英国の電子カルテ普及など国民医療保健サービスIT化の課題

提供元:ケアネット

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公開日:2007/07/13

 

2002年以降、英国の国民医療保健サービス(NHS)は、電子カルテの普及を基盤とする大規模なIT化推進プログラムに取り組んでいる。NHSのIT化は現在どこまで進行しているのか。2003年以来、同IT化プログラムの推進状況とその成果について調査を続けているロンドン・Imperial 大学のJ. Hendy氏らは、急性期病院トラストの管理職がIT化プログラムの導入に関してどのような危惧を抱いているかについての最新調査結果を、BMJ誌5月17日付オンライン版(本誌では6月30日号)に報告した。その中で迅速なプログラム開発と、現場への情報提供の必要性を指摘している。

現場は患者の安全性を危惧


同研究では、規模や立地条件などタイプの異なる4件の急性期病院トラストを選択し、最高責任者、IT部門、財務部門のマネージャー、医学部長や看護部長など、各トラストの管理職が、 NHSのIT化プログラム導入についてどのような危惧を抱いているかを、面談調査した。2004年9~12月に1回目の調査を実施したのち、約18ヵ月を経た2006年1~4月に、2回目の調査を実施している。

その結果、2004年当時に比べ、2006年の調査では、同IT化プログラムの目的に賛同するトラスト職員は増えていた。しかし一方で、多くの現場責任者が、以前の調査では聞かれなかった新たな危惧を抱いていることもわかった。

2004年当時にプログラム導入の歯止めとなっていたのは、財政的理由や、同プログラムに即した患者管理システムの整備遅延、IT化プログラムの実施団体である「Connecting for Health」と現場責任者とのコミュニケーション不足などだったが、 2006年の調査では、これらの問題に加え、プログラムに対する不安感から導入を危惧する現場責任者の多いことが明らかになった。彼らは、新しいITシステムへの切り替えが依然遅れていること、NHS全体でのシステム統一ができていないことなどから、患者の安全性を危険に曝すリスクが高いと感じており、また限られた予算内で他の懸案に優先してIT化に乗り出すための援助を必要としていた。

具体的な実施スケジュールの設定と、暫定的ITシステムの購入が必要


以上の結果を踏まえて、Hendy氏らは「今回面談した職員はITの近代化に好意的であったが、今後、システム整備が進まなければ、急速に支持されなくなるだろう」と結論づけている。現場の責任者は、明確な実施スケジュールや長期的目標、経済的利点についての情報を求めているとし、「プログラムの提供者であるConnecting for Health は、個々のトラストに対して具体的な実施スケジュールを設定し、システム開発の遅延対策として暫定的なITシステム購入の必要性があることを進言していく責任がある」と提言している。このようなNHSの経験は、今後、医療システムの大規模なIT化を目指す他国にとっても参考になるだろうとの見解だ。