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古代人のDNAから多発性硬化症の起源が明らかに

 英ケンブリッジ大学およびコペンハーゲン大学(デンマーク)教授のEske Willerslev氏を中心とする国際的な研究グループが、アジアと西ヨーロッパで見つかった中石器時代から青銅器時代までの古代人の遺物のDNA解析により、世界で最大規模の古代人の遺伝子バンクを構築。これを用いて、時代の流れの中で人々の移動とともに遺伝子の変異や疾患などがどのように伝播したのかを明らかにした。この研究結果は、1月10日付の「Nature」に4本の論文として掲載された。 このうち、ケンブリッジ大学動物学分野のWilliam Barrie氏が筆頭著者を務めた1本の論文では、中枢神経系の自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)の有病率が、世界的に見て北欧で高い理由の説明となる結果が得られた。 Barrie氏らは、古代人の歯や骨のサンプルを用いたDNAデータと既存の古代人のゲノムデータを組み合わせて作成された、1,600人以上の古代人のDNAプロファイルに中世以降(11〜18世紀)のデンマーク人86人のゲノム解析データを加え、「白人の英国人」を自称する約41万人のUKバイオバンク参加者のDNAデータと比較し、現代人の遺伝子における古代人の遺伝子の影響を調べた。 その結果、MSの発症リスクに関わる遺伝子変異は、約5,000年前に東方からポントスステップ(現在のウクライナ、ロシア南西部、カザフスタン西部の一部にまたがる地域)に移住してきたヤムナ族と呼ばれる牧畜民とともにヨーロッパにもたらされたことが明らかになった。牛や羊などを家畜化していたヤムナ族は、動物を介した感染症罹患の脅威に常にさらされていた。このことを踏まえてWillerslev氏は、「ヤムナ族がヨーロッパに移住した後もMSのリスク遺伝子を受け継いでいたことは、これらの遺伝子が、たとえMSリスクの上昇をもたらすとしても、感染症から身を守る上で有利だったからに違いない」と話す。 Willerslev氏は、「このMSに関する発見は、遠い過去を見る以上のものをもたらす。この知見は、MSの原因に関するわれわれの見方を変え、治療法にも影響を与えるものだ」と強調する。一方、Barrie氏は、「これらの結果はわれわれを驚かせた。MSや他の自己免疫疾患の進化についてのわれわれの理解を大きく飛躍させる結果だ。われわれの祖先のライフスタイルが現代の疾患リスクに及ぼす影響を明らかにすることで、現代人がいかに古代人の免疫システムの影響を受けているかが明確になる」と話している。 4本の研究で明らかにされたそのほかの主な結果は以下の通り。 身長:北欧の人は南欧の人より背の高い傾向があるが、その違いの背景にもヤムナ族の遺伝子が関係している可能性がある。 他の疾患のリスク:南欧の人は古代の農耕民族のDNAを色濃く受け継いでおり、双極性障害のリスクが高い傾向がある一方で、東欧の人が古代人から継承した遺伝子はアルツハイマー病や2型糖尿病の発症リスクを高める可能性がある。 乳糖に対する耐性:初期の人類は、離乳後に牛乳を消化する(牛乳に含まれている乳糖を分解する)ことができなかった。成人での乳糖に対する耐性は、約6,000年前にヨーロッパで獲得された可能性がある。 野菜の摂取:菜食のみで生活する能力と耐性は、おそらく約5,900年前にヨーロッパで獲得された可能性がある。 1本の論文の筆頭著者であるコペンハーゲン大学グローブ研究所のEvan Irving-Pease氏はニュースリリースの中で、「過去1万年にわたるユーラシア大陸の人々のライフスタイルが、現代人の身体的特徴や多くの疾患リスクに関わる遺伝的遺産をもたらしたことは驚くべきことだ」と述べている。■原著論文Allentoft ME, et al. Nature. 2024;625:301-311.Allentoft ME, et al. Nature. 2024;625:329-337.Irving-Pease EK, et al. Nature. 2024;625:312-320.Barrie W, et al. Nature. 2024;625:321-328.

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英語で「受付する」は?【1分★医療英語】第116回

第116回 英語で「受付する」は?《例文1》看護師She has got checked in but still waiting on the available room.(患者さんの受付は終わっていますが、まだ診察室が空くのを待っています)医師Okay. Let me know when she is ready.(わかりました。準備ができたら教えてください)《例文2》医師Please check him in as soon as he shows up.(彼が到着次第、すぐに受付してください)看護師I got it.(了解です)《解説》“checked in”、この表現は外来診療で頻出の表現です。ホテルや空港でも使われる“check in”を使って、外来に患者さんが来て、受付されている状態を表します。米国では外来担当の日であっても、複数の業務を並行してこなしていることが多いのです。外来でずっと患者さんを待つのではなく、別の場所でほかの業務をしつつ、患者さんが“check in”したら連絡をもらい、診察のために外来へ赴くことが多くあります。院内の電話やチャットで担当患者さんが受付されているかを確認するために、この表現が非常に便利で頻用します。ぜひ、ものにして使ってみてください。講師紹介

