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D2B time短縮で心原性ショック伴うSTEMIの院内死亡率が減少(J-PCIレジストリ)/日本循環器学会

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心原性ショックを伴うST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者における、Door-to-Balloon(D2B)timeと院内死亡率との関連について、国内の大規模なレジストリである日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)の「J-PCIレジストリ」を用いた解析が行われた。その結果、D2B timeの10分の延長につき、院内死亡率が7%ずつ増加することが示され、D2B timeを短縮することは院内死亡率の減少につながる可能性が示唆された。3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies 1セッションにて、千葉大学医学部附属病院循環器内科の齋藤 佑一氏が発表した。 STEMIの治療成績・予後の決定因子として、発症から冠動脈再灌流までの時間が重要であるものの、その発症時間を正確に同定することが難しいことから、指標として用いられる機会は少ない。そのため、病院到着から再灌流までの時間であるD2B timeが、治療の迅速性を表す実用的な指標として用いられている。しかし、これまでに心原性ショックを合併したSTEMI患者におけるD2B timeに関して検証した報告は乏しい。 J-PCIレジストリは日本において実施されているPCIの約90%をカバーする大規模なデータベースである。本研究ではJ-PCIレジストリデータを用いて、2019年1月~2021年12月にわが国の1,190施設でPCIを受けた73万4,379例のうち、STEMI患者10万672例のデータを解析した。なお本研究では、年齢<20歳もしくは>100歳、STEMI以外のPCI、D2B time<15分未満もしくは>180分、心原性ショックを伴わない心停止症例は除外された。単変量および多変量解析を用いて、D2B timeと院内死亡率との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・プライマリPCIが実施されたSTEMI患者10万672例において、年齢中央値は69.4±13.0歳、女性23.8%、糖尿病有病率35.5%であった。・心原性ショックを合併した(CS+)患者は、1万3,222例(13.1%)であった。そのうち、心原性ショックを経験したが院外心停止を合併しなかった(CS+/CA-)群は7,994例(60.0%)、心原性ショックと心停止を両方とも合併した(CS+/CA+)群は5,278例(40.0%)であった。・機械的補助循環が使用されたのは、CS+/CA-群:42.2%、CS+/CA+群:49.6%であった。・心原性ショックを合併した患者では左冠動脈主幹部病変が多く認められ、CS+/CA-群:10.7%、CS+/CA+群:12.3%であった。・平均D2B timeは、CS-/CA-群:74.0±30.0分、CS+/CA-群:80.2±32.5分、CS+/CA+群:83.7±34.0分であった(p<0.001)。・院内死亡率は、CA-/CA-群:2.3%、CS+/CA-群:17.0%、CS+/CA+群:36.7%であり(p<0.001)、心停止合併症例ではとくに死亡率が高かった。・心原性ショックを合併したSTEMI患者において、D2B timeの延長は、単変量および多変量モデルにおいて死亡率の上昇と有意に関連していた。D2B timeの10分の延長につき、院内死亡率は7%ずつ増加することが示された(調整オッズ比[aOR]:1.07、95%信頼区間[CI]:1.06~1.08)。またD2B timeが院内死亡率に及ぼす影響について、明確な閾値は同定されなかった。・心停止の有無、機械的補助循環の使用、病院ごとの症例数などで層別化された感度分析においても、D2B timeの短縮は一貫して院内死亡率の減少と関連していた。 国内の大規模レジストリデータを用いた本研究により、D2B timeを短縮する努力は心原性ショックを伴うSTEMI患者の臨床転帰を改善する可能性が示唆された。なお本研究はJACC:Asia誌に掲載される予定だ。

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世界の低体重・肥満、約30年でどう変化した?/Lancet

 低体重と肥満は、生涯を通じて有害な健康アウトカムと関連している。国際共同疫学研究グループのNCD Risk Factor Collaboration(NCD-RisC)が、200の国と地域の成人ならびに学童/若年者における、低体重または痩せと肥満の複合有病率の1990~2022年の変化について解析し報告した。ほとんどの国で低体重と肥満の二重負荷(double burden)が肥満の増加により増しているが、南アジアとアフリカの一部では依然として低体重または痩せが多いという。研究グループは、「肥満の増加を抑制し減少に転じさせる一方で、低体重の負荷への対処には、栄養価の高い食品へのアクセスを強化することによる健康的な食事への移行が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年2月29日号掲載の報告。2億2,200万例のデータをプール解析 研究グループは、200の国と地域における1990~2022年の、身長と体重の測定値がある地域住民を対象とした研究3,663件、合計2億2,200万例のデータを統合し、階層ベイズモデルを用いてメタ回帰分析を行った。 主要アウトカムは、低体重(20歳以上の成人)または痩せ(5~19歳の学童/若年者)と肥満それぞれの有病率、ならびに複合の有病率とした。成人では、BMI値18.5未満を痩せ、BMI値30以上を肥満、学童/若年者では、BMI値がWHO成長基準の中央値より2 SDを下回っている場合を痩せ、2 SDを上回っている場合を肥満と定義した。低体重または痩せ+肥満の複合有病率は、男女とも約7~8割の国や地域で増加 1990~2022年に、成人における低体重+肥満の複合有病率が減少(観察された変化が真の減少である事後確率は少なくとも0.80)した国は、女性では11ヵ国(6%)、男性では17ヵ国(9%)であった。一方、複合有病率が増加(事後確率が少なくとも0.80)した国は、女性では162ヵ国(81%)、男性では140ヵ国(70%)であった。2022年において、低体重+肥満の複合有病率は、ポリネシア、ミクロネシア、カリブ海の島国、中東および北アフリカの国で最も高かった。 2022年に、女性では177ヵ国(89%)、男性では145ヵ国(73%)において、肥満の有病率が低体重の有病率より高かった(事後確率は少なくとも0.80)が、女性で16ヵ国(8%)、男性で39ヵ国(20%)ではその逆であった。 1990~2022年に、学童/若年者における痩せ+肥満の複合有病率は、女子では5ヵ国(3%)、男子では15ヵ国(8%)で減少(事後確率は少なくとも0.80)し、それぞれ140ヵ国(70%)および137ヵ国(69%)で増加(事後確率は少なくとも0.80)した。2022年において、学童/若年者の痩せ+肥満の複合有病率が最も高かった国は、女子がポリネシア、ミクロネシア、カリブ海の島国、男子がポリネシア、ミクロネシア、カリブ海の島国、チリおよびカタールであった。インドやパキスタンなどの南アジアの一部の国でも、痩せが減少しているにもかかわらず複合有病率は高かった。 2022年に、女子では133ヵ国(67%)、男子では125ヵ国(63%)で、学童/若年者の肥満の有病率が痩せの有病率より高く(事後確率が少なくとも0.80)、その逆はそれぞれ35ヵ国(18%)および42ヵ国(21%)であった。 成人ならびに学童/若年者の両方において、ほぼすべての国で、二重負荷(低体重または痩せと肥満の複合有病率)の増加は肥満の増加によって、減少は低体重または痩せの減少によって引き起こされていた。

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砂糖入り飲料は1杯/日でもCKDリスク上昇

 砂糖入り飲料または人工甘味料入り飲料を1日1杯(250mL)以上摂取することで、慢性腎臓病(CKD)の発症リスクが上昇し、それらの飲料を天然果汁ジュース(natural juice)または水に置き換えるとCKD発症リスクが低下したことを、韓国・延世大学校医科大学のGa Young Heo氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年2月5日号掲載の報告。 砂糖や人工甘味料の摂取と2型糖尿病や心血管系疾患との関連を示すエビデンスは増えているが、腎臓に及ぼす影響については不明な点が多い。そのため研究グループは、英国バイオバンクのデータを用いて、3種類の飲料(砂糖入り飲料、人工甘味料入り飲料、天然果汁ジュース)の摂取量とCKDの発症リスクとの関連、およびこれらの飲料を別の飲料に置き換えた場合の関連を調査するために前向きコホート研究を行った。 対象は、2006~10年に英国バイオバンクに登録し、食事アンケートに回答したCKDの既往歴のない参加者で、最長で2022年10月31日まで追跡された。主要アウトカムはCKDの発症で、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて3種類の飲料とCKD発症との関連を推定した。飲料を別の飲料に置き換えた場合の影響の評価には代替分析法を用いた。 主な結果は以下のとおり。●合計12万7,830人(平均年齢[SD]:55.2[8.0]歳、女性:51.8%)が解析に組み込まれた。追跡期間中央値10.5年(IQR:10.4~11.2)時点で、4,459例(3.5%)がCKDを発症した。●砂糖入り飲料を1日1杯以上摂取している群では、砂糖入り飲料を摂取していない群と比較してCKDの発症リスクが有意に高かった(調整ハザード比[aHR]:1.19、95%信頼区間[CI]:1.05~1.34、p=0.01)。●人工甘味料入り飲料を1日1杯以上摂取している群でも、人工甘味料入り飲料を摂取していない群と比較してCKDの発症リスクが有意に高かった(aHR:1.26、95%CI:1.12~1.43、p<0.001)。●天然果汁ジュースの摂取とCKD発症との間に有意な関連はみられなかった(aHR:0.99、95%CI:0.87~1.11、p=0.90)。●1日1杯分の砂糖入り飲料および人工甘味料入り飲料を、天然果汁ジュースまたは水に置き換えることは、CKDの発症リスク低下と関連していた。 ・砂糖入り飲料→天然果汁ジュース HR:0.93、95%CI:0.87~0.97、p=0.04 ・砂糖入り飲料→水 HR:0.93、95%CI:0.88~0.99、p=0.03 ・人工甘味料入り飲料→天然果汁ジュース HR:0.90、95%CI:0.84~0.96、p=0.03 ・人工甘味料入り飲料→水 HR:0.91、95%CI:0.86~0.96、p=0.001●砂糖入り飲料を人工甘味料入り飲料に置き換えても、CKD発症との有意な関連は認められなかった。逆も同様であった。

