ジャーナル四天王(NEJM ・ Lancet ・ JAMA ・ BMJ )最新ニュース|page:337

内リンパ嚢腫瘍の聴覚障害発生メカニズム

内リンパ嚢腫瘍(ELSTs)はフォン・ヒッペル‐リンダウ病(網膜小脳血管腫症:VHL)と関連しており、不可逆性の感音難聴(SNHL)や前庭障害の原因になると言われている。しかしその基本的なメカニズムは依然として不明であり、治療の最適なタイミングもわかっていない。アメリカ国立衛生研究所(NIH)のJohn A. Butman氏らのグループは ELSTs と関連する聴覚前庭障害の発生メカニズムを明らかにするため、1990年5月から2006年12月にかけてNIHでVHL患者とELSTs患者を対象に、前向き連続評価を実施。判明した発生メカニズムについて、JAMA誌7月4日号に報告された。

毎日少量のチョコレート摂取で血圧が低下

ココアを含む食品の日常的な摂取が、心血管系の死亡率低下に寄与することは観察研究で明らかにされている。またココアの高用量摂取が、2週間ほどの短期介入でも血管内皮機能を高め、ココア・ポリフェノールの作用で血圧を低下させることが示唆されてもいる。しかし習慣的なココア摂取が血圧に及ぼす臨床的効果とそのメカニズムは不明だ。そこで、ドイツ・ケルン大学のDirk Taubert氏らは、ポリフェノールの豊富なチョコレートを低用量摂取した場合の、血圧変化について判定した。JAMA誌7月4日号に掲載。

「出来高制」の医療報酬制度は医師のモチベーション低下につながらない

近年、臨床現場における医療の質の向上を図るために、医師や看護師などの医療提供者に対し、「出来高制」の報酬制度を取り入れるなど、報酬面での動機付け(Financial Incentives)を利用することに関心が高まっている。しかし一方で、このような報酬制度の採用による悪影響はないのだろうか。マンチェスター大学のR. McDonald氏らは、初期医療を行う英国の一般診療所において、このような報酬制度の導入が、医師や看護師の提供する医療の質とともに、診療の自主性、内面的なモチベーションにどのような影響を及ぼすかを検討した結果、「医師の内面的なモチベーションに悪影響は見られなかった」と報告した。BMJ誌5月17日付オンライン版、本誌6月30日号より。

英国の電子カルテ普及など国民医療保健サービスIT化の課題

2002年以降、英国の国民医療保健サービス(NHS)は、電子カルテの普及を基盤とする大規模なIT化推進プログラムに取り組んでいる。NHSのIT化は現在どこまで進行しているのか。2003年以来、同IT化プログラムの推進状況とその成果について調査を続けているロンドン・Imperial 大学のJ. Hendy氏らは、急性期病院トラストの管理職がIT化プログラムの導入に関してどのような危惧を抱いているかについての最新調査結果を、BMJ誌5月17日付オンライン版(本誌では6月30日号)に報告した。その中で迅速なプログラム開発と、現場への情報提供の必要性を指摘している。

自家細胞注入法は女性の腹圧性尿失禁の標準的治療法となるか

尿失禁のうち、急迫性尿失禁は排尿筋の過活動によって起き、腹圧性尿失禁は尿道括約筋複合体の機能障害を原因とする。女性の尿失禁の8割近くが腹圧性あるいは混合性であることから、尿道括約筋複合体(尿道、横紋筋性括約筋)を治療ターゲットとしたアプローチは有望と考えられている。 前臨床試験では、自家筋芽細胞の経尿道的注入により横紋筋性括約筋の再生が促進され、線維芽細胞は尿道粘膜下層の再建に有効なことが示されている。オーストリア・インスブルック医科大学泌尿器科のStrasser氏らは、腹圧性尿失禁に対する経尿道的超音波ガイド下自家筋芽細胞/線維芽細胞注入法と従来の内視鏡的コラーゲン注入法の有効性と認容性を比較する無作為化試験を実施、その結果を6月30日付Lancet誌上で報告した。

