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悪性黒色腫への術前ニボルマブ+イピリムマブ、EFSを大きく改善(NADINA)/NEJM

 切除可能なIII期の肉眼的な悪性黒色腫の治療では、ニボルマブによる術後補助療法と比較して、イピリムマブ+ニボルマブによる2サイクルの術前補助療法は無イベント生存率(EFS)が有意に優れ、病理学的奏効も良好であることが、オランダがん研究所のChristian U. Blank氏らが実施した「NADINA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年6月2日号に掲載された。術前と術後の免疫療法を比較する無作為化第III相試験 NADINA試験は、オランダとオーストラリアの施設を中心とする国際的な無作為化第III相試験であり、2021年7月~2023年12月に参加者の無作為化を行った(Bristol Myers Squibbなどの助成を受けた)。 年齢16歳以上の切除可能なIII期の肉眼的な悪性黒色腫で、1つ以上の病理学的に証明されたリンパ節転移および最大3つのin-transit転移を有する患者423例を登録し、術前補助療法としてイピリムマブ+ニボルマブの投与(3週ごと)を2サイクル行う群に212例(年齢中央値60歳[範囲:22~84]、女性33.5%)、術後補助療法としてニボルマブの投与(4週ごと)を12サイクル行う群に211例(59歳[19~87]、36.0%)を割り付けた。 主要評価項目はEFSとし、無作為化から手術前の悪性黒色腫の進行、再発、悪性黒色腫または治療による死亡までの期間と定義した。EFSのハザード比0.32 ITT集団における主要評価項目のイベント数は100件で、内訳は術前補助療法群で28件、術後補助療法群で72件であった。 追跡期間中央値9.9ヵ月の時点における推定12ヵ月EFSは、術前補助療法群が83.7%(99.9%信頼区間[CI]:73.8~94.8)、術後補助療法群は57.2%(45.1~72.7)で、境界内平均生存期間(restricted mean survival time)の群間差は8.00ヵ月(99.9%CI:4.94~11.05、p<0.001、進行、再発、死亡のハザード比[HR]:0.32、99.9%CI:0.15~0.66)であり、術前補助療法群で有意に良好であった。 術前補助療法群の病理学的奏効については、患者の59.0%で病理学的著効(major pathological response、残存腫瘍≦10%)が達成され、8.0%で病理学的部分奏効(残存腫瘍11~50%)が得られ、26.4%は非奏効(残存腫瘍>50%)で、2.4%は手術前に病勢が進行し、4.2%では手術が未施行か施行されなかった。 また、術前補助療法群における病理学的奏効の状態別の推定12ヵ月無再発生存率は、病理学的著効例で95.1%、部分奏効例で76.1%、非奏効例では57.0%であった。Grade3以上の有害事象、内分泌障害は術前補助療法群で多い 全身療法に関連したGrade3以上の有害事象は、術前補助療法群で29.7%、術後補助療法群で14.7%、手術関連のGrade3以上の有害事象はそれぞれ14.1%および14.4%に認めた。全身療法関連の内分泌障害は、それぞれ30.7%および9.9%で発現した。 また、重篤な有害事象は、それぞれ36.3%および24.0%でみられ、術後補助療法群では1例がニボルマブに起因する肺臓炎で死亡し、術前補助療法群では治療関連死を認めなかった。 著者は、「術前の免疫チェックポイント阻害薬療法が、術後の同療法よりも有効性が高いことの説明として、術前の免疫療法はより強力で多様なT細胞応答を誘導するためとの仮説が提唱されている。この性質は、免疫療法の開始時には腫瘍の全体が存在し、それゆえ完全なネオアンチゲンのレパートリーが存在するためと考えられている。また、術前のPD-1阻害薬にCTLA-4阻害薬を追加すると有効性が向上することも示唆されている」としている。

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体調不良のまま働くタクシー運転手の交通事故リスク

 体調不良を抱えたまま勤務する「プレゼンティーズム」は、欠勤するよりも大きな損失につながるとして注目されている。新たに日本のタクシー運転手を対象とした研究が行われ、プレゼンティーズムの程度が大きいほど交通事故リスクが高まることが明らかとなった。産業医科大学産業生態科学研究所環境疫学研究室の藤野善久氏、大河原眞氏らによる前向きコホート研究の結果であり、「Safety and Health at Work」に4月16日掲載された。 これまでに著者らは救急救命士を対象とした研究を行い、プレゼンティーズムの程度が大きいこととヒヤリハット事例発生との関連を報告している。今回の研究では、救急医療と同様に社会的影響の大きい交通事故が取り上げられた。その背景として、タクシー運転手は不規則な運転経路、時間厳守へのプレッシャーなどから事故を起こしやすいことや、車内で長時間を過ごすため運動不足や腰痛につながりやすく、睡眠や健康の状態も悪くなりやすい労働環境にあることが挙げられている。 著者らは今回の対象を福岡県のタクシー会社に勤務するタクシー運転手とし、2022年6月のベースライン調査時、産業医科大学が開発した「WFun」(Work Functioning Impairment Scale)という指標を用いてプレゼンティーズムを評価した。WFunは7つの質問(「ていねいに仕事をすることができなかった」など)により労働機能障害を判定するもので、その得点からプレゼンティーズムの程度を「問題なし」「軽度」「中等度以上」に分類した。2023年2月に追跡調査を行い、回答時点から過去3カ月間の擦り傷や軽い接触など(会社に報告していないものも含む)の件数を「軽微な交通事故」として評価した。 運転時間が週に10時間未満だった人などを除き、428人を解析対象とした。年齢中央値は67(四分位範囲60~72)歳、男性の割合は93.2%。プレゼンティーズムの程度は、問題なしが343人(80%)、軽度が72人(17%)、中等度以上が13人(3%)だった。 1件以上の軽微な交通事故の発生割合は、プレゼンティーズムの程度が問題なしの人では16%、軽度の人では17%、中等度以上の人では23%だった。性別、年齢、運転経験の影響を統計的に調整した上で、交通事故とプレゼンティーズムとの関連を調べた結果、プレゼンティーズムの程度が大きいほど、軽微な交通事故のリスクが高くなることが明らかとなった(傾向性P=0.045)。 今回の研究に関連して著者らは、これまで、突然の意識不明や死亡につながる脳血管疾患や心疾患などの重大な疾患が注目されてきたが、これらを原因とする交通事故の割合は、職業運転手による交通事故のうちの一部でしかないと説明。体調不良などによる交通事故は過少報告されている可能性が高く、見過ごされがちであることを指摘している。また、タクシー運転手の給与体系の多くが歩合制であることも体調不良のまま勤務してしまう要因となっていることを挙げ、「交通事故防止のため、職業運転手に対する社会経済的支援を強化し、健康管理を優先することが重要だ」と述べている。

