域において「とくに必要とされる外来医療」は、専門診療科というよりは、兵庫県のように「一次救急」や「在宅医療」などが入ってくることになりそうです。「外来医師過多区域」での規制、「重点医師偏在対策支援区域」での経済的インセンティブともに「制度のための制度」にしか見えない制度の詳細を読んでわかることは、今回の「開業規制」は厳密な意味での「規制」にはなっていない点です。「外来医師過多区域」であっても、診療所の開業を全面禁止はしていないからです。外来医師が集中している地域で、開業前に地域医療への対応を求め、従わない場合に保険診療上の不利益を課すだけです。全面禁止にすると、日本国憲法第22条1項が規定する「職業選択の自由」に抵触するためかもしれません。となると、「外来医師過多区域」で開業する際、各地域においてとくに必要とされる外来医療を示された場合、とりあえず「やります」と答え、それなりの体制を整えた風を装うだけで、問題なく開業できることになります。また、都道府県知事の要請や勧告を受けたとしても、「対応する」風を装うことも難しくはなさそうです。「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」には医師不足地域向けの対策も盛り込まれています。都道府県が指定する「重点医師偏在対策支援区域」で診療所を開業しようとする場合に、施設整備費、設備整備費、開業後の定着支援費などを補助する仕組みです。しかし、そもそもこれからも患者が激減していくであろう地域で、敢えて開業する医師が現れるでしょうか。こちらの施策の実効性にも疑問符がつきます。「外来医師過多区域」での規制、「重点医師偏在対策支援区域」での経済的インセンティブ、ともに設計が甘く、制度のための制度にしか見えないと感じるのは私だけでしょうか。

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薬局と連携しよう【非専門医のための緩和ケアTips】第121回

薬局と連携しよう在宅緩和ケアではさまざまな専門職が患者の療養を支えています。薬剤師も重要な役割を担っていますが、医師が薬剤師との連携の仕方を学ぶ機会は多くはありません。今日の質問先日、調剤薬局の薬剤師から、訪問薬剤指導について案内がありました。重要な取り組みだと思うのですが、実際にどのように連携すればよいのかイメージが湧きません……。緩和ケアにおける薬剤師の役割は非常に大きく、日本緩和医療薬学会という専門学会があり、緩和薬物療法認定薬剤師という認定資格も設けられています。薬剤師と医師が上手に連携するために、私が感じていること、意識していることをお話しします。薬剤師が関わることで、緩和ケアにおける薬物療法の安全性と質が向上します。安全性では、緩和ケアの患者は腎・肝機能が低下していたり、高齢者だったりと用量調整が必要なことが多くあります。また、多剤併用で薬物相互作用に気を付ける必要があるケースも多くあります。薬剤師は、医師が処方した薬剤について、患者に期待される効果が安全に得られるよう確認してくれます。質の向上では、患者が内服しやすい剤形を提案したり、飲み忘れを防ぐ服薬カレンダーを工夫したりといったことがあります。こうしたことを医師1人で行うのは難しく、実務経験を通じて培った、きめ細かさが求められる分野です。医師はあまり意識しませんが、薬剤師の重要な役割として、薬剤の流通管理があります。医師が処方しても、実際の薬剤が地域の薬局になければ患者には届きません。できるだけ早く薬がほしい状況にもかかわらず、医薬品卸業者に発注してから、となると時間を要します。このような状況では、在宅療養を希望する患者でも「薬剤が提供できない」という理由で入院が必要になります。今回の質問のように地域の在宅緩和ケアを支える薬局は、こうしたことがないよう、在宅医療で使用する薬剤が適切に患者に届くよう、薬剤の在庫管理を行っています。今後さらに薬剤師に期待される役割は、ケアのコミュニケーションに参加してもらうことです。患者の価値観や希望に沿った医療とケアを提供するうえで、各職種が支援者として関わり、患者にとっての最善を共に考えることが求められています。私が研修医だったころは、薬剤師がベッドサイドに行く光景は見たことがありませんでした。しかし、今は薬剤師がどんどん患者と接点を持つようになっています。緩和ケアで重要な役割を持つ薬剤師と相互理解を図り、良い関係を築ける医師が必要ですし、私もそうした医師を育成できるよう取り組んでいます。ぜひ、良い連携を築きながら、質の高い緩和ケアを提供できるよう、取り組んでいきましょう。今日のTips今日のTips診療している地域の薬剤師とネットワークを構築すると、在宅緩和ケアの質も向上します。

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第289回 在宅往診体制を厳格化 体制外医師の利用を制限、24時間要件を明確化/厚労省

<先週の動き> 1.在宅往診体制を厳格化 体制外医師の利用を制限、24時間要件を明確化/厚労省 2.医療事故調査制度の地域差なお顕著 報告の質と迅速性向上が課題/医療安全調査機構 3.再生医療の安全管理に警鐘 死亡事例と法令違反受け制度見直しへ/厚労省 4.汚職対応に第三者委員会が厳しい報告 「自浄作用の放棄」と批判/東大 5.胸部CTで肺がん見落とし死亡 37mm腫瘤見逃しで医療事故/神戸市立医療センター 6.医師による性犯罪相次ぐ 実刑判決を受け行政処分の遅れに厳しい視線 1.在宅往診体制を厳格化 体制外医師の利用を制限、24時間要件を明確化/厚労省厚生労働省は3月31日に、先日公表した2026年度の診療報酬改定について、疑義解釈(その2)で在宅療養支援診療所(在支診)・在宅療養支援病院(在支病)の往診体制に関する施設基準を大幅に明確化し、とくに往診代行サービスの利用に厳しい要件を課すことを明らかにした。厚労省は、24時間往診体制を第三者サービスに依存する場合でも、患者への説明責任と医療の継続性確保を重視し、「体制内医師」であることを厳格に求める姿勢を示した。具体的には、往診担当医の氏名および担当日を患者・家族に文書で事前提示することが必須とされ、氏名の非開示は認められない。また、当該医療機関と雇用契約のない医師を往診担当医として記載することも不可とされた。さらに、やむを得ず事前に氏名を提示していない医師が往診を行う場合であっても、往診前日までに当該医療機関を訪問し、常勤医と対面で面談を行い、診療方針や患者情報を共有していることが条件となる。オンラインでの情報共有のみでは要件を満たさない点も重要である。共有すべき内容としては「患者の最新の病状や急変リスク」「今後の診療方針、緊急時の入院先や地域医療体制」「医療機関内の電子カルテや医療資材の運用方法」など、実務レベルまで具体的に示された。これにより、形式的な雇用契約のみでは要件を満たさず、対面での面談や診療方針の共有も必要となっている。従来の往診代行サービスは、外部医師のスポット対応や業務委託契約を前提とするモデルが多く、「誰が来るかわからない」体制でも運用されてきた。しかし、今回の解釈では、こうした外部プール型の仕組みは原則として施設基準を満たさない可能性が高く、実質的に継続困難とみられる。対応策としては、非常勤を含めた雇用契約の締結、連携医療機関としての正式な組み込み、自院内での当直体制強化などが挙げられるが、いずれも人的コストの増加は避けられない。今回の見直しは、責任の所在の明確化や医療の質担保という点では合理性を持つ一方で、小規模な在宅療養支援診療所にとっては24時間体制維持のハードルが一段と高まり、在宅医療提供体制の再編を促す可能性がある。制度上は在宅医療の推進が掲げられてきた中で、実運用面では「外注依存から体制内完結へ」の転換が強く求められる局面に入ったといえる。 参考 1) 疑義解釈資料の送付について(その2)(厚労省) 2) 在支診・在支病の施設基準、往診代行を使う場合は常勤医との対面での面談が必須に(日経メディカル) 2.医療事故調査制度の地域差なお顕著 報告の質と迅速性向上が課題/医療安全調査機構日本医療安全調査機構が公表した2025年年報によると、医療事故調査制度が始まった2015年10月~2025年末までの累計報告件数は3,633件に達し、このうち88.9%で院内調査が完了した。2025年単年では375件、月平均31件超で、前年よりやや増加した。都道府県別の人口100万人当たり報告件数は全国平均2.9件で、大分県と京都府がともに4.9件で最多、続いて三重県4.6件、宮崎県4.5件だった。その一方で、福井県1.1件、埼玉県1.6件、和歌山県1.7件など低い地域もあり、地域差が続いている。ただし、報告件数の多寡は直ちに医療安全水準を示すものではなく、報告文化や制度理解の差を反映している可能性がある。事故の起因となった医療内容では、分娩を含む手術が158件で全体の43.9%を占め、依然として最大の割合を占めた。処置は39件、10.8%だった。有床診療所では事故の起因となった医療内容の75.7%が手術関連で、帝王切開を含む分娩が多い点が目立った。手術の内訳では、経皮的血管内手術、内視鏡下手術、開腹手術が上位を占めた。事故発生から院内調査結果報告までの平均期間は494.4日で、前年より延びた。発生から報告まで100.1日、報告から院内調査結果報告まで394.3日で、迅速化にはなお課題が残る。2025年に完了した院内調査は360件で、累計3,230件となり、コロナ禍前の水準に戻りつつある。外部委員の参加は81.4%、解剖・死亡時画像診断(Ai)実施は49.4%だったが、いずれも前年より低下した。2026年4月からは制度見直しにより、医療事故判断プロセスの記録保存、管理者らの研修受講、遺族申し出への組織的対応などが求められる。報告の質と調査の透明性を高め、再発防止に結びつける運用強化が、今後の医療安全の焦点となる。 参考 1) 医療事故調査・支援センター 2025年 年報(日本医療安全調査機構) 2) 2025年の「人口100万人あたり医療事故報告件数」最多は大分と京都、手術・分娩関連の死亡事故が依然多い-日本医療安全調査機構(Gem Med) 3.再生医療の安全管理に警鐘 死亡事例と法令違反受け制度見直しへ/厚労省自由診療で行われる再生医療を巡り、死亡事例や法令違反が相次いでいる。厚生労働省の資料では、2025年8月に都内クリニックで自己脂肪由来間葉系幹細胞の投与中に患者が急変し死亡した事案を受け、提供の一時停止命令や立入検査を実施し、製造施設には改善命令を出した。提供医療機関側でも、救急体制の不備、適切な救急措置の未実施、原因究明に必要な投与残余物の廃棄などが課題として示された。別の都内のクリニックでも、計画に記載のない医師や医薬品・試薬による実施、未届出疾患への提供、疾病など報告の未実施などが確認され、改善命令が出されている。問題の背景には、自由診療の再生医療が「認定再生医療等委員会の審査・届出を経ている」ことで、患者側に国が有効性や安全性を評価したかのような誤認が生じやすい構造がある。厚労省の見直し資料も、美容やがん治療などで妥当性が明確でない再生医療が増え、健康被害や信頼性低下のリスクが顕在化していると整理している。日本再生医療学会も2026年3月に「科学的根拠が不十分な自由診療の拡大は深刻な課題だ」と表明している。厚労省は今後、再生医療等安全性確保法の見直しに向け、リスク分類の再検討、自由診療の妥当性評価、提供医師・医療機関の適格性確保、認定委員会の審査の質向上、患者フォローアップや監査体制の強化、国民へのわかりやすい情報提供などを検討する。医師にとっては、自由診療であっても「届出済み」では十分ではなく、科学的妥当性、救急対応、合併症発生時の検体保全、説明責任まで含めた実施体制が厳しく問われる局面に入った。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく行政処分等について(厚労省) 2) 再生医療等安全性確保法の見直しに関する今後の検討方法について(同) 3) 「再生医療」事故や違反相次ぐ 自由診療、安全性に課題 厚労省、制度見直しへ(時事通信) 4.汚職対応に第三者委員会が厳しい報告 「自浄作用の放棄」と批判/東大東京大学医学部・附属病院を巡る一連の汚職事件について、第三者のプロセス検証委員会は4月3日、大学側の対応を「組織の自浄作用と説明責任の放棄」と厳しく批判する報告書を公表した。問題の中心となったのは、内部通報があったにもかかわらず、警察の捜査を理由に学内調査を約7ヵ月間事実上停止した対応で、委員会は「真相究明を警察に委ねる姿勢は、『大学の自治』を自ら毀損する危うさをはらむ」と指摘した。報告書は、東大本部の初動の遅れに加え、総長を含む執行部の危機意識の不足、部局や研究室が互いに干渉しない組織風土、重要会議で議事録を残さないなど運営プロセスの軽視を根本要因に挙げた。また、「東大は悪いことをしない」という無謬性への思い込みと、不祥事が大学全体に及ぼす影響を十分に想像できない体質が、対応の後手を招いたと分析している。そのうえで委員会は、外部第三者による継続的なモニタリング、内部監査・監事監査・会計監査の連携強化、最高リスク責任者(CRO)の配置、対内外コミュニケーションの活性化、教員懲戒制度の迅速化と抜本的見直しの5点を提言した。東大では報告書を受け、近日中に改革策を示すとしている。今回の報告は、医学部に限らず大学全体のガバナンス不全を問う内容であり、東大の信頼回復には、再発防止策だけでなく、自浄能力を備えた組織文化への転換が不可欠だといえる。 参考 1) プロセス検証委員会報告書について(東大) 2) 東大汚職事件めぐり第三者委員会が調査結果を公表(NHK) 3) 東大収賄事件「総長の危機意識不足」、第三者委が報告 初動も問題視(朝日新聞) 4) 東京大院汚職「組織の自浄作用発揮できず」 検証委が報告書(日経新聞) 5.胸部CTで肺がん見落とし死亡 37mm腫瘤見逃しで医療事故/神戸市立医療センター神戸市立医療センター西市民病院で、CT画像に写っていた肺がんを見落とした医療事故が発生し、70代女性患者が死亡した。同院によると、女性は2024年5月、階段からの転落による外傷評価のため整形外科を受診し、CT検査を実施。画像には右肺に最大約37mmの腫瘤影が認められていたが、放射線科医がこれを指摘せず、整形外科医側でも十分な確認が行われなかった。その後、女性は2025年10月に呼吸困難と大量胸水で再受診し、精査の結果、同部位に肺がんが判明。すでにステージIVまで進行しており、手術による根治は困難な状態だった。化学療法が行われたものの全身状態が悪化し、同年12月に死亡した。初回CT画像の再検証により見落としが明らかとなった。病院は今回の事案について過失を認め、遺族に謝罪。補償については現在検討中としている。見落としの背景として、外傷評価が主目的であったため肺野の読影が不十分であったこと、ならびに読影結果の共有・確認体制の不備があったと説明している。再発防止策として、放射線科医と各診療科医師によるダブルチェックの徹底、ならびにAI読影支援ソフトの活用強化を掲げた。今回の事例は、偶発的に撮影された画像所見であっても全身的な異常の見落としを防ぐ体制の重要性を示すものであり、読影責任の所在や多職種間の情報共有の在り方が改めて問われる結果となった。 参考 1) CT画像で肺がん見落とし70代の女性患者死亡 神戸市立・西市民病院、遺族に謝罪(産経新聞) 2) CT検査で肺がん見落とし70代女性死亡 神戸市立病院で医療事故(朝日新聞) 3) 神戸市立医療センター西市民病院で医療事故 外傷診断目的で受診・70代女性患者のCT撮影した際に放射線科医が『がん』見落とす 女性患者はがんが進行して死亡(FNNプライムオンライン) 6.医師による性犯罪相次ぐ 実刑判決を受け行政処分の遅れに厳しい視線美容外科医が麻酔や睡眠薬を悪用し、無抵抗状態にした女性患者や職員らに対して長期間にわたり性的暴行を繰り返していた事件で、東京地裁は被告人の男性医師に懲役25年の実刑判決を言い渡した。犯行は約9年間に及び、被害者は21人、うち未成年が4人、最年少は9歳と極めて重大である。患者の多くは手術中や処置後の麻酔下にあり、医療行為そのものが加害の機会として利用されていた点が特徴。また、同一被害者に対する複数回の加害行為や、犯行の様子を撮影するなど、計画性と執拗性も認定された。判決は、医師という立場を利用した「悪質で卑劣な犯行」と断じ、常習性と規範意識の著しい欠如を強く非難している。求刑27年に対し25年の量刑となったが、被害の規模と内容から極めて重い判断といえる。被告は起訴事実を認めつつも量刑不当として控訴している。本件は、医療機関という本来安全であるべき場において、患者の身体的・心理的脆弱性が悪用された点で社会的衝撃が大きい。加えて、捜査段階から余罪の可能性も指摘されており、押収された記録媒体には他の被害をうかがわせる映像が含まれていたとされる。事件の実態は、判決で認定された範囲をなお上回る可能性がある。さらに、別の精神科医による患者への不同意性交事件も発覚しており、診察後に施錠された空間で逃げ場を奪われた状況での犯行が疑われている。この医師は過去の逮捕・有罪事案を経ても、診療を継続していたことが明らかとなり、行政処分の遅れに対する制度的問題も浮上している。一連の事件を受け、世論は極めて厳しく、「医師免許制度は機能しているのか」「なぜ再犯を防げなかったのか」といった批判が噴出している。とくに、刑事罰や行政処分が抑止力として十分に機能していない実態に対し、制度の見直しを求める声が強まっている。医療は患者の信頼の上に成り立つが、その信頼を根底から覆す行為が繰り返されたことは、医療界全体の倫理と統治の在り方を問い直す事案となっている。 参考 1) 美容外科医が麻酔で無抵抗の女性患者らに性犯罪、9歳児含む21人が被害…「悪質で卑劣な犯行」懲役25年判決(読売新聞) 2) 女性にわいせつ行為容疑、医師を逮捕 10人以上の被害状況を撮影か(朝日新聞) 3) 「まだ診察ある」経営する心療内科で20代女性患者に不同意性交 容疑で医師の男を逮捕(産経新聞) 4) 患者の女性を閉じ込め不同意性交か 歌舞伎町の精神科医を逮捕(毎日新聞) 5) 新宿・歌舞伎町“有名精神科医”が不同意性交の疑いで7回目の逮捕…20年にわたり犯罪を繰り返してきた激ヤバ医師の「数々の悪行」(現代ビジネス) 6) なぜ6回逮捕でも医師免許は剥奪されないのか…女性患者を襲い続けた歌舞伎町の精神科医を守る「歪んだ制度」の正体(同)

