サイト内検索

検索結果 合計:483件 表示位置:1 - 20

1.

狭小弁輪を伴う大動脈弁狭窄症へのTAVR、自己拡張型弁vs.バルーン拡張型弁/NEJM

 狭小弁輪を伴う重症大動脈弁狭窄症患者において、バルーン拡張型弁を使用した経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)に対する自己拡張型弁を使用したTAVRの12ヵ月時点の臨床アウトカムに関する非劣性、および生体弁機能不全に関する優越性が検証された。米国・ペンシルベニア大学のHoward C. Herrmann氏らSMART Trial Investigatorsが、13ヵ国83施設で実施した無作為化試験「SMall Annuli Randomized To Evolut or SAPIEN Trial:SMART試験」の結果を報告した。狭小弁輪を伴う重症大動脈弁狭窄症患者は、TAVR後に弁の血行動態が低下し、心血管系臨床アウトカムが不良となるリスクが報告されていた。NEJM誌オンライン版2024年4月7日号掲載の報告。2つの主要複合エンドポイントを評価 研究グループは、症候性重症大動脈弁狭窄症で大動脈弁輪面積が430mm2以下の患者を、自己拡張型弁(Evolut PRO/PRO+/FX、Medtronic製)を用いるTAVR群、またはバルーン拡張型弁(SAPIEN 3/3 Ultra、Edwards Lifesciences製)を用いるTAVR群に、1対1の割合で無作為に割り付け、5年間追跡した。 主要エンドポイントは、12ヵ月時の死亡、後遺障害を伴う脳卒中または心不全による再入院の複合(非劣性を評価、非劣性マージン8%)、ならびに12ヵ月時の生体弁機能不全(大動脈弁平均圧較差20mmHg以上、重症prosthesis-patient mismatch[PPM]または中等症以上の大動脈弁逆流症、臨床的弁血栓症、心内膜炎、大動脈弁の再インターベンション)を測定する複合エンドポイント(優越性を評価、片側α=0.025)とした。 2021年4月~2022年9月に737例が無作為化され、このうち716例がTAVRを受け(as-treated集団)、解析対象集団に組み込まれた。患者背景は、平均年齢80歳、女性が87%、米国胸部外科医学会予測死亡リスク(STS-PROM)スコアの平均値は3.3%であった。自己拡張型弁のバルーン拡張型弁に対する非劣性および優越性を検証 第1の主要エンドポイントである12ヵ月時の死亡、後遺障害を伴う脳卒中または心不全による再入院の複合イベントの発生率(Kaplan-Meier推定値)は、自己拡張型弁群9.4%、バルーン拡張型弁群10.6%であった(群間差:-1.2%、90%信頼区間[CI]:-4.9~2.5、非劣性のp<0.001)。 第2の主要エンドポイントである12ヵ月時の生体弁機能不全の発生率(Kaplan-Meier推定値)は、自己拡張型弁群9.4%、バルーン拡張型弁群41.6%であった(群間差:-32.2%、95%CI:-38.7~-25.6、優越性のp<0.001)。 副次エンドポイントについては、12ヵ月時の大動脈弁平均圧較差が自己拡張型弁群で7.7mmHg、バルーン拡張型弁群で15.7mmHg、平均有効弁口面積がそれぞれ1.99cm2および1.50cm2、血行動態的構造的弁機能不全の発生率が3.5%および32.8%、女性における生体弁機能不全の発生率は10.2%および43.3%であった(すべてp<0.001)。また、30日時点の中等度または重症PPMは、自己拡張型弁群で11.2%、バルーン拡張型弁群で35.3%に認められた(p<0.001)。 主な安全性エンドポイントは、両群で類似していた。

2.

がん関連DVTに対するエドキサバン長期投与のネットクリニカルベネフィット、サブグループ解析(ONCO DVT)/日本循環器学会

 昨年8月欧州心臓学会(ESC)のHot Line SessionでONCO DVT Study1)“の試験結果(がん関連下腿限局型静脈血栓症[DVT]におけるエドキサバンの長期投与の有効性を示唆)が報告されて話題を呼んだ。今回、その続報として西本 裕二氏(大阪急性期・総合医療センター心臓内科)らが、サブグループ解析(事後解析)結果について、第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 2で報告した。 ONCO DVT Studyは日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験である。下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付け、主要評価項目として症候性のVTE再発またはVTE関連死を評価した。主要評価項目は12ヵ月群では1.2%、3ヵ月群では8.5%に発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。一方、主な副次評価項目である12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)は12ヵ月群では10.2%、3ヵ月群では7.6%で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。 この結果を基に、今回はエドキサバンの長期投与による出血リスク増加の懸念を検証することを目的として、12ヵ月の血栓性イベント(症候性VTE再発またはVTE関連死)と大出血イベントを複合した全臨床的有害事象(NACE:net adverse clinical events)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月群296例、3ヵ月群305例の計601例のITT解析対象集団を事後解析した。・NACEの発生率は、12ヵ月群では296例中30例(10.1%)、3ヵ月群では305例中42例(13.8%)であった(OR:0.71、95%CI:0.43~1.16)。・12ヵ月群のネットクリニカルベネフィットを算出すると3.6%(95%CI:-1.5〜8.8%)で、有意差がないことが示された。・事前に規定したサブグループでは、血小板減少患者では3ヵ月群で、がん転移を有する患者では12ヵ月群でNACEの発生率が低かった。・それぞれのイベントの重みを考慮し、探索的に大出血イベントに重みを加えて12ヵ月群のネットクリニカルベネフィットを算出すると、0.5の重みで4.8%、2.0の重みで0.7%であった。・また、NACEに血栓性イベントとして無症状VTE再発を加え、出血性イベントして臨床的に意義のある非大出血を加えて検証したところ、12ヵ月群のNACEの発生率が有意に低く(OR:0.67、95%CI:0.47~0.97)、ネットクリニカルベネフィットは7.8%(95%CI:0.8~14.9)であった。また出血イベントに0.5の重みを加えるとネットクリニカルベネフィットは10.1%、2.0の重みでは3.1%であった。 西本氏は「DVTを有するがん患者において12ヵ月群のほうがNACEの発生率が数値的に低かったが、ネットクリニカルベネフィットは12ヵ月群と3ヵ月群で有意差がなかった。サブグループ解析からは、血小板減少患者とがん転移を有する患者でNACEに対する異なる影響が認められた」とコメントした。 なお、本研究の限界として、非盲検であること、対象患者の多くが無症候性の下腿限局型DVTであること、本研究における治療アドヒアランスが高くないこと、そして最も重要な点として、12ヵ月のエドキサバン治療における大出血増加の懸念を検証することを目的として事後解析した点が示された。

3.

C. difficile 感染のリスク【1分間で学べる感染症】第1回

画像を拡大するTake home messageC. difficile 感染のリスクを大まかに高リスク・中リスク・低リスクに分類して理解しよう。広域抗菌薬、とくに嫌気性菌をカバーする抗菌薬はリスクが高い。C. difficile 感染を引き起こすリスクのうち、最も重要なものが抗菌薬によるものです。それでは一体どのような抗菌薬が、リスクが高いのでしょうか。一般的には、広域抗菌薬、とくに嫌気性菌をカバーする抗菌薬はリスクが高いとされています。具体的には、上記のように、メロペネム、イミペネム、モキシフロキサシン、第3世代・第4世代セファロスポリンなどが最もリスクが高いとされ、次にシプロフロキサシン、レボフロキサシン、クリンダマイシンなどが続きます。一方、アモキシシリン、第1世代セフェム系、アジスロマイシン、アズトレオナム、ダプトマイシン、リネゾリド、テトラサイクリンなどはリスクが低いとされています。C. difficile 感染のリスクをできるだけ最小限にするために、可能な限り狭域な抗菌薬にde-escalationできないか、常に検討しましょう。1)Di Bella S, et al. Clin Microbiol Rev. 2024 Feb 29. [Epub ahead of print]

4.

dementia(認知症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第3回

言葉の由来認知症は英語で“dementia”といいますが、この言葉は“de-ment-ia”と3つの部分に分解していくと言葉の由来が見えやすくなります。まず、“de”という接頭辞はほかの医学用語でもよく見かけるものかもしれません。たとえば、「処方する」を“prescribe”というのに対し、「脱処方する(減薬する)」を“deprescribe”といったりします。このように、“de”という接頭辞には、“away from”または“out of”(~から脱する、離れる)という意味があります。では、この“dementia”では「何から脱するか」といえば、後ろの“ment”の部分ということになります。“ment”はラテン語のmenteまたはmensに由来しているとされ、“mental”などの言葉からも想像できるかもしれませんが、「心、精神、知」というような意味があります。なお、最後の“ia”は病名などを表す際によく用いられる接尾辞で、これ自体には意味を持ちません。これらを合わせると、認知症の英名“dementia”は“out of mind”(心、知能が離れてしまった)という意味を持つ言葉のようです。今でこそ“dementia”は、医学界では「認知症」の意味で定着していますし、病気への理解が進んで「心が離れてしまった」状態ではないこともよく理解されていますが、そのような語源が一般市民レベルでの先入観や偏見につながっていることもたびたび指摘されています。このため、病気への偏見をなくすために、病名自体を“cognitive impairment”(認知機能障害)に置き換えるべきだ、と指摘する専門家もいます。併せて覚えよう! 周辺単語軽度認知障害mild cognitive impairmentせん妄delirium遂行機能executive function海馬の萎縮hippocampal atrophy行動障害behavioral disturbanceこの病気、英語で説明できますか?Dementia is a general term for the impaired ability to remember, think, or make decisions, which interferes with doing everyday activities. Alzheimer’s disease is the most common type of dementia. 講師紹介

5.

HER2+早期乳がん、PET pCR例の化学療法は省略可?(PHERGain)/Lancet

 HER2陽性の早期乳がん患者において、18F-FDGを用いたPET検査に基づく病理学的完全奏効(pCR)を評価指標とする、化学療法を追加しないトラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法でのde-escalation戦略は、3年無浸潤疾患生存(iDFS)率に優れることが示された。スペイン・International Breast Cancer CenterのJose Manuel Perez-Garcia氏らが、第II相の無作為化非盲検試験「PHERGain試験」の結果を報告した。PHERGain試験は、HER2陽性の早期乳がん患者において、化学療法を追加しないトラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法での治療の実現可能性、安全性、有効性を評価するための試験。結果を踏まえて著者は、「この戦略により、HER2陽性の早期乳がん患者の約3分の1が、化学療法を安全に省略可能であることが示された」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年4月3日号掲載の報告。PET実施はベースラインと治療2サイクル後 PHERGain試験は、欧州7ヵ国の45病院を通じて行われ、HER2陽性、StageI~IIIAの手術可能な浸潤性乳がんで、PETで評価可能な病変が1つ以上ある患者を、1対4の割合でA群とB群に無作為に割り付けた。 A群では、ドセタキセル(75mg/m2、静脈内投与)、カルボプラチン(AUC 6、静脈内投与)、トラスツズマブ(600mg固定用量、皮下投与)、およびペルツズマブ(初回投与840mg、その後420mgの維持用量、静脈内投与)(TCHPレジメン)を投与した。 B群では、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を3週ごと投与した。 無作為化は、ホルモン受容体の状態で層別化。PETはベースラインと治療2サイクル後に実施し、中央判定で評価した。B群の患者は、治療中のPETの結果に従って治療を変更。2サイクル後のPET反応例は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を6サイクル継続し、PET無反応例にはTCHPを6サイクル投与した。術後、B群でpCRを達成した患者は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を10サイクル投与し、pCRを達成しなかった患者は、TCHPを6サイクル、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を4サイクル投与した。PET無反応例は、トラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を10サイクル投与した。 主要評価項目は、治療2サイクル後のB群のpCR(結果は既報[37.9%]1))と、B群の3年iDFS率だった。本論では、後者の結果が報告されている。有害事象の発現はグループBで低率に 2017年6月26日~2019年4月24日に、356例が無作為化された(A群71例、B群285例)。手術を受けた患者の割合は、A群が89%(63例)、B群が94%(267例)。2回目の解析時までの追跡期間中央値は43.3ヵ月だった。 主要評価項目であるB群の3年iDFS率は、94.8%(95%信頼区間[CI]:91.4~97.1)だった(p=0.001)。 治療関連有害事象(TRAE)および重篤な有害事象(SAE)は、A群がB群より高率だった(Grade3以上発現率:62% vs.33%、SAE:28% vs.14%)。B群のPET反応例でpCRが認められた患者は、Grade3以上のTRAEの発現率は1%と最も低く、SAEはみられなかった。

6.

第209回 コストコで肥満治療

日本で今や30店舗を超える大規模小売店のコストコが本拠地の米国で薬の処方を含むより安価な肥満治療の提供を開始しました1)。世界の女性の5人に1人ほど、男性は7人に1人ほどが肥満です。米国の肥満有病率はより顕著で、2021年の報告によると同国の成人のいまや半数近い42%、数にして1億800万人がBMI 30以上の肥満体です2)。やはりできれば痩せたいと思う人は多いらしく、体重を減らす処方薬(以下、「肥満薬」)が気になる人は増えているようです。昨夏2023年7月に実施された米国成人1,327人のアンケート調査によると半数近い45%が有効で安全な肥満薬の使用に少なくともいくらか関心があると回答しました3)。そのような関心の高まりを背景にしてコストコは肥満治療の提供を始めました。昨秋2023年9月にコストコは、医師と患者を直結させることで診察、検査、処方薬を半額に抑えることを目指す医療会社Sesameと提携し、会員が1回29ドルの遠隔診療を受けられるサービスをすでに始めています4)。加えて、標準的な臨床検査や遠隔での医師評価を含む健康診断を72ドル、メンタルヘルス治療を79ドルで受けられもします。また、対面診察などのSesameのその他の医療すべてがコストコ会員は10%引きとなります。その提携が拡大してコストコの会員はさらに肥満治療を受けることが可能となりました。加入費用(subscription)は3ヵ月あたり179ドル(1ヵ月ごとの場合は60ドル)で、食事指導や患者ごとに誂えられた治療計画が示されます。会員は自分に合った医師を選択でき、最初はビデオ面談での診察を受け、予定の診察以外にも医師に連絡できます。必要と診療で判断されたらオゼンピック、ウゴービ、マンジャロ、Zepbound、Saxendaなどの体重減少効果がある薬の処方を受けることができます。それらの薬の費用は加入費用とは別に支払う必要があります。どれだけ痩せることができるかは個人差がありますが、臨床試験での平均値に基づく体重減少の目安は3ヵ月で5%、6ヵ月で10%、1年で15%です5)。小売業の医療参入医療に参入する米国の小売業は増えており、たとえばウォルマートはプライマリケアの施設を各地に設置していますし6)、Amazonはプライマリケア会社One Medicalを買収してPrime会員への年中無休24時間営業の医療の提供を始めています7)。また、製薬会社が患者と医療を仲立ちする例もあり、この1月にLillyは患者に同社の薬剤を直接届けることを含む遠隔医療事業LillyDirectを始めました。先月3月にはそれら薬剤の配達をAmazonが担当するとの発表がありました8)。AmazonはLillyDirectを介しての肥満薬Zepboundやその他のLillyの薬のいくつかを24時間年中無休で米国の患者に配達します。参考1)Wholesale Weight Loss: Sesame Unveils Specialized Care for Weight Loss with Pricing Exclusively for Costco Members / GlobeNewswire2)CDC:National Health and Nutrition Examination Survey 2017–March 2020 Prepandemic Data Files Development of Files and Prevalence Estimates for Selected Health Outcomes3)Poll: Nearly Half of Adults Would Be Interested in Prescription Weight-Loss Drugs, But Enthusiasm Fades Based on Lack of Coverage and Risk of Regaining Weight / KFF4)Wholesale Health Care: Sesame Launches America’s Best Pricing on High Quality Doctor Visits Exclusively for Costco Members / GlobeNewswire5)Costco6)Costco teams up with Sesame to offer weight loss program to members, including GLP-1 drugs / FierceHealthcare7)Amazon Introduces Compelling New Health Care Benefit for Prime Members for Only $9 a Month (or $99 a Year) / BUSINESS WIRE8)Amazon Pharmacy now provides home delivery of select diabetes, obesity, and migraine medications to LillyDirect patients / Amazon

7.

