「リウマチ治療のブレークスルーとなりうるか」 JAK1/2阻害剤baricitinib第III相国際共同臨床試験日本人部分集団解析より

提供元:ケアネット

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公開日:2016/04/26

 

 長足の進歩を遂げてきた関節リウマチ(RA)治療であるが、それでもいまだ解決されない課題も存在する。多くの臨床医にとって頭の痛い問題は、アンカードラッグであるメトトレキサート(MTX)に不耐となった場合、十分な有効性を示す治療オプションが限定されていることである。また、MTX不応となり、生物学的製剤を選択する場合、多くの生物学的製剤がMTX併用下で有用性を示しているため、MTXを併用せざるを得ないことが多く、単剤で十分な有効性を示す治療選択肢がきわめて少ないことも課題といえよう。
 baricitinib(以下Bari)は、現在臨床開発中の新規JAK1/2阻害剤であり、リウマチ治療のアンメットメディカルニーズを解決するために、複数の野心的な第III相臨床試験が実施されている。第60回日本リウマチ学会総会・学術集会(2016年4月、横浜)において、2件の第III相国際共同臨床試験の結果が発表された。注目を集める薬剤であるBariの第III相試験の国内初の発表でもあり、会場はセッション開始前から多くの立ち見聴講者であふれ関心の高さがうかがわれた。

RA-BEGIN試験
 慶應義塾大学医学部リウマチ内科教授 竹内 勤氏よりDMARDsナイーブである早期RA患者を対象に、Bari単剤群、MTX単剤群、Bari+MTX併用群の3群間で有効性および安全性を比較検討した第III相国際共同無作為化二重盲検試験の結果が発表された(日本人部分集団解析は以下カッコ内に示す)。本試験は、588例(104例)のDMARDsナイーブである早期RA患者を対象に行われ、Bariは単剤群、併用群ともに1日1回4mgを経口投与された。本試験の観察期間は52週であり、主要評価項目は24週時点におけるACR20を達成した患者割合であった。
 24週時のACR20を達成した患者割合は、Bari単剤群で76.7%(72.4%)、MTX単剤群で61.9%(69.4%)、Bari+MTX併用群で78.1%(71.8%)であった。全集団における解析では、Bariを含む群はMTX群に比べ非劣性を示したのみならず、有意に高い(p<0.01)ことが示された。疾患活動性、身体機能および患者報告によるアウトカムの改善においても、Bariを含む群はMTX群に比べ有意に高い改善を示した。関節破壊進展の抑制はBari+MTX併用群で有意に高い抑制効果が認められた。52週時点での有害事象発現割合はBari単剤群で71.1%(96.6%)、MTX単剤群で71.9%(83.3%)、Bari+MTX併用群で77.7%(92.3%)であった。感染症に関して結核の発症は認められなかったが、日本人集団ではいずれの群においても6~10%の頻度で帯状疱疹の発症が認められ、これは非日本人集団に比べ高い発症割合だった。
 日本人集団では、症例数が少ないことに起因すると考えても看過できない患者背景間のばらつきが生じており、MTX単剤群では他の2群に比べ軽症例が多く含まれていたことから、竹内氏は結果の解釈に留意が必要としながらも、「全集団の結果から、Bariは高い有効性と安全性を示す薬剤である」と述べ、本剤への期待感を示した。
注記:日本人部分集団は症例数が少なく差の検出力が不足しているため、群間差の解釈は全集団の解析結果を記載

RA-BEAM試験
 産業医科大学第1内科教授 田中 良哉氏より、MTX不応例を対象としたBari+MTX群とアダリムマブ(ADA)+MTX群、プラセボ+MTX群を直接比較した第III相国際共同無作為化二重盲検試験の結果が発表された(日本人部分集団解析は以下カッコ内に示す)。本試験は1,305例(249例)の一定量以上のMTXが投与されている活動性RA患者を対象に行われ、Bariは1日1回4mgを経口投与、ADAは40mg隔週皮下投与が行われた。本試験の観察期間は52週であり、主要評価項目は12週時点におけるACR20を達成した患者割合であった。
 12週時のACR20を達成した患者割合は、Bari+MTX群で70%(67%)、ADA+MTX群で61%(60%)、プラセボ+MTX群で40%(34%)であった。全集団における解析では、Bari+MTX群はADA+MTX群に比べ有意に高い(p≦0.05)ことが示された。また、DAS28-CRPの変化量も8週目以降でBari+MTXはADA+MTXに比べ有意に大きいことが示された。24週時での有害事象発現割合はBari+MTX群で70.8%(84.9%)、ADA+MTX群で67.0%(84.9%)、プラセボ+MTX群で60.0%(68.8%)であり、プラセボ群に比べ、Bari+MTX群、ADA+MTX群で発現割合が高い結果となった。重篤な有害事象の発現割合は、Bari+MTX群とADA+MTX群では同程度の発現割合であった。
 田中氏は、「生物学的製剤よりも高い有効性と同様の安全性を示す経口剤が初めて登場した」と驚きをもってコメントし、さらに「ADA群に比べBari群では主治医の全般評価のみならず患者申告の全般評価においても、より早い段階から高い改善を示し、なかでも、朝のこわばりや痛み、倦怠感といったQOLを阻害しうる自覚症状の改善にも有用な薬剤であることが示された」と述べ、口演を終えた。
注記:日本人部分集団は症例数が少なく差の検出力が不足しているため、群間差の解釈は全集団の解析結果を記載

懸念されてきたJAK阻害剤としての有害事象
 JAK阻害剤に分類され臨床応用されている薬剤は2剤あり、baricitinibの臨床試験ではそれらの薬剤に特徴的な有害事象の発現に対しとくに注意深いモニタリングが行われている。トファシチニブ(主にJAK 1と3を阻害)で問題となっている日和見感染症発症に対する影響1)、および、3系統の血球がクローナルな増殖を来す骨髄増殖性疾患である真性多血症、骨髄線維症に対し臨床応用されているルキソリチニブ(主にJAK 1と2を阻害)の作用の一つが各血球数の減少である2)3)ことから、baricitinib投与による造血機能への影響が懸念された。
 今回の2件の臨床試験では、ニューモシスチス肺炎(PCP)や結核などの日和見感染症の発症を増加させず、3系統の血球変動もほぼ許容できる範囲の結果であった。しかしながら、これらの結果は、あくまでも短期的かつ日常臨床とは異なる環境で行われた臨床試験によるものである。近い将来、本剤の臨床応用が可能になった際、上述したリスクを念頭に適正に使用することが求められるであろう。本剤の適正使用が確立された暁には、リウマチ治療のブレークスルーとなりうるポテンシャルを秘めた薬剤となると考えられる。

(ケアネット 原 雄太郎)