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MI後のスピロノラクトンの日常的使用は有益か?/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心筋梗塞(MI)患者において、スピロノラクトンはプラセボと比較し、心血管死または心不全の新規発症/増悪の複合イベント、あるいは心血管死、MI、脳卒中、心不全の新規発症/増悪の複合イベントの発生を低減しなかった。カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR investigatorsが、14ヵ国の104施設で実施した無作為化比較試験「CLEAR試験」の結果を報告した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、うっ血性心不全を伴うMI患者の死亡率を低下させることが示されているが、MI後のスピロノラクトンの日常的な使用が有益であるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2024年11月17日号掲載の報告。スピロノラクトンvs.プラセボ投与を比較 研究グループは、PCIを受けたST上昇型MIまたは1つ以上のリスク因子(左室駆出率[LVEF]≦45%、糖尿病、多枝病変、MIの既往または60歳以上)を有する非ST上昇型MI患者を、2×2要因デザインによりスピロノラクトン+コルヒチン、コルヒチン+プラセボ、スピロノラクトン+プラセボ、またはプラセボのみを投与する群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 コルヒチン群とプラセボ群を比較した結果は別途報告されている。本論ではスピロノラクトン群とプラセボ群の比較について報告された。 主要アウトカムは2つで、(1)心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合と、(2)MI、脳卒中、心不全の新規発症または増悪および心血管死の複合であった。2つの主要アウトカムについて有意差なし 2018年2月1日~2022年11月8日に、7,062例が無作為化され、3,537例がスピロノラクトン、3,525例がプラセボの投与を受けた。今回の解析時点で、45例(0.6%)の生命転帰が不明であった。 追跡期間中央値3.0年において、1つ目の主要アウトカムである心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合イベントは、スピロノラクトン群で183件(100患者年当たり1.7件)、プラセボ群で220件(100患者年当たり2.1件)が報告された。非心血管死の競合リスクを補正したハザード比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.69~1.21、p=0.51)であった。 2つ目の主要アウトカムの複合イベントの発生率は、スピロノラクトン群で7.9%(280/3,537例)、プラセボ群で8.3%(294/3,525例)が報告され、競合リスク補正後ハザード比は0.96(95%CI:0.81~1.13、p=0.60)であった。 重篤な有害事象は、スピロノラクトン群で255例(7.2%)、プラセボ群で241例(6.8%)に報告された。

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九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)【大学医局紹介~がん診療編】

加藤 光次 氏(准教授)山内 拓司 氏(助教)大村 洋文 氏(助教)近藤 萌 氏(大学院生)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちが目指す医療は、目の前の患者さんを助けること、そして将来の患者さんを救うことであり、深い洞察を伴う臨床と研究を通じて、この2つの役割を果たすことができる“Physician Scientist”の育成に、医局として力を入れています。九州大学医学部第一内科は、5つの診療研究グループ(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)で構成され、各医師が専門領域に精通しつつ、人・全身を総合的に診る力を重視しています。当科では、全体回診を継続するなど、グループや臓器別診療の垣根を越え、全人的に診療できる総合内科医の臨床力を自ずと身に付けることができる土壌が育まれています。さらに、当科の専門であるがんや免疫の領域では、奇跡的とも言える最近の基礎研究から臨床開発への応用を容易に目の当たりにすることができます。このことは、第一内科ならではの特徴で、基礎研究や臨床開発における成果を、専門性を越えて異なる視点やアプローチから学ぶことが可能です。すぐ近くに、自らの視野を広げてくれる環境が整っています。さまざまなグループの垣根を越えた組織の活力は「自由」から生まれ、第一内科開講以来100年以上もの間、それを大切にしてきました。第一内科に息づく「自分のやりたいことがやれる自由度の高さ、そしてそれを支える歴史と伝統」を引き継ぎ、臨床力・研究力・人間力のバランスが取れた“Physician Scientist”を目指す若い皆さまに是非教室にご参加いただき、それぞれがもつ夢を実現して欲しいと思います。全体回診を行い、グループの垣根を越えて診療力を入れている治療/研究テーマ九州大学病院血液内科では、移植推進拠点病院として年間約50件の造血幹細胞移植を実施しています。また、難治性悪性リンパ腫や多発性骨髄腫に対する新規治療であるCAR-T細胞療法も、いち早く導入され、年間50件以上の実施件数を誇っています。研究面では、白血病や悪性リンパ腫を中心とした基礎研究に加え、臨床現場での疑問点を出発点とした研究や、基礎研究から臨床応用を目指すトランスレーショナルリサーチも推進しています。たとえば、白血病幹細胞に発現するTIM3を世界に先駆けて発見し、これをターゲットとした治療薬の開発を進めています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、細胞治療に関する豊富な臨床経験を積むことができるほか、臨床と研究の距離感が近い環境が整っています。血液がんは一般的に予後が不良な疾患ですが、その治療法は日進月歩で進展しており、新たな治療法の開発に取り組むことができるのが大きな魅力です。血液がんと診断された患者さんは、多大なショックや不安を抱えていますが、少しでも安心できる未来を目指し、共に治療を進めていきましょう。カンファレンスの様子同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力私たち腫瘍グループは、がん治療の最前線で、多職種や複数の診療科と連携し、患者さん一人ひとりに最適な治療を届けることを目指しています。消化器がん、軟部肉腫、原発不明がんなど、幅広いがん種に対し、最新のエビデンスに基づく薬物療法を実践しています。時には合併症で悩むこともありますが、他のグループの先生方にいつでも気軽に相談できるので、心強いサポートを感じています。このように臓器の枠組みを越えた連携が、「全人的に診る」総合内科としての第一内科の強みであり魅力でもあります。患者さんに寄り添い、時に笑い合い、悩みながらも一緒に歩んでいく―それがやりがいであり、私が第一内科に入局した理由でもあります。さらに、研究設備も非常に充実しており、関連病院の先生方と協力しながら存分に研究を行うことも可能ですし、学位取得のチャンスも広がっています。また日本臨床腫瘍学会の認定研修施設として、「がん薬物療法専門医」の資格取得を目指すための高度な教育環境が整っています。臨床、研究、教育のいずれも充実したこの環境で、私たちと一緒に最先端のがん医療に取り組んでみませんか?これまでの経歴山口大学を卒業後、九州大学第一内科(心血管グループ)に入局し、内科専門医・循環器専門医を取得しました。現在は腫瘍循環器診療を行うとともに、がん治療と心血管疾患に関する基礎・臨床研究に力を入れています。同医局を選んだ理由当科は血液、腫瘍、循環器、膠原病、感染症など多様な診療グループがあり、各診療グループ間の垣根がないため、内科医としての知識を幅広く学べる環境が整っています。指導医の先生方は豊富な知識を持ち、患者さんに真摯に向き合っており、その姿勢に惹かれて入局を決意しました。所属する先生方のキャリアは多様で、各々のニーズに応じた働き方やスキル習得が可能です。私もがんと循環器領域の両方に興味を持ち、入局後にがん診療に従事した後、心血管グループに所属しています。現在学んでいること現在は大学院で、がん治療に関連する心血管障害の基礎研究を進めつつ、造血器腫瘍と心血管有害事象、腫瘍循環器リハビリテーションの臨床研究も行っています。がん治療は日々進歩し続けており、その中で患者さんに少しでも良い診療を提供できるよう研鑽を重ねています。九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)住所〒812-858 福岡県福岡市東区馬出3-1-1問い合わせ先ikyoku1intmed1@gmail.com医局ホームページ九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)専門医取得実績のある学会日本内科学会、日本血液学会、日本輸血・細胞治療学会、日本移植学会、日本臨床腫瘍学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本不整脈心電学会、日本アレルギー学会、日本リウマチ学会、日本感染症学会、日本臨床検査医学会、日本救急医学会、日本糖尿病学会 など研修プログラムの特徴(1)血液内科・腫瘍内科・心血管内科・膠原病内科・感染症内科と複数のグループが連携して診療にあたっており、充実したサポート体制のもとさまざまな分野の症例が経験できます。(2)治験や臨床試験をはじめ最先端の治療を実施しており、将来の治療開発に繋がる基礎研究にも精力的に取り組んでいます。希望があれば海外留学も支援します。(3)休日当番制を敷いて、ライフワークバランス実現に取り組んでいます。産休・育休から復帰した女性医師のキャリア支援にも力を入れています。詳細はこちら

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高リスク2型DM患者の降圧目標、120mmHg未満vs.140mmHg未満/NEJM

 心血管リスクを有する収縮期血圧(SBP)が高値の2型糖尿病患者において、目標SBPを120mmHg未満とする厳格治療は、140mmHg未満とする標準治療と比較して、主要心血管イベント(MACE)のリスクが低下したことが示された。中国・Shanghai Institute of Endocrine and Metabolic DiseasesのYufang Bi氏らBPROAD Research Groupが、中国の145施設で実施した無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Blood Pressure Control Target in Diabetes:BPROAD試験」の結果を報告した。2型糖尿病患者におけるSBP管理の有効な目標値ははっきりとしていない。NEJM誌オンライン版2024年11月16日号掲載の報告。主要アウトカムは、非致死的脳卒中・心筋梗塞、心不全入院/治療、心血管死の複合 研究グループは、50歳以上の2型糖尿病患者で、SBP高値(降圧薬服用患者130~180mmHg、非服用患者140mmHg以上)および心血管疾患リスクが高い患者を、目標SBPを120mmHg未満とする厳格治療群または140mmHg未満とする標準治療群に無作為に割り付け、最長5年間治療を行った。 主要アウトカムは、MACE(非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞、心不全による入院または治療、または心血管死の複合)とし、欠測の場合は多重代入法を用いて補完し解析した。 2019年2月~2021年12月に、1万2,821例が登録された(厳格治療群6,414例、標準治療群6,407例)。患者背景は、5,803例(45.3%)が女性で、平均(±SD)年齢は63.8±7.5歳であった。MACEの発生頻度は100人年当たり1.65 vs.2.09 平均SBPは、厳格治療群および標準治療群でそれぞれベースラインでの140.0mmHg、140.4mmHgから、1年後は121.6mmHgおよび133.2mmHgに低下した。 追跡期間中央値4.2年において、MACEは厳格治療群で393例(100人年当たり1.65件)、標準治療群で492例(同2.09件)に認められた(ハザード比:0.79、95%信頼区間:0.69~0.90、p<0.001)。 重篤な有害事象の発現率は、厳格治療群36.5%、標準治療群36.3%であり、両群で同等であった。しかし、症候性低血圧および高カリウム血症の発現率は、厳格治療群と標準治療群でそれぞれ0.1% vs.0.1%未満、2.8% vs.2.0%であり、厳格治療群で高頻度に認められた。

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第240回 3年間で612施設、43.6%も増えた美容外科、背景にはコロナ禍での過酷な長時間労働と「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求も

“直美”の時代、もう「白い巨塔」は映像化できないこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先々週からウィークデイのお昼に、フジテレビの地上波でテレビドラマの「白い巨塔」を再放送していたので、何回か観てみました(全21回で11月26日まで放送)。1978年の田宮 二郎版ではなく、2003年に放映された唐沢 寿明版です。唐沢が演じる財前 五郎は、田宮に比べて小柄で、白衣がダブダブなのと演技の迫力が違うのはまあ玉に瑕として、今でも十分に鑑賞に耐え得るドラマだと思いました。田宮 二郎は1978年のフジテレビのドラマ以前に、1966年に映画「白い巨塔」(山本 薩夫監督)でも財前を演じていますが、それについては本連載の「181回 大学病院への“甘さ”感じる文科省『今後の医学教育の在り方に関する検討会』中間取りまとめ、“暴走”する大学病院への歯止めは?」でも書きましたので、興味のある方はそちらをお読みください。さて、唐沢版の「白い巨塔」ですが、2003年放映で医学技術や医療事情も2000年代前半に合わせているはずですが、わずか20年前なのに相当な時代のズレを感じるシーンが散見され、興味深かったです。まず驚くのは財前が助教授室でタバコを吸ってる場面です。義父で産婦人科の財前 又一(西田 敏行が怪演)が財前に高級ライターをプレゼントする場面も違和感があります。また、財前の上司の東 貞蔵教授(石坂 浩二)が「開業医は医学の世界では負け犬だ」と、開業医を強烈にディスる場面も今ではコンプライアンス的にNGかもしれません。さらに言えば、教授回診のシーンに代表される、医学部教授を頂点とする大学医局の厳然たるヒエラルキーの存在自体も、新医師臨床研修制度(2004年スタート)の定着や、今進められている医師の働き方改革などによって、相当希薄になってきてるのではないかと感じます。おそらく、今の医療界を舞台に「白い巨塔」を映像化することは、非現実的ゆえに不可能なのではないかと思います。医局入局などそっちのけで、“直美”(初期研修を終えた後、すぐに美容医療界に進むこと)を選択する医師が急増している今となっては、なおさらです。美容外科、3年間で612施設・43.6%も増え、増加率は全43科目で最も高い数字その美容外科ですが、11月22日に厚生労働省が発表した「医療施設静態調査」の2023年版1)を見ると、数字の上でも最近の急増が明らかとなっています。医療施設静態調査は3年に1度、各年10月1日時点での医療施設を対象に調査するものです。それによれば、美容外科を標榜する診療所は2023年に2,016施設と2020年調査と比較して612施設、43.6%も増えました。増加率は全43科目で最も高く、増加数も2位でした。なお、増加数1位は皮膚科で775施設、3位は内科で604施設、4位は精神科で538施設、5位は糖尿病内科(代謝内科)で451施設、6位は形成外科で324施設でした。形成外科は増加率も高く15.0%でした。ちなみに、減少数の1位は小児科で1,020施設減、2位が消化器内科(胃腸内科)で703施設減、3位が外科で632施設減でした。この調査は複数科を標榜する場合は重複計上となっています。美容外科と併せて標榜する皮膚科や、関連して標榜する形成外科が多くなるのは当然の結果と言えそうです。それにしても、2020年から3年間で美容外科が4割増とは驚くべき数字です。コロナ後の日本における美容外科需要の高まりと、並行しての“直美”トレンドの定着にはいろいろな意味で恐ろしさを感じます。実際、美容医療で起きる医療事故は急増しています。国民生活センターなどに寄せられた美容医療による合併症や施術のトラブルなどの相談件数は、2023年度に約800件と2018年度から約2倍に増えており、大きな社会問題ともなっています。「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書も公表、年1回定期的な報告を求める仕組みの導入や診療録等への記載を徹底へ医療施設静態調査の結果が公表された11月22日には、厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書も公表されています。2024年6月から開催されてきた同検討会では、美容医療の患者や医療機関を対象とした実態調査や関係学会等からヒアリングなどを踏まえて、美容医療が抱えるさまざまな課題と対応策が議論されてきました。同報告書では、具体的な対応策として、「安全管理措置の実施状況等について年1回の頻度で都道府県知事等に対して定期的な報告を求める仕組みの導入」「医師法や保助看法等への違反疑いのある事例に対する保健所等による立入検査や指導のプロセス・法的根拠の明確化」「美容医療に関して必要な内容の診療録等への記載の徹底」「関係学会によるガイドラインの策定」などが提言されました。今後、こうした対応策が講じられることで、美容医療の質や安全対策は向上していくでしょうが、いわゆる“直美”や、ある程度技術が備わってからの美容医療への転身(「逃散」と言えるかもしれません)の傾向自体を止めることはできないでしょう。そこにはもっと深い構造的な問題があるからです。医局から派遣された病院での長時間労働で疲弊し美容医療の世界に11月22付日付でYahoo!ニュースに掲載された、共同通信とYahoo!ニュースによる共同連携企画の記事「『保険診療はもう限界』追い詰められた若手医師、次々に美容整形医へ…残った医師がさらに長時間労働の『悪循環』」は、まさにそうした「逃散」の現状をレポートしており読み応えがありました。同記事には、2010年代はじめに国立大学の医学部に入学、卒業後に外科医局に入った男性医師が、医局から派遣された病院での長時間労働で疲弊し、さらには奨学金返済に追われたことも手伝って適応障害を発症、美容医療の世界に転身した経緯が書かれています。「年収は約2,000万円。以前に比べて大幅に増えた上、十分に休みも取れるようになった」というこの医師の「医師の中には毎日、残業を何時間しても大丈夫という人がいる。敬意は持っています。でも反対に、そんな人でないと医局には残れないです」という言葉からは、お金のためでもあるけれど、「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求が、美容医療選択の背景にあることがうかがい知れます。コロナ禍は美容医療のブームのきっかけともなったが、同時に若手医師たちを疲弊させる原因ともなった同様のケースは多そうです。医療関係で働く私の友人の知り合いのある若手医師も、呼吸器内科で後期研修を終えたばかりなのに、美容外科への転身を考えているそうです。友人によれば、その医師は、コロナ禍での過酷な長時間労働に心身共に疲れ切ってしまったのだそうです。結婚して子どもも生まれたのに、一家団欒とは程遠い生活が続くことに疑問を覚え、妻の勧めもあって美容外科への転職の検討に入っているとのことでした。コロナ禍は、国内の美容医療のブームのきっかけになりましたが、同時に若手医師たちを疲弊させる原因にもなっていたわけです。その友人が教えてくれたもう一つの興味深いケースは、自らの開業資金を貯めるための美容医療への一時的就職です。普通の勤務医を続けるよりはラクで、かつ貯金できる金額も多いため、一定期間、美容医療に身を置いてまとまったお金を稼ごうというわけです。一時期、体力のある若者が短期集中で大金を稼ぐため、過酷ではあるけれど高給が保証される配送ドライバーになっていたことがありましたが、若手医師にとって美容医療がそうした位置付けにもなっているわけです。永遠に美容医療の世界で働くわけではないという点では少々“救い”はあるかもしれません。ただ、後期研修も受けていない“直美”の医師がお金を貯め、内科などで開業するのであれば心配です。中学生、高校生には「医者は理数系の就職先の中では負け犬だ」くらいのアピールをして、本当に医学の道に進みたい人材を医学部に厚生労働省は今、年末公表予定の「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」立案の最後の調整に入っています。その対策パッケージには、医師が多い地域での新規開業の抑制や、公立病院長になるのに地方勤務の経験を求める要件の拡大など、規制的な手法も盛り込まれる見込みです(「第233回 40年前の“駆け込み増床”を彷彿とさせる“駆け込み開業”が起こる?診療所が多い地域で新規開業を許可制にする案を厚労省が提起」参照)。しかし、こうしたさまざまな対策をもってしても、「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求に応えることは不可能でしょう。そもそも、医療の世界に限らずあらゆる業界において、20~30代の若者の「働くこと」に対する意識は、昭和の時代にモーレツに働いてきた今の管理職の50~60代とは大きく異なっています。昼夜働くことを厭わず、自らの医療技術向上を最優先するような若者はもはや一握りですし、仕事優先で子育て含めて家庭のことは配偶者任せ、というような夫婦も絶滅しつつあります。医師偏在是正や“直美”問題解決などのためには、そうした若者の意識変化に対応した施策も必要だと言えるでしょう。また、先に紹介したYahoo!ニュースの記事も指摘していますが、高校で成績の良い生徒にとりあえず医学部受験を勧める傾向の是正も必要だと考えます。「医師は高給で、生活は安定、皆から尊敬されるし、モテる」といった旧来のイメージを取っ払い、中学生、高校生には「医者は理数系の就職先の中では負け犬だ」くらいの強烈なアピールをして、本当に医学の道に進みたい人材を医学部に送り込むことが、長い目でみたら一番重要ではないかと思います。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況/厚生労働省