幼少期に食べ物に強く反応する子は摂食障害のリスクが高い

 幼少期の食べ物に対する関心の強さと、その子どもが10代前半になった時の摂食障害のリスクとの関連性を示すデータが報告された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)疫学・ヘルスケア研究所のIvonne Derks氏らによる、英国とオランダでの縦断的コホート研究の結果であり、詳細は「The Lancet Child & Adolescent Health」に2月20日掲載された。 この研究では、4~5歳の幼児の親に対して、子どもの食欲や摂食行動に関するアンケートを実施して食欲特性を評価。その約10年後の子どもが12〜14歳になった時点で、自己申告により摂食障害の症状の有無を把握した。追跡調査の時点で、対象の約10%が過食性障害の症状を報告し、その半数が一つ以上の代償行動(食事を抜いたり絶食したり、過度の運動をするなど)を報告した。 幼少期の食欲特性と10年後の摂食障害の症状との関係を統計学的に解析した結果、以下のような関連が見つかった。 まず、幼少期に食物反応性(食べ物を見つめたり、臭いを嗅いだりするなどの行動でスコア化)が高いと、成長後に過食性障害の症状〔オッズ比(OR)1.47(95%信頼区間1.26~1.72)〕や、乱れた食行動〔OR1.33(同1.21~1.46)〕、衝動的な摂食〔OR1.26(1.13~1.41)〕、摂取制限〔OR1.16(1.06~1・27)〕、および代償行動〔OR1.18(1.08~1.30)〕が多いことが明らかになった。また、幼少期に衝動的な摂食をする傾向があると、成長後に代償行動が多いことも分かった〔OR1.18(1.06~1.33)〕。 対照的に、幼少期に食後の満腹感が高いことは、成長後の代償行動〔OR0.89(0.81~0.99)〕や乱れた食行動〔OR0.86(0.78~0.95)〕のオッズ比低下と関連していた。また、幼少期に食べる速度が遅いことが、成長後の代償行動〔OR0.91(0.84~0.99)〕や摂取制限〔OR0.90(0.83~0.98)〕が少ないことと関連していた。 論文の筆頭著者であるDerks氏は、「われわれの研究では因果関係を証明することはできないが、幼少期の食物反応性が思春期に摂食障害を発症しやすくなる素因の一つである可能性を示唆している」と総括している。ただし、「幼少期に食物反応性が高いことは極めて一般的に見られることであり、親が心配すべきことではない。摂食障害のさまざまな潜在的リスク因子の一つに過ぎないと見なすべきだ」とも述べている。 一方、Derks氏と同じくUCLの研究所に所属し、論文の上席著者であるClare Llewellyn氏は、「明らかになった知見は、子どもたちが成長過程の中で摂食障害のリスクを回避するのに役立つのではないか」としている。同氏によると、摂食障害はいったん発症すると効果的な治療が困難であり、発症を未然に防ぐことが望ましいという。 その発症予防について、論文共著者の1人で同じくUCLの研究所に所属しているZeynep Nas氏は、「親が子どもたちに対して健康的な食事環境を提供し、適切な食事を与えることが、摂食障害予防のサポート手段となる」と語っている。そして、「健康的な食事環境」とは、「体に良いとされる食品を手頃な価格で入手可能とする環境」と解説。また、「食事の時間を規則正しくすること、および、子どもにプレッシャーをかけることなく、何をどれくらい食べるかを子どもたち自身が決められるようにしていくことが重要」とも付け加えている。

8.

第206回 脂肪肝疾患(NASH/MASH)治療薬を米国FDAが初承認

脂肪肝疾患(NASH/MASH)治療薬を米国FDAが初承認米国FDAが3月14日に非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)治療薬を初めて承認しました1,2)。米国のMadrigal Pharmaceuticals社が開発したresmetirom(商品名:Rezdiffra)が、第III相試験(MAESTRO-NASH)の1年時点の肝生検結果を基に取り急ぎ承認(Accelerated approval)されました。resmetiromは1日1回の経口服用薬で、NASH患者の肝臓で不調となる甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)のアゴニストです。resmetiromが担うTHR-β活性化は肝臓のトリグリセリド(中性脂肪)を減らすことが知られています。第I相試験の段階でresmetiromは健康な被験者のトリグリセリドを多ければ60%低下させました3)。米国でおよそ150万例もが患うNASHは、昨年に世界の肝疾患専門家や患者団体が集まって決めた病名であるMASH(metabolic dysfunction associated steatohepatitis)に改められました2)。とはいえFDAは引き続きNASHを採用しており、resmetiromの添付文書の効能・効果は肝線維化が中等度~高度(肝線維化ステージF2-3)であるものの肝硬変ではないNASH患者に対して、食事療法や運動療法とともに同剤を投与することとなっています(以下FDAに倣ってNASHを使用)。難儀な肝生検は幸いにもその使用に際して必要ありません。MAESTRO-NASH試験で病理学者2人(病理学者AとB)が生検組織を検討した結果によると、肝線維化F2-3の非肝硬変NASH患者の1年間のresmetirom経口服用で、少なくとも4例に1例ほどが肝線維症の改善や脂肪性肝炎の消失を達成できるようです。詳しい結果は以下のとおりです4)。画像を拡大するresmetiromは含量60mg、80mg、100mgの3つの錠剤が承認され、80mg錠は体重が100kg未満の患者、100mg錠は体重が100kg以上の患者向けとなっています。クロピドグレルなどの若干のCYP2C8阻害作用を有する薬剤と併用する場合には減量が必要で、その場合体重100kg未満の患者は60mg錠、体重100kg以上の患者は80mg錠を服用します。強力なCYP2C8阻害薬との併用はできません。resmetiromの1年間分の薬価は4万7,400ドル(700万円強)で5)、同剤の最大年間売上は50億ドルを超えうるとアナリストの1人は予想しています6)。その達成のためには、進行中のMAESTRO-NASH試験の最長54ヵ月のresmetirom治療が死亡、肝移植、重大な肝イベント(腹水、脳症、胃食道静脈瘤出血を含む肝代償不全、肝硬変への進展、MELDスコア上昇)をプラセボに比べて減らすことを示して、取り急ぎの承認を本承認にする必要があるでしょう。その本勝負の結果はClinicalTrials.gov登録情報によると約4年後の2028年1月に判明します7)。肝硬変をすでに患うNASH患者の死亡、肝臓移植、腹水、脳症、胃食道静脈瘤出血、MELDスコア上昇がresmetiromで減ることを示すための第III相試験(MAESTRO-NASH-OUTCOMES)も進行中で、その結果は来年2025年8月に判明する見込みです8)。参考1)FDA Approves First Treatment for Patients with Liver Scarring Due to Fatty Liver Disease / PRNewswire2)Madrigal Pharmaceuticals Announces FDA Approval of Rezdiffra (resmetirom) for the Treatment of Patients with Noncirrhotic Nonalcoholic Steatohepatitis (NASH) with Moderate to Advanced Liver Fibrosis / GlobeNewswire3)Taub R, et al. Atherosclerosis. 2013;230:373-380.4)Prescribing Information:Rezdiffra5)Rezdiffra (resmetirom) FDA Approval Conference Call March 2024 / Madrigal Pharmaceuticals6)US FDA approves first drug for fatty liver disease NASH / Reuters7)MAESTRO-NASH試験(ClinicaltTrials.gov)8)MAESTRO-NASH-OUTCOMES試験(ClinicaltTrials.gov)

9.