HPVワクチンの子宮頸癌予防効果を確認、PATRICIA studyの中間解析から

子宮頸癌の主要な原因としてヒトパピローマウイルス(HPV)感染が注目を集め、その対策としてHPVワクチンの予防投与への期待が高まっている。子宮頸癌の発症率が高いアフリカ、南アジア、南米の途上国における普及が急がれる一方で、先進国では女児への予防投与によって若者の性道徳が乱れるのではないかとの懸念の声が上がるなど、一般市民レベルの議論もさかんだ。 発癌性を有するHPVは15のタイプが確認されており、そのうちHPV16およびHPV18が子宮頸癌の70%以上に関連することが国際的な調査で示されている。フィンランド・ヘルシンキ大学産婦人科のPaavonen氏らは、子宮頸癌の予防法としてのHPV16/18 L1ウイルス様粒子ワクチン投与の有用性を評価するための国際的な無作為化第III相試験(PATRICIA study)を実施しており、6月30日付Lancet誌上でその中間解析の結果を報告した。

30年間にわたる超早産児の脳性麻痺出現率の変化

超早産児においては極めて高率で脳性麻痺(CP)が見られることは報告されてきたが、公表されているCP有病率は、出生年代が異なるさまざまな臨床現場からの報告で、その点での比較に限界が指摘されていた。カナダ・アルバータ大学のCharlene M. T. Robertson氏らは、30年間にわたる超早産児のCP有病率の変化を、域内人口動態および在胎月齢に着目して評価を試みた。JAMA誌6月27日号に掲載。

肥満児への体重管理プログラム介入の成果

米国では小児肥満が「蔓延」している状況にあり、2型糖尿病を含む共存症の原因となっている。肥満児の大半は肥満したまま成人になるため、若年で重篤な代謝性疾患を来すことも懸念される。この重大な健康問題に対処するため効果的な小児科学的介入が欠かせなくなっている。 エール大学医学部臨床研究センターのMary Savoye氏らは、肥満児に対する体重管理プログラムの介入を集中的に行った結果、体重、BMI、体脂肪、HOMA-IRなどで改善効果が得られたとする発表を行った。JAMA誌6月27日号からの報告。

どうすれば、貧困層も地域健康保険のベネフィットを平等に享受できるか

途上国では、貧困層は病気になってもケアを受けようとしない傾向がある。医療費負担によりさらなる貧困に陥るからだ。一方、地域社会的な健康保険は、途上国における医療への近接性の改善や財政保護の手段として語られることが多い。しかし、現在の一般的な地域保健のスキームでは、会員が少ない、最貧層が除外されている、ベネフィットの活用における不平等などにより、資源の平等な再配分には限界がある。 では、最貧層が地域健康保険のベネフィットを獲得できるようにするためにはどうすればよいか。ロンドン衛生学熱帯医学校・医療経済学/財政計画科のM. Kent Ranson氏らは、スキームを改善する新たな介入戦略について検討した。BMJ誌5月25日付オンライン版、6月23日付本誌掲載の報告から。

意思決定支援で、第2子を経膣分娩で出産する女性増加

帝王切開は一般的な分娩法として施行機会が増加している。英国では、1980年の9%から2001年には21%に増え、最近では23%と報告されている。米国やオーストラリアも同様の傾向にある。しかし、帝王切開の頻度の上昇に従って、母子ともに分娩時の合併症が増加しているとの報告があり、医療コスト面での問題もあることから、第2子を経膣分娩で出産する「帝王切開分娩後の経膣分娩(VBAC)」の見直しが進められている。 第1子を帝王切開で出産し、第2子を妊娠中の女性は、計画的経膣分娩と選択的反復帝王切開のいずれかの選択を迫られるが、このような意思決定に関して葛藤状態にある妊婦に対する最適な意思決定アプローチは明確でない。ブリストル大学地域医療学科のAlan A. Montgomery氏らは、第2子を妊娠中の女性において、コンピュータを用いた2つの意思決定支援法と従来のケアが、意思決定に関する葛藤と分娩法の選択に及ぼす効果を評価する無作為化試験を実施した。BMJ誌5月31日付オンライン版、6月23日付本誌掲載の報告から。