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ASCO2024 レポート 消化器がん

レポーター紹介本レポートでは、2024年5月31日~6月4日に行われた2024 ASCO Annual Meetingにおける消化管領域におけるトピックスを解説する。1.【食道がん】ESOPEC trial(#LBA1)最初に解説するのは、今年消化管領域でPlenary Sessionに選ばれたESOPEC trialである。欧米ではわが国をはじめとする東アジアと異なり、食道がんにおいては下部食道から接合部にできる腺がんが中心である。cT2-4a、cN+/-の切除可能進行食道腺がんにおける現在の標準治療は、CROSS trialで用いられたパクリタキセル+カルボプラチン+41.4Gyの術前化学放射線療法(CRT)とFLOT4 trialで用いられた術前・術後のFLOT(5-FU、LV、オキサリプラチン、ドセタキセル)療法の両者が併存しており、それぞれ開発が行われたオランダではCROSSレジメンが、ドイツではFLOTレジメンが主流である。ESOPEC trialでは両者の直接比較が第III相試験として行われた。2016年2月~2020年4月に438例のcT1N+ or cT2-4a、cN0/+、cM0の食道および接合部腺がんが登録された。年齢中央値は63歳、男性が89.3%、cT3/4の症例が80.5%、リンパ節転移陽性症例が79.7%であった。主要評価項目である全生存期間(OS)でハザード比(HR)が0.70、p=0.012、OS中央値がFLOT群66ヵ月、CROSS群39ヵ月、3年OS率がFLOT群54.7%、CROSS群50.7%と有意にFLOT群が優れていた。また、計画された術前治療を完遂できたのはFLOT群で87.3%、CROSS群で67.7%と差を認めた。無増悪生存期間(PFS)では、HR:0.66、p=0.001、3年PFS率がFLOT群51.6%、CROSS群35.0%と有意にFLOT群が優れていた。病理学的完全奏効(pCR)もFLOT群で16.8%、CROSS群で10.0%とFLOT群のほうが良好であった。術後合併症は両群で差を認めない結果であった。本試験結果をもって、切除可能局所進行食道・接合部腺がんにおいてFLOTレジメンの有意性が示された。本邦でも切除可能局所進行食道・接合部腺がんに対してFLOTやDCS(ドセタキセル、シスプラチン、S-1)をはじめとする術前化学療法が主流であり、本結果は受け入れられると考える。一方、術前CRT後pCRとならなかった症例にはCheckMate 577のエビデンスから術後ニボルマブ1年が無病生存期間(DFS)を有意に改善することが検証されているが、KEYNOTE-585やATTRACTION-5の結果より、術前・術後の化学療法に対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性は検証されていない。今後FLOTとCROSSの直接比較のみならず、CRT後のニボルマブの有効性も含めた結果の解釈が必要になる。2.【大腸がん】切除不能大腸がん肝転移に対する肝移植の有効性(#3500)切除可能性のない大腸がん肝転移症例に対する標準治療は化学療法であるが、根治は困難である。今回、フランスの研究者から化学療法(C)に対する肝移植+化学療法(LT+C)の優越性を検証するTransMet試験が報告された。適格基準は65歳以下、PS 0-1、化学療法で3ヵ月以上部分奏効もしくは安定が得られている、CEAが80mg/mLもしくはベースラインより50%以上の減少、血小板8万超、白血球2,500超と厳格な基準で行われた。157例がスクリーニングされ、そのうち94例がランダム化された。LT+C群の47例のうち11例がPer protocolから外され(9例が病勢進行のためLTせず)、C群の47例のうち9例がPer protocolから外された(7例が肝切除実施のため)。主要評価項目の5年OS(ITT)はLT+C群が57%、C群が13%(HR:0.37、p=0.0003)であり、LT+Cが実施された36例のうち、26例に再発を認めた(一番多い部位は肺転移の14例)が、その後手術および焼灼療法が12例(46%)に実施され15例で最終的にがんがない状態を維持できていた。副次評価項目である3年・5年PFSは、LT+C群とC群で3年PFSがそれぞれ33%と4%、5年PFSがそれぞれ20%と0%(HR:0.34、p<0.0001)とLT+C群が有意に優れている結果であった。適切な症例選択をすることで、切除不能大腸がん肝転移症例に対してLT+Cは有意にOSとPFSのそれぞれを改善することが示された。長期予後が期待できない切除不能肝転移症例に対して根治の可能性を届けられることが示された。3.【大腸がん】CheckMate 8HW(#3503)CheckMate 8HW試験は1次治療におけるニボルマブ+イピリムマブ(NIVO+IPI)と標準治療(mFOLFOX6/FOLFIRI+/-ベバシズマブ/セツキシマブ)のPFSのデータがすでに2024 ASCO Gastrointestinal Cancers Symposiumで報告されているが、前回と同様のdMMR/MSI-H切除不能大腸がんにおいて1次治療でNIVO+IPIを行った202例と標準治療を行った101例の追加情報が報告された。観察期間中央値は31.6ヵ月と延長したが、PFS中央値でNIVO+IPI群は到達せず、標準治療群は5.9ヵ月(HR:0.21、p<0.0001)とNIVO+IPI群が圧倒的に優れている結果であった。サブ解析でもNIVO+IPI群が肝転移症例、BRAF V600E変異症例、RAS変異症例など、免疫チェックポイント阻害薬の効果が乏しいとされる症例でも良好なHRを認めていた。また、本試験では標準治療群は増悪後NIVO+IPIを試験治療で行うことが可能になっており、今回2次治療までのPFS(PFS2)が報告された。標準治療群では試験治療とそれ以外を合わせて67%の症例がcross overされたが、PFS2中央値でNIVO+IPI群が未到達である一方、標準治療群は29.9ヵ月(HR:0.27)と後治療の実施も含め1次治療でNIVO+IPIを実施する有効性が示された。免疫関連有害事象については一定数認められたが、Grade3以上はいずれも5%以下であり、臨床的には許容できると解釈された。dMMR/MSI-H切除不能大腸がんの1次治療としてNIVO+IPIが重要な選択肢であることが検証されたが、NIVO単剤との比較データは今回報告されておらず、どちらを第1選択にするかの最終判断は、今後の報告を見てからになると考える。4.【大腸がん】PARADIGM試験のバイオマーカー解析(#3507)本邦からもRAS野生型切除不能大腸がんに対してパニツムマブ(Pmab)+mFOLFOX6とベバシズマブ(Bmab)+mFOLFOX6を1対1で比較したランダム化比較試験であるPARADIGM試験のバイオマーカー解析が報告された。治療前と治療後に血漿検体を採取してNGS解析を行った556例のうち、病勢進行(PD)で中止となった276例で治療開始時とPD時のゲノムの変化を解析した。PD症例のOSや増悪後の生存期間(PPS)は両群で差を認めず、PD時のacquired alterationsに注目すると、Pmab群で2つ以上のalterationsが52.4%の症例に認められた一方、Bmab群では43.3%に認められた。Pmab群で2つ以上のalterationsを認めた症例はalterationsを認めなかった症例よりも有意にPPSが短く、Pmab症例において獲得alterationsがPD後の生存に影響している可能性が示された。さらに獲得alterationsをpathwayごとに分けて解析すると、RTK/RAS経路のalterationsを認める症例はPmab群でPPSが不良である一方、CIMPやPI3K経路のalterationsを認める症例はBmab群でPPSが不良な結果であった。RTK/RAS経路とCIMP経路はOSでも同様の結果が認められ、獲得耐性のパターンがレジメンにより異なり、またそれが増悪後の生存に影響する可能性が示唆された。現在の臨床では、治療前後の血漿を用いたNGS解析は実施できないが、科学的には重要な示唆を持つ結果であった。5.【大腸がん】CodeBreaK 300のOSの報告(#LBA3510)CodeBreaK 300試験は前治療のあるKRAS G12C変異結腸直腸がんに対して、ソトラシブ960mg/日+Pmab群、ソトラシブ240mg/日+Pmab群、主治医選択(トリフルリジン・チピラシルまたはレゴラフェニブ)群を1対1対1で比較した第III相試験である。主要評価項目である盲検独立中央判定によるPFSは2つのソトラシブ+Pmab群が主治医選択群よりも有意に優れていることが検証されているが、副次評価項目であるOSの報告が、OSのイベントが50%を超えた今回のタイミングで行われた。症例数からOSの検証はできないが、観察期間中央値13.6ヵ月の段階で2つのソトラシブ+Pmab群が主治医選択群よりも良好な傾向が認められ、有意差はないもののソトラシブ960mg/日+Pmab群はHR:0.70と良好な結果であった。後治療として主治医選択群はその後31%がKRAS G12C阻害薬の治療を受けていた。その他の結果もupdateが報告され、ソトラシブ960mg/日+Pmab群は奏効割合が30%、Duration of Response中央値が10.1ヵ月、PFS中央値の再解析では5.8ヵ月(HR:0.46)の結果であった。これらの結果は、ソトラシブ960mg/日+PmabがKRAS G12C変異大腸がんの新たな選択肢であることを示すものであり、本邦でも今後早期の承認が期待される。6.【直腸がん】切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対するPD-1抗体の医師主導治験の長期治療効果(#LBA3512)スローン・ケタリング記念がんセンターから報告された切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対するdostarlimab(PD-1抗体)の医師主導治験は、14例という少数例の結果であったものの全例に臨床的完全奏効(cCR)が認められるという優れた結果であった。今回さらなる症例集積と治療効果の継続について報告がなされた。今回の報告では48例までの登録がなされており、Lynch症候群の確定検査がなされた41例のうち21例(51%)がLynch症候群の診断であった。またTumor Mutation Burdenの中央値が53.6、BRAF V600E変異が1例に認められた。PD-1抗体薬であるdostarlimabの投与が終わった42例で主要評価項目であるcCRが100%に認められ、観察期間中央値17.9ヵ月の時点で1例も再増悪を認めていなかった。もう1つの主要評価項目である12ヵ月cCRについても26.3ヵ月の観察期間中央値で100%の結果であった。Grade3以上の有害事象は認めず、安全性についても大きな懸念事項は認めなかった。すでにNCCNガイドラインでは、切除可能dMMR/MSI-H直腸がんに対する第1選択は免疫チェックポイント阻害薬6ヵ月となっており、企業主導の検証治験として行われているAZUR-1が進行中である。また本邦でも医師主導治験としてStageI~III直腸がんまでを対象にNIVOの有効性・安全性をみるVOLTAGE-2試験が進行中である。7.【大腸がん】c-Metをターゲットとした新規Antibody-Drug Conjugate(ADC)製剤であるABBV-400の安全性・有効性(#3515)ABBV-400はc-Metをターゲットとした抗体薬であるtelisotuzumabとtopoisomerase-1阻害薬のADC製剤である。BRAF野生型かつMSSの切除不能大腸がんの3次治療以降の症例を対象にdose escalation/expansionが行われた。1.6mg/kg、2.4mg/kg、3.0mg/kgと増量が行われ、Grade3以上の主な有害事象は貧血(35%)、好中球減少(25%)、血小板減少(13%)であった。すべてのGradeで嘔気(57%)、疲労(44%)、嘔吐(39%)が認められた。治療継続期間中央値は4.1ヵ月であり、1.6mg/kgではRelative Dose Intensity(RDI)が100%であったが、3.0mg/kgでは86.5%であった。奏効割合は16%であり、Duration of Response中央値は5.5ヵ月であった。用量が増えるに従って奏効率は上昇し、3.0mg/kgでは24%であった。C-Metタンパクの発現を≧10% 3+をcut offとして検討すると、2.4mg/kg以上で投与された症例のうちcut off以上の症例は奏効割合37.5%、PFS中央値5.4ヵ月と有望な結果であった。2.4mg/kgと3.0mg/kgを比較すると、2.4mg/kgのほうが、RDIが保たれ毒性は許容される結果であった。ABBV-400は大腸がん領域のADC製剤としては有望と考えられており、現在本試験の中でABBV-400とベバシズマブの併用が検討されている。

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精神病性うつ病の維持療法に対する抗うつ薬や抗精神病薬治療の実際の有効性