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第200回 非オピオイド鎮痛薬が米国承認申請へ

まずは急性痛第III相試験が成功本連載で2年ほど前に取り上げた依存やその他のオピオイドにつきものの副作用の心配がない経口の非オピオイド鎮痛薬が2つの第III相試験で術後痛を有意に緩和し、いよいよ米国FDAの承認申請に進みます1)。試験の1つには腹部の脂肪を除去する腹壁形成手術患者1,118例、もう1つには外反母趾の瘤(バニオン)を取る手術患者1,073例が参加しました。それら2試験のどちらでも米国のバイオテック企業Vertex Pharmaceuticalsの神経ナトリウムチャネル阻害薬VX-548の時間加重合計(SPID48)がプラセボを有意に上回りました。SPID48は点数が大きいほど48時間に痛みがより鎮まったことを意味し、腹壁形成手術患者と外反母趾手術患者の試験でのVX-548投与群のSPID48はプラセボ群をそれぞれ有意に48点と29点上回りました。しかしながら、定番のオピオイド薬との比較ではVX-548は勝てませんでした。腹壁形成手術患者の試験でのVX-548投与群のSPID48はオピオイド薬(ヒドロコドンとアセトアミノフェンの組み合わせ)より高めでしたが勝ったとはいえず、外反母趾手術患者の試験でのVX-548投与群のSPID48はオピオイド薬未満でした。オピオイド薬との比較は残念な結果となりましたが、第一の目標であるプラセボとの比較で勝利したことを受けてVX-548はいよいよ今年中頃までに米国FDAに承認申請されます。手術や手術以外も含む多様な患者へのVX-548の効果や安全性を調べた別の第III相試験の結果も踏まえ、急な痛みの治療薬として承認申請される予定です。対照群なしのその第III相試験ではVX-548使用患者の83%が好転(good, very good, or excellent)したと自己評価しました。慢性痛の用途も目指すVX-548は慢性痛への効果の検討も進んでおり、去年の12月には糖尿病患者の神経痛(糖尿病神経障害)への効果を調べた第II相試験での有望な結果が報告されています2)。点数が大きいほどより痛いことを意味する下限0で上限10の数値的疼痛評価尺度(Numeric Pain Rating Scale:NPRS)が一日一回のVX-548投与で有意に2点強下がり、糖尿病神経障害の治療薬プレガバリンの1日3回投与と同程度の効果がありました。プレガバリンと効果が同程度でもVX-548の1日1回投与は強みになるかもしれません。Vertex社はFDAとの協議の後に糖尿病神経障害へのVX-548の大詰め試験を始める予定です。糖尿病神経障害は末梢神経痛の2割を占めます。Vertex社はさらに患者数が多い腰仙部神経根障害への同剤の第II相試験も昨年の12月に開始しています3)。腰仙部神経根障害は末梢神経痛の実に4割を占めます。装い新たなオピオイド薬も健闘オピオイド薬はとくに慎重な扱いが必要とはいえ、VX-548が勝てなかったことも示すように頼りになる薬として引き続き出番は多そうです。それゆえより安全に使えるようにする取り組みが脈々と続いています。米国のサンディエゴを拠点とするEnsysce Biosciences社が開発している半減期が長いオピオイド薬PF614はその1つで、第II相試験後のFDAとの協議結果を踏まえたうえで今年後半に第III相試験が始まります4)。VX-548の試験でも使われたhydrocodoneとアセトアミノフェンの合剤の製品Vicodinは4~6時間ごとの服用が必要ですが5)、PF614は半減期が12時間と長いので1日2回の服用で事足ります。また、乱用されやすさを確認する試験でPF614はオキシコドンに比べて好まれず、再び使いたいという欲求の程がより低くて済むことが確認されています。米国のオピオイド乱用の惨禍は深刻で、2021年のオーバードーズによる死者10万例(10万6,699例)の75%が処方用オピオイドを含む何らかのオピオイドに関連するものでした6)。ゆえにオピオイドの代わりとして使いうるVX-548やPF614のようなより安全な新しい処方薬の役割は大きいに違いなく、同国のオピオイド惨禍を落ち着けることに役立つでしょう。参考1)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BUSINESS WIRE 2)Vertex Announces Positive Results From Phase 2 Study of VX-548 for the Treatment of Painful Diabetic Peripheral Neuropathy / BUSINESS WIRE3)Evaluation of Efficacy and Safety of VX-548 for Painful Lumbosacral Radiculopathy (PLSR)4)Ensysce Biosciences Announces Positive End of Phase 2 Meeting with FDA for PF614 to Treat Severe Pain / ACCESSWIRE5)Vicodin / FDA6)Drug Overdose Death Rates / NIH

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GLP-1受容体作動薬、従来薬と比較して大腸がんリスク低下

 グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬は、2型糖尿病の治療薬として日本をはじめ海外でも広く承認されている。GLP-1受容体作動薬には、血糖低下、体重減少、免疫機能調節などの作用があり、肥満・過体重は大腸がんの主要な危険因子である。GLP-1受容体作動薬が大腸がんリスク低下と関連するかどうかを調査した研究がJAMA Oncology誌2023年12月7日号オンライン版Research Letterに掲載された。 米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学のLindsey Wang氏らの研究者は、TriNetXプラットフォームを用い、米国1億120万人の非識別化された電子カルテデータにアクセスした。GLP-1受容体作動薬と、インスリン、メトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤(ただし、SGLT2阻害薬は2013年、DPP-4阻害薬は2006年が開始年)の7薬剤を比較する、全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。 コホートは、人口統計、社会経済的な健康決定要因、既往症、がんや大腸ポリープの家族歴および個人歴、生活習慣要因などで調整され、ハザード比(HR)および95%信頼区間[CI]を用いた解析を行った。次いで、肥満・過体重、性別で層別化した患者を対象にした解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・2005~2019年に2型糖尿病を理由に医療機関を受診し、それまでに抗糖尿病薬の使用歴がなく、受診後に抗糖尿病薬を処方された、大腸がんの診断歴がない122万1,218例が対象となった。・追跡期間15年時点で、GLP-1受容体作動薬はインスリン(HR:0.56、95%CI:0.44~0.72)、メトホルミン(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97)と比較して、大腸がんのリスク低下と有意に関連していた。この有意差は男女でも一貫しており、肥満・過体重の患者ではインスリン(HR:0.50、95%CI:0.33~0.75)、メトホルミン(HR:0.58、95%CI:0.38~0.89)と、さらなるリスク低下が見られた。・SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤との比較でもリスク低下は見られたが、インスリン、メトホルミンほどではなかった。α-グルコシダーゼ阻害薬とDPP-4阻害薬との比較では、統計学的有意差は見出されなかった。 研究者らは、本研究の限界として「未測定または未制御の交絡因子、自己選択、逆因果、観察研究に特有のその他のバイアスの可能性があるため、本試験の結果は他のデータや研究集団による検証が必要である。また、抗糖尿病治療歴のある患者における効果、基礎となる機序、GLP-1受容体作動薬がほかの肥満関連がんに及ぼす効果についても、さらなる研究が必要である」としている。

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第180回 ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省

<先週の動き>1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省厚生労働省は、1月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、2024年度の診療報酬改定で急性期一般入院料1の平均在院日数を現行の18日から16日に短縮することを決定した。この決定は診療側と支払側の意見は大きく分かれていたため、公益裁定により行われた。これまで厚労省が進めてきた病床機能分化推進を目的としている。また、重症度や医療・看護必要度の基準も見直され、とくにB項目は廃止される方向で固まった。今回の改定では、急性期入院治療が必要な患者の集約化を進め、医療資源の適切な配分を促すために行われる。公益委員は、地域包括医療病棟の新設や入院基本料の見直しを踏まえ、該当患者割合の基準を高く設定することが将来の医療ニーズに応える上で重要だと指摘した。一方、診療側は、新型コロナウイルス感染症の特例終了後の経営の厳しさを理由に、平均在院日数の基準変更に反対し、影響の小さい見直しを求めた。また、支払側は、急性期病床の適切な集約を進めるために、より厳しい基準の採用と該当患者割合の引き上げを主張した。最終的に、公益裁定により平均在院日数の「16日以内」への短縮と、重症度・医療看護必要度の基準見直しが決定された。今回の改定により、地域医療の質の向上と効率化を目指し、急性期病床の機能分化と連携強化を推進することが望まれている。参考1)中医協 個別改定項目(その2)について(厚労省)2)1月31日の中医協の公益裁定で決定 急性期一般入院料1の平均在院日数は「16日」に短縮(日経ヘルスケア)3)24年度診療報酬改定 急性期の機能分化推進へ 急性期一般入院料1の平均在院日数「16日」に短縮(ミクスオンライン)2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁新型コロナウイルス感染症の長期化により、わが国の救急医療体制が逼迫していることが総務省消防庁の2023年版「救急・救助の現況」から明らかになった。救急出動件数と搬送人数は共に増加傾向にあり、救急車の要請から病院受け入れまでの時間が延長し、搬送先病院をみつけるまでの照会件数も増加している。この状況は、救急現場の負担増加とともに、国民の健康や生命に重大な影響を及ぼす可能性がある。2022年中の救急出動件数は723万2,118件で前年比16.7%の増加、搬送人員は621万9,299人で13.2%増加した。搬送は救急自動車が大部分を占め、消防防災ヘリによる搬送もわずかに増加していた。救急出動の主な原因は急病で、とりわけ呼吸器系、消化器系、心疾患、脳疾患のケースが多くみられた。また、軽症者の割合も増加しており、救急搬送の要請が重症患者や重篤患者に限定されるべきであるとの国民意識のシフトが必要とされている。救急搬送の過程で、119番通報から救急自動車が現場に到着するまでの時間は全国平均で10.3分、病院に収容されるまでの時間は47.2分となり、コロナ禍の影響で時間が延伸している。医療機関への受け入れ照会回数の増加や、搬送先病院のみつけにくさは、コロナ禍における救急医療提供体制の逼迫を示している。この状況に対応するため、厚生労働省は発熱外来や相談体制の強化、かかりつけ医を持つことの重要性を自治体に要請している。また、救急隊による応急処置の重要性が高まっており、医師の現場出動も広がっている。さらに、救急救命士が、病院前で重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置を救急外来でも実施できるよう法律改正が行われている。参考1)新型コロナ感染症の影響で救急医療体制が逼迫、搬送件数増・病院受け入れまでの時間延伸・照会件数増などが顕著―総務省消防庁(Gem Med)2)「令和5年版 救急・救助の現況」(総務省消防庁)3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省厚生労働省は、2024年4月より製薬会社による医師への研究資金提供に関する規制を強化する。製薬会社が、自社製品の臨床研究を大学病院などで行う医師に対して提供する資金の公表を義務付ける臨床研究法の施行規則を改正することにより、透明性を高めることを目的としている。改正後は、製薬企業が提供する研究資金のほか、医師への接待費用や説明会、講演会にかかった費用と件数も公表対象となる。これにより、医師が所属する大学などへの寄付金、講演会の講師謝金、原稿執筆料に加え、これまで公表対象外だった接待費用なども含めた透明性の確保が図られる。今回の規制強化は、高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件を受けて制定され、2018年に施行された臨床研究法に基づくもの。この法律は、製薬会社から研究を実施する大学側に寄付金が提供されていた事実を背景に、研究の透明性を高めることを目的としている。また、日本製薬工業協会は、2011年に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を策定し、2022年にも改定している。このガイドラインでは、製薬企業と医療機関、医療関係者の産学連携における透明性と信頼性の向上を目指し、製薬企業の活動が倫理的かつ誠実なものとして信頼されるための取り組みを強調している。臨床研究法との関係においても、ガイドラインは臨床研究に関連する資金提供の情報公開を義務付け、国民の信頼確保に寄与することを目指している。今回の規制強化により、製薬企業と医療機関の資金提供について透明性を高め、医療機関・医療関係者が特定の企業・製品に深く関与することによる利益相反の問題を解消し、患者の健康を最優先にした倫理的かつ誠実な医療の提供を目指している。