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サブプライムローンとEBMの類似性(解説:後藤 信哉 氏)-537

 日本語と異なり、英語は決定論的、論理的言語である。日本語で考えるわれわれ日本人は、英語で考える米英人の発想法を完全には理解できない。サブプライムローンを販売した米国の金融会社は、「将来経済は成長する」という前提が正しい限り「サブプライムローンは破綻しない」と人々を説得し、その説得には論理性があったので、多くの人は自分の今の収入以上のローンを抱えた。確かに、100年の視点でみれば「経済は成長する」のかもしれないが、数年の規模では成長したり衰退したりすることを、われわれは感覚的に実感している。日本語の論理性は英語ほど精緻ではないので、日本人であれば自分の収入に見合わない借金は「なんか怖い」と感じる人が多いだろう。日本語は論理性では英語に劣るが、その分、日本語で考えるわれわれは米英人より直感力が優れている。 EBMでは、「大規模ランダム化比較試験にて検証した仮説は科学的事実である」との前提で、ランダム化比較試験に基づいた薬剤使用を推奨する。世界の患者からランダムにサンプルを抽出し、無作為化二重盲検試験にて科学的仮説を検証すれば、その試験結果が正しいと米英人は論理的に理解するであろう。 非弁膜症性心房細動を対象として、ワルファリンとダビガトランを比較したRE-LY試験はオープンラベルではあったが、世界の患者からランダムにサンプルを抽出しているのであれば、試験内で観察された脳卒中イベントと出血イベントは世界の実態を反映していると論理的には推論される。しかしながら、やわらかい日本語で育ったわれわれ日本人の脳では、ランダム化比較試験の世界と真の世界の差異を直感する。各種の新規経口抗凝固薬の試験の結果にかかわらず、われわれは論理のみにて発想を大転換することはない。 この論文では、ランダム化比較試験におけるイベントを、より一般的な米国の保険診療データと比較した。ワルファリン、ダビガトラン服用下の出血、血栓イベントは試験の時に似ているともいえるし、似ていないようにもみえる。実臨床データからみると、ランダム化比較試験では4%/年分も出血イベントリスクを過小評価しているというのが本論文の主張であるが、この論文のデータベースもたかだか2万例程度である。経験を蓄積してやわらかに日本語で考える臨床医がいる限り、日本では論理に過剰依存したサブプライムローンの悲劇は医療では起こらない。プライドを持ち、個別に考える、一見正しそうな論理に負けずに個別の患者を守る臨床医を維持し続けることが、日本ではきわめて重要である。

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PCI後DAPTにCHADS2-VASc/HAS-BLEDは成立するか?~抗血小板剤も個別化の時代に~(解説:中野 明彦 氏)-519

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の、適正DAPT期間の議論が続いている。多くの、とくに新しいDESが(おそらくメーカーの思惑も手伝って)、short DAPTに舵を切るべくその安全性検証に躍起になっているが、そこに水を差したと騒がれているのが「DAPT試験」1)である。しかし、考えてみればナンセンスな話で、前者はステント留置直後からの検討、後者は1年間MACEや出血性合併症・TLRを免れた症例のみをエントリーしている。例えは悪いが、1次災害と2次災害に対して同じ対処法で優劣を競うようなものである。 PCI後のDAPT継続期間を考える際には、2つの視点が必要ではないかと思う。1つは対象病変局所の安全性確保(ステント血栓症の予防)、もう1つは冠動脈疾患を含めた動脈硬化性疾患(polyvascular disease)の2次予防という視点である。DESが進化し、ステント血栓症のリスクが低減されている現状においては、長期DAPT継続の議論には後者の視点が重視されるべきである。実際「DAPT試験」では、ステント血栓症以外の心筋梗塞や虚血性脳卒中が実薬群で30~40%減少していた。【本論文について】 「DAPT試験」の2次解析である本論文は、PCI後のDAPT継続による虚血・出血リスクを予測するモデル“DAPT score”を提唱した。さながらPCI版CHADS2-VASc/HAS-BLEDスコアである。PCI後12~30ヵ月間の虚血イベント(ステント血栓症と心筋梗塞)、出血性イベントの有意なリスク因子を抽出しポイント化したが、相反する事象を同一の方程式で解こうとしたため、一般的には高齢者ほど発症頻度が高いと予想される虚血イベントへのポイントが、“マイナス”に振り分けられるなど奇妙な点もある。 また、AFに関するスコアと異なり、特定のDES(今は亡きPaclitaxel-eluting stent)やステント径、SVGへのPCIなどの局所因子が含まれているのが特徴的である。有意差のあるリスク因子を並べ、中央値である2点をカットオフに設定した「後出しジャンケン」なだけに、算出されたポイントで線引きできるのは当然の結果ともいえるが、問題はその精度である。 虚血イベント・出血性イベントに関するC-統計量・NNTは各々0.70・34、0.68・64だった。これは、CHADS2-VASc/HAS-BLEDスコアの0.62/0.61、NOACにおけるCHADS2-VAScスコア≧2のNNT;78~87を上回る2)。しかし、繰り返しになるが、これはあくまで自作自演のスコアである。論文では、同時にPROTECT試験を用いてその信憑性を検証しているが、より低リスク症例を対象とした同試験に適応すると、虚血イベントのC-統計量は0.64だったがNNTは125、出血性イベントでは有意差がつかず、汎用性にはいささか疑問が残る。 さらに本スコアは、カットオフ値を示したに過ぎず、CHADS2-VASc/HAS-BLEDスコアのようにポイントによるリスクの増減を示していない、虚血性イベントと出血性イベントを同じ比重で扱っている、予後に結び付くスコアではないなどの点は、臨床現場で適用する際に留意すべきであろう。【本論文の位置付け】 折しも、ここにきて第1世代以降のDES留置後のDAPT期間に関するシステマティックレビュー3)が発表され、DAPT期間にフォーカスしたACC/AHAのガイドライン改訂4)が行われた。システマティックレビューは、12ヵ月DAPT群と3~6ヵ月DAPT群との間に死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・大出血での差がないこと、prolonged DAPT(18~48ヵ月)はbasic DAPT(6~12ヵ月)に比して心筋梗塞・ステント血栓症は低減し大出血は増加させるがその差は軽微で、全死亡には影響しないことを示した。また、改訂ガイドラインでは安定型虚血症例に対するDES留置後の推奨DAPT期間を12ヵ月から6ヵ月に短縮するとともに、本“DAPT score”を取り上げ、虚血/出血リスク層別化の重要性も示唆している。 われわれは、一例一例のPCIに際し、患者背景や既往歴・リスク因子・心機能を検討し、病変局所もIVUSやOCTで細かく観察して、そのstrategyを決定している。一方、術後のDAPT期間は、EBMやガイドラインがACSか安定虚血か? /DESかBMSか? だけでバッサリと容易(安易?)に決めてくれる。これってどうなんだろうか? 他の領域にもそうした動きがあるが、PCI後DAPT期間もガイドライン一辺倒ではなく個別化の時代に入るべき、と思う。short DAPTは、出血リスク回避や医療経済的側面からは意義深いが、polyvascular diseaseの2次予防という観点からはprolonged DAPTが選択されるべき症例も少なくないはずである。 もちろん、DES(stent)の場合は、malappositionやneoatherosclerosisなどの局所的要因が遠隔期のステント血栓症(VLST)の要因となる5)ため、AFの塞栓予防ほど、事は単純ではないし、新世代DESや生体吸収スキャフォールド(BVS)が登場すれば、さらに局所リスク因子が変わってくるかもしれない。また、併用する抗血小板剤も様変わりしていくかもしれない。したがって、方程式(スコア)の中身はさらに吟味されることになろうが、まずは、層別化・個別化の議論が盛り上がれば、それこそが本論文の1番の意義になる。参考文献1)Mauri L, et. al. N Engl J Med. 2014;371;2155-21662)Banerjee A, et al. Thromb Haemost. 2012;107;584-5893)Bittl JA, et al. J Am Coll Cardiol. 2016 Mar 22. [Epub ahead of print] 4)Levine GN, et al. J Am Call Cardiol. 2016 Mar 23. [Epub ahead of print]5)Taniwaki M, et al. Circulation. 2016;133;650-660

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「処方箋を書く」医師の行為は「将棋」か「チェス」か?(解説:後藤 信哉 氏)-511

