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DPP-4阻害薬は胆嚢炎発症リスクを増加させる(解説:住谷哲氏)

 DPP-4阻害薬は低血糖を生じにくい安全な血糖降下薬として多くの患者に処方されている。しかしこれまでにDPP-4阻害薬投与と、心不全1)、水疱性類天疱瘡2)、急性膵炎3)、重症関節痛4)との関連が示唆されてきた。とりわけ初回治療薬として処方される血糖降下薬の約70%がDPP-4阻害薬とされるわが国では5)、まれな副作用についても注意が必要である。 GLP-1が胆嚢のmotilityに影響することは以前から知られており、血中GLP-1濃度を上昇させるDPP-4阻害薬が胆道・胆嚢疾患の発症リスクを増大させるのではないかとの懸念は以前からあった。GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが胆嚢・胆道疾患の発症と関連することはすでに報告されていたが、DPP-4阻害薬について報告がなかった。そこで著者らは、これまでに報告された82のRCTの結果を用いて、DPP-4阻害薬と胆道・胆嚢疾患発症との関連を検討した。 その結果は、胆嚢炎、胆石症、胆道疾患の複合アウトカムである胆嚢・胆道疾患の発症リスク増加(オッズ比[OR]:1.22[95%信頼区間[CI]:1.04~1.43])が認められた。さらに、複合アウトカム構成項目のなかで有意なリスク増加を認めたのは胆嚢炎のみであり(OR:1.43[1.14~1.79])、胆石症と胆道疾患には有意なリスク増加を認めなかった。 胆嚢炎の絶対リスク増加は15/1万人年であり、著者らはそのリスク増加は微小ではあるが、DPP-4阻害薬のもたらすベネフィットとのバランスの下で投与が判断されるべきである、とコメントしている。現在わが国でDPP-4阻害薬が投与されている2型糖尿病患者が何人かは正確には不明であるが、仮に800万人の患者の50%にDPP-4阻害薬が投与されていると仮定すると、年間に800万×0.5×15/1万=6,000となり、年間6,000人の胆嚢炎患者がDPP-4阻害薬投与により余分に発生している計算になる。 DPP-4阻害薬が心血管イベントリスクを増加しない安全な薬剤であることは複数のCVOTで証明されている。しかし発売後10年以上が経過した今日、諸外国と比較して多数の2型糖尿病患者にDPP-4阻害薬が投与されているわが国においては、DPP-4阻害薬のもたらすリスクとベネフィットとを考え直す時期に来ているのではないだろうか。

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DPP-4阻害薬で胆嚢炎リスク増、とくに注意が必要な患者は/BMJ

 2型糖尿病患者において、DPP-4阻害薬は胆嚢炎リスクを増大することが、中国・北京連合医科大学病院のLiyun He氏らによるシステマティック・レビューとメタ解析の結果、示された。無作為化試験の被験者で、とくに医師の注意がより必要となる治療期間が長期の患者でその傾向が認められたという。先行研究で、GLP-1は胆嚢の運動性の障害に関与していることが示唆されており、主要なGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが、胆嚢または胆道疾患リスクとの増大と関連していることが報告されていた。また、GIPも胆嚢の運動性に影響を及ぼすことが報告されていた。BMJ誌2022年6月28日掲載の報告。エビデンスの質はGRADEフレームワークで評価 研究グループは、DPP-4阻害薬と胆嚢または胆道疾患の関連を調べるため、PubMed、EMBASE、Web of Science、CENTRALをデータソースとして、各媒体創刊から2021年7月31日までに発表されたDPP4阻害薬に関する無作為化対照試験について、システマティック・レビューとネットワーク・メタ解析を行った。適格とした試験は、2型糖尿病の成人患者を対象に、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬と、プラセボまたはその他の糖尿病治療薬について比較した無作為化対照試験だった。 主要アウトカムは、胆嚢疾患または胆道疾患、胆嚢炎、胆石症、胆道疾患の複合とした。2人のレビュアーがそれぞれデータを抽出し、試験の質を評価。各アウトカムのエビデンスの質を、GRADEフレームワークを用いて評価した。メタ解析は、プールオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を用いた。胆嚢/胆道疾患、胆嚢炎リスク増加、長期服用で関連増大 82件の無作為化対照試験、被験者総数10万4,833例を対象にペアワイズ・メタ解析を行った。 プラセボまたは非インクレチン製剤に比べ、DPP-4阻害薬は、胆嚢/胆道疾患の発症リスク増大(OR:1.22[95%CI:1.04~1.43]、群間リスク差:11[95%CI:2~21]/1万人年)および胆嚢炎リスク増大(1.43[1.14~1.79]、15[5~27]/1万人年)と有意に関連していた。 一方、胆石症の発症リスク(OR:1.08[95%CI:0.83~1.39])、胆道疾患の発症リスク(1.00[0.68~1.47])との関連は認められなかった。 DPP-4阻害薬と胆嚢/胆道疾患および胆嚢炎発症リスクの関連は、服用期間が長い患者で観察される傾向が認められた。 また、184試験を対象にネットワーク・メタ解析を行ったところ、DPP-4阻害薬はSGLT2阻害薬に比べ、胆嚢/胆道疾患リスクおよび胆嚢炎リスクをいずれも増大させたが、GLP-1受容体作動薬との比較では、同増大は認められなかった。

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10~18歳2型DMにデュラグルチド週1回投与は有効か/NEJM

 10~18歳の2型糖尿病において、GLP-1受容体作動薬デュラグルチドの週1回投与(0.75mgまたは1.5mg)は、メトホルミン服用や基礎インスリンの使用を問わず、26週にわたる血糖コントロールの改善においてプラセボよりも優れることが、米国・ピッツバーグ大学のSilva A. Arslanian氏らによる検討で示された。BMIへの影響は認められなかった。NEJM誌オンライン版2022年6月4日号掲載の報告。デュラグルチド0.75mg、1.5mgを週1回投与 研究グループは、10歳以上18歳未満の2型糖尿病で、BMIが85パーセンタイル超、生活習慣の改善のみ、もしくはメトホルミン治療(基礎インスリン併用または非併用)を受ける154例を対象に、26週にわたる二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った。 被験者を無作為に1対1対1の割合で3群に割り付け、それぞれプラセボ、デュラグルチド0.75mg、デュラグルチド1.5mgを週1回皮下注射で投与した。被験者はその後26週の非盲検の延長試験に組み込まれ、プラセボ群だった被験者に対し、デュラグルチド(0.75mg、週1回)を26週間皮下注射で投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週までの糖化ヘモグロビン値の変化だった。副次エンドポイントは、糖化ヘモグロビン値7.0%未満達成、および空腹時血糖値とBMIのベースラインからの変化など。安全性についても評価が行われた。糖化ヘモグロビン値7.0%未満、プラセボ群14%に対しデュラグルチド群51% 計154例が無作為化を受けた。26週時点の平均糖化ヘモグロビン値は、プラセボ群が0.6ポイント上昇したのに対し、デュラグルチド群では、0.75mg群で0.6ポイント、1.5mg群で0.9ポイント、いずれも低下した(対プラセボ群のp<0.001)。  また26週時点で、糖化ヘモグロビン値7.0%未満を達成した患者の割合は、プラセボ群14%に対しデュラグルチド群では51%と有意に高率だった(p<0.001)。 空腹時血糖値も、プラセボ群で上昇(17.1mg/dL)したのに対し、デュラグルチド群では低下が認められた(-18.9mg/dL、p<0.001)。一方でBMIについては、両群間で差は認められなかった(プラセボ群0.0、デュラグルチド統合群-0.1、p=0.55)。 有害事象は、胃腸有害イベントの発生頻度が最も多く、26週にわたってデュラグルチド群でプラセボ群よりも高率に認められた。 デュラグルチドに関する安全性プロファイルは、成人で報告されたものと一致していた。

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最新の薬剤情報追加の糖尿病治療ガイド2022-23/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、『糖尿病治療ガイド2022-2023』を発行した。本ガイドは、日本糖尿病学会が総力を挙げて編集・執筆したガイドブックで、コンパクトな1冊ながら、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までがわかりやすくまとめれている。内科医はもとより、他の診療科の医師、コメディカルスタッフなどにも好評で、現在広く活用されている。 今回の改訂では、イメグリミンや経口GLP-1受容体作動薬の追加など、2022年3月現在の最新の内容がアップデートされた。 制作した「糖尿病治療ガイド」編集委員会は、「本ガイドが、日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と期待を寄せている。主な改訂点・イメグリミンや経口GLP-1受容体作動薬の追加など、2022年3月現在の最新の薬剤情報にアップデート・かかりつけ医から糖尿病や腎臓の専門医・専門医療機関への紹介基準を、図を用いて明確に解説・上記だけでなく、低血糖時におけるグルカゴン点鼻粉末剤(バクスミー)の使用、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)設立の動きなど、内容全体をアップデート・「2型糖尿病の血糖降下薬の特徴」など図のアップデート・コラムなどを追加・改訂主な目次1.糖尿病:疾患の考え方2.診断3.治療4.食事療法5.運動療法6.薬物療法7.糖尿病合併症とその対策8.低血糖およびシックデイ9.ライフステージごとの糖尿病10.専門医に依頼すべきポイント11.病態やライフステージに基づいた治療の実例(31症例)付録・索引

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過去のものとは言わせない~SU薬の底力~【令和時代の糖尿病診療】第6回

