スポーツ医学普及に「サッカードクターネットワーク」キックオフ

提供元:ケアネット

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公開日:2013/10/08

 

 2013年9月28日(土)、「サッカードクターネットワーク」のキックオフイベントがNPO法人医桜主催、株式会社東芝およびインテル株式会社の協賛、学会放送株式会社の協力のもと都内で開催された。

 サッカードクターネットワークは、Windows8アプリと東芝の携帯端末を用いてスポーツ医学に特化した情報共有を行う本邦初の取り組み。登録した医師間での写真・動画の投稿、閲覧を実現し、選手の傷病予防や治療・リハビリ等の情報を医師同士で知見を共有するとともに、経験豊かなスポーツドクターからのアドバイスを遠隔で受けることが可能になるというもの。

 今回は、「スポーツ医療とICT」をテーマに、サッカードクターネットワークの機能紹介と、佐藤 俊介氏(佐藤病院院長 栃木県サッカー協会医事委員会委員長)、大場 俊二氏(大場整形外科院長、日本サッカー協会評議会)、寛田 司氏(寛田クリニック院長、サンフレッチェ広島チーフチームドクター)、宮川 一郎氏(習志野整形外科内科院長)の4名のパネリストによる講演とパネルディスカッションが行われた。

 発起人である佐藤氏は、「画像診断、関節鏡手術の技術向上など日本のスポーツ医学は近年急速な進歩を遂げているものの、それがスポーツ現場にフィードバックされているとはいえない。進んだスポーツ医学の恩恵にあずかることができるのは一部のトップアスリートのみであり、とくに地方の草の根レベルの子どもたちに対してのフィードバックは不十分だといえる。チームドクター活動やスポーツ指導者への啓発活動など、地域におけるスポーツ医学の普及に長年努力しているものの、現在でもけがや故障に悩まされているサッカー少年は数多くいる。この現状を打破するべく全国のサッカードクターが知恵を出し合い、スポーツ現場で生かせる医学知識や健康管理法を標準化・平準化させ、それをコンテンツとしてITを活用し全国のスポーツ現場で利用できるようなシステムを構築したいと考え、東芝とインテルの協力を得て、この会を立ち上げた」と述べた。

 また、腰痛で受診する子供の4分の1が疲労骨折であるが、レントゲンで異常が認められず放置され腰椎分離症に移行してしまうことも少なくない。腰椎分離症は進行すると癒合できない(大場氏)。そのような事態を防ぐためにも、スポーツ現場で医療機関受診の必要性を判断できることが重要である。しかし、スポーツ指導者の医療の知識はまだ不十分であり、また研修会などの啓発イベントを催しても練習や試合で忙しく出席できない。そこで大場氏は、チーム内でのメディカルマネージャー設置の必要性を強調。自ら大分サッカー協会の専務理事となり、大分県内のU—15サッカーリーグでのメディカルマネージャー登録を義務化するに至った。一方、アスリートに障害を起こすリスクのある誤ったトレーニング方法も数多く流れている、と寛田氏は警鐘を鳴らす。このようなことを防ぐためにも、スポーツ指導者を含む関係者への適切な情報提供は欠かせないといえよう。

 さらに、受け皿となる診療側の問題も残っている。こうした適切な医療を草の根で提供するためにも、全国のクリニックレベルの活動が必要になる。しかし、一般診療における適正なスポーツ医学の啓発は十分とはいえない。それは整形外科領域においても、例外ではない。寛田氏は、「スポーツ整形で有名なのは手術するところ。本来は保存的治療、外傷防止をできるところが良い医療機関である。ヨーロッパでは徒手医学として理学療法も含めた医学が普及しており、手術主体の日本の医学とは一線を画している」と言う。

 最後に、このアプリの実現による、医療者の知識レベルの底上げ、試合中の事故など緊急時のオンラインによるカンファレンスの可能性など、多くの期待が述べられた。佐藤氏は、「まずは地方で活用していき全国に展開、ゆくゆくは日本サッカー協会公認取得を目指す。将来的には医師だけではなく、サッカー協会に加入すると、適切なスポーツ医学情報が指導者、選手、家族にも伝達される。こういったことが実現できるようにしたい」と抱負を述べた。

(ケアネット 細田雅之)