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更年期にホットフラッシュの多い女性は糖尿病リスクが高い

 更年期にホットフラッシュや寝汗などの症状を頻繁に経験した女性は、その後、2型糖尿病を発症する可能性が高いことが報告された。米カイザー・パーマネンテのMonique Hedderson氏らの研究によるもので、「JAMA Network Open」に10月31日、レターとして掲載された。 更年期には、ホットフラッシュ(突然の体のほてり)や寝汗(睡眠中の発汗)など、血管運動神経症状(vasomotor symptoms;VMS)と呼ばれる症状が現れやすい。このVMSは肥満女性に多いことが知られており、また心血管代謝疾患のリスクと関連のあることが示唆されている。ただし、糖尿病との関連はまだよく分かっていない。Hedderson氏らは、米国の閉経前期または閉経後早期の女性を対象とする前向きコホート研究(Study of Women’s Health Across the Nation;SWAN)のデータを用いて、VMSと糖尿病リスクとの関連を検討した。 SWANの参加者は2,761人で、平均年齢は46±3歳。人種/民族は、白人が49%、黒人が27%を占め、日本人も9.6%含まれている。そのほかは中国人が8.5%、ヒスパニックが6.5%。全体の28%は2週間に1~5日のVMSを報告し、10%は同6日以上のVMSを報告していた。追跡期間中に2型糖尿病を発症したのは338人(12.2%)だった。 VMSの出現パターンに基づき全体を4群に分け、交絡因子(年齢、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、教育歴、閉経ステージ〔閉経前期/閉経後早期〕、研究参加地点など)を調整後に、一貫してVMSが現れなかった群を基準に2型糖尿病発症リスクを解析。すると、一貫してVMSが頻繁に(2週間に6日以上)現れていた群は、50%ハイリスクであることが分かった(ハザード比〔HR〕1.50〔95%信頼区間1.12~2.02〕)。VMSの出現頻度が閉経ステージの前半のみ高かった群や、後半のみ高かった群は、一貫してVMSが現れなかった群とのリスク差が非有意だった。 論文の筆頭著者であるHedderson氏は、「更年期にVMSが頻繁に現れる女性は、ほかの健康リスクも抱えているというエビデンスが増えている」と話す。ただし、その関連のメカニズムはよく分かっていないとのことだ。論文の上席著者である米ピッツバーグ大学のRebecca Thurston氏も、「われわれの研究結果は、女性の心血管代謝の健康に対するVMSの重要性、特にその症状が長期間続く女性での重要性を示しており、さらなる研究が求められる。ホットフラッシュは、単なる不快な症状にとどまるものではないのかもしれない」と述べている。 研究グループによると、VMSが糖尿病のリスクを高める理由はまだ明確に説明できないが、VMSが心臓病のリスク増加につながるというエビデンスはあるという。そして、心臓病と糖尿病は、慢性炎症や睡眠の質の低下、体重増加が併存することが多いなどの共通点があると指摘している。 なお、Hedderson氏は、「女性の70%は更年期のどこかの時点で何らかのVMSを経験するが、われわれの研究で明らかになった糖尿病リスクの上昇が認められるのは、そのような女性のごく一部だ」と付け加えている。

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第242回 脂肪細胞の肥満記憶がリバウンドを引き起こすらしい

