夜尿症推計78万人のうち受診は4万人

提供元:ケアネット

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公開日:2016/08/02

 

 12年ぶりの改訂となる「夜尿症診療ガイドライン2016」(日本夜尿症学会編)の発刊に伴い、7月20日に都内でメディアセミナーが開催された(フェリング・ファーマ株式会社、協和発酵キリン株式会社などの共催)。セミナーでは、ガイドライン改訂の意義、内容、治療の実際について、3名の医師がレクチャーを行った。

多くの医療者に使ってほしいガイドライン
 はじめに金子 一成氏(関西医科大学小児科学教室 主任教授)が、「夜尿症ガイドライン改訂の意義」と題して、夜尿症診療の現状、新しいガイドラインの概要と改訂の意義、今後の展望について説明した。
 「夜尿症とは、5歳以上の小児の就寝中の間欠的尿失禁であり(昼間の尿失禁は問わない)、1ヵ月に1回以上の夜尿が3ヵ月以上続くもの」とされる。両親共に夜尿症の既往があると70%の確率で子供にも発生するとされ、小学生では男子に多く、中学生では女子に多いとされる。自然に治る確率は10人に1人と言われるが、治療介入を行った場合は半数が1年以内に治るとされる。
 病因はいまだ解明されておらず、主に睡眠中の覚醒障害のほか、尿量の日内変動調節機構の未発達、機能的膀胱容量過少など、さまざまな説明が試みられている。
 生命に関わる疾患ではなく、自然に治るものでもあることから、現在でも積極的な治療介入は行われていない。
 治療法としては、国際小児禁制学会(ICCS)が提唱する推奨治療である、患児への生活指導、デスモプレシン療法などの薬物治療、夜尿アラーム療法などが行われている。
 患児の数は、幼稚園年長児の約15%、小学校3年生で約8%、小学校5~6年生で約5%とされ、わが国の患者数は約78万人と推計されている。夜尿症に関する情報サイト「夜尿症ナビ」が行った保護者(n=563)へのインターネット調査によれば、97%の保護者が夜尿症を治したいと思っているにもかかわらず、過去も含め受診させている保護者はわずか21.5%だった。
 夜尿症を放置する弊害として、患児の自尊心低下から生じる内向的性格の形成、種々の学校行事への不参加からくるいじめや不登校、母子関係の悪化、虐待、発達障害の増悪などが指摘されている。そのため、患児の良好な精神発達のためにも、早期の治療介入が期待されるという。
 夜尿症の診療を行う医師が不足する中、小児科医のみならず、家庭医として患児を診療している医師にも診療できるようにと、今回ガイドラインが改訂された。新しいガイドラインでは、最新のエビデンスを理解しやすく解説するとともに、具体的な対応法も記載されているため、家庭医の夜尿症診療に役立つと思われる。
 「夜尿症は、適切な治療で治る病気であり、健全な患児の成長を促すためにも、積極的に治療に介入してほしい」と期待を述べ、説明を終えた。

有効かつ安全な初期治療を提示するガイドライン
 続いて、大友 義之氏(順天堂大学医学部附属練馬病院小児科 先任准教授)が、「改訂された『夜尿症診療ガイドライン』」について、今回のガイドライン改訂のポイントを解説した。
 前回のガイドラインでは、病型の複雑さにより非専門医の診療があまり進まなかった。また、小児科医と泌尿器科医との間で治療指針の乖離や、諸外国のガイドラインと比較して治療での細かい違い(とくに三環系抗うつ薬の使用)といった問題もあり、ガイドライン自体の普及が進まない事態となっていた。そこで、今回は「Minds診療ガイドライン作成の手引き2014」に準拠する形で改訂が行われた。
 新しいガイドラインでは、非専門医向けに診療のアルゴリズムを整理し、どこまで非専門医が診療をするのかを明示した。また、クルニカルクエスチョン(CQ)を掲示することで、臨床で遭遇する課題に速やかに対応できるようにした。たとえば、抗利尿ホルモンのデスモプレシン療法は、単独またはアラーム療法(下着にセンサーを留置し、夜尿発生をアラームで警告し、排尿を促す条件付け療法)との併用で記載されているが、推奨グレードは「1A」である。三環系抗うつ薬は、推奨グレード「2A」となり、デスモプレシン療法とアラーム療法でも効果が見られない場合に提案するとしている。
 「今回の改訂では、『有効で、かつ、安全な初期治療』を非専門医が行えるように提示した。今後、多くの家庭医に、夜尿症治療に取り組んでいただきたい」と説明を終えた。

患児と保護者のケアも治療では大事
 次に、中井 秀郎氏(自治医科大学小児泌尿器科 教授)が、「夜尿症治療の実際と患者のメリット」について解説を行った。
 夜尿症患児のうち、医療機関への治療を受けているのは全体の20分の1にとどまり、そのうえせっかく医療機関を受診しても「経過観察」で終わっている場合が多いという。
 夜尿症は、子供の疾患の中でもアレルギー疾患に次いで多い疾患であり、保護者もこのことを認識するとともに、子供の病気に対する「焦らない」「叱らない」などの接し方、および患児から治すための気力を引き出すことが重要であると説明する。
 新しいガイドラインの診療アルゴリズムでは、3つの夜尿症の治療法が示されている。
 1)生活習慣の見直し(規則正しい生活、水分・塩分摂取法、就寝前のトイレなど)
 2)アラーム療法(夜尿警告機器を使用した条件付け)
 3)薬物療法(デスモプレシン、抗コリン薬、三環系抗うつ薬)
 いずれも夜尿症の非専門医でも治療介入できるものであり、早期の治療介入により早く治せることが期待されている。
 最後に夜尿症治療のポイントとして、「前述の治療法だけでなく、治療の際には、患児と保護者の心理的負担もケアする必要があり、患児のやる気を引き出し、“治したい”という気持ちを維持していくこと、患児・家族と話し合い、患児本人にできるだけカスタマイズした方法で治療を続けていくこと、専門医以外の多くの医師(主に小児科医)が診療に携わることで、早期治療につながるように希望する」と語り、レクチャーを終えた。

(ケアネット 稲川 進)

参考文献はこちら

Neveus T, et al. J urol.2010;183:441-447.

関連リンク

日本夜尿症学会
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