日本発エビデンス|page:28

毛髪を生み出すオルガノイド作成に成功―白髪や脱毛症の治療に期待

 生体外でも毛髪を生み出せる毛包オルガノイド(ミニ臓器)の作成に成功したとする論文が、「Science Advances」に10月21日掲載された。「ヘアフォリクロイド」と名付けられたこの毛包オルガノイドをマウスに移植すると、毛包が生着して毛髪が生え変わることも確認されたという。横浜国立大学大学院工学研究院の福田淳二氏らの研究によるもの。研究グループでは、白髪や脱毛症の治療薬の開発、毛髪再生医療への応用が期待されるとしている。  身体を構成する臓器や組織は、異なる種類の細胞からなる複雑な構造を持っていて、その発生過程では上皮系細胞と間葉系細胞の相互作用が重要。ただし、研究のために生体から分離した上皮系細胞と間葉系細胞を試験管内で培養しても、目的とする細胞への分化に必要な相互作用が起こらずに、目指す臓器や組織にはならない。毛根を包んでいる「毛包」についても、この2種類の細胞を用いたオルガノイドの作成が試みられてきているが、成熟した毛包の形成は成功していなかった。

がん患者の自殺リスクは診断直後が特に高い―全国がん登録データの解析

 がん診断後には、自殺や自殺以外の外因死(病気以外での死亡)、心血管死のリスクが有意に高く、特に診断後1カ月間の自殺リスクは一般人口の4倍以上に上るというデータが報告された。国立がん研究センターがん対策研究所と東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学の栗栖健氏、藤森麻衣子氏らの研究結果であり、「Cancer Medicine」に8月8日、論文が掲載された。  国内では2016年に全国がん登録事業がスタートし、現在はがんと診断された全ての患者のデータが収集され、がんの実態把握や治療・サポート体制の改善に生かされている。栗栖氏、藤森氏らはこのデータを用いて、がんと診断された後の自殺リスクなどを検討した。解析対象は、2016年の年始から年末までの1年間に、がんと診断された患者107万876人であり、死亡後にがんと診断された患者や年齢・性別が不明の患者、居住地が国外の患者などは除外されている。

日本人統合失調症患者における認知機能と社会機能との関係

 統合失調症患者の活動性低下、就労困難、予後不良には、社会機能障害が関連していると考えられる。統合失調症患者の社会機能には、注意力や処理速度などの認知機能が関連しているが、認知機能と社会機能との関連はあまりよくわかっていない。そのため、社会機能に影響を及ぼす因子を明らかにすることは、統合失調症の治療戦略を考えるうえで重要である。金沢医科大学の嶋田 貴充氏らは、統合失調症患者の社会機能に影響を及ぼす因子をレトロスペクティブに分析し、統合失調症患者の認知機能と社会機能との間に有意な相関が認められたことを報告した。Journal of Clinical Medicine Research誌2022年9月号の報告。

高齢化率世界一の日本のコロナ禍超過死亡率が低いのは?/東京慈恵医大

 新型コロナウイルス感染症流行前の60歳平均余命が、コロナ禍超過死亡率と強く相関していたことを、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島 充佳氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2022年10月19日掲載の報告。  新型コロナウイルス感染症は高齢者において死亡リスクがとくに高いため、世界一の高齢者大国である日本ではコロナの流行によって死亡率が高くなることが予想されていたが、実際には死亡率の増加が最も少ない国の1つである。

オミクロン株BA.4/5の病原性と増殖性、デルタ株よりも低いか/Nature

 東京大学医科学研究所の河岡 義裕氏らの研究グループは、新型コロナウイルスのオミクロン株BA.4/5について、感染した患者の臨床検体からウイルスを分離し、その性状についてハムスターを用いてin vivoで評価した。デルタ株およびBA.2と比較したところ、BA.4およびBA.5のハムスターにおける増殖性と病原性は、いずれもBA.2と同程度であったが、デルタ株と比べると低いことなどが明らかになった。本研究は、東京大学、国立国際医療研究センター、米国ウィスコンシン大学、国立感染症研究所、米国ユタ州立大学の共同で行われ、Nature誌オンライン版11月2日号に掲載された。  主な結果は以下のとおり。

乳がんの再発恐怖を認知行動療法アプリが軽減/名古屋市⽴⼤学ほか

 患者自身で認知行動療法を実施できるスマートフォンアプリを用いることで、乳がん患者の再発に対する恐怖が軽減したことを、名古屋市立大学大学院精神・認知・行動医学分野の明智 龍男氏らの共同研究グループが発表した。スマートフォンのアプリを用いることで通院などの負担を大きく軽減でき、場所や時間を選ばずに苦痛を和らげるための医療を受けられることが期待される。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版11月2日掲載の報告。

iPhoneを使った眼科検査の精度はいかに?

