初のCDK4/6阻害薬イブランス、進行乳がん治療をどう変える?

提供元:ケアネット

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公開日:2017/12/04

 

 2017年11月20日、都内にて「進行乳がん治療におけるパラダイムシフトとは」と題したセミナー(主催:ファイザー株式会社)が開催された。演者として中村 清吾氏(昭和大学医学部 乳腺外科学 教授)、岩田 広治氏(愛知県がんセンター中央病院 乳腺科 部長)が登壇し、2017年9月に本邦で承認されたサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬イブランス(一般名:パルボシクリブイブランス)を中心に、転移・再発乳がん治療の今後の展望について語った。

パルボシクリブは新たな治療戦略となりうる

 はじめに登壇した中村氏は、転移・再発乳がん治療の特徴とその変遷について講演した。I期およびII期乳がんの5年生存率が90%以上あるのに対し、IV期(転移・再発乳がんはIIIC期およびIV期を指す)では約34%に留まる。それでも、他のがん腫と比較するとIV期の5年生存率は前立腺がんに次いで高く、中村氏は「がんと付き合いながら治療を続ける期間」が長いことを指摘。転移・再発乳がんの治療では、初期乳がんのように治癒を目指すのではなく、患者一人ひとりの個別性や希望に応じて「QOLを維持しながら延命する治療」を選択していく必要性があると語った。

 パルボシクリブの適応となるホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)の患者は、乳がん患者全体の約70%を占める。ホルモン療法に感受性があり、比較的予後が良いとされているが、2002年のフルベストラントのFDA承認以降、2012年のエベロリムス+エキセメスタンの登場まで、約10年間新しい治療薬が出てこない状況が続いていた。そのような状況の中で、「パルボシクリブはCDK4/6を直接的に阻害し、細胞増殖を抑制するという新しい作用機序で無増悪生存期間(PFS)延長の効果を証明しており、新たな治療戦略となりうる」と中村氏は期待を示した。

患者にパルボシクリブによる治療法を説明するとしたら?

 続いて登壇した岩田氏は、パルボシクリブの承認に用いられた2つの国際共同第III相試験(PALOMA-2、PALOMA-3試験)の結果を交えながら、患者とどのように情報共有し、治療法の1つとして活用していくかについて解説した。PALOMA-2試験は、日本人46例を含む全身治療歴のないHR+HER2-閉経後手術不能または再発乳がん患者666例を対象に、パルボシクリブ+レトロゾールの有効性と安全性について検討した試験。PFSはレトロゾール単剤と比較して10.3ヵ月延長(ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.46~0.72、p<0.000001)し、奏効率(42.1% vs.34.7%、p=0.0310)、臨床的有用率(84.9% vs.70.3%、p<0.0001)についても改善された。本試験の結果から、岩田氏は再発後の1次治療にレトロゾール併用でパルボシクリブを使用する場合の患者への説明として、

・次の治療までの期間は平均2年(ただし、術後早期の再発の場合は約16ヵ月)
・パルボシクリブを併用しても効果のない場合が、全体の15%程度ある
・副作用は好中球減少、倦怠感に注意が必要だが、重篤なものはなく、QOLもレトロゾール単剤と比べて大きく変わらない

とまとめた。

 PALOMA-3試験は、日本人35例を含むホルモン療法後に疾患進行を認めたHR+HER2-手術不能または再発乳がん患者521例を対象に、パルボシクリブ+フルベストラントの有効性と安全性について検討した試験。主要評価項目のPFSはフルベストラント単剤と比較して6.6ヵ月延長(HR:0.497、95% CI:0.398~0.620、p<0.000001)し、奏効率(21.0% vs.8.6%、p=0.0001)、臨床的有用率(66.3% vs.39.7%、p<0.0001)についても改善がみられた。また、患者報告によるQOLの評価でも、パルボシクリブ併用群で改善されていた。これらの結果から、岩田氏は2次または3次治療にフルベストラント併用でパルボシクリブを使用する場合の患者への説明として、

・約1年投与が継続できる
・再発1次治療でホルモン療法に効果を示さなかった場合、無再発期間(DFI)が短い(12ヵ月以内)場合では、効果は7ヵ月程度になる
・再発後に抗がん剤を1度使用している場合でも、9ヵ月程度の効果が期待できる
・QOLの低下はない
・副作用は好中球減少、倦怠感など

とまとめている。

「閉経前」の患者でもパルボシクリブ使用可能

 最後に岩田氏は、本邦では今回の承認で、閉経前の転移・再発乳がん患者に関しても、卵巣機能抑制剤のLH-RHアゴニスト併用という条件の下、パルボシクリブ+フルベストラントの投与が可能になったことに言及。一方で手術の補助療法としては本剤の有効性は現状確立されていないことに触れたうえで、「臨床医には臨床試験のデータ、ガイドラインなどを基に、適応の患者に対して正確な情報を提供し、患者と共に治療法を決定していくことが求められている」と述べた。

 なお、イブランスは、25mg(1カプセル):5576.4円、125mg(1カプセル):2万2560.3円として11月22日に薬価基準に収載された。12月15日の発売が予定されている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)

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