 医師の処方は、重要な治療行為である。「処方箋」が必要ということは、専門家が正確な知識に基づいて使用しなければ「危険」という意味もある。処方箋を書くときには、患者と危険を共有する勇気が必要である。 筆者の専門とする抗血栓薬では、薬剤使用のメリットとリスクが明確である。少量アスピリンでも年間0.2%程度は消化管、頭蓋内などの重篤な出血イベントを惹起する。ワルファリンでもPT-INRのコントロールに相応して重篤な出血が起こるし、いわゆるNOACsによる重篤な出血イベントリスクは、アスピリンの10倍である。 筆者は、自らの「処方」選択は、過去の世界の経験を踏まえた高速スパコンと情報技術に負けない「質」であると自信を持っている。しかし、今回の論文は、英国のGPのNSAIDs、アスピリンの処方は、コンピュータより「質」が低い可能性を示した。「将棋」において名人に常勝するコンピュータを聞かない。しかし、チェスではコンピュータに常勝できる名人はいなくなった。専門家としての医師の「処方選択」には「将棋」の複雑性があるか? 今回の研究は、NSAIDsとアスピリンの選択において、コンピュータの能力が標準的な医師を超える可能性を示した。 われわれはEvidence Based Medicineによる「標準治療」向上を選択して以来、個別患者を診る専門家としての長所を失ってきた。医師にしか捉えることのできない「個別患者の特性」に基づいて、「個別化医療」を実践していると主張し続ければ、われわれがコンピュータに負けることはなかった。対象とする個別患者は1人しかおらず、ランダム化比較試験による有効性、安全性の科学的検証は患者集団においてのみ可能であることが理由である。 しかし、われわれはEBMを志向した。行政、患者、企業にも専門的行為である「医療」の「質」の客観的評価が可能となった。過去の情報に基づいて未来を決めるEBMの世界では、過去の膨大な情報を一気に扱えるコンピュータは、個別医師の頭脳よりも有利である。個別のコンピュータも高速化したが、webを用いればコンピュータの情報ハンドル能力は一気に加速する。本研究では「薬剤師」が医師を教育し、医師には年収の0.6%に相当する「お小遣い」をくれるかわりに、医師の処方の妥当性がwebにより評価される。医師よりコンピュータがNSAIDs、アスピリンの処方が効率的であることを示しても、年収の0.6%に相当する「お小遣い」をもらえば損ではないと、試験の参加医師は考えたのかもしれない。 電子カルテにアクセスして、NSAIDs、アスピリンを処方した過去8週間の症例のうち、出血リスクの高い症例に「危険フラグ」を立てる。「危険フラグ」はEBMに基づいて科学的に立てられる。EBMの世界では、「この患者にはNSAIDs、アスピリンが危険な匂いがする」といっても価値はない。過去の文献をサーチして、高齢、2次予防群などをhigh risk群としてコンピュータが同定すれば、個別の医師には対抗する論理がない。 「危険フラグ」を消すためには、(1)医師が処方の理由を明確に記載する、(2)処方を中止する、(3)PPI、H2拮抗薬を処方する、などの対応が必要となる。このような「処方への介入」により、危険処方が3.7%から2.2%に減少した。また、消化管などの出血による入院率も、55.7/1万人年から37.0/1万人年へ減少した。医師に対して多少インセンティブを与えても、システムに基づく教育を導入することにより危険処方が減少し、全体としての医療費が削減されるとなれば、今回の方法は、他の領域にも積極的に導入されると予想している。 NSAIDsやアスピリンなどは、米国ではスーパーで売っている。薬局のパソコンとweb、スマホに自分の情報を入力し、low riskであれば販売許可票が出る仕組みを作ることは困難ではない。GPの教育者が本試験では「薬剤師」であることを考えると、情報端末の教育対象はGPでなく、薬剤師でなく、直接患者でもよいかもしれない。正確な知識に基づいて使用しなければ「危険」とされる薬剤の一部では、「危険」の判断はコンピュータができる。医師が患者と共に「危険」を共有する必要がある薬剤は、ワルファリンなどの「難しい薬剤」に限局される時代は近い。 エビデンスに基づいて「医療を標準化」すれば、コンピュータ医師がヒト医師を超える時代は必ず来る。医師が「自らは専門家である」と専門性を主張できる分野は、コンピュータ、人工頭脳が取って代わることのできない職人的領域に限局される。IT革命の影響が医学、医療に及ぶ時代が来た。専門職としての「ヒトの医師」には「コンピュータの医師」に取って代わることのできない役割があると筆者は信じたいが…。関連コメント高リスク処方回避の具体的方策が必要(解説:木村 健二郎 氏)診療所における高リスク処方を減らすための方策が立証された(解説:折笠 秀樹 氏)ステップウェッジ法による危険な処方を減らす多角的介入の効果測定(解説:名郷 直樹 氏)診療の現場における安全な処方に必要なものは何か…(解説:吉岡 成人 氏)

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“the lower, the better”だけならば、苦労はない(解説:石上 友章 氏)-477

 降圧治療についての、Ettehad氏らのシステマティック・レビュー(SR)/メタ解析の論文1)は、米国心臓協会(AHA)学術会議での発表と同時にNew England Journal of Medicineに掲載された、“鳴り物入り”のSPRINT試験2)同様に、降圧治療における、いわゆる“the lower, the better”戦略の正当性を証明する重要な研究成果である。 本研究のように確度の高い臨床試験の結果は、ガイドラインの記述に大きな影響を与え、一国のヘルスプロモーション政策にも重大な変更をもたらしうることから、大いに注目される。この一連の研究成果からは、一見すると、アンチ“the lower, the better”派に逆風が吹いているようにも思える。2014年前後に相次いで公表された各国の高血圧ガイドラインでは、ACCORD-BP試験3)の結果や、元来エビデンスに乏しく、演繹的に設定された降圧目標値について高く設定し直した経緯があり、本研究とSPRINT試験の結果を合わせると、確実に振り子のゆり戻しのような現象が起こるのではないかと予想される。 降圧治療における“the lower, the better”戦略については、疫学研究による証明4)や、Staessen氏らのメタ解析5)の結果から、その正当性が支持されている。それに対して、古くはCruickshankの解析6)であるとか、近年ではMesserli氏らによるINVEST試験のpost-hoc解析7)や、ONTARGET試験のpost-hoc解析8)からは、過降圧によるJカーブ現象の存在が示唆されていた。ここに一見すると相反するデータがあり、長年にわたって研究者だけでなく、多くの臨床家の注目の的になっていた。 しかし、多くの日本の臨床家は実のところ、この2つの治療戦略が、相反するものではなく、共存するものであることに気付いているのではないか9)。 ガイドラインの記述は、エビデンスに基づくことだけではなく、わかりやすさを求められることから、ややもすると短いセンテンスが一人歩きしてしまうことがあるように思える。Staessenのメタ解析5)にしても、Ettehad氏らのメタ解析1)にしても、さらには解析対象の多くが重複すると考えられる、2009年のLaw氏らのメタ解析10)にしても、治療前血圧に依存せずに、一定の降圧治療に治療効果があることを示してはいても、“一律”の降圧目標を支持しているわけではない(EBMがもたらした、究極の“心血管イベント抑制”薬ポリピルは、実現するか[参照])。SPRINT試験の成果は、研究者の名誉を満たす一大快挙であるが、過去の臨床試験の結果を基に、対象患者を絞った末の“狙った”結果である。 2014年に発表された、本邦のHONEST試験の結果を示したい11)。2年間の観察試験の結果で、限定的ではあるが、相対リスクが1になる早朝家庭血圧144~124を示した患者と、124未満の患者において、そのリスクが同等ではないことを読み取ることができる。SPRINT試験の積極的降圧療法群にあっては、低血圧・急性腎障害などの重篤な有害事象や電解質異常が多く認められたと報告されている2)。こうした患者は、潜在的に降圧治療によるリスクが高い群であり、HONEST試験でいえば95%CIでみた相対リスクの高い患者群に該当する。このことは、高血圧を対象にした試験でありながら、降圧値のみを治療効果指標とするならば、こうした群のリスクを完全には回避することができないことを示している。1)Ettehad D, et al. Lancet. 2015 Dec 23.[Epub ahead of print]2)SPRINT Research Group, et al. N Engl J Med. 2015;373:2103-2116.3)ACCORD Study Group, et al. N Engl J Med. 2010;362:1575-1585.4)Lewington S, et al. Lancet. 2002;360:1903-1913.5)Staessen JA, et al. Lancet. 2001;358:1305-1315.6)Cruickshank JM. BMJ. 1988;297:1227-1230.7)Messerli FH, et al. Ann Intern Med. 2006;144:884-893.8)Deleon E, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2009;50:1360-1365.9)Bhatt DL, et al. JAMA. 2010;304:1350-1357.10)Law MR, et al. BMJ. 2009;338:b1665.11)Kario K, et al. Hypertension. 2014;64:989-996.