 モバイル網膜カメラで撮影した画像は視神経乳頭陥凹拡大の検出において、対面診療での眼科検査と比較して、有用であることが報告された。Cureus誌2022年8月17日号掲載の報告。  米国および世界における失明は予防可能であるが、健康保険の欠如や健康リテラシーの低さにより、眼科医療を受けられない人々が多く存在する。米国・NewYork-Presbyterian/Weill Cornell Medical CenterのDu Cheng氏らはiPhoneなどのデバイスおよび3Dプリンターでモバイル網膜カメラを開発し、ニューヨーク市で眼科検査のスクリーニングイベントを実施した。

不眠症患者の死亡リスクに対する睡眠薬の影響~J-MICC研究

 不眠症患者の死亡リスクに関する研究では、一貫した結果が得られていない。不眠症の治療では、睡眠のコントロールよりも、睡眠薬の使用が死亡リスクを高める可能性があるにもかかわらず、死亡リスクに対する睡眠薬の影響については、これまでよくわかっていなかった。佐賀大学医学部附属病院の祖川 倫太郎氏らは、日本の大規模サンプルにおける全死亡リスクと睡眠薬使用との関連を、併存疾患の影響を考慮したうえで評価した。その結果、睡眠薬の使用と全死亡率との間に、性別および年齢による関連性が観察されたことを報告した。Sleep Medicine誌オンライン版2022年9月28日号の報告。

便秘で認知機能低下が速まる可能性―AD、MCI患者での検討

 便秘のあるアルツハイマー病(AD)や軽度認知機能障害(MCI)の患者は、認知機能低下速度が速い可能性を示すデータが報告された。評価指標により影響の程度は異なるものの、最大で2.74倍の低下速度の差が認められたという。東北大学加齢医学研究所の中瀬泰然氏らによる後方視的研究の結果であり、詳細は「CNS Neuroscience & Therapeutics」に8月8日掲載された。  近年、腸の機能と脳の機能が互いに影響を及ぼし合う、「腸脳軸」または「腸脳相関」と呼ばれる関連が注目されており、例えば、腸内細菌叢の組成の変化が炎症反応などを介して中枢神経にダメージを与えることなどが報告されている。一方、便秘や認知症はともに高齢者に多く、両者が相互に関連して悪化・進行する可能性も考えられるが、その実態は不明な点が多い。

世帯所得が低い2型DMの男性は食物繊維が不足気味?

 世帯所得は日本人2型糖尿病(T2DM)患者の男性において、食物繊維摂取量および食事性酸負荷と関連することが報告された。Nutrients誌2022年8月7日号掲載の報告。  世界中で、T2DM患者の人口は増え続けている。教育レベル、職業、生活状況、世帯所得からなる社会経済的地位は、T2DMの有病率に影響を及ぼすことが知られている。京都府立医科大学の高橋 芙由子氏らはT2DM患者における世帯所得と習慣的な食事摂取、とくに食物繊維の摂取と食事性酸負荷との関連について調査した。

家族性腺腫性ポリポーシス、新たな治療戦略を日本で開発(J-FAPP Study III)

