CLEAR!ジャーナル四天王|page:67

悪性胸膜中皮腫へのシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ療法(解説:小林 英夫 氏)-478

悪性胸膜中皮腫は早期発見が困難で、診断時点では進行期である症例が大多数を占める。2003年のVogelzang 氏らの報告に基づいて、ペメトレキセドが世界初の悪性胸膜中皮腫治療薬として米国で承認され、わが国でも2007年に薬価収載された。現在、悪性胸膜中皮腫標準化学療法はペメトレキセド+シスプラチン併用と認識されている。しかし、その治療成績は必ずしも満足できるレベルには到達しておらず、胸膜肺全摘除術や片側全胸郭照射などを組み合わせたマルチモダリティー療法などが検討されている。

“the lower, the better”だけならば、苦労はない(解説:石上 友章 氏)-477

降圧治療についての、Ettehad氏らのシステマティック・レビュー(SR)/メタ解析の論文は、米国心臓協会(AHA)学術会議での発表と同時にNew England Journal of Medicineに掲載された、“鳴り物入り”のSPRINT試験同様に、降圧治療における、いわゆる“the lower, the better”戦略の正当性を証明する重要な研究成果である。

単純性膀胱炎に対するイブプロフェンの効果(解説:小金丸 博 氏)-476

女性の単純性膀胱炎は抗菌薬で治療されることが多い疾患だが、自然軽快する例も少なからずみられる。また、尿路感染症の主要な原因菌である大腸菌は、薬剤耐性菌の増加が問題となっており、耐性菌の増加を抑制するためにも、抗菌薬を使用せずに膀胱炎の症状緩和が図れないか研究が行われてきた。79例を対象としたPilot studyでは、症状改善効果に関してイブプロフェンは抗菌薬(シプロフロキサシン)に対して非劣性であり、イブプロフェン投与群の3分の2の患者では、抗菌薬を使用せずに改善したという結果が得られた。さらなる評価のため、規模を拡大した研究が実施された。

卵アレルギーと弱毒生インフルエンザワクチン(解説:小金丸 博 氏)-475

インフルエンザワクチンの製造には、インフルエンザウイルスを鶏卵に接種し培養する工程があるため、ワクチンにはオバルブミンなど卵の成分が含まれる。そのため、卵アレルギーのある人にインフルエンザワクチンを接種すると、重大な副反応が起こる可能性があると広く認識されている。近年、オバルブミン含有量の少ない不活化インフルエンザワクチンは、卵アレルギーのある患者に安全に接種できるとの報告があるが、経鼻的に投与される弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV)の安全性に関しては、十分なデータがなかった。

女性は幸せでも長生きできない?―Million Women Studyの結果が警告するもの―(解説:加藤 恵理 氏)-473

幸福であること、または不幸であることは死亡率に直接的影響を与えない、という結果がLancet誌に掲載された。この論文の共著者であるオックスフォード大学のRichard Peto氏は、今までも生物統計学のあり方についてさまざまな切り口で論じてきた。そのなかでも有名なのは、ISIS-2のサブ解析、通称Gemini and Libraだろう。全体では明らかに有効であったアスピリン治療が、12星座別に解析すると、双子座(Gemini)と天秤座 (Libra)の患者グループでは有効でなかった、という結果をLancet誌に発表したのだ。もちろん、Peto氏は本気で星座ごとにアスピリン治療の有効性が違うと信じていたわけではなく、サブグループ解析を繰り返せば、偶然に誤差を招く可能性(play of chance)があることを統計学的に証明し、当時のサブグループ解析を重要視する風潮を警告したのである。

腹部大動脈瘤に対する血管内治療の長期成績は改善(解説:中澤 達 氏)-471

メディケア受給者3万9,966症例の腹部大動脈瘤の血管内治療と開腹手術を、プロペンシティスコアマッチングコホートで比較した。周術期死亡は、それぞれ血管内群1.6%、開腹群5.2%(p<0.001)であった。 観察期間の2001年から2008年で、周術期死亡率は血管内群で0.8%低下し(p=0.001)、開腹群で0.6%低下(p=0.01)、コンバージョン率は2.2%から0.3%に低下(p<0.001)した。 3年生存率は、血管内群が開腹群より高く、その後は同等となった。8年間での瘤破裂は、血管内群5.4%、開腹群1.4%(p<0.001)であった。血管内治療後2年間の再治療率は、低下(2001年10.4%から2007年9.1%)していた。

EXAMINATION試験:Drug Eluting StentはST上昇型急性心筋梗塞の再灌流療法のスタンダードに!(解説:平山 篤志 氏)-470

ST上昇型急性心筋梗塞の急性期死亡率は、この20年間で急速に減少し、今や5%程度になった。これは、ひとえにステントにおける確実な再灌流が可能になったことによる。ただ、初期に使用されたベアメタル(BMS)では、急性期に拡張に成功しても慢性期に再狭窄の頻度が高く、再度のインターベンションが必要とされた。