 精神病性うつ病は、機能障害や自殺リスクの高さを特徴とする重度の精神疾患であるが、その維持療法に使用される薬物療法の有効性を比較した研究は、あまり多くない。フィンランド・東フィンランド大学のHeidi Taipale氏らは、日常診療下における精神病性うつ病患者の精神科入院リスクに対する特定の抗精神病薬と抗うつ薬、およびそれらの併用療法の有効性を比較するため、本研究を実施した。World Psychiatry誌2024年6月号の報告。 新たに精神病性うつ病と診断された16〜65歳の患者を、フィンランド(2000〜18年)およびスウェーデン(2006〜21年)の入院、専門外来、病気休暇、障害年金のレジストリより特定した。主要アウトカムは、重度の再発を表す精神科入院とした。特定の抗精神病薬および抗うつ薬による薬物療法の影響を比較した。薬剤の使用期間および非使用期間に関連する入院リスク(調整ハザード比[aHR])は、各個人を自身の対照とする個人内デザインにより評価し、層別Coxモデルで分析した。フィンランドとスウェーデンの2つのコホート研究をそれぞれ事前に分析し、次に固定効果メタ解析を用いて統合した。 主な結果は以下のとおり。・フィンランドのコホートには1万9,330人(平均年齢:39.8±14.7歳、女性の割合:57.9%)、スウェーデンのコホートには1万3,684人(平均年齢:41.3±14.0歳、女性の割合:53.5%)が含まれていた。・抗うつ薬未使用と比較し、再発リスク低下と関連する抗うつ薬は、bupropion(aHR:0.73、95%信頼区間[CI]:0.63〜0.85)、ボルチオキセチン(aHR:0.78、95%CI:0.63〜0.96)、ベンラファキシン(aHR:0.92、95%CI:0.86〜0.98)であった。・長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬(aHR:0.60、95%CI:0.45〜0.80)およびクロザピン(aHR:0.72、95%CI:0.57〜0.91)は、抗精神病薬未使用の場合と比較し、再発リスク低下と関連していた。・単剤療法のうち、ボルチオキセチン(aHR:0.67、95%CI:0.47〜0.95)とbupropion(aHR:0.71、95%CI:0.56〜0.89)のみが、抗うつ薬および抗精神病薬未使用の場合と比較し、再発リスクの有意な低下と関連していた。・探索的解析では、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法において、抗うつ薬および抗精神病薬未使用の場合と比較し、再発リスクの有意な低下が認められた組み合わせは、アミトリプチリン+オランザピン(aHR:0.45、95%CI:0.28〜0.71)、セルトラリン+クエチアピン(aHR:0.79、95%CI:0.67〜0.93)、ベンラファキシン+クエチアピン(aHR:0.82、95%CI:0.73〜0.91)であった。・ベンゾジアゼピンおよび関連薬(aHR:1.29、95%CI:1.24〜1.34)、ミルタザピン(aHR:1.17、95%CI:1.07〜1.29)は、再発リスク増加と関連が認められた。 著者らは、「精神病性うつ病の維持療法において再発リスク低下と関連している薬剤は、bupropion、ボルチオキセチン、ベンラファキシン、LAI抗精神病薬、クロザピンおよびごく少数の特定の抗うつ薬と抗精神病薬との併用療法であった。このことから、精神病性うつ病の標準治療として、抗精神病薬と抗うつ薬との併用療法を推奨している現在の治療ガイドライン(詳細は明記されていない)に対し異議を唱えるものである」としている。

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aggressive ATLに対する同種造血幹細胞移植の有効性(JCOG0907)/ASCO2024

 成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)のうち、急性型、リンパ腫型、予後不良因子を有する慢性型のATL(aggressive ATL)は予後不良で、化学療法による生存期間中央値は約1年と報告されている。一方、aggressive ATLへの同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)による3年全生存割合(OS)は約40%とされるが、その多くが後ろ向き解析に基づくものである。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、aggressive ATLに対するallo-HSCTの有効性と安全性を検証するため、第III相単群検証的試験(JCOG0907)を実施。琉球大学の福島 卓也氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で結果を発表した。・対象:allo-HSCTの実施に前向きな、未治療のaggressive ATL患者(血清抗HTLV-I抗体陽性、≦65歳[試験開始時は≦55歳に対する骨髄破壊的移植(MAST)のみであったが、2014 年9月にプロトコルを改訂し56~65歳に対する骨髄非破壊的移植(RIST)を組み込んだ]、ECOG PS≦3、十分な臓器機能を維持、中枢神経系浸潤なし)・治療プロトコル:1)導入化学療法(VCAP/AMP/VECP 療法※2014年9月に一時的にモガムリズマブ併用も可としたがその後不可とした)2)allo-HSCT[血縁ドナー]MAST:ブスルファン12.8mg/kg+シクロホスファミド120mg/kg、GVHD予防(シクロスポリン+short termメトトレキサート[sMTX])RIST:ブスルファン12.8mg/kg+フルダラビン180mg/m2、GVHD予防(シクロスポリン)[非血縁ドナー]MAST:全身放射線照射(12Gy)+シクロホスファミド120mg/kg、GVHD予防(タクロリムス+sMTX)RIST:ブスルファン+フルダラビン+全身放射線照射(2Gy)、GVHD予防(タクロリムス+sMTX)・評価項目:[主要評価項目]全登録患者における3年OS 主な結果は以下のとおり。・2010年9月~2020年6月に、110 例(急性型72例、リンパ腫型27例、予後不良因子を有する慢性型9例、予後不良因子のない慢性型1例、ホジキンリンパ腫1例)が登録された。年齢中央値は55(33~65)歳、男性/女性=54/56例、PS 0/1/2/3=56/49/3/2例であった。・何らかのallo-HSCTを受けた全92例の患者のうち、試験治療としてのallo-HSCT実施は41例(MAST 19例/RIST 22例、血縁12例/非血縁29例[試験移植群])、後治療としてのallo-HSCT実施は51例(MAST11例/RIST40例、血縁11例/非血縁15例/臍帯血25例[非試験移植群])で、後者のうち 35例が初回寛解中、16例が進行/再発後のallo-HSCT 実施であった。・登録された110例の3年OSは44.0%(90%信頼区間[CI]:36.0~51.6)で、目標とする閾値(両側90%CIの下限値25%)を上回り主要評価項目は達成された。・移植実施までの期間中央値は、試験移植群4.7ヵ月、非試験移植群4.3ヵ月で、両群に差を認めなかった。・年齢とPSで調整し、移植実施の有無を時間依存共変量とした多変量解析によるOSハザード比は、試験移植群vs.非試験移植群が0.92(95%CI:0.55~1.51)で試験移植群に延命効果を認めなかったが、upfront移植(試験移植群と非試験移植群のうち初回寛解中の移植実施例)vs.移植非実施群が0.65(0.33~1.31)で、upfront allo-HSCTは延命効果を示した。・ドナーソース別にみたOSハザード比は、非血縁vs.血縁が0.94(95%CI:0.49~1.79)、臍帯血vs.血縁が1.20(0.59~2.46)で、ドナーソース間で生存に有意差を認めなかった。・試験移植群41例のうち、治療関連死は血縁者間移植16.7%、非血縁者間移植20.7%で、一時的に試験中止とする基準を下回った。死亡全70例の死因は、原病34例、試験移植関連9例、非試験移植関連21例、その他の疾患6例であった。 福島氏は、未治療のaggressive ATLに対するallo-HSCT について、本試験で採用した移植法は延命効果が明確でなかったが、初回寛解時にできる限り早期に移植を実施する治療戦略であるupfront allo-HSCTは推奨されると結論付けた。

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遠隔医療のビデオ通話では医師の「背景」が重要

 遠隔医療により医師はどこからでも診療することができるようになったが、ビデオ通話の際の背景を医師らしく見えるようにすることで、患者の診療内容やアドバイスへの信頼度が強まることが、米ミシガン大学医学部内科学分野のNathan Houchens氏らによる研究で明らかになった。これは、遠隔診療を行う際には、たとえ診療所や診察室から遠く離れていても、そこにいるかのように見せるべきことを示唆する結果だ。研究の詳細は、「JAMA Network Open」に5月15日掲載された。 この研究では、ミシガン・メディスンまたは米国退役軍人(VA)アナーバーヘルスケアシステムのいずれかで1年以内に診療を受けた18歳以上の患者1,213人(626人が女性を自認)を対象に、2022年2月22日から10月21日の間に実施された調査結果の分析が行われた。調査では、7種類の異なる環境(医師のオフィス、診察室、壁に卒業証書や資格証明書などが飾られたオフィス、書棚のある自宅オフィス、寝室、キッチン、無地の背景)にいる医師の写真が提示された。調査参加者は、自分の好みの環境を選び、また6つのドメイン(知識の豊富さ、信頼性、思いやり、親しみやすさ、専門性、患者が感じる居心地の良さ)について1〜10点で評価し、複合スコアが算出された。 その結果、複合スコアが最も高かった背景は、卒業証書などを掲示してある医師のオフィスだった(スコアは平均7.8点)。また、医師のオフィス、診察室、書棚を背景にした自宅のオフィス、無地の背景も高評価を得た。これに対して、背景に寝室(平均7.2点)やキッチン(平均7.0点)が映り込んでいるケースの評価は低かった。卒業証書などで飾られたオフィスを好む人の割合は34.7%、医師のオフィスを好む人の割合は18.4%、無地の背景を好む人の割合は14.4%であったのに対し、寝室やキッチンを好む人の割合はそれぞれわずか3.5%と2.0%に過ぎなかった。 Houchens氏は、「患者は、医師の服装やワークスペースがどのようなものであるべきかについての考えをあらかじめ持っている」と述べ、「今回の研究により、患者は、従来、伝統的あるいは専門的と見なされている服装や環境を好むことが明らかになった」と話している。同氏はさらに、「背景の中の卒業証書や資格証明書は、患者が医師に期待する専門知識を想起させる一方で、リラックスしたインフォーマルな家庭環境の背景だと何かが失われてしまうのだろう」と付け加えている。 こうした結果を受けて研究グループは、医師に対して、遠隔診療を行う場合は、オフィスや診察室から行うか、そのような専門的な環境をシミュレートしたバーチャル背景を作成することを推奨している。また、一部のクリニックに設けられている、遠隔医療を行うための専用スペースは、できる限りプロフェッショナルに見えるようにすべきだとも助言している。 Houchens氏は、「この研究結果は、医療従事者や医療システムが気にかけていないような細部を、患者はしばしば気にすることを教えてくれる。患者は、われわれが使う言葉や非言語的な振る舞いを真剣に受け止めるものだと常に念頭に置いておくことが重要だ。また、われわれ自身もそのことを重く受け止める必要がある」と述べている。

