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第15回 診療ガイドライン その1:ガイドラインから外れた医療行為は違法か!?

■今回のテーマのポイント1.ガイドラインに反する診療は、紛争化のリスクを上げることから注意する必要がある2.裁判所はおおむねガイドラインに沿った判断をする3.ガイドラインに反する診療であっても、直ちに違法とはならないが、少なくとも「相応の医学的根拠」は必要である事件の概要患者X(死亡時79歳)は、昭和43年より糖尿病にてY病院糖尿病代謝科(主治医A医師)に外来通院していました。平成12年に上部内視鏡検査を行ったところ、食道静脈瘤が認められたことから精査した結果、HBV、HCV感染は認められないものの、初期の肝硬変と診断されました。その後、A医師は、外来で定期的に採血にて肝機能及び血小板数を測定していましたが、いずれも正常範囲内で推移しており、上部内視鏡検査上も食道静脈瘤に著変なく、経過観察をしていました。しかし、A医師は、その間、腫瘍マーカーの測定及び腹部超音波検査、CTなどの画像検査は行っていませんでした。Xは、平成18年8月7日21時頃、自宅トイレで倒れ、意識レベルが低下していたことからY病院に入院しました。その際、撮影した胸部CTにて肝臓に腫瘍性病変が認められたことから精査したところ、多発性肝細胞がんと診断され、同年10月23日に死亡しました。これに対し、Xの遺族は、肝硬変があったXに対し、肝細胞がん発見を目的とした検査を長期にわたり行わなかったとして、Y病院に対し、2,350万円の損害賠償を請求しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者X(死亡時79歳)は、糖尿病にてY病院糖尿病代謝科(主治医A医師)に外来通院していました。昭和61年12月に採血検査にて肝機能障害が認められたことから腹部超音波検査を行ったところ、慢性肝疾患及び脂肪肝の疑いと診断されました。平成12年7月に、糖尿病代謝科入院中に上部内視鏡検査を行ったところ、食道静脈瘤が認められたことから精査した結果、HBV、HCV感染は認められないものの、初期の肝硬変と診断されました。その後、A医師は、外来で定期的に採血にて肝機能及び血小板数を測定していましたが、いずれも正常範囲内で推移しており、上部内視鏡検査上も食道静脈瘤に著変なく経過観察をしていました。しかし、A医師は、その間、腫瘍マーカーの測定及び腹部超音波検査、CTなどの画像検査は行っていませんでした。Xは、平成18年8月7日21時頃、心不全のため自宅トイレで倒れ、意識レベルが低下していたことからY病院に入院しました。その際、撮影した胸部CTにて肝臓に腫瘍性病変が認められたことから精査したところ、AFP 30ng/mL、PIVKA-Ⅱ 7,000mAU/mL以上であり、多発性肝細胞がんと診断されました。Xは高齢であり、全身状態も悪かったため、積極的な治療は行われず、同年10月23日に死亡しました。事件の判決診療ガイドラインは、その時点における標準的な知見を集約したものであるから、それに沿うことによって当該治療方法が合理的であると評価される場合が多くなるのはもとより当然である。もっとも、診療ガイドラインはあらゆる症例に適応する絶対的なものとまではいえないから、個々の患者の具体的症状が診療ガイドラインにおいて前提とされる症状と必ずしも一致しないような場合や、患者固有の特殊事情がある場合において、相応の医学的根拠に基づいて個々の患者の状態に応じた治療方法を選択した場合には、それが診療ガイドラインと異なる治療方法であったとしても、直ちに医療機関に期待される合理的行動を逸脱したとは評価できない。そして、上記認定のとおり肝癌診療ガイドラインにおいてサーベイランス(*肝細胞癌早期発見のための定期的な検査(筆者注))の至適間隔に関する明確なエビデンスはないとされており、推奨の強さはグレードC1(行うことを考慮してもよいが十分な科学的根拠がない)と位置づけられていることからすれば、サーベイランスの間隔については一義的に標準化されているとまでは認めがたいのであるから、上記間隔については医師の裁量が認められる余地は相対的に大きくなるものと解される。・・・・・・・(中略)・・・・・・・そこで、被告医師がどの程度の間隔でサーベイランスを行うべきであったかを検討するに、上記認定のとおり肝癌診療ガイドラインにおいて非ウイルス性の肝硬変は肝細胞癌の高危険群とされ、6か月に一回の超音波検査及び腫瘍マーカーの測定が推奨されている。そして、上記認定説示したとおりXの肝硬変は発癌リスクが否定されるものではなかったことに加え、上記で認定のとおり肝硬変の前段階とされる慢性肝炎であっても発癌リスクが相当程度認められることからすれば、Xの肝硬変が初期のものであったとしても、被告A医師がXに対して肝硬変と診断してから一度も超音波検査等を実施しなかったことが相応の医学的根拠に基づくものとは評価しがたい。なお、後記で認定説示した本件での検査結果から、被告A医師においてXの肝硬変がさほど進行していなかったと判断すること自体は不合理であるとはいえない。したがって、これらの検査結果を根拠として、肝癌診療ガイドラインとは異なるサーベイランスを実施していたとしても、上記で説示したとおりサーベイランスの間隔について医師の裁量を認める余地があることを併せ考慮すれば、直ちに不合理であると断定することができないとの見方もあり得ないではない。しかしながら、本件においては、そもそもサーベイランスそれ自体が全く実施されていないことに加え、被告医師において肝癌診療ガイドラインとは異なるサーベイランスを実施することが相当であるとした場合には具体的なサーベイランスの間隔及び方法をどのようなものにするのが妥当であったかという点や、それを裏付ける医学的根拠はどのようなものかという点について何ら被告における主張立証がない。以上の検討によれば、上記で説示したように医療行為において医師の裁量を尊重する必要があること及び肝癌診療ガイドラインが絶対的な基準ではないことを考慮してもなお、被告は、Xに対し、肝癌発見を目的として6か月間隔で腫瘍マーカー及び超音波検査を実施し、腫瘍マーカーの上昇や結節性病変が疑われた場合には造影CT検査等を実施すべきであったというべきである。(* 判決文中、下線は筆者による加筆)(仙台地判平成22年6月30日)ポイント解説今回は、ガイドラインについて解説いたします。ガイドラインは、添付文書同様、裁判所が個別具体的な事例における「医療水準」を判断するにあたり用いられる文書であり、特に、作成当時の多数の専門家間における合意事項が文書化されていることから、訴訟においては重視される傾向があり、民事医療訴訟において重要な文書であるといえます。ただ、ガイドラインは法的に作成が義務付けられた文書ではないこともあり、第12回で紹介した添付文書のように、「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」(最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁)といった過失の推定効は認められていません。しかし、患者・家族が弁護士に相談した際に、弁護士が当該診療が適切か否か、すなわち事件を受任して裁判をするか否かを判断するにあたり、必ず参照する文書でもあることから、ガイドラインは紛争化するか否かを決定する上でも非常に重要な文書であるといえます。■ガイドラインに対する裁判所の傾向それでは、裁判所のガイドラインに対する姿勢はどのようなものかみてみましょう。本事例のような肝硬変の患者に対しては、肝細胞がんの早期発見のため定期的に腫瘍マーカーや腹部超音波検査等によるサーベイランスを行う必要があると考えられています。したがって、肝硬変の患者に対して、適切な検査を行わなかった結果、肝細胞がんの発見が遅れ、死亡してしまった場合には、医療過誤として訴えられることとなります。そして、このサーベイランスの方法や間隔については、平成11年に作成された「日本医師会生涯教育シリーズ 肝疾患診療マニュアル」と平成17年に第1版が作成された「肝癌診療ガイドライン」(平成21年改訂)の2つのガイドラインがあります。これらのガイドライン作成後に患者が死亡し、肝細胞がんに対するサーベイランスを争点として争われた判決は、民間判例データベースから検索すると6つあります(表1)。画像を拡大する表1をご覧いただけれるとわかるように、サーベイランスに関する判決では、ほとんどが原告勝訴となっています。一般に民事医療訴訟の原告勝訴率が20~40%であることを考えると、その差は明らかといえます。なお、唯一、原告が敗訴している(4)の事例は、患者の受診コンプライアンスが悪く、適切なフォローが困難であった事例であり、それでも、おおむね年2回程度は検査が行われていたことから、このような判断となっています。それではこれらの訴訟において、ガイドラインはどのように使われていたのでしょうか。表2にそれぞれの判決において、裁判所が示した適切なサーベイランス頻度を示します。画像を拡大するそして、平成11年に作成された「日本医師会生涯教育シリーズ 肝疾患診療マニュアル」においては、「肝硬変を超高危険群、ウイルス性の慢性肝炎及び非肝硬変のアルコール性肝障害を高危険群、その他の肝障害を危険群と設定し、これらの患者に対して、それぞれ定期的に諸検査を行うよう指針を定めています。同指針は、超高危険群患者に対しては、AFP検査を月に1回、腹部超音波検査を2、3か月に1回、腹部CT検査を6か月に1回、高危険群患者に対しては、AFP検査を2、3か月に1回、腹部超音波検査を4ないし6か月に1回、腹部CT検査を6か月ないし1年に1回並びに危険群に対しては、AFP検査を6か月に1回、腹部超音波検査及び腹部CT検査を1年に1回行う」と記載されています。また、平成17年に作成された「肝癌診療ガイドライン」においては、「一つの案として、超高危険群に対しては、3~4カ月に 1 回の超音波検査、高危険群に対しては、6カ月に 1回の超音波検査を行うことを提案する。腫瘍マーカー検査については、AFP およびPIVKA-Ⅱを超高危険群では 3~4カ月に 1回、高危険群では 6カ月に 1回の測定を推奨する」と記載されています。表2と比較していただければわかるように、(2)と原告敗訴となった(4)を除いた判決においては、裁判所は、判決文中にガイドラインを引用した上で、ガイドラインに沿った判断をしています。このようにしてみると、ガイドラインに違反した結果、患者に損害が生じた場合には、紛争化しやすいと同時に、裁判においても、ガイドラインに沿った判断がなされやすいということがいえます。■ガイドラインは「不磨の大典」ではないこのようなガイドラインに対する裁判所の傾向をみると、皆さんは違和感を覚えるでしょうし、批判もあるかと思います。ただ、添付文書の時にも説明しましたが、現在の裁判所は、添付文書やガイドラインを不磨の大典としてとらえているわけではありません。本判決においても、「もっとも、診療ガイドラインはあらゆる症例に適応する絶対的なものとまではいえないから、個々の患者の具体的症状が診療ガイドラインにおいて前提とされる症状と必ずしも一致しないような場合や、患者固有の特殊事情がある場合において、相応の医学的根拠に基づいて個々の患者の状態に応じた治療方法を選択した場合には、それが診療ガイドラインと異なる治療方法であったとしても、直ちに医療機関に期待される合理的行動を逸脱したとは評価できない。そして、上記認定のとおり肝癌診療ガイドラインにおいてサーベイランスの至適間隔に関する明確なエビデンスはないとされており、推奨の強さはグレードC1(行うことを考慮してもよいが十分な科学的根拠がない)と位置づけられていることからすれば、サーベイランスの間隔については一義的に標準化されているとまでは認めがたいのであるから、上記間隔については医師の裁量が認められる余地は相対的に大きくなるものと解される」と判示されているように、杓子定規に判断するのではなく一定程度の裁量の幅(グレーゾーン)が認められていると考えられます。ただ、その場合においても、「相応の医学的根拠」は必要であり、肝細胞がんのサーベイランスにおいては、単に「気が付いたらずいぶん期間が開いてしまった」ということでは許されませんので、注意する必要があります。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)仙台地判平成22年6月30日最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁

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スタチン薬による糖尿病発症リスクの検討/BMJ

 スタチン薬について示唆されていた糖尿病の新規発症リスクについて、格差があることが明らかにされた。カナダ・トロント総合病院のAleesa A Carter氏らが、オンタリオ住民150万人以上の医療記録をベースとした研究の結果、プラバスタチン(商品名:メバロチンほか)と比較して、より効力の高いスタチン薬、とくにアトルバスタチン(同:リピトールほか)とシンバスタチン(同:リポバスほか)でリスクが高い可能性があることを報告した。BMJ誌オンライン版2013年5月23日号掲載の報告より。解析対象47万1,250例、スタチン薬6種類の糖尿病発症リスクを調査 研究グループは、特定のスタチン使用と糖尿病発症との関連について調べるtime to event解析による住民ベースコホート研究を行った。糖尿病発症リスクに与えるスタチンの投与量および種類の影響について、ハザード比を算出して評価した。 対象は、オンタリオ住民で、1997年8月1日~2010年3月31日の間にスタチン治療を開始した糖尿病歴のない66歳以上の全患者とした。具体的には、解析には前年にスタチン処方がなかった新規処方患者が組み込まれ、治療開始前に糖尿病の診断が付いていた人は除外した。 被験者は47万1,250例で、そのうち心血管疾患の一次予防としてスタチン治療を受けていたのは48.3%、二次予防としては51.7%であった。治療開始時の年齢中央値は73歳、女性は54.1%であった。 全体の半数以上がアトルバスタチンを処方されており(26万8,254例)、次いでロスバスタチン(商品名:クレストール、7万6,774例)、シンバスタチン(7万5,829例)、プラバスタチン(3万8,470例)、フルバスタチン(同:ローコールほか)/ロバスタチン(国内未承認)(1万1,923例)であった。 解析では、プラバスタチンを参照薬とした。プラバスタチンを参照薬に、リスクを増大するものとしないものに分かれる 解析の結果、プラバスタチンと比べてアトルバスタチン(補正後ハザード比:1.22、95%信頼区間[CI]:1.15~1.29)、ロスバスタチン(同:1.18、1.10~1.26)、シンバスタチン(同:1.10、1.04~1.17)で糖尿病発症リスクの増大がみられた。フルバスタチン(同:0.95、0.81~1.11)、ロバスタチン(同:0.99、0.86~1.14)では有意なリスクの増大はみられなかった。 糖尿病発症の絶対リスクは、1,000人・年当たりアトルバスタチンでは31件、ロスバスタチンは34件であった。シンバスタチンのリスクはわずかに低く同26件であった。参照薬のプラバスタチンは同23件であった。 解析の所見は、スタチン処方が心血管疾患の一次予防か二次予防かで異ならなかった。 また、スタチン薬を効力で分類した場合も同様の結果が示された。しかし、ロスバスタチン使用者の糖尿病発症リスクについて、有意ではないが用量依存の可能性が示唆された(同:1.01、0.94~1.09)。

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脱毛症が糖尿病・心臓病による死亡の予測因子に?

 男性型脱毛症(AGA)は、男女共に、糖尿病や心臓病による死亡の独立した予測因子であることが、住民ベースの前向きコホート研究の結果、明らかにされた。Lin-Hui Su氏らが台湾で行った研究の成果を報告したもので、「本所見は、中等度~重度のAGA患者では、糖尿病や心臓病のリスク因子に識別するものとして、メタボリックシンドロームの有無にかかわらず、重大な意味を持つ可能性がある」と結論している。JAMA Dermatology誌2013年5月号の掲載報告。 研究グループは、糖尿病や心臓病による死亡の予測因子を特定することは、治療戦略を明確にする一助となり、AGAはそのような予測因子である可能性があるとして本検討を行った。台湾での地域ベースのスクリーニングを統合して行われた調査は、AGAを有することが、潜在的交絡因子補正後、男女を問わず、糖尿病や心臓病による死亡率上昇と関連しているかを調べることを目的とした。 30~95歳の7,252例を対象に、2005年4~6月をベースラインとして、Norwood および Ludwig分類法にてAGA評価を行った。また、メタボリック症候群およびその他可能性のあるリスク因子についての情報も収集した。 その後、同コホートを、2010年12月時点まで、死亡および死因を確認するまで追跡した。主要評価項目は、糖尿病および心臓病による死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・完全なデータが得られた7,126例(男性2,429例、女性4,697例)について、追跡期間57ヵ月の間に、糖尿病および心臓病による死亡は70例であった。・年齢、糖尿病および心臓病の家族歴、メタボリックシンドロームで補正後、中等度~重度AGA被験者は、正常あるいは軽度AGA被験者と比べて、糖尿病死亡リスク(補正後HR:2.97、95%CI:1.26~7.01、p=0.01)、心臓病死亡リスク(同:2.28、1.00~5.23、p=0.05)がいずれも有意に高かった。

