HIVの流行終結を目指す取り組みとは

提供元:ケアネット

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公開日:2023/10/17

 

 HIV感染症は、医療の進歩により、もはや死に至る病気ではなくなった。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、2030年までにHIV流行を終結する目標を発表しており、HIV流行終結に向けた対策は世界的に推進されている。一方、日本においては、HIV/エイズの適切な予防・検査・治療の推進に加え、誤解の解消と正しい情報の提供が喫緊の課題とされている。2023年10月5日、「2030年までのHIV流行の終結に向けた道筋とは」をテーマとした、ギリアド・サイエンシズ主催のメディアセミナーが開催された。

HIV流行終結を目指す取り組み

 HIV感染症の治療法が進歩し続けているにもかかわらず、HIVは依然として公衆衛生上の課題のままである。そのような中、ギリアド・サイエンシズは治療薬および予防薬の開発を推進し、さらに予防ツールとしてのPrEP(曝露前予防内服、「プレップ」と呼ばれる)により新規感染リスクの軽減に貢献している。同社社長のケネット・ブライスティング氏は「世界中の、そして日本においてHIVの終結を目指している。その実現のため、医療専門家や行政とも連携を深めながら、2021年に6つの団体(ぷれいす東京、JaNP+、はばたき福祉事業団、akta、community center ZEL、魅惑的倶楽部)と設立した『HIV/AIDS GAP6』と共同で、HIVの検査・予防、社会的差別などの未解決課題に取り組んでいる」と語った。

早期治療開始が重要

 杉浦 亙氏(国立国際医療研究センター 臨床研究センター長)からは、HIVの克服に向けた40年の歩みと今後の対策について語られた。

 1981年に認識されたHIVは、全世界で約4,000万人の命を奪ってきた。現在も約3,900万人がHIV陽性であり、年間約160万人が新たな感染者となっている。杉浦氏はとくに薬剤治療の進歩と、それにまつわる治療について、「約40年間にHIV治療薬として32の化合物が開発されているが、新しい薬の開発は次第に時間がかかるようになってきている。また、早期治療開始による感染予防の有用性を検討したHPTN 052試験によると、早期治療がHIV感染リスク等の減少に寄与するとわかっている」と説明した。

 こうした背景から、今後の課題について杉浦氏はHIV検査の重要性を強調し、とくに新規感染者の把握とそれに続く治療の開始が必要である、と述べた。UNAIDSは2030年までにHIVの流行終結を目指しているが、杉浦氏はUNAIDSが掲げる2025年までの治療目標「95-95-95」、そして「3つのゼロ」戦略について、これらは今後の方針として全世界で追求されていると紹介した。

 日本においてもHIV検査の増加と、検査から治療開始までのプロセスの強化が必要とされている。杉浦氏は「日本では新規診断例は減少傾向にみえるが、目標達成にはまだ不十分である。検査の機会を増やし、感染者を診断し治療を始めることが、HIV感染者のQOL向上と感染の抑制に寄与し、今後のHIV対策の鍵となる」と語った。

 なお、「95-95-95」および「3つのゼロ」戦略の目標は以下のとおりである。

95-95-95:
・HIV感染者の95%が自身のHIV感染を把握している
・HIVと診断された人の95%が継続的なART(抗レトロウイルス療法)を受けている
・ARTを受けている人の95%がウイルス学的抑制を達成している

3つのゼロ:
・差別をゼロにする
・新たなHIV感染をゼロにする
・AIDS関連死をゼロにする

HIV/AIDS GAP6が提唱する社会全体で目指すべき施策

 本セミナーのパネルディスカッションでは、「HIV/AIDS GAP6」の各メンバー6人と、医師である田沼 順子氏(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター 医療情報室長)による、HIV/エイズの終結に向けた議論が行われた。

 国内外で展開されているHIVの流行終結への道のりには、HIV検査機会や感染予防の選択肢、また社会全体における理解度に関して、多くの課題が存在している。こうした中、HIV/AIDS GAP6は2023年8月に、HIV/エイズの流行終結に向けた要望書を厚生労働省に提出している。要望書では、「1. HIVの流行終結の目標発表と具体的な方策の策定」「2. HIV検査機会の多様化について」「3. 地域で安心して医療が受けられるHIV陽性者への医療提供体制の整備について」「4. HIV感染予防のための選択肢の拡充及び啓発について」「5. HIV/エイズに対する社会全体の理解向上に向けた対策について」の5項目が提案されている。

 要望書を提出した背景と共に、HIV/エイズに関する現状が各メンバーから語られた。

 検査機会について、akta理事長の岩橋 恒太氏は、「現在、郵送によるHIV検査もあるが、国の検査体制としての位置付けが明確でなく、郵送検査による結果を受け取ったほうが次の確認検査や治療につながっているのかという点で、まだ十分とは言えない。検査から治療までつなげるサポート体制が重要である」と語った。

 加えて、HIV陽性者が地域で診療を受ける際にもハードルがあるという。たとえば、整形外科や眼科などを受診する際、通常の診療所では受診を断られてしまうことも少なくない。受診可能な遠くの拠点病院などへの通院は経済的な負担になっており、医療従事者におけるHIVに対する正しい理解と、HIV陽性者の受診が可能な診療体制の構築が求められている。

 また、感染予防のための対策・啓発については、コンビネーション予防が挙げられている。当事者のニーズに合わせた感染予防の選択肢があるべきであり、コンドームやPrEPなど、複数の予防策を組み合わせることが大切である。そのうえで、社会全体としては流行終結に向けて、スティグマと差別を減らす介入などの構造的な面や、感染リスクを低減するためのケアといった行動学的な面も合わせた啓発活動が望まれる。PrEPに対して田沼氏は、「個人輸入で薬を提供している診療所もあるが、安全性などの情報が十分に提供されているのかという課題もあり、本来であれば検査とセットで提供されるべきものではないか」と指摘し、PrEPの制度化の必要性を語った。

 ディスカッションの最後には、社会全体におけるHIVへの理解の重要性が述べられた。魅惑的倶楽部理事長の鈴木 恵子氏は、「啓発活動を続けている中で、一般の方々や行政においてもHIVに対する関心が少し薄いのではないか、と感じることがある。HIVに関する理解度の低さから偏見が生じてしまっているため、HIVを人権の1つと捉えて、連携した取り組みからの理解度向上が必要である」と締めくくった。

(ケアネット)