転移乳がんへの局所療法はescalationなのか?/日本癌治療学会

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2022/10/31

 

 転移乳がんに対する積極的な局所療法の追加は、がんが治癒しなくても薬剤使用量を減らすことができればescalationではなくde-escalationかもしれない。第60回日本癌治療学会学術集会(10月20~22日)において、岡山大学の枝園 忠彦氏は「転移乳がんに対する局所療法はescalationかde-escalationか?」と題した講演で、3つのクリニカルクエスチョンについて前向き試験の結果を検証し、転移乳がんにおける局所療法の意義について考察した。

 転移乳がんにおいて治癒は難しいが、ある特定の患者ではきわめて長期生存する可能性があり、近年そのような症例が増えてきているという。枝園氏はその背景として、PETなどの画像検査の進歩により術後早期に微小転移の描出が可能となったこと、薬物療法が目まぐるしく進歩していること、麻酔や手術が低侵襲で安全になってきていること、SBRT(体幹部定位放射線治療)が保険適用され根治照射が可能になったことを挙げた。この状況の下、3つのクリニカルクエスチョン(CQ)について考察した。

CQ1 転移乳がんに対する局所療法は生存期間を延長するか?(escalationとしての局所療法の意義)
 de novo StageIV乳がんに対して原発巣切除を行うかどうかは、すでに4つの臨床試験(ECOG2018、India、MF07-01、POSITIVE)でいずれも生存期間を延長しないことが明らかになっており、現時点でescalationとして原発巣切除をする意義はないと考えられると枝園氏は述べた。なお、一連の臨床試験の最後となるJCOG1017試験は、今年8月に追跡期間が終了し、現在主たる解析中で来年結果を報告予定という。

 一方、オリゴ転移に対する局所療法の効果については、杏林大学の井本 滋氏らによるアジアでの後ろ向き研究において、局所療法を加えた症例、単発病変症例、無病生存期間が長い症例で予後が良いことが示されている。前向き試験も世界で実施されている。SABR-COMET試験はオリゴ転移(5個以下)に対する積極的な放射線療法を検討した試験で、SBRT群が通常の放射線療法に比べ、無増悪生存期間だけでなく全生存期間の延長も認められた。ただし、本試験には乳がん症例は15~20%しか含まれていない。

 それに対し、乳がんのオリゴ転移(4個以下)に対するSBRTの効果を検討したNRG-BR002試験では、SBRTによる有意な予後の延長は認められなかった。しかしながら、本試験で薬物療法がしっかりなされているのか疑わしく、また転移検索でPET検査を実施していないため転移が本当に4個以下だったのか曖昧であることから、この試験結果によって「オリゴ転移に対する局所療法は有効ではない」という結論にはなっていないという。

 国内でも、枝園氏らがオリゴ転移(3個以下)を有する進行乳がんに対する根治的局所療法追加の意義を検証するランダム化比較試験(JCOG2110)の計画書を作成中で、年末もしくは来年早々に登録を開始予定である。

CQ2 転移乳がんに対する局所療法は局所の状態を改善するか?(escalationとしての局所療法の意義)
 このCQに関するデータとしては、de-novo StageIV乳がんに対する原発巣切除のデータしかないが、局所コントロールは手術ありで非常に良好で、手術なしに比べて局所の悪化を半分以下に抑えている。また、先進国であるECOGの試験では、手術なしでも4分の3は局所が悪化しておらず、枝園氏は、全例に対して局所コントロールの目的で手術が必要というわけではないとしている。手術ありのほうが術創の影響などで18ヵ月後にQOLスコアが悪化したという試験結果もある。

CQ3 転移乳がんは治癒するか?(de-escalationとしての局所療法の意義)
 枝園氏は、転移乳がんが局所切除によって本当に治癒するのであれば、薬物療法を中止できることからde-escalationなのではないかと述べ、自身が経験したホルモン陰性HER2陽性StageIV乳がんの52歳の女性の経過を紹介した。本症例ではトラスツズマブの投与で転移巣が完全奏効(CR)し、原発巣の残存病変については切除した。その後トラスツズマブを継続し、再燃がみられないため中止、そのまま無治療で8年間再燃していないことから、この手術はde-escalationとなったのではないかと考察している。

 また、転移乳がんに対する薬物療法の効果はサブタイプによって大きく異なり、たとえば1次治療におけるCR率はHER2陽性では28%、ER陽性ではわずか2%である。薬物療法だけでCRを達成できるなら局所療法は不要であり、それらを見極めたうえで局所療法をうまく使わないといけないと枝園氏は述べた。

 さらに、CRを達成したら薬物を中止できるのかという問いに関して、枝園氏は、データとして出すことはできないが、HER2陽性転移乳がんに1次治療としてトラスツズマブを投与しCRを達成した患者において、投与中止患者の80%が10年以上生存していたとのJCOGの多施設後ろ向き研究のデータを提示した。

 最後に、枝園氏は3つのCQを総括したうえで「それぞれのescalation、de-escalationで良し悪しがあり、もう少しデータが必要ではないか」と述べ、講演を終えた。

(ケアネット 金沢 浩子)