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高齢2型糖尿病患者へのビルダグリプチン、優れた目標血糖値の達成率/Lancet

 DPP-4阻害薬ビルダグリプチン(商品名:エクア)は、高齢の2型糖尿病患者の治療において、担当医が設定した個々の患者の目標血糖値(HbA1c)の達成率が良好で、忍容性にも問題はないことが、英国エクセター大学医学部のW David Strain氏らが実施したINTERVAL試験で示された。2型糖尿病の高齢患者数は世界的に増加しており、65歳以上の有病率は18~20%とされる。欧米のガイドラインは、裏付けとなるエビデンスを持たないまま、高齢患者の血糖コントロールでは個々に目標値を設定することを勧めている。一方、これらの患者におけるビルダグリプチンの良好な有効性と安全性を示唆するプール解析の結果があるという。Lancet誌オンライン版2013年5月23日号掲載の報告。目標値達成をプラグマティックなプラセボ対照無作為化試験で評価 INTERVAL試験は、2型糖尿病の高齢患者に対するビルダグリプチン24週治療におけるHbA1c目標値の設定とその達成の実行可能性の評価を目的とする二重盲検プラセボ対照無作為化試験で、現行の高齢2型糖尿病患者治療ガイドラインに即したプラグマティックな試験デザインが採用された。 対象は、70歳以上の7.0%≦HbA1c≦10.0%、空腹時血漿グルコース<270mg/dL、BMI 19~45の2型糖尿病患者とした。治験担当医が、年齢、ベースラインのHbA1c値、併存疾患、虚弱状態に基づき個々の患者のHbA1cの治療目標値を設定した。患者は、ビルダグリプチン50mg(薬物療法を受けていない患者などは1日2回、SU薬単剤療法を受けている患者は1日1回)を経口投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、(1)担当医により設定されたHbA1c目標値の達成率、(2)ベースラインから試験終了までのHbA1c値の変化の複合エンドポイントとした。目標値達成率:52.6 vs 27%、変化の群間差:-0.6% 2010年12月22日~2012年3月14日までに、欧州の7ヵ国(ベルギー、ブルガリア、ドイツ、フィンランド、スロベニア、スペイン、英国)の45の外来施設から278例が登録され、ビルダグリプチン群に139例[平均年齢75.1歳、男性52.5%、平均糖尿病罹患期間12.2年(1.3~35.0年)、平均BMI 29.1、平均HbA1c値7.9%]、プラセボ群にも139例[74.4歳、38.1%、10.6年(0.3~32.8年)、30.5、7.9%]が割り付けられた。ITT解析の対象は両群とも137例、安全性の解析は両群とも139例で可能であった。 HbA1c目標値の達成率は、ビルダグリプチン群が52.6%(72/137例)と、プラセボ群の27%(37/137例)に比べ有意に良好であった(調整済みオッズ比[OR]:3.16、96.2%信頼区間[CI]:1.81~5.52、p<0.0001)。 ビルダグリプチン群の平均HbA1c値はベースラインの7.9%から0.9%低下し、臨床的に意義のある改善が得られた。プラセボ群の平均HbA1c値は0.3%低下し、両群間のHbA1c値の変化の差は-0.6%(98.8%CI:-0.81~-0.33、p<0.0001)と、ビルダグリプチン群が有意に優れていた。 治療関連有害事象の発生率はビルダグリプチン群が47.5%、プラセボ群は45.3%であった。そのうち重篤な有害事象はそれぞれ5.8%、3.6%であり、有害事象による治療中止は4.3%、2.2%、治療関連死は0.7%、0.7%だった。5.0%以上に発現した有害事象として、めまい(ビルダグリプチン群7.9%、プラセボ群2.2%)、頭痛(5.8%、2.9%)、鼻咽頭炎(5.0%、5.0%)がみられた。 著者は、「ビルダグリプチンは、高齢の2型糖尿病患者の治療において、良好な忍容性を示すとともに個々の患者の目標血糖値(HbA1c)の達成に寄与することが明らかとなった。これらの知見は現行のADA/EASDなどのガイドラインの勧告を支持するものである」と結論し、「本研究は、2型糖尿病治療のエンドポイントとして個々の患者のHbA1cの目標値を用いる方法が実行可能であることを示した初めての臨床試験である」としている。

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皮膚がんとの関連研究で判明!アルツハイマー病に特異的な神経保護作用

 米国・アルベルト・アインシュタイン医学校のRobert S. White氏らは、70歳以上住民ベースの縦断的追跡研究の結果、非悪性黒色腫皮膚がんの人は、同皮膚がんを有さない人と比べて、アルツハイマー病(AD)の発症リスクが有意に低いことを明らかにした。同関連は、ADが疑われる例や脳血管性AD、その他あらゆる認知症ではみられなかったことも示され、著者は「アルツハイマー病には特異的な神経保護が存在することが推察された」と報告している。Neurology誌オンライン版2013年5月14日号の掲載報告。 研究グループは、ニューヨーク市民対象のエイジング疫学研究「アインシュタイン・エイジング研究」において、非悪性黒色腫皮膚がん(NMSC)とADとの関連について調べた。対象は、70歳以上のボランティア住民で、年1回の評価と、多領域の医師による診断コンセンサスが続けられた。自己申告に基づき、がんの症状およびタイプの情報を入手し、Cox比例ハザードモデルを用いて、NMSCとその後に発症した認知障害リスクとの関連を調べた。また、ADとNMSCの生物学的特異的関連性を導き出すために、「AD限定群」(見込みあるいは可能性があると診断された症例)、「全AD群」(前記に加えて混合型AD/脳血管性認知症)、「全原因認知症群」の3つのネスティッドアウトカム群を設定して検討した。 主な結果は以下のとおり。・追跡を受けたのは、1,102人(登録時の平均年齢79歳)であった。・人口統計学的および高血圧、糖尿病、冠動脈疾患で補正後の被験者において、NMSC(被験者群で優勢であった)とAD限定群のリスク低下との有意な関連が認められた(ハザード比:0.21、95%CI:0.051~0.87、p=0.031)。・APOE ε4遺伝子型データが入手できた769例について、APOE ε4アレルの数をモデルに組み込んで分析した結果、有意ではなかったが同程度の強さの関連性が認められた。・一方、NMSCと全ADあるいは全原因認知症との有意な関連は認められなかった。・今回の住民ベースの縦断的追跡研究により、70歳以上のNMSC患者は、NMSCではない人と比べて、ADの発症リスクが有意に低いことが示された。・その他のAD(全AD)や全原因認知症と診断された非特異的ADでは、その関連性が減弱あるいは消失したことから、アルツハイマー病に特異的な神経保護が存在することが推察された。関連医療ニュース 日本人の認知症リスクに関連する食習慣とは? “重症にきび”はうつ病のリスク!? 睡眠障害と皮膚疾患、夜間のひっかき行動は睡眠ステージと関連