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心臓病患者の “ニーズ見える化”へ、クラウドファンディング開始/日本循環器協会

 日本循環器協会は、心臓病に関わる患者・家族、医療者、企業を繋ぐホームページ作成を実現させるため、3月12日にクラウドファンディング『心臓病患者さんの声を届けたい 心臓病に関わる方々を繋ぐHP作成へ』を開始した。本協会は患者と医療者が持つ双方のニーズの“見える化”を目指すことを使命とし、この取り組みを始めた。  “心臓病は複雑かつ、年齢層もさまざま。関係者も多岐にわたり、患者の悩みやニーズが共有されにくい”という循環器領域の現状を踏まえ、本協会は「#患者さんのニーズ見える化プロジェクト」の第1弾として、心臓病患者の声を集めるためのホームページ作成に動き出した。今回はこのホームページを通じて患者ニーズを集め、心臓病のより良いケアを探求する医療者や企業に情報を届けるのが狙いだ。なお、本プロジェクトは All or Nothing 方式を採用しているため、第1目標金額に満たない場合、支援金は全額、支援者へ返金となる。 「#患者さんのニーズ見える化プロジェクト」への支援はこちらから。女性に起こりやすい循環器疾患とその対処法 このほかにも、日本循環器協会は新たな取り組みとして、女性特有の循環器疾患の啓発にも注力すべく、「Go Red for Women JAPAN」(ワーキンググループ委員長 東條 美奈子氏[北里大学医療衛生学部 教授])の活動を開始した。「Go Red for Women」とは “心臓病が女性の最大の死因であることを多くの人に知ってもらう”ために、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性の循環器疾患の予防・啓発のための活動である。「教育」「疾患啓発」の2本柱を中心に、毎年2月第1週金曜日に赤い何かを身に付けるなどして啓発活動を行っている。この活動が今では世界50ヵ国以上に広がっており、日本でもこの活動のキックオフとなる公開セミナー「健康セミナー 女性のココロと心臓のはなし」を2月2日に行ったことを皮切りに、今後も国内独自のイベントを企画していく予定だという。 上述の健康セミナーにおいて、「女性のこころとからだの話」について講演した高尾 美穂氏(女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道)は、「社会的性差は解決可能も生物学的性差は縮めていくことはできない。骨格が異なることで病気にも性差が生じる。たとえば、男性には高尿酸血症、糖尿病、心筋梗塞が起こりやすい一方で、女性ではQOLに直接的に影響するような骨格筋の痛み・変化、うつ病の発症率の多さが課題として挙げられる。このように疾患にも性差があることから、双方の病態を理解し合うことが必要」と性差による疾患リスクを指摘するとともに、「女性の生殖器は期間限定であることを社会に出る前に知っておくことが必要」と、女性自身が自身の身体のことを学ぶ機会の少なさについても訴えた。 また、坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科分子生理学)は女性に多い循環器疾患として、微小血管狭心症、心筋梗塞(閉経後女性)、不整脈、たこつぼ型心筋症、肺高血圧症、心不全(高齢女性)などを挙げ、「たこつぼ型心筋症の場合、男性は外傷が影響するのに対し、女性はストレスで生じやすい。自律神経を整え、有酸素とレジスタンスの両方を兼ね備えた運動であるヨガを行うことで、ストレス軽減効果、心拍や血圧を健康に維持する効果が期待できる」と発症原因の1つを示し、その予防策を解説した。

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医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(1)【臨床留学通信 from NY】第57回

第57回:医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(1)医師の働き方改革が2024年4月から施行されます。私は米国にいるため情報に疎いのですが、働き方のみの形状を変えたところで、当直を働く時間にカウントしないといった姑息な手段が取られるのみではないかと危惧します。形だけの働き方改革にならないために、医者の働く時間を少なくしても同等の給料が得られるような、財源の確保が必要です。今回から3回にわたって、医師の働き方改革と財源確保について、米国の医療保険制度から考えてみたいと思います。日本とは対照的な米国の医療システム日本の国民皆保険は世界がうらやむ制度です。誰もが平等に最良の医療を受けられ、それが同じ価格で、かつ1人当たりの負担額も安いからです。それとは対照的な米国の医療システム。貧富の差が激しい米国においては、ある一定の収入以下の人が入れるMedicaid(メディケイド)という保険がありますが、それがカバーする内容はかなり制限されています。具体的に挙げるのは難しいのですが、たとえば今話題のセマグルチドを肥満症に処方するのは、新しい薬で高額であるためできないと思います。同様に、65歳以上が入れる保険のMedicare(メディケア)も一見よさそうなのですが、それだけしか入っていない場合、セマグルチドはカバーされないでしょう。そのため、いろいろな会社が提供するプライベート保険などに入らなければなりませんが、プランはさまざまです。といっても、たとえば4人家族で保険料を払おうとすると年間100万~150万円以上は必至。よく聞くポスドク留学は最低賃金が一般的に5万ドル(約740万円)程度といわれていますが、それに保険のプランを追加するかどうかもよく交渉しないと大変になってしまいます。その点、臨床留学は病院勤めのため、当初の給料は6万ドル(約890万円)余りでしたが、かかれる病院の縛りはあれど(このプランでは自分が所属する病院のみにしかかかれない)、保険もカバーされていたため、家族帯同の渡米には一定の安心がありました。無保険者も一定数いる米国5万~6万ドル程度の収入の場合、Medicaidには入れず、年間1万ドル(約150万円)近くかかる健康保険にも入らない人がいるため、米国には無保険の人がいることになります。予防医療を声高に叫んでいる米国において、そもそも病院に行けない未治療高血圧、脂質異常症、糖尿病の人が、心筋梗塞になって病院に来て、命は助かったがお金がない、ということもあります。実際には緊急Medicaidに入ってなんとかなるようなのですが、詳しくはちょっとわかりません。また、私が働いている病院の1つであるJacobi Medical Centerはニューヨーク市の公的病院であるため、無保険でも最低限の治療や投薬は受けられるようになっています。米国のそんな医療を受けたくはない、というのも日本人なら感じることですが、日本人が今まで受けてきた恩恵も、医師の働き方改革と並行して変えていく必要がありそうです。次回には、米国で行われている医療費を制限するための膨大な方法を説明したいと思います。Column先月、子供の冬休みに合わせて、4泊5日でアリゾナ州のグランドキャニオン国立公園とセドナに行ってきました。アメリカの国立公園はすごいと聞いておりましたが、西側にたくさんあるため、訪れたのは今回が初めてでした。壮大で息を呑むような景色でした。2009年発売のLeica M9で撮影した写真ですが、綺麗に撮れました。画像を拡大する画像を拡大する

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gout(痛風)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第1回

言葉の由来痛風は英語にすると“gout”です。この“gout”、語源は諸説あるようですが、フランス語の“goute”ないし、中世ラテン語の“gutta”という言葉から来ているようです。これらの言葉にはともに“drop”(落とす)という意味があるそうです。「痛風」と「落とす」…。一瞬つながりがわかりにくいですが、痛風という病気は、古くは「血液中の原因物質が関節に“落っこちる”」ことで起きると信じられてきたそうです。ここから、この言葉が当てられたようです。そして、この由来は当たらずといえども遠からずで、痛風とは、尿酸が結晶となって関節内に“落っこちる”ことで起こるのですよね。実際に、“gout”を“drop”(落とす、滴る)という古典的な意味合いで用いるケースも、読み書きでは残っているようです。口語で耳にすることはありませんが、“gouts of phlegm”と言うと、「痰の塊」の意味となり、“drop”に近い意味合いだと思われます。日本語の「痛風」という病名の由来も諸説あるようですが、「風が当たっただけでも痛い」ところから来ている、というのが定説ですね。そう考えると、痛風は英語と日本語でまったく語源が異なるようです。併せて覚えよう! 周辺単語痛風発作gout attack尿酸urate/uric acid結晶crystalプリン体purine関節炎arthritisこの病気、英語で説明できますか?Gout is a common, painful form of arthritis. It causes swollen, red, and stiff joints. It occurs when uric acid builds up in the blood and causes inflammation in the joints.講師紹介

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第203回 薬局薬剤師の反感を招いたかまいたち・山内氏の“失言”、国の制度をうまく使いこなせていない薬局、日本薬剤師会の不甲斐なさも背景に