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治療の選択肢の提示【医療訴訟の争点】第1回

症例肝細胞がん患者に対する治療法(肝切除 or シスプラチンの肝動注化学療法[ Transhepatic Arterial Infusion:TAI])の選択について、“どこまで説明をすべきか”という「説明義務違反」が争われた東京地裁平成26年11月27日判決(診療時は平成18年)を紹介する。争点は多岐にわたるが、治療法の選択肢の説明の点に絞ることとする。<登場人物>患者77歳・女性平成7年以降、肥満症、高血圧症で継続的に被告病院を受診し、血液検査を実施していた。原告患者の子被告大学附属病院、担当医(消化器内科医)事案の概要は以下の通りである。平成18年6月被告病院での血液検査で、γ-GTP高値を指摘された。受診時、左季肋部痛と心窩部圧痛の訴えあり。7月被告病院にて腹部エコー検査と腹部造影CT検査を受け、肝左葉S3に径約14×7cmの巨大腫瘍を認め、肝細胞がんの疑いとなった。8月8日被告病院におけるカンファレンスにて、シスプラチンのTAIが最適と判断され、治療法につき患者と家族に説明がなされた。8月9日消化器内科にてシスプラチンのTAI施行。治療時の腫瘍径は17cmであった。8月15日腹部造影CT検査にて、腫瘍径の増大(20×11cm)がみられた。8月18日消化器内科から消化器外科へ院内紹介され、肝切除術を行う方針となった。9月4日肝切除術施行。11月22日腹部造影CT検査にて、残肝に門脈腫瘍栓を伴う多発再発巣がみられた。以降、他院にて放射線療法や肝動脈化学塞栓術(TACE)を受けるも、平成19年4月27日に死亡した。実際の裁判結果裁判所は、治療の選択肢の説明義務違反につき、シスプラチンのTAIは確立した治療法ではなく、臨床的にも本件のような巨大な肝細胞がんに対する奏効率は低いこと、直ちに肝切除を実施する治療方針も十分に採り得たことなどを指摘した。そして裁判所は、医師らは「治療方針を説明した際、直ちに肝切除するという治療方針も採り得ることを説明すべき義務を負っていた…(中略)シスプラチンのTAIを施行するとその作用によって肝切除を行うまでに4~6週間の間隔を空けなければならないことについても説明すべき義務を負っていた」として、この点を説明していなかったことに対して、説明義務違反(慰謝料200万円)を認めた。なお、“直ちに肝切除をしなかったことが注意義務違反に当たるか”については、裁判所は、「腫瘍径の大きさなどからすれば、平成18年7月31日の時点で肝内転移や門脈侵襲を起こしていた可能性が相当高く…(中略)同日の時点で直ちに肝切除を行うという方針を採っても、その後早期に再発することが予想され、肝切除による予後の改善はほとんど期待し難いものと判断される状況にあった」と指摘し、「早期に肝切除をすること自体にどれほどの意義があったかについては疑問を持たざるを得ない」として注意義務違反はないと判断した。注意ポイント解説本件は、肝切除やシスプラチンのTAIといった複数の治療選択肢があった。当時、一般的に肝切除が行われていた一方で、シスプラチンのTAIは有効性を示すエビデンスが乏しく、診療ガイドラインや学会編集の診療マニュアルでも積極的に推奨されているものではなかった。このような中、直ちに肝切除するという治療法の選択肢が説明されておらず、また、シスプラチンのTAIを施行すると肝切除を行うまでに4~6週間の間隔を空ける必要がある、という医師の提示した治療法に付随する制約の説明もされていなかった。このため、これらの説明がなされていた場合には、患者が肝切除を選択することも合理的と考えられたことから、治療法の選択に関する患者の自己決定権を奪ったと判断された。治療法の有効性や安全性は時代と共に評価が変化しうるが、選択可能な治療法が複数存在する場合(とくに、一般的に行われている治療法と異なる治療法を勧める場合や、ガイドラインなどにおける治療法判断のアルゴリズムの当てはめに疑義が生じうる場合)においては、患者が、医師が最適と判断した治療法とは別の治療法を希望する可能性があることから、別の治療法についても患者に提示し、それぞれの治療法のメリットとデメリットなどを説明することが必要である。医療者の視点医師は最新の治療法に関する知識を常時アップデートする必要があります。また、限られた勤務時間の中で十分な説明を行うことは難儀です。しかし、複数の治療選択肢がある以上、医師は各治療法の特徴を熟知した上で、推奨する治療法以外についても患者に説明をしなければならないことを再認識しましょう。昨今では、医療者でなくても各種ガイドラインに容易にアクセス可能となりました。医師が推奨した治療方針とガイドラインとの間で齟齬がある場合、トラブルに繋がる可能性がある点にも留意しましょう。Take home message複数の治療選択肢が存在する症例では、各治療法のメリットやデメリットを患者に提示する必要がある。キーワード説明義務違反とは…患者の自己決定権の尊重の見地から、医師は、患者に対し、“治療方法などについて患者が自己決定するための情報(患者の状態、考え得る治療の選択肢とそのメリット・デメリット等)を説明する義務”を負う。医師がこの説明義務を怠った場合には、患者の自己決定権を侵害したものとして、これにより生じた損害を賠償する責任を負うこととなる。なお、医師の説明義務違反が問われる多くは上記のような“治療法の選択に関する説明”であるが、このほかにも“療養方法の指導としての説明”や“治療等が終了した場合の説明”の適否が争われることもあるので、この点も注意を要する。

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コーヒー・紅茶と認知症リスク、性別や血管疾患併存で違い

 コーヒーや紅茶の摂取は、認知症リスクと関連しているといわれているが、性別および血管疾患のリスク因子がどのように関連しているかは、よくわかっていない。台湾・国立台湾大学のKuan-Chu Hou氏らは、コーヒーや紅茶の摂取と認知症との関連および性別や血管疾患の併存との関連を調査するため、本研究を実施した。Journal of the Formosan Medical Association誌オンライン版2024年5月6日号の報告。 対象は3施設より募集したアルツハイマー病(AD)の高齢患者278例、血管性認知症(VaD)患者102例、対照者468例は同期間に募集した。コーヒーや紅茶の摂取頻度および量、血管疾患の併存の有無に関するデータを収集した。コーヒーや紅茶の摂取と認知症リスクとの関連性を評価するため、多項ロジスティック回帰モデルを用いた。性別および血管疾患の併存により層別化して評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・コーヒーや紅茶の摂取において、さまざまな組み合わせおよび量は、AD、VaDに対する保護効果が認められた。・1日当たり3杯以上のコーヒーまたは紅茶の摂取は、AD(調整オッズ比[aOR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.22〜0.78)およびVaD(aOR:0.42、95%CI:0.19〜0.94)に対する予防効果が認められた。・層別化分析では、多量のコーヒーおよび紅茶の摂取によるADの保護効果は、女性および高血圧症患者でより顕著であった。・コーヒーまたは紅茶の摂取は、糖尿病患者におけるVaDリスク減少と関連していた(aOR:0.23、95%CI:0.06〜0.98)。・脂質異常症は、コーヒーまたは紅茶の摂取とADおよびVaDリスクとの関連性を変化させた(各々、p for interaction<0.01)。 著者らは、「コーヒーおよび紅茶の摂取量が増加すると、ADおよびVaDリスクが低下することが示唆され、性別や高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの血管疾患の併存により違いが見られることが明らかとなった」としている。

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早期乳がん術前Dato-DXd+デュルバルマブ、33%が化学療法をスキップ可(I-SPY2.2)/ASCO2024

 70遺伝子シグネチャー(MammaPrint)で高リスクのStageII/IIIの早期乳がんの術前療法として、抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)+デュルバルマブ併用療法を4サイクル投与した第II相I-SPY2.2試験の結果、33%の患者が化学療法を行わずに手術が可能となったことを、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRebecca A. Shatsky氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。 I-SPY2.2試験は、高リスク早期乳がんの術前療法を評価する多施設共同第II相プラットフォーム連続多段階ランダム割付試験(Sequential Multiple Assignment Randomized Trials:SMART)※で、患者が最大の病理学的完全奏効(pCR)を得るための個別化医療を提供することを目的としている。ブロックAでDato-DXd+デュルバルマブを4サイクル投与し、MRIと生検でpCRが予測された場合は早期に手術を受けることができ、予測されない場合は化学療法や標的療法を行うブロックB/Cに進む。今回は、ブロックAの結果が報告された。※連続多段階ランダム割付試験:連続する多段階のランダム割り付けを通して、一連の動的治療計画を立てるためのデザイン 患者(すべてHER2-)は、免疫反応、DNA修復不全(DRD)、ホルモン受容体の状況に基づいて、(1)HR陽性/免疫陰性/DRD陰性、(2)HR陰性/免疫陰性/DRD陰性、(3)免疫陽性、(4)免疫陰性/DRD陽性、(5)HR+、(6)HR-の6つの腫瘍反応予測サブタイプ(RPS)に分類された。主要評価項目はpCRの達成であった。 主な結果は以下のとおり。・2022年9月~2023年8月に106例がブロックAに登録された。年齢中央値は50.0歳(範囲:25.0~77.0)、HR-が60.4%であった。・ブロックA終了後、33%(35例)が化学療法を受けることなく早期に手術に進むことができた。・Dato-DXd+デュルバルマブ治療後のRPS分類によるpCR率(95%信頼区間)と事前に設定された閾値は下記のとおり。 (1)HR陽性/免疫陰性/DRD陰性(25例):3%(0~7)、閾値15% (2)HR陰性/免疫陰性/DRD陰性(23例):13%(3~23)、閾値15% (3)免疫陽性(47例):65%(47~83)、閾値40% (4)免疫陰性/DRD陽性(11例):24%(4~44)、閾値40% (5)HR+(42例):18%(6~30)、閾値15% (6)HR-(64例):44%(32~56)、閾値40%・(3)の免疫陽性のサブタイプ(HR+もHR-も含む)のみが第III相試験へ進むための「卒業」の閾値に到達した。・安全性プロファイルは既知のものと同様であった。多く発現した有害事象(AE)は、悪心、口内炎、疲労、発疹、便秘、脱毛などで、Grade3以上のAEはまれであった。間質性肺疾患は1例に発現した。