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食品交換表改定ポイントにおける糖質管理と果物の位置付け

11月7日、8日と東京と大阪で開かれた「糖質管理セミナー」の様子をお届けします。糖尿病治療のバイブル「食品交換表第七版」編集委員をつとめた幣憲一郎先生が改定ポイントをわかりやすく解説します。糖尿病治療に関わるすべての方必見です。1:重要性を増す糖質と食後血糖管理 スライド1を拡大する 日本の糖尿病患者数は、これまで上昇の一途であったが、2012年に入り若干の減少傾向を示した。 しかし、糖尿病が強く疑われる患者数に大きな変化は無く、糖尿病患者のBMIに着目した推移を調べると、1型も2型も体重が増加し、徐々に肥満傾向が強くなってきている。こうした現状を考えると、エネルギー管理に加えて、炭水化物や糖質管理の必要性を、糖尿病患者にしっかりと伝える必要があると感じている。 食事療法は、糖尿病患者にとって治療の根幹となるもの。血糖の状態を改善するためには、患者が長期間続けてきた食生活や嗜好を十分に把握した上で、アドバイスをする必要がある。食後の高血糖は、心血管疾患の進行に悪影響を及ぼすという報告がある。糖尿病による合併症を予防するためには、「食後血糖値」の管理がとても重要になり、「食後血糖値」を管理する事で、血糖値の急激な上昇を予防しながら、合併症を出さずに病状を維持できると考えている。2:食品交換表 第7版の改訂ポイントと現場での活用方法食品交換表第7版の改訂ポイントは、従来までのエネルギー管理のほかに、血糖管理を意識した説明が各所に追加されたこと。また炭水化物のエネルギー比が50〜60%となっているように、さまざまな症例に合わせて柔軟に対応できるものとなった。さらにメディアで低炭水化物食が話題になっていることから、極端な低炭水化物食への注意喚起も行われている。炭水化物を減らせば血糖値は下がるものの、極端な低炭水化物状態は、患者自身の食習慣に馴染まないため長続きしないなどの弊害もある。糖尿病治療においては、食事療法と運動療法を行い、血糖値の山と谷を平準化し、必要に応じて薬物療法を追加することで、血糖管理が上手くいくようにすすめていきたい。血糖値には、朝・昼・夜の3つの山があり、この山の高さをできるだけ小さくすることが、合併症の予防につながる。これからの食事指導は、エネルギー量をチェックするだけではなく、食後の血糖値に直結する糖質量もチェックする視点が重要。食品交換保表第7版では、表1、表2、表4、調味料に炭水化物・糖質・食物繊維含有量の表が入った。これを使えば、もう患者に「お菓子はダメ」という指導ではなくなる。食品交換表を利用して「今食べているお菓子の糖質量は**だから、こちらのお菓子に変えると血糖値が僅かでも良くなる」と具体的に指導することができる。※極端な低炭水化物食への注意喚起:米国や欧州などのガイドラインにおいては、炭水化物の摂取量をエネルギー比で50~60%としており、RCTを解析したEBMに基づく勧告では55~65%が提案されている。また、米国糖尿病協会(ADA)は炭水化物を少なくとも1日130gは摂取するように勧めている。3:糖尿病患者の果物の位置付け ~糖質管理と果物の適切な量~「果物=フルクトース」というイメージで思われがちだが、果物により含まれる糖の量や種類もさまざま。糖質の種類という観点から、きちんとその組成を知って、患者にも紹介したいものである。果物を多く食べる人は、あまり食べない人と比べ、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが最大19%減少することが、厚生労働省研究班の調査でわかっている。また、米国の調査では、果物は糖尿病発症を減少させるという成績※もある。※BazaanoLA, JoshipuraKJ, Tricia YLet al : Diabetes Care 31 : 1331-1317, 2008ただし、糖尿病患者の中には、果物は太らないと思っている人もいて、過剰摂取につながることもケアする必要がある。特に果物に含まれている果糖は、ショ糖の1.1〜1.7倍ほど甘味度が高いので、果糖の甘味についてしっかり説明した上で、患者の状態にあった果物のアドバイスをしてほしい。スライド2を拡大するその際に、もう1つ参考にしたいのが、果物に含まれる食物繊維の含有量。果物の食物繊維含有量を見ると、ブルーベリーやキウイは食物繊維が多く含まれているが、バナナやぶどうの食物繊維含有量は決して多くはない。スライド3を拡大するまた、例えば、りんごを丸かじりする欧米人と比べて、日本人は皮をむいて食べる習慣がある。果物の皮には食物繊維が豊富に含まれており、食物繊維は血糖値の急激な上昇を抑制する効果もある。咀嚼や栄養の面から考えれば、皮をむかずに食べることができる果物はできるだけ皮をむかずに食べる方が良いだろう。糖尿病患者の果物の摂取は、食品交換表にもあるように1日1単位が目安。ただし、糖尿病患者の場合、空腹時に同じものを食べても、健常者よりも血糖値が変動しやすく、食後血糖値にも大きな個人差があることは考慮する必要がある。果物をつい食べ過ぎてしまう患者の場合は、果物を食直後のデザートとして提案すること。一人分ずつ小皿に適量を盛り付けること。このような工夫で、果物の摂取量を抑制することがポイントとなる。果物は低GI食品であることに加え、果物そのものが持つ本来の甘味で、糖尿病患者の「甘さ」の欲求に応えることもできる優秀な食材。日本には四季があり、季節ごとに新鮮な果物をおいしく味わうことも楽しみの1つ。果物の重要性及び適量摂取に加え、個人の嗜好に合わせた食の楽しみを栄養指導の中でも伝えていただきたい。提供:かわるProセミナー事務局関連リンクマスコミでも話題のスーパーフルーツ「キウイ」 ~その魅力とチカラ~

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「糖尿病トライアルデータベース」がリニューアル

 ライフサイエンス出版株式会社は、約1,000報の糖尿病関連トライアルを収載した日本最大級の糖尿病研究データベース「糖尿病トライアルデータベース」を11月にリニューアルした。  目まぐるしく新薬ラッシュが続く糖尿病領域において、試験概要をもう一度詳しく調べたい場合や研究内容のチェックに活躍する。検索しやすく、編集委員のコメント付き 特長として、糖尿病のトライアルに関し、さまざまな方法で検索できることが挙げられる。たとえば、トップページの検索窓に任意の検索語を直接入力する方法や、トライアル名や著者名の頭文字がわかっている場合は、検索窓の下に並ぶアルファベットをクリックするだけで、表示された一覧から目的のトライアルを探すことができる。 トライアルの詳細は、抄録が項目(目的/試験デザイン/対象患者/方法/結果/結論)ごとにコンパクトかつ必要十分にまとめられているので、短時間で必要とする情報にたどり着くことができる。さらに、片山 茂裕氏(埼玉医科大学かわごえクリニック・埼玉医科大学)をはじめとする、糖尿病領域のオピニオンリーダー6人の編集委員による各トライアルについてのコメントも付いている。それぞれのトライアルの重要度を4段階で評価し、「研究結果の捉え方」や「今後の糖尿病治療への影響」など、さまざまな側面からの解説がなされている。 また、糖尿病治療に大きなインパクトを与えた研究(例:ACCORD、ADVANCE、UKPDS 80、久山町研究、熊本スタディなど)は「おさえておきたい重要トライアル」のコーナーにまとめられており、利便性も図られている。データベースは無料かつ会員登録不要 同データベースの閲覧はすべて無料であり、会員登録も不要としている。定期的にサイトにアクセスするだけで、新しいエビデンスに触れることができる。なお、データベース更新のお知らせはtwitter「@EBM_Library」でもツイートされている。「糖尿病トライアルデータベース」は、こちら詳しくは、ライフサイエンス出版株式会社まで。

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EMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)-422

 リンゴを手に取ったために、アダムとイブは楽園から追放された。ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見した。どうやら、リンゴは人類にとって大きな変化をもたらす契機であるらしい。今回報告されたEMPA-REG OUTCOME試験の結果も、現行の2型糖尿病薬物療法に変革をもたらすだろう。 優れた臨床試験は、設定された疑問に明確な解答を与えるだけではなく、より多くの疑問を提出するものであるが、この点においても本試験はきわめて優れた試験といえる。本試験は、FDAが新たな血糖降下薬の認可に際して求めている心血管アウトカム試験(cardiovascular outcome trial:CVOT)の一環として行われた。SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントリスクを増加しないか、増加しないならば減少させるか、が本試験に設定された疑問である。短期間で結果を出すために、対象患者は、ほぼ100%が心血管疾患を有する2型糖尿病患者が選択された。かつ、心血管疾患を有する2型糖尿病患者に対する標準治療に加えて、プラセボとエンパグリフロジンが投与された。その結果、3年間の治療により心血管死が38%減少し、さらに、総死亡が32%減少する驚くべき結果となった。しかし、奇妙なことに、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中には有意な減少が認められず、心不全による入院の減少が、心血管死ならびに総死亡の減少と密接に関連していることを示唆する結果であった。さらに、心血管死の減少は、治療開始3ヵ月後にはすでに認められていることから、血糖、血圧、体重、内臓脂肪量などのmetabolic parameterの改善のみによっては説明できないことも明らかになった。つまり、インスリン非依存性に血糖を降下させるエンパグリフロジンが、血糖降下作用とは無関係に患者の予後を大きく改善したことになる。この結果の意味するところを、われわれはじっくりと咀嚼する必要があるだろう。 エンパグリフロジンが心血管死を減少させたメカニズムは何か? これが本試験の提出した最大の疑問である。残念ながら本試験は、この疑問に解答を与えるようにはデザインされておらず、新たなexplanatory studyが必要となろう。科学史における多くの偉大な発見は、瞥見すると突然もたらされたようにみえるが、実際はそこに至るまでに多くの知見が集積されており、そこに最後の一歩が加えられたものがほとんどである。したがって本試験の結果も、これまでに蓄積された科学的知見の文脈において理解される必要がある。ニュートンも、過去の多くの巨人達の肩の上に立ったからこそ、はるか遠くを見通せたのである。この点において、われわれは糖尿病と心不全との関係を再認識する必要がある。 糖尿病と心不全との関係は古くから知られているが、従来の糖尿病治療に関する臨床試験においては、システマティックに評価されてきたとは言い難い1)。これは、FDAの規定する3-point MACE(Major adverse cardiac event:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)および4-point MACE(3-point MACEに不安定狭心症による入院を加えたもの)に、心不全による入院が含まれていないことから明らかである。糖尿病と心不全との関係は病態生理学的にも血糖降下薬との関係においても複雑であり、かつ現時点でも不明な点が多く、ここに詳述することはできない(興味ある読者は文献2)を参照されたい)。血糖降下薬については、唯一メトホルミンが3万4,000例の観察研究のメタ解析から心不全患者の総死亡を抑制する可能性のあることが報告されているだけである3)。 本試験においては、ベースラインですでに心不全と診断されていた患者が約10%含まれていたが、平均年齢が60歳以上であること、すべての患者が心血管病を有していること、糖尿病罹病期間が10年以上の患者が半数を占めること、約半数の患者にインスリンが投与されていたことから、多くの潜在性心不全患者または左室機能不全(収縮不全または拡張不全)患者が含まれていた可能性が高い。筆者が考えるに、これらの患者に対して、エンパグリフロジンによる浸透圧利尿が心不全の増悪による入院を減少させたと考えるのが現時点での最も単純な推論であろう。これは、軽症心不全患者に対するエプレレノン(選択的アルドステロン拮抗薬)の有用性を検討したEMPHASIS-HF試験4)において、総死亡の減少が治療開始3ヵ月後の早期から認められている点からも支持されると思われる。興味深いことに、ベースラインで約40%の患者がすでに利尿薬を投与されており、エンパグリフロジンには既存の利尿薬とは異なる作用がある可能性も否定できない。 本試験の結果から、エンパグリフロジンは2型糖尿病薬物療法の第1選択薬となりうるだろうか? 筆者の答えは否である。EBMのStep4は「得られた情報の患者への適用」とされている。Step1-3は情報の吟味であるが、本論文の内的妥当性internal validityにはほとんど問題がない。しいて言えば、研究資金が製薬会社によって提供されている点であろう。したがって、この論文の結果はきわめて高い確率で正しい。ただし、本論文のpatient populationにおいて正しいのであって、明日外来で目前の診察室の椅子に座っている患者にそのまま適用できるかはまったく別である。つまり、外的妥当性applicabilityの問題である。そこでは医療者であるわれわれの技量が問われる。その意味において、本論文は糖尿病診療におけるEBMを考えるうえでの格好の教材だろう。 薬剤の作用は多くの交互作用のうえに成立する。そこで注意すべきは、本試験が心血管病の既往を有する2型糖尿病患者における2次予防試験であることである。2次予防で有益性の確立した治療法が1次予防においては有益でないことは、心血管イベント予防におけるアスピリンを考えると理解しやすい。心血管イベント発症絶対リスクの小さい1次予防患者群においては、消化管出血などの不利益が心血管イベント抑制に対する有益性を相殺してしまうためである。同様に、心不全発症絶対リスクの小さい1次予防患者においては、性器感染症やvolume depletionなどの不利益が、心不全発症抑制に対する有益性を相殺してしまう可能性は十分に考えられる。さらに、エンパグリフロジンの長期安全性については現時点ではまったく未知である。 薬剤間の交互作用については、メトホルミン、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬、β遮断薬、スタチン、アスピリンなどの標準治療に追加することで、エンパグリフロジンの作用が発揮されている可能性があり、本試験の結果がエンパグリフロジン単剤での作用であるか否かは不明である。それを証明するためには、同様の患者群においてエンパグリフロジン単剤での試験を実施することが必要であるが、その実現可能性は倫理的な観点からもほとんどないと思われる。 糖尿病治療における基礎治療薬(cornerstone)に求められるのは、(1)確実な血糖降下作用、(2)低血糖を生じない、(3)体重を増加しない、(4)真のアウトカムを改善する、(5)長期の安全性が担保されている、(6)安価である、と筆者は考えている。現時点で、このすべての要件を満たすのはメトホルミンのみであり、これが多くのガイドラインでメトホルミンが基礎治療薬に位置付けられている理由である。本試験においても、約75%の患者はベースラインでメトホルミンが投与されており、エンパグリフロジンの総死亡抑制効果は、前述したメトホルミンの持つ心不全患者における総死亡抑制効果との相乗作用であった可能性は否定できない。 ADA/EASDの高血糖管理ガイドライン2015では、メトホルミンに追加する薬剤として6種類の薬剤が横並びで提示されている。メトホルミン以外に、総死亡を減少させるエビデンスのある薬剤のないのがその理由である。最近の大規模臨床試験の結果から、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)の心血管イベント抑制作用は、残念ながら期待できないと思われる。本試験の結果から、心血管イベント、とりわけ心不全発症のハイリスク2型糖尿病患者に対して、エンパグリフロジンがメトホルミンに追加する有用な選択肢としてガイドラインに記載される可能性は十分にある。EMPA-REG OUTCOME試験は、2型糖尿病患者の予後を改善するために実施された多くの大規模臨床試験が期待した成果を出せずにいる中で、ようやく届いたgood newsであろう。参考文献はこちら1)McMurray JJ, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2014;2:843-851.2)Gilbert RE, et al. Lancet. 2015;385:2107-2117.3)Eurich DT, et al. Circ Heart Fail. 2013;6:395-402.4)Zannad F, et al. N Engl J Med. 2011;364:11-21.関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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専門情報をいち早く!「Medscape」を日本語で読める

先月、株式会社ケアネットはMedscapeを運営するWebMDと業務提携をいたしました。これに伴い、世界最大級の医療情報サイトMedscapeの最新記事の一部をCareNet.comにおいて日本語で読むことができるようになりました。最新の医療情報をいち早くキャッチアップするとともに、世界のオピニオンリーダーの意見も把握できます。CareNet.comのMedscapeコーナーをぜひご活用ください。循環器領域の記事はこちらがん領域の記事はこちらMedscapeとはMedscape(http://www.medscape.com/)は、245ヵ国、400万人以上の医師が利用する世界最大級の医療情報サイト。30を超える専門領域で月350本以上の医療ニュースなどの記事が配信されています。Medscapeから厳選した最新記事を日本語で配信・論文レビュー・専門医による論文解説・主要学会の取材レポートやオピニオンリーダーによる総括・オピニオンリーダーへのインタビュー動画などを日本語に翻訳してお届けします。CareNet.comに掲載されているMedscape記事の一部をご紹介Medscape Cardiology ESC:経皮的弁輪形成術は僧房弁逆流を伴う心不全の安全かつ有効な治療となりうる IMPROVE-IT:ACS患者でのezetimibeによるLDL低下の有益性が示される※毎週火・木曜日更新Medscape Oncology ASCO:全脳放射線治療のリスクとベネフィット   ASCO:palbociclibは内分泌療法耐性に対する新たな手段となるか ※毎週月・水曜日更新