昭和大学医学部 外科学講座乳腺外科学部門

林 直輝 氏(教授/診療科長)垂野 香苗 氏(准教授/診療科長補佐)成井 理加 氏(専攻医)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針当院のブレストセンターは、診察室、マンモグラフィ撮影室、超音波室、処置室、患者の集うリボンズハウスなどを1つのエリアに備え、患者中心の理想的な環境を提供しています。また、附属病院も含めて年間1,000件以上の手術を行う国内最大規模の、多くの若い力で活気に溢れた医局です。乳がん診療の発展と社会貢献のために、“乳がん診療の発展と社会に貢献できる視野の広い医師になる”、“良い臨床医になるためにScienceを理解する”を2つの柱として、臨床、研究、教育を進めています。臨床面での強み臨床面での当院の大きな強みは、国内でも早くから取り組んでいる遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)、MRIガイド下生検などです。さらに、乳がん診療における多方面からのde-escalationに取り組んでおり、手術の縮小を目指す臨床試験だけでなく、画期的な治療法である短期加速乳房照射「SAVI」を導入しています。これは通常約5週間かかる乳房部分切除後の照射を2~5日のみで完結するもので、time toxicityの新たな解決法になります。新しい技術を活用しながら、乳がん診療の進歩に貢献し、患者に最適な治療を提供するチームを目指します。医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力昭和大学乳腺外科の英語表記は、”Breast Surgical Oncology”です。乳がんに関わる周術期の治療のみではなく、診断から手術、再発転移までの治療を幅広く行う診療科です。また、HBOCなどの多診療科での連携した診療や昭和大学内のさまざまな研究所と連携した新薬の治験や臨床研究も多数行っております。また、ほかの診療科との連携も大学病院でありながらしやすい環境にあるのも魅力です。大学というバックグラウンドもあり、臨床と研究にバランスよく関われるのが当院の魅力であると思います。一般病院では難しい研究の支援も大学として、昭和大学統括研究推進センター(Showa University Research Administration Center:SURAC)を中心に力を入れており、さまざまな支援を受けることができます。医局の雰囲気、魅力昭和大学の乳腺外科は、外科学講座を構成する一部門として、2010年に創設されたまだまだ歴史の浅い医局です。しかし、附属4病院(旗の台、豊洲、藤が丘、横浜市北部)、NTT東日本関東病院の乳腺外科を統括し、合わせて1,000件以上の乳がん手術を行っています。本部は、旗の台にある昭和大学附属病院で、日本で有数のブレストセンターがあります。昭和大学出身者が比較的多いですが、出身大学、初期研修病院などはさまざまです。また、途中入局の医師も多く在籍しており、異なるバックグラウンドの医師が在籍しております。女性医師も多く在籍しており、産休、育休の取得や時短勤務にも対応しております。また、毎朝のカンファレンスなどでの情報共有や、コミュニケーションの時間を重視しています。医学生/初期研修医へのメッセージ乳がん領域の診療は、画像診断、手術、薬物療法とさまざまな領域の発展が日進月歩です。将来的に何をどのように専門にしていくかは、医学生・初期研修医の段階で決めるのは難しいと思いますし、実際経験してみて自分の適性というものがわかることも多々あります。乳腺外科の分野でまず、幅広くいろいろなことを学び、自分の適性やビジョンを定めていくことをおすすめします。当科では、その点幅広い経験ができ、乳腺・乳がん診療に将来的に関わっていくうえで多岐にわたる経験を通じて、その後の進路を選択することができると思います。興味のある先生はぜひ一度見学にいらしてください。いつでも大歓迎です。毎朝行われるカンファレンスこれまでの経歴・同医局を選んだ理由2017年地方大学卒業後、初期研修は都内の他大学病院で1年目を大学、2年目を市中病院で研修を行いました。研修医のときに回った乳腺外科に興味を持ち、働きやすさとやりがいの両方から、乳腺外科への入局を考えるようになりました。同医局を選んだ理由としては大きく3つあります。1つ目は手術件数の多さです。私が入局を考えていた頃は新専門医制度が開始した直後であり、その制度もまだ不明な点も多く、大学病院など大きな病院での外科専門医取得を考えました。その中でも乳がん手術件数の多い当医局を入局先の候補として考え、実際に見学して入局を決定しました。2つ目は働きやすさです。見学した際に、他大学から入局されている先輩がいるかどうか、先輩方の雰囲気などを確認しました。当医局は、他大学や他研修先から入局する人も多く、上級医の先生方もほかの病院で勤務していた方が多いです。そのため外部からの入局者を歓迎している雰囲気があります。3つ目は早くから乳腺外科としての経験を多く積むことができることです。これに関しては、メリットデメリットどちらもあるかと思いますが、自分のやりたいことが決まっている方には、早くから乳腺外科の外来や手術などを経験できる点が良いと思います。現在学んでいること・今後のキャリアプラン現在私は医師7年目で、今年乳腺専門医を取得しました。3〜5年目は、外科プログラムに則り経験を積み、5年目頃からは乳腺外科を中心に診療を行っています。入局以降、上級医の先生にご指導いただき、毎年の学会発表や乳腺専門医の取得に必要な論文などを書かせていただきました。当医局では多くの症例と乳がん診療の経験豊富な先生方の指導のもと、専門医取得を行うことができます。専門医取得後のキャリアはさまざまです。自分のやりたいことがあれば、それを相談できる環境にあると思います。乳腺外科を考えられている方、ほかの科と乳腺外科とで迷われている方はぜひ一度見学にいらしてください。日本乳癌学会学術総会で昭和大学医学部 外科学講座乳腺外科学部門住所〒142-8555 東京都品川区旗の台1-5-8問い合わせ先breast.ikyoku@gmail.com医局ホームページ昭和大学病院乳腺外科昭和大学病院ブレストセンター専門医取得実績のある学会日本外科学会、日本乳癌学会、遺伝性腫瘍学会、臨床腫瘍学会など研修プログラムの特徴(1)乳がんの診断から手術、薬物療法と乳がんに関わる一連の治療をトータルで学ぶことができます。(2)放射線科、形成外科、産婦人科、遺伝診療部など多診療科に関わるチーム医療を学ぶことができます。(3)外科専門医、乳腺専門医の要件に十分な症例経験を積むことができます。

10.

日本人片頭痛患者における日常生活への影響~OVERCOME研究

 日本人の片頭痛患者を対象に、日常生活活動や基本的な健康指標(睡眠、メンタルヘルス)など、日常生活に及ぼす影響を詳細に調査した研究は、これまであまりなかった。鳥取県済生会境港総合病院の粟木 悦子氏らは、日本人片頭痛患者における日常生活への影響を明らかにするため、横断的観察研調査を実施した。Neurology and Therapy誌2024年2月号の報告。 日本における片頭痛に関する横断的疫学調査(OVERCOME研究)は、2020年7~9月に実施した。片頭痛による家事、家族/社交/レジャー活動、運転、睡眠への影響は、片頭痛評価尺度(MIDAS)、Migraine-Specific Quality of Life(MSQ)、Impact of Migraine on Partners and Adolescent Children(IMPAC)scales、OVERCOME研究のために作成したアンケートを用いて評価を行った。片頭痛のない日の負担を評価するため、Migraine Interictal Burden Scale(MIBS-4)を用いた。抑うつ症状および不安症状の評価には、8項目の患者健康質問票うつ病尺度(PHQ-8)、7項目の一般化不安障害質問票(GAD-7)をそれぞれ用いた。日常生活への影響は、MIDAS/MIBS-4カテゴリで評価した。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛を有する1万7,071例のうち、定期的に家事援助を必要とした人の割合は24.8%であった。・片頭痛により人間関係、余暇活動、社会活動に支障を来した人は、それぞれ31.8%、41.6%、18.0%であった。・頭痛が起こる日の間に、社交/レジャー活動の予定を立てることを少なくとも時々心配する人の割合は、26.8%であった。・家族と同居している人(1万3,548例)では、片頭痛により家族活動への参加や家族との楽しみにも影響がみられた。・運転経験のある人(1万921例)のうち、症状により運転が妨げられると報告した人の割合は、43.9%であった。・片頭痛により睡眠が妨げられた人は52.7%、気分が低下した人は70.7%であった。・PHQ-8の閾値を満たした臨床的うつ病の割合は28.6%、GAD-7の閾値を満たした臨床的不安症の割合は22.0%であった。・日常生活に対する片頭痛の影響は、MIDAS/MIBS-4カテゴリの重症度が増加するほど強力であった。 著者らは「日本人片頭痛患者にとって、日常生活、睡眠、メンタルヘルスへの負担は大きいため、臨床現場では、頭痛症状だけでなく、日常生活に及ぼす影響を評価することが重要である」としている。

11.

RSウイルスの疾病負担、早産児で長期的に増大/Lancet

 早産児は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)関連疾患の負担が過度に大きく、乳幼児のRSVによる入院の25%が早産児であり、とくに早期早産児で入院のリスクが高く、この状態は生後2年目までは続くことが、中国・南京医科大学のXin Wang氏らRespiratory Virus Global Epidemiology Networkが実施したRESCEU研究で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年2月14日号に掲載された。2歳未満の早産児の疾患負担をメタ解析で評価 研究グループは、在胎週数37週未満で出生した乳幼児におけるRSV関連の重症急性下気道感染症(ALRI)の世界的な疾病負担とリスク因子の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った(EU Innovative Medicines Initiative Respiratory Syncytial Virus Consortium in Europeの助成を受けた)。 1995年1月1日~2021年12月31日に発表された研究の集計データと、Respiratory Virus Global Epidemiology Networkが共有する呼吸器感染症に関する個々の患者データを用いて、早産で出生した2歳未満の乳幼児の地域におけるRSV関連ALRIの発生率、入院率、院内死亡率、および全死亡率を推定した。在胎週数32週未満を早期早産、32~<37週を後期早産とした。2019年のALRI 165万件、入院53万3,000件 47件の論文と、共同研究者の提供による個々の患者データを含む17件の研究を解析の対象とした。 2019年には、世界の早産児において、生後0~<12ヵ月にRSV関連ALRIエピソードが165万件(95%不確実性範囲[UR]:135万~199万)発生したと推定され、このうち154万件(93%)が開発途上国であった。 同様に、RSV関連入院は53万3,000件(95%UR:38万5,000~73万)で、このうち49万3,000件(92%)が開発途上国、RSV関連院内死亡は3,050件(95%UR:1,080~8,620)で、2,700件(88.5%)が開発途上国で発生した。また、RSVに起因する死亡が早産児で2万6,760件(95%UR:1万1,190~4万6,240)発生しており、これは全乳幼児のRSV死の40%(17~65)に相当した。早期早産児でALRIの発生率と入院率が高い 早期早産児では、RSV関連ALRIの発生率と入院率が、すべての在胎週数で出生した乳幼児と比較して有意に高かった(年齢別、アウトカム別の率比[RR]の範囲は1.69~3.87)。また、生後2年目(12~<24ヵ月)には、早期早産児は全乳幼児と比較して、RSV関連ALRIの発生率は同程度であったが、入院率は有意に高かった(RR:2.26、95%UR:1.27~3.98)。 後期早産児におけるRSV関連ALRIの発生率は、1歳未満の全乳幼児と同程度であったが、生後6ヵ月までのRSV関連ALRIによる入院率は後期早産児で高かった(RR:1.93、95%UR:1.11~3.26)。院内死亡率は同程度 全体として、すべての在胎週数の乳幼児におけるRSV関連ALRIによる入院の25%(95%UR:16~37)を早産児が占めた。早産児におけるRSV関連ALRIによる院内死亡率は全乳幼児と同程度であった。 RSV関連ALRIの発生との関連を認めた因子は、主に周産期および社会人口統計学的な特性(母親の妊娠中の喫煙、5歳未満の子供が2人以上いる家庭、多胎児)であった(オッズ比[OR]の範囲は1.68~1.80)。また、入院を要する感染による重篤なアウトカムとの関連を認めた因子は、主に先天性心疾患、気管切開、気管支肺異形成症、慢性肺疾患、ダウン症候群などの基礎疾患だった(ORの範囲は1.40~4.23)。 著者は、「これらの知見は、早産児および乳幼児におけるRSVの予防と臨床管理の戦略を最適化するための重要なエビデンスとなる」としている。

12.

B7-H3標的ADCのI-DXd、固形がんへの有効性・安全性は?/日本臨床腫瘍学会

 既治療の進行・転移固形がん患者を対象として、抗B7-H3(CD276)抗体薬物複合体ifinatamab deruxtecan(I-DXd;DS-7300)の有用性が検討されている。第I/II相試験(DS7300-A-J101)の小細胞肺がん(SCLC)、食道扁平上皮がん(ESCC)、去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)、扁平上皮非小細胞肺がん(sqNSCLC)における最新結果が、第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)において、土井 俊彦氏(国立がん研究センター 先端医療開発センター長)により報告された。 B7-H3は免疫関連分子であり、多くの固形がんで発現が認められるが、正常組織では発現しないか非常に低発現であると報告されている。また、B7-H3が高発現であると、予後が不良であることも報告されている1,2)。I-DXdは、国内で製造販売承認を取得しているトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)と同じリンカーとペイロードを用いた製剤である。 DS7300-A-J101試験は、既治療の進行・転移固形がん患者を対象とした第I/II相試験で、用量漸増パートと用量拡大パートから構成されている。用量拡大パートでは、推奨用量となったI-DXd 12.0mg/kgが3週ごとに投与された。I-DXdは10がん種の174例に投与され、本発表では、そのうちSCLC患者21例(日本人:5例)、ESCC患者28例(同:20例)、mCRPC患者59例(同:8例)、sqNSCLC患者13例(同:5例)における有効性、I-DXdが投与された全患者の安全性の結果が発表された。安全性の解析はI-DXdを投与された全例、有効性の解析はI-DXdを4.8~16.0mg/kgの用量で投与された患者が対象となった。 主な結果は以下のとおり。・SCLC、ESCC、mCRPC、sqNSCLC患者における有効性の結果は以下のとおり(括弧内は日本人のデータ)。 -追跡期間中央値(月):11.7(6.7)、14.9(14.9)、16.6(14.5)、5.2(4.4) -奏効率(%):52.4(40.0)、21.4(20.0)、25.4(12.5)、30.8(40.0) -奏効期間中央値(月):5.9(未到達)、3.5(2.8)、6.4(2.8)、4.1(4.0) -無増悪生存期間中央値(月):5.6(4.7)、2.8(3.9)、5.3(4.4)、不明 -全生存期間中央値(月):12.2(未到達)、7.0(9.7)、13.0(11.4)、不明・SCLCおよびmCRPC患者においてB7-H3の発現量と最良奏効との間に関連は認められなかった。・安全性解析集団における治療継続期間中央値は12.3ヵ月(日本人:12.3ヵ月)であり、Grade3以上の有害事象は43.7%(同:39.3%)に発現した。治療関連死は1例(同:1例)に認められた。・安全性解析集団において、8.0~16.0mg/kgの用量で投与された患者のうち10例(6.9%)に間質性肺疾患(ILD)が認められたが、多くがGrade1/2であった。ただし、16.0mg/kgの用量で投与された日本人集団の子宮内膜がん患者1例に、ILDによる死亡が認められた。 本研究結果について、土井氏は「多くの前治療歴のある固形がん患者において、I-DXdは忍容性があり、有望な抗腫瘍効果を示した。現在進行中の進行SCLC患者を対象とした第II相試験(NCT05280470)を含め、各がん種でのさらなる開発が期待される」とまとめた。

13.

