早期診断が重症化を遅らせるゴーシェ病

提供元:ケアネット

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公開日:2016/12/08

 

 11月29日、サノフィ株式会社は、都内において「ゴーシェ病」に関するメディアセミナーを開催した。セミナーでは、疾患の概要ならびに成人ゴーシェ病患者の症例報告が行われた。ゴーシェ病とは、ライソゾーム病の1つで、先天性脂質代謝に異常を起こすまれな疾患である。小児から成人まで、あらゆる年齢で発症する可能性があり、肝脾腫、貧血、出血傾向、進行性の骨疾患など重篤な全身性の症状を引き起こす。

脾腫が触れ、血小板減少がみられたら想起して欲しい
 はじめに井田 博幸氏(東京慈恵会医科大学 小児科学講座 主任教授)が、「ゴーシェ病の診断と治療」と題し、疾患概要について説明を行った。

 ゴーシェ病は、ライソゾーム病の1種であり、疫学的にはユダヤ人で多く報告されている(450~4,000人に1人)。わが国では、50~100万人に1人と非常にまれな疾患であるが、進行性かつ重症化する例が多い疾患であるという。

 病型は、慢性非神経型のI型、急性神経型のII型、亜急性神経型のIII型の3型に分類され、とくに乳児に発生するII型は予後不良となる。わが国では、この3形態がほぼ同等数で発症している(他国では90%以上がI型発症)。

 主な症状としては、肝脾腫、腹部膨満、貧血、出血傾向などの全身症状、ゴーシェ細胞の骨髄浸潤、骨量減少、骨壊死などの骨症状、精神運動発達遅滞・退行、後弓反張、咽頭痙攣などの神経症状(II型、III型)がある。

 そして、診断では、スクリーニング検査として血液検査(血小板減少やヘモグロビン値低下)、画像診断(MRI所見で骨髄のまだら様所見など)、骨髄穿刺(ゴーシェ細胞の確認)が行われ、GBA(グルコセレブロシダーゼ)活性測定検査で活性低下、遺伝子検査で変異が確認されれば確定診断となるが、遺伝子検査は施設数の都合でほとんど行われていない。乳幼児発症例では、重症例が多いために疾患に比較的気付きやすいが、成人発症例では血液検査での血小板減少などで気付く場合が多い。「もし外来で肝脾腫や血小板減少を診断したら、本症も想起して欲しい」と井田氏はいう。

 本症の治療としては、酵素補充療法と基質合成抑制療法が主に行われている。酵素補充療法では、イミグルセラーゼ(商品名:セレザイム)とベラグルセラーゼ(同:ビプリブ)の両剤が保険適用となっており、患者は2週間ごとに点滴を受ける。効果としては、肝脾腫の改善、貧血症状の改善、骨痛の改善などが認められる。たとえばイミグルセラーゼの効果をみてみると、肝脾腫では24週くらいから減少が認められ、96週時点で平均減少率は肝臓31%(n=15)、脾臓59%(n=16)となった。また、血液についてヘモグロビン値は、24週で平均値が12.2g/dLまで改善し、以降、400週以上にわたり良好な状態を維持しているほか、血小板数も16週で平均値が正常範囲16.1×104/mm3に達し、同じく400週以上にわたり良好な状態を維持している1)

 基質合成抑制療法は、エリグルスタット(同:サテルガ)が保険適用となっており、こちらは経口薬として同じく肝脾腫の改善、貧血症状などを改善する。その他、中枢神経症状の治療に向けて、シャペロン療法の研究が進められている。

 最後に井田氏は、「ゴーシェ病は、多彩な症状を示すために、診断が遅れ、その結果病態が進行することがある。本症には、治療法があるので、早期診断、早期治療の意義をくんでもらいたい」とレクチャーをまとめた。

ゴーシェ病の早期診断のために
 次に原田 浩史氏(昭和大学藤が丘病院 血液内科 准教授)が、「血液内科が経験した成人ゴーシェ病患者」と題し、症例と血液内科の視点から本症の診断ポイントなどを解説した。

 症例は、3歳でゴーシェ病(III型)を発症し、18歳のときに脾腫で受診した女性。このときに脾臓を摘出し、経過観察では骨病変が進行傾向であり、イミグルセラーゼ投与前は肝臓触知、両側難聴、両眼の外転障害、股関節痛の歩行障害、高γグロブリン血症など多彩な症状を呈していた。

 その後、イミグルセラーゼ投与後、肝腫大、臨床検査所見の改善がみられたが、脾臓摘出のために大腿骨骨折などの骨病変の進行は続いた。早期に治療介入がなされていれば、虚血性骨壊死のリスクを低下させる2)ことが示唆された。

 次に血液内科における、本症診療の現状について説明した。全世界の血液内科医/腫瘍内科医(n=406)に肝脾腫や血小板減少などの一定の症例を示し、どのような疾患を想起するかアンケートをとったところ、本症想起はわずか20%しかなかったという。多くは、白血病、リンパ腫を想起し、血液内科でも見逃し例が多いのではないかと示唆を与えた。実際、脾腫と血小板減少で血液内科を受診した成人男性196例を対象とした本症有病数調査によれば、7例(3.6%)がゴーシェ病と診断されたという3)

 最後に原田氏は、「ゴーシェ病は血液疾患と症状が似ているために、まだ診断されずにいる患者も推測される。患者に脾腫と血小板減少の症状がみられたら本症を考慮し、早期診療につなげてもらいたい。血液内科医の役割は重要である」とレクチャーを終えた。

(ケアネット 稲川 進)

参考文献

1)井田博幸ほか. 小児科診療. 2013;76:1325-1334.
2)Mistry PK, et al. Br J Haematol. 2009;147:561-570.
3)Motta I, et al. Eur J Haematol. 2016;96:352-359.

関連サイト

LysoLife (ライソライフ)  

参考サイト

希少疾病ライブラリ ゴーシェ病