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早期子宮体がんへのホルモン療法、40歳未満では全摘術と長期予後に差がない可能性/ASCO2024

 子宮体がんの罹患者が増加し、女性の出産年齢の高年齢化が進む中で、妊孕性を温存するためにホルモン療法への関心が高まっているが、長期予後に関するデータは限られている。米国のNational Cancer Database(NCDB)登録データを用いて、ホルモン療法と子宮全摘術の長期予後を比較した後ろ向き解析結果を、米国・コロンビア大学の鈴木 幸雄氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で報告した。・対象:NCDBに登録された、18~49歳、臨床病期I、Grade1~2で、1次治療としてホルモン療法あるいは子宮全摘術を受けた早期子宮体がん患者(ホルモン療法あるいは子宮全摘術前に放射線療法あるいは化学療法を受けている患者は除外)・評価項目:ホルモン療法の使用傾向(全体集団:1万5,849例)、生存期間(傾向スコアマッチングコホート:2,078例) 主な結果は以下のとおり。・2004~20年に診断され、1次治療としてホルモン療法を受けた1,187例(7.5%)、子宮全摘術を受けた1万4,662例(92.5%)の、計1万5,849例の患者が特定された。・ホルモン療法の使用は、2004年の5.2%から2020年には13.8%に増加した(p<0.0001)多変量モデルでは、年齢の若さ、診断年の新しさ、非白人、腫瘍悪性度の低さ、臨床病期早期がホルモン療法の使用と関連していた(すべてp<0.05)。・診断時の年齢、人種、診断年、臨床病期、腫瘍悪性度などを共変量とした傾向スコアマッチング後の2,078例を対象として、1次治療としてホルモン療法を受けた患者と子宮全摘術を受けた患者の予後が比較された。・2年生存率はホルモン療法群98.6% vs.子宮全摘術群99.4%、5年生存率は96.8% vs.98.5%、10年生存率は92.7% vs.96.8%で子宮全摘術群で有意に高かった(ハザード比[HR]:1.84、95%信頼区間[CI]:1.06~3.21)。・年齢別にみると、40~49歳では2年生存率は96.0% vs.100.0%、5年生存率は90.4% vs.99.4%、10年生存率は79.1% vs.97.1%で子宮全摘術群で有意に高かった(HR:4.94、95%CI:1.89~12.91)。一方で40歳未満では、2年生存率は99.2% vs.99.4%、5年生存率は98.2% vs.98.5%、10年生存率は95.6% vs.96.5%で両群の差はみられなかった。・臨床病期および腫瘍悪性度別に層別化したサブグループ解析の結果、ホルモン療法と子宮全摘術の予後に有意な差はみられなかった。 鈴木氏は、ホルモン療法の適応が不明であることや、がん特異的生存をみているわけではないことなど本研究の限界を挙げたうえで、40歳未満ではホルモン療法と子宮全摘術の10年生存率に差はみられず、一方で40~49歳ではホルモン療法の予後は不良であったとまとめている。

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atypical EGFR変異陽性NSCLC、amivantamab+lazertinibの有用性は?(CHRYSALIS-2)/ASCO2024

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)に感受性を示すcommon EGFR遺伝子変異(exon19欠失変異、exon21 L858R変異)以外の、uncommon変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)患者は、common変異を有する患者と比べて予後不良である。しかし、EGFR遺伝子のuncommon変異のうち、exon20挿入変異を除いたatypical変異を有するNSCLC患者において、EGFRおよびMETを標的とする二重特異性抗体amivantamabと第3世代EGFR-TKIのlazertinibの併用療法は、有望な抗腫瘍活性を示すことが明らかになった。国際共同第I/Ib相試験「CHRYSALIS-2試験」のコホートC(未治療または2ライン以下の治療歴を有するatypical EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者が対象)の結果を、韓国・延世がんセンターのByoung Chul Cho氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で報告した。 本発表における対象患者は、未治療または2ライン以下の治療歴(第3世代EGFR-TKIによる治療歴のある患者は除外)を有するatypical EGFR遺伝子変異(exon20挿入変異、exon19欠失変異、exon21 L858R変異は除外)陽性NSCLC患者105例であった。対象患者にamivantamab(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の1サイクル目は週1回、2サイクル目以降は隔週)+lazertinib(240mg、1日1回)を投与し、有用性を検討した。主要評価項目は治験担当医師評価に基づく奏効率(ORR)、副次評価項目は奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性などとした。 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時点(2024年1月12日)における追跡期間中央値は16.1ヵ月であった。・atypical EGFR遺伝子変異のうち、主なものはexon18 G719X変異(57%)、exon21 L861X変異(26%)、exon20 S768X変異(24%)であった。・全体集団におけるORRは52%、DORは14.1ヵ月、PFS中央値は11.1ヵ月、OS中央値は未到達であった。・未治療のサブグループ(49例)におけるORRは57%、DORは20.7ヵ月、PFS中央値は19.5ヵ月、OS中央値は未到達であった。・既治療のサブグループ(56例)におけるORRは48%、DORは11.0ヵ月、PFS中央値は7.8ヵ月、OS中央値は22.8ヵ月であった。・既治療のサブグループの患者のうち、88%がEGFR-TKIによる治療歴があった。・既存の標準治療による治療を受けたatypical EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者のリアルワールドデータ(83例)と比較した結果、治療中止までの期間の中央値はリアルワールド群が3.2ヵ月であったのに対し、amivantamab+lazertinib群は14.0ヵ月であった。また、2年OS率はそれぞれ44%、79%であった。・有害事象は、EGFRまたはMET阻害に関連するGrade1/2の事象が多かった。最も多く発現した有害事象は発疹、爪囲炎(いずれも67%)であった。 Cho氏は「本試験において、amivantamab+lazertinibはatypical EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対し、持続的かつ臨床的意義のある抗腫瘍活性を示した。これまでのところ、amivantamabを用いた併用療法は、EGFR遺伝子のcommon変異、exon20挿入変異、atypical変異のいずれにおいても有効性を示している」とまとめた。

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進行胃・食道胃接合部がんの1次治療、tislelizumab+化学療法vs.プラセボ+化学療法/BMJ

 進行胃・食道胃接合部がんの1次治療として、抗PD-1抗体tislelizumab+化学療法は化学療法単独との比較において全生存期間(OS)の改善に優れることが示された。中国医学科学院のMiao-Zhen Qiu氏らRATIONALE-305 Investigatorsによる第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「RATIONALE-305試験」の結果で、PD-L1 TAP(tumor area positivity)スコア5%以上の患者集団および無作為化された全患者集団のいずれにおいても、OSの有意な延長が認められた。進行胃・食道胃接合部がんの1次治療として、プラチナ製剤+5-FUの併用化学療法単独では生存転帰が不良であり、抗PD-1抗体の上乗せを検討した先行研究では、一貫したOSベネフィットは示されていない。そのため、抗PD-1療法のOSベネフィットおよびPD-L1発現状況によるOSベネフィットの違いについては、なお議論の的となっていた。BMJ誌2024年5月28日号掲載の報告。PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団、無作為化全患者集団のOSを評価 RATIONALE-305試験は、2018年12月13日~2023年2月28日に、アジア、欧州、北米の146医療センターで行われた。 被験者は、全身療法未治療のHER2陰性、切除不能な局所進行または転移のある胃・食道胃接合部がんの18歳以上の患者で、PD-L1の発現状況は問わなかった。 研究グループは被験者を1対1の割合で、tislelizumab 200mg(3週ごと静脈内投与)+化学療法(治験担当医師の選択でオキサリプラチン+カペシタビン、またはシスプラチン+5-FU)を受ける群またはプラセボ+化学療法を受ける群に割り付けた。層別化因子は、試験地、PD-L1発現状況、腹膜転移の有無、および治験担当医師の化学療法選択とした。治療は、病勢進行または許容不能な毒性の発現まで続けられた。 主要評価項目はOSで、PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団および無作為化全患者集団の両方で評価が行われた。安全性は、試験治療を少なくとも1回受けた患者集団で評価した。いずれの患者集団でもOSが有意に延長 2018年12月13日~2021年2月9日に1,657例がスクリーニングを受け、うち660例が不適格(適格基準を満たしていない、同意を撤回、有害事象またはその他の理由)とされ、997例がtislelizumab+化学療法群(501例)またはプラセボ+化学療法群(496例)に無作為化された。 tislelizumab+化学療法群は化学療法群と比べて、PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団(中央値17.2ヵ月vs.12.6ヵ月、ハザード比[HR]:0.74[95%信頼区間[CI]:0.59~0.94]、p=0.006[中間解析時点の評価による])、無作為化全患者集団(15.0ヵ月vs.12.9ヵ月、0.80[0.70~0.92]、p=0.001[最終解析時点の評価による])の両者で、OSの統計学的に有意な延長が示された。 Grade3以上の治療関連有害事象は、tislelizumab+化学療法群では54%(268/498例)に、化学療法群では50%(246/494例)に認められた。

