東日本大震災から1年;新たな地域連携をめざして“第27回日本老年精神医学会”

提供元:ケアネット

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公開日:2012/06/29

 



2012年6月21、22の両日、埼玉県さいたま市にて、第27回日本老年精神医学会(大会長:埼玉医科大学総合医療センターメンタルクリニック 深津 亮氏)が開催された。本学会のテーマは「エイジズムを超えて希望ある高齢社会へ」である。昨年の東日本大震災では東北地方を中心に多くの方が犠牲者となり、なかには高齢者が多く含まれていた。急速な高齢化が進むわが国において、災害への対策について多くの課題が残されている。ここでは、本学会のプログラムから「東日本大震災から1年;新たな地域連携をめざして」と題して実施されたシンポジウムについて紹介する。

仕組みづくりは重要、人づくりはもっと重要




まずはじめに、岩手医科大学 大塚 耕太郎氏より「岩手県沿岸地域に暮らす高齢者の精神保健と地域連携」についての講演が行われた。岩手県沿岸地域での震災による被災により、多くの住民は心理社会的問題を抱えることとなった。正常なストレス反応でも精神的健康度の低下を招くが、災害体験や二次的生活の変化に伴い、急性ストレス性障害やPTSD、うつ病などの精神障害に至ることも少なくない。心のケアでは、ハイリスク者(精神疾患を有する患者)へのアプローチだけでなく、健常者についても必要である。

震災後の仮設住宅における取り組みとして、仮設住宅に設置されている集会場でのサロン活動の実践を紹介した。サロン活動では、最終的に地域主体の取り組みとして実施できるよう、現在システムを構築し、包括支援センターや社会福祉協議会などへそのノウハウの提供を行っている。このようなシステム作りが重要であることはもちろんだが、活動を支援するボランティアの役割がより重要であり、精神保健として地域のボランティアを養成する取り組みが必要である。

かかりつけ医や他地域・他県との連携体制構築を目指す




次に、舞子浜病院 田子 久夫氏より「福島県沿岸地域の認知症中核医療機関と地域連携」について講演が行われた。震災後の福島県では、建造物の損壊は復旧が進み、住民の生活は徐々に落ち着きを取り戻しつつある。しかしながら、福島原発事故による放射能汚染は今なお残存する大きな問題となっている。そのため、将来の不安などから、他県への移住を決意する方も多いのが現状である。とくに高齢者においては、住み慣れた地からの移動は肉体的かつ精神的に大きな影響を与える。中でも認知症患者ではその影響が顕著に現れる。ある高齢女性の認知症患者を例に挙げ、複数回の転居を繰り返すことで情緒不安定となり、5回目の転居で住み慣れた地域の比較的近隣へ移住し、ようやく症状が落ち着いたとの報告もされた。

福島県沿岸部(浜通り地方)は北部、中央部、南部の3地区に大きく分けることができる。原発事故による立ち入り禁止地域は中央部に位置し、北部と南部は分断された状態にある。北部の精神科医療機関は現在1ヵ所のみの稼働であり、また病床も40床程度であるため、他地域や他県の協力が必要不可欠である。南部の中核施設の1つである舞子浜病院においても、入院の増加や外来が混み合っている状況であり、かかりつけ医とのより密接な連携が求められている。今後、避難区域の解除が進み、高齢者を中心に戻ってくる住民が増加した際、これら地域での介護や医療の施設および人材の不足も懸念され、施設や専門家の充足が急がれる。

それぞれの地域に適した医療体制の構築が必要




続いて、三峰病院 連記 成史氏から「宮城県沿岸地域の認知症疾患医療センターと地域連携」と題し、講演が行われた。三峰病院は震災から間もない6月より宮城県認知症疾患医療センターを立ち上げ、地域精神科医療の中核を担っている。3月11日震災時、津波により町は壊滅的ダメージを受けたが、三峰病院は立地が沿岸部から離れていたこと、高台にあったことが幸いし、被害はほぼ皆無であった。また、入院患者やスタッフにも被害がなく、すぐに稼働することができた。当時、内科、外科等の病院も多くが被災していたため、精神疾患患者のみならず、他診療科の患者の診療、紹介などの対応が必要であった。このような中、重要な役割を果たしたのが、知識や経験はもちろん、それまでに培ってきた地域の医療機関などとの人間関係、絆であった。

連記氏は「各地域での医療体制は、それぞれの地域にあったものが必要」と述べる。画一的な医療体制ではなく、各地域の状況などを考慮し、その地域にあった体制を構築することが重要であるとした。ただし、医療や介護を担う人材の育成に地域差はなく、人材育成の必要性を訴えた。

地域住民とともに認知症サポート体制の構築を




最後に、東北福祉大学 加藤伸司氏より「認知症の人を支える地域づくりを目指して」と題し、講演が行われた。今回の被災地は、高齢化率の高い地域が多く、災害が若者たちが職場などへ出かけている日中に起こったことから、自宅に残された多くの高齢者が被害にあっており、とくにADLの低下した高齢者夫婦や独居高齢者や認知症患者などでは、自力で避難することが困難であったと考えられる。今回明らかになったのは、近隣住民が認知症患者を助けたケースがあるものの、家族が認知症であることを隠していたため、近隣住民が手を差し伸べられず犠牲になったケースである。このようなことから、地域住民に対する認知症の啓発活動は非常に重要であり、家族が認知症を近隣に隠さなくてもすむような地域づくりが必要であると考えられる。

加藤氏は認知症の人を支える地域づくりのために必要な5つの要素をまとめた。(1)認知症サポーターの養成、(2)地域住民の把握(偏見のない地域づくり)、(3)住民の判断で行動できる体制、(4)地域組織の協力、(5)防災マップの有効活用

改めて確認された地域医療連携の重要性




本シンポジウムの最後では、座長の東京都健康長寿医療センター 粟田 主一氏、舞子浜病院 田子氏から、今回の震災の経験から、改めて医療連携の重要性が確認されたとし、今後は各地域でのかかりつけ医と専門医の連携だけでなく、他地域との連携および他県との連携を含め、体制を構築すべきであるとした。そして何より重要なのは、高齢者の医療、介護に携わる人材育成を通じ、地域で支える町づくり目指すことである。

また、今回の震災経験を踏まえ、災害に対する具体的な備えについてまとめたうえで、日本のみならず世界へ情報発信することを望むとした。

(ケアネット 鷹野 敦夫)