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第288回 患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省

<先週の動き> 1.患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省 2.新たな地域医療構想、2040年を見据えて急性期集約と外来偏在対策を加速/厚労省 3.人材紹介料が医療経営を圧迫 厚労省に上限規制を要請/日医・四病協 4.紹介状が「全国で閲覧可能」に 医療・介護連携DXを加速/厚労省 5.原油高が医療崩壊リスクに 資材不足と経営悪化で緊急要望/保団連 6.手術中に麻酔科医が不在30分 薬剤抜き取り・自己使用で懲戒免職/川崎市 1.患者減少が迫る構造転換、小児医療は県境越えて連携へ/厚労省厚生労働省は、3月26日に「小児がん拠点病院等の指定要件に関するワーキンググループ」を開き、少子化と専門医不足のため、小児医療の提供体制を都道府県単位から広域連携へ転換する方針を明らかにした。小児の集中治療や心臓手術など高度医療は症例減少により各都道府県単独での維持が困難となっており、県外搬送や遠隔相談を前提とした体制整備、財政支援、将来的な集約化を検討する。これらの政策は第9次医療計画への反映が見込まれ、医師不足地域では他科医との連携やオンライン診療、小児科医派遣による維持策も示された。小児がん領域でも体制見直しが進む。高度治療や研究開発を担う拠点病院は集約化しつつ、全都道府県に標準治療を提供する「県拠点病院」を新設、さらに連携医療機関を整備する三層構造へ再編する。症例数減少と分散、ドラッグ・ラグ、アクセス格差が背景にあり、質とアクセスの両立を図る。2027年から新体制が開始される予定。その一方で、人口減少は医療提供体制全体に影響を及ぼす構造問題として顕在化しており、人口減少問題を議論する「未来を選択する会議」の白書では社会保障費増大やインフラ維持への危機感が8割超に達し、出生減少の要因として経済負担や性別役割意識の影響が指摘された。人口減少は、地域差・世代差を伴いながらも全国各地で進行しており、医療政策も広域化・集約化とともに社会制度改革と不可分の課題となっている。 参考 1) 小児がん拠点病院等について(厚労省) 2) 今後の小児がん拠点病院等の指定の考え方について(同) 3) 小児医療、県またぎ連携 厚労省、心臓手術など 少子化や専門医不足で(日経新聞) 4) 小児がん診療体制を大きく見直し、「拠点病院の集約化」とともに「全都道府県に県拠点病院を指定」へ-小児がん拠点病院指定要件WG(Gem Med) 5) 人口減少問題 有識者団体が報告書 “社会経済全般の改革必要”(NHK) 6) 人口減に50歳以上の7割が「危機感」、未来選択会議が初の「人口問題白書」…少子化対策のヒントも(読売新聞) 7) 民間組織「未来を選択する会議」が人口問題白書を発行、人口減見据え(朝日新聞) 8) 人口問題白書2025(未来を選択する会議) 2.新たな地域医療構想、2040年を見据えて急性期集約と外来偏在対策を加速/厚労省厚生労働省は、3月26日に社会保障審議会医療部会を開き、2040年を見据えた新たな地域医療構想のガイドラインを4月中に公表し、都道府県は2026~28年度に新構想を策定することを明らかにした。構想区域は「人口20万人以上」を基本としつつ、地域の実情に応じ柔軟に設定。区域内では医療機関の機能分担や病床再編を協議し、急性期拠点機能は人口20~30万人に1ヵ所を目安に集約化を進める方向である。社会保障審議会での議論では、ガイドラインはあくまで参考とし、地域実情を優先すべきとの意見や、老朽病院の建て替え支援、都道府県への技術的・財政的支援を求める声が相次いだ。あわせて外来医師偏在対策も具体化し、外来医師過多区域で2026年10月以降に新設される無床診療所について、地域で不足する医療機能の提供状況や要請・勧告の有無を「医療情報ネット(ナビイ)」で公表する方針が了承された。スマホ対応マイナ保険証、RSウイルスワクチン、指定難病対応などの情報も追加される。その一方で、「要請・勧告といったネガティブ情報の公開は制度趣旨とずれる」「不公平を生む」との慎重論も出た。医療機関の定期報告率は全国平均72.4%だが、都道府県差が大きく、入力負担軽減と周知徹底が課題とされた。今後、オンライン診療受診施設の広告規制や不適切広告対策の強化も進められ、外来・在宅・介護連携まで含めた医療提供体制の再構築が本格化する。 参考 1) 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会とりまとめについて(厚労省) 2) 地域医療構想「人口20万人以上」 40年見据えガイドライン骨子 厚労省(時事通信) 3) 新地域医療構想等のガイドライン、医療部会意見も踏まえて「2026年4月中」に作成・公表、急性期機能等の集約化を地域で推進(Gem Med) 4) 地域医療構想策定ガイドラインは4月に 社保審・医療部会(CB news) 5) 全国の医療機関情報掲載する「ナビイ」に外来医師過多区域での医療機能提供などの情報も公表-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med) 3.人材紹介料が医療経営を圧迫 厚労省に上限規制を要請/日医・四病協3月24日に日本医師会と四病院団体協議会は、医療・介護分野の人材紹介サービスの適正化に向け、紹介手数料の上限規制導入や返戻金制度の義務化を求める要望書を上野 賢一郎厚生労働大臣に提出した。背景には、近年の人材紹介手数料の高騰と早期離職の増加があり、医療機関の経営を圧迫している実態がある。とくに紹介手数料の総額は2023年度に1,000億円を超え、その多くが公的医療保険を原資として支払われている点が問題視されている。医療機関にとっては、診療報酬が公定価格という環境で、採用コストを価格転嫁できず、地方や中小医療機関ほど影響が大きく、地域医療提供体制の持続性にも関わる課題となっている。さらに医療・介護分野では入職後6ヵ月以内の早期離職が多く、採用のたびに高額手数料が発生する構造が経営リスクを増幅させている。要望では、早期離職時の返戻金制度を義務化し、その水準を標準化することで、紹介会社にも一定の責任を負わせる仕組みを提案した。ただし、返戻期間の単純延長では離職の後ろ倒しを招く可能性もあり、実効性ある設計が必要とされる。また、離職実態の可視化として6ヵ月超1年以内の離職データ報告義務化や、求職者が紹介手数料の実額を把握できる仕組みの導入も求めた。加えて、ハローワークやナースセンターなど無料職業紹介の活用促進も提言。民間紹介への依存が進めば人材の都市部集中や地域偏在が加速する懸念がある。これら一連の提言は、単なるコスト問題にとどまらず、人材確保と医療提供体制の持続性に直結する構造課題への対応を求めるもの。厚生労働省では、まず実態把握を進める姿勢を示しており、今後の制度設計が医療経営に与える影響は大きい。 参考 1) 高額な紹介手数料、「原資は公的医療保険」と指摘 日医会長が問題視、緊急対応を要望(CB news) 2) 医療・介護の人材紹介手数料に上限規制を 医師会と病院団体、上野厚労相へ要望書(Joint) 3) 有料職業紹介事業の適正化とハローワークの機能強化に関する要望書(四病院団体協議会・日本医師会) 4) 有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書~医療分野における人材確保と有料職業紹介事業等の適正化に向けた提言~(同) 4.紹介状が「全国で閲覧可能」に 医療・介護連携DXを加速/厚労省厚生労働省は、3月18日に「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループと介護情報利活用ワーキンググループの合同会議を開催し、医療と介護の情報連携を強化するため、「全国医療情報プラットフォーム(PF)」を活用し、診療情報提供書や訪問看護指示書・計画書・報告書を医療・介護関係者間で共有する方針を示した。これまで医療分野では電子カルテ情報共有サービス、介護分野では介護情報基盤の整備が進められてきたが、両分野をまたぐ情報共有の具体像は整理されていなかった。今回、標準様式が存在する文書から連携を開始し、将来的にはリハビリ計画書や入退院情報などへ拡大する方向で検討を進める。電子カルテ情報共有サービスでは、診療情報提供書や退院時サマリーなどの「3文書6情報」を全国で共有できるものとし、2027年初頭の本格運用が見込まれる。その一方で、介護情報基盤も要介護認定情報やLIFEデータ、ケアプランなどの共有を2026年度から段階的に開始する予定であり、両基盤を接続することで多職種連携の高度化が期待される。背景には、高齢化の進展に伴い医療と介護の複合ニーズを持つ患者が増加している現状がある。情報連携により入退院時の引き継ぎや在宅療養支援の質向上、災害時対応の強化などが見込まれる一方で、同意取得の在り方や情報セキュリティ、介護側のICT環境整備、標準化の難しさなど課題も多い。とくに介護情報は生活背景や主観的評価を含むため、医療情報との整合性確保が重要となる。今後、合同ワーキンググループでは、詳細設計を進め、2026年夏に開発方針を取りまとめる予定。医療・介護の分断を埋める基盤整備は、地域包括ケアの実効性を左右する鍵となる。 参考 1) 「全国医療情報プラットフォーム」における医療介護連携の進め方について(厚労省) 2) 健康・医療・介護情報利活用検討会 第30回医療等情報利活用ワーキンググループ、及び第10回介護情報利活用ワーキンググループ資料について(同) 3) 医療と介護の情報共有、診療情報提供書などから 全国医療情報プラットフォームで 厚労省案(CB news) 4) 医療・介護連携を「情報面」からも進めるため、まず【診療情報提供書】【訪問看護指示書・計画書・報告書】の電子的共有を検討(Gem Med) 5.原油高が医療崩壊リスクに 資材不足と経営悪化で緊急要望/保団連中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の急騰を受け、全国保険医団体連合会(保団連)は政府に対し、医療資材の供給確保と財政支援を求める緊急要望書を提出した。背景には、イランを巡る中東情勢の悪化とホルムズ海峡の機能不全による世界的な原油供給不安があり、医療現場にも直接的な影響が及び始めている。医療用ガウンやグローブ、注射器、点滴バッグ、カテーテルなど、原油由来のプラスチック製品を中心にコスト上昇と供給不安が顕在化しており、基礎的医薬品を含めた医療資材の不足は診療継続そのものに直結するリスクとなる。加えて、在宅医療では燃料費の上昇が訪問コストを押し上げ、結果として患者負担の増加につながる可能性も指摘される。医療機関の経営面でも、光熱費や材料費の高騰が収益を圧迫しており、2026年度診療報酬改定で盛り込まれた物価対応分(+0.76%)は今回の急激な原油高を想定したものではなく、十分な対応とは言えないとの批判がある。さらに改定施行が6月である点も、足元の急激なコスト上昇への対応としては遅いとされる。こうした状況を踏まえ、保団連は医療資材および基礎的医薬品の国内在庫確保と安定供給、診療報酬の期中改定や補助金の拡充による即時的な財政支援を要請した。医療機関が機能不全に陥る前の早期対応を求める内容であり、原油高は単なるコスト問題を超え、地域医療の持続性を揺るがす構造リスクとして顕在化している。今後の政策対応は、医療経営の安定のみならず、患者アクセス維持の観点からも重要な局面を迎えている。 参考 1) 【要望】原油価格高騰に伴う医療資材の不足等への緊急対応を(保団連) 2) 「原油急騰で機能不全に陥る前に…」医師団体が政府に緊急の要望書 医療資材の在庫確保など求める(弁護士JPニュース) 6.手術中に麻酔科医が不在30分 薬剤抜き取り・自己使用で懲戒免職/川崎市川崎市立川崎病院は、麻酔薬を自己使用し患者への投与量を改変したとして、28歳の麻酔科医を懲戒免職とした。医師は不眠に悩み、「麻酔で眠る患者を見て自分も眠りたかった」と供述している。事件は2025年12月、手術中に無断で手術室を離れ、麻酔薬プロポフォールを自己注射したことに始まる。この間、約30分間にわたり麻酔科医不在の状態で手術が継続され、後に別の医師が対応した。さらに2026年1月の復職後、患者に使用予定の麻酔薬から一部を抜き取り、自身の使用目的で持ち去ろうとした上、生理食塩水で希釈した薬剤を患者に投与する不正行為が発覚した。翌日にも同様の行為を試みたが看護師が発見し、事態が明るみになった。患者への健康被害は確認されていないものの、医療安全および倫理の観点から重大な問題と判断され、病院は懲戒免職とともに窃盗容疑で警察に被害届を提出した。この事件により、病院の薬剤管理体制の脆弱性のみならず、医師の健康管理や勤務環境の問題も浮き彫りにした。長時間手術や慢性的な睡眠不足の中で、適切なサポート体制が機能していたかが問われる。医療機関における薬剤管理、職員のメンタルヘルス対策および医療安全体制の再点検が求められる事案といえる。 参考 1) 「不眠に悩み」患者の麻酔薬一部持ち去り自己注射 28歳医師処分(毎日新聞) 2) 不眠に悩む麻酔科医「患者にこんなに効くなら…」抜き取って自分に注射、患者には薄めて 川崎市立病院、懲戒免職(東京新聞) 3) 手術室離れて麻酔薬を自分に注射 「少しでも寝たかった」医師を免職(朝日新聞)

