ER陽性乳がんへのタモキシフェン10年延長投与、再発・死亡リスクをさらに低下/Lancet

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2013/03/18

 

 エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者に対するタモキシフェン(商品名:ノルバデックスほか)補助療法について、10年間の長期投与が標準療法とされる5年投与と比べて、再発および死亡のリスクをさらに有意に低下することが、英国・オックスフォード大学のChristina Davies氏らによる「ATLAS試験」の結果、明らかにされた。これまでの検討で、診断後15年以内の同患者は、5年間のタモキシフェン補助療法によって、乳がん死のリスクが大幅に低下することが明らかになっていた。Lancet誌2013年3月9日号(オンライン版2012年12月5日号)掲載の報告。

5年補助療法完了患者を10年延長投与と終了群に無作為化し追跡
 ATLAS(Adjuvant Tamoxifen:Longer Against Shorter)試験は、早期乳がんへのタモキシフェン補助療法を10年まで延長した場合の、さらなる効果を評価することを目的とした無作為化試験であった。5年の補助療法を完了した1万2,894例を、10年間まで延長する群と、5年で終了する群(オープン対照群)に、コンピュータによって1対1に無作為に割り付け追跡した。被験者(1996~2005年の間に登録)は毎年、再発、二次性がんの発症、入院、死亡について追跡を受けた。

 本報告では、ER陽性乳がんであった6,846例における乳がんアウトカムへの延長治療の効果と、ERタイプを問わない(陽性、陰性、不明含む)全被験者の副作用に関する解析の結果が発表された。

効果は10年目以降のほうが大きい
 ER陽性乳がん患者6,846例において、延長投与群(3,428例)のほうが5年終了群(3,418例)よりも有意に乳がん再発のリスクが低かった(617例vs. 711例、p=0.002)。また乳がん死のリスク(331例vs. 397例、p=0.01)、全死亡(639例vs. 722例、p=0.01)も有意に低下した。

 乳がんの有害アウトカムの抑制効果は、10年目以降のほうが大きい傾向がみられた。すなわち、再発リスク(RR)は5~9年は0.90であったが、10年目以降は0.75であり、また乳がん死の5~9年のRRは0.97に対し、10年目以降は0.71であった。

 5~14年間の累積再発率は、延長投与群21.4%であったのに対し、5年終了群は25.1%であった。また同乳がん死は12.2%、15.0%、絶対差は2.8%であった。

 一方、ER陰性乳がん患者(1,248例)、ER不明乳がん患者(4,800例)の解析においては、延長投与群と5年終了群の乳がんアウトカムに関する差はみられなかった。

 全被験者1万2,894例における解析では、乳がんの再発がなく乳がん以外を原因とする死亡への影響については、治療の延長による効果はみられなかった[RR:0.99、95%信頼区間(CI):0.89~1.10、p=0.84]。

 疾患別にみた入院または死亡のリスク(RR)は次のとおりであった。肺塞栓症:1.87(p=0.01、両群死亡率0.2%)、脳卒中:1.06(p=0.63)、虚血性心疾患:0.76(p=0.02)、子宮がん:1.74(p=0.0002)。

 5~14年の子宮がんの累積リスクは、延長投与群3.1%(死亡率0.4%)に対し、5年終了群は1.6%(同0.2%)であった(死亡率の絶対差0.2%)。

 以上の結果を踏まえて著者は、「ER陽性乳がん患者へのタモキシフェン補助療法の10年間への延長投与は、5年で終了するよりもさらなる再発と死亡の低下をもたらすことが示された。この結果は、以前のタモキシフェン5年間投与と非投与を検討した試験の結果と合わせて、10年間のタモキシフェン補助療法は、診断後20年間の乳がん死亡を約半減する可能性があることを示唆するものである」と結論した。

(武藤まき:医療ライター)

専門家はこう見る

コメンテーター : 勝俣 範之( かつまた のりゆき ) 氏

日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 部長

J-CLEAR評議員