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大きく変わったインスリン療法

 2013年5月28日(火)都内にて、「大きく変わったインスリン療法」をテーマにセミナーが開催された(サノフィ株式会社開催)。演者である順天堂大学大学院の河盛 隆造氏(スポートロジーセンター・センター長)は、「古くからあるインスリンを効果的に使うことで、糖尿病治療の可能性がさらに広がる」と期待を述べた。 講演後半では、浜松医科大学の釣谷 大輔氏(第二内科)から超速効型インスリンであるインスリン グルリジンによる食後血糖コントロールの意義が語られた。 以下、内容を記載する。【インスリンはいまだmagic drug】 インスリンは1921年に発見された。2021年にはインスリン発見から100年を迎えるが、インスリンはいまだにmagic drugである。現在では、血糖自己測定により主治医は糖尿病患者の血糖値を診察室にいながら把握することができる。しかし、今なおインスリンの普及は進まず、インスリンが臨床現場で効率よく用いられているとはいえない。インスリンの使い方次第では、今以上に良好な血糖コントロールにつながる可能性がある。 【糖尿病、とくに食後高血糖は心血管イベントにつながる】 糖尿病患者において、心血管イベントリスクが非糖尿病に比べて増加することはよく知られている。実際、アテローム血栓性脳梗塞で入院した患者のうち、糖尿病、耐糖能異常を有する割合は80%以上との報告もあり、心血管イベント抑制を意識した治療が重要とされている。とくに食後血糖が高いほど脳梗塞、CHDの死亡率が高いことも示唆されており、食後の血糖管理が重視されるようになってきた。【食後1時間値の血糖コントロールが望ましい】 これを受けて2007年より「食後高血糖の管理に関するガイドライン」が発刊され、2011年度では食後1~2時間の血糖を測定し、食後血糖値は160mg/dL以下に維持することと改訂された。実際、食後2時間値よりも1時間値のほうが高いとする報告が国内外でなされていることから、食後1時間値を参考にした血糖コントロールが推奨される。すでに7点測定を実施しているのであれば、現在食後2時間値を測定しているところを、食後1時間値に変更し、測定してみることも、食後血糖の変動を把握するうえで望ましい。【超速効型インスリンは食後高血糖正常化の選択肢】 この時、わずかな食後高血糖であっても内因性インスリン分泌に与える悪影響が大きいことを理解しておくべきである。ではどう対処すべきか。食後高血糖を正常化し、インスリン分泌を改善するには、一度、インスリンを用いて高血糖を取り除くことが効果的だ。超速効型インスリンはその際の選択肢として有用といえる。【インスリン グルリジンの血糖改善効果】 浜松医科大学の釣谷氏は、近年登場したインスリン グルリジンについての研究結果を紹介した。超速効型インスリンを1日3回使用している2型糖尿病患者25例を対象に、他の超速効型インスリンをインスリン グルリジンに変更したところ、インスリン グルリジン使用時の食後30分、60分後血糖値は、ほかの超速効型インスリン(アスパルト・リスプロ)使用時と比べ低値で(30分値は有意差あり)、グルリジンの血中CPRの変動はほかの超速効型インスリンと比べて改善傾向にあった。釣谷氏はグルリジンの作用発現は早く、食後の早い時間帯での血糖改善が認められていることを述べ、1型糖尿病や低血糖の懸念がある患者、胃切除後、インスリン抗体陽性が疑われる患者にも使いやすいだろう、と期待を述べた。【まとめ】 このような利点をもつインスリンだが、なかなか普及しない事も事実だ。これはインスリンに対する悪いイメージの先行や、注射という製剤ゆえのアレルギーが大きいためと予想される。しかし、現在のインスリンは痛みも少なく、常温で保存できワイシャツの上からでも打つことができる。何より糖毒性を解除できれば経口薬に戻せる可能性もある。講演後、河盛氏は「インスリンを最後の手段にせずに、的確に、積極的にインスリン療法を施すことで、よりよい治療が患者さんに提供されることを期待したい」と思いを伝えた。

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特集 糖尿病 エキスパートへ質問!

一般内科の医師が、専門の医師に質問をぶつける人気コーナー。今回は「糖尿病」の中でも「インクレチン関連薬」にフォーカスを絞り、回答をいただきました。日常診療で使えるヒントをお届けします!!インクレチン関連薬とインスリンや他の経口血糖降下薬との併用の適応とその効果について、教えてください。インクレチン関連薬と他の経口血糖降下薬との併用適応に関しては、順次追加されており、一覧表のようになっています。また、GLP-1受容体作動薬に関してはリラグルチドが、SU薬との併用が可能であり、エキセナチドに関してはSU薬、メトホルミンとの併用が可能です。効果に関して血糖値に限って言えば、通常は血糖上昇にインスリン分泌を上昇、グルカゴンを低下させます。反対に、血糖値が低下すると、インスリンの分泌を低下させ、グルカゴンを上昇させます。そのため、低血糖発作の出現が抑えられるといわれています。しかしながら、高容量のSU薬との併用により、重篤な低血糖も報告されているため、注意が必要です。併用できる他の糖尿病治療薬の一覧画像を拡大するインクレチン関連薬を含む多剤との併用時の減量の順序や注意すべきポイントについて、教えてください。決まったアルゴリズムなどはないと思います。おそらくはSU薬が中~高容量でそれなりに投与されており、α-GIやメトホルミンが投与されている状況下で、何とか血糖コントロールがされている状況、例えばHbA1c 9%以上という血糖コントロール不良な状態と想定します。まず、SU薬に関しまして、併用により低血糖の頻度が増すとのことから日本糖尿病学会の勧告にしたがい減量を行います。それでも低血糖を起こすようであれば、更にSU薬を減量する必要があると考えます。純然たる薬効だけから考えればα-GIやメトホルミンは、インクレチン関連薬の作用に似た効果も得られるため、残しておきたいところです。しかしながら、年齢や腎機能、肝機能、消化器症状などを診てから減量を検討するのが、実際のところと考えます。インクレチン関連薬を使用するタイミングについて、発症すぐがよいのか、あるいはインスリン導入ぎりぎりまで待った方がよいのか、教えてください。これは難しいところです。あくまでもその患者の病態次第と考えます。年齢や肥満の程度、インスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度を評価します。インクレチン関連薬には、多面的作用もあり、禁忌事項がなければ使用可能なわけですが、私の場合はあえてfirst choiceでは投与しません。費用対効果を考えてもメトホルミンやグリニドの投与を先に行い、それでも不十分であれば投与することが多いです。また、基本的にインスリン導入ぎりぎりまで待つ必要はないと考えます。大事なことは、あくまでも膵臓の負荷をとり、少しでも良好な血糖コントロールを得るために薬剤を投与することです。インスリン導入を遅らせるためにインクレチン関連薬を投与するのは、あまりお勧めできません。インクレチン関連薬使用前に、その有効性をある程度予想することはできるでしょうか?今まで投与可能であった他の経口血糖降下薬に関しては、ある程度予想が立ちました。患者の病態を把握し、インスリン抵抗性が首座なのか、インスリン分泌不全が主体なのかを考え、河盛 隆造 氏(順天堂大学大学院文科省事業スポートロジーセンター)が話されるように、「食後に肝臓に流れ込む門脈血中の糖、インスリンの割合を予想し、薬剤を投与する」を念頭に、私は処方してきました。今もその考え方には変わりありません。しかしながら、インクレチン関連薬に関しては、実際の臨床での使用経験が浅いこと、また、単に膵臓を刺激し、インスリンの分泌を促すだけではない作用が報告されていることもあり、予想とは乖離することがしばしばあります。どの薬剤も同様ですが、とくにインクレチン関連薬に関しては、投与してみないとわからない部分が大きいと思います。ご参考までに当院において新規にシタグリプチンが投与された2型糖尿病患者83例のデータをお示しいたします。●対象:当院通院中の2型糖尿病患者83例(インスリン投与: 36、インスリン非投与: 47)●評価項目:シタグリプチン投与前3ヵ月と投与後3ヵ月のHbA1cの推移、体重の推移を観察した●結果:有効例では、投与開始1ヵ月後より、HbA1cの低下が認められた有効例では、インスリン投与、非投与に関わらず有効で平均0.7%のHbA1cの低下が認められた有効例ではBMIの変化は乏しく、無効例ではBMIが上昇していた有効例では、開始前HbA1cが高いほどHbA1cの低下幅が大きかったとなりました。

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新しい血糖コントロール目標値を発表! 第56回日本糖尿病学会年次集会を開催