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第287回 医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省

<先週の動き> 1.医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省 2.はしか患者100人超、若年層中心に増加、感染拡大に警戒/厚労省 3.移植医療を集約化と体制強化、報酬を4倍加算、逼迫した現場を支援/厚労省 4.「新たな地域医療構想」機能選択で病院の再編・集約本格化/厚労省 5.2027年度専攻医シーリング決定、偏在是正へ都道府県連携強化/厚労省 6.薬剤アレルギー既往見落としで死亡事故が発生、市民病院を提訴/愛知県 1.医師国試合格率91.6%と低下、新卒合格者も9千人割れ/厚労省厚生労働省は2026年3月16日、第120回医師国家試験の合格者を発表した。受験者9,980人のうち合格者は9,139人で、合格率は91.6%と前回から0.7ポイント低下した。合格者数は前年より347人減少し、とりわけ新卒合格者は8,716人(合格率94.7%)と313人減少となり、3年ぶりに9,000人を下回った。医師供給動向に変化が生じている可能性が示唆される。試験は2026年2月に実施され、合格基準は必修問題で200点満点中160点以上、一般・臨床問題で300点満点中224点以上、禁忌肢3問以下とされた。近年と同様の基準であるが、合格率の微減と新卒者数の減少が今回の特徴となっている。大学別では、自治医科大学が新卒・既卒ともに合格率100%を達成したほか、北海道大学、京都大学も新卒で100%を記録した。平均合格率は国立93.0%、公立93.5%、私立92.5%と大きな差はないものの、既卒者を含むその他区分では54.8%と低水準にとどまった。男女別では女性92.4%、男性91.1%と女性が上回った。合格者数はコロナ禍以降、回復傾向にあったが、今回の減少は医学生数の変動や受験動向の影響が考えられる。医師偏在や地域医療構想の議論が進む中、今後の医師供給の量と質のバランスが一層重要となる。とくに新卒者数の減少は初期研修医確保にも影響を与える可能性があり、今後もこの傾向が続けば、各医療機関や自治体にとっても注視すべき事態となる。 参考 1)第120回医師国家試験の合格発表について(厚労省) 2)第120回医師国家試験の学校別合格者状況(同) 3)第120回医師国家試験合格者の状況(大学別合格者数)-9,139人が合格、合格率は91.6%(医事新報) 4)医師国家試験、合格率91.6%-新卒合格者は3年ぶりに9千人下回る(CB news) 5)2026年医師国家試験大学別合格率…合格率100%は自治医科大学(リセマム) 2.はしか患者100人超、若年層中心に増加、感染拡大に警戒/厚労省国内の麻疹(はしか)報告数が増加し、厚生労働省は注意喚起を強めている。2026年第9週までの累計報告数は87例、第10週時点では100例に達し、新型コロナ禍以降で最多となった。前年同期の22例を大きく上回る水準で、感染拡大の兆しがみられる。近年、わが国では土着株による感染は確認されておらず、2015年には世界保健機関(WHO)から排除状態と認定されている。現在の流行は、海外から持ち込まれたウイルスを起点に、国内で2次感染が広がる構図となっている。事例として、愛知県の高校での集団感染をはじめ、各地で散発的な発生が報告されており、都市部を中心に感染が拡大している。患者の約7割は10~30代で、ワクチン接種歴の不十分な層の影響が示唆されている。麻疹は空気感染を起こす極めて感染力の高い疾患であり、同一空間にいるだけで感染する可能性がある。発熱、咳、鼻水に続き発疹を呈し、重症例では脳炎を合併するリスクもある。その一方で、予防の柱であるMRワクチンの接種率は低下傾向にある。2024年度の接種率は1期92.7%、2期91.0%と、目標の95%を下回った。コロナ禍以降の接種控えが影響しているとみられ、集団免疫の維持に懸念が生じている。厚労省は、渡航前の接種歴確認や帰国後の健康観察を呼びかけるとともに、疑わしい症状がある場合は事前連絡のうえ医療機関を受診するよう求めている。感染再拡大を防ぐには、早期診断とワクチン接種率の回復が急務である。 参考 1)麻疹報告数、コロナ禍以降最多 厚労省が注意喚起(MEDIFAX) 2)はしか患者数、2026年累計100人に 25年同期22人を上回る(日経新聞) 3)感染症発生動向調査週報 2026年第9週第9号(国立健康危機管理研究機構) 3.移植医療を集約化と体制強化、報酬を4倍加算、逼迫した現場を支援/厚労省厚生労働省は、脳死下臓器提供の増加を背景に、移植医療の集約化と体制強化に舵を切った。今回の診療報酬改定で、多くの移植手術を担う施設を「拠点病院」として位置付け、人的・設備面の支援を検討する方針を打ち出している。臓器提供数は近年増加し、2025年には150例を超えたが、心臓や肺、肝臓など複数臓器の同時対応が求められるため、実施可能な施設は一部大学病院に限られている。その一方で、突発的な手術対応により手術室や看護師の確保が困難となり、受け入れ断念例も生じている。こうした現場の逼迫は深刻で、東京大学病院では移植件数が年間100例を超える中、ICUベッドに余裕があっても人員不足で受け入れられない状況や、病院経営への負担が指摘されている。実際、移植医療は従来、手術準備や人員確保のコストが大きく、病院側の持ち出しが問題となっていた。このため2026年度診療報酬改定では、臓器移植実施体制確保加算が新設され、手術料の実質4倍相当の評価が行われる。大学病院の試算では、従来は肺移植1例当たり約400万円の赤字だったが、新加算によりほぼ解消可能とされる。また、ドナーコーディネーターの業務も評価対象とし、院内での同意取得体制強化を促す。背景には、体制不足により移植を受けられなかった患者が2024年に延べ662人に上った現状がある。国立大学病院全体でも今回の改定により年間443億円の増収が見込まれ、赤字解消に寄与すると評価されている。しかし、紹介・逆紹介要件の厳格化による減収も予測され、経営改善には引き続き対応が求められる。移植医療は高度化・集約化が不可避な領域であり、今後は拠点化と財政支援を軸に、持続可能な提供体制の構築が問われる局面に入ったと言える。 参考 1)臓器移植支援へ一部病院を拠点化 厚労省、東大病院「経営苦しく」(朝日新聞) 2)脳死者の臓器移植に診療報酬加算へ…ドナーコーディネーターの働きも評価、報酬を手厚く(読売新聞) 3)国立大学病院長会議 26年度診療報酬改定年間443億円増収で赤字解消へ 外科医療確保や臓器移植加算を評価(ミクスオンライン) 4.「新たな地域医療構想」機能選択で病院の再編・集約本格化/厚労省厚生労働省は、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」のとりまとめ案を示し、2028年度末までに各医療機関の「主たる機能」を明確化する方針を打ち出した。従来の病床機能報告に加え、新たに医療機関機能報告を導入し、各病院が担う役割を整理することで、再編・集約化と病床削減を一層進める構えである。新構想では、「医療機関の機能を急性期拠点」「高齢者救急・地域急性期」「在宅医療等連携」「専門等機能」の4区分に整理し、各施設が2040年に向けて担う機能を選択・報告する。複数機能の併存は認めつつも、急性期拠点については手術件数や救急対応などの実績要件を設け、実質的に高度急性期病院の集約を図る。人口20~30万人に1施設程度とする考え方が示され、全国では400~600施設に集約される見通しである。また、人口減少地域では構想区域の広域化を求め、より広い圏域で医療資源を維持する方向性も示された。その一方で、急性期以外の救急医療や夜間手術機能についても集約が検討されており、地域によってはアクセス低下への懸念が指摘されている。病床数の算定では、在宅医療の強化や早期リハビリによる在院日数短縮、医療DXによる効率化を前提に必要病床数を低く見積もる仕組みが採用される。急性期病床の稼働率も78%から84%へ引き上げられ、将来的な病床削減圧力が強まる見通しである。さらに、リハビリテーションでは、入院から在宅までの連続的な提供体制を支える「地域インフラ」として位置付けられ、栄養管理や口腔ケアとの一体的な取り組みも明記された。2026年10月からの機能報告を経て、各都道府県が調整を行い、医療機関ごとの役割分担が具体化する。医療提供体制の再構築が本格化する中、地域医療への影響が注視される。 参考 1)新たな地域医療構想に関するとりまとめ(厚労省) 2)新たな地域医療構想とりまとめ案 28年度末までに病院の「主な機能」を決定(保団連) 3)「新たな地域医療構想」とりまとめを了承、リハビリテーションは「地域のインフラ」へ(PT-OT-ST.NET) 5.2027年度専攻医シーリング決定、偏在是正へ都道府県連携強化/厚労省厚生労働省は、2026年3月18日に開催した「医道審議会医師専門研修部会」で、2027年度に専門研修を開始する専攻医の採用上限、いわゆるシーリング数案を了承した。新たに加算対象となった都道府県診療科から提出された指導医派遣実績を踏まえ、日本専門医機構が算定したもので、委員から大きな異論は出なかった。今後、6月下旬以降に都道府県へプログラム情報を提供し、各都道府県知事の意見や厚生労働大臣の要請を反映した修正を経て、11月の募集開始を予定している。今回のシーリングでは、最新の必要医師数と足下の医師数を用いて対象都道府県を設定し、特別地域連携プログラムと都道府県限定の連携プログラムを統合した点に特徴がある。特別地域連携プログラムの受け入れ可能数は全領域で採用上限を上回り、地域偏在是正に向けた受け皿整備は一定程度進んだ。その一方で、通常プログラム加算は実績に応じて付与されるが、加算上限を下回る領域もあり、制度運用はなお調整段階にある。あわせて部会では、2040年を見据えた医療需要の変化に対応する専門医養成も論点となった。85歳以上人口の増加、高齢者救急の拡大、生産年齢人口の減少を踏まえ、各基本領域学会に対し、将来重要となる疾患や患者像、専門医制度上の課題を尋ねるアンケート調査を実施する方針が示された。専攻医以降のキャリアチェンジやリカレント教育の必要性も指摘された。さらに、医師偏在対策では都道府県、大学医学部、大学病院の連携強化が不可欠とされた。地域枠、広域連携型臨床研修、専門研修連携プログラム、総合診療医育成などを医師確保計画に明確に位置付け、地域定着を後押しする方向で議論が進む。専攻医シーリングは、単なる採用枠調整にとどまらず、地域医療を支える医師養成全体を再設計する局面に入った。 参考 1)令和7年度第5回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省) 2)2027年度の専攻医シーリング数が決定、募集開始に向けた調整進む(日経メディカル) 3)医師偏在是正策の強化に向け「都道府県・大学医学部・大学病院の連携」をこれまで以上に強化せよ-医師偏在対策検討会(Gem Med) 6.薬剤アレルギー既往見落としで死亡事故が発生、市民病院を提訴/愛知県愛知県の西尾市民病院で診療を受けた70代女性が、薬剤アレルギー既往のある薬を処方・服用後に死亡したとして、遺族が市と調剤薬局を相手取り約2,541万円の損害賠償を求め提訴した。訴状によれば、女性は2025年2月に受診し、処方箋を受け取り、院外薬局で調剤された薬剤を服用後、約41日後に死亡した。遺族側では、医療機関はアレルギー既往歴を把握可能であったにもかかわらず看過したと主張している。その一方で、市側はアレルギー薬剤の処方自体は認めつつも、死亡との因果関係には争いがあるとしている。この事件は単なる確認漏れが原因ではなく、電子カルテおよびオーダリングシステムにおけるアレルギー情報の管理・共有体制が問題の根幹にある。日本医療機能評価機構は、医療安全情報の分析レポートで、アレルギー情報が「登録されているが参照されない」「画面上で視認性が低い」「更新が不十分」といった要因により、処方時に活用されない事例が発生していることを繰り返し指摘している。また、院内で把握されていた情報が院外薬局に十分伝達されないケースや、薬局側での最終確認が機能しなかった事例も報告されている。院外処方が一般化してから、医療機関と薬局の間の情報連携不足は構造的リスクとなっており、患者申告に依存した運用には限界がある。電子カルテ上のアレルギー情報については、入力の標準化、警告アラートの強化、処方時の確認が不可欠である。このためマイナ保険証の活用のほか、2重3重のチェック体制をどのように実効性ある形で運用するかが問われている。今回の訴訟は、医療安全について「情報があること」と「実際に使われること」の乖離を改めて浮き彫りにした。現場での確認フローの見直しなど再発防止策が求められる。 参考 1)「薬のアレルギーで死亡」70代女性遺族、愛知県西尾市などを提訴(中日新聞) 2)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有に関連した事例(日本医療機能評価機構) 3)電子カルテ・オーダリングシステムを用いた薬剤アレルギーの情報共有に関連した事例(日本医療機能評価機構)

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第305回 約40年ぶりに労働基準法改正へ、日本でも“ある権利”が導入か?

