医療一般

ガイドライン順守率が精神疾患の長期アウトカムに及ぼす影響〜統合失調症とうつ病におけるEGUIDEプロジェクト

 精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)は、精神科医に対してガイドラインの教育の講習を行い、統合失調症およびうつ病のガイドライン順守治療を促進することを目的として、日本で開始されたプロジェクトである。参加医師への短期的な効果は、すでに報告されていたが、長期的および施設全体への効果は依然として不明であった。国立精神・神経医療研究センターの長谷川 尚美氏らは、ガイドライン順守による治療が、施設間で時間の経過とともに改善するかどうかを評価した。その結果、潜在的な拡散効果またはスピルオーバー効果が示唆された。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年12月号の報告。

夕食時間が蛋白尿に影響、時間帯や患者特性は?

 蛋白尿や微量アルブミン尿は、心血管疾患および全死亡リスク上昇との関連が報告されている。また、いくつかの研究で、夕食時間の遅さと蛋白尿との関連が報告されているが、患者特性などは明らかにされていない。そこで今回、りんくう総合医療センター腎臓内科の村津 淳氏らは、夕食時間の遅さが蛋白尿を来すことを明らかにし、とくに低BMIの男性で強く関連することを示唆した。本研究結果はFront Endocrinol誌2025年11月10日号に掲載された。  研究者らは、夕食時間の遅さと蛋白尿の出現との関連を評価するため、りんくう総合医療センターの健康診断データを用い、推定糸球体濾過量(eGFR)60mL/分/1.73m2以上で腎疾患の既往のない2,127人(男性1,028人、女性1,099人)を対象に横断研究を実施。週3日以上、就寝前2時間以内に夕食を取った参加者を夕食時間が遅い群と定義した。夕食時間による蛋白尿の影響は、臨床的関連因子(年齢、性別、喫煙歴、飲酒歴、既往歴など)を調整したロジスティック回帰モデルを用いて評価した。また、これまでに報告された横断研究では、蛋白尿の有病率はBMI(kg/m2)とJ字型関係を示していることから、今回、男女別でBMIと腹囲を各3群に区分。BMIは、男性では22.3未満、22.3~24.9、24.9以上に分け、女性では20.3未満、20.3~23.0、23.0以上と分けた。ウエスト周囲径(cm)は、男性は83.0未満、83.0~90.1、90.1以上、女性は75.0未満、75.0~83.5、83.5以上として評価した。

中年期の高感度トロポニンI高値が認知症と関連/Eur Heart J

 中年期の高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)高値は、その後の認知症発症リスクの上昇、認知機能低下の加速、脳容積の減少と関連していたことが示された。本結果は、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのYuntao Chen氏らが実施した前向きコホート研究「Whitehall II研究」で示され、European Heart Journal誌オンライン版2025年11月6日号で報告された。  研究グループは、Whitehall II研究の参加者のうち、ベースライン時(1997~99年)に45~69歳で、認知症および心血管疾患の既往がなく、hs-cTnI値が得られた5,985例を対象として解析を行った。hs-cTnI値に基づき、参加者を4群(2.5ng/L未満[定量下限未満:参照群]、2.5~3.4ng/L、3.5~5.2ng/L、5.2ng/L超)に分類した。主要評価項目は認知症の発症とした。認知機能の推移および脳MRI画像指標(2012~16年のサブ解析:641例)についても評価した。また、認知症発症例と非発症例(年齢、性別、教育歴でマッチング)を1:4の割合でマッチングさせたコホート内症例対照研究により、認知症診断前のhs-cTnI値の長期的推移を検討した。

夜間の人工光が心臓の健康に悪影響を与える

 人工的な光による夜間の過剰な照明の悪影響、いわゆる“光害”が、心臓病のリスクを高めることを示すデータが報告された。米マサチューセッツ総合病院のShady Abohashem氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。  この研究の解析対象は、2005~2008年に同院でPET検査またはCT検査を受けた466人(年齢中央値55歳、男性43%)。光害のレベルは、人工衛星のデータに基づき各地の夜間の人工光の強さを割り出したデータベースと、研究参加者の居住地住所を照らし合わせて把握した。

