CLEAR!ジャーナル四天王|page:4

Hybrid closed loop(HCL)療法は1型糖尿病合併妊娠においても有効である(解説:住谷哲氏)

CGMが一般的になってTIR time in rangeも日頃の臨床でしばしば口にするようになってきた。TIRは普通70 -180mg/dLが目標血糖値とされているが、より厳格な血糖管理が要求される妊婦の場合は、これが63-140mg/dLに設定されている。1型糖尿病患者におけるHCL療法の有用性はほぼ確立されているが、1型糖尿病合併妊娠患者におけるエビデンスは、これまで存在しなかった。本試験によって、ようやくエビデンスがもたらされたことになる。HCLシステムはCGM、インスリンポンプおよびそれを統合管理するアルゴリズムから構成される。

RNA干渉治療薬パチシランはトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持したが全死因死亡や心血管イベントは低下しなかった(解説:原田和昌氏)

ATTR心アミロイドーシスは、トランスサイレチンがアミロイド線維として心臓、神経、消化管、筋骨格組織に沈着することで引き起こされる疾患で、心臓への沈着により心筋症が進行する。パチシランは、脂質ナノ粒子に封入されたsiRNAの静脈注射剤で、RNA干渉により肝臓におけるトランスサイレチンの産生を抑制する。2019年にパチシラン(商品名:オンパットロ)は、APOLLO試験の結果に基づき、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの適応を取得している。

LVADにおいても抗血栓療法の常識を疑う時代(解説:絹川弘一郎氏)

 最近ステントの抗血栓療法について、相次いでDAPTの常識が緩和される方向にデータが出てきている。その流れはLVADにも及んできた。このMandeep R. Mehra氏のJAMA誌の論文は、HeartMate3新規植込み患者において通常の抗血栓療法(ワルファリン[INR:2~3]と低用量アスピリン)とアスピリンなしの抗血栓療法(ワルファリン[INR:2~3]とプラセボ)をダブルブラインドで割り付けし、その後の有害事象フリーの生存率を主要エンドポイントとして12ヵ月間比較したものである。ここで言う有害事象は、LVADの場合、とくにhemocompatibility-related adverse eventと呼ばれ、脳卒中・ポンプ血栓・大出血・末梢塞栓症が含まれる。

HER2陽性胃がん・食道胃接合部腺がんの初期治療における免疫チェックポイント阻害薬と標準化学療法併用の有効性(解説:上村直実氏)

手術不能な胃がん・食道胃接合部腺がんに対する薬物療法として、20年以上前から5-FUを代表とするフッ化ピリミジン系薬剤とシスプラチンやオキサリプラチンなどのプラチナ系薬剤の併用療法(FP療法)が標準的化学療法となっていた。その後、細胞増殖に関わるHER2遺伝子の有無による分類がなされ、HER2陽性の胃がん・食道胃接合部腺がんに対するFP療法に抗HER2抗体であるトラスツズマブを加えたレジメンが標準治療として確立している。 一方、最近、免疫チェックポイント阻害薬の登場に伴って、手術不能な消化器がんに対する薬物療法が大きく様変わりしており、切除不能なHER2陰性胃がんに対しては、FP療法に免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブやペムブロリズマブを加えた3剤併用治療が標準治療レジメンとして確立しつつある。今回は、HER2陽性の胃がん・食道胃接合部腺がんに対して、標準治療であるトラスツズマブ+FP療法に抗PD-1抗体ペムブロリズマブを併用する有用性を検証する試験結果が、2023年10月16日のLancet誌オンライン版に掲載された。この報告は中間解析であるが、ペムブロリズマブ群の無増悪生存期間がプラセボ群に比べて有意に延長された結果が示されている。なお、本試験は継続中であり、厳密に言えば、今後の最終結果を待つ必要もあるが、切除不能胃がんに対する1次治療に免疫チェックポイント阻害薬を含むレジメンが一般的になるものと思われた。

過敏性腸症候群に対する1次治療が無効な患者に2次治療として抗うつ薬の低用量アミトリプチリンが有効(解説:上村直実氏)

過敏性腸症候群(IBS)は便秘や下痢などの便通異常に加えて腹痛を伴う機能性の腸疾患である。IBSの診断について、一般的には国内外のガイドラインで示されるRome IV基準に従って『3ヵ月以上の腹痛と6ヵ月以上前からの便通異常を有する患者』とされるが、わが国における実際の診療現場においては、病悩期間にかかわらず『大腸がんなどの器質性疾患を除く便通異常と腹痛を伴う病態』をIBSとして取り扱うことが多い。治療に関しては、1次治療として食事指導や生活習慣の改善および消化管運動改善薬や下剤・止痢剤など便通改善薬を用いた薬物治療を行い、症状に改善傾向を認めない場合には2次治療として抗不安薬や抗うつ薬などの抗精神薬が推奨されているが、IBSに対する抗うつ薬の有用性を示すエビデンスは乏しいのが現状であった。