参考1)医師への接待費、公表義務化へ…研究資金提供の製薬会社に対し4月から(読売新聞)2)企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて(日本製薬工業協会)4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省糖尿病治療薬をダイエット目的で使用する不適切な医療広告が増加している問題に対し、厚生労働省は医療広告ガイドラインの見直しを行うことを決めた。とくに、GLP-1受容体作動薬を「ダイエット薬」として処方する事例が問題視され、関係学会から有効性や安全性が確認されていないとの警鐘が鳴らされている。GLP-1受容体作動薬は、食欲や胃の動きを抑える効果があるため、糖尿病治療以外にもダイエット目的で使用されている。厚労省は、1月29日に医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、未承認の医薬品や医療機器を自由診療で使用する場合、公的な救済制度の対象外であることを明示するなど、ガイドラインの「限定解除要件」に新たに項目を追加する方針を明らかにした。また、美容医療サービスなどの自由診療でのインフォームド・コンセントの留意事項も見直される。ダイエット目的での不適切な医療広告によって、糖尿病患者が必要とする薬が手に入らない事態を引き起こしており、健康被害の報告も増加している。ダイエット目的で使用した場合の副作用には、吐き気、気分の低下、頭痛、胃のむかつきなどがあり、使用者からは苦しんだとの声が上がっている。厚労省は、不適切な医療広告に対処する都道府県に対して、実施手順書のひな形を提供し、指導、対応を促す方針。さらにネットパトロール事業を通じて違反が確認された医療機関には通知され、多くは6ヵ月以内に改善されているが、一部では改善が遅れているケースもあるため、厳格な対応が求められており、医療広告に関する全国統一ルールの検討や、医療機関のウェブサイトだけでなく、SNSや広告への対処も検討されている。また、一般国民への正しい情報提供と理解促進の強化が必要とされている。参考1)第2回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会(厚労省)2)医療広告ガイドライン改正へ 厚労省「未承認薬は救済制度の対象外」明示、限定解除要件に(CB news)3)「糖尿病治療薬を用いたダイエット」などで不適切医療広告が目に余る、不適切広告への対応を厳格化せよ-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4)「糖尿病治療薬」“ダイエット目的”での使用相次ぎ健康被害が続出 薬不足で糖尿病患者が薬を手にできないケースも…(FNNプライムオンライン)5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省2024年12月に現行の健康保険証が廃止され、マイナ保険証への完全移行が予定されている。この移行に向けて、厚生労働省は医療機関や薬局に対してマイナ保険証の利用促進策を通知した。支援策には、利用促進、顔認証付きカードリーダーの増設、再来受付機・レセプトコンピューターの改修コストの補助が含まれる。利用促進に関しては、利用率の上昇に応じて1件当たり最大120円の支援金が提供される予定。具体例として、国家公務員の利用率は4.36%と低迷し、とくに防衛省では2.50%と最も低い利用率を記録している。同様に電子処方箋の普及も伸び悩んでおり、導入率は約6%に留まっている。これには、システム導入費の負担が大きな障壁となっていることが原因の1つとされている。さらに、マイナ保険証の導入に対する現場の反発も広がっている。大阪府保険医協会のアンケートでは、回答した医療機関の約7割が現行の保険証の存続を支持しており、マイナ保険証の利用に際してのトラブルも多く報告されている。医療現場からは、マイナ保険証の導入による受付業務の負担増や患者の待ち時間の増加が懸念されている。政府はマイナ保険証の利用促進とデジタル化の推進を図っているが、現場の声や患者の不安に十分考慮した取り組みが求められる。専門家は、マイナ保険証のメリットが十分に理解されていない現状を指摘し、デジタル化に適応できない人たちへの配慮や現場の声を反映したスケジュールの見直しが必要だと提言している。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)3)マイナ保険証、国家公務員も利用低迷 昨年11月は4.36%(朝日新聞)4)「トラブル多い」「利用は少ない」 マイナ保険証、広まる現場の反発(同)6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取鳥取県立中央病院の救命救急センターの医師が、消防の救急救命士に対してパワーハラスメント行為を行っていた問題について、病院は6件のパワハラ、またはパワハラの恐れがある行為を認めた。これに対し、12件はパワハラには当たらないと判断された。問題の行為には、救急救命士への高圧的な口調での対応や、一方的に電話を切るなどの行為が含まれている。病院側は、救急救命士からの医療行為に必要な指示を出すよう要請されたにもかかわらず、指示を拒否したり、救急救命士の発言が終わる前に電話を切ったりするなど、救急救命士を指導したいという思いが行き過ぎた行為があったと認めた。この問題について、病院長は記者会見を開き、パワーハラスメントに該当する言動があったことを発表し、今後は研修会などを通じて医師と救急救命士との信頼関係の醸成を図ると述べた。同病院は、消防局に対して謝罪し、関係回復に努めるとしている。また、県病院局はハラスメント防止委員会を立ち上げ、医師らの処分を検討する方針を示している。参考1)県立中央病院医師の救急救命士へのパワハラ6件と発表(NHK)2)救命士に電話ガチャ切りパワハラ 鳥取県立中央病院の救急医(産経新聞)3)「それってぼくが助言しなきゃいけないことですか」「一方的に電話を切られた」医師から救急隊員へのパワハラさらに判明 鳥取県立中央病院(山陰放送)