第204回 乗り物酔いの原因と有望な治療薬候補

乗り物酔いの原因と有望な治療薬候補車や電車での旅行者から果ては宇宙飛行士まで多くの人が乗り物酔いを多かれ少なかれ経験します。乗り物酔いは動きに身を委ねているときに生じる不快な生理的不調であり、顔色が悪くなる、冷や汗やあくびが出る、悪心や嘔吐、めまい、食欲低下、眠気、悪くすると重度の痛みさえ引き起こします。乗り物酔いは人に限ったものではなく、イヌやマウスなどの哺乳類やさらには魚でさえ被りうることが示されており、進化の歴史のなかで脈々と受け継がれてきたようです。移動を反映する情報は内耳前庭から前庭神経核(VN)と呼ばれる脳領域に伝達されます。VNの神経の活性化が乗り物酔い様の状態をもたらすことがラットやマウスの実験で示されています。また、VNの働きに影響する病気は乗り物酔いの症状とかぶるめまいや悪心・嘔吐などの自律神経不調と関連することが知られており、VNの神経が乗り物酔いに一枚かんでいることはかなり裏付けられています。しかしVNがどういう仕組みで乗り物酔いを引き起こすのかはこれまでわかっていませんでした。そこでスペインのバルセロナ自治大学と米国のワシントン大学のチームは、マウスをぐるぐる回したときのVNを解析してどの神経が乗り物酔いに寄与しているかを調べ、グルタミン酸輸送体VGLUT2を発現する神経(VGLUT2VN神経)が乗り物酔い症状を引き起こすことが突き止められました1,2)。マウスのVGLUT2VN神経を阻害したところ、ぐるぐる回されているときの乗り物酔い症状(歩行が遅くなる、食欲減退、体温低下)を予防または緩和できました。逆にVGLUT2VN神経を光で活性化したら回されているときと同様の乗り物酔い様症状が生じました。研究はさらに進み、VGLUT2VN神経の一派が発現するペプチドがどうやら乗り物酔い症状を誘発することが判明します。そのペプチドはコレシストキニン(CCK)と呼ばれ、VNのCCK発現神経は不快感の発生に携わる脳領域の傍小脳脚核(PBN)へと通じています。CCK発現神経からの入力でPBNのカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)発現神経が活性化することが乗り物酔い症状を引き起こすらしく、CCKが結合するCCK-A受容体の遮断薬であるdevazepideはぐるぐる回されたマウスのPBNのCGRP発現神経活性化を減らし、乗り物酔い症状を抑制しました。乗り物酔いの治療の定番であるジメンヒドリナートなどの抗ヒスタミン薬は眠気を誘発する恐れがあります。しかしdevazepideのようなCCK発現神経狙いの薬はその心配がなさそうであり2,3)、危険を伴う機械を操作する患者も安心して使えるかもしれません。devazepideの臨床試験成績の査読論文はあいにく報告されていないようですが4)、片頭痛を治療する抗CGRP薬は経口薬も含めていくつかすでに承認されています。有望なことに抗CGRP薬(olcegepant)がマウスの乗り物酔い指標を抑制することが最近の研究で示されており、その用途はさらに検討する価値があるようです5)。参考1)Machuca-Marquez P, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2023;120:e2304933120.2)Neurons responsible for motion sickness identified / Autonomous University of Barcelona3)The Culprits Behind Motion Sickness / TheScientist4)ScienceDirect:Devazepide5)Rahman SM, et al. Cephalalgia. 2024;44:3331024231223971.

14.

複雑性尿路感染症、CFPM/taniborbactam配合剤が有効/NEJM

 急性腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症(UTI)の治療において、セフェピム/taniborbactamはメロペネムに対する優越性が認められ、安全性プロファイルはメロペネムと同様であることが、ドイツ・ユストゥス・リービッヒ大学ギーセンのFlorian M. Wagenlehner氏らが15ヵ国68施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「Cefepime Rescue with Taniborbactam in Complicated UTI:CERTAIN-1試験」の結果、明らかとなった。カルバペネム耐性腸内細菌目細菌や多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、世界的な健康上への脅威となっている。セフェピム/taniborbactam(CFPM/enmetazobactam)は、β-ラクタムおよびβ-ラクタマーゼ阻害薬の配合剤で、セリンβ-ラクタマーゼおよびメタロβ-ラクタマーゼを発現する腸内細菌目細菌、および緑膿菌に対して活性を発揮することが示されていた。NEJM誌2024年2月15日号掲載の報告。セフェピム/taniborbactamの有効性と安全性をメロペネムと比較 研究グループは、複雑性UTIまたは急性腎盂腎炎と診断された18歳以上の入院患者を、セフェピム/taniborbactam(2.5g:セフェピム2g、taniborbactam0.5g)群またはメロペネム(1g)群に、2対1の割合に無作為に割り付け、8時間ごとに7日間静脈内投与した。菌血症を有する患者には、投与期間を最大14日間まで延長可とした。 主要アウトカムは、微生物学的ITT(microITT)集団(両治験薬が有効である、特定のグラム陰性菌を有する患者)における投与(試験)開始後19~23日目の微生物学的成功および臨床的成功の複合であった。複合成功率の群間差の95%信頼区間(CI)の下限値-15%を非劣性マージンとし、非劣性が認められた場合に優越性を評価することが事前に規定された。有効性はメロペネムより優れ、安全性は類似 2019年8月~2021年12月に661例が無作為化され、このうち436例(66.0%)がmicroITT集団であった。microITT集団の平均年齢は56.2歳で、65歳以上が38.1%、複雑性UTI 57.8%、急性腎盂腎炎42.2%、ベースラインで菌血症を有した患者13.1%であった。 複合成功は、セフェピム/taniborbactam群で293例中207例(70.6%)、メロペネム群で143例中83例(58.0%)に認められた。複合成功率の群間差は12.6ポイント(95%CI:3.1~22.2、p=0.009)であり、セフェピム/taniborbactamのメロペネムに対する優越性が示された。 複合成功の差異は、後期追跡調査(試験開始後28~35日目)においても持続しており、セフェピム/taniborbactam群のほうが複合成功率および臨床的成功率が高かった。 安全性解析対象集団(657例)において、有害事象はセフェピム/taniborbactam群で35.5%、メロペネム群で29.0%に認められ、主な事象は頭痛、下痢、便秘、高血圧、悪心であった。重篤な有害事象の発現率は両群で同程度であった(それぞれ2.0%、1.8%)。

15.

精液中のマイクロバイオームが男性不妊症に関与か

 ヒトと共存する微生物の集団全体を表す「マイクロバイオーム」という言葉は、皮膚や腸との関連で耳にすることが多い。しかし近年、マイクロバイオームは男性の精液にも存在することが示され、それと不妊との関連を探る研究も進められている。こうした中、新たな研究で、精液中のマイクロバイオームが精液の質のパラメーターに悪影響を及ぼし、不妊に関与している可能性のあることが示唆された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)泌尿器学分野のVadim Osadchiy氏らによる研究で、「Scientific Reports」に1月11日掲載された。 Osadchiy氏らは18歳以上の男性73人を今回の試験に登録し、精液中のマイクロバイオームと精液の質のパラメーターの変化との関連を検討した。精液の解析により、精液量、pH、精子濃度、精子運動率、および精子正常形態率の評価を行い、総精子濃度、総精子運動率、および精子量を掛け合わせて総運動精子数を計算した。また、精液サンプルからDNAを抽出して次世代シーケンシングを実施し、精液中に存在する微生物の同定と種ごとの存在量を比較した。 その結果、精子運動率に異常が認められた男性(27人)の精液では、精子運動率が正常だった男性の精液に比べて、Lactobacillus iners(L. iners)豊富に存在することが明らかになった(平均9.4%対2.6%、P=0.046)。L. inersは、局所的に炎症反応を促進する環境を生み出す可能性が示されているL-乳酸を産生する。このことからOsadchiy氏らは、L-乳酸が精液内で炎症を引き起こし、精子の動きにダメージを与えている可能性があるとし、L. inersが男性不妊症に関与している可能性を示唆している。なお、この細菌は女性の膣内のマイクロバイオームにも存在し、先行研究では女性の不妊問題に関与している可能性が示唆されているという。 また、精子濃度が異常だった男性(20人)の精液では正常だった男性(53人)の精液に比べて、Pseudomonas stutzeri(2.1%対1.0%、P=0.024)とPseudomonas fluorescens(0.9%対0.7%、P=0.010)が豊富だったが、Pseudomonas putidaは少ない(0.5%対0.8%、P=0.020)ことも示された。 研究グループは、たとえ近縁の細菌であっても、生殖能力に与える影響は種により大きく異なるようだと述べている。Osadchiy氏は、「マイクロバイオームと男性不妊症との関連については、まだ解明すべきことが非常に多い。しかし、今回の研究で得た知見は、われわれを正しい方向に導き、この関連性を深く理解する上で手助けとなるものだ。また、これらの結果は、より小規模な研究から得られたエビデンスと一致しており、精液中のマイクロバイオームと生殖能力との間の複雑な関係を解明するためのより包括的な調査へつながる道を開くものだ」と話している。

16.