一般人が薬剤師に対して抱いているイメージを正直に話してしまった山内氏こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、新宿に映画を観に行ってきました。スキャンダル後、関東近辺の山奥に引っ込んだ俳優・東出 昌大氏の狩猟の日々を追ったドキュメンタリー映画「WILL」(監督・エリザベス宮地)です。水道もガスもない山小屋で、淡々と狩猟を行い、鹿やイノシシを見事なナイフ捌きで解体し、食する姿はワイルドかつ修行僧のようで、友人として登場する“サバイバル登山家”服部 文祥氏の生と死、命に関する哲学的な発言と相まって、なかなか見応えのある映画でした。東出氏は山小屋の場所を明かしておらず、映画の中では「北関東」と紹介されています。しかし、映画に映っている山並みや木々、岩の感じからは、奥多摩から大菩薩嶺、奥秩父にかけてのあたりに見えました。東京、山梨の県境付近ではないか、と勝手に予想した次第です。甲州ワインも飲んでいましたし…。さて、今回は、お笑い芸人、かまいたちの山内 健司氏(背の低いほうです)が、関西ローカルのテレビ番組で薬剤師軽視ともとれる発言をした、という話題を取り上げます。”失言”のように聞こえますが、一般人が薬剤師に対して抱いているイメージを正直に話してしまったもので、薬剤師のつらいところを突いてもおり、医療関係者から見てもなかなか興味深いニュースです。「お熱、今あるんですか?」と医療機関での診察時と同じように症状を尋ねられイライラしてしまった大阪のテレビ局、朝日放送(ABCテレビ)は3月5日、同局のトークバラエティ番組『これ余談なんですけど…』で、一部不適切な内容があったとして以下のような謝罪文を同社の公式サイトに掲載しました。「2月28日(水)の放送における薬剤師の業務に関する発言で、一部不適切な内容がありました。窓口で薬剤師が症状等の確認をすることは、法律(薬剤師法)に基づいた適正な業務であることなど、薬剤師に関する番組側の認識が不足していました。また医師と薬剤師との関係について、薬剤師の方々および関係する皆様にご不快な思いをおかけした内容もありました。謹んでお詫びいたします」「不適切な内容」とは、どんなものだったのでしょうか。3月6日付の「女性自身」などの報道によれば、同日の放送では「せっかち関西人200人に聞いた『あの瞬間イライラするわぁ~』ランキングトップ10」を紹介し、出演者たちがテーマにちなんだトークを展開する中、MCの山内氏が自身の薬局での体験を話したそうです。その体験とは、医療機関でもらった処方箋を薬局に持っていったところ、薬剤師から「どうされたんですか?」「お熱、今あるんですか?」と医療機関での診察時と同じように症状を尋ねられイライラしてしまった、というものです。山内氏は「それ(診察)はもうしてきた。その結果、これ(処方箋)もらって渡してるねんから。さっさと薬もらって帰りたいのに。“どうされたんですか?いつから熱出てるんですか?”って、あれもう全然要らん時間やなって思っちゃう。しんどいから、はよ薬渡して帰らせてほしいのに」と不満を漏らしたとのことです。相方の濱家 隆一氏(背が高いほうです)もこの意見に同意し、「薬剤師さんも医療に携わってるから、一応、“医者憧れ”みたいなのがあるんちゃう」と語り、共演していたお笑い芸人の馬場園 梓氏も「だってそいつ(薬剤師)が見たって、薬変わらへんからな」と話したとのことです。こうした会話がネットニュースなどで報じられると、そのコメント欄に「全然要らない時間ではありません」「自分の仕事を否定されている気分です」といった薬剤師などからの批判が相次ぎました。濱家氏は1日に自身のXを更新し、「処方箋の件、考えなしに失礼な事言ってしまいました 薬剤師の皆さん、本当にすみませんでした」と謝罪、馬場園氏も2月29日にInstagramストーリーズに「全然知らんかった!アホですいません!」「薬剤師の皆様、すいません!」と謝罪、5日には朝日放送の謝罪となったわけです。処方箋の内容や症状を問うちょっとした会話から病名を類推して服薬指導を行うネット上では、かまいたちの2人や馬場園氏ら(とテレビ局スタッフ)が薬剤師の業務の意味や重要性を知らなかったことに批判が集まったようです。ただ、私自身は、山内氏は“素人”だからこそ感じた、薬局薬剤師の「つらいところ」を突いたのではないか、と思いました。「つらいところ」とは、「薬剤師は病名を知らない」という点です。処方箋には患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、用量の記載はありますが、病名は記されていません。というわけで、薬局の薬剤師は処方箋の内容や症状を問うちょっとした会話から病名を類推して服薬指導を行うことになります。山内氏も含め、自分に服薬指導をする薬局薬剤師のほとんどが病名を知らない、知り得ないことを理解している人はどれくらいいるでしょうか。ICT化が進んだ一部の地域では薬局にも病名が公開されているところがありますが、まだまだ限られています。マイナ保険証や電子処方箋の普及によって、複数の医療機関の間での医療情報の共有が進むと言われていますが、病名の薬剤師への通知については従前通りです。電子処方箋の時代になっても、病状(あるいは病名)を把握したいと考える薬剤師は、リアルな会話の中で聞き出さなければなりません。その是非はともかく、医療DXからはほど遠い世界と言えます。5期10年も務めたにもかかわらず、これからの薬剤師の職能を確立できなかった日薬会長国は、調剤など対物業務に偏ってきた薬剤師の働き方を見直し、服薬指導などの対人業務を充実させる方向で検討を進めています。その背景には、薬局や薬剤師の仕事が(今回の山内氏も含め)一般の人には見えづらく、その役割・意義も明確ではないことが挙げられます。厚生労働省は2023年12月25日、「第1回薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」を開きました。検討会での優先的検討課題としては、(1)夜間・休日および離島・へき地での外来・在宅医療における薬剤提供の在り方、(2)認定薬局、健康サポート薬局など薬局の機能の在り方で、2024年夏頃までに取りまとめる予定としています。そもそも、「認定薬局」、「健康サポート薬局」と言われても、どれくらいの人が知っているでしょう。「かかりつけ薬剤師」がいる人はどれくらいいるでしょう。いろいろな仕組みや制度を厚労省に用意してもらっても、それをうまく使いこなせていない薬局、ひいて言えば日本薬剤師会の不甲斐なさがこの検討会を開かせた、とも言えるでしょう。この春、日本薬剤師会の会長が変わります。5期10年務めた山本 信夫会長が勇退し、3月9、10日に開催された日本薬剤師会臨時総会の次期会長候補者選挙で当選した岩月 進氏(日本薬剤師会常務理事、愛知県薬剤師会会長)が6月の代議員会総会の承認を経て、新会長になる予定です。かまいたちの山内氏が薬局で感じたイライラや“失言”には、5期10年(最近の日本医師会会長の最長任期は、先々代の横倉 義武氏で4期8年でした)も務めたにもかかわらず、日本におけるこれからの薬剤師の職能を確立できず、一般人のイメージもなんら変革できなかった山本会長にも責任の一端があるのではないでしょうか。山内氏にはコンプライアンスに縛られずテレビやネットの世界でビシバシと発信してもらいたいところで、かまいたちの山内氏は、薬に関連して昨年もちょっとした騒動を起こしています。2023年4月16日に公開したYouTube動画において「お腹に注射を打つダイエット」で8キロの減量に成功したと報告、それが話題の「GLP-1ダイエット」だったのです。動画には「今回の動画は山内個人の体験談・見解になります」という注意書きがありましたが、日本医師会や日本糖尿病学会などがすでにGLP-1ダイエットに警告を発していたことに加え、ネット上などで多くの批判が寄せられたことなどから、4月18日には動画は非公開となりました。山内氏の今回の薬剤師に対する発言やGLP-1ダイエット体験のネット発信は、一般人の薬や医療に対する本当の意識、考え、理解レベルを知る貴重な場であるとも言えます。個人的には、山内氏には変なコンプライアンスに縛られず、これからもテレビやネットの世界で自身の体験で感じたことをビシバシと発信してもらいたいと思います。