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糖尿病患者、カルシウムサプリ常用でCVDリスク増

 カルシウムは、骨の組成に重要であり、カルシウム補助食品やサプリメントは骨粗鬆症性骨折予防などに広く用いられている。一方で、カルシウムサプリ摂取が血中カルシウム濃度を急激に上昇させ、心血管系に有害となる可能性がある。とくに心血管疾患(CVD)のリスクが高く、カルシウム代謝が低下していることが多い糖尿病患者における安全性の懸念が提起されている。中国・武漢のTongji Medical CollegeのZixin Qiu氏らによる、糖尿病患者におけるカルシウムサプリ摂取の安全性をみた研究結果がDiabetes Care誌2024年2月号に掲載された。 研究者らはUKバイオバンクに登録された43万4,374人(うち糖尿病患者2万1,676例)を主要解析対象とし、カルシウムサプリの使用と糖尿病の状態との相互作用を検証した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・43万4,374人中2万9,360人(6.8%)がベースライン時に習慣的なカルシウムサプリ使用を報告した。糖尿病患者と非患者でサプリの使用率に有意差はなかった。・追跡期間中央値8.1年および11.2年の間に、それぞれ2万6,374件のCVDイベントおよび2万526件の死亡(うち4,007件がCVD)が記録された。・多変量調整後、糖尿病患者においては、習慣的なカルシウムサプリの使用はCVD発症(HR:1.34、95%CI:1.14~1.57)、CVD死亡(HR:1.67、95%CI:1.19~2.33)、全死亡(HR:1.44、95%CI:1.20~1.72)の高リスクと有意に関連していた。一方、糖尿病のない参加者では有意な関連はみられなかった。・CVDイベントおよび死亡のリスクに関して、習慣的なカルシウムサプリの使用と糖尿病の状態との間には有意な乗法的、相加的な相互作用が認められた。一方、食事または血清カルシウムと糖尿病の状態との間には有意な相互作用はみられなかった。 研究者らは、カルシウムサプリの習慣的使用は、糖尿病患者におけるCVDイベントおよび死亡の高リスクと有意に関連していた。糖尿病患者においては、カルシウムサプリの潜在的な有害作用と考えられる有益性とのバランスをとるためにさらなる研究が必要である、としている。

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GLP-1受容体作動薬の投与には適切な患者をSELECTするのが肝要だろう(解説:住谷哲氏)

 注射薬であるGLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名:オゼンピック)が心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者の心血管イベント発症を26%減少させることが、SUSTAIN-6試験で報告されている1)。一方で、経口セマグルチド(同:リベルサス)はPIONEER 6試験において心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者の心血管イベント発症を増加させないこと、つまり既存の治療に対する非劣性は示されたが優越性は証明されなかった2)。したがって、同じセマグルチドではあるが、心血管イベント抑制を目標とするのであれば経口薬ではなく注射薬を選択するのが妥当だろう。 肥満症は心血管イベント発症のリスク因子であるが、生活習慣改善のみでは目標とする体重減少を達成することは困難であった。しかし、GLP-1受容体作動薬の登場により状況は一変した。GLP-1受容体作動薬には体重減少作用があり、とくにセマグルチド2.4mg(同:ウゴービ)は肥満症治療薬として欧米およびわが国で承認されている。本試験はセマグルチド2.4mgの心血管イベント既往を有する、糖尿病を合併していない肥満症患者の心血管イベント再発抑制に対する有効性を検討したものである。結果は平均観察期間40ヵ月で、3-point MACEの発症を20%抑制することが示された。 RCTの結果を目の前の患者に適用する際には、結果の外的妥当性(generalizability or external validity)の評価が重要となる(EBMのstep 4)。本試験の対象患者は、全例が心血管イベントの既往があり(心筋梗塞が70%)、平均BMI 33kg/m2、糖尿病ではないが70%以上の患者はprediabetes(HbA1c≧5.7%)を合併していた。本文には記載がないが、表3から主要評価項目のNNTを計算すると67/40ヵ月になる。肥満症の有病率を考慮すると、このNNTはこの薬剤の有用性を示唆すると思われるが、やはりリスクとベネフィットとを考慮して適切な患者をSELECTすることが肝要だろう。