第202回 遠隔診療による検査なしの中絶薬処方が安全で効果的

遠隔診療による検査なしの中絶薬処方が安全で効果的遠隔診療による中絶薬処方が安全で効果的なことが米国での大規模なプロスペクティブ試験で裏付けられました1,2)。3年ほど前の2021年に米国FDAは医療機関に足を運ばずとも中絶薬ミフェプリストンの処方を女性が受けられるようにしました。そのおかげで医師はじかに会うこと(直接診察)や超音波などの検査を一切することなく、患者からの申告を基に遠隔診療を行い、中絶薬を郵送できるようになりました。直接診察のための足労を省くことは移動の手間、費用、偏見のせいで二の足を踏んでしまうこと減らし、患者の利便性を向上させます。中絶のための遠隔医療は日時を決めたうえでのビデオ面談などの同時通信が主ですが、そういう同時通信なしのテキストメッセージのやり取りだけの非同時通信(asynchronous communication)のみで中絶薬を提供するインターネット診療もあります。患者の経過はたいていテキストメッセージのやり取りで把握されます。直接診察を経たうえでのミフェプリストンによる中絶が安全で有効なことは長年の裏付けがあります。米国での試験の結果、1万6,794人のうち97.4%が直接診察を介した同剤とミソプロストール処方で中絶を完了することができました3)。重篤な有害事象の発生率は0.5%足らずでした。一方、米国での遠隔医療による中絶の効果や安全性の裏付けは不十分です。そこでカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のチームは、米国の20州と首都ワシントンD.C.での3つのバーチャル診療(Choix、Hey Jane、Abortion on Demand)の記録を利用して直接診察も検査もしない遠隔医療による中絶の効果や安全性の解析を試みました。ビデオ面談かテキストメッセージのやりとりを経てそれらバーチャル診療から中絶薬(ミフェプリストンとミソプロストール)を郵送してもらった6,034人の経過が検討されました。それら約6千人の深刻な有害事象の発生は直接診療の試験結果と同様にまれであり、99.8%は深刻な有害事象なしで中絶が完了しました。また、97.7%はその後の手当てや妊娠継続なしで中絶が完了していました。米国より先にミフェプリストンとミソプロストールの遠隔処方を可能にした英国でもその安全性や効果が裏付けられています4)。英国では米国よりも多い2万人近い(1万8,435人)女性の経過が検討されました。事前の超音波検査なしで遠隔処方を受けたそれら女性の深刻な有害事象の発生率はやはりまれで0.02%でした。また、約99%が外科処置なしでの中絶に成功していました。米国での試験では遠隔診療をビデオ面談でした場合とテキストのやり取りでした場合も比較され、その安全性や効果は幸いにもほぼ同じでした。ビデオ面談のような同時通信は強固なインターネット接続が必要です。一方、テキストメッセージなどの非同時通信は手段がより豊富であり、露出が少なく、待ち時間が短く、予約が不要なので仕事や家事の合間により容易に済ませられるでしょう1)。同時通信と非同時通信のどちらかを都合に合わせて選べるようにすることでより多くの患者に手を差し伸べることができそうです。ミフェプリストンとミソプロストールによる中絶は、日本ではようやく昨春承認・販売5)されたばかりで遠隔診療による処方はまだまだ先の話だと思いますが、女性がプライバシーの心配などで躊躇することなく必要に応じて心穏やかに中絶ができる仕組みが日本でも作られることを期待します。ちなみに、遠隔医療などで中絶がより容易になると中絶がより増えるという心配は無用かもしれません。カナダでは2017年11月までに制限が解除されてミフェプリストン処方がより容易になりましたが、同国のオンタリオ州でのその後の中絶率は変わらずほぼ一定のままでした。中絶がより容易になったところで取るに足るほどの中絶率上昇は生じないようだと著者は言っています6)。参考1)Upadhyay UD, et al. Nat Med. 2024 Feb 15. [Epub ahead of print]2)Telehealth is as safe as a visit to the clinic for abortion pills / Eurekalert3)MIFEPREX(mifepristone) PRESCRIBING INFORMATION4)Aiken A, et al. BJOG. 2021;128:1464-1474.5)人工妊娠中絶用製剤メフィーゴパック の 国内における製造販売承認取得について / ラインファーマ株式会社6)Schummers L, et al. N Engl J Med. 2022;386:57-67.

17.

第199回 コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見/コロナ感染でドーパミン神経が老化する

コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染でよく生じる症状の1つ、くしゃみを誘発する仕組みが見つかりました。SARS-CoV-2は手持ちのプロテアーゼPLpro(パパイン様プロテアーゼ)を頼りに複製します。そのPLproが感覚神経の一員である侵害受容神経を活性化してくしゃみを誘発することがマウスを使った検討で明らかになりました1)。ウイルス感染の別の主な症状である咳をPLproが促すかどうかは検討されませんでした。というのもマウスの咳を確かめようがなかったからです2)。しかしPLproが咳も引き起こしている可能性はありそうです。PLproは侵害受容神経で発現するイオンチャネルTRPA1を介した作用により、くしゃみや痛みを誘発することが今回の研究で示されました。TRPA1活性化の咳誘発作用が先立つ研究で知られており3)、PLproが咳も誘発するかどうかを調べることは価値がありそうです。PLproはSARS-CoV-2の複製に不可欠なことから、その阻害薬の開発が進んでいます。たとえばビタミンA誘導体イソトレチノンにPLpro阻害作用があると示唆されており、Clinicaltrials.govには同剤による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の臨床試験がいくつか登録されています。また、米国・Sound Pharmaceuticals社の開発品ebselenもどうやらPLpro阻害作用があるらしく、COVID-19患者を対象にした2つの第II相試験が進行中です。今回の結果によるとそれらPLpro阻害薬はこれまでの見込み以上の症状緩和作用や感染の拡大を防ぐ作用を担いうるかもしれません。くしゃみを誘発するウイルスはほかにもありますが、そもそもウイルス感染のくしゃみの原因はこれまでわかっていませんでした。今回見つかった仕組みはSARS-CoV-2のみならず、そのほかのウイルス感染の症状や感染の伝播を減らす手段の開発にも役立ちそうです2)。コロナ感染でドーパミン神経が老化する続いて、SARS-CoV-2が神経に支障を来す仕組みを同定し、COVID-19患者のパーキンソン病症状の発生に注意する必要があることを示唆した研究成果を紹介します。COVID-19の嗅覚/味覚障害や頭痛などの神経異常はますます広く知られるようになっています。神経のSARS-CoV-2感染のしやすさは一様ではないらしく、たとえばiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作ったドーパミン放出(DA)神経はSARS-CoV-2感染を許し、皮質神経はそうでないことが先立つ研究で示されています。新たな研究の結果、SARS-CoV-2感染したiPS細胞由来DA神経はパーキンソン病と関連する老化状態に陥ることが示されました4,5)。SARS-CoV-2感染で老化経路の活性化がみられたのはDA神経細胞のみで、肺を模す組織(肺オルガノイド)、膵臓細胞、肝臓オルガノイド、心臓細胞のSARS-CoV-2感染では老化経路遺伝子の有意な働きは認められませんでした。そういう神経老化を防ぎうる手段も早くも同定されました。検討されたのは米国FDA承認薬一揃いで、まずそれらをiPS細胞由来DA神経に与え、次にSARS-CoV-2を加えた後に細胞老化の生理指標βガラクトシダーゼ(β-gal)活性が測定されました。その結果やほかの検討により、3つの薬・リルゾール、イマチニブ、メトホルミンがDA神経へのSARS-CoV-2感染を阻止してその老化を防ぐことが判明しました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療に使われるリルゾールとSARS-CoV-2感染の関わりは知られていませんが、イマチニブのSARS-CoV-2阻止作用は肺オルガノイドを使った先立つ研究で確認されています。メトホルミンといえばSARS-CoV-2感染した肥満や2型糖尿病患者の死亡率低下と同剤使用の関連が示されており、COVID-19治療効果を担いうることが知られています。それら薬剤がSARS-CoV-2感染に伴う神経病変を解消しうるかどうかは今後調べる価値がありそうです。また、SARS-CoV-2感染した人にパーキンソン病関連症状が発生していないかどうかを注意して観察する必要がありそうです。パーキンソン病で損傷を受けやすいのが脳の黒質のDA神経A9型であるのと同様に、そのA9型はSARS-CoV-2にどうやらとくに影響を受けやすいことが今回の研究で示唆されています。参考1)Mali SS, et al. bioRxiv. 2024 Jan 11. [Epub ahead of print]2)Why does COVID-19 make you sneeze? / Science3)Grace MS, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2011;24:286-288.4)Yang L, et al. Cell Stem Cell. 2024 Jan 10. [Epub ahead of print]5)SARS-CoV-2 Can Infect Dopamine Neurons Causing Senescence / Weill Cornell Medicine

18.