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糖尿病患者の死因1位は男女ともに悪性新生物/糖尿病学会

 従来、糖尿病患者は、大血管障害で亡くなる患者が多かった。最新の『糖尿病診療ガイド 2022-2023』では、糖尿病治療の目標を「健康な人と変わらない人生」と定義し、糖尿病合併症である糖尿病細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症、進展の阻止を治療の柱としている。 では現在、糖尿病患者はどのような原因で亡くなっているのだろうか。糖尿病学会では「アンケート調査による日本人糖尿病の死因に関する研究委員会」(委員長:中村 二郎氏[愛知医科大学医学部 先進糖尿病治療学寄附講座 教授])を設置し、全国の医療機関にアンケートを行い、死因の調査を行っている。 今回、本委員会による2011~20年の糖尿病患者の死因の調査結果が、日本糖尿病学会誌である「糖尿病」に掲載された。なお、この結果は、2023年に鹿児島で開催された第66回日本糖尿病学会年次学術集会で発表されている。日本人一般に近くなってきた糖尿病患者の死因 本委員会は、1971年から10年ごとの死因の調査を行っており、今回で5回目となる。今回の2011~20年の調査では、1,154施設にアンケートを依頼し、施設全体での死亡症例(糖尿病患者/非糖尿病患者)を収集。208施設より登録された23万3,176症例(糖尿病患者:6万8,555例、非糖尿病患者:16万4,621例)を解析した。 糖尿病患者の死因に関する結果は以下のとおり。・全体では、1位が悪性新生物(38.9%)、2位が感染症(17.0%)、3位が血管障害(10.9%)だった。・男女とも悪性新生物が1位だったが、男性(40.6%)は女性(35.4%)より比率が高かった。血管障害の比率は男性(10.3%)より女性(12.1%)が多く、性差がみられた。・糖尿病性昏睡は全体で0.3%、低血糖性昏睡は全体で0.1%と1%を切っていた。・血管障害の内訳は、脳血管障害は全体で5.2%、虚血性心疾患は全体で3.5%、慢性腎不全は全体で2.3%だった。・悪性新生物の内訳で男性に注目すると、肺がん9.6%、膵がん6.1%、肝臓がん4.6%の順に多かった。膵がんは女性が7.2%と多かった。・感染症では、肺炎が全体で11.4%と感染症全体の3分の2を占めた。・1971~80年の死因に比べ、血管障害(慢性腎不全、虚血性心疾患、脳血管障害)が減少し、悪性新生物と感染症での死亡が増加していた。

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悪性褐色細胞腫の治療に、スニチニブが有望/Lancet

 本試験(FIRSTMAPPP試験)以前に、転移のある褐色細胞腫および傍神経節腫(パラガングリオーマ)患者を対象とした無作為化対照比較試験は行われていないという。フランス・パリ・サクレー大学のEric Baudin氏らが、この腫瘍の治療において、プラセボと比較してスニチニブ(VEGFR、PDGFR、RETを標的とする受容体チロシンキナーゼ阻害薬)は、1年無増悪生存率を有意に改善し安全性に差はないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年2月22日号で報告された。欧州4ヵ国のプラセボ対照無作為化第II相試験 FIRSTMAPPP試験は、欧州4ヵ国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ)の14施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第II相試験であり、2011年12月~2019年1月に、年齢18歳以上、散発性または遺伝性の転移を有する進行性褐色細胞腫およびパラガングリオーマの患者78例(年齢中央値54歳、男性59%)を登録した(フランス保健省などの助成を受けた)。 これらの患者を、スニチニブ(37.5mg/日、39例)またはプラセボ(39例)を経口投与する群に無作為に割り付けた。プラセボ群からスニチニブ群へのクロスオーバーは許容した。 主要評価項目は、中央判定による12ヵ月の時点での無増悪生存患者の割合とし、Simon two-step designに基づき解析を行った。69%で前治療、1年無増悪生存率は36% 78例中25例(32%)が生殖細胞系SDHx遺伝子変異を有しており、54例(69%)は前治療を受けていた。 12ヵ月の時点での無増悪生存は、プラセボ群が39例中7例(19%、90%信頼区間[CI]:11~31)であったのに対し、スニチニブ群は39例中14例(36%、23~50)であり、スニチニブ群の有効性に関する仮説の妥当性が確証された。 また、無増悪生存期間中央値は、スニチニブ群8.9ヵ月、プラセボ群3.6ヵ月、全生存期間中央値はそれぞれ26.1ヵ月および49.5ヵ月、奏効率は36.1%および8.3%(両群とも完全奏効例はなく、すべて部分奏効例)であり、スニチニブ群の奏効期間中央値は12.2ヵ月だった。有害事象の多くはGrade1/2 両群とも有害事象の多くはGrade1または2であった。最も頻度の高いGrade3または4の有害事象は、無力症(スニチニブ群7例[18%]、プラセボ群1例[3%])、高血圧(5例[13%]、4例[10%])、背部痛/骨痛(1例[3%]、3例[8%])だった。 スニチニブ群で3例(呼吸不全、筋萎縮性側索硬化症、直腸出血)が死亡し、直腸出血の1例は試験薬関連死と考えられた。プラセボ群では2例(誤嚥性肺炎、敗血症性ショック)が死亡した。 著者は、「この希少がんの初めての無作為化試験は、本症における抗腫瘍効果に関して、最も高い水準のエビデンスを持つ治療選択肢としてスニチニブの使用を支持するものである」と結論し、「スニチニブは、今後、他のすべての治療選択肢と比較すべき標準的な全身療法としての役割を果たす可能性がある」と指摘している。

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認知症の診断、実は肝硬変の可能性も?

 高齢化した米国の退役軍人を対象とした新たな研究で、認知症と診断された人の10人に1人は、実際には肝硬変により脳に障害が生じている可能性のあることが示された。米リッチモンドVA医療センターのJasmohan Bajaj氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に1月31日掲載された。 肝硬変は、肝臓の肝組織が徐々に瘢痕化して機能障害を起こすもので、その発症要因には、年齢、男性の性別、アルコール性肝障害、肝炎ウイルス、うっ血性心不全など多数ある。肝硬変の症状の一つである肝性脳症は、本来、肝臓で分解されるはずのアンモニアが、肝硬変や肝臓がんなどによる肝機能の低下が原因で十分に分解されず、血液に蓄積して脳に達し、脳の機能が低下する病態を指す。 肝性脳症では、認知症の症状に似たせん妄や錯乱のエピソードが誘発されることがあるため、臨床症状に基づき両者を鑑別するのは困難な場合が多い。肝性脳症は多くの場合、治療可能であるが、認知症と誤診されることで治療が遅れる可能性がある。肝性脳症患者に治療が施されなければ、患者は昏睡状態に陥り、死に至ることさえある。Bajaj氏は、「肝臓の問題を早期に発見することで的を絞った介入が可能になり、認知機能低下の原因となる治療可能な要因に対処する道が開ける」と話す。 今回の研究でBajaj氏らは、米国退役軍人保健局(VHA)のデータから抽出した、2009年から2019年の間に認知症の診断を受けた17万7,422人(平均年齢78.35歳、男性97.1%)を対象に、未診断の肝硬変の有病率とそのリスク因子について検討した。対象者の中に肝硬変の診断を受けた者はいなかったが、肝臓の線維化を評価する指標であるFibrosis-4(FIB-4)を算出するのに十分な臨床検査(血液検査)の結果がそろっていた。 その結果、対象者の10.3%(1万8,390人)はFIB-4スコアが2.67以上と肝臓の線維化が進行しており、また5.3%(9,373人)ではスコアが3.25以上、つまり肝硬変の可能性が高いことが明らかになった。FIB-4スコア3.25以上と有意な関連を示した因子としては、高年齢(オッズ比1.07、95%信頼区間1.06〜1.09)、男性の性別(同1.43、1.26〜1.61)、うっ血性心不全(同1.48、1.43〜1.54)、ウイルス性肝炎(同1.79、1.66〜1.91)、アルコール使用障害同定テストのスコア(同1.56、1.44〜1.68)、慢性腎臓病(同1.11、1.04〜1.17)が確認された。これに対して、FIB-4スコア3.25以上は白人(同0.79、0.73〜0.85)、糖尿病(同0.78、0.73〜0.84)、脂質異常症(同0.84、0.79〜0.89)、脳卒中(同0.85、0.79〜0.91)、タバコ使用障害(同0.78、0.70〜0.87)、地方に居住していること(同0.92、0.87〜0.97)とは逆相関を示した。 さらに、リッチモンドVA医療センターの認知症患者から二つの検証コホートを作成し、これらのコホートのFIB-4スコアを計算した。その結果、一つのコホートではFIB-4スコアが2.67以上だった患者の割合が11.2%、もう一つのコホートでFIB-4スコアが高スコアだった患者の割合は4.4〜11.2%と類似した結果が得られた。 では、認知症と誤診されがちな肝硬変の診断数を増やすにはどうすればよいのだろうか。Bajaj氏は、肝臓の状態を定期的に評価することが誤診を減らす手始めになると考えている。同氏は、「肝臓の定期的な評価は、肝疾患による認知機能障害を治療して回復させる機会の提供につながり、それが多くの患者やその家族、医師を助けることになる」と話す。その上で同氏は、「本研究の最重要点は、治療可能な肝性脳症を認知症と誤って診断してしまう可能性があることを医師が認識するべきだということだ」と述べている。

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調剤後薬剤管理指導が“格上げ”、対象の薬と患者が拡大【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第127回