デバイスによる無症候の心房細動にもDOACは有効?(解説:後藤信哉氏)

症候性の心房細動にて脳卒中リスクの高い症例では、PT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療よりもDOACの1つであるアピキサバンが安全、かつ有効であることがARISTOTLE試験により証明された。ICDなどを入れ込まれた症例では無症候の心房細動も検出できる。無症候のdevice detected AFに対する標準治療は確立されていない。本研究は無症候のdevice detected AFを対象として、アピキサバンの脳卒中・全身塞栓症予防効果をアスピリンと比較した無作為二重盲検ランダム化比較試験の結果である。

現代の血管インターベンション治療のレベルを無視しているのではないか(解説:野間重孝氏)

この論文(ORBITA-2試験)の評価には、まず2017年に同グループによってLancet誌に発表されたORBITA試験について知っておく必要がある。同論文はジャーナル四天王で紹介されたのでお読みになった方も多いかと思う(「PCIで運動時間が改善するか?プラセボとのDBT:ORBITA試験/Lancet」)。また、奇縁にもその論文評を評者らが担当していた(下地 顕一郎君との共著)(「ORBITA試験:冷静な判断を求む」)。その関係から、以下前回の論文評と内容に一部重複する部分も見られると思うがご容赦願いたい。ORBITA試験は至適薬物治療を受けている重症一枝病変の安定狭心症患者200例を対象とし、PCIが行われた群とプラセボ手術が行われた群とに分け、運動時間増加量を無作為化二重盲検試験で比較検討した試験である。この結果は大きな議論の対象となった。両群で運動時間増加量に差が認められなかったからである。つまり、少し乱暴な言い方をすれば、PCIなどやってもやらなくても同じだという結果が出されたのである。これを受けてLancet誌同号のeditorialで「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのガイドラインでPCIを格下げすべきである」といった感情的な議論がなされ、これに対しこの論文の筆頭著者だったAl-Lameeが反論するといった、一種のドタバタ喜劇が演じられるという一幕もあった。

欧州で行われた臨床研究の結果は、日本の臨床に当てはめることはできない?(解説:山地杏平氏)

BIOSTEMI試験の5年生存追跡結果が、TCT 2023で発表され、Lancet誌に掲載されました。ST上昇型心筋梗塞(STEMI)症例において、生分解性ポリマーを用いた超薄型シロリムス溶出性ステントであるOrsiroとエベロリムス溶出性ステントのXienceを比較した試験の追跡期間を5年に延長した試験になります。第2世代の薬剤溶出性ステントであるXienceは、第1世代の薬剤溶出性ステントであるCypherやTaxusと比較し有意に優れていることが多くの試験で示されてきました。その一方で、Xience以降に新たに発売された薬剤溶出性ステントは、Xienceに対して非劣性は示されてきたものの、優越性が示されたものはありませんでした。2014年にLancet誌で発表されたBIOSCIENCE試験でも、これまでの試験と同様に、OrsiroはXienceと比較して非劣性であることが示されましたが、そのサブグループであるSTEMI症例において、有意にOrsiroが優れていることが示唆されました。

肥満2型糖尿病患者に強化インスリン療法は必要か?(解説:住谷哲氏)

本試験では基礎インスリンを投与しても、血糖コントロール目標が達成できない肥満2型糖尿病患者に対するチルゼパチド週1回投与と毎食前リスプロ投与による強化インスリン療法との有効性が比較された。結果は予想通り、HbA1c低下、体重減少、目標血糖値達成率、低血糖の回避のすべてでチルゼパチドが優れていた。 経口血糖降下薬のみでは血糖コントロール目標が達成できない場合の治療選択肢として、以前は基礎インスリンを併用するBOT basal-supported oral therapyが金科玉条であったが、現在では基礎インスリンを投与する前にGLP-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬を含む)を追加投与することが推奨されている。

パルスフィールドアブレーションは心房細動治療のゲームチェンジャーになりうるか(解説:高月誠司氏)

