精液でわかるのは妊孕性だけではない!?

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2017/10/31

 

 不妊治療において男性が受ける精液検査では、精子の数や運動率など形態的な検査が中心で、精液中の微量成分の分析はほとんど行われていない。精液には精子の運動性や持久性に関わる成分が含まれ、さらに脂肪酸やアミノ酸なども含まれることから、妊孕性に加えて健康状態のチェックにも、精液の成分検査が使える可能性があるという。2017年10月6日、精液検査の確立を目指して設立されたベンチャー企業の株式会社ダンテが、都内で記者発表会を開催。同社が実施した精液のバイオマーカーとしての有用性や生活習慣の影響を調べた調査結果とともに、精液の郵送検査プロジェクトの開始を発表した。

「食生活が肉中心」と答えた人で精液中の亜鉛濃度高
 同社では、23~58歳の健康な男性80例を対象とした精液成分の調査を行い、精液中亜鉛、テストステロン、8-OHdG、精液量、精子濃度を測定。同時に生活習慣についてのアンケート調査を実施した。

 その結果、精液中のテストステロン濃度は、20代をピークに30代で急激に減少し、40代、50代と指数関数的に減少。逆にDNAの酸化ストレスマーカーである8-OHdGは40代、50代で増加する傾向がみられた。また従来から関連が指摘されている、精液中の亜鉛濃度と精子数の関係については、亜鉛濃度が高いほど総精子数が多い傾向が確認された。

 普段の食生活との関連をみると、「魚の方が多い」と答えた人と比べて、「肉の方が多い」と答えた人の方が精液中の亜鉛濃度が高く、「肉中心」と答えた人はさらに多い傾向がみられた。また睡眠時間については、「7~9時間」と答えた人に比べて「3~5時間」と答えた人で8-OHdG濃度が高かった。同社の取締役を務める堀江 重郎氏(順天堂大学医学部泌尿器科学講座 教授)は「これまでほとんど行われてこなかった精液中の成分を分析していくことで、妊孕性だけでなく、男性の健康状態を反映するバイオマーカーとして精液の活用が可能なのではないかと考えている」と語った。

精子の運動率を精液の成分が左右する
 同じく取締役を務める島田 昌之氏(広島大学 大学院生物圏科学研究科 教授)が続いて登壇し、畜産分野での精液研究について紹介。人工授精の成功率を上げるために、ウシやブタなどでは精液成分と授精の関係について、ヒトよりも研究が進んでいるという。「ブタ精液の研究では、精子が卵子にたどり着くための精子の運動率は、精子自身の能力だけでなく、精液の液成分の性質によって大きく左右されることがわかっている」と島田氏。すでに技術応用されており、現在市場に出ている国産ブタの1/3程度が、これらの研究結果を活用した人工授精用精液を使って生産されているという。堀江氏は、「これまで獣医学と人間の医学の間での情報交換はほとんど行われてこなかった。知見を共有していきたい」と連携に期待を寄せた。

クラウドファンディングをスタートし検体を収集
 最後に、代表取締役を務める瀧本 陽介氏が、精液検査手法の確立にむけて、クラウドファンディングによる資金調達と精液検体の収集プロジェクトを開始することを発表。このプロジェクトでは、支援者に精液の郵送検査キットを送付し、亜鉛/テストステロン/スペルミン/クレアチンの4項目の検査結果と、生活習慣についてのアンケート結果を組み合わせた分析結果をフィードバックするという。瀧本氏は、「まずは多くのデータを収集し、正常範囲や生活習慣との関連、妊孕性や疾病リスクとの関連を明らかにしていく。精液検査データベースの確立を目指したい」と語った。

■参考
株式会社ダンテホームページ

(ケアネット 遊佐 なつみ)