トランスジェンダー女性のホルモン治療は心血管リスクを高めない

 トランスジェンダー女性が、男性から女性への性別移行のために女性ホルモンの一種であるエストラジオールを使用しても、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まることはないことが、新たな研究で示された。それどころか、トランスジェンダー女性に対するホルモン治療は、生まれつきの性別と性自認が一致するシスジェンダー男性と比べて、心臓や血管に対する保護的な効果がある可能性が示されたという。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のLieve Mees van Zijverden氏らによるこの研究の詳細は、「European Heart Journal」に11月4日掲載された。

気象関連疼痛に期待される食事性フラボノイドの有用性

 悪天候や気象変動は健康に悪影響を及ぼし、気象関連疼痛と呼ばれる症状を引き起こす可能性がある。症状の緩和には、鎮痛薬などによる薬物療法が一般的に用いられているが、副作用を引き起こす可能性がある。そのため、非薬物療法や食事療法への関心が高まっている。大塚製薬の池田 泰隆氏らは、気象関連疼痛に対する食事性フラボノイドであるケンフェロールの有効性を評価するため、オープンラベルパイロット研究を実施した。International Journal of Biometeorology誌2025年10月号の報告。

血圧コントロールに地域差、降圧目標達成が高い/低い都道府県は?/東北医科薬科大ほか

 日本における降圧治療開始後の血圧コントロール状況には、地域間で格差が存在し、降圧目標達成割合は医師の偏在や脳血管疾患死亡と関連していることが、岩部 悠太郎氏(東北医科薬科大学)らによる大規模なリアルワールドデータ解析で示された。『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、年齢にかかわらず降圧目標を「130/80mmHg未満(診察室血圧)」としているが、本研究では治療開始後にこの目標を達成できた患者は26.7%にとどまった。本研究結果は、Hypertension Research誌オンライン版2025年11月18日号で報告された。

注射で脳まで届く微小チップが脳障害治療の新たな希望に

 手術で頭蓋骨を開くことなく、腕に注射するだけで埋め込むことができる脳インプラントを想像してみてほしい。血流に乗って移動し、標的とする脳の特定領域に自ら到達してそのまま埋め込まれるワイヤレス電子チップの開発に取り組んでいる米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、マウスを使った実験で、厚さ0.2μm、直径5〜20μmというサブセルラーサイズのチップが、人の手を介さずに脳の特定領域を認識し、そこに移動できることを確認したとする研究成果を報告した。詳細は、「Nature Biotechnology」に11月5日掲載された。

断続的断食は成人の認知機能に影響しない

 食事を摂取する時間と断食する時間を定期的に繰り返す断続的断食(インターミッテントファスティング)を行っても、成人の思考力、記憶力、問題解決能力などの知的機能が鈍ることはないことが、新たな研究で明らかになった。オークランド大学(ニュージーランド)心理学准教授のDavid Moreau氏とザルツブルク大学(オーストリア)生理学部のChristoph Bamberg氏によるこの研究結果は、「Psychological Bulletin」に11月3日掲載された。  Moreau氏は、「本研究により、全体的には、短期間の断食が知的機能を低下させるという一貫したエビデンスは存在しないことが明らかになった。断食を行った人の認知機能の成績は、直前に食事をした人と驚くほど似通っていた。これは、食物を摂取していない状態でも認知機能は安定していることを示唆している」と米国心理学会(APA)のニュースリリースで述べている。

ココアやベリー類は座位行動による血管への悪影響を抑える?