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血液検査で危険なタイプの脳卒中を判別

 脳卒中を発症すると、ニューロンは数分で死滅し始めるため、脳卒中のタイプを迅速に特定して対処することが鍵となる。その特定プロセスを早めることができる血液検査の開発についての研究成果が、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJoshua Bernstock氏らにより報告された。この血液検査により、患者の発症した脳卒中が致死率の高い主幹動脈閉塞(LVO)を伴うものであるかどうかを高い精度で判定できることが示されたという。この研究結果は、「Stroke: Vascular and Interventional Neurology」に5月17日掲載された。 LVOを伴う脳梗塞であることが分かれば、医師は機械的血栓回収療法による治療を実施できる。これは、脳梗塞の原因となっている血栓を取り除く外科的手法だ。研究論文の上席著者であるBernstock氏は同病院のニュースリリースの中で、「機械的血栓回収療法のおかげで、この手術を行わなければ死亡するか重大な障害を負っていたであろう人が、あたかも脳卒中など経験しなかったかのように完全回復することができる」と説明している。同氏は続けて、「この治療は、迅速に行えば行うほど、患者の予後も良好になる」と指摘し、「われわれが開発したこの素晴らしい検査法は、世界中でより多くの人がより迅速にこの治療を受けられるようにする可能性を秘めている」と話している。 Bernstock氏らは以前、血液中に検出される2種類のタンパク質、すなわち出血性脳卒中や外傷性脳損傷とも関連するグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)と血栓形成の指標であるDダイマーに注目した研究を実施していた。今回の研究では、脳卒中の発症が疑われる323人の患者を対象に、これらの血液ベースのバイオマーカーのレベルを脳卒中の重症度を評価する5種類の指標と組み合わせることで、LVOを伴う脳梗塞の検出精度が向上するかどうかが検討された。対象患者の脳卒中のタイプは、LVOを伴う脳梗塞が9%、LVOを伴わない脳梗塞が15%、出血性脳卒中が4%、一過性脳虚血発作が3.9%、脳卒中ではないが脳卒中に似た症状を呈するstroke mimicsが68.1%を占めていた。 その結果、GFAPとDダイマーにFAST-ED(Field Assessment Stroke Triage for Emergency Destination、救急搬送先の現場評価脳卒中トリアージ)スコアを組み合わせた場合にLVOを伴う脳梗塞の検出精度が最も高くなり、脳卒中の発症から6時間以内に検査を行った場合の特異度は93%、感度は81%であることが示された。また、この検査により出血性脳卒中患者を除外できることも明らかになった。この結果は、将来的には出血性脳卒中を見つけるためにこの検査法を活用できる可能性のあることを示唆している。 Bernstock氏は、この新しい脳卒中の検査法は、「より多くの脳卒中患者が、適切なタイミングと場所で命を回復させるための重要な治療を受けられるようにするための、革新的で利用しやすいツールになる可能性を秘めている」と語っている。さらに同氏らは、この検査法が緊急事態における出血性脳卒中の発見や除外にも役立つだけでなく、ハイテクの診断スキャンが利用できないような貧困国で特に有用になると考えている。 Bernstock氏らは今後、救急車内でのこの検査の有効性を検証する予定であるとしている。Bernstock氏は、「患者を予防から回復までの適切な治療の流れに乗せるのが早ければ早いほど、予後は良好になる。それが出血性脳卒中を除外することであれ、介入を必要とする何かを除外することであれ、われわれが開発した技術によって病院到着前の環境で行うことができるようになれば、真に革新的なものになるだろう」と述べている。

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うつ病と心血管疾患発症の関連、女性でより顕著

 日本人400万人以上のデータを用いて、うつ病と心血管疾患(CVD)の関連を男女別に検討する研究が行われた。その結果、男女とも、うつ病の既往はCVD発症と有意に関連し、この関連は女性の方が強いことが明らかとなった。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏らによる研究であり、「JACC: Asia」2024年4月号に掲載された。 うつ病は、心筋梗塞、狭心症、脳卒中などのCVD発症リスク上昇と関連することが示されている。うつ病がCVD発症に及ぼす影響について、性別による違いを調べる研究はこれまでにも行われているものの、その明確なエビデンスは得られていない。 そこで著者らは、日本の外来・入院医療のレセプト情報データベース(JMDC Claims Database)より、2005年1月~2022年5月における健診データが利用でき、18~75歳の人のうちCVDや腎不全の既往のある人などを除いた412万5,720人(年齢中央値44歳、男性57%)を対象とする後方視的コホート研究を行った。初回健診以前にうつ病と診断されていた人を、うつ病の既往ありと定義した。CVDには心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、心房細動を含め、これらの複合を主要評価項目として男女別に解析した。 対象者のうち、うつ病の既往のあった人は男性が9万9,739人(4.2%)、女性が7万8,358人(4.5%)だった。平均追跡期間1,288±1,001日(最短1日~最長5,534日)において、CVDは男性で11万9,084件(1万人年当たり発症率140.1)、女性で6万1,797件(同111.0)発症した。 うつ病とCVD発症との関連について、年齢、BMI、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒、運動不足の影響を統計学的に調整して解析した結果、うつ病の既往のCVD発症に対するハザード比は、男性で1.39(95%信頼区間1.35~1.42)、女性では1.64(同1.59~1.70)であり、男女ともに有意な関連が認められた。この関連には性別の影響が認められ、女性の方が男性と比べて関連が強いことが明らかとなった(交互作用P<0.001)。また、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、心房細動のそれぞれとうつ病との関連、および性別の影響を解析した場合も、同様の結果が得られた(全て交互作用P<0.05)。 さらに、サブグループ解析として50歳以上と50歳未満に分けて検討した結果と、肥満の有無で分けて検討した結果のいずれにおいても、うつ病の既往とCVD発症との関連は、女性の方が強いことが明らかとなった。また、複数の感度分析を行った結果も一貫していた。 今回の研究により、うつ病とその後のCVD発症の関連は、女性の方がより顕著であることが示された。著者らは、考えられるメカニズムの一つとして、妊娠や閉経など、ホルモンが変化する重要な時期にうつ病を経験しやすいため、女性では心血管系への影響がより大きくなる可能性があると説明。一方で、男女差が生じるメカニズムの完全な解明には、さらなる研究が必要だとしている。著者らは、「うつ病とCVDの関連についての性差をよりよく理解し、うつ病の男性と女性のそれぞれに最適なケアを提供することで、心血管系の健康につながる可能性がある」と述べている。

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切除可能な局所進行非小細胞肺がんに対するニボルマブの周術期治療の効果/NEJM (解説:中島淳氏)

 外科手術は遠隔転移のない非小細胞肺がんを根治するために、最も有効な手段である。しかし、病期が進むほど術後再発率は高く、現在の国内外の肺がん診療ガイドラインでは臨床病期IIIA期に手術適応の境界線が引かれている。 手術後の成績を改善させるために補助療法が考案されてきたが、今世紀に入り術後platinum-doubletを用いた補助化学療法、そして術前補助化学療法の有効性がそれぞれメタアナリシスによって確かめられたが、いずれも比較的軽微な予後改善にとどまっていた。近年になり分子標的阻害薬や抗PD-1、抗PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤(ICI)が、手術不適応進行非小細胞肺がんに対する従来の化学療法を上回る有効性が示されてから、これを手術補助療法に用いる臨床研究が盛んに行われるようになった。ICIによる術後補助療法、術前補助療法の有効性はすでに多くの臨床研究で明らかにされてきたが、この論文に示された研究では、術前と術後にニボルマブを用いた「周術期」補助療法が検討された。手術を挟んだ前後に行う治療は歴史的には「サンドイッチ療法」とも称され、他部位の固形がん治療で試みられてきた。 本研究(CheckMate-77T試験)は欧米・中国・日本などの多施設共同試験である。臨床病期II-IIIB期(UICC-AJCC第8版病期分類)、切除可能な非小細胞肺がん患者461例を対象とした前向き無作為化二重盲検試験であり、プライマリエンドポイントはevent-free survival(EFS)である。試験群にはニボルマブとplatinum doublet化学療法を術前に4サイクル(3週ごと)投与、術後はニボルマブを4週ごとに、最長1年間投与した。対照群にはplatinum doublet化学療法を術前に4サイクル(3週ごと)投与、術後はプラセボを4週ごとに最長1年間投与した。 中央値25.4ヵ月の追跡調査では、EFSは試験群70.2%、対照群50.0%であり、42%のリスク低減が観察された。4サイクルの術前治療が完遂できた割合はニボルマブ群85%、対照群89%、手術施行は78%、77%、術後補助療法は62%、65%に行われ、ニボルマブ投与の忍容性が確かめられた。 術前補助療法の意義は、腫瘍量を減らして完全切除率向上が期待されること、術後療法よりも忍容性が高いこと、および切除検体による補助療法の効果判定が行えることである。ICIの高い抗腫瘍効果が期待されるが、本研究では切除症例においてニボルマブ群のpathological complete response(pCR)率は25.3%であり、対照群の4.7%と比べて有意に高値であった。本研究では、2群ともにpCRが得られた症例では得られなかった症例と比べてEFSのハザード比(HR)が0.40、0.21であった。ICIは腫瘍のPD-L1発現量が高いほど効果が高いが、サブ解析ではがん組織におけるPD-L1発現が50%以上の症例ではEFSのHRが0.26と非常に低かったが、50%未満ではHRにおいて対照群と有意差はみられなかった。 術前補助療法の負の側面としては、補助療法に伴う合併症あるいは侵襲のために一般状態が低下して耐術不能となる、あるいは術前治療が無効で手術の機会を逸する危険性がある。本研究では、術前治療後の治療継続率に関しては2群間の有意差は認められず、その点では許容される治療であると判断された。 ニボルマブの術前・術後補助療法が、進行非小細胞肺がんの外科治療成績を向上させることは、本研究で明らかにされた。同様の研究はペムブロリズマブ(抗PD-1抗体:KEYNOTE-671試験)、デュルバルマブ(抗PD-L1抗体:AEGEAN試験)などでも行われており、いずれもICIの上乗せ効果が報告されている。 本研究では従来の報告と同様に、がん組織のPD-L1発現度が高い場合には有用性が高いが、逆も真であり、実臨床に応用するためには治療開始前にPD-L1発現度を検査する必要がある。術後ニボルマブ投与の必要性についてはどうだろうか。先行研究のCheckMate-816は、ニボルマブの術前投与の有効性に関する臨床研究であり、対照群は術前にplatinum-doubletと投与、試験群にはこれにニボルマブを加えて投与するという類似した研究である。対象にはcIB期が含まれ多少異なるが、ニボルマブ群のpCRは24.0%とほぼ同等であり、EFSは31.6ヵ月(対照群20.8ヵ月)であった。あくまで参考ではあるが、大きな違いはないように思われる。とくにpCRを達成した症例の術後ニボルマブ継続投与の意義については、医療経済の観点からも重要である。今後、術後投与群・非投与群を比較した試験が必要になるかもしれない。

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第216回 Apple Watchの「心房細動履歴プログラム」をPMDAが医療機器承認、近い将来、針を刺さず血糖値測定ができる機能も搭載される?