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上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬に耐性の非小細胞肺がんに対するAZD9291の効果について(解説:小林 英夫 氏)-361

 すでにご承知の読者も多いであろうが、非小細胞肺がんの臨床において2002年から登場した上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)は現在不可欠な薬剤となっている。2014年版日本肺癌学会編『EBMの手法による肺癌診療ガイドライン』1)においても、手術不能非扁平上皮がんでEGFR遺伝子変異陽性例に治療推奨グレードAと位置付けられた。 第1世代EGFR-TKI(ゲフィチニブ、エルロチニブ)導入後には、高度な薬剤性肺障害の合併、無効症例の存在、人種差、薬剤耐性獲得などの問題点が指摘された。これらの課題は、合併肺疾患の有無や、組織型選択、性別、組織検体でのEGFR遺伝子変異といった評価プロセスを経ることにより、ある程度の改善が得られている。そして最大の未解決点は1~2年程度で生じてしまう薬剤耐性問題である。治療当初は良好な腫瘍縮小効果が得られた症例も恒久的効果は困難であり、この解決を目指して新規EGFR-TKI薬の開発が進められている。 今回、新規2薬剤の臨床試験が同時にNEJM誌に掲載されたが、本稿ではアジア人主体で日本人を含む検討がなされた第3世代EGFR-TKI(AZD9291)についての、Janne氏らの論文を概説する。 薬剤耐性獲得の約60%はEGFR T790M変異と考えられているが、AZD9291は非小細胞肺がんのEGFR-TKI活性化変異とEGFR T790M耐性変異を選択的かつ不可逆的に阻害する第3世代経口EGFR-TKIであり、前臨床モデルではこれら変異に有効である一方、野生型EGFRに対する効果は少ない。 AZD9291の安全性と有効性評価のための第I相試験は2013年3月から2014年8月まで行われた。対象は、既治療で、EGFR-TKI活性化変異が確認された、または他のEGFR-TKI治療によっても病勢が進行している、進行非小細胞肺がんである。 253例が登録され、用量漸増コホートに31例、拡大コホートには222例が割り付けられた。内訳は女性が62%、アジア人が62%、腺がんが96%で、80%に細胞傷害性化学療法歴があった。拡大コホート登録症例の62%で EGFR T790Mが検出された。用量漸増コホート31例で、28日間の1日1回20~240mg経口まででは用量制限毒性が発現しなかったため、最大耐用量は確定されなかった。 有害事象として、下痢(47%)、皮疹(40%)、悪心(22%)などが認められ、グレード3以上の有害事象は32%に、重篤な有害事象は22%にみられた。アジア人と非アジア人で重症度や頻度に差はなかった。肺臓炎様イベントは6例(2例はアジア人、4例は非アジア人)にみられ治療中止となったが、データ解析時には回復したか、回復しつつあった。7例が有害事象で死亡したが、薬剤関連の可能性は1例(肺炎)であった。 登録症例中239例で治療効果が判定でき、123例が部分奏効、1例が完全奏効、奏効率51%(95%信頼区間[CI]:45~58%)、病勢安定33%(78例)であった。また、EGFR T790M陽性例のうち評価可能であった127例は奏効率61%(95%CI:52~70%)、陰性例61例では奏効率21%(95%CI:12~34%)だった。奏効例のうち奏効期間が6ヵ月以上の患者の割合は85%で、 EGFR T790M陽性例では88%、陰性例では69%であった。全体の無増悪生存期間中央値は8.2ヵ月、T790M変異陽性例で9.6ヵ月(95%CI:8.3~未到達)、陰性例では2.8ヵ月(95%CI:2.1~4.3)であった。 本邦では第2世代薬のアファチニブが2014年に導入されたが、薬剤耐性について十分な問題解決には到達していない。Janne氏らは、第3世代のAZD9291はEGFR-TKIによる前治療下で病勢が進行してしまった EGFR T790M変異陽性の進行非小細胞肺がん患者に腫瘍縮小効果を示し、EGFR T790Mが本薬有効性の予測マーカーでもあることが示唆された、と結論している。 彼らの成績はencouragingではあるものの、観察期間が短いことや比較試験ではないことなど、さらなる検討を待たなければならない。ただ、非小細胞肺がん治療では治療前だけでなく増悪期においても、組織検体からEGFR遺伝子変異を評価することがますます重要となることは間違いない。なお、肺がんとEGFR-TKIについての手引きが日本肺癌学会より発行されている2)。

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「エドキサバンは日本の薬なのに…」2~エドキサバン減量と出血、血栓イベントの関係~:ENGAGE AF-TIMI 48試験(解説:後藤 信哉 氏)-337

 EBM(Evidence Based Medicine)を基本原理とする現在の医療において、臨床データベースの保有には圧倒的な意味がある。エドキサバンは日本企業が開発した薬剤である。日本企業には抗トロンビン薬があるがトロンビンの時代から、選択的凝固因子阻害薬の開発力は外資企業に先行していた。残念ながら、分子としての抗Xa薬を介入したときの個人の反応は予測不可能な程度にしか、現在の医学は成熟していない。結果として、エドキサバン介入時の臨床データベースを持っているものが強い。 第一三共の開発したエドキサバンであるが、非弁膜症性心房細動におけるワルファリンとの比較試験「ENGAGE AF-TIMI 48」は、ハーバード大学のTIMI groupをスポンサーとして施行された。膨大なデータベースからは、多くの科学的事実が公表される。本論文も重要なサブ解析の1つである。日本企業が開発した薬剤を用いた試験の重要なサブ解析であるが、残念ながら日本人は著者として参加していない。 ENGAGE AF-TIMI 48試験のプロトコルは単純ではなかった。ワルファリンと2用量のエドキサバンの有効性、安全性の検証を目指した部分のみでも、十分に複雑であった。さらに、本試験では来院時にクレアチニン・クリアランスが30~50mL/分の人、体重が60kg以下の人、または、P糖タンパク質の相互作用のある併用薬を服用したときには、エドキサバン投与量を半減した。試験の最初のみでなく、中途でも減量する基準を設けることにより、抗Xa効果の標準化を目指した。試験の規模が大きいので、プロトコルに規定された30、60mgの標準投与量から減量した5,356例と、減量しなかった1万5,749例の比較が可能であった。抗Xa活性のトラフ値を6,780例にて把握できたことも、科学的試験として、多くの情報をわれわれに与えることができる試験であったといえる。 ランダム化比較試験では、基本的に1つの臨床的仮説の検証のみが可能である。ENGAGE AF-TIMI 48試験では、二重盲検二重ダミー試験として、実臨床に近い0.5mg刻みのワルファリンのコントロールを行った。PT-INR 2.0~3.0を仮の「標準治療」とすることも徹底していた。TTRもきわめて高い。質の高いワルファリン治療下では、血栓イベントも出血イベントも起こりにくい。仮説検証試験としてはエドキサバンの優越性は示せなかった。 50年使用してきたワルファリンに「PT-INR 2.0~3.0」という枠をはめても、ワルファリンが優れた薬剤であることを示したのがENGAGE AF-TIMI 48試験であった。それでも、臨床的特徴に基づいて減量することにより、エドキサバン群の出血イベントリスクを示すことができたので、減量好きな日本の臨床家にはありがたい研究結果であったといえる。 筆者は本試験のDSMB(Data and Safety Monitoring Board)であったので、筆者には資格がないが、本試験に症例を登録した研究者であれば、ぜひ、本研究のような日本の臨床家に役立つサブ解析を主導したいと思った。主導するのがTIMI groupであることを受け入れるとしても、日本人研究者の1人として共著者になり、論文作成段階から寄与したかった魅力的研究である。

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2型糖尿病発症予防とPrecision Medicine(解説:住谷 哲 氏)-334