脂肪細胞の肥満記憶がリバウンドを引き起こすらしい体重を減らして代謝をよくし、体重絡みの不調をなくすことが肥満治療の主な目標です。しかし減った体重を維持するのは容易ではありません。治療で落ちた体重のおよそ30~35%は1年もすると復活(リバウンド)し、2人に1人は体重減少から5年目までにもとの体重に戻ってしまいます1)。米国疾病管理センター(CDC)の調査で、10%以上の体重減少を少なくとも1年間維持できたことがある太り過ぎや肥満の人の割合は、ほんの6人に1人ほど(約17%)に限られました2)。ヒトの体は体重が減っても持続する肥満時の特徴、いわば肥満記憶を維持していて、それがリバウンドに寄与しているようです。チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)のLaura C. Hinte氏らのヒトやマウスの新たな研究3)によると、そのような肥満記憶は脂肪細胞の核内のDNAの取り巻きの変化(後成的変化)によってどうやら支えられているようです。Hinte氏らは肥満の20例の肥満手術直前と手術の甲斐あって体重が少なくとも4分の1減った2年後の脂肪組織を解析しました。また、正常体重の18例の脂肪組織も検討しました。脂肪細胞のRNAの推移を調べたところ、肥満者では正常体重者に比べて100を超えるRNAが増えるか減っており、肥満手術で体重が減った2年時点も同様でした。その変化は体重を増えやすくすることと関連する炎症を促進し、脂肪の貯蔵や燃焼の仕組みを損なわせるらしいと研究を率いたFerdinand von Meyenn氏は言っています4)。そういうRNAの変化が体重のリバウンドに寄与するかどうかがマウスを使って次に検討されました。まず、体重を減らした肥満マウスにヒトに似たRNA変化が持続していることが確かめられました。続いて、体重を減らしたかつて肥満だったマウスと非肥満マウスに高脂肪食を1ヵ月間与えました。すると、非肥満マウスの体重増加は5gほどだったのに対して、かつて肥満だったマウスの体重は14gほども増加しました。かつて肥満だったマウスの脂肪細胞を取り出して調べたところ、脂肪や糖を非肥満マウスに比べてより取り込みました。そして、マウス脂肪細胞の肥満に伴うDNA後成的変化は体重が減ってからも維持されていました。その後成的変化が肥満と関連するRNA変化を生み出し、後の体重増加の火種となるようです。マウスのDNA後成的変化がヒトにも当てはまるのかどうかを今後の研究で調べる必要があります。また、脂肪細胞が肥満の記憶をどれほど長く維持するのかも調べる必要があります。Hinte氏によると脂肪細胞は長生きで、新しい細胞と入れ替わるのに平均10年もかかります5)。肥満の記憶を保持するのは脂肪細胞だけとは限らないかもしれません。脳、血管、その他の臓器の細胞も肥満を覚えていて体重リバウンドに寄与するかもしれません。研究チームは次にその課題を調べるつもりです。細胞の核内の体重関連後成的変化を薬で手入れし、肥満の後成的記憶を消すことは今のところ不可能です5)。しかし、やがてはそういう薬ができて肥満治療に役立つようになるかもしれません。参考1)Sarwer DB, et al. Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2009;16:347-352.2)Kraschnewski JL, et al. Int J Obes (Lond). 2010;34:1644-1654.3)Hinte LC, et al. Nature. 2024 Nov 18. [Epub ahead of print] 4)We're starting to understand why some people regain weight they lost / NewScientist5)Cause of the yo-yo effect deciphered / ETH Zurich

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糖尿病治療ガイド2024』発刊、GIP/GLP-1受容体作動薬を追加/糖尿病学会

 日本糖尿病学会は、糖尿病診療で頻用されている『糖尿病治療ガイド』の2024年版を11月に発刊した。本書は、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までをわかりやすくまとめ、専門医だけでなく非専門の内科医、他科の医師、医療スタッフなどにも、広く活用されている。今回の改訂では、GIP/GLP-1受容体作動薬の追加をはじめ、2024年10月現在の最新の内容にアップデートされている。【主な改訂のポイント】・「糖尿病診療ガイドライン2024」に準拠しつつ、診療上必要な専門家のコンセンサスも掲載。・GIP/GLP-1受容体作動薬の追加など、最新の薬剤情報にアップデート。・「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」に基づいた経口薬療法および注射薬療法の解説。・緩徐進行1型糖尿病の診断基準や糖尿病患者の脂質管理目標値、糖尿病性腎症の病期分類など、最新の基準・目標値の内容を反映。※アドボカシー活動の進展による言葉の変更は、いまだ適切な基準がないため、全面的な変更は見送った。 編集委員会は序文で「日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と期待を述べている。

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日本におけるアルツハイマー病への多剤併用と有害事象との関連〜JADER分析

 アルツハイマー病は、世界的な健康関連問題であり、有病率が増加している。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)やNMDA受容体拮抗薬などによる現在の薬物治療は、とくに多剤併用下において、有害事象リスクと関連している。香川大学の大谷 信弘氏らは、アルツハイマー病治療薬の組み合わせ、併用薬数と有害事象発生との関係を調査した。Medicina誌2024年10月6日号の報告。 日本の医薬品副作用データベース(JADER)より、2004年4月〜2020年6月のデータを分析した。対象は、AChEI(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)またはNMDA受容体拮抗薬メマンチンで治療された60歳以上のアルツハイマー病患者2,653例(女性の割合:60.2%)。有害事象とアルツハイマー病治療薬の併用および併用薬数との関連を評価するため、ロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・JADERに報告されたアルツハイマー病治療薬の使用状況は、ドネペジル単剤療法41.0%、リバスチグミン25.0%、ガランタミン17.3%、メマンチン7.8%、メマンチン+AChEI 8.9%であった。・併用薬数は、併用薬なし17.5%、1種類10.2%、2種類8.6%、3種類10.0%、4種類6.1%、5種類以上47.7%であった。・主な併存疾患の内訳は、高血圧35.2%、脂質異常症13.6%、糖尿病12.3%、脳血管疾患10.7%、睡眠障害7.4%、虚血性心疾患6.1%、うつ病4.7%、パーキンソン病4.3%、悪性腫瘍3.1%。・有害事象の頻度は、徐脈6.4%、肺炎4.6%、意識変容状態3.6%、発作3.5%、食欲減退3.5%、嘔吐3.5%、意識喪失3.4%、骨折3.4%、心不全3.2%、転倒3.0%。・メマンチン+AChEI併用療法は、徐脈リスク上昇と関連していた。・ドネペジル単独療法は、骨折、転倒リスク低下との関連が認められた。・多剤併用療法は、有害事象、とくに意識変容状態、食欲減退、嘔吐、転倒の発生率上昇と有意な相関が認められた。・5種類以上の薬剤を使用した場合としなかった場合の調整オッズ比は、意識変容状態で10.45、食欲減退で7.92、嘔吐で4.74、転倒で5.95であった。 著者らは「アルツハイマー病治療における有害事象発生率は、アルツハイマー病治療薬の既知の有害事象や併用パターンとは無関係に、併用薬数と関連している可能性が示唆された」と結論付けている。

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結核が再び最も致命的な感染症のトップに

 世界保健機関(WHO)は10月29日に「Global Tuberculosis Report 2024」を公表し、2023年に世界中で820万人が新たに結核と診断されたことを報告した。この数は、1995年にWHOが結核の新規症例のモニタリングを開始して以来、最多だという。2022年の新規罹患者数(750万人)と比べても大幅な増加であり、2023年には、世界で最も多くの死者をもたらす感染症として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑えて再びトップに躍り出た。 WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「結核の予防・検出・治療に有効な手段があるにもかかわらず、結核が依然として多くの人を苦しめ、死に至らしめているという事実は憤慨すべきことだ」とWHOのニュースリリースで述べている。同氏は、「WHOは、各国が、これらの手段を積極的に活用し、結核の撲滅に向けて約束した取り組みを確実に実行するよう求めている」と付言している。 2023年の世界の結核患者数は1080万人に上り、男性の方が女性よりも多く(55%対33%)、12%は子どもと思春期の若者だった。また、HIV感染者が全罹患者の6.1%を占めていた。結核患者数には地域的な偏りが見られ、インド(26%)、インドネシア(10%)、中国(6.8%)、フィリピン(6.8%)、パキスタン(6.3%)の上位5カ国だけで56%に上り、これら5カ国にナイジェリア、バングラデシュ、コンゴ民主共和国を含めた8カ国が世界全体の感染者の3分の2を占めていた。 結核の新規罹患者の多くは、栄養不足、HIV感染、アルコール使用障害、喫煙(特に男性)、糖尿病の5つの主要なリスク因子が原因で結核を発症していた。WHOは、これらのリスク因子と貧困などの他の社会的決定要因に対処するには、協調的なアプローチが必要だと主張する。WHO世界結核プログラムディレクターのTereza Kasaeva氏は、「われわれは、資金不足、罹患者にのしかかる極めて大きな経済的負担、気候変動、紛争、移住と避難、COVID-19パンデミック、そして薬剤耐性結核など、数多くの困難な課題に直面している」と指摘。「全てのセクターと利害関係者が団結し、これらの差し迫った問題に立ち向かい、取り組みを強化することが不可欠だ」とWHOのニュースリリースで述べている。 一方、報告書には明るい兆しも見えた。結核による死亡者数は世界的に減少傾向にあり、新規罹患者数も安定し始めているという。それでもWHOは、「多剤耐性結核(MDR-TB)は依然として公衆衛生上の危機だ」と指摘し、「MDR-TBまたはリファンピシン耐性結核(RR-TB)の治療成功率は現在68%に達している。しかし、MDR/RR-TBを発症したと推定される40万人のうち、2023年に診断され治療を受けたのは44%に過ぎない」と懸念を示している。 結核は空気中の細菌によって引き起こされ、主に肺を侵す。WHOによると、世界人口の約4分の1が結核菌に感染していると推定されているが、そのうち症状が現れるのは5%から10%に過ぎないという。結核菌感染者は体調不良を感じないことも多く、感染力も低い。WHOは、「結核の症状は数カ月間、軽度のままで推移することがあるため、知らないうちに簡単に他人に病気を広めてしまう」と指摘している。主な結核の症状は、長引く咳(出血を伴うこともある)、胸痛、衰弱、倦怠感、体重減少、熱、寝汗などである。WHOは、「症状は感染部位により異なる。好発部位は肺だが、腎臓、脳、脊椎、皮膚にダメージを与える可能性もある」と付け加えている。