INDEX水面下で進行していた法改正改正案に盛り込まれる予定の制度・権利とは企業でも導入が進まない対策フランスで2017年に導入、従業員を守る権利水面下で進行していた法改正2026年診療報酬改定は、2024年末に公表された「新たな地域医療構想のあり方検討会」のとりまとめ内容をかなり強力に推進した形になったのは、大方の関係者が認識していることだろう。これまでの2025年に向けた地域医療構想は、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者入りすることを前提に病床単位での機能分化と在宅医療の充実と医療・介護連携を意識した内容だった。しかし、前出のとりまとめは、少子高齢化による生産年齢人口の減少の深刻化と85歳以上の高齢者の増加が顕著になる2040年頃を念頭に、地域ごとに病院機能に着目した再編を目指している。また、新たな地域医療構想のもう1つの特徴は、生産年齢人口の減少に伴い減少が予想されている医療者確保とそれを補完する医療DX推進を強く打ち出している点だ。かつてと違い、昨今の若年層の医療者は使命感だけで業務をしてくれないのは、おそらく医療関係者の多くが痛いほど感じているだろう。このことは診療報酬でわざわざベースアップ評価料を創設しなければならなくなったことからも半ば明らかと言える。さらに業種を問わず、職場環境整備などの働き方改革が進んでいることは、もはや周知のことであり、医療者も無縁ではいられない。2024年にスタートした医師の働き方改革に伴う医療法改正では、医師の時間外労働について医療機関の区分に応じて上限が定められ、医療法施行規則では日勤・宿日直許可のある当直では9時間(宿日直許可のない当直では18時間)の勤務間インターバル制が努力義務として例示された。こうした規制強化への対応に現場は四苦八苦していると思うが、実はよりいっそうの働き方改革が水面下で進行中であることは意外と知られていないようだ。それが2025年1月から厚生労働省の労働政策審議会で議論されてきた約40年ぶりの労働基準法改正である。改正案に盛り込まれる予定の制度・権利とは当初の予定では、改正法案は今年1月の通常国会に提出され、2026年中に成立・施行される予定だったが、自民党総裁に選出された際に「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」の名言を発した高市 早苗氏が2025年10月に首相に就任し、裁量労働制の適用拡大など労働時間規制の緩和に向けた検討を指示したことで、国会への提出は見送られている。実はこの改正案に盛り込まれると見込まれていたのが「勤務間インターバル制度」の義務化と「つながらない権利」の明文化である。老婆心ながら「勤務間インターバル制度」を改めて説明すると、「終業時刻」から「次の始業時刻」までの間に、一定時間以上の「休息時間(インターバル)」を設ける仕組みだ。前出の医師の働き方改革では、9時間と定められたが、国際標準のインターバル時間は11時間である。11時間の場合、たとえば夜の22時に業務が終了した労働者は、翌朝の9時までは次の業務を開始してはいけないことになる。この制度の起源は、1993年に欧州連合(EU)で採択された「EU労働時間指令」にある。同指令では、労働者の健康と安全を守るため、長時間労働や休息不足の防止を目的にEU加盟国に対し、「24時間につき最低連続11時間の休息(勤務間インターバル)」の確保を義務付けた。11時間の根拠は「24時間-法定労働時間8時間-休憩1時間=15時間」の中から、通勤や睡眠、私生活の時間を逆算して導き出された数字と言われている。これを受けて、ヨーロッパ各国は1990年代後半から2000年代にかけて次々と国内法を整備した。具体例としては1994年に施行したドイツの「労働時間法」、1998年に成立したフランスの「労働時間短縮指導・奨励法(第一次法)*」などだ(表)。ちなみにドイツでは、病院勤務医師の場合、雇用主との協定締結により10時間への短縮は認められている。*通称・オブリー第1法:オブリーは当時のフランスの雇用・連帯大臣を務めたマルティーヌ・オブリー氏が語源(表)日本と欧州における労働時間・勤務間インターバルの法整備画像を拡大するこのことを踏まえ日本でも導入に向けた議論が進められ、2019年4月施行の働き方改革関連法、具体的には「労働時間等設定改善法」がすべての事業主への努力義務として初めて同制度を明記した。現時点ではあくまで努力義務にとどまるため罰則はなく、厚生労働省は過労死防止や健康確保の観点から、導入を推奨している。企業でも導入が進まない対策また、「過労死等防止対策推進法」に基づいて3年ごとに変更されている「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、2021年に閣議決定された2回目の変更で、2025年までに同制度を知らなかった企業割合を5%未満、導入している企業割合を15%以上とする数値目標を盛り込んだ。しかし、同省の2025年就労条件総合調査の結果では、導入している企業はわずか6.9%にとどまり、導入予定がなく検討もしていない企業が78.7%となり、大綱で示した数値目標は未達に終わっている。同調査では導入予定も検討もしていない企業に理由(複数選択回答)を尋ねたところ、上位3つは以下のようになった。「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」(57.3%)「当該制度を知らなかったため」(19.9%)「人員不足や仕事量が多いことから、当該制度を導入すると業務に支障が生じるため」(9.7%)おそらく医療者の場合、3番手の理由には納得するだろうが、トップの理由については「マジか」というのが本音だろう。そもそも前出の医師の勤務間インターバル制度の努力義務とて宿直を業務時間としない扱いで何とかクリアしているかどうかが実態ではないだろうか?ちなみに看護職員を対象とした日本医療労働組合連合会の「2025年度夜勤実態調査」(回収数:324施設、2,472職場、看護職員9万153人)によると、勤務間インターバル協定が「有」(19.9%)、勤務間インターバルが「8時間未満」(39.1%)というのが実態だ。フランスで2017年に導入、従業員を守る権利一方の「つながらない権利」は勤務時間外・休日の業務連絡対応拒否とそれによる業務上の不利益を受けないことを保証する権利である。同権利は2017年1月に施行されたフランスの改正労働法(通称:エル・コムリ法)で初めて定められた。発端は医薬品・医療機器メーカー世界大手のジョンソン&ジョンソン(以下、J&J)のフランス法人の対応。当時のJ&Jフランス法人では、デジタル技術の普及で帰宅後や休日に上司・顧客からメールが届くことを強いられる社員のストレス増大と燃え尽き症候群が経営上のリスクと認識され、2015年7月から「22時〜8時のメール禁止」「緊急時の定義の明確化」「マネジメント層の意識改革の研修」という独自の社内規定を導入した。これを好事例と捉えた当時のミリアム・エル・コムリ労働相が旗振り役となって法令で明記された。同法では、(1)従業員50人以上の事業者でデジタル機器使用ルールの労使間協議の実施、(2)連絡を控えるケースなどのガイドライン作成、を義務付けている。(1)については、労働組合がない事業者の場合、従業員の意見を聞きながら雇用主が独自の憲章などを定める。要は各事業者に判断を委ねているため罰則規定はないが、労使間協議で決められた同権利を守るためのルールや憲章は、官報に加え、各事業者のホームページなどにも掲載されるという徹底ぶりだ。該当する従業員50人以上の事業所でガイドライン作成をしていない場合は行政指導が行われる。ちなみにフランスの場合、医療従事者も含め同権利の保障対象である。そもそも、個人主義が古くから根付いているといわれるフランスでは、エル・コムリ法成立以前に日本の最高裁判所に当たる破棄院(破毀院)が、オンコール担当外の医師や勤務時間外の救急車運転手が電話を受けずに処分されたことを法的に無効と判断している。このように海外の事例について触れると、「それはあくまで海外の事例」との声も聞こえてきそうだ。だが、この時期にあえてこのことを取り上げるのは、微細に区分されたベースアップ評価料の取得区分だけに注力していると、この先、思わぬ方向からの巨大な落石による“被害”に遭いかねないからである。

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第285回 診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省

<先週の動き> 1.診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省 2.MMRワクチン承認へ、麻疹再拡大で接種体制強化が課題に/厚労省 3.急性期病院の要件厳格化 救急・手術実績で拠点化進める/厚労省 4.医師偏在対策が次の段階へ 地域医療構想と医師養成を一体で見直し/厚労省 5.社会保険料抑制へ制度改革 OTC類似薬と高額療養費が焦点/政府 6.美容クリニックの再生医療で訴訟相次ぐ 安全性と説明責任が焦点に 1.診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省厚生労働省は、医道審議会医道分科会の専門部会で、医療機関が看板や広告で掲げる診療科名に「睡眠障害」を追加することを了承した。診療科名の見直しは2008年以来で、政令改正を経て、今春にも施行される見通し。医療機関は「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」など、既存の基本診療科名と組み合わせた形で標榜できるようになる。診療科名は医療法に基づき規制されており、医療機関が自由に名乗ることはできない。現在は「内科」「外科」「小児科」など約20の基本診療科名に加え、「糖尿病」「腫瘍」など疾患名や臓器名を組み合わせる形で標榜が認められている。今回の見直しで「睡眠障害」もこの組み合わせ名称の1つとして追加される。背景には、睡眠に関する医療ニーズの拡大がある。不眠症や睡眠時無呼吸症候群、過眠症など睡眠障害は多様で、成人の約5人に1人が何らかの睡眠問題を抱えるとされる。その一方で、どの診療科を受診すればよいか、わかりにくいことから受診が遅れるケースも多いとされ、日本睡眠学会が診療科名の追加を要望していた。睡眠障害の診療は内科、精神科、耳鼻咽喉科など複数の領域にまたがる。精神科受診への心理的抵抗から適切な診療につながるまで時間を要する例もあり、診療科名として明示することで受診先の選択が容易になり、早期診断や治療につながることが期待されている。一方、制度上は専門資格がなくても「睡眠障害科」を標榜できるため、専門性を伴わない医療機関が患者集めを目的に掲げる可能性も指摘されている。睡眠障害治療では、睡眠薬の長期使用による依存や離脱症状の問題もあり、専門的な診断や治療体制の整備が課題とされる。日本睡眠学会の専門医は約660人にとどまり、地域偏在も大きい。診療科名の追加を契機に、専門医育成や診療体制整備をどう進めるかが今後の課題となる。 参考 1) 第8回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会(厚労省) 2) 病院の診療科名に「睡眠障害」追加 厚労省部会が了承(日経新聞) 3) 「睡眠障害」の診療科名追加を了承、今春にも導入…通院先選びの利便性向上期待(読売新聞) 4) 「睡眠障害」診療科名に追加へ、受診の目印に 08年以来の見直し(朝日新聞) 2.MMRワクチン承認へ、麻疹再拡大で接種体制強化が課題に/厚労省厚生労働省は3月2日に開かれた薬事審議会医薬品第二部会で、麻疹(はしか)、おたふくかぜ、風疹を防ぐ3種混合ワクチン(MMRワクチン)の製造販売承認を了承した。開発した第一三共の製品「ミムリット皮下注用」が正式に承認されれば、わが国で使用可能なMMRワクチンは約30年ぶりとなる。今後、定期接種に組み込むかどうかの検討が進められる。わが国では1989年にMMRワクチンが導入されたが、おたふく風邪成分に関連した無菌性髄膜炎の報告が相次ぎ、1993年に使用が中止された経緯がある。今回のワクチンは、無菌性髄膜炎の発生頻度が極めて低い株を使用しており、臨床試験でも重大な副作用は確認されていないとされる。海外では100以上の国・地域でMMRワクチンが定期接種として導入されており、わが国でも接種回数の減少など接種体制の効率化が期待される。その一方で、麻疹の感染は国内外で拡大の兆しを見せている。国内では愛知県で高校を中心に感染が広がり、2026年に入ってすでに20例以上の感染が確認された。東京都や埼玉県、神奈川県、岐阜県、鹿児島県などでも散発的な患者が報告され、医療機関や商業施設で不特定多数と接触した可能性のある事例も相次いでいる。海外渡航歴のない患者も複数確認されており、地域内感染の可能性も指摘されている。麻疹は、空気感染で感染する極めて感染力の強いウイルス感染症で、発熱や咳、結膜充血などの症状の後に高熱と発疹が出現する。肺炎や脳炎を合併すると重症化することがあり、ワクチン接種が最も有効な予防策とされる。海外でも流行は深刻化している。米国では、今年に入り約2ヵ月で1,100例以上の感染が報告され、前年の年間患者数を上回る可能性が指摘されている。患者の大半はMMRワクチン未接種、または2回接種を完了していない人だった。米疾病対策センター(CDC)はワクチン接種を改めて呼びかけている。国内でのMMRワクチン承認は、麻疹対策の強化に向けた制度的転換となる可能性がある。麻疹排除状態の維持には、2回接種率の向上とともに、集団免疫を維持するためのワクチン政策の整備が重要となりそうだ。 参考 1) 新薬等15製品が承認へ 第一三共のMMRワクチン・ミムリットなど 薬事審・第二部会が了承(ミクスオンライン) 2) 麻疹・おたふく・風疹の3種混合ワクチン承認へ…かつて報告された無菌性髄膜炎の発生頻度、極めて少なく(読売新聞) 3) はしか感染の20歳代男性、2月21日に日本医科大付属病院で不特定多数と接触か…東京都が注意呼びかけ(同) 4) 愛知県内で新たに2人が「はしか」に感染(NHK) 5) 米はしか感染 2カ月で1、100人 高水準だった去年の年間2,300人を上回る見通し(東日本放送) 6) 米CDC所長代理、はしかワクチン接種呼びかけ(ロイター) 3.急性期病院の要件厳格化 救急・手術実績で拠点化進める/厚労省令和8(2026)年度の診療報酬改定の詳細が明らかになってきた。今回の改定では、急性期入院医療の評価軸が「病棟単位」から「病院全体の急性期機能」へと変更され、実質的に急性期の担い手は急性期A、看護・多職種協働加算を組み合わせた急性期B、急性期1、同様の急性期4に集約される流れが強まった。厚生労働省は、3月5日に「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」として通知を発出し、その中で急性期病院Bの実績要件として救急搬送1,500件以上、または500件以上+全麻手術500件以上などを示し、さらに急性期総合体制加算では、総合性と高い手術実績を備えた拠点病院を評価する仕組みに再編した。中央社会保険医療協議会(中医協)でも、人口の少ない地域では救急搬送の受入件数に加え、外来・在宅診療体制の確保を支援する拠点病院を評価する方向性が示されている。その一方で、人口減少地域への影響は大きい。地域の急性期病床を持つ病院が同時に高度急性期を目指せば、看護師やリハビリスタッフ、症例数が分散し、どこも基準を満たせず、かえって経営不振や医療の質の低下を招きかねない。仮に50床の病棟で多職種7対1を実現するには看護師24人に加え、多職種約10人が必要で、人材が少ない地域の病院にはハードルが高くなる。結果として、急性期機能は一部病院へ集約され、周辺病院は包括期医療や在宅医療へ役割転換を迫られる可能性が高い。住民にとっては、高度急性期病院へのアクセスが遠のく一方で、地域内での「救急受け止め→早期転院→在宅復帰」の流れが整えばメリットもある。ただし、その前提は地域のかかりつけ医や在宅医療機関や介護施設の協力医療機関が軽症の救急患者の受け入れ、退院後のフォロー、看取りの支援を担えることだ。今回、介護施設の入所者の救急搬送は、協力医療機関で対応可能な例を原則として急性期A・Bの実績に算入しない方針も示され、急性期病院と地域密着病院で役割分担する発想がより鮮明になった。過疎地では、病院再編だけでなく、クリニックや訪問看護ステーションとの連携強化、訪問診療、余剰病床の介護施設への転換を含めた検討が不可欠になる。 参考 1) 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(厚労省) 2) 急性期入院医療の提供主体は「急性期A、多職種7対1の急性期B、急性期1、多職種7対1の急性期4」に集約されるのでは(Gem Med) 3) 急性期総合体制加算の施設基準詳細、「総合的かつ高度な体制を整え、小児・周産期含めた十分な手術実績」持つ病院が加算1を取得(同) 4) 救急患者応需係数で底上げ、地ケア病棟は対象外 看護必要度 C項目に腰椎穿刺など追加(CB news) 4.医師偏在対策が次の段階へ 地域医療構想と医師養成を一体で見直し/厚労省厚生労働省は、3月3日に「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開き、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」についてガイドラインを取りまとめた。また、医師の偏在について「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」での検討を重ねてきていた第8次「医師確保計画」の見直し方針をとりまとめ、公開した。今回の2つの検討会の取りまとめは、病床数の議論だけでなく、医師偏在対策や医師養成過程の見直しまで一体で進める点にある。人口減少と高齢化、医療人材不足を前提に、地域ごとに「どの病院が急性期を担い、どこが高齢者救急や在宅を支えるか」を再設計する考えだ。まず、新たな地域医療構想では、人口減少と高齢化を前提とした医療提供体制の再編を進めるため、2040年の必要病床数を最新のNDBデータで推計し、高度急性期79%、急性期84%、包括期89%、慢性期92.5%の病床稼働率で換算する。急性期は少なめ、包括期は厚めに見積もる方向で、厚労省はこの数値を「必要病床数を算定するための換算値」であって、各病院が目標とすべき経営指標ではないと明示した。また、2028年度までに全病院・有床診療所が将来担う医療機関機能を整理し、地域で協議する枠組みを示している。医師確保計画の見直しでは、従来の「目標医師数」だけでなく、「地域で不足する診療科」などの定量指標を導入する。さらに、医師数は極端に少なくなくても、へき地尺度(RIJ)が高くアクセスに課題のある地域を新たに支援対象とする。小児科や産科に加え、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科なども、人口減少地域では常勤確保が難しい診療科として位置付けられ、遠隔医療の活用も検討対象となる。医師にとって重要なのは、外来医師過多区域への新規開業で、地域に不足する医療機能の提供を要請する仕組みが本格化する。その一方で、医療資源が乏しい地域では、承継支援や医師派遣、代替医師確保への支援が行われる。また、国は都道府県任せにせず、運用状況を毎年度把握し、必要なフォローを行う方針も示している。今後は、病院の再編だけでなく、診療所が休日夜間対応、在宅医療、退院後フォロー、遠隔診療をどう担うかが、地域医療構想の実効性を左右しそうだ。医師養成では、医学部の地域枠、臨床研修、専門研修、総合的な診療能力を持つ医師の育成を組み合わせる方向性が整理された。政府は、2040年の医療提供体制を「病床再編」と「医師配置」、さらに「医師の育て方」まで連動させて作り直そうとしている。2040年に向けた医療体制は、急性期医療の集約、高齢者救急への対応、在宅医療との連携、医師偏在是正を一体で進める形となる。病院にとっては、自院が地域で担う医療機能を明確にすることが求められ、外来患者数減少に直面する開業医は、医師会や地域の病院と連携して、地域で何を担うかがこれまで以上に問われる局面に入った。今後は限られた医療人材の中で、どう医療提供体制を維持するか重要な課題となりそうだ。 参考 1) 第12回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会(厚労省) 2) 「医師確保計画策定ガイドラインの見直しに向けた医師養成過程における取組のとりまとめ」(同) 3) 急性期病床2040年の必要数、稼働率84%で推計 高度急性期79%、包括期89%、慢性期92.5%(CB news) 4) 2040年の必要病床数、病床利用実態・業務効率化等加味し「急性期は少なめ・包括期は多め」に推計-地域医療構想・医療計画検討会(Gem Med) 5.社会保険料抑制へ制度改革 OTC類似薬と高額療養費が焦点/政府政府が進める医療保険制度改革により、公的医療保険の加入者1人当たりの社会保険料が年間約2,200円減少する見通しであることがわかった。上野 賢一郎厚生労働大臣が3月6日の閣議後の会見で明らかにした。改革の柱は、高額療養費制度の見直しと、市販薬と成分や効能が類似する「OTC類似薬」の保険給付の見直しなどで、医療費の抑制を通じて保険料負担の軽減を図る狙いがある。高額療養費制度では、医療費が高額になった場合の患者自己負担の月額上限を段階的に引き上げる。2026年8月と2027年8月の2段階で実施され、最終的には現行より最大38%引き上げられるケースも想定される。厚生労働省は、この見直しにより医療費を年間約2,450億円削減できると試算しており、保険料は加入者1人当たり年間約1,400円程度の軽減効果が見込まれるとしている。薬剤費の見直しも改革の柱となる。市販薬と成分や効能が近い「OTC類似薬」については、保険給付を受ける場合でも薬剤費の4分の1を患者が「特別の料金」として負担する制度を新設する。対象は鼻炎、胃痛、解熱鎮痛薬など77成分、約1,100品目とされ、2027年3月の施行を予定している。これにより社会保険料は年間約400円の減少が見込まれる。また、後発医薬品(ジェネリック)があるにもかかわらず先発薬を選択した場合の追加負担も拡大する。現在は差額の4分の1を患者が負担しているが、これを差額の2分の1まで引き上げる方針だ。こうした薬剤関連の見直し全体では年間約800円の保険料軽減効果が見込まれている。その一方で、高額療養費の上限引き上げに対しては、患者団体や野党から「重症患者の負担増につながる」との批判も出ている。国会審議では、保険料軽減が月額150円程度にとどまるとの指摘もあり、受診控えが生じる可能性への懸念も示された。政府は制度の持続可能性確保のための改革と説明するが、患者負担と保険財政のバランスをどう取るかが引き続き議論となりそうだ。 参考 1) 医療保険制度改革で保険料1人当たり年2,200円減、高額療養費制度やOTC類似薬の負担見直し(読売新聞) 2) 高額療養費見直しなどで社会保険料年2,200円減 厚労相が見通し(毎日新聞) 3) OTC類似薬の負担見直し、保険料減は月額33円程度 高額療養費は117円減 上野厚労相(CB news) 4) 「ペットボトル1本分の社会保険料負担軽減のために、高額療養費の負担増やすのか」共産議員が見直し迫る 衆院予算委で質疑(ABEMA TIMES) 6.美容クリニックの再生医療で訴訟相次ぐ 安全性と説明責任が焦点に美容医療を巡る訴訟が相次いでいる。焦点となっているのは、顔のしわやたるみ改善をうたう「プレミアムPRP皮膚再生療法」を受けた後に、頬や目の下にしこりや隆起が残ったとする事案だ。2026年2月には女性3人が東京都内のクリニックを東京地裁に提訴し、施術費用の返還、原状回復のための治療費、慰謝料など計約1,850万円を求めた。原告側は、施術前に重い合併症や除去の困難さ、使用成分の実態について十分な説明がなく、安全性を強調する宣伝の下で同意が取られたと主張している。被害相談の増加を受け、医療問題弁護団は3月1日にプレミアムPRP皮膚再生療法の被害者救済を目的に無料ホットラインも開設し、同種事案の掘り起こしを進めている。この訴訟で争点となるのは、単なる仕上がり不満ではなく、説明義務違反と再生医療法令への適合性だ。報道では、「bFGFを加えたPRP療法は未承認の再生医療に当たり、患者への説明事項は省令で定められているのに、同意書や説明内容が不十分だった可能性」が指摘されている。実際、2025年1月には同種の美容目的再生医療を巡る別件で、東京地裁が医療法人の責任を認める決定が確定した。そこでは、「施術の有効性に十分な科学的根拠が乏しいこと」、「bFGFによる長期のしこりや隆起が起こりうることを説明すべき義務があったのに尽くされなかった」と判断され、解決金支払いと再発防止が求められた。今回の3人提訴は、この先行事例を踏まえ、同種施術の説明体制や広告表示を改めて司法の場で問う意味合いが大きい。美容医療トラブルが急増する背景として、過度な広告、一括払いの勧誘、十分な訓練を経ない医師の参入が挙げられる。消費者保護の視点から患者側は施術を受ける前に「専門医かどうか」「リスク説明が十分か」を見極める必要性がある。今回の訴訟は、その問題が個人の後悔ではなく、説明不足を伴う構造的な消費者被害として司法判断の対象になり始めたことを示している。美容医療では、適応外使用や未承認技術を含む施術ほど、インフォームド・コンセントの質そのものが法的責任の核心になる。 参考 1) 「鏡向くたびに絶望」顔にしこりなど副作用…美容医療受けた女性ら、都内のクリニック提訴(産経新聞) 2) 「成功してるじゃん」美容医療で“しこり”も医師が失敗認めず…被害者が施術費用の返還など求めクリニックを提訴(弁護士JPニュース) 3) 3月1日(日)プレミアムPRP皮膚再生療法被害ホットラインを実施しました(医療問題弁護団) 4) 「美容目的の再生医療で合併症」 医療法人の責任認定、訴訟が終結(朝日新聞) 5) トラブル急増・美容医療の見極め方 消費者保護に取り組む医師・大塚篤司(TBS)【動画】 6) プレミアムPRP皮膚再生療法で被害相談ホットライン開設 医療問題弁護団が3月1日に電話受付 2026年2月には3人の女性が美容クリニックを提訴

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第284回 終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案

<先週の動き> 1.終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案 2.全国がん登録に「死亡場所」追加、研究活用促進へ/規制改革推進会議 3.小児科・産科、総合診療の人材不足鮮明 医師確保計画の改定で/厚労省 4.美容医療の診療録記載を省令で明確化へ、監督強化でパブコメ開始/厚労省 5.出生数70.6万人で過去最少更新、推計より17年早い少子化/厚労省 6.人口減少で経営悪化の病院再編、市立病院が閉院へ/室蘭市 1.終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案救急・集中治療領域における生命維持治療の終了・差し控えを巡り、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会は、合同ガイドライン改訂案を公表した。2014年策定の指針から約11年ぶりの改訂となる。改訂案では「終末期」をあえて定義せず、人工呼吸器などの生命維持治療を開始しない、または終了する際の判断手順を具体化した点が特徴となっている。患者本人の価値観や意思を中心に、家族および医療チームが協議して方針を決定する「共同意思決定」を原則とした。また、1度治療を開始すると中止できないという臨床現場の萎縮を防ぐため、期限を区切って治療効果を評価する「タイム・リミテッド・トライアル」の考え方を明記。治療を差し控え、または終了した場合の緩和ケアについても、苦痛緩和の具体的手順や家族支援の在り方を詳細に示した。これまで、法的責任への懸念や指針のあいまいさから、患者が望まない治療が継続される事例も少なくなかった。今回の改訂案は、現場での判断を支える実践的指針として、患者の尊厳を尊重した医療の実現につながることが期待される。3月27日までパブリックコメントを実施している。 参考 1) 終末期医療の指針、救急など4学会改訂案 意思決定やケアの手順示す(朝日新聞) 2) 延命治療終了の手順具体化 学会指針案、11年ぶり改定(共同通信) 3) 延命治療終了の手順明記 4学会が指針案、患者の意思尊重 医療者・家族の協議求める(日経新聞) 4) 「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」パブリックコメント募集のお知らせ(日本救急医学会) 2.全国がん登録に「死亡場所」追加、研究活用促進へ/規制改革推進会議政府の規制改革推進会議は2月26日、規制改革に関する中間答申を公表し、「全国がん登録情報および院内がん登録情報の利活用拡大」を最重要項目に位置付けた。がん登録に含まれる死亡日や死因情報は、遺族の個人情報に該当する可能性から、現行制度では第三者提供が厳しく制限されている。その一方で、多施設共同研究などでは生存確認や死亡情報の活用ニーズが高く、「研究に使えない」との指摘が相次いでいた。中間答申では、死亡日を5日単位でグループ化するなど、個人特定リスクを抑えた加工を施したうえでの第三者提供を検討すると明記。死因についても、がん死亡では部位が判別可能な情報、非がん死ではICD中間分類レベルの提供を可能とする方向性が示された。2026年の制度実施を目指す。これにあわせて、全国がん登録の届け出項目拡充も進められる。厚生労働省は、2027年診断症例から「死亡場所」を登録項目に追加する方針を了承。終末期医療や在宅看取りの実態把握に資する狙いだ。さらに、2028年以降はUICCのTNM分類(腫瘍径、リンパ節転移、遠隔転移)の追加も予定されている。また、院内がん登録とNDB(レセプト・特定健診情報)など公的データベースの連結解析を可能とし、本人同意を不要とする第三者提供の対象に院内がん登録を含める方針も示された。AYA世代や希少がんでは、国際標準分類に基づく情報提供を拡充する。その一方で、議論が続く自治体がん検診の「医師1人+AI読影」解禁は、今回の中間答申には盛り込まれなかった。政府は、今夏に規制改革実施計画を策定し、がん研究基盤の強化を急ぐとしている。 参考 1) がん登録情報の利活用、死亡日など提供方法を検討 中間答申 規制改革推進会議(CB news) 2) がん登録に「死亡場所」も 27年症例から項目追加 厚労省(同) 3) 規制改革推進に関する中間答申(規制改革推進会議) 3.小児科・産科、総合診療の人材不足鮮明 医師確保計画の改定で/厚労省厚生労働省は、2月25日に開かれた「第13回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、都道府県を対象に実施したアンケート結果を公表し、医師確保が特に必要な診療科として「小児科」を挙げた自治体が最多の41都道府県に上ったと明らかにした。次いで産科・産婦人科が40、総合診療科が34となり、生命予後に直結しやすく、24時間対応や当直負担の重い診療科で人材不足が深刻である実態が改めて浮き彫りとなった。特定診療科の医師確保に向けた支援策は44都道府県で実施しており、主な手法は(1)診療科を特定した地域枠の設定、(2)人件費や医師派遣費など医療機関への財政支援、(3)大学への寄附講座設置などであった。その一方で、都道府県が養成過程での対策を進めるために国に求める支援としては、財政支援の拡充、制度に関する情報提供や協議の場の設置、臨床研修・専門研修での採用上限設定など制度的関与の強化が多く挙げられた。この検討会において、第8次医師確保計画(後期、2027年度~)に反映する「医師養成過程の取組に係る議論の整理(案)」を大筋で了承した。整理案では、地域枠は原則として恒久定員内で設置する方針を明確化し、医師少数県や離島・豪雪地帯など、やむを得ない事情がある場合に限って臨時定員の活用を例外的に認めるとした。また、医学部段階だけでなく、臨床研修・専門研修を通じた偏在是正を重視し、若手医師の流出入や研修修了後の定着状況、地域枠医師の義務年限終了後の勤務実態を継続的に把握・検証することを都道府県に求めた。大学医学部・大学病院に対しては、地域医療を担う診療科への誘導や研修プログラムの魅力向上など、教育機能と地域医療政策の一体的運用がより強く求められることになる。 参考 1) 医師確保が特に必要な診療科、最多は「小児科」 厚労省の都道府県調査で(CB news) 2) 地域枠は原則「恒久定員内」に設置へ 医師多数県以外も 厚労省検討会が整理案(同) 3) 特に医師確保が必要な診療科として、41都道府県が「小児科」と回答(日経メディカル) 4) 医師確保計画策定ガイドラインの見直しに向けた医師養成過程の取組に係る議論の整理案(厚労省) 4.美容医療の診療録記載を省令で明確化へ、監督強化でパブコメ開始/厚労省厚生労働省は、美容医療を巡る健康被害や不適切な勧誘の増加を受け、医師の診療録の記載ルールを見直す省令改正案を公表し、パブリックコメントを実施している。意見募集は3月17日まで。改正案では、美容医療を提供する場合の診療録の記載事項に「患者の主訴」「患者が希望する治療内容」が含まれることを明確化し、保健所などの立入検査・指導で診療実態を確認できるようにする。これまでは医師法違反などが疑われる事案でも、診療録の記載自体が不十分で根拠が追えず、指導の実効性が上がらないケースがあったためであり、厚労省は監督強化の一環として2026年4月の施行を予定している。今回の医師法施行規則の改正は、美容医療の消費者相談の件数増加を受け、2024年に厚労省は「美容医療の適切な実施に関する検討会」での議論をもとに、同年11月の取りまとめで「診療録記載の徹底」を安全確保の柱に位置付けた経緯がある。わが国の美容医療はSNS拡散とコロナ禍の「特需」を追い風に急拡大し、推計では2024年に市場規模は6,310億円に達している。クリニック数は、2020年の1,404施設から2023年に2,016施設へと増加し、施術件数も2017年約160万件から2024年約306万件に伸長、自由診療の高収益性を背景に研修後すぐ美容医療に進む「直美」医師も2012年の16人から2022年には198人と急増している。その一方で、経験不足や合併症対応の脆弱さを不安視する声があり、国民生活センターへの相談件数も2022年度3,798件から2024年度1万736件へと急増している。自由診療は保険診療と異なり、診療内容について保険審査の枠外で、価格設定や運営の自由度が高い。クリニックによっては、カウンセラーにノルマを課して高額な施術へ誘導するほか、術後の合併症の対応能力不足、未承認の薬剤や医療機器を使用した施術での重篤な被害の発生も繰り返されている。SNSでは「痛みゼロ」「必ず小顔」など断定的表現や根拠不明の肩書が拡散しやすく、広告規制が届きにくい「グレーゾーン」も課題となっている。厚労省では、患者の「主訴」「希望する治療」の記録を明確化して、診療の妥当性や説明・同意の検証、トラブル時の事後検証を可能にし、行政指導につなげたい考え。2025年12月には美容医療機関に安全管理措置や相談先などの報告を年1回程度求める制度整備も進んでおり、今回の省令改正と併せ、統一的な指針整備、若手教育・倫理、広告監視の実効性をどう高めるかが焦点となる。厚労省は、パブリックコメントで記載項目の具体性や運用負担、立入検査での活用方法などへの意見を求めており、4月以降は現場での真摯な対応が求められる。 参考 1) 医師法施行規則及び歯科医師法施行規則の一部を改正する省令案に関する御意見の募集について(政府) 2) 美容医療の適切な実施に関する検討会 報告書(厚労省) 3) 美容医療、診療録の記載事項に「患者の主訴」「希望する治療内容」も 省令改正へ(CB news) 4) 美への欲望につけこみ高額な課金、死亡事故も…専門医は「過剰営業」を懸念(日経メディカル) 5) 「成功してるじゃん」美容医療で“しこり”も医師が失敗認めず…被害者が施術費用の返還など求めクリニックを提訴(弁護士JPニュース) 5.出生数70.6万人で過去最少更新、推計より17年早い少子化/厚労省厚生労働省が公表した人口動態統計速報(外国人を含む)によると、2025年の出生数は70万5,809人で、1899年の統計開始以降で過去最少を更新し、10年連続減少した。前年差は1万5,179人減(2.1%減)で、2022~24年の約5%減に比べ減少幅は縮小した。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計(中位推計)では出生数が70万人台となるのは2042年と見込まれており、想定よりも約17年早いペースで少子化が進んでいる。死亡数は160万5,654人で0.8%減と5年ぶりに減少へ転じたが、出生数との差である自然減は89万9,845人と過去最大に拡大した。団塊の世代が全員75歳以上となる中、人口減の加速が改めて示された。婚姻数は50万5,656組で1.1%増、2年連続の増加。ただしコロナ禍前(2019年の59万組台)には戻っていない。離婚は18万2,969組で3.7%減だった。地域別では45道府県で出生数が減少する一方、東京都は8万8,518人(1.3%増)と速報値で9年ぶりに増加し、石川県も6,515人(128人増)と増加に転じた。全国出生数の約3割を首都圏1都3県が占め、地域差も鮮明となった。東京都は、現金給付や保育料無償化の拡大、無痛分娩助成など子育て支援を進めており、周辺自治体から転居希望の増加を指摘する声もある。上野 賢一郎厚生労働大臣は、若年層の所得向上や共働き・共育て支援を進める考えを示し、「婚姻増は良い傾向」と述べている。もっとも、出生数の下振れが続けば、年金・医療・介護の前提となる人口見通しが揺らぎ、給付と負担の再設計を迫る可能性がある。なお日本人のみの出生数・合計特殊出生率は6月公表予定で、出生数は60万人台となる見通しが示されている。政府は2030年までが少子化反転の「ラストチャンス」として、こども未来戦略を推進し、財源として公的医療保険に上乗せする支援金制度を段階的に運用する方針も示している。 参考 1) 人口動態統計速報(厚労省) 2) 2025年の出生数70万人、10年連続で最少更新…東京・石川が増加に(読売新聞) 3) 出生数過去最少の70万人 推計より17年早い少子化 25年速報値(毎日新聞) 4) 2025年の出生数70.5万人 少子化は推計より17年早く、人口減も進行(日経新聞) 5) 2025年、出生数は70万5,809人で10年連続減少、死亡数が160万5,654人で、自然増減は「マイナス89万9,845人」-厚労省(Gem Med) 6.人口減少で経営悪化の病院再編、市立病院が閉院へ/室蘭市北海道室蘭市は、経営悪化が続く市立室蘭総合病院について2027年度をめどに閉院し、高度急性期・急性期機能を製鉄記念室蘭病院へ統合する方針を正式に決定した。市内3病院(市立室蘭総合病院、製鉄記念室蘭病院、日鋼記念病院)の再編を巡り、地域医療連携再編等推進協議会が最終合意に達した。背景には、室蘭市および西胆振地域で進む人口減少と急性期医療需要の縮小がある。3病院が同様の急性期機能を維持し続ければ、病床過剰や症例分散により医療の質低下や医師確保難を招き、病院経営の持続性が失われるとの判断が示された。市立病院は1872年開設、517床・22診療科を有し、約720人が勤務する基幹病院だが、2024年度末で約85億円の負債を抱え、市の一般会計からの多額の繰り出しが市の財政を圧迫していた。再編後、東室蘭地域では製鉄記念室蘭病院が2次医療圏の救命救急・高度急性期拠点を担い、蘭西地域では日鋼記念病院を中心に急性期から回復期、在宅医療までを支える体制とする。道内初の結核患者収容モデル病室の稼働など、政策医療の集約も進める。その一方で、500人超の市立病院職員は公務員の身分を失うため、再就職支援が課題となる。北海道知事の鈴木 直道氏は、患者の受け皿確保や職員雇用について市と連携し、丁寧に対応する考えを示している。今回の閉院は、人口減少地域における公立病院再編の先行事例として、全国の地域医療に大きな影響を与える可能性がある。 参考 1) 室蘭市地域医療連携・再編等推進について(室蘭市) 2) 市立室蘭総合病院、27年度めどに閉院へ 製鉄記念室蘭病院へ機能統合 3病院再編で合意(CB news) 3) 市立室蘭総合病院を閉院へ 北海道室蘭市、70億円超の財政支出も(朝日新聞) 4) 150年の歴史がある市立病院が閉院へ…新年度に23億円支出方針の室蘭市の財政は「危機的水準」(読売新聞)

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僕はなぜ医者になったのか? 医療行政マンを原点に帰らせたある出来事「総合医育成プログラム」インタビュー【ReGeneral インタビュー】第5回

僕はなぜ医者になったのか? 医療行政マンを原点に帰らせたある出来事「総合医育成プログラム」インタビュー埼玉県の行政医師として長年、公衆衛生に携わってきた土屋 久幸氏。58歳で行政を退職し、臨床医として在宅診療に踏み出すまでには、あるきっかけと強い決意がありました。マクロの視点で地域全体の健康を支える公衆衛生の仕事から、患者一人ひとりと向き合う臨床へ。その転身に込めた思いと、臨床に戻ることの意味について伺います。医療行政30年、喪失体験から在宅診療への転身――現在はどのような診療をなさっているのですか2022年から、週に3日ほど在宅診療に従事しています。元々、医療・衛生行政に携わっていた関係で、産業医や知的障碍者施設の衛生指導や健康管理といった仕事も合わせて行っています。――どのようなことをされていたのですか。埼玉県に勤める公務員として、おもに県庁や保健所で、救急医療や病診連携、在宅診療の推進などの医療体制の整備、食中毒対応や感染症対策などの業務を担っていました。臨床研修後すぐに埼玉県に入職したので、58歳で退職するまでの31年間、医師ではありましたが行政マンとして働いてきました。――30年余り続けた行政職から臨床に戻ろうと決めた理由は僕が52歳のとき、妹を亡くしたことがきっかけです。妹は原因不明の難病で、外の空気に触れると体が凍えて外出すら困難でした。やっとの思いで受診した総合病院の紹介で、大学病院に検査入院しましたが診断がつきませんでした。退院後、近医で往診を断られて途方に暮れるうちに病状は進み、妹は旅立ってしまいました。外出できないと医療が受けられない。この経験が、在宅医療を充実させたいという思いにつながりました。行政医師として在宅医療体制の整備を進めていましたが、一朝一夕には進みません。ならば自分がやろう。そう決めて、58歳で退職して、在宅診療をするために臨床に戻るに至りました。外に出られず医療を受けられなかった妹から、「お兄ちゃん、自宅から出られない人も診てあげてね」と託されたと思っています。画面越しでも“同じ場にいる”と感じる、現場さながらのオンライン学習――臨床に戻る手がかりとして総合医育成プログラムを受講されたはい、2023年から受講しました。臨床に戻ろうと決めたとき、はじめに「新認定内科医専門対策講座 臓器別総整理編」というDVDで、まず40時間ほど勉強したんです。大学の系統講義のようで病気の基礎は整理できましたが、実地臨床にはつながりにくい内容でした。実際の診療で知識を使うには、もっと工夫や応用が必要だと感じて、何かいい学びがないか探していました。そのとき出会ったのが、総合医育成プログラムです。――受講してみていかがですか現場で診療している先生方の講義は、患者さんを前にしたときに本当に役立ちます。訪問診療を始めて最初はわからないことがあると持ち帰って、先輩の先生に相談してから治療する日々でしたが、当プログラムで学びを重ねるうちに、今はその場である程度自分で答えを出して治療できるようになっている感じがします。少しずつ総合医として診察できるようになってきたのではないかと感じています。――印象的だった講義はありますか循環器の先生は心電図を数多く読んでくださり、心電図読影のいいトレーニングになりました。マイナーエマージェンシーの講義では、耳鼻科や眼科などの救急を学んだことが印象に残っています。同期型学習でグループワークするときなどは、オンラインなのにその場にいるようで、実践的なトレーニングができたのは意外でした。――一緒に学ぶ仲間との関係はいかがでしたかグループワークで一緒になる先生方は、循環器や皮膚科、そして僕のようにほとんど臨床をしてこなかった方までさまざまでした。異なる経験を持つ先生方とコミュニケーションを取って、同じ課題に協力して取り組むのは、とても楽しい時間でした。修了後に個別に連絡を取ることはありませんが、ワーク中に悩みを話して安心できたり、ほかの先生の実践を聞いて勇気づけられたり、そうした交流が強く印象に残っています。オンラインのグループワークでも親しみを感じられたので、受講生や修了生が実際に顔を合わせる機会があれば、もっとコミュニケーションが広がるのではと思います。予防と診療をつなぐ、公衆衛生×総合診療のアプローチ――公衆衛生と総合診療を掛け合わせるメリットは感染症対策では、保健所的な視点がとても役立っています。2022年から訪問診療で働いていて、ちょうどCOVID19の流行と重なっていました。高齢者施設内で患者さんの治療と同時に、いかに院内感染を起こさないよう対策を取るかを考えられたのは、両方の視点があったからだと思います。それから予防接種や血圧管理といった、薬を使う治療以前の生活習慣の介入に自然と目を向けられる点も、臨床をするのに支えになっています。大学時代に、「公衆衛生は未だ病まざるを治す」医学だと教わったことが、病気にならないようにするアプローチとして今の診療にもそのまま融合していると思います。――公衆衛生と総合診療を掛け合わせる苦労は行政の立場で医療には関わってきましたが、患者さんを診てこなかったハンデはやはり大きいです。医師免許を持っているだけでは、当然ながら通用しません。それでも何とかやり切るんだという使命感から、総合医育成プログラム以外にも必要だと思う学びは逃さず取り入れるようにしています。たとえば在宅診療は高齢の方が多いので、老年医学を積極的に学んでいます。そうした先生方から学ぶことで、病気を治すだけでなく、患者さんを1人の人間として見て、その方にとって何が大切か、どう生きたいかを丁寧に掘り起こし、治療に限らず必要な支援を提供できるように、今も臨床の力を磨き続けているところです。行政と臨床の両面から見る「地域医療のいま」――医療行政視点から、地域でどのような課題を感じておられますか埼玉県の北部では医師不足がとても深刻です。南部は東京に近いのであまり問題はないのですが、北部では救急医療、在宅医療、がん治療まで医師が足りていません。とくに小児救急はかなり厳しい状況で、今後さらに逼迫していくのではないかと危惧しています。――臨床医として何か地域の課題を感じることはありますか病院に勤務してみて感じるのは、在宅診療のニーズがとても高いことです。がん治療などで長く入院していた患者さんが、自宅に戻りたいと希望して在宅診療を求めるといったケースは、毎日のように問い合わせがあります。勤務先の訪問診療科は、常勤医2名、非常勤医3名、看護師5名と比較的人手があり、今は何とか訪問診療の依頼に対応できていますが、これ以上依頼が増えると、すべてに応じるのは難しくなるのではと感じています。「自分は誰に医療を届けたいのか」 原点に立ち返って歩む第2の臨床人生を――行政・老健・在宅診療と働く場所が変わり、今の働き方をどのように感じておられますか地域で暮らし、さまざまな事情で病院に来られない方に医療を届けることが、自分の使命だという思いが日々強まっています。ご自宅に伺うと、皆さんが待っていてくれて、喜んでくれるんです。僕も勇気をもらい、本当に充実していて、天職だと感じながら診療しています。自分の命が続く限り診療を続けるつもりですが、30年間のブランクがあり、臨床の知識を忘れている部分もあります。だからこそ、これからも学び続けることが必要だと感じています。――受講を検討している方へメッセージを僕は妹の死があって、行政医として、1人の臨床医としても、外出できない人に医療を届けることが自分が医師になった意味であり使命だと思うようになりました。皆さんにも、それぞれ医師になったときの初心があると思います。誰に、どんな医療を届けたくて医師になったのか。原点をいちど振り返ってみてはいかがでしょうか。ご自分が医師になった原点を振り返り、どこに向かいたいのかと目的地を考えたとき、地域に貢献することが成長につながる人は多いのではないかと思います。地域医療にはやりがいがあります。とくにへき地医療や訪問診療は医師が足りません。第2の人生からでも、僕のように臨床から離れていた期間があっても、総合医育成プログラムのような研修を受ければ臨床に立ち、人に喜んでもらうことができます。ぜひ研修を受けて診療に加わってほしいと思います。

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いますぐ使える!在宅医療 小ワザ 離れワザ

現場の声から生まれた“すぐ使える”在宅医療ハック集在宅医療の最前線で奮闘する医師や看護師が、試行錯誤の中で培ってきた“現場の知恵”を1冊に凝縮。身近な日用品を活用するアイデアや、解決が難しいケースへのアプローチ方法まで、患者に寄り添う小ワザ離れワザを多数紹介。「そうそう、あるある!」と思わずうなずいてしまう現場の悩みを、わかりやすい解説と豊富な写真・イラストでスッキリ解決。在宅医療の奥深さと可能性を再発見できる実用書です。読者対象:在宅医療を行っている(これから行おうとしている)医師、訪問看護師、介護士、ケアマネージャー、薬剤師画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するいますぐ使える!在宅医療 小ワザ 離れワザ定価2,970円(税込)判型A5判(並製)頁数192頁発行2026年2月編集一瀬 直日(総合病院岡山協立病院 総合診療科部長 臨床研修センター長)草場 鉄周(北海道家庭医療学センター理事長、日本プライマリ・ケア連合学会理事長)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第303回 病院と診療所で「メリハリ」に違いが出た2026年度診療報酬改定、病院は急性期病院一般入院基本料新設、地域包括医療病棟入院料大幅見直しなどで地域医療構想後押しへ

病院には相当なメリハリが付けられたものの、診療所のメリハリは今ふたつ、みっつこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。急に春めいてきましたね。この週末は久しぶりの足慣らしに高尾山に行ってきました。高尾山口駅から登り始める通常ルートではなく、高尾山の南側、草戸山から大洞山、大垂水峠へと縦走し、城山側から高尾山を目指すという約18キロの周回コースです。天気も良く快適に歩けたのですが、早くも飛散し始めた花粉で目がしょぼしょぼになってしまいました。また、途中には「クマ出没注意」の看板も。エサも少なさそうなこんな低山にもツキノワグマが出ているようです。今シーズンも各地でクマ被害は増えるのでしょうか?改めて心配になってきました。さて、厚生労働省の中央社会保険医療協議会は2月13日の総会で2026年度診療報酬改定案を了承し、上野 賢一郎厚生労働相に答申しました。診療報酬本体の改定率が30年振りに3%を超え3.09%となりましたが、その半分以上は賃上げと物価高への対応に充てられることになります。改定率が決まる前、本連載「第293回 佳境迎える診療報酬改定議論、『本体』引き上げはほぼ既定路線も、最大の焦点は病院と診療所間の『メリハリ』」で、「次期改定で本当の意味での『メリハリ』が付けられるかどうか、今後の議論の行方に注目したい」と書きましたが、病院の診療報酬については相当なメリハリが付けられたものの、日本医師会を意識してか診療所のメリハリは今ひとつどころか今ふたつ、みっつの結果となりました。ということで、今回は個人的に注目した診療報酬改定でのいくつかの項目について書いてみたいと思います。「急性期病院A一般入院料」は「急性期拠点機能」の病院を想定した点数病院に関しては、2027年度からの新たな地域医療構想を見据えて、急性期を担う病院機能の明確化を推し進める内容となったのが注目点です。ポイントは地域ごとの病院単位の急性期機能を確保するため、2区分の急性期病院一般入院基本料(急性期病院Aは看護配置7対1病棟で1日につき1,930点、同Bは看護配置10対1病棟で1日につき1,643点)が新設されたことです。2040年を見据えた新たな地域医療構想では、医療機関機能が「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類されます。このうち、「急性期拠点機能」を有する病院は「人口20万~30万人ごとに1拠点」が目安とされています。新設される2区分の急性期病院一般入院基本料のうち、「急性期病院A一般入院料」はまさにそうした「急性期拠点機能」の病院を想定した点数です。また、入院料の加算である「急性期総合体制加算」と「地域医療体制確保加算2」、手術料の加算である「外科医療確保特別加算」も同趣旨の点数と言えます。「急性期病院A一般入院料」の主な要件は、「救急搬送件数:年2,000件以上」「全身麻酔手術件数:年1,200件以上」などで、入院患者数の10%以上の数の常勤医師の配置が求められます。病院全体として急性期医療への特化が必要で、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料などとのケアミックスは認められません。該当する手術を行うたびに医師に手当が出来高で上乗せされる画期的な「外科医療確保特別加算」関連する加算のうち「急性期総合体制加算」は、現行の「総合入院体制加算」と「急性期充実体制加算」を再編統合した点数で5区分からなり、入院期間14日(7日以内、8~11日以内、12~14日以内の3段階の点数)までの加算です。このうち「急性期総合体制加算1〜4」は、「急性期病院A一般入院料」を算定する病棟を持つ病院に限定されます。ちなみに、「急性期総合体制加算1」の「7日以内の期間」の点数は530点です。「地域医療体制確保加算2」(720点)は入院料への加算で、若手医師が減少する外科系診療科(消化器、心血管、小児、循環器)の医師の勤務環境改善と処遇向上を評価する点数です。そして、「外科医療確保特別加算」は「地域医療体制確保加算2」の届出施設を対象に、胸部(食道)から腹部(胃、腸、肝胆膵)にかけての鏡視下手術を中心に、長時間かつ高難度な手術料への加算です。「当該手術の所定点数の100分の15を加算、当該診療科の医師が行った対象手術件数に応じ、休日手当、時間外手当、深夜手当、当直手当等とは別に、当該加算額の100分の30以上に相当する額を総額とする手当を当該診療科の医師に支給、当該支給額の8割以上を当該診療科に配置されている常勤医師に支給」――などが要件となっており、該当する手術を行うたびに医師に手当が出来高で上乗せされる画期的な仕組みになっています。これらは、いずれも「急性期総合体制加算」または「特定機能病院入院基本料」届出が要件となっており、「急性期拠点機能」の病院の医師(とくに外科医)確保も含めた体制維持を目的とした点数です。「高齢者救急・地域急性期機能」も評価、地域包括医療病棟入院料は大幅見直しこうした将来的に「急性期拠点機能」を担う病院の評価と並行して、「拠点機能」を持った病院が軽度な高齢者救急への対応に煩わされないよう、地域の高齢者救急を受け入れる病院の評価も2024年度改定に続いて行われました。前述の新たな地域医療構想の医療機関機能の中の「高齢者救急・地域急性期機能」の評価です。とくに高齢者救急の主要な受け入れ先となる地域包括医療病棟は、急性期病棟を併設しない場合の「地域包括医療病棟入院料1」(3,117~3,367点)と併設する場合の「同入院料2」(3,066~3,316点)の2類型に分けられます。さらに医療資源投入量に基づいて手術や緊急入院の有無に応じて入院料を3つに細分化して、点数に差を付けられます。改定後は現行の点数より最大317点アップすることになります。加えて施設基準も大きく見直されて緩和されます。改定前は「在院日数」「ADL低下割合」などの基準が高齢患者比率にかかわらず求められ、高齢者救急を多く受け入れる病棟にはハードルが高い面がありましたが、今改定では、急性期病棟併設の有無や緊急入院・手術対応などに応じて6区分に細分化され、85歳以上が多い病棟では在院日数・ADL低下割合の基準が緩和されます。一方、地域包括ケア病棟入院料も、在宅医療や協力対象施設への後方支援機能が高く評価されました。具体的には在宅患者支援病床初期加算の対象患者を緊急入院した患者にまで拡大して報酬が一部引き上げられます。このほか、在宅医療・介護保険施設の後方支援等に一定の体制と実績がある医療機関を評価する「包括期充実体制加算」(80点、14日まで)が新設されます。地域包括医療病棟または地域包括ケア病棟を持つ主に許可病床数200床未満が対象となります。かかりつけ医関連の項目はメリハリ不足、「かかりつけ医機能報告制度」との連動は持ち越しこうした、急性期病院一般入院基本料の新設、中でも「急性期病院A一般入院料」の高評価、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟入院料の施設基準見直しや高評価は、「新たな地域医療構想」を見越して病院の機能分化を一層推し進めるためのもので、まさにメリハリの効いた改定だと言えるでしょう。地域医療構想における調整会議が開かれる前に、地域において役割分担、機能分化を事前に進めてもらいたいという国の意向が透けて見えます。その一方で、かかりつけ医関連の項目はメリハリ不足の感が拭えません。中医協の議論の中で、支払側は2025年4月に始まった「かかりつけ医機能報告制度」と連動させ、かかりつけ医の診療機能に応じた評価体系を導入するよう求めていました。財務省も「秋の建議」においてかかりつけ医機能報告制度上、基本的な機能を有していない診療所の初診料・再診料の減算措置導入や、外来管理加算や特定疾患管理料、生活習慣病管理料などの適正化を求めていました。しかし、今回の改定では、制度開始から間もなく報告が十分集まっていないとの理由から、かかりつけ医機能報告制度のデータを踏まえた評価は導入されず、機能強化加算、生活習慣病管理料、特定疾患療養管理料、地域包括診療料(加算)、時間外対応加算などの施設基準・算定要件の小幅の改正に留まりました。ちょうど3年前、「かかりつけ医機能報告制度」を盛り込んだ法案(通称、全世代型社会保障制度関連法案)が提出された時に、本連載「第150回 かかりつけ医機能の確認めぐりひと悶着、制度化の芽も摘んだ日本医師会の執念」で、「何の強制力も、発展性も、拡張性もない、ただ『制度を作った』という事実を作るためだけの制度」と書きましたが、仮に次回、2028年度の診療報酬改定で、「かかりつけ医機能報告制度」と密に連動した、かかりつけ医関連の報酬体系が導入されないとしたら、現状、患者、地域住民にほとんど役に立たない同制度は形骸化に向かうに違いありません。

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第282回 初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協