第6回 過去のものとは言わせない~SU薬の底力~最近、新薬に押されてめっきりと処方数が減ったSU薬。低血糖を来しやすい、血糖変動が大きくなるなど罵詈雑言を並べ立てられ、以前はあれほど活躍していたのにもかかわらず、いまや悪者扱いされている。私が研修医のころは、経口薬といえばSU薬(BG薬はあったもののほとんど使われなかった)、注射剤といえばインスリン(それも速効型と中間型の2種類しかない)、加えて経口薬とインスリンの併用などはご法度だった時代である。同じような時代を生きてきた先生方にこのコラムを読んでいただけるか不安だが、今回はSU薬をテーマに熟年パワーを披露してみたい。最近の若手医師はこの薬剤をほとんど使用しなくなり、臨床的な手応えを知らないケースも多いだろう。ぜひ、つまらない記事と思わずに読んでいただきたい。もしかしたら考え方が変わるかもしれない。SU薬は、スルホンアミド系抗菌薬を研究していた際に、実験動物が低血糖を示したことで発見されたというユニークな経緯を持つ。1957年に誕生し、第一~三世代に分けられ、現在使用されているのは第二世代のグリベンクラミドとグリクラジド、第三世代のグリメピリドである。血糖非依存性のインスリン分泌促進薬で、作用機序は膵臓のβ細胞にあるSU受容体と結合してATP依存性K+チャネルを遮断し、細胞膜に脱分極を起こして電位依存性Ca2+チャネルを開口させ、細胞内Ca2+濃度を上昇させてインスリン分泌を促進する。血糖降下作用は強力だが、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬と違い、血糖非依存性のため低血糖には注意が必要で、日本糖尿病学会の治療ガイドには、使用上の注意として(1)高齢者では低血糖のリスクが高いため少量から投与を開始する、(2)腎機能や肝機能障害の進行した患者では低血糖の危険性が増大する、と記載されている。この2点に気を付けていただければ、コストパフォーマンスが最も良好な薬剤かと思われる。まずはこの一例を見ていただきたい。75歳男性。罹病歴29年の2型糖尿病で、併存疾患は高血圧、脂質異常症、高尿酸血症および肺非結核性抗酸菌症。三大合併症は認めていない。α-GI薬から開始し、その後グリニド薬に変更したが、14年前からSU薬+α-GI(グリメピリド1mg+ボグリボース0.9mg/日)に変更。体重も大きな増減なく標準体重を維持し、HbA1cは6%台前半で低血糖症状もなく、経過は良好であった。そこで主治医は、朝食後2時間値70~80mg/dLが時折見られることから無自覚低血糖の可能性も加味し、後期高齢者になったのを機にグリメピリドを1mgから0.5mgに減量したところ、HbA1cがなんと1%も悪化してしまった。症例:血糖コントロール(HbA1c)および体重の推移この患者には肺病変があるのでもともと積極的な運動はできず、HbA1cの季節性変動もない。また、食事量も変わりなく体重変化もないため、SU薬の減量がもっともらしい原因として考えられた。よって、慌てて元の量に戻したケースである。このような症例に出くわすことは、同世代の先生方には十分理解してもらえるだろう。いわゆる「由緒正しき日本人糖尿病」で、非肥満のインスリン分泌が少し低い患者である。これを読んでも、あえてSU薬を使う必要があるのかという反論もあろう。新しい経口糖尿病治療薬は、血糖降下作用のみならず大血管障害などに対し少なくとも非劣性であることが必要だが、最近の薬剤はむしろ大血管障害や腎症に対しても優越性を持つ薬剤が出てきているではないか。さらには、血糖依存性で低血糖が起こりにくく、高齢者にも使用しやすい。確かにそのとおりなのだが、エビデンスでいうとSU薬も負けてはいないのだ。次に説明する。最近の報告も踏まえたSU薬のエビデンス手前みそにはなるが、まずはわれわれの報告1)から紹介させていただく。2型糖尿病患者における経口血糖降下薬の左室心筋重量への影響画像を拡大するネットワークメタ解析を用いて、2型糖尿病患者における左室拡張能を左室心筋重量(LVM)に対する血糖降下薬の効果で評価した結果、SU薬グリクラジドはプラセボと比較してLVMを有意に低下させた唯一の薬剤だった(なお、この時SGLT2阻害薬は文献不足により解析対象外)。左室拡張能の関連因子として、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、脂肪毒性、インスリン抵抗性、凝固因子などが挙げられるが、なかでも線溶系活性を制御する凝固因子PAI-1(Plasminogen Activator Inhibitor-1)の血中濃度上昇は、血栓生成の促進、心筋線維化、心筋肥大、動脈硬化の促進および心血管疾患の発症と関連し、2型糖尿病患者では易血栓傾向に傾いていることが知られている。このPAI-1に着目し、2型糖尿病患者におけるSU薬の血中PAI-1濃度への影響をネットワークメタ解析で比較検討したところ、グリクラジドはほかのSU薬に比して血中PAI-1濃度を低下させた2)。これは、ADVANCE研究においてグリクラジドが投与された全治療強化群では心血管疾患の発症が少なかったことや、ACCORD研究においてグリクラジド以外の薬剤が投与された治療強化群での心血管疾患発症抑制効果は見られなかったことなど、大規模試験の結果でも裏付けられる。また、Talip E. Eroglu氏らのReal-Worldデータでは、SU薬単剤またはメトホルミンとの併用療法はメトホルミン単独療法に比べて突然死が少なく、さらにグリメピリドよりグリクラジドのほうが少ないという報告3)や、Tina K. Schramm氏らのnationwide studyでは、SU薬単剤はメトホルミンと比較して死亡リスクや心血管リスクを増加させるが、グリクラジドはほかのSU薬より少ないという報告4)もある。過去のものとは言わせない~SU薬の底力~以上より、SU薬のドラッグエフェクトによる違いについても注目すべきだろう。SU薬は血糖降下作用が強力で安価なため、世界各国では2番目の治療薬として少量から用いられており、わが国でも、やせ型の2型糖尿病患者の2~3剤目として専門医に限らず多く処方されている。結論として、SU薬の使用時は単剤で用いるよりは併用するほうが望ましく、少量で使用することにより安全で確実な効果が発揮できる薬剤だと理解できたかと思う。また、私見ではあるが、高齢者糖尿病が激増している中で、本来ならインスリンが望ましいが、手技的な問題や家庭状況により導入が難しい例、あるいは厳格なコントロールまでは必要ないインスリン分泌の少ない例などは良い適応かと考える。おまけに、とても安価である。決してお払い箱の薬剤ではないことも付け加えさせていただく!1)Ida S, et al. Cardiovasc Diabetol. 2018;17:129.2)Ida S, et al. Journal of Diabetes Research & Clinical Metabolism. 2018;7:1. doi:10.7243/2050-0866-7-1.3)Eroglu TE, et al. Br J Clin Pharmacol. 2021;87:3588-3598.4)Schramm TK, et al. Eur Heart J. 2011;32:1900-1908.

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新たなインクレチン関連薬(GIP/GLP-1受容体作動薬)がもたらす効果(解説:安孫子亜津子氏)

 わが国の2型糖尿病は欧米に比較してインスリン分泌能低下がメインの病態である患者が多いことが知られている。以前はSU薬中心であった2型糖尿病の治療が、2009年にDPP-4阻害薬が上梓されてからは、かなり多くの患者で使用され、SU薬の使用量が大きく減少した。さらにGLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬に比較して、より血糖低下効果が大きく、食欲抑制効果なども併せ持っていることから、その使用患者は増加してきており、とくに週1回注射のGLP-1受容体作動薬の登場後は、幅広い患者で使われるようになってきている。このようにインクレチン関連薬の有用性が認知されている中、新たなインクレチン関連薬としてGIP/GLP-1受容体作動薬「tirzepatide」が登場し、現在次々と臨床試験の結果が報告されてきている。 今回の論文はtirzepatideのインスリンへの追加の有効性、安全性を検証した第III相試験「SURPASS-5」である。40週でのHbA1cの低下効果は2%以上であり、現在使用されているGLP-1受容体作動薬の臨床試験結果と比較しても大きな低下効果である。これまでGIPは脂肪細胞に作用し体重を増加させる方向に働くと考えられていたが、tirzepatideでは用量依存性に5~8kg台の体重減少効果が認められた。もちろんインスリン使用量の減量も認められている。週1回投与であることも本剤の魅力である。消化器症状を主体とした有害事象は、GLP-1特有のものであり、一定数の出現が認められている。投与量増量のタイミングなどをうまく調整することで、より安全に本剤の有効性を引き出せる可能性がある。本論文の結果から、新たなインクレチン関連薬tirzepatideが本邦でも使用できるようになれば、さらに幅広い患者での良好な血糖および体重コントロールに寄与できることが期待できると考える。

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第101回 私が見聞きした“アカン”医療機関(中編) オンライン診療、新しいタイプの“粗診粗療”が増える予感

18都道府県に出ていた「まん延防止等充填措置」がやっと解除こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月21日、18都道府県に出ていた「まん延防止等充填措置」が解除されました。全面解除は実に約2ヵ月半ぶりです。ただ、これからの時期、お花見、春休み、新学期、新年度などで宴会や移動が活発化します。「第7波」に備えた体制は怠りなく進めておく必要がありそうです。ところで、先週のこのコラムで、「鈴木 誠也選手はサンディエゴ・パドレス、菊池 雄星投手はトロント・ブルージェイズと合意したとの報道もありました」と書きましたが、鈴木選手の情報は一部スポーツ紙の勇み足による“誤報”でした。その後、鈴木選手は歴史あるシカゴ・カブスと合意、契約しました。契約金は5年総額8,500万ドル(約101億3,000万円)と伝えられており、日本人野手の渡米時の契約としては、4年総額4,800万ドルの福留 孝介(当時、カブス)を上回る史上最高額とのことです。カブスと言えば「ヤギの呪い(Curse of the Billy Goat)」で有名なチームです。鈴木選手が何らかの呪いに襲われることなく、大活躍することを願っています(「ヤギの呪い」自体は2016年のワールドシリーズ優勝で解けたと言われていますが…)。さて、今回も前回に引き続き、少し趣向を変え、最近私や知人が体験した“アカン”医療機関について、書いてみたいと思います。【その3】オンライン診療ゆえの“マイルド”処方に困った友人新型コロナウイルス感染症のオミクロン株に感染した友人の話です。症状は軽快し、PCR検査も陰性となって療養解除となったのですが、数週間経ってもひどい咳がなかなか止みません。とくに夜間がひどく、「これは『いつもの処方』が必要だ」と感じた彼は、時節柄、外来診療ではなく近所のクリニックでオンライン診療を受けることにしました。「いつもの処方」とはステロイド内服薬の服用です。これまでも風邪などで気管支がひどくやられると、炎症が治まらずひどい咳が遷延することがたびたびありました。そんなときだけ、知り合いの呼吸器内科医に頼んで、ステロイド(プレドニゾロンなど)を頓服で処方してもらっていたのです。ただ、その呼吸器内科医は最近、遠方の病院に異動してしまったため、今回は渋々、呼吸器内科も標榜し、オンライン診療にも対応している近所のクリニックをネットで見つけ、受診することにしたわけです。ステロイド内服薬を出せない、出さないオンライン診療医LINEを用いてのオンライン診療は、初めての体験でとても緊張したそうです。これまでの咳治療の経験も詳しく説明し、「スパッ」と咳が止まるステロイド内服薬の処方を頼んでみたのですが、願いは叶えられなかったそうです。「結局、吸入薬のサルタノールインヘラーとツムラ麦門冬湯エキス顆粒が出されただけだった。粘ってみたんだけど…」と友人。サルタノールインヘラーは、β2アドレナリン受容体刺激剤です。ステロイドも入っている吸入薬(ブデホルなど)もあるはずなのに、それも避け、漢方を気休めに上乗せするというのは、幾多のしつこい咳と戦ってきた彼にとっては、効き目があまり期待できない“マイルド”過ぎる処方でした。「オンラインで初診だと、マイルドで安全な処方をしたくなるのはわかるが、患者側の意見もきちんと聞いて欲しい。これで咳にまだ数週間悩まされると思うとウンザリだ。結局、次は外来に来てくれと言われたし…」と、オンライン診療に不満たらたらの友人でした。処方箋が届いたのは診療から5日後実はこの話、これだけで終わりませんでした。水曜日にオンライン診療を受診し、「処方箋は郵送します」と言われたのですが、2日後の金曜になっても処方箋が届かなかったのです。金曜夕刻に診療所に電話すると、夜8時過ぎに、クリニックの事務職員が薬(おそらく院内調剤)を持って自宅にやって来たそうです。「処方箋はちゃんと郵送したのですが」と弁明する職員でしたが、現物が届いたのは翌週月曜でした。これは全く“アカン”ですね。最終的に彼は、最初の処方では全く軽快しませんでした。翌週末に外来を訪れ、今度はステロイドも入ったブデホルを入手することができ、その後徐々に快方に向かったそうです。新しいタイプの“粗診粗療”が増えるのではオンライン診療については、処方箋のやり取りと、薬剤のデリバリーが障害になることがある、とも聞きます。クリニックから薬局にファクスやメールで処方箋を送るにしても、その薬局が患者の近所にあるか、宅配を行っていなければなりません。また、そうしたオンライン診療の処方箋に対応できる“かかりつけ”薬局を持っている人もまだ多くはありません。診療から薬剤入手までのインターバルの解消は、オンライン診療普及に向けた大きな課題の一つでしょう。オンライン診療については、「第96回 2022年診療報酬改定の内容決まる(前編)オンライン診療初診から恒久化、リフィル処方導入に日医が苦々しいコメント」でも詳しく書きました。こうした新しい動きに対し、日本医師会の今村 聡副会長は3月2日の定例会見で、自由診療下でオンライン診療を活用し、GLP-1受容体作動薬のダイエット目的での不適切処方が横行している状況について問題提起をしました。今村氏は、「本来の治療に用いる医薬品が不適切に流通して健康な方が使用してしまうというような状況は、国民の健康を守るという日本医師会の立場としては看過できない」と話したとのことです。オンライン診療のこうした“悪用”は確かに問題ですが、私自身は、逆に友人が経験したような、対面でないために慎重になり、治療効果が低い、“マイルド”過ぎる薬剤を処方してしまうという、新しいタイプの“粗診粗療”が増えることを危惧しています。ステロイドと同様、抗菌薬も初診からの投与を嫌う医師が多い印象があります。診断が適切なら問題はないのですが、結局、2回目からはリアルの対面受診を余儀なくされ、本来服用が必要な薬にたどり着くまでに通院回数が増えるとしたら、オンライン診療のメリットはほぼないに等しいと思うのですが、皆さんどうでしょう。次回も、引き続き“アカン”医療機関を紹介します(この項続く)。

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糖尿病の合併症を「線」の血糖管理で防ぐ/アボットジャパン

 アボットジャパン合同株式会社は、同社が製造・販売する持続血糖測定器(CGM)の「FreeStyle リブレ」(以下「リブレ」と略す)が、2022年4月より「インスリン製剤の自己注射を1日1回以上行っている入院中の患者以外の患者」にも保険適用が拡大されることを受け、オンラインでメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、CGMの使用で把握できる血糖スパイクや夜間低血糖への対応のほか、糖尿病の合併症予防への効果、日常の糖尿病管理での活かし方などが説明された。思わしくない糖尿病患者の血糖コントロール セミナーでは、小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門 教授)を講師に迎え、「糖尿病治療が変わる-技術が可能にする新しい糖尿病管理」をテーマに行われた。 糖尿病の患者数(強く疑われる者、可能性を否定できない者含む)は2016年時点で2,000万人と推定され、合併症予防のための血糖コントロール目標値をHbA1c7.0%未満として診療が行われている。ただ、実際わが国のHbA1cの分布では、1型糖尿病では平均7.77%、2型糖尿病では平均7.1%と達成が難しい現状である(2019年)。 糖尿病の治療は、食事・運動療法などの生活習慣改善から始まり、血糖コントロールがうまくいかない場合、経口薬(メトホルミン、DPP-4阻害薬など)、注射薬(GLP-1受容体作動薬など)、インスリン注射へと進展していく。そして、注射薬になると血糖自己測定(SMBG)が保険適用となり、インスリンを1日3~4回注射している患者ではCGMも保険適用となる。 インスリン治療の課題として「低血糖」が指摘されている。低血糖は、短期的には意識障害などをもたらし、長期的には心血管障害の増加や認知機能への悪影響をもたらす。そして、インスリン治療に伴う「重症低血糖」への影響は60%以上との研究報告もあり、低血糖の発生をいかに抑えるかがインスリン治療での課題とされている。 実際、インスリン使用患者では保険適用としてSMBGで血糖変動を追うことができるが、1日数回のSMBGでは食後高血糖や夜間低血糖などを十分評価することが難しいとされている。また、SMBGは患者にとって大きな手間であり、ハードルの高い手技とされている。 そこでCGMが登場し、センサーが細胞間質液中のグルコース濃度を測定、血糖値に換算することで、血糖の推移を点ではなく、連続した「線」で表すことができるようになった。CGMにより、気付かれていなかった高血糖や低血糖が認識できるようになり、適切な治療法の選択や患者自身のより良い治療行動への進展ができるようになった。CGMの使用で適切な治療ができ、患者QOLも改善 今回保険適用が拡大されるリブレは、2016年5月に薬事承認を取得し、2017年1月より発売されている間歇スキャン式持続グルコース測定器。腕に500円玉大のセンサーを装着し、「かざす」だけで1日何度でも血糖値(グルコ―ス値)を確認し、「かざしていないとき」もセンサーは血糖値を連続して測定・記録する。センサーは14日間装着でき、容易に装着ができる。 発売後、国内外で臨床エビデンスがまとめられている。たとえば2型糖尿病患者の介入試験“REPLACE試験”では、HbA1cに変化はなかったものの、低血糖発現時間の短縮がみられた。また、日本人2型糖尿病患者を対象とした“SHIFT試験”では、ベースラインからの平均HbA1cの減少、血糖が好ましい範囲に入っている時間の割合(Time in range)の増加、患者満足度の向上もみられた。とくに患者のSMBGの回数が減り、リブレのスキャン回数が増加したほか、インスリンの使用量の増加も抑えられていた。 以上からリブレの臨床での使用により、低血糖の減少、血糖コントロールの改善、急性糖尿病関連イベントの改善、患者QOLの改善につながる効果が期待されている。また、2022年4月の保険改定でCGMが「インスリン製剤の自己注射を1日1回以上行っている」と条件が緩和されることで、より使用できる対象が拡大する。 最後に小川氏は、「こうした新しい診療機器の使用により、適切な薬剤、治療法の選択、血糖状況の把握による患者の療養行動の変化により、低血糖など短期イベント、慢性合併症など長期イベントの軽減ができ、患者の健康寿命の延伸と良好なQOLの実現ができる」と糖尿病診療の展望を語り、講演を終えた。

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GIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatide併用で、血糖コントロール改善/JAMA

 インスリン グラルギンで血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者の治療において、インスリン グラルギンにデュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideを追加する治療法はプラセボの追加と比較して、40週後の血糖コントロールが統計学的に有意に改善し、用量により5~9kgの体重減少が得られたとの研究結果が、ドイツ・Gemeinschaftspraxis fur innere Medizin und DiabetologieのDominik Dahl氏らによって報告された(SURPASS-5試験)。研究の成果は、JAMA誌2022年2月8日号に掲載された。8ヵ国45施設のプラセボ対照無作為化第III相試験 研究グループは、血糖コントロールが不良な2型糖尿病患者におけるインスリン グラルギンへのtirzepatide追加の有効性と安全性の評価を目的に、二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を実施し、2019年8月~2020年3月の期間に、日本を含む8ヵ国45施設で患者の登録を行った(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病の成人患者で、一定用量のインスリン グラルギン(>20 IU/日または>0.25 IU/kg/日)±メトホルミン(≧1,500mg/日)の投与を受け、ベースラインの糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が7.0~10.5%(53~91mmol/mol)、BMIが≧23の集団であった。 被験者は、tirzepatide 5mg、同10mg、同15mg、プラセボを週1回、40週間皮下投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。tirzepatideの初回投与量は2.5mg/週とされ、割り付けられた用量に達するまで4週ごとに2.5mgずつ増量された。すべての患者が、インスリン グラルギンの1日1回の投与を継続した。 主要エンドポイントは、HbA1c値のベースラインから40週までの変化量とされた。HbA1c値<7%達成率8割以上、インスリン用量も少ない 475例(平均年齢[SD]60.6[9.9]歳、女性211例[44%])が無作為化の対象となり、全例が試験薬の投与を少なくとも1回受けた(tirzepatide 5mg群116例、同10mg群119例、同15mg群120例、プラセボ群120例)。全体のベースラインの平均HbA1c値(SD)は8.31(0.85)%、平均BMIは33.4、平均糖尿病罹患期間は13.3年、インスリン グラルギンの投与量中央値は30.0 IU/日で、394例(82.9%)がメトホルミンの投与を受けていた。 451例(94.9%)が試験を完遂し、424例(89.3%)が試験治療をすべて終了した。早期の投与中止は、tirzepatide 5mg群が10%、同10mg群が12%、同15mg群が18%、プラセボ群は3%で発生した。 40週時の平均HbA1c値のベースラインからの変化量は、tirzepatide 10mg群が-2.40%、同15mg群は-2.34%であり、プラセボ群の-0.86%に比べいずれの用量とも有意に低下した(プラセボ群との差 10mg群:-1.53%[97.5%信頼区間[CI]:-1.80~-1.27]、15mg群:-1.47%[-1.75~-1.20]、いずれもp<0.001)。また、5mg群の平均HbA1c値のベースラインからの変化量は-2.11%であり、プラセボ群に比し有意に改善した(群間差:-1.24%、95%CI:-1.48~-1.01、p<0.001)。 平均体重のベースラインからの変化量は、tirzepatide 5mg群が-5.4kg、同10mgが-7.5kg、同15mg群は-8.8kgであり、プラセボ群の1.6kgに比べいずれも有意に減少した(プラセボ群との差 5mg群:-7.1kg[95%CI:-8.7~-5.4]、10mg群:-9.1kg[-10.7~-7.5]、15mg群:-10.5kg[-12.1~-8.8]、すべてp<0.001)。 40週時にHbA1c値<7%を達成した患者の割合は、tirzepatide 5mg群が87.3%、同10mgが89.6%、同15mgは84.7%であり、プラセボ群の34.5%と比較していずれも有意に高かった(すべてp<0.001)。また、空腹時血糖値のベースラインからの変化量は、tirzepatide群はそれぞれ-58.2mg/dL、-64.0mg/dL、-62.6mg/dLであり、プラセボ群の-39.2mg/dLに比べいずれも有意に低下した(すべてp<0.001)。インスリン グラルギンの用量の変化量も、3つの用量のtirzepatide群で有意に低かった(5mg群:4.4 IU、10mg:2.7 IU、15mg群:-3.8 IU、プラセボ群:25.1 IU、プラセボ群との差は3つの用量群のすべてでp<0.001)。 治療下で発現した有害事象が少なくとも1件認められた患者の割合は、tirzepatide 5mg群が73.3%、同10mg群が68.1%、同15mg群が78.3%、プラセボ群は67.5%であった。 最も頻度が高かったのは消化器症状で、下痢がtirzepatide 5mg群12.1%、同10mg群12.6%、同15mg群20.8%、プラセボ群10.0%で発現し、吐き気がそれぞれ12.9%、17.6%、18.3%、2.5%でみられたが、ほとんどが軽度~中等度であった。 重篤な有害事象は、tirzepatide 5mg群7.8%、同10mg群10.9%、同15mg群7.5%、プラセボ群8.3%で発現した。試験薬の投与中止の原因となった有害事象は、それぞれ6.0%、8.4%、10.8%、2.5%で認められた。低血糖(血糖値<54mg/dL)の発現率は、15.5%、19.3%、14.2%、12.5%であり、重症低血糖は3例(10mg群2例、15mg群1例)で報告された。 著者は、「本試験の結果は、基礎インスリンとtirzepatideの併用に関する臨床的に重要な情報をもたらし、この治療選択肢を考慮する際に、臨床医にとって有用なものとなるだろう」としている。

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標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性【令和時代の糖尿病診療】第5回

第5回 標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性今回のテーマであるビグアナイド(BG)薬は、「ウィキペディア(Wikipedia)」に民間薬から糖尿病治療薬となるまでの歴史が記されているように、なんと60年以上も前から使われている薬剤である。一時、乳酸アシドーシスへの懸念から使用量が減ったものの、今や2型糖尿病治療において全世界が認めるスタンダード薬であることは周知の事実である。そこで、メトホルミンの治療における重要性と作用のポイント、その多面性から血糖降下薬を超える“Beyond Glucose”の可能性もご紹介しようかと思う。なお、ビグアナイドにはフェンフォルミン、メトホルミン、ブホルミンとあるが、ここから先は主に使用されているメトホルミンについて述べる。作用機序から考えるその多面性まず、メトホルミンについて端的にまとめると、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中ではインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用は肝臓での糖新生抑制である。低血糖のリスクは低く、体重への影響はなしと記載されている。そして主要なエビデンスとしては、肥満の2型糖尿病患者に対する大血管症抑制効果が示されている。主な副作用は胃腸障害、乳酸アシドーシス、ビタミンB12低下などが知られる。作用機序は、肝臓の糖新生抑制だけを見ても、古典的な糖新生遺伝子抑制に加え、アデニル酸シクラーゼ抑制、グリセロリン酸シャトル抑制、中枢神経性肝糖産生制御、腸内細菌叢の変化、アミノ酸異化遺伝子抑制などの多面的な血糖降下機序がわかっている2)。ほかにも、メトホルミンはAMPキナーゼの活性化を介した多面的作用を併せ持ち、用量依存的な効果が期待される(下図)。図1:用量を増やすとAMPキナーゼの活性化が促進され、作用が増強する1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンの大規模臨床試験が欧米で実施された。その結果、これまで汎用されてきたSU薬と比較しても体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善するなどのメリットが明らかになった。これにより、わが国においても(遅ればせながら)2010年にメトホルミンの最高用量が750mgから2,250mgまで拡大されたという経緯がある。メトホルミンの作用ポイントと今後の可能性それでは、メトホルミンにおける(1)多面的な血糖降下作用(2)脂質代謝への影響(3)心血管イベントの抑制作用の3点について、用量依存的効果も踏まえてみてみよう。(1)多面的な血糖降下作用メトホルミンもほかの血糖降下薬と同様に、投与開始時のHbA1cが高いほど大きい改善効果が期待でき、肥満・非肥満によって血糖降下作用に違いはみられない。用量による作用としては、750mg/日で効果不十分な場合、1,500mg/日に増量することでHbA1cと空腹時血糖値の有意な低下が認められ、それでも不十分な場合に2,250mg/日まで増量することでHbA1cのさらなる低下が認められている(下図)。また、体重への影響はなしと先述したが、1,500mg/日以上使用することにより、約0.9kgの減量効果があるとされている。図2:1,500mg/日での効果不十分例の2,250mg/日への増量効果画像を拡大するさらには高用量(1,500mg以上)の場合、小腸上部で吸収しきれなかったメトホルミンが回腸下部へ移行・停滞し、便への糖排泄量が増加するといわれており、小腸下部での作用も注目されている。これは、メトホルミンの胆汁酸トランスポーター(ASBT)阻害作用により再吸収されなかった胆汁酸が、下部消化管のL細胞の受容体に結合し、GLP-1分泌を促進させるというものである(下図)3)。図3:メトホルミンによるGLP-1分泌促進機構(仮説)画像を拡大するまた、in vitroではあるが、膵β細胞に作用することでGLP-1・GIP受容体の遺伝子発現亢進をもたらす可能性が示唆されている4)。よって、体重増加を来しにくく、インクレチン作用への相加効果が期待できるメトホルミンとインクレチン製剤(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)の併用は相性が良いといわれている。(2)脂質代謝への影響あまり知られていない(気に留められていない?)脂質代謝への影響だが、メトホルミンは肝臓、骨格筋、脂肪組織においてインスリン抵抗性を改善し、遊離脂肪酸を低下させる。また、肝臓においてAMPキナーゼの活性化を介して脂肪酸酸化を亢進し、脂肪酸合成を低下させることによりVLDLを低下させるという報告がある5)。下に示すとおり、国内の臨床試験でSU薬にメトホルミンを追加投与した結果、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TG)が低下したが、有意差は1,500mg/日投与群のみで750mg/日ではみられない。糖尿病専門医以外の多くの先生方は500~1,000mg/日までの使用が多いであろうことから、この恩恵を受けられていない可能性も考えられる。図4:TC、LDL-C、TGは、1,500mg/日投与群で有意な低下がみられる画像を拡大する(3)心血管イベントの抑制作用メトホルミンの心血管イベントを減らすエビデンスは、肥満2型糖尿病患者に対する一次予防を検討した大規模臨床試験UKPDS 346)と、動脈硬化リスクを有する2型糖尿病患者に対する二次予防を検討したREARCHレジストリー研究7)で示されている。これは、体重増加を来さずにインスリン抵抗性を改善し、さらに血管内皮機能やリポ蛋白代謝、酸化ストレスの改善を介して、糖尿病起因の催血栓作用を抑制するためと考えられている8)。ここまで主たる3点について述べたが、ほかにもAMPKの活性化によるがんリスク低減や、がん細胞を除去するT細胞の活性化、そして糖尿病予備軍から糖尿病への移行を減らしたり、サルコペニアに対して保護的に働く可能性などを示す報告もある。さらに、最近ではメトホルミンが「便の中にブドウ糖を排泄させる」作用を持つことも報告9)されており、腸がメトホルミンの血糖降下作用の多くを担っている可能性も出てきている。しかし、どんな薬物治療にも限界がある。使用に当たっては、日本糖尿病学会からの「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」に従った処方をお願いしたい。今や医学生でも知っている乳酸アシドーシスのリスクだが、過去の事例を見ると、禁忌や慎重投与が守られなかった例がほとんどだ。なお、投与量や投与期間に一定の傾向は認められず、低用量の症例や投与開始直後、あるいは数年後に発現した症例も報告されている。乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴としては、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)、2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態、3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、4.高齢者とあるが、まずは経口摂取が困難で脱水が懸念される場合や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以上1~4の事項に留意する。とくに腎機能障害患者については、2019年6月の添付文書改訂でeGFRごとの最高用量の目安が示され、禁忌はeGFRが30未満の場合となっているため注意していただきたい。図5:腎機能(eGFR)によるメトホルミン最高投与量の目安画像を拡大するBasal drug of Glucose control&Beyond Glucose、それがBG薬まとめとして、最近の世界動向をみてみよう。米国糖尿病学会(ADA)は昨年12月、「糖尿病の標準治療2022(Standards of Medical Care in Diabetes-2022)」を発表した。同文書は米国における糖尿病の診療ガイドラインと位置付けられており、新しいエビデンスを踏まえて毎年改訂されている。この2022年版では、ついにメトホルミンが2型糖尿病に対する(唯一の)第一選択薬の座から降り、アテローム動脈硬化性疾患(ASCVD)の合併といった患者要因に応じて第一選択薬を判断することになった。これまでは2型糖尿病治療薬の中で、禁忌でなく忍容性がある限りメトホルミンが第一選択薬として強く推奨されてきたが、今回の改訂で「第一選択となる治療は、基本的にはメトホルミンと包括的な生活習慣改善が含まれるが、患者の合併症や患者中心の医療に関わる要因、治療上の必要性によって判断する」という推奨に変更された。メトホルミンが第一選択薬にならないのは、ASCVDの既往または高リスク状態、心不全、慢性腎臓病(CKD)を合併している場合だ。具体的な薬物選択のアルゴリズムは、「HbA1cの現在値や目標値、メトホルミン投与の有無にかかわらず、ASCVDに対する有効性が確認されたGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬を選択する」とされ、考え方の骨子は2021年版から変わっていない。もちろん、日本糖尿病学会の推奨は現時点で以前と変わらないことも付け加えておく。メトホルミンが、これからもまだまだ使用され続ける息の長い良薬であろうことは間違いない。ぜひ、Recommendationに忠実に従った上で、用量依存性のメリットも感じていただきたい。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)松岡 敦子,廣田 勇士,小川 渉. PHARMA MEDICA. 2017;35:Page:37-41.3)草鹿 育代,長坂 昌一郎. Diabetes Frontier. 2012;23:47-52.4)Cho YM, et al. Diabetologia. 2011;54:219-222.5)河盛隆造編. 見直されたビグアナイド〈メトホルミン〉改訂版. フジメディカル出版;2009.6)UKPDS Group. Lancet. 1998;352:854-865.7)Roussel R, et al. Arch Intern Med. 2010;170:1892-1899.8)Kipichnikov D, et al. Ann Intern Med. 2002;137:25-33.9)Yasuko Morita, et.al. Diabetes Care. 2020;43:1796-1802.

