心的外傷を負ったインドネシアの小児に対する精神保健介入

提供元:ケアネット

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公開日:2008/08/26

 

武力紛争に巻き込まれた中・低所得層の児童に対する、精神保健面の介入の有効性は明らかではない。貧困と不安定な政治状況では、対処は困難である。宗教紛争で住民に多数の犠牲者が出たインドネシア・ポソ県で活動するオランダのNGO「Health Net TPO」のWietse A. Tol氏らは、紛争で心的外傷を負った小児のために、学校ベースの介入を試み、その成果を報告した。JAMA誌2008年8月13日号より。

405例にグループ介入を行い、待機群と成果を比較




被験者は、同県で紛争が起きた地域から無作為に選んだ学校に通う平均年齢9.9歳(標準偏差:1.3)の小児で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と不安障害を露呈している495例(包含率81.4%)。学校ベースのグループ介入は、5週間にわたる15セッションで、心的外傷に対応する行動や共同での遊び、創造的で表現力に富む構成要素を含んでおり、地元で訓練された助手によって行われた。

介入は2006年3~12月に行われ、介入の1週間後と6ヵ月後に、非盲検法で治療の成果を比較。精神医学的症状は「Child Posttraumatic Stress Scale」と「Depression Self-Rating Scale」および「Self-Report for Anxiety Related Disorders 第5版」「Children's Hope Scale」などに基づいて評価した。

PTSDは改善したが抑うつ症状には効果なし




治療群は待機群より、PTSDの症状が有意に改善されていた(平均変化差:2.78、95%信頼区間:1.02~4.53)ほか、待機群より、希望を持ち続けることも認められた(-2.21、-3.52~-0.91)。しかし、ストレスに起因する身体症状の変化(0.50、-0.12~1.11)、抑うつ症状(0.70、-0.08~1.49)、不安障害(0.12、-0.31~0.56)、機能障害(0.52、-0.43~1.46)などには、治療群と待機群に有意な差異は認められなかった。

紛争の影響にさらされた小児に対して、学校ベースの介入はPTSDを減らし、希望を持ち続けられるようになるなど一定の効果は認められた。しかし、抑うつ症状や不安症状、機能障害などには改善が認められなかったと結論している。

(朝田哲明:医療ライター)