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肥満の変形性関節症患者での減量は「ゆるやかに」が重要

 肥満症治療薬を使って体重を徐々に落とすことは変形性関節症(osteoarthritis;OA)患者の延命に役立つことが、新たな研究で明らかになった。ただし、急速な減量は、生存率の改善には寄与しないばかりか、場合によっては心血管疾患のリスクをわずかに上昇させる可能性も示された。中南大学(中国)のJie Wei氏らによるこの研究の詳細は、「Arthritis & Rheumatology」に12月6日掲載された。 肥満は関節炎の悪化要因である上に、早期死亡のリスク因子でもある。現行のガイドラインでは、過体重や肥満の変形性膝関節症/変形性股関節症の患者に対しては減量が推奨されているが、OA患者での減量と死亡との関連に関するデータは少ない。 そこでWei氏らは今回、過体重や肥満の変形性膝関節症/変形性股関節症患者6,524人(平均年齢60.9歳、女性70.2%、平均BMI 38.1)を対象に、肥満症治療薬による1年間の体重減少と全死亡率やその他の疾患との関連を検討した。対象患者のデータは、ウゴービやZepbound(ゼップバウンド)のような肥満症治療薬が登場する前の2000年1月1日から2022年3月31日の間に収集されたものであり、患者は肥満症治療薬としてオルリスタット(5,916人)、シブトラミン(488人)、rimonabant(リモナバント、120人)を服用していた。 5年間の追跡期間中の全死亡率は、1年の間に体重が増加したか変化のなかった人で5.3%、体重減少が緩徐〜中等度(2〜10%の減少)だった人で4.0%、急速(10%以上の減少)だった人で5.4%であった。体重が増加したか変化のなかった人を基準とした場合の全死亡のハザード比は、「緩徐〜中等度」の人では0.72(95%信頼区間0.56〜0.92)と有意に減少していたが、「急速」の人では0.99(0.67〜1.44)と有意ではなかった。さらに、「緩徐〜中等度」と「急速」のいずれの群でも、体重の減少に伴い、高血圧、2型糖尿病、静脈血栓塞栓症のリスクが低下するという減量の保護効果が認められた。しかし、体重減少が急速だった人では、心血管疾患のリスクについては、統計的に有意ではないものの上昇が認められた。一方、がんリスクについては、どちらの群でも有意な関連は認められなかった。 では、なぜ急速に減量した人でのみ、心血管疾患のリスク増加が認められたのだろうか。研究グループによると、先行研究では、急速な減量は心臓にダメージを与える可能性のあるタンパク質や電解質、微量栄養素の欠乏といった不健康な状態に関係することが示されているという。 研究グループは、本研究から学ぶべき重要ポイントとして、「肥満症治療薬によるゆるやかな減量は、過体重や肥満のOA患者の全体的なウェルネスを改善させる可能性がある」とまとめている。また、「今回の結果は、ゆるやかな減量を推奨している、肥満症治療の世界的なガイドラインと一致するものだ」と述べている。

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3月3日開催『第4回アンチエイジングセミナーin鹿児島』【ご案内】

 2024年3月3日(日)、鹿児島市医師会館において『第4回アンチエイジングセミナーin鹿児島』が開催される。参加費は無料で、医師、歯科医師、研究者、メディカルスタッフほか、医療関係者であれば誰でも参加ができる。なお、申込締切は2月26日(月)で、定員100名に達し次第、締め切りとなる。 “最先端の抗加齢医学に触れてみませんか!”と題し、アンチエイジングの分野をリードしてきた各領域のエキスパートが講演を行う。「老化研究の現状と展望」「循環器のアンチエイジング」「ホルモンとアンチエイジング」「自らの行動変容を促す健康教室」など、アンチエイジングにとって重要なテーマを取りそろえており、最新の知識を学び、予防医療への未来へ一歩リードできるようなセミナーを目指している。 主催の日本抗加齢医学会 連携委員会では「鹿児島からアンチエイジング医学の仲間の輪をより広げていくため、知り合いや関係者などでアンチエイジングに興味のある方をお誘い合わせの上、ぜひ参加登録をお願いしたい」と呼び掛ける。 開催概要は以下のとおり。開催日時:3月3日(日)13:00~16:15開催場所:鹿児島市医師会館 大会議室(最寄り駅:鹿児島市電第2期線「加治屋町駅」)     〒892-0846 鹿児島県鹿児島市加治屋町3番10号開催形式:会場開催(WEB配信はなし)参加方法:無料(事前参加登録制)申込締切:2月26日(月)または定員100名になり次第終了■参加登録はこちら【プログラム】 座長:中島 孝哉氏(中島こうやクリニック 院長) 講演1.「健康寿命延伸に向けた老化研究の現状と展望」 尾池 雄一氏(熊本大学大学院生命科学研究部 教授[分子遺伝学講座]/熊本大学大学院生命科学研究部長・医学部長) 講演2.「循環器科の立場からの抗加齢医学」 池田 義之氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 心臓血管・高血圧内科学 准教授) 講演3.「ホルモンと健康長寿(DHEAを中心に)」 柳瀬 敏彦氏(誠和会 牟田病院 院長) 講演4.「抗加齢医学をセルフケアに活かす体験型健康医学教室(りんご教室)」 山下 積德氏(つみのり内科クリニック 院長)【主催】 日本抗加齢医学会 連携委員会【お問い合わせ先】 日本抗加齢医学会事務局 〒103-0024 東京都中央区日本橋小舟町6-3 日本橋山大ビル4F TEL:03-5651-7500 FAX:03-5651-7501 E-mail:seminar@anti-aging.gr.jp 学会ホームページはこちら

