今後20年でオゾン関連の死亡者数はどうなる?

提供元:HealthDay News

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公開日:2024/02/23

 

 気候変動が原因で、今後20年にわたり全世界のオゾンに関連した死亡者数が増加する可能性があるようだ。米イェール大学公衆衛生大学院のKai Chen氏らによる研究で、人類が地球温暖化を食い止めない限り、2050〜2054年の間に北米、欧州、アジア、オーストラリア、アフリカの20の国や地域の406都市だけで、地表レベルのオゾンによる死亡者数が年間6,200人増加すると推定された。この研究の詳細は、「One Earth」に1月23日掲載された。Chen氏は、「この研究は、より多くの国々がパリ協定を遵守することが健康上の利益につながることを裏付ける、さらなるエビデンスとなるものだ」と説明している。

 研究の背景情報によると、オゾンは自動車や発電所、産業から排出される汚染物質が太陽光の下で化学反応を起こすことで生じるスモッグの主な成分で、呼吸器障害や心疾患、早期死亡に関連することが示されているという。米国環境保護庁(EPA)によると、オゾンは、都市部では晴れた暑い日に健康に有害なレベルに達する可能性が高いという。

 Chen氏らは今回の研究で、北米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、およびアフリカの20カ国、406都市での地表レベルのオゾンへの短期曝露により生じ得る、近い将来(2050〜2054年)の1日当たりの超過死亡を予測した。予測は、4つの社会経済シナリオ(Shared Socioeconomic Pathway;SSP)、すなわち、気候変動や大気汚染に対して厳格な対策が講じられる場合(シナリオ1)、中道的な対策が講じられる場合(シナリオ2)、地域対立的な発展のもと、気候変動や大気汚染に対して弱い対策が講じられる場合(シナリオ3)、気候変動対策が弱いが大気汚染対策は強力な場合(シナリオ4)、に基づき行われた。

 その結果、気候変動や大気汚染に対して弱い対策が講じられる場合(シナリオ3)、これら406都市でオゾンに関連した年間の超過死亡が2010~2014年の平均45人から2050~2054年には約6,200人へと増加することが推定された。しかし、気候変動や大気汚染に対して厳格な対策を講じることで、それを変えることができる可能性も示された。すなわち、各国がパリ協定を遵守するシナリオ1では、2010年から2054年までの間に予測されるオゾンに関連した死亡者数は0.7%の増加にとどまっていたという。

 一方、気候変動や大気汚染に対する対策が十分に講じられないシナリオ2〜4の場合、オゾンに関連した死亡者数は56~94%増加すると推定された。また、全体の死亡者数に対するオゾンに関連した死亡者数の寄与割合は、現在(2010〜2014年)の0.17%から、2050〜2054年には、シナリオ2と3で0.21%、シナリオ4で0.22%へと増加することが示された。これに対して、シナリオ1では0.15%へと減少することが示された。

 Chen氏は、「今回われわれが調べた4パターンの気候変動のシナリオでは、パリ協定に従うシナリオのみで今後のオゾンに関連した死亡者数の寄与割合が減少することが判明した」と言う。

 Chen氏らは、多くの国の気候や大気質の基準がこの流れを止めるために必要なレベルには達していないと指摘している。この研究では、人間の健康にとって好ましい数値として、オゾンの最大許容曝露量は大気1m3当たり70μgに設定されていた。一方、世界保健機関(WHO)の現在のオゾンの大気質基準は大気1m3当たり100μg、米国とメキシコでは137μg、中国では160μg、欧州では120μgとされている。

 Chen氏らはニュースリリースの中で「われわれの研究は、より厳格なオゾンの曝露基準が必要なことを強調するものだ」と結論付けている。また、「より厳しい大気質規制の導入によって、オゾンに関連した短期的な超過死亡が抑制されるだけでなく、それにより、長期的なオゾン関連死亡率と気候変動の抑制にメリットがもたらされるため、さらなる恩恵を得られる可能性が高い」と述べている。

[2024年1月30日/HealthDayNews]Copyright (c) 2024 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら