筋肉の霜降り化は死亡リスクを上昇させる?

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/06/22

 

 内臓脂肪が健康に良くないのは周知の事実だが、それよりもたちが悪い脂肪があるようだ。それは、筋肉内に蓄積する脂肪(筋内脂肪)だ。本来なら脂肪が蓄積されないはずの筋内に脂肪が蓄積している状態〔myosteatosis(骨格筋異所性脂肪化)〕の人では、死亡リスクが上昇し、その上昇の程度は内臓脂肪型肥満や脂肪肝の人でのリスク上昇よりも大きいとの研究結果が報告された。米ウィスコンシン大学医学部・公衆衛生学部の消化器画像診断主任であるPerry Pickhardt氏らによる研究で、「Radiology」に5月16日掲載された。

 本研究には関与していない、米ルイジアナ州立大学ペニントン生物医学研究センターのSteven Heymsfield氏によると、筋内脂肪は、肥満や糖尿病の分野で関心が高まりつつあるテーマだという。筋肉細胞の中にエネルギーの生成に必要な少量の脂肪が存在するのは通常のことだ。しかし、細胞の外側や筋線維、筋束の周囲に余分な脂肪が、「ステーキの霜降り肉のように」蓄積した状態になると、健康上の懸念が生じると同氏は説明する。

 Pickhardt氏らの研究は、2004年4月から2016年12月の間に、大腸がん検診のために腹部の低線量CTスキャンを受けた健康な患者8,982人(平均年齢57±8歳、女性5,008人)を対象にしたもの。まず、腹部CT画像から体組成指標を抽出するAI(人工知能)ツールを作成。これを使って対象者の筋肉の総面積と密度、皮下脂肪および内臓脂肪の面積、および肝臓の体積密度を数値化し、脂肪肝、肥満、骨格筋異所性脂肪化、および/または骨格筋量の減少(ミオペニア)が認められる場合を「異常な体組成」とみなした。対象者を中央値8.8年追跡し、死亡または主要心血管イベントの発生について調べた。

 追跡期間中に、対象者の20%(1,836人)に1件以上の有害事象(主要心血管イベントまたは死亡)が生じ、6%(507人)が死亡した。異常な体組成は、1件以上の有害事象を経験した人の80%(1,467人)、死亡した人の86%(434人)に認められた。異常所見とした上記の4つのパラメーターはいずれも有害事象と有意な関連を示し、ハザード比は骨格筋異所性脂肪化で4.33と最も高く、脂肪肝での1.86、ミオペニアでの1.75、肥満での1.27がそれに続いた。死亡した507人のうち、278人(55%)で骨格筋異所性脂肪化が確認された。これらの人々での10年間の死亡の絶対リスクは15.5%であった。これに対して、他の異常所見での死亡の絶対リスクは、肥満で7.6%、脂肪肝で8.5%、ミオペニアで9.7%であった。こうした関連はBMIとは無関係であった。

 Pickhardt氏は、「実際のところ、BMIを基に筋骨格異所性脂肪化を予測したり、その兆候を捉えたりするのは難しい。太っていなくても、筋肉の指標が良くない人はいる。つまり、今回の研究結果の中で重要なのは、BMIでは痩せているとされる人でも、体組成の指標が悪い人はいる点を示したことだ」と述べている。また同氏は、CTが骨格筋異所性脂肪化なども含めたさまざまな健康状態を調べる上で有用なツールになり得るとの見方を示している。

 一方、本研究論文の付随論評の共著者である米ニューヨーク大学(NYU)医学部のAngela Tong氏は、「この研究は、筋内脂肪と死亡リスクとの因果関係を示したものではない」と述べる。同氏は、筋内への脂肪蓄積の増加は、別の健康問題が生じていることの兆候である可能性があるとし、「心臓に何か問題が生じていないか、あるいは糖尿病の可能性はないかを慎重に見ていくべきだ」と話している。

 では、骨格筋の中にどのようにして脂肪が蓄積するのだろうか。前述のHeymsfield氏によると、その機序はまだ明確になっていない。同氏は、「遺伝や加齢が関連している可能性がある。また、例えば脚にギプスをはめていたせいで筋肉が萎縮した場合などに、筋肉細胞が脂肪細胞に置き換わることも知られている」と話す。

 機序と同様に、蓄積された不要な筋内の脂肪を取り除く方法も分かっていない。Heymsfield氏は、「科学は進歩しているものの、減量と運動の2つが、筋内の脂肪を除去するための真に良い方法ではないかと思う。どんなにがんばっても減らない脂肪があるかもしれないが、その場合は、おそらく遺伝か、死につつある筋肉細胞が原因なのだろう」と話している。

[2023年5月18日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら