新型インフルエンザの状況をどうみるか? ―第49回日本呼吸器学会学術講演会 緊急報告

提供元:ケアネット

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公開日:2009/06/16

 



第49回日本呼吸器学会学術講演会では6月13日、世界保健機関(WHO)で感染症対策を担当した押谷 仁氏(東北大学大学院医学系研究科微生物学分野 教授)により、「インフルエンザA(H1N1)による新型インフルエンザの各国の状況と日本の課題」と題した新型インフルエンザに関する緊急報告が行われた。

まず、押谷氏は日本現在の「今回のインフルエンザA(H1N1)の毒性は弱毒性で、季節性インフルエンザと同程度」、「日本での第1波の流行は終息し、この冬の第2波に備えればよい」との論調に疑問を呈示、WHOでは深刻に捉えていることを話した。

わが国でこれまで想定されていた新型インフルエンザでは、罹患率を人口の25%としており、これに基づき、感染者数は約3,000万人とされていた。押谷氏は、新型インフルエンザの病原性を季節性インフルエンザと同程度(致死率0.1~0.2%)とすると、死亡者数は3~6万人、致死率が0.4%と仮定した場合、死亡者数は12万人に上ると推測している。さらに、季節性インフルエンザと異なり、死亡者の多くは子供と20~40歳代の成人であるため、社会的インパクトはきわめて大きいと警告している。

今回の新型インフルエンザA(H1N1)の病原性をどう見るべきかについて、押谷氏は、流行がまだ進展している状況では、はっきりとした全体像はよくわからないとした上、米国、特にニューヨーク市の状況について紹介した。

米国での死亡者数は、最初の死亡者が出てから1ヵ月半の6月12日時点では、累計45人に達している。ニューヨーク市では、5月1日~20日の電話調査により、罹患率を5%以下と推計。ニューヨーク市の死亡者数は6月2日時点の7人から、6月12日の16人に増加しており、そのうち2人は65歳以上の高齢者だった。さらに、ニューヨーク市では、6月12日時点で、入院者数は567名に達し、そのうち、ICUケアが必要な患者は117人(21%)、人工呼吸器が必要な患者は59人(10%)であった。入院患者・死亡者の約80%はなんらかのリスク因子を持っている。リスク因子の割合は、喘息や他の慢性肺疾患は41%と最も多く、そのほか妊娠女性(妊娠可能女性患者の28%)、2歳未満12%、糖尿病11%などの順であった。

なぜ重症化するのかについて、押谷氏は、1)ウイルス側にはこれまでVirulenceを決めるようなMutationは見つかっていない(NS1、PB1、PB2など)、2)おそらく一部の症例では(特に基礎疾患などがある人では)ウイルスの増殖をコントロールできなくなっている、3)ほとんどの人に免疫がないためにこのようなことが起こりうるとしている。

わが国では、疫学リンクのない例(感染源が特定されていない例)がかなり見つかっているが、隔離や自宅待機を恐れて名乗り出ていない人もいると思われ、日本での感染拡大が続いている可能性があると押谷氏は指摘した。

今後予想されているシナリオとしては、1)このまま日本を含め大規模なパンデミックに突入、2)北半球では今回は「小流行」で終わる、3)いったん北半球では収まっても感染者の流入は続く可能性が指摘されている。日本でも半年以内に大規模な感染拡大は確実に起こる可能性が高いとされる。

押谷氏は現時点では感染者の多くは軽症であるとしながらも、感染者が増加すれば日本でも重症化する人が出てくるとし、重症化例への医療体制は大きな課題であると締めくくった。

【関連リンク】
 
●2009 New York City Department of Health and Mental Hygiene
Health Alert ♯22: Novel H1N1 Influenza Update June 12, 2009
http://www.nyc.gov/html/doh/downloads/pdf/cd/2009/09md22.pdf
 
●2009 New York City Department of Health and Mental Hygiene
Health Alert ♯21: Novel H1N1 Influenza Update June 2, 2009
http://www.nyc.gov/html/doh/downloads/pdf/cd/2009/09md21.pdf

(ケアネット 呉 晨/松本佳世子)