5月16日より3日間、熊本市で開催された第56回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:荒木栄一氏/熊本大学大学院 生命科学研究部代謝内科学分野 教授)において、新しい血糖コントロールの目標値(以下「新目標値」と略す)が発表された。新目標値は、HbA1cに集約され、次の3段階とされる。HbA1c 8%未満→治療強化が困難な際の目標HbA1c 7%未満→合併症予防のための目標HbA1c 6%未満→血糖正常化を目指す際の目標図1 「血糖コントロール目標値」改訂図画像を拡大する図2 2型糖尿病治療の目標と指針画像を拡大する新しい評価分類の策定にあたっては、従来の5段階分類が複雑な目標設定であること、EBMの理念にそぐわない「不可」などの否定的な言葉が使われていること、「優」という呼称にはリスクを考慮せずにHbA1cを下げるべきとの誤解を生む恐れがあることなどを鑑み、学会内で検討が行われた。さらに、近年発表されたACCORD、ADVANCEなどの大規模臨床試験に基づき「低血糖を起こさない血糖管理」を考慮した内容も加味され、策定されたものである。その中には、新目標値を患者と医療者が共に目指す糖尿病治療の目標とすること、HbA1cの国際標準化との整合性、非専門医にも理解・活用しやすいようにできる限り簡素化することというコンセプトが込められている。新目標値は6月1日より運用開始となる。会長の荒木氏は「早期から治療を開始し、HbA1c値7%未満を目指してほしい」と期待を語った。DPP-4阻害薬投与時は、体重増加に注意「低血糖を起こさない血糖管理」といえば、DPP-4阻害薬がすでに欠かせない存在だ。本学会でも多くの使用経験が発表され、効果的な併用薬や症例像が明らかになった。「相性の良い併用薬」への関心も高い。シンポジウム14「インクレチン関連薬の長期展望」では、BG、α-GIとの併用がSU薬と比較して血糖改善効果が高いことなどが報告された。「レスポンダー/ノンレスポンダー」という観点では、シタグリプチンの2年間の追跡調査から血糖コントロール不良群で体重が増加していたことが明らかになった。DPP-4阻害薬の治療効果を得るには、体重増加を来さないことが重要であり、体重増加が認められた際には、速やかな食事指導が有効といえそうだ。DPP-4阻害薬+インスリンで、一定の治療効果同様に、DPP-4阻害薬とインスリンの併用に関する検討結果も発表され、一定の治療効果が報告された。強化インスリン療法、混合製剤2回注射、BOT(Basal Oral Therapy)のいずれのインスリンレジメンにおいても、DPP-4阻害薬であるシタグリプチンの上乗せによりHbA1c値低下効果やCPI改善効果が高まるとの報告も挙がった。ただし、DPP-4 阻害薬がどのインスリンレジメンと相性が良いかに関してはさらなる検討が必要とされた。インスリンからの切り替えカットオフ値は?また、インスリンからGLP-1受容体作動薬リラグルチド(商品名:ビクトーザ)への切り替え試験の結果から、効果不十分な場合の主な原因として内因性インスリン分泌能低下が推測されることが明らかになった。同試験においてデルタC-ペプチド値 1.34ng/mLがカットオフ値として算出されており、今後も継続した検討が期待される。なお、会期中にGLP-1受容体作動薬のエキセナチド(同:バイエッタ)の週1回製剤「ビデュリオン」が発売となった。代表的な副作用である「嘔気・嘔吐」の発現率はバイエッタと比べて少ないとの報告も挙がっており、週1回投与によるアドヒアランス改善とともに臨床での活用が期待される。新薬も期待!SGLT2阻害薬、GPR40作動薬、GK活性化薬このほか、新規作用機序をもった薬剤も次々と登場予定だ。シンポジウム2「今後期待される新規糖尿病治療薬」においても複数の新薬が取り上げられた。原尿からのブドウ糖再吸収を減らし、ブドウ糖を尿から排泄させる、「SGLT2選択的阻害薬」は、国内申請中のイプラグリフロジン(アステラス製薬/寿製薬)、ルセオグリフロジン(大正富山)を筆頭に6品目が後期開発段階にある。その後に続く薬剤としてGPR40作動薬にも注目が集まる。G蛋白質共役型受容体(GPCR)の一つであるGPR40に作用し、グルコース濃度に依存してインスリン分泌を促す特性をもつ薬剤である。GPR40作動薬は低血糖の誘発リスクが低いインスリン分泌促進薬として期待されており、現在開発中の薬剤にTAK-875(武田)がある。そのほか、膵β細胞でのインスリン分泌能増強作用と肝での糖利用亢進作用を有するGK(グルコキナーゼ)活性化薬も研究が進んでいる。編集後記インクレチン関連薬の発売、ACCORDの結果などを経て、「低血糖を来さない糖尿病治療」の重要性は臨床現場でも一般化した。今回発表されたHbA1cの新目標値も、この考えに基づいている。すでに、血糖値はひたすら下げるものではなくなった。今後は、患者さん一人ひとりに合った治療目標を設定し、薬剤を効果的に使いながら血糖をコントロールしていく必要がある。会長の荒木氏は、「あなたとあなたの大切な人のために~Keep your A1c below 7%~」を合言葉に糖尿病の予防と治療の向上に取り組む、とする「熊本宣言2013」を発表した。われわれも、医療情報メディアの一端を担う者として、最新かつ適切な情報伝達を通じ、糖尿病治療の発展に貢献していくことをあらためて宣言したい。(ケアネット 佐藤 寿美/稲川 進)

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n-3脂肪酸、複数の心血管疾患リスクを有する患者において有益な効果なし/NEJM

 複数の心血管疾患リスクを有するプライマリ・ケア患者について、魚由来のn-3系多価不飽和脂肪酸の連日服用は、心血管死および罹患の低下に結びつかないことが、Maria Carla Roncaglioni氏ら860人の医師が参加したイタリア全国開業医ネットワークのリスク・予防研究共同研究グループによる二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、報告された。先行研究においてn-3脂肪酸は、アテローム性動脈硬化 、炎症に対する有益な効果により、心血管疾患リスクを低減する可能性が示唆され、心筋梗塞や心不全既往患者において有益であると明文化されていた。NEJM誌2013年5月9日号掲載の報告より。1万2,513例をn-3脂肪酸連日1g投与群とプラセボ群に無作為化 研究グループは、n-3脂肪酸について示されている有益な効果が、心筋梗塞非既往だが複数の心血管リスク因子あるいはアテローム性動脈硬化性疾患を有する患者においても認められるのか、評価することを目的とした。 2004年2月~2007年3月の間に、試験に参加した860人の医師の下で登録された合計1万2,513例(平均年齢64.0歳、男性61.5%)を、n-3脂肪酸投与群(連日1g、6,244例)かプラセボ投与群(オリーブオイル、6,269例)に無作為化し追跡した。 主要エンドポイントは、当初、死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の累積発生率と規定された。しかし、1年時点でイベント発生率が予想よりも低いことが判明したため、心血管系による死亡までの期間、あるいは心血管系による入院までの期間に修正された。心血管系による死亡・入院までの期間について、補正後ハザード比0.97、p=0.58 被験者の特性では、糖尿病+心血管リスク因子が≧1が最も多く、5,986例(47.9%)の患者でみられた。アテローム動脈硬化性疾患歴ありは3,691例(29.5%)で、2,602例(20.8%)は糖尿病以外に4つ以上の心血管リスク因子を有していた。 結果、フォローアップ中央値5年時点において、主要エンドポイントの発生は、1万2,505例の解析群において1,478例(11.8%)であった。n-3脂肪酸群(6,239例)における発生は733例(11.7%)、プラセボ群(6,266例)における発生は745例(11.9%)であり、補正後ハザード比は0.97(95%信頼区間:0.88~1.08、p=0.58)で、n-3脂肪酸服用による有益な効果は認められなかった。 同様の非有益効果を示す結果は、すべての副次エンドポイントにおいても認められた。

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シタグリプチンの安全性評価-入院および死亡のリスクを検討(コメンテーター:吉岡 成人 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(100)より-

