PPIの不適切処方に薬剤師が介入、その効果は?/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2024/05/07

 

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の過剰使用を減らすための薬局を中心とした大規模な多面的介入は、全体的なPPI使用を減少することが示された。PPIによる胃の保護が適切とされる患者においても使用が減少したが、臨床的な有益性または有害性のいずれについても最小のエビデンスしか認められなかったという。米国・ミシガン大学のJacob E. Kurlanderらが、米国退役軍人のための最大規模の統合医療システム「US Veterans Affairs Healthcare System」(医療施設1,255、外来拠点1,074)のデータを用いた差分の差分(difference-in-difference)分析の結果を報告した。これまでPPIの過剰使用を減らすための介入が及ぼす影響を、包括的に評価した研究はほとんどなかった。BMJ誌2024年4月11日号掲載の報告。

薬局を中心とした介入前後の4.5年間のPPI処方を、介入群と対照群で比較

 研究グループは、US Veterans Affairs Healthcare Systemを構成する18の地域医療システム(Veterans Integrated Service Networks:VISN)のうち、1つのVISNでPPI過剰使用に対する新たな取り組み(VISN 17)を実施し、他の17のVISNを対照とし評価した。VISNにはそれぞれ独自の外来薬局システムが整備されており、Veterans Affairsクリニックでの処方薬は、ほぼVeterans Affairs薬局で調剤されるという。

 VISN 17は、次の5つから構成された。(1)PPIのリフィル処方箋の使用制限(慢性使用の適切な適応が処方箋に明記されていない場合)、(2)6ヵ月以内に使用されなかった処方箋の無効化、(3)H2受容体拮抗薬の処方促進、(4)臨床医と患者への教育(臨床医には、PPIを2週間で漸減し、その後H2受容体拮抗薬を1~2ヵ月間必要に応じて使用することを推奨、患者には情報レターの送付等)、(5)薬剤師による高用量PPIの処方を把握する報告ツールの作成。

 VISN 17は2013年8月~2014年7月に実施し、実施前後4.5年間の動向を捉えるため研究対象期間は2009年2月~2019年1月とした。研究期間を、連続した6ヵ月間隔で区切り、各期間において過去2年間にプライマリケアを2回以上受診した患者を解析対象とした。

 主要アウトカムは、6ヵ月当たりのPPIが処方された患者の割合であった。

介入により全体的なPPI処方が減少、必要な患者でのPPI処方も減少

 1間隔当たりの解析対象患者数は、VISN 17実施施設で19万2,607~25万349例、対照施設で377万5,953~436万868例の範囲であった。

 取り組み実施前は、PPIが処方された患者の割合は、VISN 17群で平均25.8%、対照群で平均25.4%であった。

 差分の差分分析の結果、取り組みの実施によりVISN 17群では対照群と比較し、PPIが処方された患者の割合が7.3%低下した(95%信頼区間[CI]:-7.6~-7.0)。

 副次アウトカムについては、上部消化管出血のリスクが高い患者におけるPPI処方日数が11.3%短縮(95%CI:-12.0~-10.5)し、PPIまたはH2受容体拮抗薬が処方された患者の割合が5.72%低下(-6.08~-5.36)した。しかし、上部消化管疾患の診断、上部内視鏡検査のためのプライマリケア受診、PPIによる胃の保護が適切な高齢者の酸関連消化器疾患による入院の増加は確認されず、PPI関連の臨床症状も臨床的に有意な変化はみられなかった。

(医学ライター 吉尾 幸恵)

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コメンテーター : 上村 直実( うえむら なおみ ) 氏

国立国際医療研究センター国府台病院 名誉院長

東京医科大学 消化器内視鏡学講座 兼任教授

J-CLEAR評議員