 熱いココアや紅茶、リンゴ、ボウルいっぱいのベリー類は、ソファでゴロゴロしている生活やデスクワークをする人の心臓の健康を守るのに役立つかもしれない。これらの食品や飲み物にはフラバノールと呼ばれる物質が豊富に含まれており、長時間の座位行動に起因する上肢・下肢の血管の問題を予防する可能性のあることが示された。英バーミンガム大学栄養科学分野のCatarina Rendeiro氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Physiology」に10月29日掲載された。Rendeiro氏は、「座っている間にフラバノールを多く含む食べ物や飲み物を摂取することは、活動不足が血管系に及ぼす影響を軽減する良い方法である」と述べている。

ピロリ菌が重いつわりを長引かせる可能性、妊婦を対象とした研究から示唆

 妊娠中の「つわり」は多くの人が経験する症状であるが、中には吐き気や嘔吐が重く、入院が必要になるケースもある。こうした重いつわり(悪阻)で入院した妊婦164人を解析したところ、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)に対する抗体(IgG)が陽性である人は入院が長引く傾向があることが分かった。妊娠前や妊娠初期にピロリ菌のチェックを行うことで、対応を早められる可能性があるという。研究は、日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科の倉品隆平氏、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は10月6日付けで「Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載された。

軽微な難聴で認知症リスク上昇、APOE ε4保有者で顕著

 加齢に伴う難聴は、認知症の修正可能なリスク因子の1つとされるが、脳構造の変化や遺伝的背景との相互作用については不明な点が多かった。米国・テキサス大学サンアントニオ校のFrancis B. Kolo氏らの研究によると、中年期以降の軽微ないし軽度の難聴であっても、脳容積の減少、白質病変の進行、認知症発症リスクの上昇と有意に関連していることが明らかになった。とくにアルツハイマー病のリスク遺伝子であるAPOE ε4アレル保有者において、正常聴力者よりも、軽微以上の難聴者のほうが、認知症発症リスクが約3倍も高いことが示された。JAMA Network Open誌2025年11月5日号に掲載。

日本人不眠症患者におけるレンボレキサント切り替え後のベネフィット評価

 デュアルオレキシン受容体拮抗薬であるレンボレキサントは、成人の不眠症治療薬として日本で承認されている。久留米大学の小曽根 基裕氏らは、多施設共同SOMNUS試験のデータを用いて、日本人不眠症患者における前治療からレンボレキサントへ切り替え後の睡眠日誌に基づく睡眠パラメーター、自己申告による睡眠の質、不眠症の重症度、健康関連の生活の質(QOL)について報告を行った。Sleep Medicine X誌2025年9月25日号の報告。  SOMNUS試験は、プロスペクティブ多施設共同非盲検試験である。本試験のデータより抽出した、Z薬(単剤療法コホート:25例)、スボレキサント(単剤療法コホート:25例、併用コホート:21例)、ラメルテオン(併用コホート:19例)からレンボレキサントに切り替えた4つのコホートにまたがる90例の患者を対象に、最大14週間までのデータを解析した。

日本の外科医における筋骨格系障害の有病率

 わが国では外科医の業務に関連した筋骨格系障害(MSD)に対する認識は限定的である。今回、自治医科大学の笹沼 英紀氏らが日本の一般外科医におけるMSDの有病率、特徴、影響を調査した。その結果、日本の外科医におけるMSD有病率はきわめて高く、身体的・精神的健康に影響を及ぼしていることが示唆された。Surgical Today誌オンライン版2025年11月14日号に掲載。  本研究では、日本の大学病院ネットワークに所属する一般外科医136人を対象に電子アンケートを実施した。Nordic Musculoskeletal Questionnaireの修正版を用いて、人口統計学的特性、作業要因、MSD症状、心理的苦痛、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用状況とそれらの影響を評価した。

75歳以上における抗凝固薬と出血性脳卒中の関連~日本の後ろ向きコホート

 高齢者における抗凝固薬使用と出血性脳卒中発症の関連を集団ベースで検討した研究は少ない。今回、東京都健康長寿医療センター研究所の光武 誠吾氏らが、傾向スコアマッチング後ろ向きコホート研究で検討した結果、抗凝固薬を処方された患者で出血性脳卒中による入院発生率が高く、ワルファリン処方患者のほうが直接経口抗凝固薬(DOAC)処方患者より発生率が高いことが示唆された。Aging Clinical and Experimental Research誌2025年11月13日号に掲載。  本研究は、北海道のレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究で、2016年4月~2017年3月(ベースライン期間)に治療された75歳以上の高齢者を対象とした。曝露変数はベースライン期間中の抗凝固薬処方、アウトカム変数は2017年4月~2020年3月の出血性脳卒中による入院であった。共変量(年齢、性別、自己負担率、併存疾患、年次健康診断、要介護認定)を調整した1対1マッチングにより、抗凝固薬処方群と非処方群の入院発生率を比較した。