 京都府立医科大学の石川 秀樹氏らが大腸がんの超高危険群である家族性大腸腺腫症(FAP)患者に対し、予防のための内視鏡的積極的摘除術を世界で初めて開発したことがEndoscopy誌2022年10月10日号オンライン版に掲載された。  結腸全摘は、FAPの標準治療であるにもかかわらず、若年層のFAP患者が手術を延期したり、手術を拒否したりするケースもあるという。そこで、同氏らはFAP にきわめて多発する大腸ポリープのダウンステージングを目的とする積極的な内視鏡的摘除(IDP)の有効性を評価することを目的に内視鏡的積極的摘除術の多施設共同介入試験(J-FAPP Study III)を実施した。本試験は22施設で実施した単群介入研究で、参加者は2012年11月24日~2014年9月25日の間に登録。結腸切除術を受けていない、または結腸切除術を受けたが大腸が10cm以上残っている16歳以上で、100個のポリープがあったFAP患者を対象とした。IDPでは、10mm以上の大腸ポリープが摘除され、続いて5mm以上のポリープが摘除された。主要評価項目は5年間の介入期間中の結腸切除術の有無、副次評価項目は内視鏡による穿孔/出血、結腸直腸がんの発生、内視鏡治療に適さない腫瘍の発生、結腸直腸がんおよびその他の原因による死亡だった。

救急患者の低血糖の原因は副腎不全が意外に多い

 救急部門に収容された患者の低血糖の原因として、血糖降下薬、飲酒に続き、副腎不全が3番目に多いというデータが報告された。新小文字病院内分泌・糖尿病内科の河原哲也氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of the Endocrine Society」に8月4日掲載された。同氏は、「副腎不全による低血糖はわれわれが考えているよりもはるかに多い可能性がある。原因不明の低血糖症例では副腎機能を評価すべきと考えられる」と述べている。  低血糖の大半は原因を特定可能なものの、救急患者の低血糖の約1割は原因不明との報告も見られる。一方、低血糖の既知の原因の一つとして副腎不全が挙げられ、適切に治療されない場合、副腎クリーゼなどの重篤な状態につながる可能性がある。ただし、救急患者の低血糖原因としての副腎不全の実態は明らかにされていない。河原氏らは、同院の救急部門で低血糖が認められた患者を対象として、この点の詳細な検討を行った。

妊婦へのコロナワクチン接種をメタ解析、NICU入院や胎児死亡のリスク減

 妊娠中のCOVID-19ワクチン接種による周産期アウトカムへの影響について、有効性と安全性を評価するため、筑波大学附属病院 病院総合内科の渡邊 淳之氏ら日米研究グループによりシステマティックレビューとメタ解析が行われた。本研究の結果、ワクチン接種が新生児集中治療室(NICU)入院、子宮内胎児死亡、母親のSARS-CoV-2感染などのリスク低下と関連することや、在胎不当過小(SGA)、Apgarスコア低値、帝王切開分娩、産後出血、絨毛膜羊膜炎などといった分娩前後の有害事象のリスク上昇との関連がないことが示された。JAMA Pediatrics誌オンライン版2022年10月3日号に掲載の報告。

ビタミンD欠乏で筋力低下→サルコペニア発症の可能性/長寿研ほか

 ビタミンDが欠乏することで、将来的に筋力が低下してサルコペニア罹患率が上昇する可能性を、国立長寿医療研究センター運動器疾患研究部の細山 徹氏や、名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学の水野 隆文氏らの研究グループが発表した。  先行研究において、ビタミンDは加齢性の量的変動やサルコペニアとの関連性が指摘されていたが、それらの多くが培養細胞を用いた実験や横断的な疫学研究から得られたものであり、成熟した骨格筋に対するビタミンDの作用や加齢性疾患であるサルコペニアとの関連性を示す科学的根拠は十分ではなかった。Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌2022年10月13日掲載の報告。

センチネルリンパ節転移乳がん、ALNDとRNIの必要性についての検討/日本癌治療学会

 センチネルリンパ節転移陽性乳がんにおいて、腋窩リンパ節郭清(ALND)や領域リンパ節照射(RNI)がどのような症例で必要となるのかについては議論がある。Sentinel Node Navigation Surgery研究会では、センチネルリンパ節転移陽性例において、センチネルリンパ節生検(SNB)単独群とSNB後の腋窩リンパ節郭清(ALND)群を比較する多施設共同前向きコホート研究を実施。井本 滋氏(杏林大学)が、第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)で結果を報告した。  本研究では、cT1-3N0-1M0の女性乳がん患者を対象とし、組織学的または分子生物学的診断で1~3個のセンチネルリンパ節微小転移またはマクロ転移陽性が確認された場合に、医師の裁量でSNB単独またはALNDの追加を決定した。SNB前後の化学療法は可とし、両側および遊離腫瘍細胞(ITC)の症例は除外された。

