肉食のネコがマタタビの葉を噛むのはなぜか

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/19

 

 マタタビや西洋マタタビとも呼ばれるキャットニップ(イヌハッカ)をネコに与えると、葉を噛んだりなめたり、顔にこすりつけたり、葉の上を転がり回ったりする。ネコ科の動物に特有のこうした行動は、マタタビ反応と呼ばれる。しかし、ネコがマタタビの葉を噛んだりなめたりするのはなぜなのか。

 岩手大学農学部応用生物科学科の宮崎雅雄氏らが実施した研究により、その謎が解明された。マタタビの葉を噛んだりなめたりするネコの行動には、マタタビ反応を増長させるとともに、葉に含まれるネペタラクトールという物質の放出量を増大させる作用のあることが明らかになったのだ。ネペタラクトールは、動植物において防御物質として機能するイリドイド化合物の一種である。この研究結果の詳細は、「iScience」に6月14日掲載された。

 以前より、ネコのマタタビ反応は、イリドイド系に分類されるマタタビラクトン類と呼ばれる複数の化学物質により惹起されることが明らかにされていた。宮崎氏らは2021年に発表した研究で、ネペタラクトールがマタタビ反応を引き起こす強力な活性物質であり、またネペタラクトールに蚊の忌避効果があることを突き止めていた。しかし、肉食のネコがなぜマタタビの葉を噛んだりなめたりするのか、その理由は不明のままだった。

 そこで宮崎氏らは今回、ネコがマタタビの葉を噛んだりなめたりすることで、イリドイドの放出量がどう変化するのかを調べた。その結果、ネコに傷付けられた葉では、6種類中5種類のイリドイドの放出量が増え、イリドイド総放出量は無傷の葉からの放出量の約10倍に達することが明らかになった。

 また、放出されたイリドイドの組成比についても変化が認められた。無傷の葉では全体の8割以上がネペタラクトールだったのに対して、ネコが傷付けた葉ではネペタラクトールとマタタビラクトン類の組成比が同等近くに変化していた。さらに、傷付けられた葉から放出されるイリドイドに対しては、ネコの反応時間が大幅に長くなることも明らかになった。

 次に、ネコに傷付けられたマタタビの葉と無傷の葉を2枚の皿に入れて孔の空いた蓋を被せてネコに与え、マタタビ反応の違いを観察した。その結果、ネコは葉に直接触れることができなくてもなめたり噛んだりする行動を示し、その行動は傷付けられた葉に対しての方が長く続いた。さらにネペタラクトールとマタタビラクトン類を合成して、傷付けられた葉と無傷の葉に含まれるこれらの成分組成を再現したものを皿に入れて実験した場合でも、同じ結果であった。これらのことから宮崎氏は、「こうした行為は、イリドイドの嗅覚刺激によって誘発されるネコの本能的な行動であることが分かる」と指摘している。

 最後に、ネコにより傷付けられた葉と無傷の葉に含まれるイリドイドとの間で蚊の忌避効果に違いがあるのかを実験で確かめた。その結果、いずれにも蚊を追い払う効果が認められたものの、その効果は傷付けられた葉の成分での方が速く現れることが分かった。この結果について研究グループは、「葉を傷付けることでイリドイドの組成バランスが変化し、低い濃度でもその効果が高まるようだ」と説明している。

 宮崎氏は、「次のステップとして、ネコがマタタビやキャットニップを好む背景にある遺伝子を特定し、ネコ科の種だけが反応を示す理由や、一部のネコが反応を示さない理由を明らかにしたい」と述べている。

[2022年6月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら