日本発エビデンス|page:31

日本人男性では米飯が心血管死リスクを下げる?

 日本人男性では、米の摂取量が多い方が心血管疾患による死亡リスクが低いという、有意な関連のあることが報告された。岐阜大学大学院医学系研究科疫学・予防医学の和田恵子氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月30日掲載された。なお、女性ではこの関連は認められないとのことだ。  日本人は欧米人より心血管疾患リスクが低いことが古くから知られている。日本人の主食は米であり、その消費量は欧米よりはるかに高い。これまで、米の摂取量と心血管死リスクとの関連を前向きに解析した研究の結果は一致しなかった。和田氏らは岐阜県高山市で行われている「高山スタディ」のデータを用いて、主食としての米の摂取量と心血管死リスクとの関連を、日本でよく食べられる他の主食であるパンや麺と比較しながら検討した。これら3つの主食と関連する食事パターンについても検討した。

スタチン服用の日本人患者で発がんリスクが有意に低下

 スタチン製剤の服用によって、日本人の脂質異常症患者の発がんリスクが低下したことが報告された。東京理科大学の前田絢子氏らが、保険請求データを用いた大規模な人口ベースの後ろ向きコホート研究を行い、スタチン製剤と日本人患者における発がんリスクの関係を調査した。近年の調査において、スタチン製剤が特定のがんの発生率を低下させる可能性が示唆されている。しかし、臨床試験では明らかにされておらず、日本人患者での調査も限定的であった。Cancer prevention research誌オンライン版2022年8月2日掲載。  本調査の対象は、2006~2015年に脂質異常症と新たに診断された患者。日本の保険請求データを用い、期間中にスタチン製剤を服用開始した群(服用群)と、年齢・性別・診断年に応じて無作為に抽出した非服用群を比較した。解析対象は各群23,746例で平均追跡期間は約2年、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて評価した。

日本人統合失調症患者における社会認知の認識調査

 社会認知は、統合失調症患者の社会機能に影響を及ぼす。しかし、患者自身が社会認知をどのように認識しているかは、ほとんど知られていない。東邦大学の内野 敬氏らは、統合失調症患者に対し、社会認知に関する知識、社会認知関連の臨床経験、社会生活における社会認知の役割の認識、社会認知の主観的困難感と社会機能の関係についてのインターネット調査を行った。その結果、統合失調症患者は社会認知に関して強く主観的困難を感じており、それが社会機能と関連していることを認識していたことが明らかとなった。しかし、「社会認知」という言葉やそれらに関する認識は十分とはいえず、社会認知の評価や治療は通常の臨床現場で普及していない可能性が示唆された。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2022年6月29日号の報告。

日本人アルツハイマー病高齢者の手段的日常生活動作に対する影響

 鹿児島大学の田平 隆行氏らは、地域在住のアルツハイマー病(AD)高齢者における認知機能障害の重症度による手段的日常生活動作(IADL)の特徴を明らかにするため、生活行為工程分析表(PADA-D)を用いた検討を行った。IADLの工程を詳細に分析した結果、著者らは、地域在住のAD高齢者において重症度による影響の有無といった工程の特徴を明らかにできるとし、IADLのリハビリテーションやケアが在宅での生活を継続するうえで役立つ可能性を報告した。International Psychogeriatrics誌オンライン版2022年7月15日号の報告。  日本の医療センターおよびケアセンター13施設より募集した地域在住のAD高齢者115例を対象に、横断的研究を実施した。認知機能障害の重症度はMMSEを用いて3群(軽度:20以上、中等度:20未満10以上、重度:10未満)に分類し、共変量で調整した後、IADLスコアとPADA-DのIADL 8項目について群間比較を行った。PADA-Dの各IADL項目に含まれる5つの実行可能なプロセスの割合を比較した。

パンデミック中の会話の少なさが希死念慮と関連―医学生での検討

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に実施された医学部の学生を対象とする調査から、他者との会話の頻度が週に1回未満の場合、希死念慮のリスクが有意に高いことが明らかになった。パーソナリティや友人の数、独居か否かなどの共変量を調整後も、この関係は有意だという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。

