外傷性脳損傷サバイバーは自殺リスク高い?/JAMA

提供元:ケアネット

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公開日:2018/09/05

 

 外傷性脳損傷(TBI)と自殺の関連を評価した研究は少なく、これまでの報告は症例数が少ないなどの問題があるという。デンマーク・Mental Health Centre CopenhagenのTrine Madsen氏らは、同国の全国患者登録データを解析し、TBIで受診した患者は、TBIの経験のない一般人口に比べ自殺のリスクが高いことを示した。研究の成果は、JAMA誌2018年8月14日号に掲載された。TBIサバイバーは、身体、認知、情動に関連する症状を経験する可能性が高いとされ、これらの症状は自殺のリスクを高めることが知られている。

約742万人のデータを後ろ向きに解析
 研究グループは、TBIとその結果としての自殺の関連について、レトロスペクティブに検討した(Mental Health Services Capital Region Denmarkなどの助成による)。

 解析には、1980~2014年の期間に、デンマークに10年以上居住する741万8,391人(1億6,426万5,624人年)の登録データを用いた。頭蓋骨以外の骨折、精神疾患の診断、故意の自傷行為などを含む共変量で補正したポアソン回帰を用いて解析を行った。

 全国患者登録(1977~2014年)に受診の記録があり、軽症TBI(脳振盪)、TBIのない頭蓋骨骨折、重症TBI(脳構造損傷のエビデンスがある頭部外傷)と診断された患者を対象に含めた。2014年12月31日までにデンマーク死因登録に記録された自殺のデータと関連付けた。

自殺率は約2倍、重症度や受診回数と正相関
 自殺による死亡者は3万4,529例(平均年齢:52歳[SD 18]、女性:32.7%、絶対自殺率:21.0/10万人年[95%信頼区間[CI]:20.8~21.2])であった。このうち、3,536例(10.2%、男性:2,578例、女性:958例)がTBIの診断を受けており、軽症TBIが2,701例、TBIのない頭蓋骨骨折が174例、重症TBIが661例であった。

 TBI患者の絶対自殺率は10万人年当たり41(95%CI:39.2~41.9)と、TBIの診断のない集団の10万人年当たり20(19.7~20.1)に比べ有意に高かった(罹患率比[IRR]:1.90[1.83~1.97]、p<0.001)。

 TBIによる受診のない集団と比較したIRRは、軽症TBI(絶対自殺率:38.6/10万人年、95%CI:37.1~40.0)が1.81(1.74~1.88、p<0.001)、頭蓋骨骨折(42.4/10万人年、36.1~48.7)が2.01(1.73~2.34、p<0.001)、重症TBI(50.8/10万人年、46.9~54.6)が2.38(2.20~2.58、p<0.001)であり、重症度が高いほど高値の傾向がみられた。

 自殺リスクは、TBIによる受診のない集団に比べ、TBI受診回数が多いほど高くなった。受診回数が1回の場合の絶対自殺率は10万人年当たり34.3(95%CI:33.0~35.7、IRR:1.75、95%CI:1.68~1.83、p<0.001)、2回の場合は59.8(55.1~64.6、2.31、2.13~2.51、p<0.001)、3回以上では90.6(82.3~98.9、2.59、2.35~2.85、p<0.001)であった。

 一般人口と比較して、TBIによる最終受診日からの経過期間が短いほうが、自殺リスクが有意に高く(p<0.001)、6ヵ月以内のIRRは3.67(95%CI:3.33~4.04)、7年以降のIRRは1.76(1.67~1.86)だった。

 著者は、「自殺のリスクは、TBIの診断後に精神疾患の診断を受けたり、故意の自傷行為を実行した患者が、TBIの診断のみの患者よりも高いことから、TBIと自殺の関連は、TBI後の精神症状の影響をある程度受けている可能性がある」としている。

(医学ライター 菅野 守)