腫瘍科の海外論文・最新ニュースアーカイブ

選択的グルココルチコイド受容体拮抗薬はプラチナ抵抗性卵巣がんに有効も、日本ではレジメン整備に課題(解説:前田裕斗氏)

グルココルチコイド受容体(GR)活性化は、化学療法抵抗性を誘導する。本研究はGR選択的拮抗薬であるrelacorilantとnab-パクリタキセルの治療効果をnab-パクリタキセル単独と比較した初のPhase3試験である。無増悪生存期間(Progression-free survival:PFS)が規定の評価基準を満たした(6.54ヵ月vs.5.52ヵ月)ため、全生存期間の最終解析を待たずに論文化となった。プラチナ抵抗性の卵巣がんは予後不良で知られており、今回新たな機序で効果的な化学療法が登場したことは臨床的に価値がある。日本ではnab-パクリタキセルは卵巣がん適応外である。薬理学上は当然パクリタキセルとの併用でもいいわけだが、前処置でも用いるステロイド製剤の効果を減弱してしまうため、そう簡単にはいかないだろう。relacorilant自体は経口で化学療法3日前より連日の内服になるため使用は簡便だが、これを活かしたレジメンの整備が日本における課題となる。

HR+/HER2-乳がんで術後S-1が本当に必要な再発リスク群は?/日本乳癌学会

 経口フッ化ピリミジン系薬剤S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)は、POTENT試験によって、HR+/HER2-乳がんに対する標準的な術後内分泌療法に1年間併用することで再発抑制効果が高まることが示され、2022年11月に適応が拡大した。しかし、POTENT試験の適格基準はStageI~IIIBと幅広く、再発リスク群によっては追加利益が得られないという報告もあるため、S-1の追加投与が本当に必要な患者に関する検討が求められていた。名古屋大学医学部附属病院の豊田 千裕氏らの研究グループは、S-1適応拡大以前の症例によるPOTENT試験に準じた適格基準別の予後を比較してS-1追加投与の意義について検討し、その結果を第33回日本乳癌学会学術総会で発表した。

前立腺全摘除術後3カ月以上のPSAモニタリングで過剰治療リスクが低減

 前立腺がんに対する根治的前立腺全摘除術(RP)後は前立腺特異抗原(PSA)値を3カ月以上にわたり測定することで、RP後の過剰治療リスクを最小限に抑えられる可能性があるという研究結果が「JAMA Oncology」に3月13日掲載された。  ハンブルク・エッペンドルフ大学病院(ドイツ)のDerya Tilki氏らは、RP後の持続的なPSA値を正確に記録するために必要なモニタリング期間について、コホート研究で調査を行った。この研究には、1992年から2020年の間に2カ所の大学病院でRPを受けたT1N0M0からT3N0M0の前立腺がん患者を対象とした。探索コホートには3万461人の患者が、検証コホートには1万2837人の患者が含まれた。

新型コロナでがん患者の自宅看取りが増加/がん研究センター

 国立がん研究センターがん対策研究所(所長:松岡 豊)は、2021年に死亡した患者の遺族を対象に、人生の最終段階で受けた医療や療養生活の実態を把握する全国調査を実施し、その結果をまとめ、公表した。  今回の調査は、新型コロナウイルス感染症の流行期とアンケート実施時期が重なったことから、特殊な社会環境下における人生の最終段階の医療や療養生活に関する情報も得られた。

ペムブロリズマブがHER2陽性切除不能胃がん1次治療に承認、14年ぶりのパラダイムシフト

 2025年5月、HER2陽性の治癒切除不能な進行・再発胃がんの1次治療において免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ペムブロリズマブ併用療法が承認された。これまでもHER2陰性胃がんには化学療法+ICI併用療法が使われてきたが、今回の適応拡大によりHER2発現にかかわらず、ペムブロリズマブが1次治療の選択肢として加わることになる。  6月23日にMSDが開催したメディアセミナーでは、愛知県がんセンターの室 圭氏が登壇し、「胃がん一次治療の新たな幕開け~HER2陽性・陰性にかかわらず免疫チェックポイント阻害薬が使用可能に~」と題した講演を行った。

腹腔鏡下手術vs.ロボット支援下手術、直腸がんの術後転帰に差

 直腸がんの手術では、狭い骨盤内での作業が必要となる。そのため、多関節アームやモーションスケーリング機能を備えたロボット支援下手術(RALS)を採用するメリットは大きい。今回、直腸がんにおけるRALSは、従来の腹腔鏡下手術(CLS)と比較して術後転帰が改善されるとする研究結果が報告された。出血量、術後C反応性蛋白(CRP)値、入院期間の点でCLSよりも有意な転帰の改善を示したという。研究は神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野の安藤正恭氏、松田武氏らによるもので、詳細は「Langenbeck's archives of surgery」に5月21日掲載された。