ウェアラブルデバイスを使ってみたら……、睡眠の点数評価に一喜一憂する日々こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。皆さんは、最近流行りの健康管理機能が付いたウェアラブルデバイスを身に付けていますか? Apple Watch、Fitbit、Google Pixel Watchなどのウォッチタイプが一般的ですが、リストバンドタイプや指輪(リング)タイプも市販されています。私も人からもらった「Oura ring」というフィンランド・ŌURA社製の指輪タイプをこの半年くらい使っています。日中の心拍数とワークアウト心拍数や、夜間の安静時心拍数、心拍変動、体表温、呼吸数などを測定できます。私はもっぱら睡眠の点数を把握するのに用いています。100点満点中よく寝た日は80点くらいになるのですが、ちょっと夜更かしすると60点台に落ちてしまいます。まあ、自己管理にはそこそこ役立っているとは思うのですが、よく寝たつもりでも60点台が出ると、「寝足りないのかな」と不安になってしまう点と、久しぶりに会った友人から「あれ、結婚指輪なんてしてたっけ」とからかわれるのが玉に瑕です。なお、充電は4、5日に1回で済み、就寝中に装着していても気にならない点はウォッチタイプよりも使い勝手がいいと思います。ということで、今回はこの5月に「心房細動履歴プログラム」が医療機器承認されたApple社のApple Watchについて書いてみたいと思います。Apple Watchは、2018年に心電図測定機能を搭載して以降、ヘルスケア機能の拡充を図ってきました。今回承認された心房細動履歴プログラムは、光学式心拍センサーを用いた現在の心電図測定機能(Apple Watch ECG app)を拡充したものです。こうした機能拡充の延長線で、近い将来、「針なし」で血糖値の測定も行えるデバイスも登場しそうです。「Appleの心電図アプリケーション」、「Appleの不規則な心拍の通知機能」に次ぐ機能、米国から2年近く遅れての承認5月22日、Apple社は、同社のApple Watchに搭載された心房細動履歴プログラムが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から医療機器プログラムとして承認され、同日から日本でも利用可能になったと発表しました。医師から心房細動と診断された22歳以上の人が対象です。なお、このプログラム、世界的には2022年9月に公開されたwatchOS9で利用可能となっており、すでに世界で160近い国・地域で利用されているとのことです。Apple Watchを使っている人はご存じだとは思いますが、Appleはこれまでに「Appleの心電図アプリケーション」(一般的名称:家庭用心電計プログラム)、「Appleの不規則な心拍の通知機能」(同:家庭用心拍数モニタプログラム)といったプログラムをApple Watch向けに開発しており、これらは日本でも管理医療機器の区分で承認され、使われています。つまり、Apple Watchは血圧計などと同様、一般向けの医療機器としてごく日常的に用いられているのです。ただ、日本での承認は米国など各国と比べると大体2年遅れというのが実情です。心房細動履歴プログラムのベースとなっている心電図測定機能(Apple Watch ECG app)がApple Watchに搭載されたのは2018年9月に公表されたApple Watch Series4からでした。Apple Watch ECG appは米国食品医薬品局(FDA)から医療機器として認可を得て、Series4発売とともに米国などではこのアプリが使用可能となりました。しかし、日本では、Apple Watch series4発売時、Apple Watch ECG appの機能は取り除かれていました。「心電図測定」「脈の不整通知」という機能が医療機器に該当するため、国内での医療機器として認可を得る必要があったからです。ようやく、Apple Watch ECG appが家庭用心電計プログラムとして日本で承認されたのは2年後の2020年9月、実際の利用は2021年1月のwatchOS7.3へのアップデートからでした。今回の心房細動履歴プログラムもこれらと同様、米国から実に2年近く遅れての承認となりました。心房細動の徴候を示した時間の推定値をApple Watchの1週間の総装着時間に対する割合として通知Apple社の資料によれば、心房細動履歴プログラムは、Apple Watchに搭載された心拍センサーによって心拍を適時モニタリングし、心房細動の兆候を判別します。iOS 17.0以降とwatchOS 10.0以降のApple Watchの利用者が使用できます。具体的には、心房細動の徴候を示した時間の推定値を、Apple Watchの1週間の総装着時間に対する割合として、1週間ごとに通知するとしています。Apple Watchは心拍を常時モニタリングしているわけではないため、心房細動の持続時間ではなく、推定値として通知するとのことです。推定値は、連動するiPhoneの「ヘルスケア」アプリに週ごとのグラフとして表示されます。運動、睡眠、体重、飲酒量といったヘルスケアアプリが収集できるデータを、推定値のグラフと同時に提示することで、心房細動のリスクとなる生活習慣の改善が容易になるとしています。ところで、FDAは5月、この「心房細動履歴」機能をMedical Device Development Tools (MDDT:医療機器開発ツール)として承認しています。FDAによれば、Apple WatchはMDDTの承認を取得したはじめてのスマートウォッチだそうです。これによって、医療機関における臨床試験においても、Apple Watchの心房細動履歴をデータとして用いることができるようになるとのことです。もし血糖値の測定もウェアラブルデバイスでできるようになれば単なる健康管理だけではなく臨床的な有用性も高まるApple Watchをはじめとするウェアラブルデバイスですが、個人的には早く血糖値の測定もできるようにならないかと思っています。私は糖尿病ではありませんが、機会があって持続血糖測定器 「Dexcom G6」を数日間装着し、自分の血糖値の動きをiPhoneでウォッチし続けたことがあります。Dexcom G6はご存じのように、腹部などの皮下に微小の針を穿刺して留置した細いセンサーで、皮下間質液のブドウ糖濃度を持続的に測定するデバイスで、ほぼリアルタイムで血糖値がiPhoneに表示されます(測定された血糖値は5分ごとに自動的にモニターもしくはスマートフォンに送信)。食後の血糖値がいかにどーんと跳ね上がるか、よく言われる「運動するなら食後30分」の妥当性などを自身で実感できます。実際、食後30分内に早足で散歩をしたら、上がった血糖値がみるみる下り始めたのには驚きました。これは、糖尿病患者や糖尿病予備軍の人の患者教育にももってこいだな、と思ったものです。ただ現在のところDexcom G6やFreeStyleリブレなどの持続血糖測定器が保険診療で使えるのはインスリン注射を1日1回以上行っている糖尿病患者のみです。微小の針が付いた医療機器のため、一般向けの医療機器としては世界のどこでも認められていないようです。「吸収分光法を使って皮膚の下にレーザー光を当てて体内の血糖値を測定するチップを開発中」との報道仮に一般向けのデバイスであるApple Watchに搭載するとしたら、「針なし」(非侵襲的に血液検査なしで)で血糖値を測る必要がありそうですが、果たしてそんなことは実現可能なのでしょうか。実際、Apple社がそうした研究をしているとの報道もあります。2023年3月23日にテクノエッジに掲載された「Apple Watchで血糖値測定はまだ数年先。センサーの小型化が課題」と題する記事は、「Apple社が Apple Watch向けに非侵襲性、つまり注射針を刺す必要がない血糖値センサーの開発に取り組んでいることは長らく噂になってきた。しかし今なお実現にはほど遠く、あと3~7年は掛かる見通し」と書いています。同記事によれば、開発中の血糖値センサーは「吸収分光法を使っており、皮膚の下にレーザー光を当てて体内の血糖値を測定するシリコンフォトニクスチップ」だそうです。ただ、このセンサー、「以前は卓上サイズの大きさだったものが、現時点でのプロトタイプはiPhoneに近いサイズになり、腕に装着できるほどになった」とのことです。センサーがiPhoneサイズということは、実際にApple Watchに搭載できるようになるにはまだまだ相当時間がかかりそうです。とはいえ、光を当てて体内の血糖値を無侵襲に測定する技術が開発中とは驚きです。なお、他の報道によれば、ウェアラブルデバイスによる血圧測定は、血糖値測定よりも先に実現しそうだとのこと。心臓病や高血圧、そして糖尿病などの生活習慣病の通常の管理に、ウェアラブルデバイスが必須となる日はそう遠くなさそうです。

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双極性障害とうつ病で異なる臨床的特徴

 中国・上海交通大学のZhiguo Wu氏らは、うつ病と診断された患者とうつ病と診断されたものの双極性障害(BP)I型およびII型であった患者における、現在のうつ病エピソードの人口統計学的および臨床学的特徴を調査した。BMC Psychiatry誌2024年5月10日号の報告。 うつ病およびうつ病と診断されたBP-I、BP-IIのDSM-IV診断を確定させるために精神疾患簡易構造化面接法(MINI)を実施した。中国の8ヵ所の精神科施設より抽出されたBP-I、BP-II、うつ病患者1,463例を対象に、人口動態、うつ症状、精神疾患の併存を比較した。診断の臨床的相関を評価するため、多項ロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・最初にうつ病と診断された患者のうち14.5%は、最終的にBPと診断された。・BP-IおよびまたはBP-II患者は、うつ病患者と比較し、若年、再発率が高い、気分変調性の併発、自殺企図、興奮、精神病的特徴、不眠症を含む精神医学的併存疾患、体重減少、身体症状などの広範な特徴を有していた。・うつ病と比較すると、BP-IよりもBP-IIのほうが、より多くの違いが観察され、異なる症状プロファイルおよび併存疾患パターンが示された。 著者らは、「本結果は、BP-IおよびBP-IIとうつ病を臨床的に鑑別し、BPのより正確な診断を行うために、重要な意味を持つであろう」としている。