2024年度の調剤報酬改定の内容が確定しました。これまでの改定は華々しく何かがスタートしたりしましたが、あまり浮足立った感じはなく、しっかりと地に足が着いた改定のように感じます。今回は2024年度の調剤報酬改定によって新設や変更となった加算を紹介します。「調剤後薬剤管理指導料」が加算→指導料に変更薬学管理料の「調剤後薬剤管理指導加算」が廃止され、「調剤後薬剤管理指導料」が新設されます。2020年度改定で新設された調剤後薬剤管理指導加算は、薬剤を服用中の患者に対する薬剤師のフォローアップを評価する目的で新設された点数でした。その基本的な考え方は受け継がれつつ加算から指導料へ変更されたということは、これらの指導が評価されて格上げされたと考えてよいでしょう。調剤後薬剤管理指導加算の対象となっていた糖尿病薬の範囲はインスリンとSU薬でしたが、「糖尿病用剤」に拡大され、また対象患者に慢性心不全患者が追加されました。調剤後薬剤管理指導加算では、かかりつけ薬剤師管理指導料の算定患者では算定できませんでしたが、調剤後薬剤管理指導料では算定患者に対してフォローアップを実施した場合でも算定ができるようになります。加算から指導料になっても60点という点数に変更はありません。しかし、この調剤後のフォローアップが踏襲され、しかも対象が広がったということは、これを積極的に取り組んでいる薬局が評価されたということでとてもうれしいです。調剤後薬剤管理指導料を算定できる薬局は、地域支援体制加算を算定可能として届出をしている薬局です。ベースが地域支援体制加算というのは、今後も基本要件になってくる可能性は高いでしょう。「在宅移行初期管理料」が新設在宅訪問を開始する際には、あらかじめ患者さん宅やケアマネジャーさんを訪問してさまざまな確認をすると思いますが、その加算や指導料はとくにありませんでした。今回、患者さんが病院から退院するときなど、在宅医療に移行する際の薬学管理に対する評価として、新たに「在宅移行初期管理料」が導入されます。退院直後などに薬局薬剤師が患者宅を訪問し、服薬状況の確認や薬剤の管理などの必要な指導を実施した場合に、1回に限り230点を算定できます。1回だけの算定とはいえ230点は大きいですし、その1回を確実に意味のあるものにしようという気合と責任が芽生えますよね。ただし、認知症や精神疾患、小児、末期がんなど条件を満たす患者さんのうち、とくに重点的な服薬支援を行う必要性があると判断された場合に限る、とされているので、対象となる患者さんの注意が必要です。私は、日々患者さんのために頑張っている薬局や薬剤師が報われてほしいと思ってこのコラムを書いていますが、今回の改定内容を読み込めば読み込むほど、薬局がどんどん増え、薬剤師は稼げると言われた時代は過ぎ去り、地域医療のために実績を上げている薬局や薬剤師が生き残る時代に突入したのだなという実感がします。今回新設・変更された項目に対する取り組みや実績が今後の報酬改定で評価されればよいなと思います。

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認知症発症の危険因子としてのコロナ罹患【外来で役立つ!認知症Topics】第15回

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まってから、コロナと認知症との関係という新たなテーマが生まれた。まず予防には3密だと喧伝された。その結果、孤独化する高齢者が増えたので、認知症の発症が増加しているという報告が相次いだ。つまり孤独という認知症の危険因子を、コロナが一気に後押ししたという考え方である。そうだろうなとは思いつつ、このエビデンスは乏しかった。それから次第に前向きの疫学研究から、コロナ罹患と認知症発症との関係を報告するものが出てきた。そして最近では、こうしたもののレビューも報告されるようになり、なるほど、こういうことかとポイントが見えてきた。そこで今回は、認知症発症の危険因子としてのコロナ罹患を中心にまとめてみたい。スペイン風邪と認知症の関連は?まず人畜共通感染症による第1のパンデミックとされる「スペイン風邪(Spanish Flu)」を連想した。というのは、コロナはスペイン風邪をしのぐ人畜共通感染症によるパンデミックをもたらしたからだ。スペイン風邪の原因は、トリインフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスの遺伝子が混ざり合った新型のウイルス(Influenza A virus subtype H1N1の亜系)だと考えられている。そこで1918年の第1次世界大戦当時に世界的に流行したこのスペイン風邪の認知症への影響はどうだったのかと調べてみた。説得力の強いものに、デンマークで1918年当時妊娠中の母親の胎内にあったヒトに注目し、対象とコントロールで合計28万人余りのデータを用いた研究がある1)。ここでは、該当者が62~92歳に達した期間において、あらゆる認知症性疾患についての発症に注目し、その相対危険度を調査している。その結果、スペイン風邪罹患と認知症発症の間には有意な関係はなかったとされる。この報告のように、どうも積極的に両者の関係を指摘する報告は乏しいようだ。コロナと認知症、追跡期間が長いほど発症率が上昇?さてコロナについて成された近年の報告のレビューが注目された2)。多くの研究結果からは、コロナに罹患することでアルツハイマー病を含むすべての認知症の発症率はおよそ2倍と考えられている。実際、これまでの報告の多くは、60歳以上のヒトにおいては、コロナに罹患することで、亜急性期、慢性期の認知症発症は確かに高まりそうだと報告している。もっとも、コロナ罹患による認知症発症への影響力は、他の呼吸器系のインフルエンザ感染や細菌感染と大差がないとの結論になっている。一方で興味深いのは、追跡期間の違いによる認知症の発症率の相違である。すなわち発症から3ヵ月間もしくは6ヵ月間追跡した研究に比べて、1年間追跡した研究では認知症の発症率が高くなっているのである。このことは、コロナによる認知症の発症は、罹患ののち長期間にわたって続くことを示唆している。また疫学から、なぜコロナが認知症とくにアルツハイマー病に関連するかについてのレビューも興味深い3)。まずコロナへの罹患しやすさについては、加齢が最大にして唯一の危険因子だとされる。そしてその背景として高血圧、糖尿病、心疾患など、いわゆる生活習慣病が考えられている。またこうした要因が、回復を遅くすることも事実である。さらに、最初に述べたような孤独化と普通の生活に戻れないことが高齢者においてうつ病や不安を生じる間接的な要因になることも関係しているだろうとされる。ところで、すでに認知症であった人が、パンデミックによって社会的な交流がなくなったり、ケアが手薄になったりしたことで死亡率が高まった可能性もあることが述べられている。実際、パンデミック時代になってから、コロナ感染の有無にかかわらず、認知症者の死亡率が25%も高まったことを報告したメタアナリシスもある4)。認知症発症の原因として注目される炎症こうしたコロナによる認知機能の低下や認知症発症の原因として最も注目されるのは炎症、とくにこれに関わるサイトカインであろう。このサイトカインとは、ある細胞から他の細胞に情報伝達するための物質である。その中でも有名なのは、インターフェロンやインターロイキンだろう。感染量が多くなるほど、サイトカインも大量に放出されるが、それが著しい場合はサイトカインストーム(免疫暴走)と呼ばれる。サイトカインストームが起こることで大脳組織の炎症が生じる結果、認知機能に障害が生じる。なお近年では、アルツハイマー病の病因仮説として、脳の炎症説は主流の1つとなっている。また別の説として、新型コロナウイルスは、微小血管に障害をもたらし、肺の組織を障害することによって、大脳への酸素の流れに支障を来すことに注目するものがある。さらには、新型コロナウイルスとアミロイドやタウとの関係にも注目するもの、あるいはアルツハイマー病の危険因子とされるAPOE4を介して発症に関係するという考えなどもある。いずれにせよ現時点において新型コロナウイルスと認知症の発症との関係について確立しているわけではない。今後の長期的なフォローアップにより、少しずつ解明が進んでいくと思われる。参考1)Cocoros NM, et al. In utero exposure to the 1918 pandemic influenza in Denmark and risk of dementia. Influenza Other Respir Viruses. 2018;12:314-318.2)Sidharthan C. COVID-19 linked to higher dementia risk in older adults, study finds. News-Medical.Net. 2024 Feb 9.3)Axenhus M, et al. Exploring the Impact of Coronavirus Disease 2019 on Dementia: A Review. touchREVIEWS in Neurology. 2023 Mar 24.4)Axenhus M, et al. The impact of the COVID-19 pandemic on mortality in people with dementia without COVID-19: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr. 2022;22:878.