 日本ではあまり報道されなかったが、本年1月米国のオバマ大統領は一般教書演説においてPrecision Medicineの推進を宣言した1)。Precision Medicineとは、簡単に言えば、個々の患者の遺伝情報、環境因子などの情報に基づいた最適な医療、鍵と鍵穴とがぴったりと符合するような医療である。それに近いものは、わが国で個別化医療、オーダーメイド医療、テーラーメイド医療などとさまざまに呼称されているものが含まれる。本論文においては「有益性に基づいたテーラーメイド治療(benefit based tailored treatment)」と名付けられているが、その意義は2型糖尿病発症予防とPrecision Medicineの文脈において理解する必要がある。 DPP (Diabetes Prevention Program)は、2型糖尿病の発症が生活習慣介入、またはメトホルミン投与により予防可能であることを明らかにした試験である2)。DPPが介入の対象としたのは2型糖尿病発症リスクの高いprediabetesである。約3年の介入期間中に生活習慣介入またはメトホルミン投与により、対照群に比して2型糖尿病の発症相対リスクがそれぞれ58%、31%減少した。著者らはこのデータを用いて、2型糖尿病発症リスク予測モデルを作成した。2型糖尿病発症リスクに関する17の因子から選択してモデルに組み込んだのは、(1)空腹時血糖、(2)HbA1c、(3)中性脂肪、(4)高血糖の家族歴、(5)ウエスト、(6)身長、(7)ウエストヒップ比の7因子である(これらの7因子を使用したノモグラムも原著論文のSupplementに掲載されているので参照されたい)。 このモデルを用いて計算した、個々の患者の2型糖尿病発症の絶対リスク別に患者を低リスク群から高リスク群の4群に分けて、それぞれの群における生活習慣介入、またはメトホルミン投与による2型糖尿病発症の絶対リスク減少を有益性と定義して評価した。その結果、生活習慣介入はすべての群で有益であったが、メトホルミン投与による有益性のほとんどは最高リスク群に限定されていた。リスク予測モデルを用いて個々の患者の絶対リスクを定量化することで、個々の患者の受ける有益性を最大化することが可能であることを明らかにした点で、臨床的意義が大きい。 生活習慣介入がほとんどの患者に対して不利益をもたらさないことは自明であろう。一方、メトホルミンはきわめて有効かつ安全な薬剤であるが、消化器症状などの不利益は皆無ではない。今回のリスク予測モデルを用いることで、メトホルミン投与による2型糖尿病発症予防の現実化に向けて、われわれは一歩前進したといえる。 EBMはランダム化比較試験などで得られたエビデンスを、個々の患者の価値観、病状や周囲の状況を考慮して適用していくプロセスであるが、その際に常に問題になるのがエビデンスの外的妥当性(applicability)である。エビデンスは本質的に“平均的患者”の受ける有益性を示すだけであり、この平均的な有益性を平均的でない眼前の個々の患者に、いかに上手に当てはめていくかが医者の技量(clinical expertise)である。一方で、この“平均的患者”をより眼前の患者に近付ける方向がPrecision Medicineであるといえる。Precision Medicineは患者の遺伝情報に基づく個別化医療を目指しているが、2型糖尿病のようなpolygenic diseaseに対して、遺伝情報がどこまで有効かは現時点で明らかになっていない。さらにDNA解析技術が飛躍的に進歩したとはいえ、日常臨床で簡単に使用できるものでもない。本論文で開発されたリスク予測モデルは、遺伝情報を含まない因子で構成されており、日常臨床において応用可能である。今後は同様の解析がACCORDなどのほかの臨床試験結果にも応用され、さまざまなBenefit Based Tailored Treatmentが可能になるだろう。

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食後血糖の上昇が低い低glycemic index(GI)の代謝指標への影響(解説:吉岡 成人 氏)-297

食後血糖と心血管イベント EBMならぬ“Advertising based medicine”の領域では、15年ほど前から「糖尿病患者における食後高血糖は虚血性心疾患のリスクファクターである」というキャッチコピーが飛び交い、多くの医療従事者たちに事実とは異なる情報を提供している。確かに、経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)を実施した際の2時間値は心血管イベントや死亡のリスクであることが、DECODE(Diabetes Epidemiology; Collaborative analysis of Diagnostic criteria in Europe)study 、舟形町研究など、欧州のみならず日本においても、多くの疫学研究で確認されている。 しかし、75gOGTTの2時間値は、炭水化物のみならず、タンパク質や脂質、食物繊維などを含んだ食事を摂取した食後の血糖値とは同一のものではない。また、糖尿病患者ではなく、耐糖能障害(IGT)を対象にα−グルコシダーゼ阻害薬やグリニド薬によって糖尿病の発症予防に対する有用性を検討した臨床試験(STOP-NIDDM、NAVIGATOR)では、試験の経過において食後血糖値は観察項目としては取り上げられていない。さらに、STOP-NIDDMでは脱落症例が約25%も存在し、心血管イベントの発症に関与している臨床因子は血圧とトリグリセリドであり、75gOGTTの2時間値は有意な説明変数ではないことが論文内の表で示されている。しかも、1次エンドポイントとは関係のない、サブ解析での心血管イベントの発症予防効果の可能性のみが大きく取り上げられた、歪んだ臨床試験である。 ドイツでHanefeldらが実施したDIS(Diabetes Intervention Study)は、新規の2型糖尿病患者を対象にフィブラートを投与した際に心血管イベントが抑止されるか否かを検討した試験であるが、食後1時間の血糖値が心血管イベントの発症と関連することをも示した。とはいえ、食後血糖値に介入した試験ではなく、しかも、11年間の観察期間で対象患者の15.2%が心筋梗塞を発症しているという、きわめてハイリスクな群における研究成績である。 現段階において、2型糖尿病患者を対象として、食後高血糖に介入して心血管イベントの発症を抑止したという質の高いエビデンスは存在していない。低GI食の有用性は… このような背景の下、本研究は、食事中の炭水化物の量や内容が食後の高血糖や肥満と関連しているのであれば、食後高血糖を助長するglycemic index(GI)が高く炭水化物が多い食事が、低炭水化物食と比較して脂質プロフィールやインスリン抵抗性に悪影響を与えるのではないかという仮説を証明するために実施されたものである。 クロスオーバー対照試験で、(1) 高GI(グルコーススケール65%以上)、高糖質(エネルギー比率58%以上)、(2) 低GI(40%)、高糖質、(3) 高GI、低糖質(エネルギー比率40%)、(4) 低GI、低糖質の4群の食事の代謝指標への影響を検討している。 高糖質食群において、低GI群では高GI群に比較してインスリン感受性が低下し、LDLコレステロールが上昇したが、HDLコレステロール、トリグリセリド、血圧には変化がなかった。また、低GI、低糖質食であっても高GI、高糖質食と比較してインスリン抵抗性、LDLコレステロール、HDLコレステロール、収縮期血圧は改善しないという予想に反した結果が得られた。つまり、野菜や豆類、全粒穀類、果物などが豊富で低脂肪の健康的な食事(DASH: Dietary Approaches to Stop Hypertension)であればGIを気にする必要はないのではないかという結論である。 現在、日本では低糖質食が肥満の改善に有用であるとの情報が、多くの場で取り上げられ、注目を浴びている。確かに、健康な人たちに半年ほどの短期間にわたって低糖質食を行うことで肥満が解消されることが多いのは事実であろう。しかし、科学的にその有用性を示した成績はなく、また、糖尿病やメタボリックシンドロームの病態の改善に結び付くとは証明されていないことを認識すべきである。

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【CLEAR!ジャーナル四天王 トップ20発表】鋭い論文解説がラインナップ!

臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、日本の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しているNPO法人です。 本企画『CLEAR!ジャーナル四天王』では、CareNet.comで報道された海外医学ニュース『ジャーナル四天王』に対し、鋭い視点で解説します。 コメント総数は280本(2014年11月現在)。今年掲載されたなかからアクセス数の多かった解説記事のトップ20をお届けします。 1位 「降圧薬服用患者が大幅に減る見通し、というより減らした」というほうが正確かもしれない:EBMは三位一体から四位一体へ(解説:桑島 巌 氏) (2014/5/20) 2位 これがなぜLancetに!?(解説:桑島 巌 氏) (2014/9/19) 3位 慢性心不全治療のパラダイムシフト:ACE阻害薬はもはや標準薬ではない!(解説:平山 篤志 氏) (2014/9/8) 4位 脳動静脈奇形(未破裂)の予防的切除や塞栓術などの介入療法では予後を改善できない(解説:中川原 譲二 氏) (2014/1/13) 5位 過度な減塩は死亡率を増やすか? ガイドライン推奨1日6g未満に一石を投じる研究(解説:桑島 巌 氏) (2014/8/21) 6位 患者に「歩け、歩け運動」を勧める具体的なエビデンス(解説:桑島 巌 氏) (2014/1/17) 7位 心臓マッサージは深度5cmで毎分100回:その自動化への課題(解説:香坂 俊 氏) (2014/1/8) 8位 心房細動アブレーションにおける新しいMRI指標:そのメリットとデメリット(解説:山下 武志 氏) (2014/2/18) 9位 DESは生命予後改善効果を持つ!?従来の説に一石(解説:野間 重孝 氏) (2014/7/28) 10位 よいメタ解析、悪いメタ解析?(解説:後藤 信哉 氏) (2014/1/21) 11位 急性心不全治療には新たな展開が必要では?(解説:平山 篤志 氏) (2014/1/10) 12位 大腸腺腫切除後の長期的な大腸がん死亡率(解説:上村 直実 氏) (2014/9/30) 13位 急性静脈血栓塞栓症(VTE)の治療戦略―4万5,000症例メタ解析(解説:中澤 達 氏) (2014/10/29) 14位 期待が大きいと失望も大きい:プラセボをおくことの重要性を教えてくれた試験。(解説:桑島 巌 氏) (2014/4/15) 15位 これでC型肝炎を安全に完全に治せる?(解説:溝上 雅史 氏) (2014/5/29) 16位 スタチン治療はやはり糖尿病を増やすのか?そのメカニズムは?(解説:興梠 貴英 氏) (2014/11/6) 17位 破裂性腹部大動脈瘤に対する開腹手術 vs. 血管内修復術(解説:中澤 達 氏) (2014/2/12) 18位 診察室での血圧測定はもういらない?-高血圧診療は、自己測定と薬の自己調整の時代へ(解説:桑島 巌 氏) (2014/9/17) 19位 小児BCG接種、結核菌への感染を2割予防-(解説:吉田 敦 氏) (2014/9/26) 20位 このテーマまだ興味がわきますか?アブレーション vs. 抗不整脈薬(解説:山下 武志 氏) (2014/3/6) #feature2014 .dl_yy dt{width: 50px;} #feature2014 dl div{width: 600px;}

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肺がん患者と医療者の乖離を埋める―WJOG

 「患者さんのためのガイドブック よくわかる肺がんQ&A(第4版)」(編集:NPO法人西日本がん研究機構、以下WJOG)の発行を記念して、「肺がんの最新治療に関するセミナー~分子標的薬の登場で肺癌治療は大きく変わった~」が2014年11月28日、都内にて行われた。当日は、中川和彦氏(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 教授)、本書の編集を行った澤 祥幸氏(岐阜市民病院 がん診療局長)が講演した。 中川氏の講演では、肺がん診療の最新情報が紹介された。講演の中で、中川氏は次のように述べた。肺がんの治療は最近の20~30年で大きく進歩している。とくに2002年のEGFR–TKIゲフィチニブの登場以降、ALK阻害薬、第2世代EGFR-TKIが次々に登場している。今後も第3世代EGFR-TKI、PD-1やPD-L1など新たな免疫療法なども治療選択肢として加わってくると考えられ、肺がん治療は大きく変化していくことが予想される、と述べた。また、このように新たな臨床試験が数多く出てくる中、EBMや診療ガイドラインを踏まえ、肺がんについての正しい情報を研究者から一般社会に伝えることが重要であるとも述べた。 続いて、澤 祥幸氏が、肺がん患者の疑問とその対応に関して次のように述べた。がん患者は告知の際、医療者に対し自分自身の不安を解決するため希望的回答を期待している。しかし、がんであるという事実は最悪の知らせである。将来への見通しを根底から否定的に変えてしまうため、冷静な状態ではいられない。担当医にしてみれば、しっかり説明したのに理解してもらえない。一方、患者も家族も真剣に説明を聞いていたはずなのに覚えていないという事態に陥る。また、希望的回答への期待を裏切られたことが医療者への不信を招き、診療への否認行動をとるなど、その後のトラブルにつながることもある。さらに、悪い知らせを聞いた後、一部の患者は適応障害やうつ病に陥る。がん患者の自殺率は健康人の4倍との報告もあり、これも大きな問題である。 がんと診断された後、がん患者・家族はどのような情報を求めているのか? 肺がんの種類・進行度、標準治療といった情報を伝えようとする医療者とは乖離があるようだ。WJOGはその乖離を明らかにするため、各地で開催する市民講座の際、患者・家族の疑問や質問を収集した。その結果、患者の疑問・質問の上位は、「もっといい病院・医者は?」「抗がん剤治療が不安」「補完代替医療、免疫療法」「術後の痛み」「がん告知の問題」などであった。実際にサプリメントや高額な民間療法に頼る患者、治療拒否により手遅れになる患者、医療費控除制度を知らず経済的不安から治療を拒否するケースも少なくないと、澤氏は言う。 「よくわかる肺がんQ&A(第4版)」は、このように収集した疑問・質問をまとめる形で、本年(2014年)11月7日に発行された。Q&A は119項目からなり、医師向けのガイドラインにはない、補完代替医療の説明、不安・衝撃へのアドバイス、医療費といった項目も含まれる。今版は市民の要望に応え、書店でも購入可能である。価格帯も市民が気軽に買えるよう2,200円(+税)に設定。今後はwebフリーダウンロードの予定もある。amazon リンク:「患者さんのためのガイドブック-よくわかる肺がんQ&A(編集;西日本がん研究機構-WJOG)」はこちら。

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1型糖尿病治療における基礎インスリン(解説:住谷 哲 氏)-280

 インスリン分泌の枯渇している1型糖尿病患者においては基礎インスリンと追加インスリンとの両者を補充する生理的インスリン補充法(physiological insulin replacement)が必須である。とりわけ必要十分量の基礎インスリンを補充することが良好な血糖管理のカギとなる。この点で、基礎インスリン補充量を自在に調節できるインスリンポンプはインスリン頻回注射法(multiple daily injection: MDI)に一日の長がある。持効型インスリンアナログ(デテミル、グラルギン)登場前は中間型インスリン(NPH、レンテ)のほかに選択肢はなく(ウルトラレンテもあったが薬効が安定せず、ほとんど使用した経験がない)、1日数回の注射を必要とした。筆者自身は中間型インスリン投与時には不可避であった重症低血糖が、持効型インスリンアナログ、とりわけグラルギンの登場により大幅に減少したように感じているが、本研究はこの点も含めて、中間型インスリンと持効型インスリンアナログとの有用性をメタ解析およびネットワークメタ解析を用いて比較検討したものである。 「ネットワークメタ解析」は聞き慣れない用語であるが、単純にいえば、介入Aと介入Bとを比較した研究と、介入Aと介入Cとを比較した研究とを統合して、介入Bと介入Cとを比較する統計手法である。メタ解析は「他人のふんどしで相撲を取る」と揶揄されることが多いが、それの進化形であるネットワークメタ解析もその点は同様である。しかし今後は本論文のように、単なる薬剤の有効性(efficacy)ではなく、実臨床における有用性(effectiveness)を比較する研究(Comparative effectiveness research: CER)が主流となっていくと考えられる。その点で、本論文のlast authorがSharon E Straus(Sackett の弟子で、EBMのバイブルであるEvidence-Based Medicine: How to Practice and Teach It. Churchill Livingstone; 4th ed. 2010の筆頭著者)である点は注意しておいてよい。 論文の結論は、持効型インスリンアナログは中間型インスリンに比較して、よりHbA1cを低下させ、体重増加が少なく、重症低血糖が少ない、とするものであった。これらの点はわれわれの日常診療での経験と一致していると思われる。2型糖尿病患者においてはHbA1c 1%の低下により糖尿病関連エンドポイントが21%減少することが報告されているが1)、本論文で明らかにされたHbA1c 0.3%低下の成人1型糖尿病患者における臨床的意義については明らかではない。1型糖尿病患者においては、過去に重症低血糖を経験した場合、心血管イベント後の死亡率が増加することが明らかにされている2)。したがって、HbA1cの低下よりも重症低血糖の減少を評価すべきかもしれない。さらに両者の費用対効果も検討されているが、欧米と日本とでは1型糖尿病患者の有病率も、インスリン療法にかかる費用も異なるため、参考程度に留まる。 1型糖尿病患者の血糖管理は難しい。裏を返せば、それだけ医師としての職人技(art)が必要な領域であろう。しかし本論文に記されたような客観的事実(science)を基礎にしてこそ、医師としての職人技だと思われる。

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脳卒中急性期の高血圧管理は、効果がない? ~無数のCQに、臨床試験は応えられるのか -ENOS試験の教訓~(解説:石上 友章 氏)-279