AIがわずかな精子を検出、不妊カップルが妊娠成功

 19年にわたり不妊治療を受けていたカップルの男性の精子から、高度な人工知能(AI)を用いたシステムにより2匹の運動能力のある精子を特定。これを卵子に注入したところ、2つの胚が発育し、それを母親に移植した結果、妊娠が成功したとする研究結果が報告された。研究グループは、「この新しい技術は、男性が無精子症である他の不妊カップルにも役立つ可能性がある」と述べている。米コロンビア大学不妊治療センター所長のZev Williams氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」11月8日号に掲載された。

認知症になりやすい遺伝的背景のある糖尿病患者も生活習慣次第でリスクが著明に低下

 2型糖尿病患者が心臓や血管に良い生活習慣を続けた場合、認知機能の低下を防ぐことができる可能性が報告された。特に、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、この効果がより大きいという。米テュレーン大学のYilin Yoshida氏らの研究によるもので、詳細は米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。  AHA発行のリリースの中でYoshida氏は、「2型糖尿病患者は認知機能低下のリスクが高く、これには複数の因子が関連している。例えば、肥満、高血圧、インスリン抵抗性などが認知機能低下に関連していると考えられる。そして、それらの因子をコントロールすることは、心臓や血管の健康状態を維持・改善することにもつながる」と述べている。

レカネマブ承認後に明らかとなった日本におけるアルツハイマー病診療の課題

 2023年、日本で早期アルツハイマー病の治療薬として抗Aβ抗体薬レカネマブが承認された。本剤は、承認後1年間で約6,000例に処方されている。東京大学の佐藤 謙一郎氏らは、レカネマブ導入後の実際の診療とその課題、そして潜在的な解決策を明らかにするため、認知症専門医を対象にアンケート調査を実施し、その結果を公表した。Alzheimer's & Dementia誌2025年10月号の報告。  レカネマブを処方可能な認知症専門医を対象に、匿名のオンライン調査を実施した。回答した認知症専門医311人が1年間でレカネマブによる治療を行った患者数は3,259例であった。

再発・難治性DLBCLに対するチサゲンレクルユーセルの5年追跡結果(JULIET)/JCO

 再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)へのチサゲンレクルユーセルを評価した単群非盲検多施設共同国際第II相JULIET試験における5年の解析結果について、米国・Oregon Health and Science University Knight Cancer InstituteのRichard T. Maziarz氏らが報告した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年11月18日号に掲載。  本試験の対象は、2ライン以上の治療後に病勢進行した再発・難治性DLBCL(原発性縦隔DLBCLを除く)の成人患者115例で、主要評価項目は奏効率(ORR)、副次評価項目は奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性などであった。

「ゆっくり食べ、よく噛む」習慣と関連する食事・口腔要因を解明

 日本では「食育基本法」の目標の1つとして「ゆっくり食べてよく噛む人の割合を増やす」ことが掲げられている。日本で行われたウェブ調査で、「ゆっくり食べ、よく噛む」食習慣は「味わいながら食べる」ことや「口いっぱいに食べない」ことと強く関連していることが明らかになった。国立保健医療科学院の石川 みどり氏らによるこの研究結果は、Scientific Reports誌2025年11月19日号に掲載された。  研究チームは、オンライン調査会社の全国モニターから40~70代の男女を対象に、性別・年齢層別に調査票を配布し、食生活・健康行動(12項目)、歯科口腔状態(14項目)、社会経済的要因(6項目)の質問への回答を自己評価形式で収集した。最終的に成人1,644例(男女各822例)が解析対象となった。