世界共通語「ダイアベティス」へ「糖尿病」の呼称変更を目指す/日本糖尿病学会・日本糖尿病協会

提供元:ケアネット

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公開日:2023/10/04

 

 9月22日、日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所])と日本糖尿病協会(理事長:清野 裕氏[関西電力病院])は都内でメディアセミナーを合同で開催した。セミナーでは、以前から活動が続けられている糖尿病のアドボカシー活動の現状や今後の展望、新たな呼称候補の発表などが語られた。

糖尿病の呼称変更がスティグマ払拭の一歩に

 門脇 孝氏(IDF-WPR議長[虎の門病院])は、「糖尿病医療におけるアドボカシーの重要性」をテーマに講演した。糖尿病の病態解明や治療が進んでいる一方で、過去の負のイメージが社会に定着し、患者の不利益になっていることを指摘。糖尿病患者の生命予後も改善されている現在、病気への誤解や偏見を当てはめる「スティグマ」は医学的、社会的にも解消されるべきと説明した。こうした課題に対応するために2019年にアドボカシー委員会を立ち上げ、活動の1つとして1907年から使用されている「糖尿病」の病名・呼称の変更があると説明した。「糖尿」という言葉が病態を正確に表すものではなく、国際的にも通用しなくなっていることから呼称を「ダイアベティス」に変更することを提案した。また、門脇氏は私見としながら周知のために「ダイアベティス(糖尿病)」と一定期間使用していく必要があるとも語った。

 清野氏は「糖尿病協会のアドボカシー活動」をテーマに説明を行った。同協会のアンケートによれば「糖尿病は生活の乱れによる病気」や「糖尿病は遺伝する」など誤ったイメージが今も持たれていること、糖尿病患者は社会的な不利益(たとえば生命保険契約や住宅ローンなど)があること、糖尿病というスティグマを多くの患者が感じていることが報告された。そこで、同協会では「糖尿病にまつわる“ことば”を見直すプロジェクト」を実施し、「血糖コントロール」を「血糖マネジメント(管理)」や「療養指導」を「治療支援、治療アドバイス」などに変更する改革を行っていると説明した。また、「糖尿」という言葉は侮蔑的であり、わが国の辞典・辞書には糖尿病に関し「尿」という言葉が必ず入っていることを指摘。海外では「尿」ではなく「血糖」が使用されており、清野氏は「国際的にみてもきちんと病態を表す正しい命名にするべき」と語った。

 植木氏は「日本糖尿病学会のアドボカシー活動」をテーマに説明を行った。同学会では、「糖尿病への誤解・偏見の除去」、「有効で負担の少ない治療の普及」、「根治・寛解療法の開発」、「患者の経済的負担の軽減」を主な活動として行い、とくに「誤解・偏見の除去」では、糖尿病患者の生命予後の改善に伴い生命保険会社への契約制限の撤廃に向け働きかけを行っていると説明した。また、新しい治療法(例:スリープ状胃切除手術、SAP療法など)の導入で、これらの保険収載や症例の蓄積を行う一方で、医療費が過大な負担とならないように厚生労働省へ1型糖尿病の指定難病認定への働きかけなどを行っていると説明した。

 矢部 大介氏(IDF-WPR理事[岐阜大学大学院])が「アドボカシー活動に関するアジアの動向」をテーマに、アジアの糖尿病患者の動向やわが国の団体・患者との連携活動について報告した。アジアでは、約2億9,600万人の糖尿病患者が推定され、糖尿病患者は結婚や就職で不利とされ、とくに1型糖尿病の患者が幼稚園や学校に入れない例もあるという。IDF-WPRの主な活動は、医療にアプローチできない患者の支援や糖尿病予防への取り組みを行っているほか、患者が差別されないための社会発信やICTを活用したアドボカシー活動を実施しているという。矢部氏は「呼称変更だけでなく、アジアにおける糖尿病の正確な知識の普及・啓発にも関心を高めてほしい」とメディアに要望を語った。

時間をかけ社会と対話し、呼称変更を啓発していく

 津村 和大氏(学会・協会合同アドボカシー委員会委員/糖尿病の呼称案検討WGリーダー[川崎市立川崎病院])は「糖尿病の新たな呼称の提案」をテーマに、呼称変更の意義やその背景を説明した。学会・協会合同アドボカシー委員会の取り組みとして、社会への啓発や医療者への教育、政府などへの情報提供・働きかけ、「糖尿病の新たな呼称検討」が行われている。糖尿病の呼称案検討ワーキンググループ(WG)が新呼称提案をした背景には、糖尿病の社会的な誤解を払拭するうえで重要であり、「社会全体に正確な理解が進まないとスティグマ払拭につながらない」と説明する。また、WGでは「学術的」「国際的」「略称」「診療科名」「新規性」の5つの観点から呼称案を選定し、「ダイアベティス」を候補にしたと語った。津村氏は「これらはいずれも強要するものではなく、メディアも参画者として活動に賛同してほしい」と要望を述べた。

 山田 祐一郎氏(学会協会合同アドボカシー委員会長[関西電力病院])は、「普及啓発に向けた協会の今後の取り組み」について説明した。同協会では、さまざまな糖尿病に関する啓発活動を行っているが、とくに医療者への啓発活動では、糖尿病のスティグマのアンケート報告や先述の言葉の見直しで啓発動画の配信・普及などを実施している。最近では、製薬企業を中心とする企業委員会とスティグマ払拭に向けたアドボカシー活動で定期的な意見交換を行っていると説明した。

 山内 敏正氏(学会協会合同アドボカシー委員会委員)[東京大学大学院])は、「普及啓発に向けた学会の今後の取り組み」について説明した。「糖尿病を巡る『言葉』の問題」について、医療者が診療で言葉を意識し、慎重に選んでいる欧米の事例を挙げ説明した。今後の取り組み・進め方として、糖尿病のスティグマの存在を社会に対し説明する場を設け、正しい知識の普及・啓発を行うために糖尿病患者などの当事者、医療者、企業関係者などの議論の場を設け、オープンなディスカッションを行うという。また、山内氏は「呼称変更実施の検討も含め、今後1年をかけて広く話し合いたい」と展望を語った。

※IDF-WPR:International Diabetes Federation Western Pacific Region

(ケアネット 稲川 進)