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非糖尿病肥満患者に対するセマグルチド2.4mg/週の体重減少作用はリラグルチド3.0mg/日より優れている(解説:住谷哲氏)

 STEPは抗肥満薬としてのセマグルチド2.4mg/週の臨床開発プログラムである。セマグルチド1.0mg/週を対照薬としたSTEP 2を除いて、STEP 1~7はすべてプラセボ対照試験であったが、本試験STEP 8ではリラグルチド3.0mg/日がactive comparatorに設定された。試験デザインも他のSTEPと同様で観察期間は68週とされた。 結果は68週後の体重減少率はセマグルチド2.4mg/週の-15.8%に対してリラグルチド3.0mg/日では-6.4%であり、セマグルチド2.4mg/週群が有意に優れていた。一方、治療中断率はセマグルチド群13.5%に対してリラグルチド群27.6%であった。 セマグルチドとリラグルチドとの体重減少作用は、両者ともに摂取カロリーの減少によることが報告されている。しかしfood cravings(適当な訳語が見当たらないが、単なる空腹感hungerとは異なり、特定の食物に対する異常な空腹感を指す)を抑制する作用はリラグルチドよりもセマグルチドがより強力であることも知られている。本試験の結果だけを見ると、抗肥満薬としてセマグルチドではなくリラグルチドを選択する理由は見当たらないが、food cravingsがあまりない患者ではリラグルチドが有用である場合もあるかもしれない。 肥満が重大な健康問題である米国では、リラグルチド3.0mg/日およびセマグルチド2.4mg/週はそれぞれ抗肥満薬Saxenda®、Wegovy®として認可されている。英国でも近々Wegovy®が認可されるようであるが1)、英国での適応は米国よりも厳格で、BMI≧35kgm2で肥満関連健康障害を有する患者で、使用は2年以内に限定される。著明な肥満患者が増加しつつあるわが国においても、GLP-1受容体作動薬が抗肥満薬として認可されることが期待される。

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非糖尿病肥満の体重変化率、セマグルチドvs.リラグルチド/JAMA

 非糖尿病の過体重または肥満の成人において食事および運動療法のカウンセリングを行ったうえで、週1回投与のセマグルチド皮下注は1日1回投与のリラグルチド皮下注よりも、68週時点の体重減少が有意に大きかったことが示された。米国・Washington Center for Weight Management and ResearchのDomenica M. Rubino氏らによる検討で、これまでGLP-1受容体作動薬のセマグルチドとリラグルチドを比較した第III相試験は行われていなかった。JAMA誌2022年1月11日号掲載の報告。BMI30以上、BMI27以上+体重関連併存疾患の338例を対象に試験 研究グループは、過体重または肥満者における、週1回投与のセマグルチド皮下注(2.4mg)と1日1回投与のリラグルチド皮下注(3.0mg)の有効性と有害事象プロファイルを比較する68週にわたる第IIIb相非盲検無作為化試験を実施した。 米国19地点で、2019年9月に登録を開始し(登録期間:9月11日~11月26日)、2021年5月まで追跡した(最終フォローアップ:5月11日)。被験者は、BMI値30以上または27以上で1つ以上の体重関連の併存疾患を有する、糖尿病は有していない成人338例とした。 被験者は3対1対3対1の割合で、週1回セマグルチド2.4mg皮下注投与群(16週間で漸増、126例)またはマッチングプラセボ群、1日1回リラグルチド3.0mg皮下注投与群(4週間で漸増、127例)またはマッチングプラセボ群に割り付けられ、それぞれ投与を受けた。加えて全員に食事療法と運動療法が行われた。また、セマグルチド2.4mg投与に不耐の場合は同1.7mgへの変更が認められた。リラグルチドに不耐の場合は、試験を中断するが、再開後に4週間の漸増が可能であった。解析では、プラセボ群は統合された(85例)。 主要エンドポイントは体重変化率で、確証的副次エンドポイントは、セマグルチド群vs.リラグルチド群について68週時点で評価した10%以上、15%以上、20%以上体重減少それぞれの達成割合とした。 セマグルチドvs.リラグルチドの比較は非盲検で行い、実薬治療群はプラセボ群について二重盲検化された。実薬治療群と統合プラセボ群の比較は、補完的副次エンドポイントとして評価が行われた。68週後の体重変化率、セマグルチド群-15.8% vs.リラグルチド群-6.4% 被験者338例の平均年齢は49(SD 13)歳、78.4%(265例)が女性、平均体重は104.5(SD 23.8)kg、平均BMI値は37.5(SD 6.8)だった。試験を完了したのは319例(94.4%)で、治療を完了したのは271例(80.2%)だった。 ベースラインからの平均体重変化率は、セマグルチド群-15.8%、リラグルチド群-6.4%だった(群間差:-9.4ポイント、95%信頼区間[CI]:-12.0~-6.8、p<0.001)。統合プラセボ群の平均体重変化率は、-1.9%だった。 10%以上、15%以上、20%以上の体重減少の達成割合は、いずれもセマグルチド群がリラグルチド群より大きく、それぞれ、70.9% vs.25.6%(オッズ比[OR]:6.3、95%CI:3.5~11.2)、55.6% vs.12.0%(7.9、4.1~15.4)、38.5% vs.6.0%(8.2、3.5~19.1)だった(いずれもp<0.001)。 なお、治療を中止した人の割合は、セマグルチド群が13.5%、リラグルチド群は27.6%だった。胃腸関連有害イベントは、それぞれ84.1%と82.7%で報告された。

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第25回 糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第25回 糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法Q1 糖尿病診療における高齢者総合機能評価とは?なぜ重要なのですか?高齢者糖尿病では老年症候群の認知機能障害、フレイル、ADL低下、転倒、うつ状態、低栄養、ポリファーマシーなどが約2倍きたしやすくなります1)。また、疾患としては認知症、サルコペニア、脳卒中、骨関節疾患などの併存症も多くなります。さらに、孤立、閉じこもり、経済的な問題など社会的な問題も伴いやすくなります。こうした多岐にわたる診療上の問題点に対して、疾患よりも心身機能に焦点を当てて、多職種でその機能を改善する老年医学的アプローチが高齢者総合機能評価です。英語のComprehensive geriatric assessmentを略してCGAと呼ばれています。糖尿病におけるCGAは身体機能、認知機能、栄養、薬剤、心理状態、社会状況の6つの領域を評価するのがいいと考えています。そうした場合、栄養のことは栄養士、薬剤のことは薬剤師、心理と社会のことは看護師、心理士、ケースワーカーなどと協力して評価すると詳細に評価できると思います。入院患者のCGAの場合は、こうした多職種が分担して評価し、カンファレンスを行って、6つの領域に対する対策をチームで立てることができます。高齢者にチームでCGAを行うと、死亡や施設入所のリスクを低下させることができるというメタ解析の結果が得られています2)。Q2 糖尿病診療における高齢者総合機能評価で実際に評価すべき項目、用いるツールは?身体機能では手段的ADL、基本的ADL、フレイル、サルコぺニア、転倒、視力、聴力、巧緻機能などを評価します。手段的ADLと基本的ADLはLawtonの指標やBarthel指標で評価できますが、簡易に評価する場合はDASC-8(第7回参照)の質問の一部を使うことができます。フレイルはJ-CHS基準または基本チェックリストで評価しますが、歩行速度の測定が難しい施設では簡易フレイルインデックス(表1)が便利です。J-CHS基準や簡易フレイルインデックスは3項目以上、基本チェックリストでは8点以上がフレイルです。サルコペニアはAWGS2019による診断基準で診断しますが、臨床的には握力測定か5回椅子立ち上がりテストを行うのがいいと思います。握力は男性で28kg未満、女性で18kg未満が低下となります(第24回参照)。視力や巧緻機能はインスリン注射が可能かの判断に重要です。画像を拡大する認知機能では認知機能全般だけでなく、記憶力、遂行機能(実行機能)、注意力、空間認識など糖尿病で低下しやすい領域を評価することもあります。認知機能全般はMMSEまたは改訂長谷川式知能検査で評価する場合が多いです。DASC-21またはDASC-8は日常生活に関して質問する指標なので、メディカルスタッフや介護職が行うのがいいと思います。DASC-21は31点以上が認知症疑いとなります。MMSEがそれほど低下しなくてもインスリン注射などの手技ができない場合は、時計描画試験を行って遂行機能が障害されていないかを確かめます。MoCAは糖尿病患者のMCIのスクリーニング検査として有用です。MoCA25点以下がMCI疑いですが、臨床的には23点以下が実態に合っているように思います。心理状態はうつ状態、不安、QOL低下があるかをチェックします。うつはGDS15で評価しますが、短縮版のGDS5や基本チェックリストの5問の質問も利用できます。栄養では低栄養として体重減少、BMI低値、食事摂取の低下などを評価します。MNA-SFは低栄養のスクリーニングとして利用できます。また、腹部肥満の指標として腹囲を測定します。薬剤では、服薬や注射のアドヒアランス低下、ポリファーマシー、有害事象の有無を評価します。社会状況では、孤立、閉じこもり、社会参加、家族サポート、介護保険の要介護認定、住宅環境、経済状況などをチェックします。孤立や閉じこもりは社会的フレイルの重要な要素で、それぞれ同居家族以外の人の交流が週1回未満、外出が1日1回未満が目安となります。高齢糖尿病患者におけるCGAは入院患者の治療方針を決める場合に行い、外来では可能ならば年に1回、あるいは心身機能に変化があると考える場合に施行することが望ましいと考えます。Q3 外来診療で簡易に高齢者総合機能評価を行う方法はありますか?Q2でご紹介した高齢者総合機能評価(CGA)の項目は入院患者などが対象で、評価する時間と人手がある場合に行うものです。外来診療で簡易にCGAを行う例をご紹介したいと思います(図1)。画像を拡大するまず、身体機能と認知機能を簡易にスクリーニングするために、DASC-8またはDAFS-8を行います。DASC-8は以前にご紹介したように認知(記憶、時間見当識)、手段的ADL(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理)、基本的ADL(食事、トイレ、移動)の8問を4段階で評価し、合計点を出します(第7回参照)。DAFS-8は知的活動(新聞を読む)、社会活動(友人を訪問)、手段的ADL(買い物、食事の用意、金銭管理)、基本的ADL(食事、トイレ、移動)の8問からなり、知的・社会活動、手段的ADLは老研式活動能力指標から5問、Barthel指標から3問をとっています(表2)。DAFS-8はDASC-8と比べて基本的ADL以外は2者択一の質問なので聞きやすいという利点があります。DASC-8とDAFS-8のいずれも総合点によって3つのカテゴリー分類を行うことができ、血糖コントロール目標を設定することができます3,4)。画像を拡大するカテゴリーII以上で認知機能の精査を希望する場合はMMSEや改訂長谷川式知能検査を行います(第4回参照)。また、カテゴリーII以上はフレイル・サルコペニアがないかをチェックします。まず、握力の測定をします。さらに、簡易フレイルインデックスの体重減少、物忘れ、疲労感、歩行速度の低下、身体活動の低下の有無を質問し、フレイルをスクリーニングします。座位時間が長くなっていないかも身体活動を評価するのに参考になります。さらに、糖尿病の診療で従来から行っている栄養、薬剤、心理、社会面の評価を追加すればCGAとなります。外来でも多職種で分担すると効率的にCGAを行うことができます。当センターの糖尿病外来では初診時の問診項目にDASC-8を加えて、看護師が聴取するようになっています。Q4 評価結果を実際どのような考え方で治療・介入に結びつけていますか?こうしたCGAでは領域ごとに対策を立てることが大切です。カテゴリーII以上では身体活動量低下、フレイル・サルコペニア、アドヒアランス低下、社会ネットワーク低下の頻度が増加することが明らかになっています5)。したがって、カテゴリーII以上では、適正なエネルギーと十分なタンパク質を摂り、坐位時間を短くするように指導し、レジスタンス運動を含む運動を週2回以上行うことを勧めます。服薬アドヒアランス低下の対策は治療の単純化であり、服薬数や服薬回数を減らすこと、服薬タイミングの統一、一包化(SU薬を除く)、配合剤の利用などが挙げられます。インスリン治療の単純化は複数回のインスリン注射を(1)1日1回の持効型インスリン、(2)週1回のGLP-1受容体作動薬、または(3)持効型インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更していくことです。この治療の単純化はアドヒアランスの向上だけでなく、血糖のコントロールの改善や低血糖の防止を目指して行うことが大切です。カテゴリーIIIの場合は減薬・減量の可能性も考慮します。社会的な対策として、カテゴリーII以上で孤立や閉じこもりがある場合には社会参加を促し、通いの場などで運動、趣味の活動、ボランティアなどを行うことを勧めます。介護保険の要介護認定を行い、デイケア、デイサービスを利用することも大切です。また、訪問看護師により、インスリンなどの注射の手技の確認や週1回のGLP-1受容体作動薬の注射を依頼することもできます。1)Araki A, Ito H. Geriatr Gerontol Int 2009;9:105-114.2)Ellis G, et al. BMJ. 2011 Oct 27;343:d6553. 3)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1458-1462.4)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int 2021;21:512-518.5)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2020; 20:1157-1163.

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tirzepatideの効果、心血管高リスク2型DMでは?/Lancet

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの週1回投与は、インスリン グラルギンと比較し52週時点のHbA1c値低下について優越性が示され、低血糖の発現頻度も低く、心血管リスクの増加は認められないことが示された。イタリア・ピサ大学のStefano Del Prato氏らが、心血管への安全性評価に重点をおいた第III相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURPASS-4試験」の結果を報告した。Lancet誌オンライン版2021年10月18日号掲載の報告。tirzepatideの3用量(5、10、15mg)とインスリン グラルギンを比較 試験は、14ヵ国、187施設において実施された。適格患者は、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬のいずれかの単独または併用投与による治療を受けており、ベースラインのHbA1c値が7.5~10.5%、BMI値25以上、過去3ヵ月間の体重が安定している2型糖尿病の成人患者で、心血管リスクが高い患者とした。心血管リスクが高い患者とは、冠動脈・末梢動脈・脳血管疾患の既往がある患者、または慢性腎臓病の既往がある50歳以上の患者で、推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2未満またはうっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスII/III)の既往がある患者と定義した。 研究グループは、被験者をtirzepatideの5mg群、10mg群、15mg群またはインスリン グラルギン(100U/mL)群に1対1対1対3の割合で無作為に割り付け、tirzepatideは週1回、インスリン グラルギンは1日1回皮下投与した。tirzepatideは2.5mgより投与を開始し、設定用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。インスリン グラルギンは10U/日で開始し、自己報告による空腹時血糖値が100mg/dL未満に達するまで漸増した。52週間投与した時点で有効性の主要評価項目について解析し、その後、心血管疾患に関する追加データを収集するため最大で52週間の追加治療を行った。 有効性の主要評価項目はベースラインから52週までのHbA1c値の変化量で、tirzepatide(10mg、15mg)のインスリン グラルギンに対する非劣性(非劣性マージン 0.3%)および優越性を検証した。安全性として、心血管死、心筋梗塞、脳卒中および不安定狭心症による入院の複合エンドポイント(MACE-4)についても評価した。10、15mg群で血糖降下作用の非劣性・優越性を確認、心血管リスクに差はなし 2018年11月20日~2019年12月30日に、3,045例がスクリーニングされ、2,002例が無作為に割り付けられた。治験薬の投与を1回以上受けた修正ITT集団は1,995例で、tirzepatide 5mg群329例(17%)、10mg群328例(16%)、15mg群338例(17%)、インスリン グラルギン群1,000例(50%)であった。 52週時点におけるHbA1c値のベースラインからの変化量(最小二乗平均値±SE)は、tirzepatide 10mg群-2.43±0.053%、15mg群−2.58±0.053%、グラルギン群-1.44±0.030%であった。グラルギン群に対する推定治療差は、10mg群で−0.99%(97.5%CI:−1.13~−0.86)、15mg群で−1.14%(97.5%CI:−1.28~−1.00)であり、非劣性および優越性が確認された。 有害事象については、tirzepatide群で悪心(12~23%)、下痢(13~22%)、食欲不振(9~11%)、嘔吐(5~9%)の発現頻度がグラルギン群(それぞれ2%、4%、<1%、<2%)より高かったが、ほとんどが軽症~中等度で、用量漸増期に生じた。低血糖(血糖値<54mg/dLまたは重症)の発現頻度は、tirzepatide群(6~9%)がグラルギン群(19%)より低く、とくにSU薬を用いていない患者で顕著であった(tirzepatide群1~3%、グラルギン群16%)。 MACE-4のイベントは全体で109例に認められた。tirzepatide 5mg群19例(6%)、10mg群17例(5%)、15mg群11例(3%)で、tirzepatide群合計で47例(5%)、インスリン グラルギン群では62例(6%)であった。tirzepatide群のグラルギン群に対するMACE-4イベントのハザード比は0.74(95%信頼区間:0.51~1.08)であり、MACE-4のリスク増加は認められなかった。試験期間中の死亡はtirzepatide群で25例(3%)、グラルギン群で35例(4%)、計60例確認されたが、いずれも試験薬との関連性はないと判定された。

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デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの血糖降下作用および体重減少作用は基礎インスリン デグルデクより優れている(解説:住谷哲氏)

 SURPASS-3はデュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの臨床開発プログラムSURPASS seriesの一つであり、基礎インスリンであるデグルデクとのhead-to-head試験である。2018年にADA/EASDの血糖管理アルゴリズムがGLP-1受容体作動薬を最初に投与すべき注射薬として推奨するまでは、経口血糖降下薬のみで目標とする血糖コントロールが達成できない場合には基礎インスリンの投与がgold standardであった。特に持効型インスリンであるグラルギンの登場後は、BOT(basal-supported oral therapy)として広く一般臨床でも用いられるようになっている。 tirzepatideは5mg、10mg、15mgの3用量が設定され、2.5mg/週から開始し4週ごとに増量された。一方デグルデクは10単位/日から開始し、treat-to-target法により自己血糖測定による空腹時血糖値FBG<90mg/dLを目標として1週間ごとに増量された。デグルデクは毎日投与であるがtirzepatideは週1回投与であり、maskingは不可能であるため試験デザインはopen-labelである。 結果は、主要評価項目である52週後のHbA1c低下量は、3用量のすべてにおいてデグルデク群に対する優越性が示された。副次評価項目である体重減少量も、HbA1cと同様に3用量のすべてにおいてデグルデク群に対する優越性が示された。さらにHbA1c<7.0%、HbA1c<6.5%、HbA1c<5.7%の達成率も、tirzepatideの3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも有意に高値であった。treat-to-target法を用いたことにより、FBGについては、5mg投与群ではデグルデク群に比して有意に高値であったが、10mgおよび15mg群ではデグルデク群との間に有意差は認められなかった。この結果から予想されるように、血糖日内変動における食後2時間後血糖値は、3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも有意に低値であった。有害事象についても、<54mg/dLの低血糖の頻度は3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも少なかった。 経口血糖降下薬の多剤併用療法でも目標血糖値が達成されない患者において、次のステップとして基礎インスリン投与によるBOTが開始されることは現在でも少なくない。現時点でBOTは次第にGLP-1受容体作動薬に置き換わりつつあるが、近い将来デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬に置き換わるのも現実的になってきたと思われる。

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SGLT2阻害薬は主役か?それとも脇役か?【令和時代の糖尿病診療】第2回

第2回 SGLT2阻害薬は主役か?それとも脇役か?前回のGLP-1受容体作動薬に続き、今回はSGLT2阻害薬について、実話と私見に基づき述べていく。この薬剤もまた、生誕7年とまだまだ若い経口糖尿病治療薬である。発売当初は「尿に糖を捨てるだけの単純な薬」と認識され、糖尿病専門医の間でもあまり評価はされず、期待もされていない薬剤だったと記憶している。1つ、この薬剤があまり浸透していなかったためか、当時の面白いエピソードがあるので紹介させていただく。SGLT2阻害薬を服用中の患者さんで、会社の健康診断を受けた際、当然のことながら尿糖4+という結果が出た。本人はこの薬剤を飲んでいることを医師に告げたが、「“血糖コントロール不良”と言われた」と私に笑顔で伝えてくれた。さらに、本薬剤については私どもの施設でも、1型糖尿病への適応追加に関して治験を行ったが、専門医がいる病棟でも、ケトアシドーシスを恐れて参加しない施設が多く見られたという話があったくらいである。現在は経口薬として、α-GI薬に続いてSGLT2阻害薬の一部が1型糖尿病に適応追加を取得し、予想以上にいい効果が発揮されている。それどころか、昨年末に心不全に対する適応も加わり、さらには今年8月に透析予防の観点から現在大きな問題となっている慢性腎臓病(以下、CKDと略す)の適応まで追加になった。まさに、マルチな効能を兼ね備えた薬剤で、合併症を見据えた治療が可能になり、狭義の血糖降下薬を超えたとも言えるかもしれない。いろいろと話題の尽きない薬剤であるが、今回の話を進める中で、さらにいくつか述べていこうと思う。重要な3つのポイント:適応患者の選択、使い分け、心不全に対する効果ある日、恩師からの電話でSGLT2阻害薬について質問があった。内容は3点。(1)どのような患者がいい適応か?(2)多くの種類(国内承認は6成分)があるが、使い分けはどのようにしているのか?(3)循環器の先生が心不全に効果があると言っているがどのようなものか? といったもの。これらの質問に対し、答えた内容を順に紹介する。(1)どのような患者がいい適応か?これを語るには、まず分類・作用機序から簡単に確認する必要がある。SGLT2阻害薬は、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中でインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用としては腎臓でのブドウ糖再吸収阻害による尿中ブドウ糖排泄促進である。そして特徴として、単剤では低血糖を起こしにくく、体重減少効果があり(なお食欲増進に注意、詳しくは後述)、主な副作用として、性器・尿路感染症、脱水、皮疹、ケトーシスが知られている。使用上の注意として、「1型糖尿病患者において、一部製剤はインスリンと併用可能」「eGFR30未満の重度腎機能障害の患者では、血糖降下作用は期待できない」と記載され、さらには、主なエビデンスとして「心・腎の保護効果」「心不全の抑制効果」が示されている。上記からおのずと見えてくるいい適応症例は、「低血糖を起こしたくない肥満(とくに内臓肥満、いわゆるメタボ)で、尿路感染症がなく、腎機能が比較的保たれ脱水を引き起こしにくい患者」すなわち、(食事時間の不規則な)メタボ型の若年~中高年糖尿病患者ということになる。なお、それ以外の患者さんには使用できないのか? というと、そういうわけでもない。が、絶対に使用してはいけないのは、寝たきりの高齢者で水分もあまり摂れず、食事量も少ないインスリン分泌の落ち込んだ血糖コントロール不良の患者である。同様に、下痢や嘔吐で食事が摂れないシックデイや、脱水のときに服薬継続した場合は危険なため、処方する際はあらかじめ、休薬する条件をしっかり伝えておく必要がある。なぜならば、正常血糖ケトアシドーシスを起こすリスクがあるからである。これは、SGLT2阻害薬が上市されてからクローズアップされた医学用語であり、日本糖尿病協会からも「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」として出されている。また、本薬剤は、膵臓からのグルカゴン分泌を促進し、腎臓からの3-hydroxybutyrateとアセトアセテートの分泌を減少させることによりケトーシスのリスクを増大させるともいわれている2)。とくに経験年数の長い医師は、血糖値100mg/dL台でケトアシドーシスが起こるなんて今まで考えたこともない病態であろう。馴染みが薄いかもしれないが、現実にあちらこちらで起こっていて、決して頻度の低い珍しい病態ではないことを理解していただきたい。そして、内科以外の先生方にもぜひ覚えておいてほしい。また、たとえいい適応症例であったとしても、使用する際に重々注意してほしいことは、決して“痩せる薬”であることを前面に押し出し過ぎないことである。図1:エネルギー摂取量を減少させたときの体重の変化(理論計算結果)画像を拡大する薬の効果があっても、生活改善なくして体重は減らない。また、食事制限をしたとしても、現体重に合わせて目標を強化していかなくては、上記グラフのように1年あまりで下げ止まってしまうと考えられる。しかし、患者さんは、自分に都合のいいように考えるため、「(薬で痩せるなら)これでいくらでも食べられる」と勘違いして過食に走り、体重が落ちるどころかさらに増えてしまい、血糖コントロールが悪化する事態も起こりうる。そうなってしまうと、この薬剤に期待する効果が十分に得られないだけでなく、中止後のさらなる体重増加、血糖コントロール悪化につながる恐れまである。処方時には、食欲増進作用を併せ持つことに対する注意をぜひ伝えていただきたい。(2)薬の使い分けはどのようにしているのか?(class effectはあるのか?)この質問の答えとしては、SGLT1/2の受容体選択性や作用時間などで差異をつけ、いろいろな議論もあると思うが、私見として大差はないと考えている。副作用として、皮疹や下痢の頻度には若干の差があるが…。その中で、半減期と尿量に関して興味深い報告を1つ紹介する。入院中の2型糖尿病患者36例を対象に、トホグリフロジン20mg(商品名:アプルウェイ、デベルザ)を朝1回追加投与することで、日中の尿量は増加するものの、夜間の尿量増加はわずかにとどまり、夜間就寝中のQOLを損なうことは少ないことが示唆された3)。トホグリフロジンはSGLT2阻害薬のなかでは半減期が5.4時間と最も短く、健康成人に対する朝1回単回投与試験でも、夜間の尿糖排泄は少ないことが示されている4)。このような結果から、日中に比し、夜間の尿量増加が少なかったことは、トホグリフロジンの半減期が短いことによると推察される。夜間の尿意で眠れないといった患者さんには本剤の選択がいいかもしれない。表1:SGLT2阻害薬の作用持続時間画像を拡大する(3)心不全に対する効果ここに関しては私の出る幕ではないが、驚くべきことに昨年11月にダパグリフロジンが慢性心不全の標準治療に対する効能・効果の追加承認を取得した。この承認は、2型糖尿病合併の有無にかかわらず左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)を対象とした第III相DAPA-HF試験5)の良好な結果に基づいている。表2:DAPA-HF試験の主要評価項目(複合アウトカム)心不全悪化イベント発生(入院または心不全による緊急来院)までの期間または心血管死画像を拡大するさらには、糖尿病患者に多いといわれている左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)に対するエンパグリフロジンの有効性を検討した、EMPEROR-Preserved試験において、主要評価項目(心血管死亡または心不全による入院の初回イベント)の発生リスクは、エンパグリフロジン投与群で有意に抑制されたという。以上のことから、SGLT2阻害薬はこれからさらに、循環器内科の先生方にも注目されると思われる。SGLT2阻害薬は主役か? それとも脇役か?ここまで述べたように、SGLT2阻害薬は血糖降下作用を持つ糖尿病治療薬としてのみならず、心不全・CKDの治療薬としても認められたことは記憶に新しい。いずれの病態も糖尿病の重大な合併症であり、第1回(前回)の図3「2型糖尿病における血糖降下薬:総括的アプローチ(ADA2021)6)」でも提示ししたごとく、動脈硬化性心血管疾患やCKDの合併または高リスクの場合は、メトホルミンとは独立して検討すると記載されており、まさに主役になれそうな勢いのある薬剤である。しかし、わが国において高齢者糖尿病が急増している中で、今回示したとおり適正な症例を選ぶ能力も身に着けていただく必要があり、決して万能薬ではないことを最後に付け加えたい。私個人の意見として、この薬剤の立ち位置は“名脇役”ということにさせていただこう。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)A Pfutzner, et al. Endocrine. 2017;56:212-216.3)大工原 裕之. 診療と新薬. 2017;54:25-28.「SGLT2阻害薬投与前後の血糖ならびに尿量変化について」4)Hashimoto Y, et al. BMC Endocr Disord. 2020;20:98.5)John J V McMurray, et al. N Engl J Med. 2019;381:1995-2008.6)American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.