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全身性免疫炎症指数はCKDの死亡率に関連

 慢性腎臓病(CKD)患者における全身性免疫炎症指数(SII)のレベルと全死亡率の間にはJ字型の関連があることが、「Immunity, Inflammation and Disease」に9月10日掲載された。 上海中医薬大学(中国)のMeng Jia氏らは、CKD患者におけるSIIと全死亡率の関連性を検討した。分析には、1999~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)の対象者であったCKD患者9,303人が含まれた。 解析の結果、中央値86カ月の追跡期間において、SIIレベルと全死亡率との間に明確なJ字型の関連が示された。最低値は、第2四分位数内のSIIレベル478.93で確認された。SIIが478.93を超えると、SIIレベルの標準偏差が1増加するごとに全死亡率のリスクが上昇した(ハザード比1.13)。CKD患者では、SIIの上昇と全死亡率のリスク上昇との間に関連性が見られた(第4四分位数対第2四分位数のハザード比1.23)。SIIとCKDによる死亡率の相関は、60歳以上の対象者および糖尿病患者において特に顕著であった。SIIの極端な5%の外れ値を除外すると、SIIと全死亡率との間には線形の正の関連が見られた。 著者らは、「SII指数は、血小板、好中球、リンパ球の数を網羅しており、炎症状態と宿主免疫応答の間のバランスをより包括的に表す」と述べている。

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非肥満2型糖尿病患者の心血管障害へのSGLT2阻害薬の効果は/京大

 糖尿病の薬物治療で頻用されているSGLT2阻害薬。しかし、SGLT2阻害薬の有効性を示した過去の大規模臨床研究の参加者は、平均BMIが30を超える肥満体型の糖尿病患者が多数を占めていた。 わが国の実臨床現場ではBMIが25を下回る糖尿病患者が多く、肥満のない患者でも糖分を尿から排泄するSGLT2阻害薬が本当に有効なのかどうかは、検証が不十分だった。そこで、森 雄一郎氏(京都大学大学院医学系研究科)らの研究グループは、協会けんぽのデータベースを活用し、わが国のSGLT2阻害薬の効果検証を行った。その結果、肥満傾向~肥満の患者ではSGLT2阻害薬の有効性が確認できたが、BMI25未満の患者では明らかではなかったことがわかった。本研究の結果はCardiovascular Diabetology誌2024年10月22日号に掲載された。肥満者にSGLT2阻害薬の主要アウトカムの効果はみられた一方で非肥満者ではみられず この研究は、2型糖尿病でBMIが低~正常の患者におけるSGLT2阻害薬の心血管アウトカムに対する有効性を、従来の試験よりも細かい層別化を用いて検討することを目的に行われた。 研究グループは、2015年4月1日~2022年3月31日の協会けんぽのデータベースを活用し、3,000万例以上の現役世代の保険請求記録および健診記録を用い、標的試験エミュレーションの枠組みを用いたコホート研究を行った。 SGLT2阻害薬の新規使用者13万9,783例とDPP-4阻害薬の使用者13万9,783例をBMI区分(20.0未満、20.0~22.4、22.5~24.9、25.0~29.9、30.0~34.9、35.0以上)で層別化し、マッチングした。主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全。 主な結果は以下のとおり。・参加者の17.3%(4万8,377例)が女性で、31.0%(8万6,536例)のBMIが低~正常だった(20.0未満:1.9%[5,350例]、20.0~22.4:8.5%[2万3,818例]、22.5~24.9:20.5%[5万7,368例])。・追跡期間中央値24ヵ月で、主要なアウトカムは参加者の2.9%(8,165例)に発現した。・SGLT2阻害薬は全集団において主要アウトカムの発生率低下と関連していた(ハザード比[HR]:0.92[95%信頼区間[CI]:0.89~0.96])。・BMIが低~正常の集団では、SGLT2阻害薬は主要アウトカム発生率の低下と関連しなかった(20.0未満のHR:1.08[95%CI:0.80~1.46]、20.0~22.4のHR:1.04[95%CI:0.90~1.20]、22.5~24.9のHR:0.92[95%CI:0.84~1.01])。 この結果から研究グループは、「2型糖尿病患者の心血管イベントに対するSGLT2阻害薬の効果は、BMIが低いほど低減するようであり、BMIが低~正常(25.0未満)の患者では有意ではなかった。これらの結果はSGLT2阻害薬の投与開始時にBMIを考慮することの重要性を示唆している」と述べている。

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いよいよ多変量解析 その2【「実践的」臨床研究入門】第49回

多変量解析手法の選択と留意点臨床研究における多変量解析の主な目的の1つは交絡因子の調整です(連載第40回参照)。交絡因子は、Research Question(RQ)のE(要因)とC(対照)との「理想的な」比較を歪める因子、と説明しました(連載第45回参照)。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQ(簡略版)を下記に再掲します(連載第40回参照)。P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者E(要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満C(対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上O(アウトカム):1)末期腎不全 2)糸球体濾過量(GFR)低下速度また、これまでの先行研究の知見や医学的観点から、下記の因子をわれわれのRQの交絡因子として挙げてデータを収集し(連載第45回参照)、その仮想データ・セットを用いた記述統計の結果を、論文の表1としてEZR(Eazy R)で作成しました(連載第46回、第47回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値臨床研究では、多変量解析の代表的な手法として種々の回帰分析が行われます。回帰分析は、アウトカム指標を表す1つの変数(目的変数)と1つ以上の説明変数(交絡因子)との関係をいろいろな数式で表現し、モデル化します。どのような回帰分析モデルを選択するかはアウトカム指標の種類、すなわち目的変数の型で決まります。アウトカム指標の種類、目的変数の型は生存時間(連載第42回参照)および連続変数とカテゴリ変数に大別されるのでした(連載第46回参照)。前述したわれわれのRQ(簡略版)のOで挙げられている末期腎不全(の発症までの時間)は生存時間であり、GFR低下速度は連続変数となります。末期腎不全というアウトカムの発症までの時間は考慮せず、発症の有無のみで扱う場合はカテゴリ(2値)変数となります。生存時間は「打ち切り」も考慮したカテゴリ(2値)変数という捉え方もできます(連載第37回、第41回、第42回参照)。アウトカム指標(目的変数)の型の違いによって、それぞれ対応する回帰分析モデルは下記のようになります。連続変数:線形回帰(重回帰)カテゴリ(2値)変数:ロジスティック回帰生存時間:Cox比例ハザード回帰交絡因子の調整を多変量解析で行う際、サンプルサイズに比してあまり多くの説明変数(交絡因子)を回帰分析モデルに投入すると、モデルが不安定となります。そのため、回帰分析モデルごとに、投入可能な説明変数(目的変数)の数の目安が下記のように示されています。線形回帰(重回帰):説明変数(交絡因子)1つにつき、サンプルサイズ15例ロジスティック回帰:説明変数(交絡因子)1つにつき、アウトカム指標(目的変数)の少ない方のカテゴリ10例Cox比例ハザード回帰:説明変数(交絡因子)1つにつき、イベント数10例それでは、計画している交絡因子の調整が、われわれの仮想データ・セットで可能かどうか確認してみましょう。説明変数(交絡因子)の数は前述したように計8変数となります。まず、Oの1)末期腎不全(の発症までの時間)は生存時間ですので、Cox比例ハザード回帰分析を用います。説明変数(交絡因子)1つにつき、イベント数10例、すなわち8×10=80例が必要ですが、仮想データ・セットから計算した総イベント数は185例ですので(連載第41回参照)、充分です。Oの2)GFR低下速度は連続変数であり、線形回帰(重回帰)分析で必要なサンプルサイズの目安は8×15=120例です。作成した表1をみると、仮想データ・セットのサンプル数の総計は638例ですので(連載第47回参照)、こちらも大丈夫そうです。次回からは、それぞれの回帰分析モデルを用いた多変量解析の実際について、仮想データ・セットを使用したEZRの操作方法を交えて解説していきます。

