日本発エビデンス|page:33

母親の育児ストレスと子供のADHDとの関連~日本の出生コホート研究

 注意欠如多動症(ADHD)は幼児期に発症し、その後、生涯にわたり影響を及ぼす疾患であるが、早期診断や介入により、臨床アウトカムの最適化を図ることができる。長期的または過度な育児ストレスは、ADHDなどの発達障害に先行してみられる乳児の行動の差異に影響している可能性があることから、幼少期の定期的評価には潜在的な価値があると考えられる。東京都医学総合研究所の遠藤 香織氏らは、母親の育児ストレスが子供のADHDリスクのマーカーとして利用可能かを明らかにするため、出産後1~36ヵ月間の母親の育児ストレスとその子供の青年期初期におけるADHDとの関連について、定期的に収集した自己報告を用いて調査を行った。その結果、出産後9~10ヵ月、18ヵ月、36ヵ月での育児ストレスと12歳時点での子供のADHD症状との関連が認められ、自己報告による育児ストレスのデータはADHDリスクの初期指標として有用である可能性が示唆された。このことから著者らは、ADHDの早期発見と介入を促進するためにも、幼少期の健康診断、育児ストレスの評価、家族のニーズに合わせた支援を行う必要があることを報告している。Frontiers in Psychiatry誌2022年4月28日号の報告。

統合失調症患者のクロザピン中止後の臨床アウトカム~システマティックレビュー

 治療抵抗性統合失調症に対するクロザピン治療は、ゴールデンスタンダードである。しかし、クロザピン治療でも約60%の患者は治療反応が得られず、クロザピン治療中止後の臨床アウトカムについては明らかになっていない。東京・大泉病院の三浦 元太郎氏らは、クロザピン治療中止後のアウトカムを明らかにするため、システマティックレビューを実施した。その結果、クロザピン治療中止後に臨床アウトカムは悪化しており、その後の治療として、クロザピン再投与やオランザピン治療が検討されていることを報告した。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2022年5月5日号の報告。

日本人統合失調症患者におけるQOLと臨床的要因の関係

 徳島・城南病院のYoshimune Ishii氏らは、統合失調症入院患者におけるQOLと臨床的要因の関係を明らかにするため検討を行った。その結果、抑うつ症状の治療が統合失調症入院患者の主観的QOLの改善に影響を及ぼす可能性が示唆された。The Journal of Medical Investigation誌2022年1.2号の報告。  対象は、統合失調症入院患者50例(平均年齢:56.48±11.93歳)。主観的QOLの評価には、統合失調症QOL尺度日本語版(JSQLS)および主観的ウェルビーイング評価尺度短縮版-日本語版(SWNS-J)を用い、認知機能の評価には、ミニメンタルステート検査(MMSE)-日本語版を用いた。うつ症状の重症度、精神症状、薬物誘発性錐体外路症状の評価には、それぞれ、カルガリー統合失調症用抑うつ症状評価尺度日本語版(JCDSS)、簡易精神症状評価尺度(BPRS)、薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)を用いた。JSQLSおよびSWNS-Jに影響を及ぼす因子を特定するため、段階的回帰分析を実施した。

心臓の病気が緑内障のリスク?―日本人での横断研究

 徐脈や心房細動などの不整脈、および左室肥大といった循環器系の病気が、緑内障のリスク因子であることを示唆するデータが報告された。JCHO三島総合病院眼科の鈴木幸久氏らの研究結果であり、詳細は「Biomedicines」に3月15日掲載された。  緑内障は眼圧(眼球内の内圧)が高いために、視神経が障害されて視野が狭くなる病気。緑内障の中でも患者数が多い開放隅角緑内障は、緑内障発作(眼圧が急上昇し、失明回避のため緊急治療が必要となる状態)は起きにくいものの、徐々に視野狭窄が進むタイプであり、眼圧を下げる点眼薬による治療を継続する。しかし、眼圧を十分に下げても視野狭窄が進んでしまうことがあり、眼圧以外のリスク因子もあると考えられている。

