眼科の海外論文・最新ニュースアーカイブ|page:5

ブタの皮膚を用いた角膜インプラントで視力回復

 角膜の損傷により光を失った人の視力を、ブタが救ってくれるかもしれない。リンショーピング大学(スウェーデン)のNeil Lagali氏らが、ブタの皮膚から抽出したコラーゲンを用いたインプラントを作成し、ヒトを対象とするパイロット研究を行ったところ、良好な結果を得られたという。詳細は「Nature Biotechnology」に8月11日掲載された。  角膜は眼球の最も外側に位置し、黒目に相当する部分を覆っているアーチ状の透明な組織。何らかの理由で角膜が傷ついたりアーチ状の形状が変化すると、網膜に光が届かなかったりピントが合わなかったりして視力が低下し、時には失明に至る。  角膜は主にコラーゲンで構成されている。Lagali氏らは、豚の皮膚から抽出したコラーゲンを高度に精製した上で安定化させ、ヒトの眼に移植できる丈夫な透明のインプラントを作成。それを角膜疾患の患者20人に移植したところ、視力が改善した。移植前の患者の視機能は、全盲かそのリスクの高い状態だったという。研究者らは、「このインプラントは、角膜の外傷や疾患で失われた視力を回復するための画期的な手段になる可能性がある」と述べている。  世界中で推定1270万人が角膜疾患のために視力を失っており、そのような人たちの視機能を回復させ得る唯一の方法は、ヒトのドナーからの角膜移植だ。しかしドナーからの角膜供給は少なく、70人に1人しか必要な移植を受けることができない。Lagali氏は、「われわれは、需要と供給のギャップを満たすために、安価で十分な量のインプラントを作成可能な技術の確立を目指してきた。ブタの皮膚は畜産業の副産物として豊富に入手でき、また米食品医薬品局(FDA)は、ブタ由来の皮膚を治療に用いることを既に承認し臨床応用されている」と説明する。加えて、「角膜インプラント作成に利用されるブタは一切、遺伝子操作をされていない」と話している。  Lagali氏によると、このインプラントにはコラーゲン以外の生体物質を用いていないため、ヒトのドナーからの角膜移植よりも、拒絶反応がはるかに少ないという。さらに、角膜全層を移植するのではなく、薄く変化している部分のみに用いることで、侵襲性を最小限に抑えた使い方が可能とのことだ。「ドナーの角膜を用いた全層移植では、移植後に少なくとも1年は免疫抑制薬の点眼が必要だ。しかしわれわれのインプラントの部分移植であれば点眼は8週間のみで済み、縫合も要さないため1回の受診で治療が完結する」と同氏は語っている。  Lagali氏らのパイロット研究は、イランとインドの円錐角膜の患者20人に対して実施された。研究の主目的は安全性の確認であったが、得られた結果は研究者を驚かせるものだった。手術前、20人中14人が全盲だったが、術後2年時点で盲に該当する患者はおらず、3人は1.0という完全な視力に回復していた。しかも2年間の追跡期間中に合併症は発生せず、角膜厚は維持されていた。Lagali氏によると、「以前に作成した、今回用いたインプラントよりも脆弱な素材でも、角膜内に少なくとも10年間は定着することが示されている。残っている角膜組織から新たなコラーゲンも生成されるため、長期的には角膜の再生も促されるのではないか」とのことだ。  メリットはこれらばかりでない。ドナーから摘出された角膜は2週間以内に移植する必要があるが、このインプラントは最大2年間保管可能だ。「今後は、より多くの患者を対象とした無作為化比較試験を計画している。そこで有用性が確認できたら、その次は承認申請だ」とLagali氏は展望を語る。  米ワイルコーネル医科大学の眼科医で米国眼科学会のスポークスパーソンであるChristopher Starr氏は、本研究を「非常に有望」と評価。その上で、「円錐角膜などの角膜疾患のケアに当たる専門医の一人として、この論文で示された結果に興奮しており、この技術がFDAによって承認されることを願っている」と述べている。  なお、本パイロット研究は、スウェーデンのLinkoCare Life Sciences社が資金を提供して行われた。

統合失調症患者における治療開始前後の色彩感覚と認知機能

 統合失調症患者は発症の初期段階で、視覚機能や眼組織構造に有意な変化がみられることが、多くの研究で報告されている。統合失調症の病因における新たな科学的進歩の探求を可能にするには、眼組織や眼機能の潜在的な分野を調査する目的で、脳の構造・機能の従来の研究を変革することが求められる。しかし、虹彩構造と統合失調症との相関関係を調査した研究はほとんどなく、エビデンスは不十分であった。中国・Chengde Medical UniversityのLi Duan氏らは、虹彩構造、色彩感覚、認知機能が、初発統合失調症患者において抗精神病薬治療前後で変化するかを分析し、統合失調症の早期臨床スクリーニングと診断を簡便に測定可能なバイオマーカーの特定を試みた。その結果、統合失調症患者の色彩感覚は、認知機能と共に改善することが示唆された。著者らは、陰窩や色素点を伴う虹彩構造の特徴は、統合失調症の薬物治療効果に大きな影響を及ぼす可能性があり、統合失調症を鑑別する潜在的なバイオマーカーである可能性があることを報告した。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2022年6月13日号の報告。

介護保険による住宅改修の実情―視覚・認知機能障害へのサポートが不足

 介護保険の住宅改修費給付制度の利用状況を調査した結果が報告された。医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構の土屋瑠見子氏らの研究によるもの。認知機能障害や視覚障害による要支援者は、他の理由による要支援者よりも、住宅改修を行う割合が有意に低いことなどが明らかになった。詳細は、「BMC Geriatrics」に5月20日掲載された。  何らかの機能障害がある場合、その障害のタイプや程度に応じて住宅改修を行うことにより、転倒などによる受傷リスクが低下し生活の質(QOL)が維持され、死亡リスクが低下することが報告されている。介護保険制度でも、要支援・要介護認定を受けた場合には、住宅改修コストの1~3割、最大20万円まで助成され、手すりの設置、段差解消、便器の取替えなどが可能だ。土屋氏らは、この制度の利用状況と、障害のタイプ、性別、世帯収入などとの関連を詳細に検討した。

nAMD/DME治療薬、バビースモ発売/中外製薬

 中外製薬株式会社は5月25日付のプレスリリースで、中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性(nAMD)および糖尿病黄斑浮腫(DME)の治療薬であるバビースモ硝子体内注射液120mg/mL(一般名:ファリシマブ[遺伝子組換え])の販売を開始したことを発表した。  バビースモは、眼科領域における初のバイスペシフィック抗体であり、血管内皮増殖因子-A(VEGF-A)およびアンジオポエチン-2(Ang-2)の働きを阻害することでnAMD、DMEに関与する2つの疾患経路を阻害し、視力を改善する作用を持つ。

うつ病とドライアイ症状との関係~DREAM研究

 うつ病患者は、ドライアイ症状を有する割合が高いといわれているが、ドライアイ症状の重症度とうつ病との関連はよくわかっていない。米国・ペンシルベニア大学のYi Zhou氏らは、うつ病とドライアイ症状の重症度、兆候、炎症マーカーとの関連を調査した。その結果、うつ病はドライアイ症状の重症度および全体的な兆候と関連しており、中等度~重度のドライアイ症状を有するうつ病患者では、ドライアイ症状がより重度である可能性が示唆された。JAMA Ophthalmology誌2022年4月1日号の報告。

円形脱毛症患者、網膜疾患リスクが3.1倍

 円形脱毛症(AA)患者は網膜疾患リスクが高いことが、台湾・国立陽明交通大学のHui-Chu Ting氏らによる検討で示された。AA患者では網膜構造の異常を認めるエビデンスが増えていたが、AAと網膜症との関連は明らかになっていなかった。  研究グループは、今回の研究はレトロスペクティブなものであり、台湾住民のみを対象としていることから他の人口集団に該当するかは不明である、としながらも、「AAと網膜疾患の病態生理を明らかにするため、さらなる研究が必要である」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2021年11月1日号掲載の報告。

アルツハイマー病スクリーニングのための網膜アミロイドイメージング

 アルツハイマー病のスクリーニングでは、アミロイド沈着のin vivoイメージングを行うための費用対効果に優れた非侵襲的な方法が求められる。網膜アミロイドは、アルツハイマー病の診断マーカーとなりうる可能性があるが、in vivoにおける網膜アミロイドイメージングに関する研究はほとんどない。岡山大学の田所 功氏らは、アルツハイマー病患者における網膜アミロイドのin vivoイメージングの有用性について調査を行った。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2021年8月5日号の報告。

開業医の年収、コロナ前後でどう変化した?/会員1,000人アンケート

 コロナ禍における診療所経営の難しさについてメディアで話題になっているが、実態はどのような状況にあり、開業医の年収への影響や、とくに影響が大きい科目・地域等の傾向にはどうなっているのか。2021年7月に会員開業医(経営層)1,000人を対象にアンケートを行った。  2019年(コロナ前)と2020年(コロナ禍)の年収(役員報酬・所得)を聞いたところ、2019年では1,600万円未満とした回答者は全体の48%と半数未満に留まっていたが、2020年には56%と8ポイント上昇し、一部の層がマイナスの影響を受けたことがわかった。

視神経脊髄炎治療薬イネビリズマブ発売/田辺三菱製薬

 田辺三菱製薬株式会社は、「視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)[視神経脊髄炎を含む]の再発予防」を適応症として2021年3月23日に製造販売承認を取得した、ヒト化抗CD19モノクローナル抗体イネビリズマブ(商品名:ユプリズナ点滴静注100mg)が2021年5月19日に薬価収載されたことを受け、6月1日に販売を開始した。  NMOSDは、日本での有病率が10万人あたり2~4人と低く、重度の再発を繰り返し致命的となり得る中枢神経系の自己免疫疾患。身体の免疫システムが、健康な細胞(一般的には視神経、脊髄および脳)を攻撃し、再発や重篤な傷害をもたらす。

MSのB細胞を標的とする治療薬発売/ノバルティス ファーマ

 ノバルティス ファーマ株式会社は、多発性硬化症(以下「MS」)に対してわが国で初めてのB細胞を標的とする治療法であるオファツムマブ(商品名:ケシンプタ皮下注 20mgペン)を発売した。  MSは、ミエリンの損傷、脳、視神経および脊髄の機能障害を特徴とする中枢神経系の慢性炎症性疾患。わが国のMS患者数は約1万5千人とされ、年々増加している。また、発症のピークは20歳代で、女性に多い疾患。MSは、再発期と寛解期を繰り返す再発寛解型MS(RRMS)として経過し、半数は次第に再発の有無にかかわらず病状が進行する二次性進行型(SPMS)に移行する。進行期に移行すると日常生活に影響を及ぼす不可逆的な身体的障害が徐々にみられるようになる。