足元の「冷え性」が関係する気温感受性高血圧

提供元:ケアネット

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公開日:2016/03/18

 

 「頭寒足熱」とは、古くから語られてきた健康法だが、この「足熱」の重要性を裏付ける研究が、先月、都内で開かれた日本心臓財団のメディアワークショップで紹介された。本稿では、ワークショップの演者で、室温の変化が血圧に与える影響を研究している苅尾 七臣氏(自治医科大学内科学講座 循環器内科学主任教授)の講演について取り上げる。

脱衣所や浴室で倒れることも、高血圧を危険因子とする循環器疾患が冬に増加

 苅尾氏が着目したのは、住宅内温熱環境と血圧についての相関関係である。近年、冬季に冷えた脱衣所や浴室で倒れるヒートショックが注目されている。事実、冬季は、脳卒中や心筋梗塞など、高血圧を主な危険因子とする循環器疾患による住宅内での死亡者数が、夏季の2倍に上るという。
 これには、室温の急激な変化が影響を及ぼしていると考えられる。ただし、単に室温といっても、床面からの高さによってその数値は大きく異なる。とりわけ断熱性能が低い住宅では、暖房器具によって床上1.1mの室温を20℃に暖めても、足元付近(床上0.1mの高さ)では10℃程度と、倍近い温度の開きが出ることもあるという。

足元の冷え性は「気温感受性高血圧」につながる危険性

 これが身体にどのような影響を与えるのか。苅尾氏によると、足元付近の室温が10℃低下することにより、血圧は平均9mmHg上昇するという研究結果が示されている。つまり、室温を適温に設定していても、足元まで十分に暖められていなければ、それだけ末梢まで血液を送り出す心臓にかかる負荷は増大するということだ。さらに心血管イベントによる死亡は、血圧20/10mmHgの上昇で2倍ずつ増大するということが、過去の研究データから明らかになっている。これらに照らして考えてみても、寒暖差のギャップが身体に悪影響を及ぼすであろうということは明白だ。

 苅尾氏は、こうした足元の冷え性など、気温に依存して血圧が変動する「気温感受性高血圧」について、「気温の変化は薬では抑えられない問題だが、高血圧症を引き起こす大きなトリガーになっていることに留意すべき」と強調。そのうえで、「部屋全体の温度管理よりも、足元を冷やさないための温度管理の工夫が重要」と述べた。

 足元の冷え性のための住宅の断熱対策や室温管理などは、医療の範疇から外れているように思う向きもあろうが、家庭血圧をコントロールし、心血管イベントをいかに回避するかを考えるうえでは、非常に重要なポイントと言えるのではないだろうか。

(ケアネット 田上 優子)