父親の脳卒中発症が子どもたちを医療の道へと導く―AHAニュース

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/10/18

 

 2012年12月23日の日曜日、米国カリフォルニア州に住む高校3年生のAlejandra Rosales Murilloさんは、教会で両親や姉妹とともに牧師の説話を聞いていた。その最中、父親の頬が垂れ下がっているのを見つけ、母親のMaria Rosales Murilloさんに小声でそれを伝えた。母親が夫のJose Rosales Camposさんに「具合が良くないのではないか」と尋ねると、49歳の夫は「きっとまたベル麻痺だ」と答えた。彼は1年前にベル麻痺を経験していた。

 この家族のささやきを目に留めた牧師は説話を中断し、Joseさんに「体調は問題ないか」と確認した。Joseさんはうなずいたが牧師は説話を短めに切り上げ、Joseさんのために聴衆とともに祈りをささげた。礼拝の後、牧師はJoseさんを病院に連れて行くように家族に勧めた。しかし、その日は19歳になる娘の誕生日を祝う食事が予定されており、彼はそれを計画どおり進めることを譲ろうとしなかった。

 教会からレストランは車ですぐの距離ではあるものの、国境を越えたメキシコにあった。レストランに向かう途中、Joseさんの話し方がおかしくなったため、家族はやはり病院に向かうことにした。しかし、Joseさんが加入している保険は米国内でのみ使えるものだったため診療を断られ、仕方なくカリフォルニアに引き返した。普段なら短時間で移動できる距離だが、その日はクリスマス休暇の旅行者で国境検問所が混雑しており、結局、教会を出てから病院到着まで4時間かかった。医師の診察によると、Joseさんはその時点で脳卒中を2回起こしていた。右半身が麻痺し、話すこともできなかった。

 その後、娘のAlejandraさんは病院に滞在した。英語を話せない両親のために通訳をしたり、この先どのように生活すれば良いのかを家族とともに考えた。また、脳卒中について勉強して、父親が今まで危険な状態にさらされていたことを知った。彼女の父親は肥満していて、ビールとピザとポークチョップが好物で、糖尿病と高血圧の薬を服用していた。「私の父は医者からよく『自分自身のケアをするように』と言われていたが、そうしようとしなかった」と彼女は思い出す。

 1週間の入院の後、Joseさんは退院した。車椅子から徐々に杖を使って歩けるようになったが、車椅子に戻ることもあった。以前は米国で小売業、メキシコでは葬祭業のスタッフとして働いていたが、どちらも離職し失業保険と障害保険での生活となった。妻のMariaさんは、夫の世話と仕事の両立を図った。家族は苦労した。Alejandraさんも高校を中退し仕事に就こうとしたが、両親の勧めで高校は卒業。その後は農業関連の仕事に就き、毎朝3時に起きる日が続いた。

 Alejandraさんのおかげで家族の経済的負担は軽くなった。しかしAlejandraさん本人は満足しておらず、キャリアを積んで人生を切り開いていきたいと考えていた。何より、父親をケアしている経験から、医療に関わる仕事に携わりたいと思った。そこで学生ローンを利用し、臨床助手として働くための学位を取得した。その後、父親が世話になった病院の受付などの仕事を経て、昨年からはケアマネージャーとして働いている。保険会社と連絡を取り、医師や患者が必要とする薬剤を円滑に利用できるようにサポートする仕事だ。リモートでもこなせるため、毎日、父親のケアも続けられている。

 Alejandraさんの妹の1人、Adriana Rosalesさんは父親が脳卒中を起こした時は12歳で、父親にとてもかわいがられていた。彼女もまた、人を助ける仕事に就きたいと思うようになり、現在はアリゾナ州の病院で看護師として働いている。「父親が脳卒中になるまで、家族が経済的にも精神的にも大変なことになるとは思っていなかった」と彼女は振り返る。

 いま、彼女たち姉妹は、家族が脳卒中のリスクについてもっと知っていたとしたら、状況はどう変わっていたのだろうかと、しばしば思いを巡らすという。彼女たちによると、父親の脳卒中のリスクは、ヒスパニック系の文化や伝統の影響を受けて上昇した可能性が考えられるとのことだ。つまり、彼らが普段食べる食品の多くは、健康的な食品とされているものではなく、また、ヒスパニック系の人々は高血圧や肥満、2型糖尿病の有病率が高いにもかかわらず、健康について語ることを避けようとする傾向があるという。

 「私たちの目標は、私たちのコミュニティーの中で脳卒中に対する意識を高めていくことだ。脳卒中が患者本人だけでなく、患者を取り巻くすべての人に、どれだけ影響を及ぼすのか、もっと多くの人に知ってもらいたい」とAlejandraさんは語っている。

[2022年9月15日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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