<先週の動き> 1.初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協 2.末期腎不全も緩和ケア対象に、診療報酬改定で/厚労省 3.在宅医療にメス 頻回訪問を抑制、報酬体系を大幅見直し/厚労省 4.急性期A・B新設で何が変わる? 入院基本料再編の全体像/厚労省 5.ナースコールからランサムウェアが侵入、患者情報1万人流出/日医大武蔵小杉病院 6.医療行為が刑事裁判に 赤穂市民病院手術事故、指導体制も争点/神戸地裁 1.初診は据え置き、再診は実質3点増、2026年度改定の全体像明らかに/中医協中央社会保険医療協議会(中医協)は2月13日、2026年度診療報酬改定の内容を決定した。物価高騰と人件費上昇への対応を最重要課題に位置付け、診療報酬本体は3.09%引き上げられる。内訳は賃上げ対応1.70%、物価対応1.29%で、30年ぶりに「賃金・物価」を正面から評価する改定となった。外来では、初診料(291点)は据え置く一方で、再診料は1点引き上げられて76点とし、新設の「物価対応料」により初診・再診とも2点(20円)が加算される。これにより再診時は合計3点増となる。訪問診療でも物価対応料が上乗せとなり、いずれも1日単位で算定が可能とされた。さらに、今後の物価上昇を見据え、2027年6月以降は物価対応料を原則2倍とする方針が示されている。賃上げを実施する医療機関を評価する「ベースアップ評価料」も拡充される。外来・在宅では、初診時17点、再診時4点を基本とし、すでに賃上げを行っている医療機関ではより高い点数が付く。入院ベースアップ評価料も最大250点まで拡大され、医師・看護師に加え、事務職員や看護補助者など幅広い職種を対象に処遇改善を促す設計となった。2027年度には評価水準をさらに引き上げる。今回の改定の特徴は、外来よりも入院医療を厚く評価する点にある。急性期一般入院料は機能に応じて約8~11%引き上げられ、救急搬送件数や全身麻酔手術件数など実績を重視した評価体系が導入される。多職種協働体制を評価する新加算や、救急・外科医療体制を支援する加算も相次いで新設され、地域の急性期拠点を明確に選別する方向性が打ち出された。その一方で、入院時の食費は1食40円、光熱水費は1日60円引き上げられ、患者負担は増加する。医療DXでは、生成AIの活用を前提に医師事務作業補助体制加算の人員基準を柔軟化するなど、実績と効率化を重視する評価が強まった。総じて2026年度改定は、「賃上げを実行する医療機関」「急性期・救急機能を担う病院」「DXで生産性を高める施設」を重点的に評価する構造となった。算定の可否により病院経営への影響差は大きく、各医療機関には自院の機能定位と戦略的な届出判断が求められる。 参考 1) 個別改定項目について(厚労省) 2) 物価高・賃上げ対応で初診・再診料ともに引き上げへ…中医協が診療報酬改定内容を決定(読売新聞) 3) 物価高に対応、初診2点・再診3点引き上げ 26年度診療報酬改定、入院評価を重点化(CB news) 4) 診療報酬加算引き上げへ 中医協が改定案答申 患者窓口負担も増(NHK) 2.末期腎不全も緩和ケア対象に、診療報酬改定で/厚労省2026年度診療報酬改定で、緩和ケアの評価対象が大きく見直される。これまで診療報酬上、主にがん患者に限られてきた緩和ケアについて、末期の腎不全患者や呼吸器疾患が新たに対象に加えられることが決まった。ただし、「緩和ケア病棟」の入院料としては末期腎不全のみであり、末期呼吸器疾患は緩和ケア診療加算・外来緩和ケア管理料で算定可能となった。背景には、がん以外の疾患では十分な緩和ケアが提供されてこなかったという課題がある。とりわけ、人工透析を中断した末期腎不全患者は、呼吸困難や意識障害、強い吐き気などの重い症状に直面することが多く、苦痛緩和の必要性が指摘されてきた。今回の改定では、透析療法の開始や継続が困難な終末期の腎不全患者を、診療報酬上も正式に緩和ケアの対象として位置付ける。あわせて、高齢者を中心に問題となっている多剤服用や重複投薬への対策も強化される。病棟に勤務する薬剤師が、転院・退院時に服薬状況や副作用リスクについて患者や家族に指導した実績を適切に評価する仕組みを整える。さらに、在宅医療では医師と薬剤師が同時に訪問し服薬指導を行った場合、半年に1回3,000円を算定できる「訪問診療薬剤師同時指導料」が新設される。国の調査では、半数近くが飲み忘れや飲み残しによる残薬を自宅に保管しているとされ、60歳以上でとくに多い傾向が確認されている。処方・調剤時に残薬を確認し、調剤量を調整する取り組みを評価することで、患者の安全確保と医療費の適正化につなげる狙い。厚生労働省は、6月からの改定施行を通じ、がん以外の疾患も含めた幅広い終末期医療と薬物療法の質向上を後押ししたいとしている。 参考 1) 末期腎不全患者を緩和ケア対象に 残薬対策も 26年度診療報酬改定(毎日新聞) 2) 緩和ケアの診療報酬 末期の腎不全患者など対象の方針 中医協(NHK) 3.在宅医療にメス 頻回訪問を抑制、報酬体系を大幅見直し/厚労省2月13日に答申された、2026年度診療報酬改定では、在宅医療、とりわけ訪問看護や訪問診療を巡る報酬体系が大きく見直される。焦点となっているのは、高齢者住宅や有料老人ホームに併設された訪問看護ステーションによる「頻回訪問」や、いわゆるホスピス型住宅での過剰請求への対応だ。厚生労働省は、同一建物で多数の入居者に短時間・高頻度で訪問看護を行い、高額な報酬を得ている事例が増えているとして、包括的な評価方式を導入する。ホスピス型住宅では、従来の出来高払いに代えて定額制の包括払いを新設し、1人当たり月80~90万円に上るケースがあった報酬水準は、最大でも45万円程度に抑えられる。出来高払いを選択した場合でも、多人数への頻回訪問では報酬が引き下げられ、20分未満の訪問は算定不可となる。訪問診療についても、必要性の乏しい頻回訪問を抑制する方向が示された。要介護度や重症度の低い患者への月2回以上の訪問は原則とせず、月1回を標準と位置付ける。がんなど重症患者の割合が低い医療機関では、管理料を低い区分に制限する仕組みとし、通院可能な患者は外来対応へ誘導する。24時間往診体制の評価も、自院完結型か他院連携型かで差を設け、実質的な関与が乏しい場合の報酬を抑える。さらに、在宅医療を担う病院・診療所には、災害時の業務継続計画(BCP)の策定が施設基準として義務化される。新規開設は2026年度から、既存施設も2027年5月末までに策定が求められ、地域の訪問看護や介護事業者、行政との連携を前提とする。今回の改定では、在宅医療の「量」から「質」への転換を明確にし、高齢者の囲い込みや過剰な医療提供を抑制する一方で、真に必要な在宅・終末期医療の持続可能性を確保する狙いがある。 参考 1) 「ホスピス型住宅」報酬引き下げ 訪問看護、厚労省6月から(共同通信) 2) 在宅医療「もうけすぎ」にメス 診療報酬見直し、高齢者囲い込み防止(日経新聞) 3) 高齢者住まい等への頻回訪問に包括評価を導入(日経メディカル) 4) 在宅医療巡り病院・診療所にBCP策定義務化へ…厚労省、災害時の地域連携促す(読売新聞) 4.急性期A・B新設で何が変わる? 急性期医療の拠点化と実績重視/厚労省2026年度診療報酬改定では、急性期病院の入院基本料が大きく再編され、急性期医療の拠点化と実績重視の姿勢が鮮明になった。最大の特徴は、新たに創設された「急性期病院一般入院料A・B」である。急性期Aは1日1930点と、従来の急性期一般1より56点高く設定され、地域の基幹病院としての役割を強く評価する。急性期Bは1,643点だが、多職種7対1体制を整え「看護・多職種協働加算2(255点)」を算定すれば1,898点となり、急性期一般1を上回る水準に達する。従来の急性期一般入院料(1~6)も軒並み引き上げられ、とくに急性期一般1は1,874点へと大幅に増点された。結果として点数序列は「急性期A、次いで多職種体制を整えた急性期B、その下に急性期一般1」という構図が明確になった。単なる看護配置だけでなく、多職種協働体制の整備が収益に直結する設計となっている。さらに、総合入院体制加算と急性期充実体制加算を統合した「急性期総合体制加算」が新設された。最上位区分では入院7日以内に530点が上乗せされて、救急・高度医療を担う病院への重点配分が強化される。加えて、物価高への対応として入院でも物価対応料が加算され、2027年以降は原則倍増する見通し。今回の改定は、急性期病院に対し「どの機能を担い、どの水準を目指すのか」という戦略的選択を迫る内容であり、届出の有無が経営に大きな差を生む改定となった。 参考 1) 急性期Aは1,930点、多職種7対1急性期Bは1,898点、急性期1と多職種7対1急性期4は1,874点(Gem Med) 2) 地域包括医療病棟を「3,367-3,066点」の6区分に細分化、ADL低下割合などの基準柔軟化も(同) 3) 2026年度診療報酬改定の詳細が決定 急性期の病院機能を報酬で明確化へ(日経メディカル) 5.ナースコールからランサムウェアが侵入、患者情報1万人流出/日医大武蔵小杉病院日本医科大学武蔵小杉病院(川崎市、372床)は2月13日、ランサムウェアによるサイバー攻撃を受け、患者約1万人分の個人情報が外部に流出したと公表した。流出したのは氏名、性別、住所、電話番号、生年月日、患者IDなどで、病名・病歴や電子カルテ、クレジットカード情報の漏洩は現時点で確認されていない。攻撃者は身代金として1億ドル(約150億円)を要求しているが、病院側は支払いに応じない方針を示している。病院によると、2月9日午前1時50分頃、病棟のナースコール端末が正常に作動しなくなり、システム障害が発覚。調査の結果、ナースコール用サーバーがランサムウェアに感染していたことが判明した。侵入経路は、医療機器保守用に設置されていたVPN装置とみられ、パスワード管理が脆弱だった可能性があるという。11日には攻撃者側とみられるサイト上で、患者情報の一部流出が確認された。診療体制への直接的な影響はなく、外来・入院・救急はいずれも通常通り継続している。ただし、ナースコールは完全復旧に至っておらず、看護師の増員や病室巡回の強化で安全確保を図っている。同院は、厚生労働省や文部科学省に報告し、神奈川県警に被害届を提出。対象患者には個別通知を開始し、相談窓口も設置した。今回の事案は、医療機関における周辺システムやVPN管理の脆弱性が、診療データ以外からも大規模な情報漏洩につながり得ることを示した。医療DXが進む中、電子カルテ以外を含むシステム全体のセキュリティ点検、BCPやインシデント対応体制の再確認が、改めて医療現場に突き付けられている。 参考 1) 当院へのサイバー攻撃による個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(第日本医科大学武蔵小杉病院) 2) 患者1万人分の個人情報漏洩 日医大武蔵小杉病院にサイバー攻撃(朝日新聞) 3) 日本医科大武蔵小杉病院にサイバー攻撃 患者約1万人の情報漏洩(日経新聞) 4) またもVPNからランサム被害、日本医科大学武蔵小杉病院で約1万人の情報漏洩(日経クロステック) 6.医療行為が刑事裁判に 赤穂市民病院手術事故、指導体制も争点/神戸地裁兵庫県赤穂市民病院で2020年1月、腰椎手術中に患者の神経を損傷し重い後遺障害を負わせたとして、当時の執刀医の男性(47)が業務上過失傷害罪に問われた事件で、神戸地裁姫路支部は2月9日、初公判を開いた。被告は起訴内容をおおむね認め、「詳細は被告人質問で答える」と述べ、弁護側も「罪が成立することは争わない」とした。医師の医療行為が刑事裁判で審理されるのは異例とされる。起訴状などによると、被告は女性患者(80)の腰椎の一部を切除する手術で、出血が多く患部の視認が困難な状況にもかかわらず十分な止血を行わず、威力の高い医療用ドリルで骨を削る操作を継続。誤って神経(脊髄・馬尾周辺)を切断し、両下肢麻痺など全治不能の後遺障害を負わせたとされる。検察側は、「科長から止血を促されても血を吸引しただけで手技を続けた」と指摘し、「事故は容易に予見できた」と過失の程度を強調した。その一方で、弁護側は「手術は1人で遂行できず、経験の浅い被告だけに責任を負わせるのは相当でない」と主張。証人として出廷した指導医は止血を勧めたが執刀を止めなかった経緯を説明し、「1分1秒でも早く交代していればよかった」と後悔を口にした。この事故を巡っては民事でも、被告と赤穂市に約8,800~8,900万円の賠償を命じた判決が確定している。病院側は医療過誤と認定。被告が着任後約半年で関与した手術で医療事故が複数(後遺障害8件、計11件とも報道)起き、2人が死亡したとされる点も、管理体制を含めた再発防止策が問われている。公判では証拠として手術映像も法廷で取り調べられ、被害者側親族が被害者参加制度で出廷した。今後、被告人質問や求刑・弁論を経て結審する見通しで、量刑判断とともに、指導医の関与や病院の教育・監督体制が争点となる。医療安全と人材育成の両面で、現場に突き付けられた課題は重い。 参考 1) 赤穂市民病院の医療過誤 執刀医の男、起訴内容認める 神戸地裁姫路支部で初公判(神戸新聞) 2) 手術で重い障害残る医療過誤…業務上過失傷害罪の初公判で赤穂市民病院の元医師認める(読売新聞) 3) 市民病院医療事故多発 被告医師「私一人だけ悪いとなるのはおかしい」(赤穂民報)

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ブータンでの経験【非専門医のための緩和ケアTips】第117回

ブータンでの経験緩和ケアは、さまざまな環境で取り組むことが求められます。今回は医療資源の限られた環境での緩和ケアについてのご質問です。緩和ケアに限らず、「資源の限られた中での医療」という話題について、私の経験と学びをお話しします。今日の質問離島で診療をしているのですが、島の限られた医療体制の中で緩和ケアを実践する大変さを感じます。私よりもさらに少ない医療資源の中で取り組まれている方もいることでしょう。先生はこのような環境で診療経験はありますか。あればぜひ教えてほしいです。私は普段、急性期病院に勤務しており、比較的医療資源の潤沢な環境にいます。ただ、年に数回、離島での緩和ケアアウトリーチ(医療者が地域に出向く支援)の手伝いに参加しています。また、2024年からは年に1度、ブータンでの医療支援活動に参加しています。2025年は私にとって2回目のブータン訪問でした。アジア各国から指導医チームが結成され、ブータンの現地で1週間のレクチャーやベッドサイドティーチングを行います。今回は、ブータンの在宅緩和ケアを通じて貴重な経験をしました。ブータンは国土の大半が山岳地帯です。今回、私が往診に同行したお宅は、病院から車で1時間以上かかる場所にありました。市街地を出発し、その後ずっと山道を走り、さらに未舗装路に入っていきます。途中に牛を何頭も見かけ、標高はどんどん高くなっていきます。「どこまで行くのだろう」「夜間や天気が悪いときに往診が必要になっても、この立地では行けないな…」などと考えていると、やっと到着しました。訪問先のお宅が、山の頂上のようなところに、ポツンと立っていました。患者さんは末期の大腸がん、すでに会話が難しい状況で発語がやっとの状態でした。現地の訪問看護師から、「嘔気があるが、もともと内服していたモルヒネをどのように調整すべきか?」と質問されました。皆さんだったらどう答えるでしょうか? もちろん、PCA(自己調節鎮痛)ポンプなんてありません。このような環境で診療をした経験はありませんでしたが、この環境でのベストを考える必要があります。数日内に内服が難しくなりそうだったので、モルヒネの投与経路を皮下注射に切り替えるように提案しました。内服が困難になり、症状が強くなっても、医療者がすぐに駆けつけることができないことが理由です。その後も、日本の診療環境と大きく異なる光景を目の当たりにしました。モルヒネの投与量を計算して訪問看護師に伝えると、持参したモルヒネ注射薬をシリンジに引き、家族に皮下注射の指導を始めたのです。日本で医療用麻薬を家族が注射することはまずありません。再度現地の訪問看護師から、「こうした場合、日本ではどのように対応するのか?」と質問がありました。私は「日本では、在宅用の持続投与が可能なデバイスがあり、それを使っているケースが多い。家族が注射をすることはほぼなく、本人や家族が自分たちで注射するのは、在宅医療ではインスリンの自己注射製剤くらいです。でも、ブータンの環境を考えると、今皆さんがやっていることがベストプラクティスだと思いますし、緩和ケアを届けていることを尊敬しています」と英語でお伝えしました。ブータンでの国際支援活動を通じて、世界中で緩和ケアを必要としている患者さんがいること、そして緩和ケアを届けようと頑張っているスタッフがいることを実感しました。日本でもさまざまな地域で、それぞれの地域にあった形で緩和ケアを実践している仲間がいます。世界中で同じ思いの仲間が頑張っていることを忘れず、われわれもできることを少しずつ頑張っていきたいですね。今日のTips今日のTips今、この瞬間も世界のどこかで緩和ケアを届けている仲間がいることを忘れないようにしよう。

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