膵体尾部切除術後のステープル創閉鎖、膵液瘻の予防効果を改善せず:DISPACT試験

提供元:ケアネット

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公開日:2011/05/19

 



膵体尾部切除術後の創閉鎖にステープルを用いても、縫合糸による閉鎖に比べて膵液瘻の発生率は減少しないことが、ドイツ・ハイデルベルク大学のMarkus K Diener氏らの検討で明らかとなった。膵体尾部切除術後の膵液瘻の形成は、主な術後合併症の原因となっており(13~64%)、腹腔内膿瘍、創感染、敗血症、吸収不良、出血などの、さらなる合併症を引き起こすことが、系統的レビューによって示されている。手術手技や施術医の技能が膵液瘻のリスク因子とされ、切除や残存膵閉鎖の手技によって瘻孔形成に差があることが報告されているが、最適な膵断端閉鎖法は確立されていないという。Lancet誌2011年4月30日号(オンライン版2011年4月27日号)掲載の報告。

ステープル閉鎖と縫合糸閉鎖を比較する無作為化対照比較試験




DISPACT試験の研究グループは、膵体尾部切除術後の膵液瘻の予防における、標準化されたステープルによる創閉鎖と縫合糸による閉鎖の有効性を比較する、多施設共同無作為化対照比較試験を行った。

ヨーロッパの21施設から、膵体部および尾部の疾患で膵体尾部切除術の適応とされた患者が登録され、ステープル閉鎖を行う群あるいは縫合糸閉鎖を行う群に無作為化に割り付けられた。

主要評価項目は、術後7日までの膵液瘻または死亡の発生率の複合エンドポイントとし、患者および予後評価者には治療割り付け情報は知らされなかった。

主要評価項目:32% vs. 28%




2006年11月16日~2009年7月3日までに450例(ステープル閉鎖群:221例、縫合糸閉鎖群:229例)が登録され、そのうち352例(それぞれ177例[女性92例、男性85例、平均年齢59.8歳]、175例[女性99例、男性76例、年齢59.8歳])が評価可能であった。

術後7日までの膵液瘻または死亡の発生率は、ステープル閉鎖群が32%(56/177例)、縫合糸閉鎖群は28%(49/175例)であり、両群間に差を認めなかった(オッズ比:0.84、95%信頼区間:0.53~1.33、p=0.56)。

縫合糸閉鎖群の1例が術後7日以内に死亡したが、ステープル閉鎖群には死亡例は認めなかった(p=0.31)。重篤な有害事象の発生率は両群に差はなかった(膵液瘻:ステープル閉鎖群20% vs. 縫合糸群22%、膿瘍/膵液貯留:16% vs. 9%、出血:7% vs. 9%、創感染:2% vs. 7%など、p=0.25)。重篤な有害事象による死亡率も同等であった(13% vs. 15%、p=0.69)。

著者は、「ステープル閉鎖は、縫合糸閉鎖に比べ膵体尾部切除術後の膵液瘻の発生率を低下させなかった」と結論し、「膵体尾部切除術に伴う有害なアウトカムを抑制するには、革新的な手術手技など新たな治療戦略の開発が求められる」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)