妊婦、子どもの死亡率が高い国へのODA拠出が減少傾向に

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2012/10/11

 

 近年、妊婦、新生児、子どもの健康に対する政府開発援助(ODA)の拠出額は増加を続けてきたが、2010年に初めて減少に転じ、増加率も2008年以降は低下している実態が、英国・ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院のJustine Hsu氏らの調査で示された。2010年のG8ムスコカ・サミットでは、ミレニアム開発目標の乳幼児死亡率の削減(MDG4)および妊産婦死亡率の削減(MDG5A)の達成に向け、2010~2015年までに参加国が共同で50億ドルを出資することが約束された。また、最も必要性の高い国へのODAの集中的な拠出が求められているが、実情は不明であった。Lancet誌2012年9月29日号(オンライン版2012年9月20日号)掲載の報告。

ODAの拠出、進展の状況をOECDデータで解析
研究グループは、2009年および2010年の妊婦、新生児、子どもの健康に対するODAの拠出状況を解析し、モニタリングを開始した2003年以降の支援の進展状況を評価するための調査を行った。

経済協力開発機構(OECD)のデータベースを用い、2009年と2010年の支援活動を活動機能分類に基づいてコード化し、妊婦、新生児、子どもの健康への拠出額について検討した。2003年以降の傾向を解析し、子ども1人当たりのODAおよび新生児出生1人当たりの母子へのODAの拠出額を算定した。

さらに、妊婦および子どもの死亡率が高い74ヵ国(優先国)に対する31の援助形態(23の二国による資金拠出、6つの多国による資金拠出、2つの世界的な保健イニシアチブによる資金拠出)によるODAの拠出率を分析した。

妊婦死亡率が高い国への拠出の集中が進む
援助国からの妊婦、新生児、子どもの健康に対する拠出額は74の優先国のすべてにおいて持続的に増加し、2009年に65億1,100万ドルに達したが、2010年にはモニタリング開始後初めて、わずかながら減少に転じ64億8,000万ドルとなった。優先国に対するODAによる支援活動は実質的に増加しているものの、その増加率は2008年以降低下していた。

2005~2010年にかけて、妊婦死亡率の高い国へのODAの集中的な拠出が進んだことを示す高度なエビデンスが得られた。子どもの健康へのODAの集中的拠出も改善はしているが、その程度は低かった。多国による資金拠出の分担金は減少しているが、二国による拠出や世界的な保健イニシアチブの拠出に比べれば、援助の集中化が良好だった。

著者は、「最近の資金拠出率の減速化は懸念される問題であり、現在の世界的な金融危機の影響もあると考えられる」とまとめ、「援助国に責任意識を持たせ、最も必要とされる国に支援が集中するよう監視するには、援助国による支援状況の追跡を継続する必要がある」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)