日本では2024年に、新しい不整脈に対するアブレーション法として3種類のパルスフィールドアブレーションが導入される。ADVENT試験は、心房細動に対して従来の高周波カテーテルアブレーションとパルスフィールドアブレーションを比較した初めてのランダム化比較試験で、ほぼ同等の治療成績であった。組織に500~1,000V/cmの高電圧のパルスを与えると、細胞には小さな穴が瞬間的に多数形成され、閾値以上のエネルギーでパルスを与えると細胞が壊死する。この閾値は組織ごとに異なり、心筋細胞は周囲の食道や神経組織よりも閾値が低く、選択的なアブレーションが可能で、合併症が少なくなることが期待されている。また、肺静脈隔離のdurabilityが高い、つまり遠隔期の肺静脈の再伝導が少ないことが報告されており、心房細動アブレーションのゲームチェンジャーとして大いに期待されている。ただし、心房粗動の治療として、右房の三尖弁輪下大静脈間の解剖学的峡部でパルスをかけると、その心外膜側の右冠動脈で冠動脈スパズムが誘発されることも知られている。静注のニトログリセリンの前投与はこれを予防しうるということだが、冠攣縮性狭心症が多い本邦では冠動脈スパズムに対して十分な注意が必要であろう。

卒業試験に失敗、そしてこれから起きること(解説:岡村毅氏)

アルツハイマー型認知症の病態の「本丸」、すなわちアミロイドをターゲットにした薬剤が世に出始め、新たな時代が始まりつつある。すでにエーザイと 米国・Biogen によるアデュカヌマブそしてレカネマブ、米国・Eli Lilly and Companyのdonanemabにおいて科学的効果が確認され、市場に出てくる。レカネマブのスタディ名はClarity AD(明快AD)、そしてdonanemabのスタディ名はTRAILBLAZER(開拓者)であった。アルツハイマー型認知症を明らかにしたい、新世界を開拓したいという研究者の夢が詰まったスタディ名である。

IgA腎症の新たな治療薬sparsentanの長期臨床効果(解説:浦信行氏)

エンドセリン受容体・アンジオテンシン受容体デュアル拮抗薬のsparsentanは慢性腎臓病(CKD)治療薬として、すでにIgA腎症で二重盲検無作為化実薬対照第III相試験(PROTECT試験)において、1次エンドポイントとして36週時のsparsentan投与群の尿蛋白変化量が-49.8%と、イルベサルタン群の-15.1%に比較して有意な低下を示したことが報告され、その解説が2023年4月14日公開のジャーナル四天王に掲載されている(「IgA腎症での尿蛋白減少、sparsentan vs.イルベサルタン/Lancet」)。今回は2次エンドポイントとして、110週までの尿蛋白低減効果とeGFRのスロープを両群で比較した。

生体吸収型ステントの再挑戦やいかに(解説:野間重孝氏)

日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン』が、昨年(2022年)改訂された。この記事はCareNet .comでも紹介されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う。  冠動脈疾患以外のすべての体中の血管の疾患を末梢動脈疾患(PAD)と呼び、さらに下肢閉塞性動脈疾患をLEAD、上肢閉塞性動脈疾患をUEADに分ける。脳血管疾患はこの分類からいけばUEADということになるが、こちらは通常別途議論される。そうするとPADの中で最も多く、かつ重要な疾患がLEADということになる。

HER2陽性転移乳がん1次治療におけるpyrotinib(解説:下村昭彦氏)

BMJ誌2023年10月31日号に、HER2陽性転移乳がん1次治療におけるpyrotinibによる無増悪生存期間(progression free survival:PFS)の改善を示したPHILA試験の結果が公表された。pyrotinibは中国で開発されたHER2をターゲットとしたチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor:TKI)であり、HER2陽性転移乳がんの2次治療におけるカペシタビンへの上乗せがラパチニブと比較して、PFS(Xu B, et al. Lancet Oncol. 2021;22:351-360.)ならびに全生存期間(overall survival:OS)(SABCS2021)を改善することが示されている。

難治性ネフローゼ症候群を呈する巣状分節性糸球体硬化症の新たな治療薬sparsentanへの期待(解説:浦信行氏)