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脳卒中による認知症を防ぐために!治療可能なリスク因子は

 脳卒中後の認知機能障害および認知症の確立したリスク因子として、高齢や重度の脳卒中が報告されているほか、心房細動や糖尿病の既往歴なども示唆されている。今回、治療可能なリスク因子に焦点を当て、それらの関連の強さを、ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのJule Filler氏らがシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかにした。Lancet Healthy Longevity誌2024年1月号掲載の報告。 脳卒中後の認知機能障害は脳卒中後4年の時点で最大80%1)に、脳卒中後の認知症は脳卒中後1年の時点で最大40%2)に認められ、患者・介護者・医療制度に大きな負担をもたらしている。研究グループは、システマティックレビューおよびメタ解析を行い、年齢や脳卒中の重症度以外のリスク因子、とくに治療可能なリスク因子に焦点を当てて評価を行った。 研究グループは、MEDLINEとCochraneをデータベースの開設から2023年9月15日まで検索した。急性期脳卒中(虚血性/出血性脳卒中、一過性脳虚血発作)患者を対象とした前向きおよび後向きコホート研究、無作為化対照試験の事後解析、ネステッドケースコントロール研究を解析し、ベースライン時のリスク因子と少なくとも3ヵ月の追跡期間における脳卒中後の認知機能障害および認知症との関連を検討した。ランダム効果メタ解析を用いてプールされた相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューの対象となった論文は162報で、このうち113報(89研究、16万783例)がメタ解析の対象となった。・ベースライン時の認知機能障害は、脳卒中後の認知機能障害(RR:2.00、95%CI:1.66~2.40)および脳卒中後の認知症(3.10、2.77~3.47)の最も強いリスク因子であった。・脳卒中後の認知機能障害の治療可能なリスク因子として、糖尿病(RR:1.29、95%CI:1.14~1.45)、心房細動の合併/既往(1.29、1.04~1.60)、中等度または重度の大脳白質病変(1.51、1.20~1.91)、大脳白質病変の重症度(1.30、1.10~1.55[1SD増加当たり])を年齢や脳卒中の重症度とは別に同定した。・脳卒中後の認知症の治療可能なリスク因子は、糖尿病(RR:1.38、95%CI:1.10~1.72)、中等度または重度の大脳白質病変(1.55、1.01~2.38)、大脳白質病変の重症度(1.61、1.20~2.14[1SD増加当たり])であった。・そのほかのリスク因子として、低学歴、脳卒中の既往、左半球の脳卒中、3つ以上の閉塞、脳萎縮、ベースライン時の認知機能の低さなどがあった。・リスク因子と脳卒中後の認知症との関連は、近年に実施・発表された研究では弱かった。 これらの結果より、研究グループは「今後の臨床試験では、脳卒中後の認知機能障害および認知症の予防のための潜在的標的として、これらのリスク因子を検討すべきである」とまとめた。

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第197回 強引過ぎる零売薬局規制とやる気のないスイッチラグ対策で実感する厚労省の守旧派ぶり、GLP-1ダイエット処方規制の方が最優先では?