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新世代MRAのfinerenone、DKDの心血管リスク減/NEJM

 2型糖尿病を合併する幅広い重症度の慢性腎臓病(CKD)患者の治療において、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬finerenoneはプラセボと比較して、心血管死や非致死的心筋梗塞などで構成される心血管アウトカムを改善し、有害事象の頻度は同程度であることが、米国・ミシガン大学医学大学院のBertram Pitt氏らが実施した「FIGARO-DKD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月28日号で報告された。標準的な治療への上乗せ効果を評価 本研究は、48ヵ国の施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化イベント主導型第III相試験であり、2015年9月~2018年10月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Bayerの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、2型糖尿病を伴うCKDで、添付文書に記載された最大用量のレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)による治療で受容できない副作用の発現がみられない患者であった。スクリーニング時に、持続性のアルブミン尿の中等度上昇(尿中アルブミン[mg]/クレアチニン[g]比:30~<300)がみられ、推算糸球体濾過量(eGFR)が25~90mL/分/1.73m2(ステージ2~4のCKD)の患者、または持続性のアルブミン尿の高度上昇(尿中アルブミン/クレアチニン比:300~5,000)がみられ、eGFRが≧60mL/分/1.73m2(ステージ1/2のCKD)の患者が解析に含まれた。 被験者は、finerenone(10mgまたは20mg、1日1回、経口)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院の複合とされ、生存時間解析を用いて評価が行われた。副次アウトカムは、腎不全、eGFRのベースラインから4週以降における40%以上の持続的な低下、腎臓が原因の死亡の複合であった。主要アウトカム:12.4% vs.14.2% 7,352例が登録され、finerenone群に3,686例、プラセボ群に3,666例が割り付けられた。全体の平均年齢(±SD)は64.1±9.8歳で、69.4%が男性であった。 ベースライン時に、全体の70.5%がスタチン、47.6%が利尿薬の投与を受けていた。また、97.9%が血糖降下薬の投与を受けており、このうち54.3%がインスリン製剤、8.4%がSGLT2阻害薬、7.5%がGLP-1受容体作動薬の投与を受けていた。試験期間中に、15.8%がSGLT2阻害薬、11.3%がGLP-1受容体作動薬の投与を新たに開始した。 追跡期間中央値3.4年の時点で、主要アウトカムのイベントは、finerenone群が12.4%(458/3,686例)、プラセボ群は14.2%(519/3,666例)で認められ、finerenone群で有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.76~0.98、p=0.03)。 この主要アウトカムのfinerenone群での利益は、主に心不全による入院(3.2% vs.4.4%、HR:0.71、95%CI:0.56~0.90)がfinerenone群で低かったためであり、心血管死(5.3% vs.5.8%、0.90、0.74~1.09)、非致死的心筋梗塞(2.8 vs.2.8%、0.99、0.76~1.31)、非致死的脳卒中(2.9% vs.3.0%、0.97、0.74~1.26)に差はみられなかった。 副次アウトカムは、finerenone群が9.5%(350例)、プラセボ群は10.8%(395例)で認められた(HR:0.87、95%CI:0.76~1.01)。 担当医の報告による全般的な有害事象の頻度は両群で同程度であり、重篤な有害事象はfinerenone群が31.4%、プラセボ群は33.2%で発現した。高カリウム血症は、finerenone群で頻度が高かった(10.8%、5.3%)が、高カリウム血症による死亡例はなく、高カリウム血症による恒久的な投与中止例(1.2%、0.4%)や入院例(0.6%、0.1%)は、finerenone群で多いものの頻度は低かった。 著者は、「患者の60%以上がベースライン時にeGFR≧60mL/分/1.73m2のアルブミン尿を伴うCKD患者であったことから、尿中アルブミン/クレアチニン比によるスクリーニングで早期にCKDを診断し、この心血管リスクが高く認知度が低い患者集団の転帰を改善するための治療を開始する必要性が浮き彫りとなった」としている。

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J-CLEAR特別座談会(3)「GLP-1受容体作動薬の心腎血管合併症予防効果」

J-CLEAR特別座談会(3)「GLP-1受容体作動薬の心腎血管合併症予防効果」出演東京都健康長寿医療センター顧問 桑島 巖 氏東京慈恵会医科大学 客員教授、J-CLEAR 理事 景山 茂 氏佐賀大学医学部循環器内科 教授 野出 孝一 氏公益財団法人日本生命済生会日本生命病院 糖尿病・内分泌センター 住谷 哲 氏東京慈恵会医科大学客員教授、三穂クリニック院長補佐 栗山 哲 氏「CLEAR!ジャーナル四天王」でおなじみのJ-CLEARメンバー5氏が、「GLP-1受容体作動薬の心腎血管合併症予防効果」をテーマに、各々の専門領域の知見を基に議論を交わしたウェブ座談会の模様を全6回でお届けします。なお、この番組は2021年7月21日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。

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糖尿病薬物治療で最初に処方される薬は/国立国際医療研究センター

 糖尿病の治療薬は、さまざまな種類が登場し、患者の態様に合わせて治療現場で処方されている。実際、2型糖尿病患者に対して最初に投与される糖尿病薬はどのような治療薬が多いのだろうか。 国立国際医療研究センターの坊内 良太郎氏らのグループは、横浜市立大学、東京大学、虎の門病院の協力のもとこの実態について全国規模の実態調査を実施した。調査の結果、最初の治療薬としてDPP-4阻害薬を選択された患者が最も多く、ビグアナイド(BG)薬、SGLT2阻害薬がそれに続いた。また、薬剤治療開始後1年間の総医療費はBG薬で治療を開始した患者で最も安いこと、DPP-4阻害薬およびBG薬の選択には一定の地域差、施設差があることが明らかとなった。2型糖尿病患者への処方薬を全国約114万例で解析 本研究の背景として、わが国の2型糖尿病の薬物療法は、すべての薬剤の中から病態などに応じて治療薬を選択することを推奨している。そのため、BG薬を2型糖尿病に対する第1選択薬と位置付けている欧米とは処方実態に違いがあることが予想されていたが、日本全体の治療実態についての詳細は不明だった。そこで、匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)を用い、わが国の2型糖尿病患者に対し最初に投与された糖尿病薬の処方実態を明らかにすることを目的に全国規模の研究を行った(本研究は厚生労働科学研究として実施)。 坊内 良太郎氏らのグループは、調査方法としてNDBの特別抽出データ(2014-17年度)から抽出した成人2型糖尿病患者のうち、インスリンを除いた糖尿病治療薬を単剤で開始された患者を対象に、研究期間全体および各年度別の各薬剤の処方数、処方割合、新規処方に関連する因子、さらに初回処方から1年間の総医療費を算出し、それに関連する因子についても検討。対象患者数は全体113万6,723例(総医療費の解析対象:64万5,493例)。糖尿病患者への処方選択で強く影響する因子は「年齢」 調査の結果、2型糖尿病患者に最初に処方された薬剤は全体でBG薬(15.9%)、DPP-4阻害薬(65.1%)、SGLT2阻害薬(7.6%)、スルホニル尿素(SU)薬(4.1%)、α−グルコシダーゼ阻害薬(4.9%)、チアゾリジン薬(1.6%)、グリニド薬(0.7%)、GLP-1受動体作動薬(0.2%)だった。 都道府県別では、BG薬が最大33.3%(沖縄県)、最小8.7%(香川県)、DPP-4阻害薬が最大71.9%(福井県)、最小47.2%(沖縄県)と大きな違いを認めた。 各薬剤の選択に最も強く影響した因子は「年齢」で、高齢者ほどBG薬、SGLT2阻害薬の処方割合は低く、DPP4阻害薬およびSU薬の処方割合が高いことが示された。 総医療費については、BG薬で治療を開始した2型糖尿病患者が最も安く、SU薬、チアゾリジン薬が続き、GLP-1受容体作動薬が最も高いことが明らかとなった。多変量解析で、BG薬はチアゾリジン薬を除くその他の薬剤より総医療費が有意に低いことが示された。 今回の調査から坊内 良太郎氏らのグループは、全国規模の調査により、(1)わが国の2型糖尿病患者に対して最初に投与される糖尿病薬は欧米と大きく異なりDPP-4阻害薬が最も多いこと、(2)BG薬で治療を開始した患者の総医療費が最も安いこと、(3)薬剤選択に一定の地域間差や施設間差があること、などが初めて明らかになったと総括する。 また、「今後、個々の患者に対するより適切な薬剤選択などの診療の質の全国的な均てん化を進めるためには、薬剤選択に際し代謝異常の程度、年齢、肥満その他の病態を考慮することについてのさらなる周知に加え、薬剤選択の一助となるフローやアルゴリズムなどの作成が有効と考えられる」と示唆し、「本研究により得られた成果を基に、どの薬剤の血糖改善効果が高いか、合併症予防効果が高いかを明らかにすることを目的とした研究が行われ、一人一人の糖尿病患者にとって最適な糖尿病の個別化医療の確立されることが望まれる」と展望を述べている。

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GIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの血糖降下作用・体重減少作用はセマグルチドより優れている(解説:住谷哲氏)

 デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬として開発中のLY3298176は第3のインクレチン関連薬として有望である、とのコメントを2018年の本連載第986回で掲載した。それから3年でLY3298176はtirzepatideとして承認目前まで来ている。tirzepatideの2型糖尿病に対する臨床開発プログラムSURPASS ProgramにはSURPASS-1~6、SURPASS-AP-Comb、SURPASS-CVOT、SURPASS-J-Mono、SURPASS-J-Combの10試験があり、本論文はセマグルチドとのhead-to-head試験であるSURPASS-2についての報告である。 tirzepatide 5mg、10mg、15mgの3用量に対してセマグルチドは2型糖尿病に対する最大用量である1mgが用いられた。結果は、主要評価項目である40週後のHbA1c低下量は、3用量のすべてにおいてセマグルチドに対する優越性が示された。副次評価項目である体重減少量も、HbA1cと同様に3用量のすべてにおいてセマグルチドに対する優越性が示された。さらに正常血糖と考えられるHbA1c<5.7%を達成した患者の割合は、tirzepatide 5mg、10mg、15mg、セマグルチド群でそれぞれ27%、40%、46%、19%であり、低血糖(<54mg/dL)の頻度はそれぞれ、0.6%、0.2%、1.7%、0.4%であった。 セマグルチドは、現在2型糖尿病患者に対して使用できるインクレチン関連薬の中でHbA1c低下作用、体重減少作用が最も強い。したがってtirzepatideが登場すれば最も強力なインクレチン関連薬になるのは間違いないだろう。さらにtirzepatide 10mg群でみると、投与前平均HbA1c 8.3%であった患者の40%が低血糖のリスクをほとんど伴わずに血糖正常化を達成しており、2型糖尿病患者の血糖正常化が本薬剤を使用することでさらに容易となる可能性がある。 本薬剤が米国で血糖降下薬として認可されるのはSURPASS-CVOTの結果が出る2024年以降になるだろう。SURPASS-J-Mono、SURPASS-J-Comb(JはJapanの略)はわが国での先行発売を目的としていると思われるが、その結果に基づいて、わが国での投与量のみが国際標準投与量と異なる用量に設定されることのないように望みたい。

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