人工関節治療の“侵襲”を最小限へ-Makoシステム

提供元:ケアネット

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公開日:2019/09/03

 

 日本では、年間約8万例の人工膝関節置換術、5万例以上の人工股関節全置換術が行われている。患者がこの人工関節置換術に期待するのは、痛みからの開放はもちろん、術後のQOLやADLを、いかにこれまでの生活水準に近づけられるかどうかということである。

 2019年8月6日、「整形外科領域における日本初のロボティックアーム手術支援システム『Makoシステム』が変える人工関節治療~人工関節置換術の革新性~」と題したプレスセミナーが開催(主催:日本ストライカー株式会社)された。セミナーでは、柴沼 均氏(神戸海星病院リウマチ・人工関節センター)が「Mako(メイコー)システム」(Mako)の臨床での有用性について解説し、デモンストレーションを行った。

Makoの特徴
 Makoとは、整形外科領域において日本で初めて承認されたロボティックアーム手術支援システムで、3次元ナビゲーションシステムにロボティックアームを取り入れたものである。患者個々のCTデータに基づく術前計画と3D画像化、ロボティックアームによる補助機能を搭載しているため、既存の人工関節術と比較して「術後回復が早く、軟部組織の安全性が担保される。これまで30分~1時間かけて行っていたPlanningの時間が不要になる」と同氏は特徴付けた。さらに、「ナビゲーションに従って手術器具を動かせる。そして、傷んだ骨だけを削るので、削る必要のない部分に差し掛かると止まる。患者の足が動いても制御されるため、血管損傷のリスクが回避できる」と、軟部組織温存や最小侵襲での手術による手術精度の向上、さらに早期リハビリ介入などの有用性について説明した。

 Makoは2019年6月1日付で人工股関節置換術に、7月1日付で人工膝関節全置換術についての保険適用を取得している。

既存システムvs.Mako
 同氏はマニュアル人工股関節術との比較研究を紹介。既存のマニュアル手術とMakoを用いた手術に対象者をそれぞれ50例ずつ割り付け、人工股関節の設置角度に関する正確性評価としてSafe ZoneをLewinnekとCallananでみたところ、Lewinnek(マニュアル:80%vs. Mako:100%)、Callanan(同:62%vs. 92%)という結果であった。同様に人工膝関節の症例において、それぞれ60例ずつ割り付けたところ、術後早期の疼痛は有意にMakoで低かったことが示された。

 このほか、ナビゲーションを使用して人工股関節手術を施行した群とMako使用群を比較すると、「入院期間の短縮は見られなかったが、杖つき自律歩行の開始や痛みの改善は、ほかの手術方法と比較して有意差をもって早かった」と同氏はコメントした。

 このようにMakoにより患者は痛みから早期に開放されるが、これ以外にも多くのベネフィットがあるという。以下に患者、医療従事者それぞれ対するベネフィットを示す。

<患者にとってのベネフィット>
・低侵襲での手術による、出血量の減少や術後の高い機能回復。さらに、術後疼痛の軽減や入院期間の短縮が期待できる
・手術技術の正確性による、脱臼率の低下や術後の高い機能回復。さらに、軟部組織の安全性担保や術後疼痛の軽減について期待できる

<医療従事者にとってのベネフィット>
・医師の手術負担の軽減につながる。また、手術器具の減少と準備効率化も可能になる
・操作範囲が明示されることで手技の客観的評価が可能となり、教育的意義も期待できる
・正確な骨切り、コンポーネントの設置により、良好な治療成績を期待できる
・軟部組織バランスや術中キネマティクスの評価が可能となるため、将来的な応用の可能性もある
・国内外への最新研究発表が可能

 最後に同氏は、これまでの手術と異なる点として「患者の骨とコンピュータ上のCTデータとの位置合わせ(レジストレーション)のため、大腿骨、脛骨部分にピンを埋め込まなければならず、そこに時間を要する。だが、慣れてくると5分くらいで完了するので、現在の手術時間とほぼ変わらない時間で手術可能」と自身の経験についてコメントした。

(ケアネット 土井 舞子)

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