症状の電子モニタリングでがん患者のQOLが向上

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/07/14

 

 遠隔医療により症状をモニタリングすることで進行がん患者の生活の質(QOL)を向上させることができる可能性が、新たな研究で示唆された。インターネットなどを用いた電子モニタリングシステムを使って自分の症状を1週間ごとに報告していた患者では、通常の対面でのケアを受けていた患者に比べて、3カ月後の身体機能や症状コントロールが優れていたことが明らかになったという。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のEthan Basch氏らが実施したこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に6月5日掲載された。

 米国保健社会福祉省のレポートによると、遠隔医療を利用した人の数は、2019年の84万人から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中の2020年には5270万人へと63倍に急増した。遠隔医療に頼る米国人の数が増えるにつれ、それが非常に効果的であることを示すエビデンスも現れ始めている。今回の研究もその例外ではない。

 Basch氏らは、1,191人の進行がん患者(平均年齢62.2歳、女性58.3%)を対象に、症状の電子モニタリングにより患者のQOLが向上するのかどうかを確認するランダム化比較試験を実施した。対象者は毎週1回、最長1年にわたって患者報告アウトカム(PRO)を用いた調査にインターネットまたは自動音声応答電話を使って回答する群(PRO群、593人)と、通常のケアを受ける群(対照群、598人)にランダムに割り付けられた。調査は、吐き気から不眠症までの一般的ながんの症状についての質問のほか、経済的安定性やカウンセラーなどの助けの必要性などに関する質問で構成されていた。

 なお、今回の研究では、主要評価項目とした全生存期間についてはまだ結果が出ていないため、副次評価項目とした介入開始から3カ月時点での身体機能、症状コントロール、健康関連QOL(HRQOL)についての評価が報告された。副次評価項目の評価には、がん患者のQOL評価に用いられる評価尺度であるEORTC QLQ-C30(以下、QLQ-C30)を用いた。

 介入開始から3カ月後に、PRO群では対照群に比べて副次評価項目とした3項目のQLQ-C30スコアがいずれも有意に改善していた。各項目のスコア変化は以下の通り。身体機能:PRO群74.27点→75.81点、対照群73.54点→72.61点(平均差2.47点、P=0.02)、症状コントロール:PRO群77.67点→80.03点、対照群76.75点→76.55点(平均差2.56点、P=0.002)、HRQOL:PRO群78.11点→80.03点、対照群77.0点→76.50点(平均差2.43点、P=0.002)。

 また、PRO群では対照群に比べて、3項目の全てで、臨床的に意義のあるベネフィットを得る確率が有意に高いことも明らかになった。具体的には、PRO群では対照群に比べて、身体機能で5点以上改善した対象者の割合が7.7%多く、5点以上悪化した対象者の割合が6.1%少なかった。また、症状とHRQOLの改善を示したPRO群の対象者の割合は対照群よりもそれぞれ8.6%と8.5%多く、悪化した対象者の割合は7.5%と4.9%少なかった。

 Basch氏は、「高齢の対象者でも、とても熱心にこの電子モニタリングシステムを使ってくれた。年齢がより若い人よりも熱心だった人さえいる。高齢者は概して、電子システムを使おうとしないと考えられがちだが、それは真実ではない」と話している。

 また、Basch氏らは、「このシステムの利用で患者に多くの費用がかかる可能性は低く、予防医療に投資することで高額な緊急治療室受診や、その後の治療段階で医師の診察を減らすことができるため、トータルでは医療費削減につながる」との見方を示している。

 今回の研究には関与していない、米国がん協会取締役会の元議長であるArnold Baskies氏は、「がん治療に関してわれわれが抱えている問題の1つは、患者の大部分が痛みなどのネガティブな症状を医療提供者に報告しないことだ。医療提供者や患者に落ち度があるわけではない。ただ一部の患者は、そうした情報を打ち明けるのが恐いのだ」と話す。そして、この研究で用いた電子モニタリングシステムは、まだ検証を重ねる必要はあるものの、「患者が打ち明けにくいそのような情報を把握するための優れた手段だ」と話している。

[2022年6月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら