内科の海外論文・最新ニュースアーカイブ

mRNAインフルエンザワクチンが「速い」「安い」「確実」を実現するかもしれない(解説:栗原宏氏)

不活化ワクチンの生産は、鶏卵への接種からワクチン原液の製造まで約6ヵ月を要し、従来のインフルエンザワクチンは次シーズンに流行する株を予測して生産するという、いわば「博打」のような状況である。それに加えて卵馴化による変異を起こすという不確定要素もある。実際に、過去10年をみると2014-15シーズンは予測したワクチン株と実際の流行株でミスマッチとなり、ワクチンの効果がかなり小さかったとされている。一方、mRNAワクチンは遺伝子配列から化学合成が可能であり、約1ヵ月程度で製造が可能とされている。流行直前まで見極めることで、精度の高いワクチン生産が可能になると推測される。理論上のmRNAワクチンの有意点に対し、実際の調査においても1シーズンのみではあるが、既存の不活化ワクチンに対する非劣性、優位性を示した意義は大きいと思われる。

認知機能低下のサインは運転行動に現れる?

 運転行動の変化は認知機能低下の早期サインになる可能性があるようだ。車両に設置したGPS付きデータロガーで収集した、走行頻度、走行時間、急ブレーキなどの運転データは、早期認知機能低下のデジタルバイオマーカーになり得ることが、新たな研究で示された。米ワシントン大学医学部のGanesh Babulal氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に11月26日掲載された。Babulal氏は、「われわれは、GPSデータ追跡デバイスを使うことで、年齢や認知テストの結果、アルツハイマー病に関連する遺伝的リスクの有無といった要因だけを見るよりも、認知機能に問題が生じた人をより正確に特定することができた」と話している。

お尻の形で糖尿病リスクを予測できる?

 老化やフレイル、そして糖尿病のリスクが、お尻(臀部)の形に現れているとする研究結果が、北米放射線学会年次総会(RSNA 2025、11月30日~12月4日、シカゴ)で発表された。研究者によると、臀部にある大臀筋に起きる萎縮や炎症は、座っている時間の長さ、脂肪の蓄積の程度などの影響で変化し、糖尿病やフレイルのリスクを反映している可能性があるという。また、この変化のパターンは、男性と女性で異なるとのことだ。  発表者の1人である英ウェストミンスター大学のLouise Thomas氏は、「大臀筋は人体で最も大きな筋肉の一つであり、代謝の健康に重要な役割を果たしている可能性がある」と研究背景を解説。実際、これまでにも臀部の形と疾患との関連が研究されてきた。ただし、共同発表者である同大学のMarjola Thanaj氏は、「筋肉の大きさや脂肪の量を測定していた過去の研究とは異なり、われわれは形状を3Dで評価する技術を使用して、筋肉の付き方の変化を精密に把握した」と、従来の研究にはなかった本研究の特色を語っている。

健康診断の新視点、筋肉量指標で高血圧リスクを見える化

 従来のBMIでは筋肉量と脂肪量の違いを反映できないという問題がある。今回、男性の除脂肪体重指数(LBMI)を用い、低LBMIが高血圧リスクの増加と関連するという研究結果が報告された。BMIだけでは捉えられないリスク評価の重要性を提示している。研究は、慶應義塾大学医学部内科学教室の畔上達彦氏、東京大学医学部附属病院循環器内科先進循環器病学講座の金子英弘氏らによるもので、詳細は11月10日付で「Hypertension Research」に掲載された。  高血圧は心血管疾患や慢性腎臓病の主要リスク因子であり、世界的に重要な公衆衛生課題となっている。肥満は高血圧リスクの主要因子とされるが、BMIでは脂肪量と除脂肪体重(筋肉量)を区別できず、正確なリスク評価には限界がある。除脂肪体重を正確に測定するには高コストの画像検査が必要だが、近年、身長・体重・ウエストなどから推定できる簡易LBMIが開発され、日常の健康診断データでも評価が可能になった。しかし、この簡易LBMIを用いた高血圧リスク評価はこれまで行われていない。本研究では、健康診断や医療請求データを用いて、男性のLBMIと高血圧発症リスクの関連を後ろ向きに解析した。

ミトコンドリア活性化技術で希少疾患に挑む、その機序や効果とは

 “細胞のエネルギー生産工場”とも呼ばれ、ほぼすべての細胞に存在する細胞小器官ミトコンドリア。これを用いた希少疾患の根本治療や加齢対策が、今、現実味を帯びている。先日開催された第7回ヘルスケアベンチャー大賞では、マイトジェニックの「ミトコンドリア活性化による抗加齢ソリューション『マイトルビン』事業」が将来性や抗加齢への観点を評価され、大賞を受賞した。同社が期待を集める創薬技術や将来ビジョンとは―。

マラソンの心臓への影響は?ランナーを10年追跡

 高強度かつ長時間の運動負荷が右室機能に及ぼす影響、運動誘発性の心筋トロポニンT(TnT)値の上昇と将来的な右室機能障害との関連は明らかになっていない。そこで、スイス・チューリッヒ大学のMichael Johannes Schindler氏らの研究グループは、市民マラソンランナーを対象とした10年間の縦断的コホート研究(Pro-MagIC研究)を実施した。その結果、フルマラソン直後には一過性の右室機能低下とTnT値の上昇が認められたものの、これらは数日で回復し、10年後の右室機能低下とは関連しないことが示された。本研究結果は、JAMA Cardiology誌オンライン版2025年12月10日号で報告された。

食事からのポリフェノール摂取は心臓の健康に有益

 紅茶、コーヒー、ベリー類、ココア、ナッツ類、全粒穀物、オリーブ油など、抗酸化作用を持つフェノールやポリフェノール(以下、まとめて「ポリフェノール」と表記)を豊富に含む食品を多く摂取することが、より健康的な血圧値やコレステロール値と関連し、心血管疾患(CVD)リスクスコアの低下にもつながり得ることが、新たな研究で明らかになった。なお、フェノールとは、主にベンゼン環にヒドロキシ基が結合した化合物の総称であり、このうちフェノール性水酸基を複数持つ化合物をポリフェノールと呼ぶ。先行研究では、ポリフェノールは心臓や脳、腸の健康に有益であることが示されている。  この研究を実施した、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)栄養学分野のYong Li氏は、「この研究は、ポリフェノールを豊富に含む食品を定期的に食事に取り入れることが、心臓の健康を支えるシンプルで効果的な方法であることを示す強力なエビデンスだ」と述べている。詳細は、「BMC Medicine」に11月27日掲載された。

スリムな体型を維持するには運動と食事の双方が大切

 年齢とともに増えがちな体重を抑制しスリムな体型を維持するには、食生活の改善と習慣的な運動の双方を実践することが、最も効果的であることを示すデータが報告された。英オックスフォード大学のShayan Aryannezhad氏(研究時点の所属は英ケンブリッジ大学に設置されている英国医学研究会議〔MRC〕の疫学部門)らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に11月21日掲載された。食事と運動の組み合わせは、健康への悪影響が強い「内臓脂肪」を抑えるという点で特に効果的だという。  Aryannezhad氏は、「体重の変化について語るとき、人々は体重計の数値のみに注目していることが多い。しかし、体重が全く同じように変化しているとしても、その意味が同じであるとは限らない。第一に、糖尿病や心臓病といった心血管代謝疾患のリスクを考える場合は、筋肉を減らさず脂肪を減らす必要がある。第二に、その脂肪も蓄積されている場所によって、健康への有害性が異なる。つまり、体重が増えたり減ったりした場合、筋肉や脂肪がどのように変化したのかを知ることが重要だ」と語っている。そして研究者らは、「2型糖尿病や脂肪肝、心臓病と強く関連しているのは『内臓脂肪』だ」と指摘している。

不眠症は認知機能低下および認知障害リスクと関連

 不眠症は、認知機能の低下および認知障害(cognitive impairment;CI)のリスクと関連があるとする研究結果が、「Neurology」10月7日号に掲載された。  米メイヨー・クリニックのDiego Z. Carvalho氏らは、高齢者における慢性不眠症と、縦断的な認知機能アウトカムおよび脳の健康指標との関連を評価した。対象は、認知機能に障害のない高齢者で、年1回の神経心理学的評価と、連続的な画像評価としてアミロイドPETによるアミロイド負荷量(センチロイド単位)およびMRIで測定した白質高信号(WMH、頭蓋内容積に対する割合)のデータが取得された。全般的認知機能モデルには2,750人、Cox回帰ハザードモデルには2,814人が組み入れられ、追跡期間の中央値は5.6年であった。また、WMHモデルには1,027人、アミロイドPETモデルには561人が組み入れられた。

「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」改訂のポイント

 2025年6月、日本認知症学会、日本老年精神医学会、日本神経学会、日本精神神経学会、日本老年医学会、日本神経治療学会の監修により、「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」が公表された。2016年の第2版公表から9年ぶりとなる今回の改訂では、最新のエビデンスと新規薬剤の登場を踏まえた、より実践的な治療アルゴリズムが示されている。  本稿では、本ガイドラインのワーキンググループの主任研究者を務めた筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学 教授の新井 哲明氏による解説を基に、改訂のポイントと臨床における留意点をまとめる。