新型コロナウイルスの侵入過程を阻止する薬剤を同定/東大医科研

提供元:ケアネット

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公開日:2020/03/25

 

 東京大学医科学研究所分子発癌分野の井上 純一郎教授らのグループは、3月18日に「新型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定」したとする会見を開き、同時にプレスリリースを同研究所のホームぺージに公開した。

 現在世界各国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬、ワクチンの開発が行われている中で同グループは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2が細胞に侵入する最初の過程であるウイルス外膜と細胞膜との融合を、セリンプロテアーゼ阻害剤ナファモスタット(商品名:フサンほか)が、従来発表されている融合阻害剤カモスタット(同:フオイパンほか)に比べて10 分の1以下の低濃度で膜融合を阻害することを見出した。

 現在の研究でSARS-CoV-2が人体に感染するには、細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2受容体)に結合したのち、ウイルス外膜と細胞膜の融合を起こすことが重要であり、この融合を阻害すると感染を阻害することができる。

 同グループでは、MERSコロナウイルスでの研究結果1)をもとに、ナファモスタットやカモスタットの作用を調べたところ、「ナファモスタットは1-10nMという低濃度で顕著にウイルス侵入過程を阻止した。このことから、ナファモスタットはSARS-CoV-2感染を極めて効果的に阻害する可能性を持つと考えられる」と示唆している。

 また、ナファモスタット、カモスタットはともに急性膵炎などの治療薬として、「すでに国内で長年処方されてきた薬剤であり、安全性については十分な臨床データが蓄積され、速やかに臨床治験を行うことが可能」としている。

 両剤の特徴として「ナファモスタットは点滴静注のため、投与後の血中濃度は今回の実験で得られたSARS-CoV-2 Sタンパク質の膜融合を阻害する濃度を超えることが推測され、臨床的にウイルスのヒト細胞内への侵入を抑えることが期待される。一方、カモスタットは経口剤であり、内服後の血中濃度はナファモスタットに劣ると思われるが、他の新型コロナウイルス薬剤と併用することで効果が期待できるかもしれない」と説明している。

 なお、本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)の支援を受けている。

■参考
新型コロナウイルス感染初期のウイルス侵入過程を阻止、効率的感染阻害の可能性がある薬剤を同定

(ケアネット 稲川 進)