8種の中和抗体薬、BA.4/BA.5への有効性は?/東大医科学研究所

 新型コロナウイルスの研究を推進する東京大学医科学研究所の佐藤 佳氏らによる研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」は、新系統のBA.2.11、BA2.12.1、BA.4、BA.5を含むオミクロン株の各系統に対して、8種類の中和抗体薬の効果をin vitroで検証した。その結果、日本で未承認のbebtelovimabが、現在国内で主流となっているBA.5にも有効であることが確認された。本結果は、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2022年6月8日号のCORRESPONDENCEで報告。  研究対象となったのはFDA(米国食品医薬品局)で承認済み、および国内で一部承認済みの中和抗体薬で、カシリビマブ・イムデビマブ併用(商品名:ロナプリーブ、中外製薬)、ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ、GSK)、tixagevimab・cilgavimab併用(海外での商品名:Evusheld、AstraZeneca)、bebtelovimab(Lilly)、bamlanivimab・etesevimab併用(Lilly)となっている。

BA.4/BA.5に対するコロナ治療薬の効果を比較/NEJM

 国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第7波ではオミクロン株BA.5が主流となり、感染拡大が急速に進んでいる。また海外では、BA.4やBA.2.12.1への置き換わりが進んでいる地域もある。東京大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センターが共同で行った研究において、これらの新系統BA.2.12.1、BA.4、BA.5に対し、4種類の抗体薬と3種類の抗ウイルス薬についてin vitroでの有効性を検証したところ、国内で承認済みの抗ウイルス薬が有効性を維持していることが示唆された。

維持期統合失調症に対するアリピプラゾール月1回製剤と経口剤との比較~メタ解析

 藤田医科大学の岸 太郎氏らは、成人の維持期統合失調症治療においてアリピプラゾールの長時間作用型注射剤(アリピプラゾール月1回製剤、AOM)が経口剤(OARI)より有益であるかを検討するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。その結果、維持期統合失調症患者に対するAOMとOARIによる治療は、どちらも有効であったが、AOMのほうがより受容性が高いことが示唆された。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2022年7月5日号の報告。  AOM、OARI、プラセボのうち2つを含む二重盲検ランダム化比較試験のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。

大豆と認知症の関連を日本人を対象に調査~JPHC研究

 国立がん研究センターがん対策研究所の村井 詩子氏らは、日本人における大豆製品、個々の大豆食品(納豆、みそ、豆腐)、イソフラボンの摂取量とその後の認知症リスクとの関連を調査した。その結果、大豆製品の総摂取量と認知症リスク低下との関連は認められなかったが、女性(とくに60歳未満)では、納豆の摂取量と認知症リスク低下との関連が認められたことを報告した。European Journal of Nutrition誌オンライン版2022年7月5日号の報告。  男性1万8,991人、女性2万2,456人を対象に人口ベースのプロスペクティブ研究を実施した。大豆製品およびイソフラボンの摂取量を算出するため、1995年と1998年の調査(対象者の年齢:45~74歳時点)で収集した検証済み食物摂取頻度質問票のデータを参照した。認知症は、2006~16年の要介護認定情報における認知症関連の日常生活障害により定義した。大豆製品、個々の大豆食品、イソフラボンの1日当たりの摂取量を算出して五分位で分類し、対象を5群に分けた。認知症予防に対する多変量ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた。

熱中症に伴う急性腎障害の早期検出に適したマーカーは?―自衛隊富士病院

 熱中症に伴う急性腎障害(AKI)の検出能を、複数の尿バイオマーカーで比較検討した研究結果が報告された。5種類のバイオマーカーの中でL-FABPのクレアチニン補正値のみが、AKIの有無による有意差が見られ、かつ、血清クレアチニンやシスタチンCと有意に正相関したという。防衛医科大学校病院腎臓内分泌内科の後藤洋康氏らの研究によるもので、詳細は「Nephrology, Dialysis, Transplantation」に5月2日掲載された。  気候温暖化の影響で近年、夏季の熱中症の多発が社会的問題になっている。熱中症に伴いAKIを発症することがあり、それが急性転帰に影響を及ぼしたり、回復後に慢性腎臓病(CKD)へ移行する可能性があるため、AKIの速やかな診断と介入が求められる。そこで後藤氏らは、5種類の腎機能の尿バイオマーカーを用いて、熱中症関連AKIの診断能を比較した。

一次健診での肝線維化評価にFIB-4 indexは適していない?