エンドセリン受容体・アンジオテンシン受容体デユアル拮抗薬のsparsentanは慢性腎臓病(CKD)治療薬として、すでにIgA腎症などで臨床試験が先行しており、一部には良好な効果が認められている。また、糖尿病性腎症ではエンドセリン受容体拮抗薬が良好な治療効果を示している。巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は治療抵抗性であり、治療の主体はステロイドであるが臨床的にはステロイド抵抗性で進行性であり、10年で約半数が腎死に至る。そのようなFSGSに対する治療効果をイルベサルタンと対比した成績が公表された。2年間にわたる二重盲検第III相試験で尿蛋白に関しては顕著な減少効果を認め、完全寛解率も倍以上の18.5%であったが、eGFRのスロープに有意差はないとの残念な結果であった。6週から108週までのeGFRのスロープは有意ではないものの、イルベサルタン群で-5.7であったのに対してsparsentan群で-4.8にとどまっていた。対象の詳細は不明だが、原発性FSGSに限っての検討ではどうなのか。また、両群のeGFRが、sparsentan群で63.3±28.6、イルベサルタン群で64.1±31.7であり、両群ともにeGFR60未満の症例が半数以上である。eGFRが保たれている群同士の比較ではどうであったかが今後の課題といえよう。

3日間のアミカシン吸入、長期挿管患者の人工呼吸器関連肺炎発生を軽減(解説:栗原宏氏)

人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、気管挿管後48~72時間以上経過して発生する肺炎を指す。報告によって幅があるが全挿管患者の5~40%に発生するとされ、ICUでしばしばみられる感染性合併症である。死亡率は約10~30%と院内肺炎の中でもかなり高い。気管チューブから侵入した細菌が気管チューブ、気管支肺胞系、肺実質で増殖することがVAPの原因となる。抗菌薬吸入療法はこれらの部位に直接高濃度の抗菌薬が可能であり、小規模試験のメタ解析によればVAP予防に有効であることが示されている。これを踏まえて、著者らは人工呼吸器導入後3日目以降に、1日1回3日間、理想体重1kg当たり20mgのアミカシン吸入療法を行い、VAPの発生率が減少するかを検討した。

遠隔虚血コンディショニングは脳卒中急性期患者の転帰を改善するか?(解説:内山真一郎氏)

急性期脳卒中における遠隔虚血コンディショニング (RIC)の有効性は確立されていない。RESIST試験は、脳卒中発症後4時間以内で入院前の脳梗塞または脳出血1,500例における無作為化比較試験であった。介入方法は、治療群では上肢を200mmHgまで、対照群では20mmHgで5分の加圧と5分の除圧を5回反復した。治療は、救急車の中で開始し、病院で少なくとも1回反復し、その後7日間1日2回反復した。一次評価項目は、90日後の改定ランキン尺度スコアのシフトであった。結果は、RICによる90日後の転帰改善効果は認められなかった。

妊娠糖尿病に対する早期のメトホルミン投与の効果(解説:小川大輔氏)

日本においてメトホルミンは「妊婦または妊娠している可能性のある女性」への投与は禁忌となっている。一方、海外ではメトホルミンは妊娠糖尿病に使用可能である。今回、妊娠糖尿病患者を対象に、妊娠早期からメトホルミン治療を開始する試験の結果がJAMA誌に発表された。この試験はアイルランドの2ヵ所の医療機関で、妊娠28週以前に妊娠糖尿病と診断された被験者を登録して実施された二重盲検無作為化試験である。被験者510人(妊娠535件)を対象として、メトホルミンを投与する群(メトホルミン群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。

脂質低下療法の効果にストロングスタチン間の違いはあるのか?(解説:平山篤志氏)

動脈硬化性疾患の2次予防にLDL-コレステロール(LCL-C)低下の重要性が明らかにされているが、ガイドラインにより、LDL-Cの管理目標値を達成するアプローチ(Treat to Target)と目標値を設定せず病態に応じたスタチンを投与するアプローチ(Fire and Forget)がある。韓国で行われたLODESTAR試験は、この2種のアプローチでOutcomeが異なるかを検討した試験で、すでに報告されたように管理目標値を達成できれば両者に優劣はなかった。本試験ではさらに、エントリーされた患者はTreat to Target群とFire and Forget群に分けられると同時に、2種のストロングスタチン、すなわちロスバスタチン群とアトルバスタチン群に割り付けられ、今回はスタチンの相違についての検討が報告された。

心原性ショック治療の難しさ:リスク評価と個別治療の重要性(解説:香坂俊氏)

1999年のSHOCK試験まではよかった。この試験では、心原性ショックを合併した急性心筋梗塞症例でも、72時間以内にPCI/CABGを実施したほうが、長期的な予後が改善することが初めて証明された。しかし、心原性ショックのマネージメントについては、その後20年間、長い長い停滞期を迎えることとなる:・2012年 IABP-SHOCK2:IABPの使用で予後改善せず・2017年 CULPRIT-SHOCK:多枝病変であっても責任病変のみのPCIで十分・今回(2023年) ECLS-SHOCK:PCPSの使用で予後が改善せず