アルツハイマー病の脆弱性と出生した季節との関係

 愛知・国立長寿医療研究センターの安野 史彦氏らは、高齢のアルツハイマー病(AD)患者において、患者の出生した季節がADの病理学的脆弱性に及ぼす影響を評価するためPETを用いた検討を行った。その結果、秋冬に出生した人は、春夏に出生した人と比較し、タウ蓄積が少ないことが明らかとなった。これは、秋冬に出生した人のタウ病理に対する脆弱性を示唆しており、寒い季節関連のリスク因子による周産期または出生後の脳損傷が影響している可能性があるという。Psychogeriatrics誌オンライン版2022年4月26日号の報告。

かかりつけ医のあり/なしでパンデミック中の予防医療実施率に有意差

 かかりつけ医を持っている人はそうでない人に比べて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の予防医療の実施率が有意に高いというデータが報告された。東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部の青木拓也氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に3月16日掲載された。  COVID-19パンデミックにより、検診受診率やCOVID-19以外のワクチン接種率が低下したことで、予防可能な疾患の罹患率が将来的に上昇するのではないかとの懸念が高まっている。一方、かかりつけ医は疾患罹患時の治療のみでなく、住民のふだんからの健康管理を担っており、パンデミックのような特殊な状況下でもその役割に期待がかかる。そこで青木氏らは、パンデミック発生以降の一般市民の予防医療実施率が、かかりつけ医のあり/なしによって異なるか否かを検討した。

2018年西日本豪雨がベンゾジアゼピン使用に及ぼした影響

 自然災害は、メンタルヘルスに重大な影響を及ぼす。2018年7月の西日本豪雨は、日本で発生した最大級の洪水災害の1つである。広島大学の岡崎 悠治氏らは、災害前後のベンゾジアゼピン処方の変化について評価を行った。その結果、被災者における災害後のベンゾジアゼピン処方率が上昇し、その影響は1年以上継続していたことを報告した。Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology誌オンライン版2022年4月26日号の報告。  西日本豪雨による洪水被災地における、2017年7月~2019年6月のレセプト情報データベースに基づき、レトロスペクティブコホート研究を実施した。被災地域住民を、地方自治体の認定により被災者と非被災者に分類した。次に、災害前のベンゾジアゼピン使用状況に基づき、非使用者、頓服使用者、継続使用者の3群に分類した。災害前後のベンゾジアゼピン処方状況を比較し、被災地域住民における災害の影響を推定するため、ロジスティック回帰モデルを用いた差分の差分法(DID)分析を実施した。

育児休業を取った父親は赤ちゃんへの拒絶感が強い?―国内ネット調査

 父親が育児休業を取得することは、父子のボンディング(親の子どもに対する情緒的な絆)の強化につながらず、かえってマイナスの影響が生じてしまう可能性のあることを示唆する結果が報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究結果であり、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に4月2日掲載された。  本年4月に育児・介護休業法が改正され、男性の育児休業取得がより強く推奨されるようになった。しかし、父親の育休取得と子どもとの絆との関連は明らかになっていない。米国では良い影響が生まれるとの報告がある一方で、ドイツからは負の影響の懸念が報告されている。藤原氏らは、全国規模で実施されたインターネット調査「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」のデータを用いて、この点に関する検討を行った。

統合失調症に対するメタ認知トレーニングの有効性

 メタ認知トレーニング(MCT)は、統合失調症患者の精神症状や認知バイアスを改善するためのグループプログラムであるが、入院中の回復初期段階の統合失調症患者への介入効果は、あまりわかっていない。長野県・千曲荘病院の芳賀 彩織氏らは、日本の精神科救急病棟に入院している統合失調症患者の回復初期段階におけるMCTの有効性を調査した。その結果、MCTは精神症状、自己内省の不良、再入院の予防に有効である可能性が示唆された。Frontiers in Psychology誌2022年4月11日号の報告。

国内での新型コロナワクチンの有効性~多施設共同研究/日本感染症学会

 新型コロナウイルス感染症の発症予防における新型コロナワクチンの有効性を、全国の医療機関において検査陰性デザインを用いた症例対照研究を行い(VERSUS study [Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2])、国内においても海外で報告されたものとほぼ同等の有効性が認められた。4月22~23日にオンラインで開催された第96回日本感染症学会総会・学術講演会で、長崎大学の前田 遥氏が発表した。なお、本発表に含まれるデルタ株流行期の結果については、Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2022年4月19日号2)にも掲載されている。