小児期の継続的な受動喫煙は男児の肥満リスク

 小児期に継続的に受動喫煙にさらされることが、男児の肥満のリスクを高めることを示唆するデータが報告された。ただし、保護者が禁煙するなどにより状況が改善すると、肥満リスクは低下する可能性があるという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Pediatric Research」に8月13日掲載された。  世界的に小児肥満が増加しており、2016年の有病率は18%と報告されている。小児肥満は成人後の肥満につながることが多く、代謝性疾患や心血管疾患と、それらによる死亡を増加させることから、子どものうちに肥満を解消することが重要。

日本人女性における妊娠中のペットとの暮らしと産後1年までの精神症状~JECS研究

 これまで、ペットとの暮らしとメンタルヘルスとの関連についてさまざまな集団で調査されてきたが、精神症状に対する脆弱性が高まる出産前後の女性を対象とした研究は、あまり行われていなかった。富山大学の松村 健太氏らは、出産前後の女性におけるペットとの暮らしとメンタルヘルスとの関連について、調査を行った。その結果、周産期および産後の母親のメンタルヘルスに対し犬との暮らしは予防的に働き、猫との暮らしはリスク因子になることが示唆された。Social Science & Medicine誌2022年9月号の報告。

摂食速度の速い高齢糖尿病患者は筋肉量が減りにくい

 一般に「早食いは体に良くない」とされている。しかし、高齢2型糖尿病患者のサルコペニア予防という視点では、そうとは限らない可能性を示唆するデータが報告された。自己申告で「食べるのが速い」と回答した人は、筋肉量の低下速度が緩徐だという。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科の小林玄樹氏、松下記念病院糖尿病・内分泌科の橋本善隆氏、京都府立医科大学の福井道明氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に6月23日掲載された。  糖尿病患者に対しては、食欲にまかせた大食いを防いだり、食後高血糖の抑制のために、ゆっくり食べるように勧められることが多い。一方で近年、人口の高齢化に伴い、サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)を併発している糖尿病患者が増加し、高血糖による合併症ではなく、サルコペニアが予後を左右するようなケースの増加が指摘されている。サルコペニアの予防や改善には、タンパク質を中心とする栄養素の十分な摂取と、筋力トレーニングが必要とされる。加えて同研究グループでは、摂食速度がサルコペニアリスクと関連があることを、横断研究の結果として既に報告している。ただし、2型糖尿病患者の摂食速度が筋肉量の変化に影響を及ぼすか否かは不明であった。そこで小林氏らは、京都府立医科大学などが外来糖尿病患者を対象に行っている前向きコホート研究「KAMOGAWA-DMコホート」のデータを用いた縦断的解析を行った。

HER2低発現乳がんに対するNACの効果/日本癌治療学会

 乳がんのHER2発現は免疫染色法で0~3+に分類され、0、1+、2+で遺伝子増幅がない場合はHER2陰性として治療方針が決定されるが、近年、HER2低発現例は術前化学療法(NAC)の有効性からHER2非発現例とは異なるグループであることが示唆されている。甲南医療センター乳腺外科(前兵庫県立がんセンター)の高尾 信太郎氏は、HER2低発現乳がんとHER2非発現乳がんにおけるNAC施行後の有効性と予後の違いを比較検討し、第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)で発表した。

生活保護を受けている高齢者は自殺リスクが高い可能性

 近年、国内の自殺者数は一時期よりは減少したものの、高齢者では高止まりしている。そしてさらに、生活保護を受給している高齢者の自殺リスクは、非受給者よりも有意に高いことを示すデータが報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の木野志保氏(研究時の所属は京都大学大学院医学研究科社会疫学分野)らが、日本人高齢者を対象に行った調査の結果であり、詳細は「Journal of Epidemiology and Community Health」に7月20日掲載された。  高齢者の自殺リスクを高める主な原因は、健康問題と貧困の二つと考えられている。生活保護を受けることは貧困を意味しているが、これまでのところ、生活保護を受給している高齢者の自殺リスクは十分に検討されていない。そこで木野氏らは、全国の自治体が参加して行われている「日本老年学的評価研究(JAGES)」の2019年調査の回答者のデータを用いて、横断的な解析を行った。