新型コロナ、ワクチン接種不足で重症化リスク増/Lancet

 英国において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種が推奨回数に満たないワクチン接種不足者が、2022年6月時点の同国4地域別調査で32.8~49.8%に上り、ワクチン接種不足が重症COVID-19のリスク増加と関連していたことが、英国・エディンバラ大学のSteven Kerr氏らHDR UK COALESCE Consortiumが実施したコホート研究のメタ解析の結果で示された。ワクチン接種不足は完全接種と比較して、COVID-19による入院や死亡といった重症アウトカムのリスク増大と関連している可能性がある。研究グループは、ワクチン接種不足の要因を特定し、ワクチン接種不足者の重症COVID-19のリスクを調査する検討を行った。Lancet誌オンライン版2024年1月15日号掲載の報告。英国のほぼ全国民をカバーする医療データセットを用いて解析 研究グループは、イングランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズの4地域におけるTrusted Research Environment(TRE)の医療データセットを用いてコホート研究を行った。このデータデットには、ほぼ全国民をカバーする匿名化された電子健康記録のデータが含まれている。 5歳以上を対象に2022年6月1日時点のワクチン接種不足の補正後オッズ比を推定するとともに、同日~9月30日の4ヵ月間における重症COVID-19の発生について、ワクチン接種不足との関連を解析した。ワクチン接種は、英国の予防接種に関する共同委員会(Joint Committee on Vaccination and Immunisation:JCVI)による年齢層別の推奨接種回数を満たしている場合を完全接種、満たしていない場合を接種不足と定義した。 重症COVID-19とワクチン接種不足との関連は、4地域の各TREで解析を行った後、逆分散加重固定効果メタ解析を用いて統合した。完全接種なら、重症COVID-19の2割弱(7,180/4万393件)は回避できた可能性 2022年6月1日時点のワクチン接種不足者は、イングランドで5,896万7,360人中2,698万5,570人(45.8%)、北アイルランドで188万5,670人中93万8,420人(49.8%)、スコットランドで499万2,498人中170万9,786人(34.2%)、ウェールズで235万8,740人中77万3,850人(32.8%)であった。4地域全体の接種不足者は3,040万7,626人(44.4%)であった。 5~74歳の集団において、若年、社会経済的貧困度が高い、非白人、合併症の数が少ないといった人ほど、ワクチン接種不足の可能性が高かった。 重症COVID-19の発生は、全体で4万393件であった。このうちワクチン接種不足者での発生は1万4,156件であった。ワクチン接種不足は、すべての年齢群、すべての地域で、とくに75歳以上において重症COVID-19のリスク増大と関連していた。 2022年6月1日時点で、すべての人がワクチンを完全接種していたと仮定して分析したところ、追跡期間4ヵ月時点で、5~15歳210件(95%信頼区間[CI]:94~326)、16~74歳1,544件(1,399~1,689)、75歳以上5,426件(5,340~5,512)、合計7,180件の重症COVID-19を減少したと推定された。 75歳以上におけるCOVID-19重症化の補正後ハザード比は、推奨回数より1回少ない場合で2.70(95%CI:2.61~2.78)、2回少ない場合で3.13(2.93~3.34)、3回少ない場合で3.61(3.13~4.17)、4回少ない場合で3.08(2.89~3.29)であった。

19.

小児双極性障害患者の診断ミスに関するシステマティックレビュー

 双極性障害は、複雑な症状を呈する精神疾患の1つである。カナダ・Brock UniversityのTabeer Afzal氏らは、DSM-IVおよびDSM-V基準を用いた小児双極性障害の診断ミスに関するエビデンスを要約し、未治療の双極性障害患者の生命アウトカムに及ぼす影響を検討した。さらに、小児双極性障害の診断精度向上につながる可能性のある推奨事項の概要および要約も試みた。Research on Child and Adolescent Psychopathology誌オンライン版2023年12月18日号の報告。 2023年3月21日までに公表された文献を、Scholars Portal Journal、PsychINFO、MEDLINEデータベースより検索した。レビュー対象基準に従い、18歳未満の小児サンプルを用い、1995~2022年に出版された文献に限定した。除外基準は、自己申告による診断を伴うサンプルを含む文献とした。 主な結果は以下のとおり。・本レビューには、15件の文献を含めた。・研究結果は、ナラティブサマリーを用いて合成した。・小児双極性障害は、注意欠如多動症(ADHD)、統合失調症、うつ病と診断されることが最も多かった。・診断ミスは、不適切な治療計画や適切な治療の遅れにつながる可能性があり、社会的、職業的、経済的な課題により、小児双極性障害患者のQOLに悪影響を及ぼす可能性が示唆された。

20.

第197回 セマグルチドと自殺念慮は関連せず

セマグルチドと自殺念慮は関連せずGLP-1受容体作動薬の自殺リスクが取り沙汰されていますが、併せて180万例強の電子カルテ解析で幸いにもノボ ノルディスク ファーマのセマグルチド使用患者の自殺念慮はほかの糖尿病薬や抗肥満薬使用患者に比べて多くなく、むしろ少なめでした。今月5日にNature Medicine誌に掲載された解析結果です1)。2つの集団が解析され、その1つは2021年6月~2022年12月にセマグルチドかほかの抗肥満薬が処方された米国の肥満か太り過ぎの約24万例(24万618例)の医療記録の解析です2)。被験者の大半の23万2,771例は先立って自殺念慮を被ったことがなく、残り7,847例は過去に自殺念慮を生じたことがありました。自殺念慮の経験がなかった患者にセマグルチド処方後6ヵ月間に認められた自殺念慮の発生率、すなわち初発率は0.11%、自殺念慮の経験があった患者のセマグルチド処方後6ヵ月間のその再発率は7%ほどでした。一方、ほかの抗肥満薬処方患者の自殺念慮の初発率と再発率はどちらもより高く、それぞれ0.43%と14%でした。2017年12月~2021年5月にセマグルチドかほかの糖尿病薬が投与された2型糖尿病患者160万例弱(158万9,855例)の医療記録を使ったもう1つの解析も同様の結果となりました。セマグルチド投与群の自殺念慮の初発率と再発率はそれぞれ0.13%と10%、ほかの糖尿病薬投与群の自殺念慮の初発率と再発率はより高くそれぞれ0.36%と18%でした。2型糖尿病へのセマグルチド使用は2017年に米国で承認されているので、より長期の経過の比較が可能です。そこで最大3年間の経過を比較したところ、差は縮まってはいたもののセマグルチド投与群の自殺念慮初発率はやはりより低く保たれていました。セマグルチドと自殺念慮が生じ易くなることの関連をそれらの結果は支持していません。一方、セマグルチドが自殺念慮を生じ難くすると決めつけることはできなさそうですが、もしそうであるなら体重減少が心理的によい影響をもたらすことによるのかもしれませんし、まだ知られていないメカニズムによるのかもしれません3)。先週11日に米国FDAはセマグルチドなどのGLP-1作動薬と自殺念慮や自殺行為の関連の調査の途中経過を発表しました。幸い、Nature Medicine誌の報告と一致し、GLP-1作動薬と自殺念慮や自殺行為の因果関係は示されていないとひとまず判断されています4)。ただし若干のリスクの恐れ(small risk may exist)の払拭には至っておらず、FDAの検討は続いています。今後の課題としてより長期のセマグルチド使用と自殺念慮の関連を調べる必要があるとNature Medicine誌報告の著者は言っています2)。また、自殺念慮から一線を越えた自殺企図(suicide attempt)との関連の検討も必要です。参考1)Wang W, et al. Nature Medicine. 2024 January 5. [Epub ahead of print] 2)Semaglutide associated with lower risk of suicidal ideations compared to other treatments prescribed for obesity or type 2 diabetes / NIH3)No link between popular weight loss drugs and suicidal thoughts, health records suggest / Science4)Update on FDA’s ongoing evaluation of reports of suicidal thoughts or actions in patients taking a certain type of medicines approved for type 2 diabetes and obesity / FDA

検索結果 合計:483件 表示位置:1 - 20