進行パーキンソン病の遺伝子治療、世界的に注目を集める試験で一定の成果が

掲載誌の発行前からその成果が伝えられ、発表後は日本でも一般紙などがさかんに報じている注目の研究。 パーキンソン病では黒質のドパミン作動性ニューロンの消失によって基底核回路に変化が起き、視床下核への抑制性のγ-アミノ酪酸(GABA)作動性インプットの低下などをきたす。そのため、運動開始困難、筋硬直、振戦を特徴とする運動障害が起きる。ドパミン作動性神経伝達薬の有効性は確立されているが、進行パーキンソン病ではジスキネジアやmotor fluctuationなど許容しえない薬剤関連合併症が多くみられる。 アメリカNYにあるコーネル大学Weill 医学部脳神経外科のMichael G. Kaplitt氏らは、運動回路内に正常な脳活性を再確立すれば、パーキンソン病の運動障害は回復するとの仮説のもと、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いてGABAの産生を促進するグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)遺伝子を視床下核ニューロンへ直接導入する遺伝子治療を試みた。Lancet誌6月23日号の報告。

小児期発症の多発性硬化症は緩徐に進行

小児期発症の多発性硬化症(MS)は、成人期発症型よりもゆるやかに進行することが、Christel Renoux氏らKIDMUSの研究グループによって報告された。KIDMUSは、ヨーロッパの多発性硬化症データベース「EDMUS」(European Database for Multiple Sclerosis)の研究プロジェクトの1つ。一般に20~40歳の若年成人期に発症するとされているMSの、16歳以下で発症した患者(0.4~10.5%)の経過や予後を明らかにすることを目的とする。今回研究グループはEDMUSのデータベースを活用し、成人期発症型と比較しての解析を行った。詳細はNEJM誌6月21日号に掲載。

くすぶり型多発性骨髄腫について3つのリスク層化モデルが報告

これまで、進行や転帰の因子が明らかにされていなかった「くすぶり型多発性骨髄腫」について、新たな知見が報告された。同疾患は形質細胞の増殖異常疾患で自覚症状に乏しく、症候性多発性骨髄腫やアミロイドーシスへの進行リスクが高いとされてきたが、その進行リスクの度合いと診断基準の指標である骨髄形質細胞の割合および血清Mタンパク量との関連が見出され、予後の異なる3つのリスク層化モデルが作成できたことを、Robert A. Kyle氏らメイヨークリニックの研究グループが報告した。詳細はNEJM誌6月21日号に掲載された。

メディケア・パートDの処方薬リストから広適用薬を探し出せ

65歳以上の高齢者を対象とした米国の医療保険メディケアは2006年1月から、それまで保険給付外だった外来患者の処方薬を給付対象とした。これはメディケア・パートDと呼ばれ、メディケア発足以来の大改革と言われているが、薬代を給付する民間保険会社と契約している患者ごとに処方薬リストが異なるため、少なからず混乱を招いている。 ハワイ大学医学部のチェン・ウエン・ツェン氏らは、カリフォルニア州とハワイ州をサンプルに、各保険会社の処方薬リストがどのような薬をカバーしているのかを調査した。その結果、各リスト間には多くの相違があり、開業医が処方薬を把握するのは容易でないことが明らかになった。JAMA誌2007年6月20日号に掲載。

乳癌のリスク評価は十分に大きな家系構造の分析と遺伝子検査で

シティ・オブ・ホープのJeffrey N. Weitzel氏らは、家族性ではないと診断された早発型乳癌患者の家系構造とBRCA遺伝子異常の有無について調査を行った結果、これまで用いられてきた遺伝性乳癌のリスク評価モデル(Couch、Myriad、BRCAPRO)では、女性親族の少ない乳癌患者における再発や卵巣癌のリスクを正確に予測することはできないとし、50歳以下で散発性と思われた乳癌女性患者に対して遺伝子検査をすすめるべきだと報告した。JAMA誌6月20日号に掲載。

医療状況の異なる国の比較から見えるプライマリ・ケアの実像とは

プライマリ・ケアが公正で過不足のない効果的な医療システムの構築に最大限に貢献するにはどうすればよいか……。各国の事情がいかに異なろうと、プライマリ・ケアの役割に関する根本的な命題は同じだ。オーストラリア、ニュージーランド、アメリカの3ヵ国は、プライマリ・ケア医の供給、健康保険によるプライマリ・ケアへの近接性、専門医療へのゲートキーパーとしてのプライマリ・ケア医の役割が大きく異なる。University of California San FranciscoのAndrew B. Bindman氏は、これら3ヵ国のプライマリ・ケアにおける患者構成、診療の範囲、診療時間などを比較検討することで、プライマリ・ケアの将来像を探った。5月15日付BMJオンライン版、6月16日付本誌で掲載された報告。