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歩行を守るために気付いてほしい脚の異常/日本フットケア・足病医学会

 超高齢社会では、いかに健康を保ちつつ日常生活を送るかが模索されている。とくに「脚」は、歩行という運動器の中でも重要な部位である。日本フットケア・足病医学会は、この脚を守るための下肢動脈疾患(LEAD)・フレイル研究募集についてメディア向けにセミナーを開催した。 セミナーでは、研究概要のほか、同学会の活動概要、LEADをはじめとする脚の動脈硬化の診療、LEAD・フレイル研究募集について説明が行われた。あまり社会に知られていないLEADの病態と患者数 はじめに同学会理事長の寺師 浩人氏(神戸大学大学院医学研究科形成外科学 教授)が、「日本フットケア・足病医学会として歩行を守る意義」をテーマに、わが国のLEADの発生状況やLEADが起こすさまざまな弊害、学会が行っている活動を説明した。 高齢化の中、政府は病床数の削減に動いている。その一方で、わが国のLEAD患者は約400万例(うち症候性が100万例)と推定され、この数字は増加中である。また、LEADには透析患者の15~23%が罹患しているとされ、糖尿病を併存しているケースも多いとされている。 通常、脚の創傷は入院となっても、外来などで適切なフットウェアと歩行・生活指導を受けると治癒する。また、脚はADLとも密接に関係し、切断レベル、年齢、神戸分類の要素で複雑に変化する。一例として、高齢者では、脚の大切断後の歩行機能は著明に低下することが知られる一方、小切断後では歩行機能を維持できることが知られている。これは、LEADがなければ創傷治癒後歩行ができることを意味し、LEADが次第に歩行機能を奪っていくという。 最後に学会について触れ、「日本フットケア学会」と「日本下肢救済・足病学会」は2019年に合併し、新たに「日本フットケア・足病医学会」として発足したことを紹介した。足病医学、装具士・整形靴の研究、保険診療要望などのほか橋渡し研究として臨床に即した基礎研究を推進することを目的に活動を行っているという。今後は、さまざまな研究について支援をお願いしたいと語り、説明を終えた。生命予後に関連するLEAD 「LEADとは? 脚の動脈硬化の話」をテーマに東 信良氏(旭川医科大学外科学講座血管・呼吸・腫瘍病態外科学分野 教授)が、LEADの病態についてレクチャーを行った。 はじめに脚の解剖図を示し、動脈網を説明後、脚の動脈疾患があまり知られていないことに警鐘を鳴らした。 脚が動脈硬化になりやすい人としては、「高齢、糖尿病、高血圧、腎機能障害」が主なリスク因子として挙げられる。わが国の発症頻度をみると60歳以上で1~3%、70歳以上では2~5%、とくに65歳以上で糖尿病を発症している人では12.7%、腎不全透析患者では10~20%の頻度でみられると報告され1)、今後の高齢化に伴い患者数はさらに増加すると予想されている。 脚の動脈(側副血行路)の流れが悪くなると、歩行時の筋肉痛や組織の維持に問題が生じる。診断では下肢の脈の触診や足首の動脈圧の測定で判断され、フォンテイン分類(I:無症状、II:間歇性跛行、III:安静時痛、IV:潰瘍・壊死)で4つのステージに分けられる。とくに足関節上腕血圧比(ABI)が1.00以下は要注意とされる。 治療は先述のステージごとに異なり、各ステージ共通では背景リスクの管理が必要となるほか、症例によっては間歇性跛行から血行再建治療が行われる。血行再建治療には、血管内治療(カテーテル治療)、内膜摘除・形成術、バイパス術などが行われる。2017年の学会の調査によれば、血行再建治療数は全体で4万9,833例がおもに循環器内科で実施され、治療方法別では血管内治療が1番多く実施されている。 また、治療後のゴールについて、運動器を中心に歩行改善、歩行器機能回復や救肢が目的とされる。ただ、LEAD患者の生命予後については、救肢できてもステージIII/IVの患者は予後不良であり、とくに術後、歩行機能が回復できないと生命予後が不良になるという研究報告がある2)。さらに近年の研究では、サルコペニアとの関連も研究され、筋肉量の低下が生命予後に影響することもわかってきた3)。そのためフレイルリスクを予防すれば予後改善に期待がもてるという。 今後の課題としては、無症候LEAD患者数や患者像の把握が進んでいないこと、こうした患者の予後やQOLの実態がつかめていないことから重症化予防のためにも、LEAD・フレイル研究が必要とレクチャーを終えた。LEAD・フレイル研究に協力を 次に「LEAD・フレイル研究の概要、現在の応募状況、お問い合わせ方法など」について、河辺 信秀氏(東都大学幕張ヒューマンケア学部理学療法学科 教授)が説明を行った。この研究は、「日本人のABI値異常を呈する症例のフレイル発症率および身体機能低下への影響、LEAD重症化への影響探索」を主たる目的に実施される。 研究デザインは、前向きコホートとして開始時測定から5年を上限に各年で測定を行う。主な測定項目は、身体測定、ABI、心電図、胸部X線、血液、神経伝導検査、下肢歩行機能検査、フレイル測定などで2~3日をかけて実施される。【取り込み基準】・ABIが1.0未満・参加につき文書で同意を得られた者・同意取得時連例が50歳以上90歳未満の者【除外基準】・下肢切断の既往のある者・下肢慢性創傷が存在、または既往のある者・下肢血行再建術を受けた既往のある者 など 被験者は640例で、対象600例とコントロール40例に分けて実施され、2023年11月時点での参加者は316例となっている。 研究実施施設は、医療社団法人恵智会(東京都渋谷区)となり、参加者は施設まで赴き、検査を受けることになる。研究に参加を希望する人は受付サイトなどへアクセスしていただきたいと説明を終えた。 なお、本研究は学会が主体となり、国などから補助を受けない独自研究となるという。■参考サイト日本フットケア・足病医学会LEAD・フレイル研究 医療者向けLEAD・フレイル研究 患者さん向けはこちら

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肥満手術、長期の血糖コントロールが内科的介入より良好/JAMA

 肥満者の2型糖尿病の治療において、内科的介入+生活様式介入と比較して肥満手術は、術後7年の時点で糖尿病治療薬の使用例が少ないにもかかわらず血糖コントロールが優れ、糖尿病の寛解率も高いことが、米国・ピッツバーグ大学のAnita P. Courcoulas氏らが実施した「ARMMS-T2D試験」の長期の追跡結果から明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2024年2月27日号に掲載された。4つの単独無作為化試験の長期結果の統合解析 ARMMS-T2D試験は、2007年5月1日~2013年8月30日に、2型糖尿病における内科的/生活様式管理と肥満手術の有効性、効果の持続性、安全性の評価を目的に、米国の4施設がそれぞれ単独で行った無作為化試験の統合解析である(米国国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所[NIDDK]の助成を受けた)。 2型糖尿病の診断を受け、BMI値27~45の患者を、内科的管理と生活様式管理を受ける群、または3種の肥満外科手術(Roux-en-Y胃バイパス術、スリーブ状胃切除術、調節性胃バンディング術)のいずれかを受ける群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、ベースラインから7年後までのヘモグロビンA1c(HbA1c)の変化であった。最長で12年間のデータが得られた。12年後の血糖コントロールも良好 この統合解析では、適格例305例のうち262例(86%)を長期追跡の対象とした(肥満手術群166例、内科的/生活様式管理群96例)。全体の平均年齢は49.9(SD 8.3)歳、女性が68.3%で、平均BMI値は36.4(SD 3.5)であった。追跡期間中に内科的/生活様式管理群の25%が肥満手術を受けた。追跡期間中央値は11年だった。 7年後の時点で、平均HbA1cは、内科的/生活様式管理群でベースラインの8.2%から8.0%へと低下し(変化の群間差:-0.2%、95%信頼区間[CI]:-0.5~0.2)、肥満手術群では8.7%から7.2%へと低下した(-1.6%、-1.8~-1.3)。7年時の変化の群間差は-1.4%(95%CI:-1.8~-1.0)であり、肥満手術群でHbA1cの改善効果が有意に優れた(p<0.001)。 12年後の時点での平均HbA1cの変化の群間差は-1.1%(95%CI:-1.7~-0.5)であり、有意差を認めた(p=0.002)。 また、肥満手術群で改善した血糖コントロールは、糖尿病治療薬の使用例がより少ない状態で達成された。ベースラインの糖尿病治療薬の使用率は両群で同程度であり(内科的/生活様式管理群99.0%、肥満手術群97.6%)、7年後まで内科的/生活様式管理群では経時的な変化がみられなかった(7年時使用率96.0%、変化のp=0.19)のに対し、肥満手術群では1年後には38.0%(62/163例)に減少し、7年後も有意に低い状態を維持していた(7年時使用率60.5%[72/119例]、変化のp<0.001)。貧血、骨折、消化器有害事象が多かった 2型糖尿病の寛解率は、7年後(内科的/生活様式管理群6.2%、肥満手術群18.2%、p=0.02)および12年後(0.0% vs.12.7%、p<0.001)のいずれにおいても、肥満手術群で有意に優れた。 12年間に4例(各群2例)が死亡した。主要心血管有害事象の発生は両群で同程度だった。また、肥満手術群で、輸血を要する貧血(3.1% vs.12%)、骨折(5.2% vs.13.3%)、消化器有害事象(胃/吻合部潰瘍[2.1% vs.6%]、胆石/胆嚢炎[3.1% vs.5.4%]、腸閉塞[1% vs.1.8%]など)の頻度が高かった。 著者は、「これらの結果を既存のエビデンスと統合すると、肥満者の2型糖尿病の治療において肥満手術の適用を支持するものである」としている。