食事なしのビジネスホテルにポツンと放り込まれた被災者たちこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。能登半島地震から4週間が過ぎました。先週のこの連載では、被災者の地元外にある1.5次や2次避難所への移動が本格化したものの、実際に移ったのは2,607人、避難者全体の17%とほとんど進んでいないと書きましたが、その後、1月26日のNHKニュースでは、2次避難所等への移動が進まない意外な理由を報じていました。それによれば、2次避難所に避難したものの、食事提供がないため再び被災地の避難所に戻る人が少なくないというのです。食事の提供がある旅館などの避難所は既に満員のため、現在、県などが用意するのはビジネスホテルなどの食事提供がない避難所。場合によっては、食事代だけではなく駐車場代も自己負担になるとのことです。被災した高齢者たちを金沢市などのビジネスホテルにポツンと放り込んで、食事はコンビニや外食、自腹でなんとかしろと言っているわけです。被災者たちが「多少不便でも地元の避難所がいい」というのもわかります。「災害関連死予防のため」と言いながら、行政のこの対応は無責任としかいいようがありません。福祉避難所ではないので、おそらく医療や介護の体制も手薄で被災者任せではないかと思われます。国や県はこうした問題をすでに把握しているとのことですが、早急な対応が望まれます。零売は「やむを得ない場合」のみ販売可能にさて、今回は、処方箋なしで一部の医療用医薬品が購入できる「零売薬局」や日本でなかなか進まないスイッチOTC化など薬の販売を巡る動きについて書いてみたいと思います。厚正労働省は昨年12月18日に開いた医薬品の販売制度に関する検討会において、零売の法令規定や、 乱用の恐れのある医薬品の販売規制強化、 一般用医薬品の販売区分の統廃合などを盛り込んだ改正案をとりまとめました。年が明けた1月11日には、「医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ」と題する正式文書を公表しました1)。その中で、かねてから問題視されてきた零売について、「やむを得ない場合」のみ販売可能であることを法令で明記し、販売可能時の条件も法令で定める方針を打ち出しました。法制化は2024年中にも行われるとみられます。2005年4月の薬事法改正時の通知で零売に法的根拠厚労省が「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売」、すなわち零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。2005年4月の薬事法改正時に、医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出し、零売に法的な根拠を与えました。零売については本連載でも、「第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)」で取り上げました。この時は、コロナ禍で医療機関の受診控えが起こったことなどを背景に、東京都内をはじめ大都市圏で零売薬局が急増している状況と、私自身の零売利用体験について記し、「零売は医療機関を受診しない(保険診療ではない)ことで、医療費の削減につながります。国が言う、セルフメディケーション推進の流れにも合っているわけで、風邪や下痢などのコモンディジーズや患者自身も十分に理解している疾患に限っては、零売は『規制』よりも『推進』があるべき形だと考えられます」と書きました。 医薬品の販売制度に関する検討会で零売を法律で規制する方向にしかし、世の中はそうは動きませんでした。利用者にとっては医療機関に受診しないで処方薬が手に入る利便性がある一方で、さまざまな不適切事例(「処方箋なしで病院の薬が買えます」と通知で不適切とされる広告を出していた企業があるなど)を厚労省も把握しており、不適切事例に対する指導を徹底するよう、度々通知を出してきました。そうした流れの延長線で、今回の医薬品の販売制度に関する検討会も議論が進みました。結果、「とりまとめ」では零売を法律でしっかりと規制しようという内容となったわけです。具体的には、医療用医薬品については処方箋に基づく交付が基本処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、例外的に「やむを得ない場合」については薬局での販売を認めることを法令上規定上記「やむを得ない場合」は、「医師に処方され服用している医療用医薬品が不測の事態で患者の手元にない状況となり、かつ、診療を受けられない場合」、「OTC医薬品で代用できない場合、又は代用可能と考えられるOTC医薬品が容易に入手できない場合(例:通常利用している薬局及び近隣の薬局等において在庫がない場合等)」に限定。なお、その他の特殊な場合として「社会情勢の影響による物流の停滞・混乱や疾病の急激な流行拡大で薬局での医薬品販売が必要となった時」を付記。となっています。不適切な処方・販売なら「GLP-1ダイエット」の方がよほど悪質零売という販売システムにおいて甚大な健康被害があったわけでもなく、単に広告表現に不適切な事例が散見されただけで、零売という薬剤販売のユニークな仕組みを一律に法律で規制してしまうというのは、相当強引なやり方ではないかと私は思います。薬の不適切な処方、販売ということでは、美容クリニックなどが自由診療でGLP-1受容体作動薬を処方する、通称「GLP-1ダイエット」のほうがよほど悪質なのではないでしょうか。急性すい炎など重篤な副作用の報告や健康被害も報告されているようです。2023年12月20日に国民生活センターはダイエットなどを目的としたオンライン診療でトラブルについて注意喚起を行っています2)。それによると、ダイエットを含む美容医療のオンライン診療に関する相談は、2022年度が205件と前年度の約4.2倍に増加。2023年4月~10月末は169件の相談があり、前年同期比の約1.7倍に上っていたそうです。相談の約半数が、ダイエット目的によるオンライン診療のトラブルで、基礎疾患の問診や副作用の説明が十分行われずに、数ヵ月分の糖尿病治療薬を処方される事例が目立っていました。実際に、頭痛や吐き気、めまいなどの副作用が起きた事例もあったとのことです。また、処方薬の中途解約に条件があり、返品や取り消しができないといった相談も多かったそうです。医師ではない職員がGLP-1受容体作動薬を自由診療で処方との報道も12月11日のNHKの「GLP-1ダイエット」に関する報道によれば、オンラインで診療する医師の医師免許が確認できないクリニックも多数あったとのことです。つまり、対面ではなくオンラインであることを悪用し、医師ではない職員が医師を騙ってGLP-1受容体作動薬を自由診療で処方しまくっているケースが相当あるようなのです。以上を比較してみると、同じ薬の処方、販売に関することなのに、国はGLP-1受容体作動薬を“偽医者”を使ってオンラインで自由診療として処方する医療機関には「とても甘く」、きちんと薬剤師が薬の説明もしてくれる零売薬局には「厳し過ぎる」と言えるのではないでしょうか。オンライン診療については、「第101回 私が見聞きした“アカン”医療機関(中編) オンライン診療、新しいタイプの“粗診粗療”が増える予感」でも、そのゆるさと危険性について書きました。コロナ禍を経たことで、オンライン診療推進という流れに揺るぎはないようです。しかし、ことオンラインにおける自由診療となると多くの悪い奴らが暗躍しているようです。零売規制やスイッチラグ解消に消極的な姿勢から浮かび上がる厚労省の守旧派ぶり薬の販売では、日本におけるスイッチOTC化の遅れも大きな問題と言えます。内閣府の規制改革推進会議の健康・医療・介護ワーキンググループは、12月11日に開いた第3回会合で、規制改革実施計画に盛り込まれているスイッチOTC促進策のフォローアップを行いました。会合では、諸外国における医療用から一般用への転用実績との格差、いわゆる「スイッチラグ」が社会課題であると再確認、厚労省に対して改めて推進を前提に審査期間・手順の見直しを迫るとともに、具体的な数値目標とロードマップの策定を求めました。スイッチラグについては、本連載の「第113回 規制改革推進会議答申で気になったこと(後編)PPIもやっとスイッチOTC化?処方薬の市販化促進に向け厚労省に調査指示」でも書きましたが、厚労省は相変わらず煮え切らない対応を繰り返しているばかりです。12月24日付の薬局新聞の報道によれば、12月11日の規制改革推進会議の健康・医療・介護ワーキンググループの会合では、厚労省がPPIなどスイッチラグの代表的な成分のOTC化に関して「重大な疾患の症状が見落とされる危惧があり、また販売制度実態調査などの状況から薬剤師による説明が十分なされていない実態がある」とそのリスクを説明したところ、ワーキンググループの委員から、「日本の薬剤師はレベルが低いと聞こえる」との疑問が呈されたそうです。理不尽とも思える零売規制やスイッチラグ解消に消極的な姿勢から浮かび上がるのは、厚労省の頑固と言える守旧派ぶりです。その背景には、日本医師会など医師団体に対する“忖度”も少なからずあるのかもしれません。医薬品販売の規制は、実際に多くの健康被害が確認されているところにフォーカスされるべきでしょう。厚労省は規制の矛先を間違えているとしか言いようがありません。参考1)「医薬品の販売制度に関する検討会」の「とりまとめ」 を公表します/厚生労働省2)痩身目的等のオンライン診療トラブル/国民生活センター

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