2型糖尿病は、膵β細胞からのインスリン分泌の低下と、末梢組織におけるインスリン抵抗性の増大の双方の病態によってもたらされる疾患である。日本人の2型糖尿病にあっては、食事や運動などの生活習慣の改善によってインスリン抵抗性は改善するものの、インスリン分泌は改善しないことが知られている。そのため、糖尿病の薬物治療においては、病態の進展とともにタイミングよくインスリン分泌促進系の薬剤を併用する必要があることが少なくない。 インスリン分泌薬として広く用いられているスルホニル尿素薬(SU薬)は、膵β細胞のK-ATPチャネルを刺激してインスリン分泌を持続的に促す薬剤であり、その副作用としての「低血糖」が常に問題となる。そのため、単剤では低血糖をひきおこすことなく血糖値に応じてインスリン分泌を促進するインクレチン薬として、DPP-4阻害薬が発売以来おおくの糖尿病患者に用いられている。 この論文は、DPP-4阻害薬として最も広く用いられているシタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)の安全性について、地域住民ベースの後ろ向きコホート研究で検討した成績である。米国における医療保険申請に関連した商業的なデータベースを用い、2004年から2009年の間に新規に経口糖尿病治療薬の投与が開始された2型糖尿病患者を抽出して、死亡、医療保険の終了となった場合はそれまでの期間、それ以外の場合は2010年12月まで追跡をしている。 解析の対象となったのは72,738人、平均年齢52歳、男性54%、虚血性心疾患の既往は9%、糖尿病に関連した合併症の併発率は9%であった。シタグリプチンの投与患者は8,032人(11%)で、平均年齢52歳、男性57%、虚血性心疾患の既往は11%、糖尿病に関連した合併症の併発率は10%であった。そのうち、7,293人(シタグリプチン投与患者の91%)は他の経口薬の追加治療としてシタグリプチンが用いられていた。 すべての原因に起因する入院および死亡をエンドポイントとしてCox比例ハザードモデルで解析した結果、シタグリプチン使用者の入院および死亡率はシタグリプチン非使用者と同等であった(調整ハザード比0.98、95%信頼区間0.91~1.06)と報告されている。虚血性心疾患の既往を有する患者でも調整ハザード比1.10、95%信頼区間0.94~1.28、推定GFR 60mL/分未満の腎機能低下患者においても調整ハザード比1.11、95%信頼区間0.88~1.41であり、シタグリプチン投与によって入院や死亡のリスクは増大しないと結論づけている。 本論文はシタグリプチンの安全性を評価するものであるが、DPP-4阻害薬の安全性に関しては、シタグリプチンないしはエキセナチドを投与した脳死ドナー8例の膵病理所見において3例にグルカゴンの発現を認める微小腺腫、神経内分泌腫瘍が認められたとの報告もあり(Butler AE et al. Diabetes. 2013 Mar 22.)、今後も慎重な姿勢で見守る必要があると考えられる。

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高齢糖尿病患者の転倒予防に!TVゲームでエクササイズ

 テレビゲームを用いたバーチャルリアリティ・エクササイズ(VRE)プログラムは、2型糖尿病の高齢者における転倒リスクの減少に、実行可能かつ効果的であることが、韓国・三育保健大学 Sunwoo Lee氏らの研究で明らかになった。VREプログラムは、転倒リスクの高い高齢糖尿病患者をゲームに没頭させることで、エクササイズの効果を最大限に引き出し、バランス、いすから立ち上がる時間、歩行スピード、歩調、転倒回数を有意に改善させるという。Diabetes Technology & Therapeutics誌オンライン版2013年4月5日号の報告。 高齢者の糖尿病は、転倒リスクの上昇と関連があると報告されている。 本研究では、VREプログラムが糖尿病の高齢者のバランス、筋力、歩行の改善に効果があるかどうかを調査した。 65歳以上の糖尿病患者55例をVRE群(27例)と対照群(28例)に無作為に割り付け、VRE群はVREプログラムと糖尿病教育、対照群は糖尿病教育のみを受けた。VREプログラムは、テレビゲームを使用し(PlayStation®2、ソニー、東京、日本)、50分間ずつ、週2回、10週間行った。バランス、筋力、歩行、転倒に対する影響は、試験開始時と試験後に測定した。測定には、片足立ちテスト、Berg Balance Scaleによるバランス能力評価、FRT(Functional Reach test)、TUG(Timed Up-and-Go)、10 回いす立ち上がりテストなどの臨床検査、および歩行分析を用いた。転倒に対する影響を調査するために、自記式アンケートを使用した。 その結果、VRE群は対照群と比較し、バランス、いすから立ち上がる時間、歩行スピード、歩調、転倒回数が有意に改善した。

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脳卒中およびTIAのリスク評価に有効な新アルゴリズム「Q Strokeスコア」/BMJ

 英国・パーク大学のJulia Hippisley-Cox氏らは、脳卒中やTIA非既往の一般集団の同リスクを推定するための新たなアルゴリズム「Q Strokeスコア」を開発した。同スコアは、プライマリ・ケアで用いることを目的としたもので、従来のCHADS2などと比較検証した結果、より有効であることを報告した。特に抗凝固療法が必要となる可能性がある心房細動を有する患者においてリスクスコアを改善することが示された。今後は、プライマリ・ケアでの使用に値するのか費用対効果の検証が必要であるとまとめている。BMJ誌オンライン版2013年5月2日号掲載の報告より。初発脳卒中を定量化することを目的とした新たなアルゴリズム CHADS2やCHA2DS2VAScなどは統計学的モデルに基づいたものではなく、確立したリスク因子が少なく、脳卒中の絶対推定リスクを提供できるものではないことから、研究グループは、新たなリスクアルゴリズムの開発を試みた。 新たなアルゴリズムは、初発脳卒中を定量化することを目的としたもので、心血管疾患アルゴリズム「QRISK2」を参考にデザインした。 本検討では、新たに開発した「Q Stroke」について、(1)心房細動患者においてCHADS2およびCHA2DS2VAScスコアとの比較を行うこと、(2)脳卒中またはTIAを有さない一般集団においてフラミンガム脳卒中スコアと比較したパフォーマンスを調べることを目的とした。 アルゴリズムの開発は、全英QResearchデータベースにリンクしているイングランドとウェールズの451人の開業医(GP)のデータに基づき行われ、検証は同データベースから異なる225人のデータを用いて行った。 主要評価項目は、フォローアップ中のGPの脳卒中またはTIA発生の診断記録あるいは死亡診断記録とした。Q Strokeアルゴリズムは心房細動患者についても従来スコアよりも識別を改善 開発コホートには、25~84歳の350万人の患者、計2,480万人・年が組み込まれた。脳卒中イベント件数は7万7,578件であった。検証コホートには、25~84歳の190万人の患者、計1,270万人・年が組み込まれた。試験登録時に、脳卒中またはTIAの既往がある患者、経口抗凝固薬の処方記録がある患者は除外した。 リスク因子は、「自己申告の人種」「年齢」「性」「喫煙状態」「収縮期血圧」「血清総コレステロール/HDL比」「BMI」「冠動脈心疾患の家族歴(一親等60歳未満)」「タウンゼンドうつ病スコア」「高血圧症治療歴」「1型糖尿病」「2型糖尿病」「腎疾患」「関節リウマチ」「冠動脈心疾患」「うっ血性心不全」「心臓弁膜症」「心房細動」の有無とした。 結果、Q Strokeアルゴリズムにより、脳卒中非既往の女性では57%、男性では55%の生存データに関する変動が示された。 D統計値は、女性2.4、男性2.3で、識別が改善されたことが明らかになった。 脳卒中非既往患者においてフラミンガムスコアと比較して、QStrokeはすべての識別および検定において改善が示された。 心房細動患者においては、QStrokeの識別能は低かったが、CHADS2およびCHA2DS2VAScよりもすべての識別指標についてパフォーマンスの改善が示された。

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リハビリテーション中の転倒事故で死亡したケース

リハビリテーション科最終判決平成14年6月28日 東京地方裁判所 平成12年(ワ)第3569号 損害賠償請求事件概要脳梗塞によるてんかん発作を起こして入院し、リハビリテーションを行っていた63歳男性。場所についての見当識障害がみられたが、食事は自力摂取し、病院スタッフとのコミュニケーションは良好であった。ところが椅子坐位姿勢の訓練中、看護師が目を離したすきに立ち上がろうとして後方へ転倒して急性硬膜下血腫を受傷。緊急開頭血腫除去手術が行われたが、3日後に死亡した。詳細な経過患者情報既往症として糖尿病(インスリン療法中)、糖尿病性網膜症による高度の視力障害、陳旧性脳梗塞などのある63歳男性経過1997年1月から某大学病院に通院開始。1998年9月14日自らが購入したドイツ製の脳梗塞治療薬を服用した後、顔面蒼白、嘔吐、痙攣、左半身麻痺などが出現。9月15日00:13救急車で大学病院に搬送。意識レベルはジャパンコーマスケール(JCS)で300。血圧232/120mmHg、脈拍120、顔面、下腿の浮腫著明。鎮静処置後に気管内挿管し、頭部CTスキャンでは右後頭葉の陳旧性脳梗塞、年齢に比べ高度な脳萎縮を認めた。02:00その後徐々に意識レベルは上昇し(JCS:3)抜管したが、拘禁症候群のためと思われる「夜間せん妄」、「ごきぶりがいる」などの幻覚症状、意味不明の言動、暴言、意識混濁状態、覚醒不良などがあり、活動性の上昇がなかなかみられなかった。9月19日ベッド上ギャッジ・アップ開始。9月20日椅子坐位姿勢によるリハビリテーション開始。場所についての見当識障害がみられたものの、意識レベルはJCS 1~2。「あいさつはしっかりとね、しますよ。今日は天気いいね」という会話あり。看護記録によれば、21:00頃覚醒す。その後不明言動きかれ、失見当識あり夜間時に覚醒、朝方に入眠する。意味不明なことをいう時もある朝方入眠したのは、低血糖のためか?BSコントロールつかず要注意ES自力摂取可も手元おぼつかないかんじあり。呂律回らないような、もぐもぐした口調。イスに移る時めまいあるも、ほぼ自力で移動可ES時、自力摂取せず、食べていてもそしゃくをやめてしまう。ボオーッとしてしまう。左側に倒れてしまうため、途中でベッドへ戻す時々ボーッとするのは、てんかんか?「ここはどこだっけ」会話成立するも失見当識ありES取りこぼし多く、ほとんど介助にて摂取す9月21日09:00全身清拭後しばらくベッド上ギャッジ・アップ。10:30ベッド上姿勢保持のリハビリテーション開始。場所についての見当識障害あり「俺は息子がいるんだ。でもね、ずっと会っていないんだ」「家のトイレ新しいんだよ。新しいトイレになってから1週間だから、早くそれを使いたいなあ。まだ駄目なの?仕方ないねえ。今家じゃないの?そう。病院なの。じゃあ仕方ないねえ」11:00担当医師の回診、前日よりも姿勢保持の時間を延ばし、食事も椅子坐位姿勢でとるよう指示。ベッドから下ろしてリハビリ用の椅子(パラマウント社製:鉄パイプ製の脚、肘置きのついた折り畳み式、背もたれの高さは比較的低い)に座らせた。その前に長テーブルを置いて挟むように固定し、テーブルの脚には左右各5kgの砂嚢をおいた。12:00看護師は「食事を取ってくるので動かないでね」との声かけに頷いたことを確認し、数メートル先の配膳車から食事を取ってきた。準備された食事は自力でほぼ全部摂取。食事終了後、看護師は患者に動かないよう声をかけ、数メートル先の配膳車に下膳。12:30食後の服薬および歯磨き。このときも看護師は「歯磨きの用意をしてくるから動かないでね」、「薬のお水を持ってくるから動かないでね」と声をかけ、患者の顔や表情を観察して、頷いたり、「大丈夫」などと答えたりするのを確認したうえでその場を離れた。13:00椅子坐位での姿勢保持リハビリが約2時間経過。「その姿勢で辛くないですか」との問いに患者は「大丈夫」と答えた。13:10午後の検査予定をナース・ステーションで確認するため、「動かないようにしてね」と声をかけ、廊下を隔て斜め向かい、数メートル先のナース・ステーションへ向かった。その直後、背後でガタンという音がし、患者は床に仰向けで後ろ側に転倒。ただちに看護師が駆けつけると、頭をさすりながらはっきりした口調で「頭打っちゃった」と返答。ところが意識レベルは徐々に低下、頭部CTスキャンで急性硬膜下血腫と診断し、緊急開頭血腫除去術を施行。9月24日20:53死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.予見可能性坐位保持リハビリテーションはまだ2日目であり、長時間のリハビリテーションは患者にとって負担になることが予見できた。さらに場所についての見当識障害があるため、リハビリテーション中に椅子から立ち上がるなどの危険行動を起こして転倒する可能性は予見できた2.結果回避義務違反病院側は下記のうちのいずれかの措置をとれば転倒を回避できた(1)リハビリテーション中は看護師が終始付き添う(2)看護師が付添いを中断する際、リハビリテーションを中断する(3)長時間の坐位保持のリハビリテーションを回避する(4)車椅子や背丈の高い背もたれ付きの椅子を利用する、あるいは壁に近接して椅子を置くなど、椅子の後方に転倒しないための措置をとる(5)リハビリテーション中に立ち上がれないように、身体を椅子にベルトなどで固定する病院側(被告)の主張事故当時、患者は担当看護師と十分なコミュニケーションがとれており、「動かないようにしてね」という声かけにも頷いて看護師のいうことを十分理解し、その指示に従った行動を取ることができた。そして、少なくとも、担当看護師がナース・ステーションに午後の検査予定を確認しにいき戻ってくるまでの間、椅子坐位姿勢を保持するのに十分な状態であった。当時みられた見当識障害は場所についてのみであり、この見当識障害と立ち上がる動作をすることとは関係はない。したがって本件事故は予測不可能なものであり、病院側には過失はない。裁判所の判断1. 予見可能性事故当時、少なくとも看護師に挟まれた状態では自分で立っていることが可能であったため、自ら立ち上がり、または立ち上がろうとする運動機能を有していたことが認められる。そして、看護師の指示に対して頷くなどの行動をとったとしても、場所的見当識障害などが原因で指示の内容を理解せず、あるいはいったん理解しても失念して、立ち上がろうとするなどの行動をとること、その際に体のバランスを失って転倒するような事故が生じる可能性があることは、担当医師は予見可能であった。2. 結果回避義務違反転倒による受傷の可能性を予見し得たのであるから、担当医師ないし看護師は、テーブルを設置して前方への転倒を防ぐ方策だけではなく、椅子の後ろに壁を近接させたり、付添いを中断する時は椅子から立ち上がれないように身体を固定したり、転倒を防止するために常時看護師が付き添うなどの通常取り得る措置によって、転倒防止を図ることが可能であった(現に5kgの砂嚢2個を脚に乗せたテーブルを設置して前方への転倒防止策を講じていながら後方への転倒防止策は欠如していた)ので、医療行為を行う上で過失、債務不履行があった。2,949万の請求に対し、1,590万円の支払命令考察病院内の転倒事故はすべて医療過誤?今回の患者は、インスリンを使用するほどの糖尿病に加えて、糖尿病性網膜症による視力障害も高度であり、以前から脳梗塞を起こしていた比較的重症のケースです。そして、医師の許可なく服用したドイツ製の治療薬によって、顔面蒼白、嘔吐、左半身麻痺、てんかん発作を発症し、大学病院に緊急入院となりました。幸いにも発作はすぐに沈静化し、担当医師や看護師は何とか早く日常生活動作が自立するように、離床に向けた積極的なリハビリテーションを行ないました。このような中で起きたリハビリ用椅子からの転倒事故です。その直前の状況は、「ここはどこだっけ」といった場所に関する見当識障害はあったものの、担当医師や看護師とはスムーズに会話し、食事も自力で全量摂取していました。はたして、このような患者を担当した場合に、四六時中看護師が付き添って看視するのが一般的でしょうか。ましてや、看護師が離れる時は患者が転倒しないように椅子に縛り付けるのでしょうか?もし今回の転倒前にもしばしば立ち上がろうとしたり、病院スタッフの指示をきちんと守ることができず事故が心配される患者の場合には、上記のような配慮をするのが当然だと思います。しかし、今回の患者は、とてもそのような危険が迫っていたとはいえなかったと思います。ところが、判決では「場所に関する見当識障害」があったことを重要視し、この患者の転倒事故は予見可能である、そして、予見可能であるのなら転倒防止のための方策を講じなければならない、という単純な考え方により、100%担当医師の責任と判断しました。実際に転倒現場に立ち会わなかった医師の責任が問われているのですから、きわめて厳しい判決であると思いますし、このような考え方が標準とされるならば、軽度の認知症の患者はすべて椅子やベッドに縛り付けなければならない、などという極論にまで発展してしまうと思います。最近では、高齢者ケアにかかわるすべてのスタッフに「身体拘束ゼロ作戦」という厚生労働省の指導が行われていて、身体拘束は、「事故防止の対策を尽くしたうえでなお必要となるような場合、すなわち切迫性、非代替性、一時性の三つの要件を満たし、「緊急やむを得ない場合」のみに許容される」としています。確かに、身体拘束を減らすことは、患者の身体的弊害(関節拘縮や褥瘡など)、精神的弊害(認知障害や譫妄)、社会的弊害をなくすことにつながります。ところが実際の医療現場で、このような比較的軽症の患者に対し一時的にせよ(看護師が目を離す数秒~数十秒)身体拘束をしなかったことを問題視されると、それでなくても多忙な日常業務に大きな支障を来たすようになると思います。ただ法的な問題としては、「利用者のアセスメントに始まるケアのマネジメント過程において、身体拘束以外の事故発生防止のための対策を尽くしたか否かが重要」と判断されます。つまり、入院患者の「転倒」に対してどの程度の配慮を行っていたのか、という点が問われることになります。その意味では、患者側が提起した、(1)リハビリテーション中は看護師が終始付き添う(2)看護師が付添いを中断する際、リハビリテーションを中断する(3)長時間の坐位保持のリハビリテーションを回避する(4)車椅子や背丈の高い背もたれ付きの椅子を利用する、あるいは壁に近接して椅子を置くなど、椅子の後方に転倒しないための措置をとる(5)リハビリテーション中に立ち上がれないように、身体を椅子にベルトなどで固定するという主張も(若干の行き過ぎの感は否めませんが)抗弁しがたい内容になると思います。事故後の対応そのような考え方をしてもなお、このケースは不可抗力という側面が強いのではないかという印象を持ちます。今回事故が起きたのは大学病院であり、それなりに看護計画もしっかりしていたと思いますし、これが一般病院であればなおさら目の行き届かないケースがあり、事故発生のリスクはかなり高いと思います。そして、今回のケースが院内転倒事故に対する標準的な裁判所の判断になりますので、今後転倒事故で医事紛争にまで発展すると、ほとんどのケースで病院側の過失が認められることになるでしょう。とはいうものの、同様の転倒事故で裁判にまでいたらずに解決できるケースもあり、やはり事故前の対策づくりと同様に、事故後の対応がきわめて重要な意味をもちます。まずは入院時に患者および家族を教育し理解を得ることが肝心であり、転倒が少しでも心配されるケースにはあらかじめ家族にその旨を告知し、病院側でも転倒の可能性を念頭に置いた対応を行うことが望まれます。と同時に、高齢者を多く扱う施設では賠責保険を担当する損害保険会社との連携も重要でしょう。たとえば、小さな子供を扱う保育園や幼稚園では、子供同士がぶつかったり転倒したりなどといった事故が頻繁に発生します。その多くがかすり傷程度で済むと思いますが、中には重度の傷害を負って病院に入院となるケースもあります。そのような場合、保護者から必ずといって良いほど園の管理責任を問うクレームがきますが、保母さんにそこまで完璧な対応を求めるのは困難ではないかと思います。そこで施設によっては、治療費や慰謝料を「傷害保険」でまかなう契約を保険会社と交わして事故に備えるとともに、場合によってはその保険料を家族と折半するなどのやり方もあると思います。このような方法をそのまま病院に応用できるかどうかは難しい面もありますが、結局のところ最終的な解決は「金銭」に委ねられるわけですから、「医療過誤」ではなく不慮の傷害事故として解決する方が、無用なトラブルを避ける意味でも重要ではないかと思います。リハビリテーション科