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組織のための老年医学の型―AFHS【こんなときどうする?高齢者診療】第7回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年10月に扱ったテーマ「複雑な問題に落としどころを見つけるには?」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。組織全体で高齢者ケア向上を目指す5つのMの考え方を駆使して患者・家族に適切なケア提供の方法を見出したとしても、組織としてスキルを持つスタッフが十分にいない、予算が足りないなどのリソース不足により、最適なケアを実現できないという状況が多くの施設で起こっています。そこで今回は、組織全体で高齢者医療を改善するための視点を考えてみましょう。まず初診で来院した高齢男性のケースをイメージしてください。例えば、5つのMの1つである「薬(Medication)」に注目すると、服薬情報や高齢者に有害事象を引き起こしやすい薬について確認することが重要になります。80歳男性 初診時の服薬アセスメントいつ行うか誰が行うか何を行うかアセスメント結果の記録方法 どこに、何を記載するのか高リスク薬服用時のアクションプラン 誰に情報共有し、次のアクションにつなげるのか皆さんの施設では、上記のような項目は明確に定められていますか? 病棟ごとに、診療科ごとに、担当者ごとにばらつきはありませんか?もし定まっていない場合、適切な介入がなされる患者もいれば、アセスメントや介入から漏れ、リスクの高い薬を継続して服用している患者もいる可能性があります。医療者が「薬が高齢者に与える影響やリスクを理解している」という段階と、実際にアセスメントや介入が患者に届いている段階には大きな隔たりがあります。同一施設内で一貫して適切な医療が提供されるよう、組織的な対策が必要です。対策の一例として、北米を中心に導入されているシステムをご紹介します。組織のための老年医学の型:エイジフレンドリ・ヘルスシステムの利点Age Friendly Health System(AFHS)は、施設全体で高齢者に安全で適切な医療を提供するためのフレームワークで、属人性を減らし、標準化されたケアを実現するための取り組みです。2018年に始まり、北米では約4,000施設が認証を取得し、300万人以上の患者がこの仕組みの恩恵を受けているといわれています。AFHS導入により、入院期間の短縮、手術時間の短縮、コスト削減、再入院率の低下、転倒予防スクリーニングの実施率向上といったメリットが報告されています1,2)。現状を見つめる:自施設でできていることを見つけよう!AFHSは日本でも十分に応用可能なスキームです。まずは施設内ですでに行われている取り組みを俯瞰し、どこがうまく機能しているかを見つけることが重要です。AHFS実践のポイント(1)自施設でできていることを確認する(2)不十分な点を見つけて補強する(3)外部評価を活用するお気付きの方もいるかもしれませんね!AFHS は、5つのMからMulti complexityを除いた4つのM(認知・身体機能・薬・大切なこと)のアセスメントと介入の標準化を目指しています。ですから、薬に限らず、転倒リスクや認知機能、本人が大切にしていることについても、アセスメントの時期、担当者、方法、記録方法を見直してみてください。そうすることにより、各分野の優先順位が整理され、チーム全体で適切な資源配分をしやすくなります。すべての施設において、すでにうまくできている部分が必ず存在します。まずその強みを認識し、次に改善が必要な部分を見つけましょう。外部からのフィードバックも含め、小さな改善から始めることで、自施設の強みをさらに引き出すことが大切です。最初から大きな改善をする必要はありません。自施設の強みを活かし、持続的なケアの向上を目指しましょう! オンラインサロンではもやもや症例検討会とAHFSの実践のコツをシェアオンラインセッションでは、理学療法士のサロンメンバーから寄せられたもやもや症例ディスカッション、そしてAFHSを自施設で活用するためのさらに細かなコツをお話いただいています。参考1)The John A.Hartford Foundation.Age-Friendly Health Systems in Action.2)樋口雅也. 医学のあゆみ 291巻3号.医歯薬出版;2024. p222-227.

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糖尿病の肥満へのチルゼパチド、糖尿病発症リスク93%減/NEJM

 前糖尿病状態の肥満患者において、3年間のチルゼパチド投与はプラセボと比較して、体重を持続的かつ有意に減少し、2型糖尿病への進行リスクも有意に低減した。米国・イェール大学医学校のAnia M. Jastreboff氏らが、第III相無作為化二重盲検比較試験「SURMOUNT-1試験」の結果を報告した。同試験の早期解析では、チルゼパチドは72週間にわたって肥満患者の体重を大幅かつ持続的に減少させることが報告されていた。本報告では、チルゼパチド投与3年間の安全性アウトカムと、肥満と前糖尿病状態を有する患者の体重減少と2型糖尿病への進行遅延に対する有効性の解析結果を報告した。NEJM誌オンライン版2024年11月13日号掲載の報告。176週までの体重の変化率、193週時の2型糖尿病発症について解析 SURMOUNT-1試験は、非糖尿病の肥満(BMI値30以上、または27以上で糖尿病以外の肥満関連合併症を有する)患者2,539例を、週1回のチルゼパチド5mg群、10mg群、15mg群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で割り付け、ベースラインで前糖尿病状態ではない患者には72週間、前糖尿病状態の患者には176週間投与した。 今回の解析は、肥満かつベースラインで前糖尿病状態の患者1,032例を対象とした。全例、定期的な生活指導を受け、食事療法(1日当たり500kcal削減)および運動療法(週150分以上)に加えて、チルゼパチドまたはプラセボを176週間投与した。その後、17週間の休薬期間(安全性追跡調査期間)を設け、試験期間は193週間とした。 72週時の主要アウトカムの解析結果についてはすでに報告されている。今回は、重要な副次アウトカムであるベースラインから176週までの体重の変化率(チルゼパチド10mg群、15mg群、プラセボ群について評価)、ならびに176週時および193週時の2型糖尿病発症(チルゼパチド群統合とプラセボ群の比較)について解析した。176週時に平均体重が最大約20%減少、2型DM発症リスクは93%低下 176週時におけるベースラインからの体重の平均変化率は、チルゼパチド5mg群-12.3%、10mg群-18.7%、15mg群-19.7%に対し、プラセボ群では-1.3%であった(いずれもp<0.001)。 176週時における2型糖尿病の発症例は、チルゼパチド群で10例(1.3%)(5mg群4例[1.5%]、10mg群5例[2.0%]、15mg群1例[0.4%])、プラセボ群で36例(13.3%)に認められ、チルゼパチド群においてプラセボ群と比較し2型糖尿病の発症リスクが93%低かった(ハザード比[HR]:0.07、95%信頼区間[CI]:0.0~0.1、p<0.001)。 193週時における2型糖尿病の発症例は、チルゼパチド群で18例(2.4%)、プラセボ群で37例(13.7%)であった(HR:0.12、95%CI:0.1~0.2、p<0.001)。 主な有害事象(新型コロナウイルス感染症以外)は胃腸障害で、ほとんどは軽度~中等度であり、主に最初の20週間の用量漸増期間中に発現した。新たな安全性の懸念は確認されなかった。

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減量薬のアクセス拡大が年4万人以上の米国人の命を救う可能性

 インクレチン製剤であるGLP-1受容体作動薬などの減量薬を、より広い対象に適用して多くの人がアクセスできるようにすることで、米国では年間4万人以上の命が救われる可能性があるとする論文が発表された。米イェール大学公衆衛生大学院のAlison Galvani氏らの研究によるもので、詳細は「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に10月15日掲載された。 肥満が死因として記録されることはめったにない。しかし、肥満は心血管代謝疾患をはじめとする多くの疾患のリスクを押し上げ、結果としてそれらの疾患による死亡リスクを高めている。米国では人口の74%が過体重や肥満(うち43%が肥満)に該当し、公衆衛生上の極めて大きな問題となっている。 消化管ホルモンであるインクレチンの作用を模倣した血糖降下薬であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬(GLP-1RA)や、GLP-1とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)の両受容体作動薬(GIP/GLP-1RA)が近年、減量目的で使用されるようになり、顕著な効果が報告されている。しかし、これらの薬剤は高額で、かつ肥満治療における保険の適用範囲も限られている。具体的には、肥満に伴う何らかの疾患を抱えている場合にのみ保険が適用され、単に減量目的で処方を受けるには月額1,000ドル以上の負担が発生する。そのため現状では、多くの肥満者がこれらの薬剤にアクセスできていない。Galvani氏らは、仮に減量目的でのGLP-1RAやGIP/GLP-1RAが、必要な全ての人にいきわたったとした場合のインパクトを推計した。 この研究では、まず、現時点での減量薬(GLP-1RA、GIP/GLP-1RA)の米国人の死亡抑制効果を推計したところ、1年間で8,592人(95%不確定区間8,580~8,604)の命が救われていると計算された。そのうち、糖尿病患者が2,670人(同2,657~2,684)を占めていた。 次に、BMIが30以上の人の全て、およびBMI25以上の糖尿病患者の全てがアクセス可能な状況を仮定した推計を行った。この場合、米国成人の45%以上が減量薬を使用することになる。解析の結果、1年間でさらに4万2,027人(4万1,990~4万2,064)の命が救われると計算された。そのうち、糖尿病患者は1万1,769人(1万1,707~1万1,832)だった。 この研究に関連してGalvani氏は、「医薬品へのアクセス拡大には、疾患罹患者の治療選択肢を増やすということだけでなく、重要な公衆衛生対策という側面もある」と解説。ただし同氏らは、GLP-1RAやGIP/GLP-1RAが高価であるため、全てを保険適用とするのは困難であり、かつ、現在でも既に需要の高まりによって慢性的な供給不足になっているという課題を指摘している。 論文共著者の1人である米フロリダ大学のBurton Singer氏は、「これらの課題に対しては多面的なアプローチが必要だ。医薬品の価格を製造コストに見合ったものとし、需要を満たし得る生産能力を確保しなければならない。それと同時に、多くの人々が必要な治療を受けられていないという、アクセスの問題にも取り組まなければならない」と述べている。

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エンパグリフロジン投与終了後もCKDの心・腎保護効果が持続、レガシー効果か?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか EMPA-KIDNEY試験では、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(エンパ)の心・腎保護作用が、糖尿病性腎症(DKD)のみならず非糖尿病CKD(CKD)においても示された(The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. N Engl J Med. 2023;388:117-127.)。今回の報告は、同試験の終了後の追跡評価(post-trial follow-up)である。その結果、エンパの投与終了後、少なくとも1年間は心・腎保護作用が持続した。この成績が先行治療終了後も臓器保護作用が持続する、いわゆるレガシー(遺産)効果の初期像を観察しているとすれば、SGLT2阻害薬の新知見の可能性がある。EMPA-KIDNEY試験終了後の追跡研究 本研究では、EMPA-KIDNEY試験で無作為化された6,609例のうち、同意が得られた4,891例(74%)を登録し追跡評価の対象とした。EMPA-KIDNEY試験開始から追跡評価終了までを統合期間(4年間)とし、オーバーラップ期間を経て2年間を追跡観察期とした。全体での主要アウトカムイベントの発生は、エンパ群で865/3,304例(26.2%)、プラセボ群で1,001/3,305例(30.3%)であり(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.72~0.87)、統合期間中のエンパの有用性が示唆された。追跡期間の主要アウトカムは、腎疾患進行または心血管死の2つであった。その追跡評価期間の主要アウトカムイベントのHRは0.87(95%CI:0.76~0.99)であり、エンパ群で投与終了後も最長12ヵ月間、心・腎保護作用をもたらし続けることが示された。また、統合期間における腎疾患進行の発生率はエンパ群23.5%、プラセボ群27.1%、死亡または末期腎不全(ESKD)の複合の発生率はエンパ群16.9%、プラセボ群19.6%、心血管死の発生率はエンパ群3.8%、プラセボ群4.9%で、いずれもエンパ群で改善がみられた。一方、非心血管死への影響は両群とも5.3%で差異は認められなかった。なお、追跡期間中のエンパを含めたSGLT2阻害薬投与は治験担当医の判断に委ねられており、EMPA-KIDNEY試験終了後2年でエンパ群の45.4%、プラセボ群の42.0%がSGLT2阻害薬治療を受けていた。DKD/CKDにおけるSGLT2阻害薬の腎保護機序 DKD/CKDの進行性機序は多因子である。SGLT2阻害薬の腎保護作用は、Tubulo-Glomerular Feedback(TGF)機構を介した糸球体過剰濾過軽減が主な機序である。また、血圧改善、Na利尿、ブドウ糖尿とNa排泄による浸透圧利尿なども腎保護に寄与する。SGLT2阻害薬による代謝系改善は、血糖降下作用、尿酸値低下、脂質代謝改善、体重減少、Hb値上昇、ケトン体形成などがある。SGLT2阻害薬は、これらの複合的機序により、腎虚血改善、抗炎症作用、抗酸化作用、腎線維化抑制作用などを惹起する(Dharia A, et al. Annu Rev Med. 2023;74:369-384.)。CKDでは血糖低下による効果は期待されないため、腎保護にはTGFなど、他の機序が複合的に関与している。本論文のレガシー効果の信ぴょう性 2型糖尿病において早期から集中的に良好な血糖管理を行うと、全死亡リスク減少や糖尿病合併症を抑制するとの「レガシー効果」はUKPDS 91で報告された(1型糖尿病のDCCT研究のMetabolic Memoryも同義)。今回の所見が、エンパによる心・腎保護作用のレガシー効果の初期像を見ている可能性は否定できない。25万人の2型糖尿病治療のコホート研究において、SGLT2阻害薬を治療開始2年で早期導入することでCVD発症が減少するとのレガシー効果の報告はある(Ceriello A, et al. Lancet Reg Health Eur. 2023;31:100666.)。本研究は、観察期間がエンパ投与終了後2年と短期であることや、EMPA-KIDNEY試験終了後のエンパ群とプラセボ群とのSGLT2阻害薬投与率がほぼ同程度であることなどから、レガシー効果は(仮にあるとして)検出しにくい条件であった。それにもかかわらず、追跡期間に心・腎保護効果を認めたことは、レガシー効果を観察している可能性はある。DKD/CKDにおける心・腎保護療法の未来展望 DKDにおけるSGLT2阻害薬の心・腎保護作用は、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 48、CREDENCEなどで確認され腎保護療法として確立してきた。その後、DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKDにも腎保護作用が報告された。これらの試験の結果を踏まえ、2024年KDIGOガイドラインのDKD/CKD治療のアルゴリズムでは、SGLT2阻害薬とRAS阻害薬が第1選択とされ、病態に応じGLP-1受容体作動薬、非ステロイド型MRAを選択すべきことが推奨されている (Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. Kidney Int. 2024;105(4S):S205-S254.)。ここでRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の腎複合エンドポイント(EP)のリスク減少度(RR)に注目すると、 RAS阻害薬であるARBを使用したRENAAL試験での腎複合EPのRRは16%、IDNT試験では19%であったが、SGLT2阻害薬を使用したDAPA-CKD試験ではRRは39%と著しい改善がみられた。また、EMPA-KIDNEY試験は、RR 28%の時点で有効性のエビデンスが明白であるとの理由で、独立データモニタリング委員会の勧告で早期中止となった。両薬剤間のRRは直接比較することはできないが、SGLT2阻害薬の優れた腎保護作用は明白である。 実臨床の問題として、DKDは低レニン性低アルドステロン血症によって、RAS阻害薬投与による高K血症のリスクは少なからず危惧される(Sousa AG, et al. World J Diabetes. 2016;7:101-111.)。その点、SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのSGLT2抑制とそれに伴う浸透圧利尿によりK喪失的に作用するため高K血症は少ない。これらの両剤の相違から、今後、「SGLT2阻害薬をDKD/CKDの早期から使用することにより、さらなる腎予後改善が望めるかもしれない」との治療上の作業仮説が注目される。たとえば、EMPA-KIDNEY試験の試算では、エンパを腎機能軽度低下の早期(eGFR 60mL/分/1.73m2)に開始すると、中等度に低下した晩期(eGFR 30mL/分/1.73m2)に開始することに比較し、末期腎不全への移行を9年ほど延長することが期待される(腎生存期間:早期群17.8年vs.晩期群8.9年)(Fernandez-Fernandez B, et al. Clin Kidney J. 2023;16:1187-1198.)。SGLT2阻害薬のメタ解析からも、将来的に同剤がDKD/CKD治療において、Foundational drug therapy(基礎治療薬)となりうる可能性が注目されている(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。