 肝臓の線維化マーカーとして最近普及が進んでいる「FIB-4 index」について、一次健診への導入にはいくつかの留意点があることが明らかになった。広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学の田中純子氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Gastroenterology」に5月13日掲載された。高齢者では「線維化リスクあり、消化器科へコンサルテーション推奨」と判定される割合が極めて高くなる可能性があるという。  肝線維化が進行するほど、肝硬変や肝がんのリスクが高くなる。肝線維化の背景因子として、ウイルス性肝炎とアルコール性肝炎のほかに近年では、それらのいずれにも該当しない非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が増えている。NAFLDの一部は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、肝がんへと進行する。日本人のNAFLDの有病率は2~3割に上ると報告されており、そのような多くの患者の中から、NASH進行リスクの高い人をどのように効率よく割り出すかが問題になっている。

腎機能障害がCOVID-19重症化に独立して関連―国内多施設共同研究

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院時に腎機能障害を有することが、COVID-19重症化リスクと独立して有意に関連していることが国内の研究から明らかになった。横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター内科の佐藤亮佑氏、松澤泰志氏、同大学大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学の田村功一氏らによる多施設共同研究の結果であり、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に6月3日掲載された。  肺炎や尿路感染症などの感染症での入院時には、腎機能障害が予後に関連していることが既に知られている。ただしCOVID-19入院患者での腎機能と予後との関連は不明。松澤氏らはこの点について、国内8病院の入院患者のデータを遡及的に解析した。

AIとの会話がパーキンソン病患者の笑顔を増やす

 人工知能(AI)を用いた自動会話システム(チャットボット)との会話によって、パーキンソン病患者の笑顔が増えたり、発語障害が改善する可能性が報告された。順天堂大学大学院医学研究科神経内科の服部信孝氏、大山彦光氏らの研究によるもので、研究成果が「Parkinsonism & Related Disorders」に5月4日、短報として掲載された。  パーキンソン病は、神経伝達物質の一つであるドパミンが減って、運動機能が障害される病気。顔の筋肉も影響を受けるため、笑顔が減ったり発語しにくくなったりすることがあり、パーキンソン病の重症度や治療効果を評価する指標にもなっている。

介護保険による住宅改修の実情―視覚・認知機能障害へのサポートが不足

 介護保険の住宅改修費給付制度の利用状況を調査した結果が報告された。医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構の土屋瑠見子氏らの研究によるもの。認知機能障害や視覚障害による要支援者は、他の理由による要支援者よりも、住宅改修を行う割合が有意に低いことなどが明らかになった。詳細は、「BMC Geriatrics」に5月20日掲載された。  何らかの機能障害がある場合、その障害のタイプや程度に応じて住宅改修を行うことにより、転倒などによる受傷リスクが低下し生活の質(QOL)が維持され、死亡リスクが低下することが報告されている。介護保険制度でも、要支援・要介護認定を受けた場合には、住宅改修コストの1~3割、最大20万円まで助成され、手すりの設置、段差解消、便器の取替えなどが可能だ。土屋氏らは、この制度の利用状況と、障害のタイプ、性別、世帯収入などとの関連を詳細に検討した。

肉食のネコがマタタビの葉を噛むのはなぜか

 マタタビや西洋マタタビとも呼ばれるキャットニップ(イヌハッカ)をネコに与えると、葉を噛んだりなめたり、顔にこすりつけたり、葉の上を転がり回ったりする。ネコ科の動物に特有のこうした行動は、マタタビ反応と呼ばれる。しかし、ネコがマタタビの葉を噛んだりなめたりするのはなぜなのか。  岩手大学農学部応用生物科学科の宮崎雅雄氏らが実施した研究により、その謎が解明された。マタタビの葉を噛んだりなめたりするネコの行動には、マタタビ反応を増長させるとともに、葉に含まれるネペタラクトールという物質の放出量を増大させる作用のあることが明らかになったのだ。ネペタラクトールは、動植物において防御物質として機能するイリドイド化合物の一種である。この研究結果の詳細は、「iScience」に6月14日掲載された。