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シタグリプチン、2型糖尿病の全原因入院・死亡に影響せず/BMJ

 DPP-4阻害薬シタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)は、新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、他の血糖降下薬に比べ全原因に起因する入院や死亡のリスクを増大させないことが、カナダ・アルバータ大学のD T Eurich氏らの調査で示された。DPP-4阻害薬の安全性に関するベネフィットは、いくつかのプール解析で示されている。一方、実臨床におけるあらゆる原因に起因する入院や死亡などの広範なアウトカムに及ぼすシタグリプチンの影響を評価した大規模試験はこれまでなかったという。BMJ誌オンライン版2013年4月25日号掲載の報告。臨床アウトカムに及ぼす影響を後ろ向きコホート試験で評価 研究グループは、新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、シタグリプチンが臨床アウトカムに及ぼす影響を評価するレトロスペクティブな地域住民ベースのコホート試験を実施した。 米国の商業的な医療保険申請と研究所の総合的なデータベースを用い、2004~2009年の間に経口抗糖尿病薬の服用を開始した2型糖尿病患者を抽出した。これらの患者を、死亡、医療保険の終了または2010年12月31日まで追跡した。 主要評価項目は、全原因に起因する入院および死亡の複合エンドポイントとし、時間依存的なCox比例ハザード回帰分析を行った。現行の勧告を支持するエビデンス 7万2,738例(平均年齢52歳、男性54%、虚血性心疾患の既往歴11%、糖尿病関連合併症の既往歴9%)が解析の対象となった。シタグリプチンの服用者は8,032例(11%)(52歳、57%、11%、10%)で、そのうち7,293例(91%)は現行のガイドラインのとおり、他の経口薬への追加治療としてシタグリプチンを併用投与されていた。 1万4,215例(20%)が複合エンドポイントを満たした。シタグリプチン服用者の全原因入院・死亡率は非服用者と同等であった(調整ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.91~1.06、p=0.63)。 虚血性心疾患の既往歴を有する患者(調整HR:1.10、95%CI:0.94~1.28)および腎機能が低下した患者(推定糸球体濾過量<60mL/分)(調整HR:1.11、95%CI:0.88~1.41)においても、シタグリプチン服用者と非服用者の間に複合エンドポイントの発生率の差を認めなかった。 著者は、「新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、シタグリプチンは他の血糖降下薬に比べて全原因に起因する入院や死亡のリスクを増大させない」と結論づけ、「これらの観察的データはシタグリプチンの安全性に関するエビデンスをもたらし、本薬剤を患者の必要に応じて使用する付加的治療薬と規定する現行の勧告を支持するもの」と指摘している。

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食品栄養表示の改善を学会が要望 ~動脈硬化学会が「栄養成分表示に関する要望」について記者会見~

 5月7日、日本動脈硬化学会のプレスセミナーが、日内会館(東京都文京区)にて行われた。日本動脈硬化学会は、4月16日に「栄養成分表示に関する見解ならびに要望」を消費者庁に提出していたが、本セミナーでは要望の詳細と意図が発表された。同学会は、食品栄養表示に、「脂質」に加え、「コレステロール」、「飽和脂肪酸」、「トランス脂肪酸」をただちに追加するよう要望している。 現在、食品の栄養表示は栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)で義務付けられており、その一つに「脂質」がある。しかし、脂肪には多くの種類があり、それらをひとまとめにして、総体としての「脂肪」摂取を低減することを目的として「脂質」と表示することには問題があった。 実際、摂取脂質総量は、動脈硬化性心疾患のリスクを促進させないことが示されている。一方で、飽和脂肪酸を減らし、多価不飽和脂肪酸に置換した多くの試験で冠動脈疾患リスクの低下が認められている。つまり、すべての脂肪が健康障害につながるわけではない。現時点で過剰摂取が動脈硬化性疾患を増加させる脂質としては、コレステロール、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸が挙げられる。 そこで、学会としては、「コレステロール」、「飽和脂肪酸」、「トランス脂肪酸」の栄養表示をただちに行うよう要望した。同じ「栄養表示」においても、「コレステロール」、「飽和脂肪酸」は低減が目的であるのに対し、「トランス脂肪酸」はゼロにすることが目的である。「トランス脂肪酸」に対しては、表示のみではなく、さまざまな販売規制を設けることも併せて要望した。  なお、米国、カナダ、韓国、ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイなどでは、すでに「脂質」の表示に加え、少なくとも「飽和脂肪酸」、「トランス脂肪酸」の表示が実行されている。 本要望書には、日本高血圧学会、日本循環器学会、日本小児科学会、日本腎臓学会、日本糖尿病学会、日本肥満学会も同意している。

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