 臨床試験は、臨床現場の葛藤に回答を与えてくれることが期待されている。結果の不確実な選択肢に対して、丁半博打のような行為を繰り返す愚を回避するための、有力で科学的な解決策である。しかし、臨床現場のクリニカル・クエスチョン(CQ)は、有限個であるとはいっても、無数に存在する。1つのCQに、1つの臨床試験が確度の高い回答を与えてくれるとは限らない。CQを解決するつもりで行った臨床試験が、未知のCQを発掘することもある。また、臨床試験にかかるコストは、費用だけではない。人的なコスト、時間的なコストも莫大にかかるので、こうしたコストに見合った結果が得られるのかは、重大な関心事であろう。 ENOS試験の結果、脳卒中急性期の高血圧を有する患者の90日後のmodified Rankin Scoreで評価する脳卒中後のperformanceについて、ニトログリセリン貼付剤の有効性は証明されなかった。一方、ニトログリセリン貼付剤による降圧効果は、有意に認められた。同時に、降圧薬を内服中だった対象について、降圧薬のon/offを比較したデザインの試験も実施したが、こちらも有意差がなかった。しかしながら、後者については、Barthel Index、 t-MMSE score、 TICS-M scoreには有意差がついており、発症前の降圧療法の継続は正当化される可能性がある。 脳卒中急性期の血圧上昇は、病態を修正する生理学的な適応なのか、あるいは出血を拡大する病態なのか、脳血流の維持をもたらす前者のような現象であれば、降圧療法は正当化されない可能性があるし、後者のような病態であれば、降圧療法は正当化されるであろう。ENOS試験では、急性期のニトログリセリン貼付剤による降圧は正当化されなかった。しかし、他の降圧薬の使用による降圧の有効性について、疑問を解決してはいない、新たな臨床試験が必要であろう。一方、ベースラインの降圧療法の継続は、正当化されそうである。 ENOS試験の結果は、脳卒中診療における重要なCQに回答を与える。しかし、本研究が、約12年にわたる(2001年7月20日~2013年10月14日)エントリー期間をかけていることは、少なからず驚愕に値する。本研究では、脳卒中急性期の誤嚥を意識して、経口薬ではなく貼付剤を選択している。研究に関わる資金源は、各国の公的な資金を元にしており、COIについても、中立性が高い。これほどの長期間にわたるサポートがなされたことは、敬意に値する。しかし12年の間に、脳卒中診療も激変しているだろう。どこまで時宜に即している研究か、一定の基準に基づいたEBMの定性的な評価も必要であろう。

79.

2型糖尿病患者におけるエンパワーメントと治療意思決定支援ツール(decision aids)(解説:住谷 哲 氏)-271

高血糖、高血圧、高コレステロール血症、喫煙のすべてに介入する多因子介入治療(multifactorial approach)が2型糖尿病治療において重要であることは論を俟たない1)。 しかし、この治療が成功するか否かは、患者自身が治療の意義を理解し、多くの治療介入に積極的に参加することに依存している。われわれ医療従事者が患者と向き合うのは診察室におけるごく短時間のみであり、その他の時間はすべて患者の自己管理下にある。この患者の自己管理能力を向上させることで治療を成功に導こうとする考えがエンパワーメント(適切な日本語訳がない)である。 ここでの自己管理能力とは、医療従事者の指示に従うだけではなく、医療従事者との対話を通じて、治療法そのものを自己決定する(shared decision making)ことをも含む広い概念である。本論文は治療意思決定支援ツール(decision aids)が、2型糖尿病患者のエンパワーメントに及ぼす影響を検討したものである。 方法はオランダ北部の18のプライマリケアクリニックに通院中の344例の2型糖尿病患者を通常診療群と治療意思決定支援ツール提供群に無作為に振り分け、1次エンドポイントとしては、治療ゴール達成への意思決定およびゴール達成に対する患者のエンパワーメントの程度をエンパワーメントスコアにより評価した。2次エンドポイントは経過を通じての高血糖、高血圧、高脂血症およびアルブミン尿に対する処方強化および禁煙とした。治療意思決定支援ツールは4つの領域(血糖、血圧、コレステロール、喫煙)から構成されており、それぞれHbA1c<7.0%、収縮期血圧<140mmHg、LDLコレステロール<2.5mmol/L(100mg/dL)、禁煙がゴールに設定されていた。さらに個々の患者のリスクをUKPDS risk engine2)を用いて計算し、たとえば「あなたと同じ年齢、性別の2型糖尿病患者さん100人の中で、16人が今後5年間に心筋梗塞になり、84人は心筋梗塞になりません。しかし、現時点ではあなたが、そのどちらに属しているかはわれわれにはわかりません。」のような説明が提供された。 さらに、4つの領域のいずれがゴール未達成であるか、それに対する治療を受けることによるbenefit およびharm、さらに治療の有効性に関する不確実性についても説明された。探索的検討として、情報提供がパソコンの画面上で提供される群と印刷された紙媒体で提供される群、および詳細情報がすべて提供される群と簡略化された情報が提供される群が2x2要因デザインを用いて比較された。 結果は1次エンドポイントには両群に差を認めなかった。2次エンドポイントについても、紙媒体を用いた治療意思決定支援ツール提供群において高脂血症薬の投与が強化されたのみであった。これらの結果は、2型糖尿病患者に、通常の診療に加えて治療意思決定支援ツールを追加してもエンパワーメントには結びつかないこと示している。しかし、治療意思決定支援ツールによる介入を実際に受けたのが同ツール提供群の46%に過ぎず、結果の解釈には慎重を要する。 世界中で最も多数の患者からの相談を受けている医療従事者はGoogleである、と皮肉まじりにいわれるように医療においてインターネットは必要不可欠になりつつある。もし今回の検討で用いられた治療意思決定支援ツールが有効であったならば、インターネットを通じてすべての2型糖尿病患者に情報が提供され、われわれの日常診療も大きな影響を受けたかもしれない。その点で、今回の結果はわれわれの日常診療の継続に少しの安心感を与えるといえよう。 さらに、論文の主旨とは離れるが、欧米におけるエンパワーメントとわが国のそれとの違いが浮き彫りにされている点も注目してよい。わが国でのエンパワーメントは、「いかにして患者のやる気を引き出すか?」のように情緒的な点に比重が置かれており、具体的な治療目標(HbA1c<7.0%のような数値目標)と、それを達成することによるアウトカム改善のエビデンスとを医療従事者と患者との間で共有したうえでのshared decision makingが行われているとはいい難い状況にある。エンパワーメントもEBMから無縁ではないことを再認識する必要があるだろう。

80.

EBMがもたらした、究極の“心血管イベント抑制”薬ポリピルは、実現するか(解説:石上 友章 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(224)より-

Lawらは、2009年BMJ誌に、冠動脈疾患、脳卒中の発症の予防に対する異なるクラスの降圧薬の効果を定量的に決定するとともに、降圧薬治療の適切な対象を検討する目的で、5種類の主要降圧薬群(チアジド系薬剤、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬)を対象にした、1966年~2007年の間の臨床試験、全147試験のメタ解析を行った結果を報告した1)。 そのなかで、コホートデータと短期間の介入研究のデータから、降圧薬の効果は、年齢、治療前血圧、降圧薬服薬数にかかわらず、降圧(収縮期、拡張期)の程度に依存していることを明らかにするとともに、3種類の降圧薬を各標準用量の半量で併用すれば、同じ対象集団にいずれかの降圧薬を単剤標準用量にて投与した場合に比べ、冠動脈疾患・脳卒中のリスクはより低下するだろうと予測している。著者らはこの結果から、個々に血圧を測定し適応患者のみを治療するのではなく、一定の年齢を超えたらすべての人を対象に血圧を下げることを提案している。 同時期のLancet誌には、固定用量配合剤(Polypill)を用いた、The Indian Polycap Study(TIPS)の結果が報告されている2)。TIPSの観察値は、Law and Waldらの理論値と、必ずしも一致していないが、両論文によって生活習慣病に対する“populational approach”による、心血管病リスク抑制の戦略の正当性が、一部証明されたといえる。 ニュージーランドで行われた、Selakらの研究は、Polypillをプライマリ・ケアの現場で行った最新の研究の結果を報告している3)。アドヒアランスの改善はもたらされているものの、リスク因子のコントロール、心血管イベントの抑制には差がない。Polypill群で、37%が投与を中断しており、副作用による中断が72%であった。 Polypillは、公衆衛生的な効果をもたらしても、個人衛生には直結しないことを、あらためて示唆している。当分の間は、生活習慣病に対する医師の個々の裁量は、尊重されるのだろうか。

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