PCSK9阻害薬bococizumab、抗薬物抗体発現で効果減/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2017/04/11

 

 抗PCSK9(前駆蛋白変換酵素サブチリシン/ケキシン9型)モノクローナル抗体製剤bococizumabは、多くの患者で抗薬物抗体(ADA)の発現がみられ、そのためLDLコレステロール(LDL-C)の低下効果が経時的に減弱することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul M Ridker氏らが行ったSPIREプログラムと呼ばれる6件の国際的な臨床試験の統合解析で明らかとなった。ADA陰性例にも、相対的なLDL-C低下効果に大きなばらつきを認めたという。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2017年3月17日号に掲載された。完全ヒト型抗体であるアリロクマブやエボロクマブとは異なり、bococizumabはヒト型抗体であり、抗原と結合する相補性決定領域に約3%のネズミ由来のアミノ酸配列が残存するため、ADAの発現を誘導する可能性が指摘されている。

bococizumabとプラセボを比較する6件の無作為化試験に登録された4,300例を対象

 本研究は、bococizumab(150mgを2週ごとに皮下投与)とプラセボを比較する6件の無作為化試験に登録された脂質異常症患者4,300例を対象とした(Pfizer社の助成による)。6試験には、プラセボの代わりにアトルバスタチンを用いた試験が1件、bococizumabの用量が75mgの患者を含む試験が1件含まれた。

 ベースラインの全体の平均年齢は61歳で、42%が女性であった。糖尿病が53%、喫煙者が18%、家族性高コレステロール血症が12%含まれた。99%がスタチン治療を受けていた。治療期間中に検出されたADAの有無別に、12週および52週時に脂質値の経時的な変化の評価を行った。


1年時のbococizumab群はADA陽性率48%、16%を占めた高力価の患者は平均変化率が低かった

 12週時に、bococizumab群のLDL-C値はベースラインに比べ54.2%低下、プラセボ群は1.0%増加し、群間の絶対差は-55.2%(95%信頼区間[CI]:-57.9~-52.6)と、bococizumab群が有意に優れた(p<0.001)。

 12週時の総コレステロール(TC)値のベースラインからの変化の群間絶対差は-36.0%、非HDL-C値は-50.2%、トリグリセライド(TG)値は-14.2%、アポリポ蛋白B値は-49.5%、リポ蛋白(a)値は-28.9%と有意に低下し、HDL-C値は6.2%と有意に増加しており、いずれもbococizumab群が良好だった(すべてp<0.001)。

 52週時のLDL-C値のベースラインからの変化の群間絶対差は-42.5%(95%CI:-47.3~-37.8)であり、bococizumab群が有意に優れた(p<0.001)が、12週時に比べるとLDL-C低下効果が減弱した。また、TC値(群間絶対差:-27.1%)、非HDL-C値(-37.7%)、TG値(-10.9%)、アポリポ蛋白B値(-37.3%)、リポ蛋白(a)値(-20.6%)、HDL-C値(4.6%)も、bococizumab群が有意に良好だった(すべてp<0.001)が、いずれも12週時に比し効果は減弱した。

 一方、1年時にbococizumab群の48%にADAが検出され、そのほとんどが12週以降に発現していた。52週時のADAが低~中力価の患者のLDL-C値の平均変化率(-43.1%)は、ADA陰性例(-42.5%)とほぼ同じであった。これに対し、ADA陽性例の16%を占めた高力価の患者のLDL-C値の平均変化率(-30.7%)は低く、力価最高位10%の患者(-12.3%)では著明に低かった。また、ADA陽性例は力価が高い患者ほど、PCSK9値およびbococizumab濃度が経時的に減衰した。

 12週時のbococizumab群のLDL-C値の低下効果は全体として大きかったが、まったく低下しなかった患者が4%、低下率50%未満が28%、50%以上は68%とばらつきが認められた。52週時には、ADA陽性例はそれぞれ10%、38%、ADA陽性例はそれぞれ10%、38%、52%であったが、ADA陰性例にも9%、31%、60%と同様のばらつきがみられた。

 重大な心血管イベント(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死、血行再建術)の発生率は、bococizumab群が2.5%(57例)、プラセボ群は2.7%(55例)であった(ハザード比[HR]:0.96、95%CI:0.66~1.39、p=0.83)。bococizumab群の最も頻度の高い有害事象は、注射部位反応(12.7/100人年)であり、次いで関節痛(4.4/100人年)、頭痛(3.0/100人年)であった。

 著者は、「bococizumabの有害事象には免疫原性の影響があり、有効性に関する生物学的な反応は一定ではなく個々の患者での予測は困難である」としている。これらの知見に基づき、2016年11月1日、bococizumabの開発は中止となった。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 平山 篤志( ひらやま あつし ) 氏

大阪複十字病院 内科

J-CLEAR評議員