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肥満症治療薬のチルゼパチドで肥満者の血圧が低下

 肥満症治療薬のZepbound(ゼップバウンド、一般名チルゼパチド)の効果は、体重の減少や糖尿病コントロールの改善にとどまらないようだ。米テキサス大学サウスウェスタン医療センター心臓病学部長のJames de Lemos氏らによる研究で、チルゼパチドを使用した肥満患者では収縮期血圧(上の血圧)が有意に低下し、同薬が肥満者の血圧コントロールにも有効である可能性が示唆されたのだ。チルゼパチドの製造販売元であるEli Lilly社の資金提供を受けて実施されたこの研究の詳細は、「Hypertension」に2月5日掲載された。 この研究の背景情報によると、収縮期血圧は拡張期血圧(下の血圧)よりも心疾患に関連した死亡リスクとの関連の強いことが判明しているという。De Lemos氏は、「これまでの研究では、チルゼパチドの肥満症治療薬としての効果が検討されてきたが、今回の研究の参加者で確認された同薬による血圧の低下は印象的なものだった」と話す。 チルゼパチドは、体内でインスリンの分泌を促し食後のインスリン感受性を高める作用を持つ2種類のホルモンと同じように働く。同薬には消化のスピードを緩やかにして食欲を低下させ、血糖値の調節を助ける作用がある。なお、日本では、現時点でのチルゼパチドの適応症は糖尿病のみである。 今回の研究では、肥満の成人600人(平均年齢45.5歳、平均BMI 37.4、女性66.8%)をプラセボ投与群(155人)、またはチルゼパチドを5mg(145人)、10mg(152人)、15mg(148人)のいずれかの用量で皮下注射する群にランダムに割り付けた。 その結果、チルゼパチド群ではプラセボ群に比べて試験開始時から36週間目までの間に収縮期血圧が、チルゼパチド5mg投与で平均7.4mmHg、10mg投与で平均10.6mmHg、15mg投与で平均8mmHg低下したことが明らかになった。また、チルゼパチドの降圧効果は日中だけでなく夜間にも認められた。De Lemos氏らによると、日中よりも夜間の収縮期血圧の方が心疾患に関連する死亡リスクのより強い予測因子であるという。 De Lemos氏は、「血圧降下がチルゼパチドによるものなのか、あるいは研究参加者の体重減少によるものなのかは不明だが、チルゼパチドを使用した参加者で認められた血圧の低下度は、多くの降圧薬の使用による低下度に匹敵するものであった」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースで説明している。 今回の研究には関与していない米ミシシッピ大学医療センターのMichael Hall氏は、「全体として、チルゼパチドのような新規の肥満症治療薬は、体重減少だけでなく肥満に伴う高血圧や2型糖尿病、脂質異常症などの心血管代謝系の合併症を大いに改善させることが示されており、励みになる結果だ」と話している。 Hall氏はまた、「これらの有益な効果はいずれも重要ではあるが、肥満に関連した合併症の多くは相乗的に心血管疾患リスクを高める。したがって、肥満に関連した複数の合併症を抑える戦略は、心血管イベントのリスク低下につながる可能性がある」との見方を示している。 ただしHall氏は、「心筋梗塞や心不全、その他の心臓に関連した健康上の問題に対するチルゼパチドの長期的な効果について明らかにするには、さらなる研究が必要だ」と指摘。また、「チルゼパチドのような薬剤を中止した場合に血圧がどのように変化するのか、例えば再び上昇するのか、あるいは低下が維持されるのかを明らかにするための研究も必要だ」と話している。

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日本人NASH患者の臨床的特徴~5年間のRWDを用いた症例対照研究

 得津 慶氏(産業医科大学公衆衛生学 助教)らが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)およびそれに関連する患者の臨床的特徴を調べるため、国民健康保険ならびに後期高齢者レセプトデータベースといったReal World Data(RWD)を用いて症例対照研究を行った。その結果、NASHの診断定義を満たした患者では非NASH患者に比べてBMIが有意に高いことが示唆された。また、女性、脂質異常症、高血圧症、胃食道逆流症(GERD)、2型糖尿病の罹患割合はNASH群で高く、NASHは肝硬変や肝がんのリスク上昇と関連していたことも示唆された。BMJ Open誌2023年8月22日号掲載の報告。 研究者らは、2015年4月~2020年3月までにNASH(ICD-10の分類表記K75.8[非アルコール性脂肪性肝炎]、K76.0[その他の炎症性肝疾患/その他の脂肪肝])と診断された患者をNASHの診断定義を満たす患者として非NASH患者と照合させ、性別、生年月日、居住地域に従ってランダムに選択した。1次および2次アウトカムの測定値(年齢、性別、BMI、NASH関連の併存疾患、生活習慣病など)の患者背景間の関係についてオッズ比(OR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・NASH患者545例(男性:38.3%)と非NASH(対照)患者18万5,264例(同:43.2%)を抽出した。各群の年齢中央値は68歳(四分位範囲:63.0~75.0)と65歳(同:44.0~74.0)であった。・BMIはNASH患者のほうが対照患者よりも有意に高かった(25.8kg/m2 vs.22.9kg/m2、p<0.001)。・女性、高血圧症、脂質異常症、2型糖尿病の割合はNASH患者のほうが高かった。さらに、NASHは肝硬変のリスク増加と関連しており(OR:28.81、95%信頼区間[CI]:21.79~38.08)、次に肝臓がんのリスクが高かった(OR:18.38、95%CI:12.56~26.89)。・NASHとうつ病(OR:1.11、95%CI:0.87~1.41)、不眠症(OR:1.12、95%CI:0.94~1.34)、慢性腎臓病(OR:0.81、95%CI:0.58~1.34)のリスクとの間には有意な関連はみられなかった。 これまでの国内研究報告1)にてNAFLD患者の特徴(中年男性と高齢女性の有病率が高い)は示されていた。NASHに関する今回の研究を通じて、本研究者らは「日常診療において、性別や年齢の違いを考慮し、肝臓がんのリスクやNASHに関連するそのほかの生活習慣関連の併存疾患に細心の注意を払う必要がある」としている。

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超加工食品摂取の健康への有害性、アンブレラレビューでも/BMJ

 超加工食品の摂取の多さは、有害な健康アウトカム、とくに心代謝系、一般的な精神障害および死亡のリスク増大と関連していることが、オーストラリア・ディーキン大学のMelissa M. Lane氏らの検討で示された。超加工食品と有害な健康アウトカムとの関連性についてはメタ解析が行われているが、研究グループは幅広い視点を提供し、先行研究のメタ解析によるエビデンスを評価するため、包括的なアンブレラレビューを行った。結果を踏まえて著者は、「今回得られた知見は、健康改善のために超加工食品への曝露を減らす公衆衛生対策の策定、およびその効果の評価に論理的根拠を与えるものである」と述べている。BMJ誌2024年2月28日号掲載の報告。超加工食品の摂取と健康アウトカムとの関連についての疫学的メタ解析のアンブレラレビュー 研究グループは、Nova食品分類システムで定義されている超加工食品の摂取と、健康への悪影響との関連を評価する目的で、既存のメタ解析のアンブレラレビューを行った。 MEDLINE、PsycINFO、Embase、Cochrane Database of Systematic Reviewsおよび参考文献リストをデータソースに、2009年から2023年6月までの研究を検索し、適格基準はコホート研究、症例対照研究、および/または横断研究デザインのシステマティックレビューとメタ解析とした。 アンブレラレビューによる各再メタ解析結果は、エビデンスの信頼性についてはエビデンス分類基準および既存のアンブレラレビューに従い、「クラスI(信ぴょう性が高い)」「クラスII(強く示唆的)」「クラスIII(示唆的)」「クラスIV(弱い)」「クラスV(エビデンスなし)」に分類。また、エビデンスの質についてはGRADEシステムを用いて評価し、「高」「中」「低」「非常に低」に分類した。超加工食品の摂取は、32の健康アウトカムと関連 検索の結果、430本の論文が同定され、適格基準を満たした14件のメタ解析研究、計45件の異なるプール解析が対象となった。 プール解析に含まれた参加者の総数は988万8,373例で、13件は用量反応モデリングが検討されたものであった。32件(71%)の異なるプール解析において、ランダム効果モデルに基づき、超加工食品の摂取の多さと死亡、がん、精神、呼吸器、心血管、胃腸、代謝等に関する健康アウトカムとの間に直接的な関連が示された。 事前に規定したエビデンスの分類に基づくと、クラスIで関連が示されたのは、心血管疾患関連死(リスク比:1.50、95%信頼区間[CI]:1.37~1.63、質:非常に低)および2型糖尿病(用量反応性のリスク比:1.12、95%CI:1.11~1.13、質:中)の発生、ならびに不安アウトカム(オッズ比[OR]:1.48、95%CI:1.37~1.59、質:低)および一般的な精神障害の複合アウトカム(OR:1.53、95%CI:1.43~1.63、質:低)の有病リスクであった。 クラスIIは、全死亡(リスク比:1.21、95%CI:1.15~1.27、質:低)、心疾患関連死(ハザード比[HR]:1.66、95%CI:1.51~1.84、質:低)、2型糖尿病(OR:1.40、95%CI:1.23~1.59、質:非常に低)および抑うつアウトカム(HR:1.22、95%CI:1.16~1.28、質:低)の発生、ならびに有害な睡眠関連アウトカム(OR:1.41、95%CI:1.24~1.61、質:低)、喘鳴(リスク比:1.40、95%CI:1.27~1.55、質:低)および肥満(OR:1.55、95%CI:1.36~1.77、質:低)の有病リスクであった。 残りの34のプール解析のうち、21件はクラスIII~IV、13件はエビデンスなし(クラスV)に分類された。 全体でGRADEシステムによるエビデンスの質は、22件のプール解析が「低」、19件が「非常に低」であり、「中」は4件であった。