ASTRAL-2,-3試験:遺伝子型2型3型のHCVに対するソホスブビル・velpatasvir併用療法(解説:中村 郁夫 氏)-466

本論文は、HCV(遺伝子型2型および3型)に対するソホスブビル(核酸型NS5Bポリメラーゼ阻害薬)・velpatasvir(NS5A阻害薬)併用療法(SOF・VEL)の治療効果に関する治験の報告である。遺伝子型3型は、欧米では本邦と比べて頻度が高い。遺伝子型3型のHCV患者は、線維化の進行が早く、発がん率が高いことから、欧米では治療法の開発が急務である。2015年11月にサンフランシスコで行われた米国肝臓学会年会においても、3型のHCV患者に対する治療法に関して、多数の発表がなされた。

慢性心房細動に対する抗凝固療法中に消化管出血を来したとき~抗凝固療法を再開する?それとも中止?~(解説:西垣 和彦 氏)-465

心房細動に起因する心原性脳血栓塞栓症は、いったん発症するとほかのアテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞の予後とは比較にならないほど重症となり、20%が死亡、40%が要介護4度あるいは5度の寝たきりとなる悲惨な状態が待っている。これが、心原性脳血栓塞栓症を“ノック・アウト型脳梗塞”と評するゆえんである。したがって、心房細動に対する治療の最も重要なポイントは、心原性脳血栓塞栓症をいかに発症させないようにするかという予防的治療であり、その点において抗血栓療法の果たす役割は大きい。

血栓吸引療法に引導は渡ったか?TOTAL試験1年追跡(解説:香坂 俊 氏)-463

このところ血栓吸引療法の旗色がよろしくない。(1)急性心筋梗塞では冠動脈内でプラークが破裂し、血栓を形成する。(2)その血栓はバルーンやステントを行う前に吸引しておいたほうが良さそうだ。(3)実際、小規模のランダム化試験ではうまくいった(TAPAS試験)。この三段論法で、とくに日本のカテーテルインターベンション(PCI)の現場では広く行われてきた。自分たちでもKiCSという関東一円の多施設共同PCIレジストリで集計してみたところ、ST上昇心筋梗塞症例に対するPCIの実に65.4%で血栓吸引が行われていた。

CHAMPION試験:いろいろな意味で残念な研究(解説:野間 重孝 氏)-461

現在、私たち循環器科医にとって、重症患者をCCU/ICUに収容しSGカテなどによって肺動脈圧を持続モニターしながら監理するという手法は、半ば常識化している。実際Forresterの分類などは、初期研修医の段階でも当たり前の知識となっている。そのため、外来通院している心不全患者の肺動脈圧を、何らかの方法で定期的にモニターすることができれば、それはきっと治療に資するところがあるに違いない、とつい抵抗なく考えてしまいそうになる。しかし、それは証明されることが必要なのである。実際、近年では多くの組織で、よほど重症な心不全患者でない限り、持続肺動脈圧モニターはむしろ行わない方向に向かっているのではないだろうか。

冠動脈インターベンション時の血栓性の人工コントロールは可能か?(解説:後藤 信哉 氏)-460

トロンビン、Xaなどの凝固因子の機能を薬剤により阻害すると、重篤な出血イベントが増え、血栓イベントは減少する。血液凝固第VIII因子、第IX因子の欠損は、重篤な出血イベントを起こす血友病ではあるが、血友病の血栓イベントは少ないと想定される。止血、血栓形成に必須の役割を演じる血液凝固因子を、血栓イベントリスクの高い短時間のみ阻害し、血栓イベントリスクの低下に合わせて凝固因子を正常化する調節ができれば、出血イベントリスクの増加を伴わない抗血栓療法が可能となると期待された。

抗Xaの囮療法の評価をどうする?(解説:後藤 信哉 氏)-459

血液凝固検査は、細胞の存在しない液相で施行される。しかし、生体内の血液凝固反応は活性化細胞膜上、白血球上などのリン脂質膜上にて主に起こる。ワルファリンは、血液凝固因子第II、VII、IX、X因子と生体膜のphosphatidylserineの結合を阻害する効果を有した。ワルファリン服用下では、液相での血液凝固検査における凝固系の機能異常以上に、生体内における細胞膜を介した凝固系も効率的に予防した。いわゆる新規の経口抗トロンビン薬、抗Xa薬は、凝固因子のトロンビン産生、フィブリン産生の酵素作用を可逆的に阻害する。ワルファリンとは作用メカニズムが異なるので、中和作用も異なる。抗トロンビン薬ダビガトランは、液相、細胞膜上の両者にてフィブリノーゲンからフィブリンを産生するトロンビンの作用を阻害している。トロンビンに結合するダビガトランを単純に失活させれば、中和薬としての効果を期待できた。