遺伝子治療市場の縮小を超えて:長期成績が示す血友病B治療の未来(解説:長尾梓氏)
NEJM誌6月12日号に掲載された“Sustained Clinical Benefit of AAV Gene Therapy in Severe Hemophilia B”は、AAVベースの遺伝子治療治験薬scAAV2/8-LP1-hFIXcoを投与した血友病B 10例を13年間追跡し、FIX活性と出血抑制が初期報告からほぼ減衰せず、安全性上の深刻なシグナルも認めなかったことを示した。AAVベクターによる遺伝子治療が「十年以上効く」ことを実証した初の報告であり、臨床現場にとって画期的である。一方、市場環境には逆風が続く。Pfizerは今年2月、FDA承認済みだった血友病B遺伝子治療薬Beqvez(fidanacogene elaparvovec-dzkt)の世界的な販売・開発を突然打ち切った。理由は「患者・医師の需要の低さ」とされる。さらにBioMarinは血友病A遺伝子治療薬Roctavian(valoctocogene roxaparvovec)の商業展開を米国、ドイツ、イタリアの3ヵ国に限定し、その他地域への投資を凍結すると発表した。こうした撤退・縮小の動きを受け、ISTH、WFH、EAHADなどの国際学会は本年5月に「遺伝子治療開発を止めないでほしい」とする緊急声明を共同発出し、産学官・患者団体に継続的な投資とアクセス確保を要請している。