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内臓脂肪減少薬オルリスタット、OTCで発売/大正

 大正製薬は日本初の内臓脂肪減少薬オルリスタット(商品名:アライ)を、ダイレクトOTC薬として2024年4月8日に発売する。発売に先立ち世界肥満デーである3月4日に新発売記者会見を開催した。世界的な肥満パンデミック、日本人は小太りでも要注意 米国の若年成人の肥満(BMI30以上)は、1970年代後半には5.5%だったが、2017年には33%と6倍に増加している1)。米国だけでなく1975年当時、成人の平均BMIが25前後だった欧州、中東、オーストラリアなども2014年には30前後になっている2)。いまや肥満は世界的パンデミックと言っても過言ではない。 BMI30の白人の2型糖尿病発症率は10%強だが、日本人を含む東アジア人はBMI24〜25で同じ発症率に達してしまう。つまり、「日本人は小太りでも病気になりやすい」と日本肥満学会理事長である千葉大学の横手 幸太郎氏は述べる。 「肥満」は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、「肥満症」は肥満に伴って健康を脅かす合併症があるまたは合併症になるリスクが高い場合と定義され、肥満症は医療行為の対象である3)。 肥満における内臓脂肪の蓄積は健康障害の原因となる。積極的保健指導対象者に対する試験では、3%以上の減量で血圧、脂質、血糖、肝機能、尿酸など、内臓脂肪蓄積者における多くのリスク因子に改善がみられた。日本肥満学会でも、肥満症や高度肥満症患者に対する減量を目指した食事、運動、行動療法を提唱している3)。しかし、それらの治療には限界があり、治療薬の登場が期待されていた。そのような中、2023年、30年ぶりの抗肥満薬としてセマグルチドとオルリスタットが登場した。セマグルチドは肥満症治療薬であり、オルリスタットは内臓脂肪減少薬として、未病である肥満から肥満症への進行を抑制する。横手氏は、肥満の予防から健康寿命の延伸に寄与する薬剤として、オルリスタットに期待感を示した。16年間の開発期間を要した日本初の内臓脂肪減少薬オルリスタット オルリスタットは肪分解酵素リパーゼに結合し不活性化することで、脂肪の分解を阻害して腸からの吸収を抑える。摂取した脂肪の約25%を便とともに排出するとされる。 同剤は、海外において、1997年に医療用医薬品として承認され、2007年にはOTC医薬品としても承認されている。大正製薬は2008年に日本への導入契約を締結し、2011年から臨床試験を実施、2019年にダイレクトOTC医薬品として厚労省に承認申請して2023年に承認された。日本での開発期間は16年間におよび、「市販薬では異例といえる長期間の開発」と大正製薬マーケティング本部の宍戸 正臣氏は述べる。52週時で内臓脂肪が2割強減少 オルリスタットは1,700万人以上の使用経験、100以上の臨床プログラムなど、海外では豊富なエビデンスがある。日本人に対しては、探索試験、用量設定試験、検証試験(二重盲検)、長期投与試験、一般臨床試験(薬剤師による有効性安全性の検討)、生活習慣病治療薬併用試験が行われ、安全性と有効性が検証されている。 日本人試験の結果、投与24週時点の内臓脂肪面積は、プラセボ群-5.78%に対しオルリスタット群では-14.1%(検証試験)、52週時点ではオルリスタット群で21.52%、実測値で28.05cm2減少した。内臓脂肪蓄積の指標となる腹囲は、オルリスタット投与52週で4.89%、実測値で4.3cm減少した(長期試験)。 オルリスタットの長期投与試験における副作用発現は60.8%、主なものは油の漏れ34.2%、便を伴う放屁23.3%、脂肪便9.2%、便失禁6.7%などであった。消化管における脂肪吸収を抑えるという作用機序から起こる症状であるため、発現機序を十分に理解して、服用前は脂肪の多い食事を避けるなどの対策をとっておくべきである。症状発現時期は「臨床データ上では服薬開始14日以内が最も高く、その後は率が下がってくる傾向」と大正製薬セルフメディケーション臨床開発部の藤田 透氏は言う。研修を修了した薬剤師による対面販売 オルリスタットは要指導薬のため薬剤師の対面販売でしか購入できない。初回購入には、専用のチェックシートと生活習慣記録(購入1ヵ月前からの記録)を使用者が記入し、薬剤師が確認しなければならない。生活習慣記録については、入力の手間を省くために、LINEアプリ「STEP UP DIARY」を用意している。 一方、特別な販売方法のため薬剤師の継続的な教育は欠かせない。販売に従事する薬剤師は日本肥満学会監修の「アライ専用eラーニング研修」の修了が求められるが、すでに2万6,000人を超える薬剤師が研修を修了しているという。 また、オルリスタットは医薬品卸を介さず、大正製薬が要指導薬と第1類を取り扱う薬局・ドラックストアに直接販売する。販売店は全国で約1万店舗強あるとされるが、ほぼすべての店舗で取り扱いできる見込みだ。販売店は同剤のブランドサイトで検索できる。製品概要・製品名:アライ・効能・効果:腹部が太めな方の内臓脂肪および腹囲の減少(生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限る)・用法・用量:年令 成人(18才以上) 1回量1カプセル 服用回数1日3回・成分:1 カプセル中 オルリスタット 60mg・価格:6日分2,530円、30日分8,800円(ともに税込み)使用条件・腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上・健康障害*を合併していない・初回購入前3ヵ月以上生活習慣改善の取り組みを行っていること・初回購入前1ヵ月および使用中に生活習慣改善の取り組み**、体重、腹囲を記録すること*:高度肥満または糖尿病、脂質異常症、高血圧などの「肥満診療ガイドライン2016」に記載された11疾患**:定期的に健康診断を受けていること

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非ウイルス性肝疾患による死亡リスクは女性の方が高い

 飲酒やメタボリックシンドローム(MetS)が関与して生じる肝臓の病気は、男性に比べて女性は少ないものの、それによる死亡率は男性よりも女性の方が高いことが報告された。青島大学医学院付属医院(中国)のHongwei Ji氏、米シダーズ・サイナイ医療センター、シュミット心臓研究所のSusan Cheng氏が、米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを解析した結果であり、「Journal of Hepatology」2月号にレターとして掲載された。 肝臓の病気の原因のうち、C型肝炎などのウイルスによるものは治療が進歩して患者数が減少している一方で、MetSなどの代謝性疾患に伴う脂肪性肝疾患「MASLD」やアルコール関連の肝疾患「ALD」、および代謝性疾患とアルコール双方の影響による肝疾患「MetALD」と呼ばれる肝疾患が増加している。Cheng氏は、それらの肝疾患の有病率と死亡率の実態を性別に検討した。 1988~1994年のNHANES参加者から、20歳未満および解析に必要なデータのない人を除外し、1万7人(平均年齢42±15歳、女性50.3%)を解析対象とした。各疾患の定義は、MASLDについては心臓代謝疾患のリスク因子があること、ALDは飲酒量がアルコール換算で男性420g/週超、女性350g/週超、MetALDは同順に210~420g/週、140~350g/週であり、画像検査で脂肪肝が確認されたものとした。 各疾患の患者数は、MASLDが1,461人、ALDが105人、MetALDが225人だった。これらの有病率を性別に見ると大きな性差が認められ、3タイプの疾患の全て、男性の有病率の方が高かった。具体的には、男性ではMASLD、ALD、MetALDの順に18.5%、1.7%、3.2%であるのに対し、女性は10.3%、0.3%、1.2%だった(すべてP<0.001)。一方、死亡リスクについては以下のように、女性の方が高い傾向にあった。 中央値26.7年の追跡で、2,495人の死亡が記録されており、年齢やBMI、人種、喫煙習慣、収縮期血圧、脂質異常症、糖尿病、降圧薬・血糖降下薬・脂質低下薬の処方、世帯収入などを調整後の死亡ハザード比を性別に検討。すると、MetALDに関しては女性でのみ有意なリスク上昇が確認された〔男性1.00(95%信頼区間0.79~1.28)、女性1.83(同1.29~2.57)。ALDは男性・女性ともに有意なリスク上昇が確認されたが〔男性1.89(1.42~2.51)、女性3.49(1.86~6.52)〕、女性のリスクの方が高い傾向にあった(P=0.080)。MASLDは男性・女性ともに有意なリスク上昇は観察されなかった。 MetALDの「Met」とは「代謝性の」という意味の「metabolic」の略であり、肝臓への脂肪の蓄積を引き起こす可能性がある代謝性の問題、つまり肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症を指している。研究グループでは、「これらのリスク因子のいずれかが該当する女性は、飲酒には特に注意が必要」と述べ、その理由を「飲酒と代謝の問題が組み合わさると、肝臓に脂肪がより蓄積しやすくなるからだ」と解説している。 しかし、なぜ女性の肝臓がこれらの変化に対して、男性よりも脆弱であるのかはまだ明らかにされていない。Cheng氏らは現在、その理由の解明と、そのようなリスクの抑制につながる介入方法の確立に向けて、新たな研究を計画している。

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