大腸がんスクリーニング、CT検査が便中DNA検査よりも有用か

 大腸がんのスクリーニングにおいては、マルチターゲット便中DNA検査(mt-sDNA検査)よりも大腸CT検査(CT Colonography;CTC)の方が、臨床的有効性と費用対効果の点で優れていることが、新たな研究で示された。米ウィスコンシン大学医学部・公衆衛生学部放射線医学・医学物理学分野のPerry Pickhardt氏らによるこの研究結果は、「Radiology」に6月10日掲載された。  大腸がんのスクリーニングでは、現在も大腸内視鏡検査が主流であるとPickhardt氏は説明する。大腸内視鏡検査は侵襲性が高いものの、検査中に前がん状態のポリープを切除できるため、依然として検診のゴールドスタンダードであるという。しかし、鎮静薬を使い、細くて柔軟なチューブを肛門から結腸に挿入するこの検査に不安を感じ、mt-sDNA検査かCTCを選択する患者は少なくない。mt-sDNA検査は、患者から採取した便サンプルに含まれるDNAを解析して腫瘍細胞に由来する変異遺伝子や異常なメチル化パターンなどを検出する。一方、CTCでは、肛門から炭酸ガスなどを注入して大腸を膨らませた状態でCT撮影を行い、ポリープなどの病変の有無を調べる。

再発/難治性多発性骨髄腫へのベネトクラクス+ボルテゾミブ+デキサメタゾン、BELLINI試験最終OS解析

 再発/難治多発性骨髄腫におけるボルテゾミブ+デキサメタゾンへのベネトクラクス上乗せの効果を検討した第III相BELLINI試験では、すでに主要評価項目である独立評価委員会による無増悪生存期間(PFS)は達成したが早期死亡率の増加を示したことが報告されている。今回、米国・Mayo ClinicのShaji K. Kumar氏らが、本試験の全生存期間(OS)の最終解析結果をLancet Haematology誌オンライン版2025年6月27日号で報告した。Kumar氏らは「OSはプラセボがベネトクラクスを上回り、PFSはベネトクラクスがプラセボを上回っていたことから、一般的な再発/難治性の多発性骨髄腫患者ではベネトクラクスの使用を避けるべきであることが示唆された」としている。

ピロリ除菌後の胃がんリスク~日本の大規模コホート

 Helicobacter pylori(H. pylori)感染は胃がんの主要なリスク因子である。わが国では2013年からH. pylori関連胃炎に対する除菌治療が保険適用に追加されたものの、2023年のがん死亡原因で胃がんが第4位であり、胃がん罹患率は依然として高い。今回、自治医科大学の菅野 健太郎氏らは、H. pylori関連胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃潰瘍および十二指腸潰瘍の患者におけるH. pylori除菌後の胃がんリスクの違いを大規模後ろ向きコホートで調査した。その結果、H. pylori関連胃炎と胃潰瘍の患者は十二指腸潰瘍患者よりも胃がんリスクが高く、H. pylori除菌後も胃萎縮が胃がんリスク因子として残ることが示唆された。BMC Gastroenterology誌2025年7月1日号に掲載。

AIが皮膚疾患に対する医師の診断精度を向上させる

 実験的なAIツールが、メラノーマ(悪性黒色腫)やその他の皮膚疾患の検出を迅速化するのに役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。この「PanDerm」と呼ばれるツールを医師が使用した場合、皮膚がんの診断精度が11%向上したことが示されたという。モナシュ大学(オーストラリア)情報技術学部AIM for Health研究室のZongyuan Ge氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に6月6日掲載された。  皮膚疾患の診断と治療には、領域横断的な高度な視覚的能力と、複数の画像診断法(モダリティ)からの情報を統合する能力を要する。しかし、現在の深層学習モデルは、ダーモスコピー画像からの皮膚がんの診断など特定のタスクでは優れているものの、臨床現場の複雑でマルチモーダルな情報の処理は得意ではない。こうした弱点を克服するために国際的な研究者チームによって開発されたPanDermは、11の医療機関から集められた4種類の画像モダリティにまたがる200万枚以上の皮膚画像でトレーニングされた、皮膚科領域のAIモデルである。