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賞金がかかると減量達成率が向上する

 男性を対象とした研究から、金銭的なインセンティブがあると減量目標の達成率が有意に向上するという結果が報告された。第31回欧州肥満学会(ECO2024、5月12~15日、イタリア・ベニス)で英スターリング大学のPat Hoddinott氏らが発表し、同14日に「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に論文が掲載された。 この研究におけるインセンティブは、設定された減量目標を達成した場合に、最大400ポンド(約8万円)を受け取れるというもの。研究に参加して減量に成功したNevil Chesterfieldさん(68歳)は、「私にとって研究参加は大変有意義だった。もちろん金銭的インセンティブは重要だったが、大学の研究に参加するということに価値があると思えたし、将来の医療政策に役立てるために行うという研究趣旨の説明にも真剣さを感じた」と語っている。 この研究は、肥満(BMI30以上)の男性585人(平均年齢50.7±13.3歳、BMI37.7±5.7)を対象として実施された。参加者は無作為に3群に分けられ、1群は単に体重を減らすように指示した対照群とし、他の2群には減量をサポートするためのテキストメッセージを毎日送信した。さらにそのうちの1群には、テキストメッセージの送信に加え、3カ月後に5%の減量を達成したら50ポンド、6カ月後に10%の減量を達成したら150ポンド、12カ月後にもその体重を維持していたら200ポンドを支給することとした。 12カ月間の追跡調査を完了したのは426人(73%)だった。体重変化率は、対照群は-1.3±5.5%、テキストメッセージのみの群は-2.7±6.3%、インセンティブあり群は-4.8±6.1%だった。対照群を基準として体重変化率の差を比較すると、インセンティブあり群は平均差(MD)-3.2%(97.5%信頼区間-4.6〜-1.9)で有意差があった(P<0.001)。一方、テキストメッセージのみの群はMD-1.4%(同-2.9~0.0)だった(P=0.05)。 インセンティブあり群に割り付けられていたCiaran Gibsonさん(35歳)は、「これまで何年も、食事と運動による減量や減量後の体重維持に苦労してきた。この研究に参加することで、目標達成のモチベーション維持というメリットを得られるのではないかと期待した。参加によって実際に自分の体重減少に責任を感じ続けることができ、より健康的なBMIになれたことに満足している」と話している。 もちろん、肥満者の減量を促すために400ポンドを支給するという手法に眉をひそめる人もいるだろう。論文の共著者の1人である英クイーンズ大学ベルファストのFrank Kee氏もそのような見解に同意を示しつつ、「過体重や肥満に起因する巨額の医療コストを勘案した場合、このような介入の減量効果が長続きするのであれば、長期的には元が取れると考えている。われわれは現在、肥満対策という課題について、医療経済的な視点で詳細な検討を重ねているところだ」と述べている。

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SMART療法を処方される喘息患者は少ない

 吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用型β2刺激薬(LABA)の合剤を、喘息の長期管理薬としても発作発現時の治療薬としても用いる治療法をSMART(スマート)療法という。この治療法は、全米喘息教育予防プログラムと喘息グローバルイニシアチブのそれぞれのガイドラインで使用が推奨されている。しかし、新たな研究で、中等度から重度の成人喘息患者のうち、SMART療法が処方されているのはわずか15%程度に過ぎず、呼吸器およびアレルギー専門医の40%以上がこの治療法を採用していないことが明らかになった。米イエール大学医学部の呼吸器・集中治療医であるSandra Zaeh氏らによるこの研究結果は、米国胸部学会(ATS 2024、5月17〜22日、米サンディエゴ)で発表された。 米国でのSMART療法には、ICSのブデソニドと、即効性の気管支拡張作用を併せ持つLABAであるホルモテロール配合のシムビコートや、モメタゾン(ICS)とホルモテロール配合のDuleraなどがある。SMART療法が登場する以前の喘息のガイドラインでは、長期管理薬として1日2回のICSの使用に加え、発作時には短時間作用型β2刺激薬(SABA)のアルブテロールのようなレスキュー薬の使用が推奨されていた。その後、2021年までに米国のガイドラインが更新され、維持療法とレスキュー療法の両方の目的でSMART療法を用いることが推奨されるようになった。研究グループは、2種類の吸入薬を使い分ける従来の治療法と比べて、両薬剤を一つに配合したSMART療法は喘息の症状や発作を有意に軽減することが示されていると説明する。 この研究では、米国北東部のヘルスケアシステムの電子カルテを用いて、中等度から重度の喘息患者におけるSMART療法の処方動向が調査された。対象は、2021年1月から2023年8月の間に1回以上呼吸器・アレルギークリニックで診察を受け、長期管理薬としてICSとLABA、またはICSのみを処方されていた喘息患者1,502人(平均年齢48.6歳、女性75.2%)であった。 その結果、44%(656/1,502人)の患者にICSとホルモテロールが長期管理薬として処方されており、SMART療法として処方されていたのはわずか15%(219/1,502人)に過ぎないことが明らかになった。また、SMART療法が処方されていた患者の89%(195/219人)は、SABAも同時処方されていた。さらに、SMART療法は、高齢患者とメディケア受益者に処方されにくい傾向のあることも示された。 Zaeh氏は、「これらの結果は、現行の喘息管理ガイドラインが臨床医によって日常的に実施または採用されていないことを示唆している」と述べている。イエール大学医学部のZoe Zimmerman氏は、「医療提供者は、高齢患者に対して新しい吸入レジメンを試すことに消極的だ。特に、患者が何年も同じ吸入薬を使用している場合、その治療レジメンを変更することに抵抗を感じやすい」との見方を示す。 研究グループによると、過去の研究では、ガイドラインが医師に広く採用されるようになるまでには15年以上かかることが指摘されているという。Zaeh氏は、「今回の研究結果は、臨床医によるガイドラインの採用には時間がかかるという考えを補強するものだ」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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大腸がん検診、検査方法の選択肢提示で受診率が向上

 患者に大腸がんの検査方法の選択肢を与えることで、検診を受ける患者数が2倍以上に増えたとする研究結果が報告された。米ペンシルベニア大学医学部のShivan Mehta氏らによるこの研究結果は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に4月30日掲載された。 研究グループの説明によると、大腸がん検診は現在、リスクレベルが平均的な人には45歳からの受診が推奨されているが、大腸がんの既往歴や家族歴がある人は、より早い時期から検診を受けなければならない可能性もあるという。 大腸がん検診で使われる大腸内視鏡検査(コロノスコピー)は、侵襲的ではあるが時間とともにがん化する可能性のある前がん性のポリープを除去することができる。大腸内視鏡検査は10年に1回の頻度で受けることが推奨されているが、その代わりに免疫学的便潜血検査(FIT)を年に1回受けるという選択肢もある。これは、便検体の中に血液が含まれていないかどうかを調べる検査だ。便中の潜血は、大腸がんの初期症状である可能性があり、陽性と判定された場合は大腸内視鏡検査を受ける必要がある。 Mehta氏らは今回、ランダム化比較試験を実施し、患者に大腸がん検診の選択肢を提示することで、大腸内視鏡検査のみを提示した場合と比べて検診受診率が向上するのかどうかを検討した。対象者は、大腸がん検診を推奨通りに受けていない、ペンシルベニア州の地域医療センターの患者738人(平均年齢58.7歳、48.6%がメディケイド受益者)。研究グループによると、この医療センターでの大腸がん検診の受診率はわずか約22%であり、米国での平均受診率(72%)からかけ離れているという。 対象患者は、大腸がん検診の方法として、1)大腸内視鏡検査のみを提示される群、2)大腸内視鏡検査かFITのどちらかを患者が選択できる(アクティブチョイス)群、3)FITのみを提示される群の3群に1対1対1の割合でランダムに割り付けられた。対象患者には、検診受診を勧める手紙と該当者にはFIT用のキットが送付され、その2カ月後と3〜5カ月後にリマインダーのテキストメッセージまたは自動音声が送られた。 その結果、試験開始から6カ月後の時点で大腸がん検診を受けた患者の割合は、大腸内視鏡検査のみの群で5.6%、アクティブチョイス群で12.8%、FITのみの群で11.3%であることが明らかになった。大腸内視鏡のみの群と比べた検診受診率の絶対差は、アクティブチョイス群で7.1%、FITのみの群で5.7%であった。 研究グループは、患者に単純な選択肢を提供することで大腸がん検診の受診率が向上したが、選択肢の数をさらに増やすことが、検診受診者のさらなる増加につながる可能性があるとの考えを示している。 以上のように有望な結果は得られたものの、未解決の問題が残されている。Mehta氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミック中にがん検診の実施が減り、現在はその回復途上にあることや、若年層へのスクリーニング推奨の拡大により、全国的に大腸内視鏡検査へのアクセス問題が存在することは確かであり、とりわけ地域医療センターの患者はより大きな影響を受ける可能性がある」と話す。その上で同氏は、「大腸内視鏡検査は、スクリーニング、症状の診断、FIT後のフォローアップ検査のためのツールとして重要だが、スクリーニング率を向上させたいのであれば、より低侵襲な選択肢を患者に提供することを考えるべきだ」と付け加えている。

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