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フィネレノンによるカリウムの影響~HFmrEF/HFpEFの場合/AHA2024

 左室駆出率(LVEF)が軽度低下した心不全(HFmrEF)または保たれた心不全(HFpEF)患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のフィネレノン(商品名:ケレンディア)は高カリウム血症の発症頻度を高めたが、その一方で低カリウム血症の発症頻度を低下させたことが明らかになった。ただし、プロトコールに沿ったサーベイランスと用量調整を行った場合、プラセボと比較し、カリウム値が5.5mmol/Lを超えた患者でもフィネレノンの臨床的な効果は維持されていた。本研究結果は、米国・ミネソタ大学のOrly Vardeny氏らが11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表し、JAMA Cardiology誌オンライン版2024年11月17日号に同時掲載された。 本研究は日本を含む37ヵ国654施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験多施設ランダム化試験であるFINEARTS-HF試験の2次解析である。FINEARTS-HF試験において、HFmrEFまたはHFpEFの転帰を改善することが示唆されていたが、その一方で、追跡調査では血清カリウム値上昇の関連が示されていたため、それを検証するために2020年9月14日~2023年1月10日のデータを解析した。追跡期間の中央値は32ヵ月だった(追跡最終日は2024年6月14日)。 研究者らは、 血清カリウム値が5.5mmol/L超(高カリウム)または3.5mmol/L未満(低カリウム)となる頻度とその予測因子を調査し、ランダム化後のカリウム値に基づきフィネレノンによる治療効果をプラセボと比較、臨床転帰に及ぼす影響を検討した。NYHAクラスII~IVの症候性心不全およびLVEF40%以上、ナトリウム利尿ペプチド上昇、左房拡大または左室肥大を有する、利尿薬を登録前30日以上使用しているなどの条件を満たす40歳以上の患者が登録され、フィネレノンまたはプラセボの投与が行われた。主要評価項目は心不全イベントの悪化または全心血管死の複合であった。 主な結果は以下のとおり。・対象者6,001例(平均年齢72歳、女性2,732例)はフィネレノン群3,003例、プラセボ群2,998例に割り付けられた。・血清カリウム値の増加は、1ヵ月後(中央値の差0.19mmol/L[IQR:0.17~0.21])および3ヵ月後(同0.23mmol/L[同:0.21~0.25])において、フィネレノン群のほうがプラセボ群より大きく、この増加は残りの追跡期間中も持続した。・フィネレノンは、高カリウムになるリスクを高め、そのハザード比(HR)は2.16(95%信頼区間[CI]:1.83~2.56、p<0.001)であった。また、低カリウムになるリスクを低下させた(HR:0.46[95%CI:0.38~0.56]、p<0.001)。・低カリウム(HR:2.49[95%CI:1.8~3.43])と高カリウム(HR:1.64[95%CI:1.04~2.58])の双方が両治療群における主要アウトカムのその後のリスクの上昇と関連していた。しかしながら、カリウム値が5.5mmol/L超であってもフィネレノン群はプラセボ群と比較して、主要評価項目のリスクがおおむね低かった。

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カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」【最新!DI情報】第27回

カルシニューリン阻害で免疫を抑制するループス腎炎治療薬「ルプキネス」今回は、カルシニューリン阻害薬「ボクロスポリン(商品名:ルプキネスカプセル7.9mg、製造販売元:大塚製薬)」を紹介します。本剤は、ループス腎炎に対する治療薬として承認された新規のカルシニューリン阻害薬であり、免疫抑制作用により予後が改善することが期待されています。<効能・効果>ループス腎炎の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得しました。本剤投与により腎機能が悪化する恐れがあることから、eGFRが45mL/min/1.73m2以下の患者では投与の必要性を慎重に判断し、eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者では可能な限り投与を避けます。<用法・用量>通常、成人にはボクロスポリンとして1回23.7mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。本剤の投与開始時は、原則として、副腎皮質ステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルを併用します。<安全性>重大な副作用には、肺炎(4.1%)、胃腸炎(1.5%)、尿路感染症(1.1%)を含む重篤な感染症(10.1%)があり、致死的な経過をたどることがあります。また、急性腎障害(3.4%)が生じることがあるため、重度の腎機能障害患者への投与は可能な限り避けるようにし、中等度の腎機能障害患者には投与量の減量を行います。その他の副作用は、糸球体濾過率減少(26.2%)、上気道感染(24.0%)、高血圧(20.6%)、貧血、頭痛、咳嗽、下痢、腹痛(いずれも10%以上)、インフルエンザ、帯状疱疹、高カリウム血症、食欲減退、痙攣発作、振戦、悪心、歯肉増殖、消化不良、脱毛症、多毛症(いずれも10%未満)があります。本剤は、主としてCYP3A4により代謝されるため、強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤(アゾール系抗真菌薬やリトナビル含有製剤、クラリスロマイシン含有製剤など)との併用は禁忌です。また、P糖蛋白の基質であるとともに、P糖蛋白、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)1B1およびOATP1B3への阻害作用を有するので、ジゴキシンやシンバスタチンなどのHMG-CoA還元酵素阻害薬との併用には注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ループス腎炎の治療薬であり、体内の免疫反応を抑制します。2.飲み始めは原則としてステロイド薬およびミコフェノール酸モフェチルと併用します。3.この薬は、体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。4.この薬を使用中に、感染症の症状(発熱、寒気、体がだるいなど)が生じたときは、ただちに医師に連絡してください。<ここがポイント!>ループス腎炎は、自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)が原因で生じる腎機能障害です。この疾患は、尿蛋白や尿潜血を伴い、ネフローゼ症候群や急速進行性糸球体腎炎症候群を引き起こすことがあります。治療は、急性期の寛解導入療法と慢性期の寛解維持療法があり、急性期の寛解導入療法には強力な免疫抑制療法を実施し、尿蛋白や尿沈査、腎機能の正常化を目指します。治療薬はグルココルチコイド(GC)に加えてミコフェノール酸モフェチル(MMF)またはシクロホスファミド間欠静注療法(IVCY)の併用投与が推奨されています。ボクロスポリンは、ループス腎炎の治療薬として開発された新規の経口免疫抑制薬です。最近の研究では、MMFとの併用療法がMMF単独療法に比べて、より有効であることが示されています。ボクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、T細胞の増殖・活性化に重要な酵素であるカルシニューリンを阻害することで免疫抑制作用を発揮します。ボクロスポリンの投与開始時は、原則として、GCおよびMMFを併用します。ループス腎炎患者を対象とした国際共同第III相試験(AURORA1試験)では、主要評価項目である投与開始52週時点の完全腎奏効患者の割合は、本剤群の40.8%に対してプラセボ群は22.5%と有意な差が認められました(p<0.001、ロジスティック回帰モデル)。なお、本剤群およびプラセボ群ともに、MMFとGCが併用されていました。

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