TRFと共同開発のダンスがコロナ禍の高齢者の認知機能を改善―東大先端研

 ダンス・ボーカルユニットのTRFと東京大学先端科学技術研究センターの研究グループが共同開発した高齢者向けのダンスが、認知機能や実行機能の改善に有効であることを示す、無作為化比較試験の結果が報告された。同研究センター身体情報学分野の宮崎敦子氏(研究時点の所属は理化学研究所)らによる論文が、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月19日掲載された。  運動に認知機能や実行機能(物事を考えて行動する機能)の低下を防ぐ効果があることが知られており、高齢者に対して運動が奨励されている。しかし新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより屋外での運動が制限される状況が長引いている。これを背景として宮崎氏らは、屋内でも行えるダンスを開発し、認知機能や実行機能に及ぼす影響を検討した。

片頭痛の有病率や割合を日本人で調査

 片頭痛は、反復性の頭痛発作で特徴付けられる慢性疾患であるにもかかわらず、日本におけるその疫学や治療状況に関して、最近の研究は十分に行われていない。埼玉精神神経センターの坂井 文彦氏らは、日本における片頭痛の有病率および治療状況を明らかにするため、健康保険協会員を対象に、レセプトデータおよび片頭痛・頭痛に関するオンライン調査のデータを用いて実態調査を行った。その結果、日本人片頭痛患者の80%が医療機関での治療を受けておらず、苦痛を感じながら日常生活を続けていることが明らかとなった。著者らは、革新的な治療アプローチが利用可能になることに併せ、片頭痛は単なる頭痛ではなく、診断や治療が必要な疾患であることを啓発していく必要があるとしている。The Journal of Headache and Pain誌2022年6月23日号の報告。

移植の予後に、筋肉の「質」が影響する可能性/京都大学

 造血器腫瘍治療で行われる同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)において、患者の筋肉の質及び量が移植後の予後に関係する可能性があるという。京都大学の濱田 涼太氏らによる本研究と結果はTransplantation and Cellular Therapy誌オンライン版2022年6月19日号に掲載され、京都大学は7月12日にプレスリリースを発表した。  骨格筋量の減少は、移植後の生存に影響を及ぼすことが複数の研究グループから報告されているが、このような骨格筋量の減少はコンピュータ断層撮影(CT)などを用いて評価されるため、脂肪変性が進行した「質の悪い」骨格筋においては骨格筋量が過大評価されてしまい、正確な評価が出来ていない可能性があるという。

認知症有病率の日本のコミュニティにおける20年間の推移

 認知症患者数は世界的に増加しており、とくに世界で最も高齢化が進む日本において、その傾向は顕著である。認知症高齢者の増加は、予防が必要な医学的および社会経済的な問題であるが、実情について十分に把握できているとはいえない。愛媛県・平成病院の清水 秀明氏らは、1997~2016年に4回実施した愛媛県中山町における認知症サブタイプ横断研究の結果を解析し、認知症有病率の経年的傾向について報告した。その結果、認知症の有病率は、人口の高齢化以上に増加しており、高齢化だけでない因子が関与している可能性が示唆された。著者らは、認知症高齢者の増加を食い止めるためには、認知症発症率、死亡率、予後の経年的傾向や認知症の増進・予防に関連する因子の解明および予防戦略の策定が必要であるとしている。Psychogeriatrics誌オンライン版2022年6月26日号の報告。

長寿を望まないと短命になる?―日本人4万人、25年の縦断解析

 長生きを望まない人は実際に短命になってしまう可能性を示すデータが報告された。日本人約4万人を四半世紀にわたり追跡した結果であり、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の辻一郎氏らによる論文が「Journal of Epidemiology」に5月5日掲載された。  この研究は、地域住民対象の疫学研究である「宮城県コホート研究」のデータを用いて行われた。宮城県コホート研究では、1990年に同県内の14市町村に住む40~64歳の住民全員5万1,921人を登録して、その後の健康状態を長期間追跡している。ベースライン時点で行ったアンケートで、「寿命についてどのように考えていますか」という質問に対して、「長いほどよい」「平均寿命ぐらいが良い」「平均寿命より短くてもよい」という回答から三者択一で選んでもらっていた。今回の研究では、その回答と実際の死亡リスクとの関連を調査した。