日本人高齢者における野菜・果物の摂取と認知症リスク~久山町研究

 これまで、欧米で行われていたプロスペクティブ研究では、野菜や果物の摂取が認知症リスクを低下させることが示唆されている。しかし、アジア人を対象とした疫学的なエビデンスは限られていた。九州大学の木村 安美氏らは、日本人コミュニティにおける野菜や果物およびそれらの栄養素の摂取と認知症発症リスクと認知症サブタイプとの関連について調査を行った。その結果、野菜とその構成栄養素の摂取量が多いほど、日本人高齢者の認知症リスクが低下することを報告した。BMC Geriatrics誌2022年3月28日号の報告。

StageIAのNSCLC、区域切除が肺葉切除より優れる/Lancet

 Stage IAの非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、区域切除は肺葉切除と比べて5年全生存(OS)について優越性が示され、事前に規定した全サブグループでも、区域切除の同優越性が一貫して認められた。聖マリアンナ医科大学呼吸器外科主任教授の佐治久氏らが、日本国内70ヵ所の医療機関を通じて行った「JCOG0802/WJOG4607L試験」の結果を報告した。著者は、「本試験は、われわれの知る限りでは、肺野型NSCLCの全生存について、区域切除と肺葉切除のベネフィットを比較検討した初の試験で、結果は、区域切除を肺野型NSCLC患者の標準外科治療とすべきことを示唆するものであった」と述べている。Lancet誌2022年4月23日号掲載の報告。

中年期の生活環境とその後のうつ病との関連

 大阪大学の小川 憲人氏らは、一般集団における生活環境と精神科医によるうつ病診断との縦断的関連について、調査を行った。その結果、子供と一緒に暮らすことで、男性ではうつ病リスクの低下が認められ、うつ病予防における子供の影響が示唆された。Translational Psychiatry誌2022年4月11日号の報告。  1990年、多目的コホート研究(JPHC Study)において、40~59歳の日本人男性および女性1,254人が登録され、生活環境についてのアンケート調査に回答した。その後、2014~15年にメンタルヘルス検診を実施した。うつ病の診断は、十分な経験を積んだ精神科認定医による診察を通じて評価した。

双極性障害外来患者の雇用状況と不安定な期間の関係~MUSUBI研究

 産業医科大学の池ノ内 篤子氏らは、双極性障害外来患者における不安定な期間の長さと雇用状況との関連を調査した。その結果、不安定な期間が長い双極性障害患者では、失業リスクが高いことが示唆された。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2022年4月8日号の報告。  2016年9~10月に日本精神神経科診療所協会に所属する会員のクリニック176施設を受診した双極性障害外来患者を対象に、医療記録を調査した。医療や雇用に関する詳細データを収集するため、質問票を用いた。不安定な期間の長さと失業のオッズ比(OR)は、ロジスティック回帰モデルを用いて分析した。不安定な期間の長さは、短期(1年の1~33%)、中期(34~66%)、長期(67~100%)に分類し、評価した。

アルツハイマー病治療に対する薬物療法の組み合わせ

 認知症の中で最も頻度が高いアルツハイマー病の治療薬として現在本邦で承認されている薬剤は、3種類のコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)とメマンチンの4剤である。実臨床においては、神経変性疾患の多因子性病因に対応するため、単剤療法後の次のステップとして併用療法が用いられる。また、2021年6月に米国で迅速承認されたaducanumabは、脳内のアミロイドβ(Aβ)カスケードを標的とする初の疾患修飾療法(DMT)として注目されている。東京慈恵会医科大学の永田 智行氏らは、アルツハイマー病治療に対する薬物療法の組み合わせについて報告した。Expert Opinion on Pharmacotherapy誌2022年4月号の掲載。

日本人の身体活動と認知症リスク

 一日の身体活動(PA)や中等度以上の活発な身体活動(MVPA)と認知症との関連を明らかにするため、国立がん研究センターの井平 光氏らは、大規模長期フォローアップ・プロスペクティブ研究を実施した。その結果、とくに男性において休日のMVPAレベルの高さは、認知症リスクの低下に寄与する可能性が示唆された。JAMA Network Open誌2022年3月1日号の報告。  本プロスペクティブコホート研究は、2000~03年に国内8地域で行われた多目的コホート研究(JPHC Study)の認知障害プロスペクティブ研究(Prospective Disabling Dementia Study)で収集されたデータを用いて実施された。参加対象者は、認知障害に関する利用可能なフォローアップデータを有する成人50~79歳。毎日の総PA、総MVPA、休日のMVPAのデータを収集し、データ分析は2019年2月~2021年7月に行われた。主要アウトカムは、全国介護保険制度に基づく2006~16年(確認期間)の認知障害発生率とした。毎日の総PA、総MVPA、休日のMVPAに関連する認知症リスクは、多変量調整ハザード比(aHR)を用いて算出した。

日本人精神疾患患者における第2世代抗精神病薬治療後のHbA1cの閾値下変化

 第2世代抗精神病薬(SGA)の種類により糖尿病発症リスクが異なることは、いくつかの研究で報告されている。しかし、HbA1cの閾値下の変化に焦点を当てた研究は、ほとんどない。北海道大学の澤頭 亮氏らは、6種類のSGAのうち、いずれかを使用している日本人患者を対象に、HbA1cの閾値下およびBMIの変化について調査を行った。その結果、糖尿病リスクの高い患者に対しては、ブロナンセリン治療が最も有用な治療法である可能性が示唆された。The Journal of Clinical Psychiatry誌2022年3月30日号の報告。  本研究は、統合失調症患者に対し、日本の血糖モニタリングガイドラインに基づいてフォローアップ調査を実施したプロスペクティブコホート研究である。2013年4月~2015年3月の期間に、ベースライン時およびSGA治療開始3ヵ月後の時点で、患者の人口統計学的データ、薬歴、血液検査値、体重測定値を収集した。対象は、ICD-10に基づく統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害の患者378例。抗精神病薬による治療開始から3ヵ月後のHbA1cの閾値下およびBMIの変化を比較するため、多変量回帰分析を行った。

BRCA1/2遺伝子の病的バリアント、新たに3がん種との関連が明らかに/JAMA Oncol

 BRCA1/2遺伝子の病的バリアントは、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がんの発症リスク上昇に関与することが知られている。今回、日本人集団における世界最大規模のがん種横断的ゲノム解析が実施され、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントは上記4がん種のほかに胃がん、食道がん、胆道がんの発症リスクも上昇させることが示唆された。理化学研究所生命医科学研究センターの桃沢 幸秀氏らによるJAMA Oncology誌オンライン版2022年4月14日号への報告。  研究グループは、2003年4月~2018年3月にバイオバンク・ジャパンに登録されたデータを用いて、胆道がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がん、子宮体がん、食道がん、胃がん、肝がん、肺がん、リンパ腫、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎がんの14がん種における計10万3,261人(患者群6万5,108人、対照群3万8,153人)について、BRCA1/2遺伝子のゲノム解析を実施。データの解析は、2019年8月~2021年10月に行われた。

日本の小児および青少年に対する抗精神病薬の処方傾向

 日本における小児および青少年に対する抗精神病薬の処方パターンについては、とくに外来患者において、ほとんど知られていない。京都大学のSayuri Nakane氏らは、2006~12年に初めて抗精神病薬の処方を受けた17歳以下の外来患者における抗精神病薬の処方パターンおよび傾向を明らかにするため、大規模な調剤データセットを用いて調査を行った。Child Psychiatry and Human Development誌オンライン版2022年2月24日号の報告。  年齢、性別、診療科、処方薬の種類(単剤療法または多剤併用療法)、抗精神病薬の投与量、向精神薬の併用を調査した。

高圧処理後のブレンド玄米による認知症や2型糖尿病予防の可能性

 2型糖尿病は、アルツハイマー病のリスクを増加させることが報告されている。新潟薬科大学の中村 澄子氏らは、高圧処理米飯を用いた2型糖尿病および認知症の予防効果について、調査を行った。Foods (Basel, Switzerland) 誌2022年3月12日号の報告。  参加者24人を対象に12週間のランダム化並行群間比較試験を行った。糖尿病予防に超硬質米、認知症予防にワックスフリーの黒米玄米を取り入れ、これらに通常の玄米を4:4:2の割合でブレンドし、超高圧処理後に嗜好性の改善のためワックス状黒米ぬか2.5%と米ぬか油0.3%を加えた。主要アウトカムである認知機能の評価には、コグニトラックス(Cognitrax)を用いた。副次的アウトカムとして、介入試験完了時点の食後血糖値とインスリン分泌を評価するため、単回投与テストを実施した。